大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 ぬいぬいデレる、吉野中佐ロリ疑惑浮上、そして何気に凄い経歴のメロンさんであった。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2018/03/01
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたじゃーまん様、有難う御座います、大変助かりました。


朝ごはんだよ! 全員集合!

「あら? 提督ちょっと髪伸びました?」

 

 

 0630第二特務課秘密基地

 

 その二階食堂兼リビングにて、朝一番朝食を全員で採りつつ諸々の予定などを話していた最中、吉野の向かいに座っていた妙高が、箸でつまんだ茄子を差し出しつつ首を傾げそう言った。

 

 10人は座れるだろう丸いテーブルには朝っぱらから山盛りの肉ジャガだの、大皿に盛られた茄子の揚げ浸しなどががちょっとした食堂並みに並べられており、各人の前には茶碗や丼と共に味噌汁の椀と、おかずの取り皿が並べられている。

 

 茄子やジャガ、ウインナーといった差し出されたおかずを順に食べながら飯を自分で食う、食事の時、吉野の前にあるおかずの取り皿はいつも未使用というのが当たり前になってしまった光景はちょっとアレだと思うが、順応しなければ色々危険なので仕方が無い、主に吉野の命的な意味合いで。

 

 

「あ~ 最近忙しくて切りに行ってないなぁ、そんなに伸びた?」

 

「言われてみれば、って程度だと思うけど、いつも一緒じゃない人から見たらすぐ判るかも」

 

 

 はい、と甲斐甲斐しくもほぐした鮭を吉野の口に放り込みつつ、時雨はまじまじと髪を観察する。

 

 その会話を聞いて周りの者も一堂に吉野の頭を見て、同じ事を思ったのかうんうんと首を縦に振っていた。

 

 

 吉野の普段の髪型といえば、長過ぎず短過ぎず、七三でも無ければオールバックでも無い、とても中途半端で形容のし辛い物になっていた。

 

 これは一応ではあるが、意図してそういう髪型にしていた、元々は諜報に携わっていた関係で、平時では人の印象に残らない無難な形で、少し触ればどんな髪形にもし易い様にとの事でそんな髪型にしていたのであるが、流石にもう目立たぬ様にとか言ってられない立場であり、それ以上に色々と忙殺される毎日である為、手入れを疎かにしていた結果、僅かばかりではあったが髪が目立つ程に伸びていたようだ。

 

 

「う~ん、そっか、じゃ今日昼からちょい時間空けれそうなら切ってこようかな」

 

 

 むぐむぐと茄子を咀嚼し、榛名に差し出された味噌汁の椀をすすりつつ、口の中の物を飲み込むとそう呟いた、吉野の顔周辺は食べ物やら椀やら鈴生(すずな)りで、ヘタに顔を動かすとちょっとした惨事になりそうな雰囲気である。

 

 

「提督、もし良ければ私が髪を整えましょうか?」

 

「え? 妙高君散髪とか出来る系の人?」

 

「はい、前任地では染谷司令の髪は私が整えておりましたので、もし提督が宜しいと仰るなら……」

 

 

 成る程、それならわざわざ外に出る手間も無いし、頼んでみるのもいいかと吉野は思ったのだが、その時フと以前話した染谷文吾少将の顔を思い浮かべだ。

 

 あの時見た染谷の髪型、全体的にチリチリで、何と言うかモミアゲまで丁寧にチリチリで、貴方どこのサブちゃんですか競馬場で神輿(みこし)に乗って祭りだ祭りだと歌う人ですかと言いたくなる様な髪形をしていた。

 

 要するにパンチ、モミアゲまでびっちりの。

 

 

「妙高くん…… ちなみに君が使う道具にこう…… 髪挟んでクルクルしちゃう電気コードが繋がったブツとかあったりする?」

 

「え? はい6mmから2.8mmまで取り揃えていますから、頭の形が多少歪んでいても見た目バシッと決める事が出来ますよ」

 

「そ…… そうなんだぁ…… それは本格的だねぇ」

 

 

 何がどうバシッと決まるのかは謎なのだが、このままお任せすると自分の頭は奈良の大仏さんみたいになってしまう、しかし折角気を利かせて整髪を買って出てくれている妙高を無下にする訳にはいかず、吉野は梅干をかじりつつ顔を歪めた。

 

 

「あ、それなら榛名も整髪得意ですからやりましょうか?」

 

 

 吉野の右隣に座る榛名は右手を何故か上下にシパシパと動かしながらそう提案する、それを見た吉野は整髪と言いつつその腕の謎の動きは何だろうと不安になった。

 

 

「榛名君も散髪ガールなんだ、てか、その、その腕の動きは……」

 

「ああ、電動バリカンをこう…… ですね」

 

 

 腕の上下は凡そ50cm程を行き来している、もしあの手に電動バリカンが握られていたとして、それがもたらす結果は頭頂部以外の毛が刈り尽くされた自分の頭、そう理解した吉野は思わず口中の梅干の種を噛み砕いていた。

 

 

「え…… えと、榛名君はその、理髪の経験は……」

 

「はいっ、この前比叡お姉さまがイメチェンしたいと仰ってたので、榛名はそれのお手伝いでヘアメイクをしました!」

 

 

 あのストロークでバリカンを振って、比叡のヘアメイクをしたというのだろうか、元々ボーイッシュな感じで裾が短い髪型の彼女ではあったが、そんな事をすると某海産物ネームな国民的アニメのパンツ丸出し刈り上げ少女みたいな惨状になっているのではなかろうか、思わずゴクリと生唾と共にジャリジャリと砕けた梅干の種を吉野は飲み込んだ。

 

 

「比叡君イメチェンしたのかぁ、まぁ夏だし、冒険したい季節だろうし…… むしろ冒険したねぇ…… うん」

 

「はいっ! とても涼しくなっていい感じだと嬉し涙まで流して褒めてくれました!」

 

 

 それは本当に嬉し涙なのか? むしろ艦娘は髪が伸びないと聞いていたのだが大丈夫なのか金剛型二番艦、そんな姉妹愛の深さと比叡の惨状を想像すると、思わず吉野は目頭が熱くなった。

 

 

「散髪ですか、三郎さんの髪型ではパーマや刈り上げは駄目なのではなくて? 少し手間になりますが私が(はさみ)で仕上げましょうか?」

 

 

 澄ました顔で珍しく加賀がまともな提案を口にする。

 

 しかし何故か彼女は何かを握る形にした手を正面で左右に開いたり閉じたりしている、どう見てもそれは毛を刈る動作では無く、植木なんかの葉っぱとかをザクザクと刈る動作なのを誰も突っ込まないのはどうなのだろうと吉野は思った。

 

 

植木鋏(うえきばさみ)は毛を刈る道具じゃ無いと思うのですが……」

 

「この前TV通販で植木バサミが安く売っていたの」

 

「……だから?」

 

「アタッチメントを付けると4mの長さになって、高所の枝を切るのに便利なのよ?」

 

「いやそれ散髪と全然関係ないですし、むしろそんな代物加賀さん何に使うんです?」

 

「今買うと同じ物がもうワンセット付いて、しかもお値段据え置きでお得だったの」

 

 

 たとえ4m先の物が切れる道具であろうが、合計ツーセットあろうが、それが吉野の散髪に生かされる事は無い、むしろそれを両手に4mも離れた処から髪を切られるなんて拷問以外の何物でも無いのではなかろうか。

 

 

「アタッチメントにノコギリも付いているのよ」

 

「加賀さんはそれで自分の頭をどうするつもりです?」

 

「鎧袖一触よ、心配いらないわ」

 

「提督は加賀さんのフリーダム過ぎる発言が心配です!!」

 

「面倒ならいっそ剃ってしまったらどうだ? それなら手入れも簡単になるし手間はかかるまい?」

 

 

 ワイワイと散髪の話題に盛り上がる集団に、手間が掛かるから剃れと言う割には真逆の黒髪を長く伸ばした女性、戦艦長門が溜息を吐きながらタクワンをポリポリと咀嚼していた。

 

 現単冠湾伯地総旗艦にして北の守りであった彼女は、捷号作戦(しょうごうさくせん)後の戦力整備・再配置の為大本営に呼び戻されていた。

 

 二代目大本営第一艦隊旗艦、戦争初期に吹雪が務めていた場合とは違い、純粋に戦力として編成された、ある意味真の初代第一艦隊旗艦と呼んでも良い彼女の実力は相当な物で、個の戦力もさるものながら、現場の統率力と指揮能力は一拠点、しかも比較的戦闘の少ない北方に置くのは勿体無いと以前から言われていた。

 

 それが今回の大規模な戦力の再配置、しかも自分だけで無く多くの者が召還され移動するとなっては、今まで『元大本営第一艦隊旗艦』という経歴を盾に無理を通していた事が今回は逆に仇となってしまい、固辞し続ける事が出来なくなってしまった。

 

 そして彼女、長門型戦艦一番艦長門は単冠湾泊地から呼び戻され、現在大本営第二特務課艦隊旗艦(・・・・・・・・・・・・)の任に就いていた。

 

 

 現在の第二特務課の人員を列挙すると

 

 

長門型一番艦長門

金剛型三番艦榛名

妙高型一番艦妙高

加賀型航空母艦加賀

夕張型一番艦夕張

白露型二番艦時雨

陽炎型一番艦陽炎

陽炎型二番艦不知火

 

防空棲姫

空母棲鬼

レ級

 

 

 と、ちょっとした泊地並みの戦力を抱えていた。

 

 

「司令、これは不知火が作った肉団子です、どうぞ」

 

「ちょっ!? ぬいぬいそこ提督の鼻だから無理に詰め込まないで!」

 

「あ、申し訳ありません」

 

「そう言いつつ目! 目に押し付けないで!」

 

 

 冗談なのか本気なのか微妙に判らない表情で肉団子を吉野に押し付ける不知火を見つつ、苦笑いしている少女。

 

 赤い髪を黄色のリボンでツインテールに纏め、不知火とお揃いのブレザーを着込んだ彼女は陽炎型駆逐艦ネームシップ陽炎。

 

 

 彼女も戦力再配置の煽りを受け、更なる守りの役割を担ったラバウル基地へ重巡や空母が送られ、その艦娘達と入れ替わる様に大本営へ送られてきた。

 

 本来の予定では神通が第二特務課に配属になる予定だったのだが、彼女はラバウルの第二艦隊旗艦にして水雷戦隊の長であった為、今まで以上に要所と位置づけられた同基地では手放せない存在になってしまった。

 

 今まで以上の戦力を無条件に配置するという大盤振る舞いを受け、しかも決まっていた艦娘が出せなくなってしまったラバウル基地司令は律儀な性格だった故、せめてともいう事で今溜息を吐いている彼女、陽炎を第二特務課に寄越したのであった。

 

 

「ほら不知火、司令の口はここよ」

 

「あ、すいません陽炎」

 

「陽炎君ナニシテンノそこ耳だからね!?」

 

 

 不知火が天然を発揮し、陽炎がそれを煽り、そして時雨がそのフォローに回る、そんな駆逐艦トライアングルが最近出来つつあった。

 

 肉団子の汁を時雨に拭かれながら、テーブルに集った面々を吉野は眺めている。

 

 

 戦艦2、重巡1、空母1、駆逐艦3、工作艦1、更に深海棲艦上位個体3

 

 数名の艦娘の偏った能力を考慮すると、完全に攻めに寄った陣営、それも相当に強力な。

 

 

 これはここ数日吉野が立案した作戦、その内容を上申し、軍の上層部と詰めを行った結果寄越された人員であったが、吉野本人からすれば実の処これだけの戦力が集まってもまだ足りていない(・・・・・・・・)と思っていた。

 

 そう、『姫や鬼を含んだ艦隊と専門に戦う部署』としてはまだ不安要素が残っていた。

 

 

「随分とシリアスな顔してるわね、肉団子の汁に何か思う処があったのかしら? それとも新しいヘアースタイルに思いを馳せているのかしら?」

 

 

 顔に考えが現れていたのだろうか、自分の顔を拭く小さな秘書官は少し不安げな表情をしており、背後からは何とも言えない笑いを表に貼り付けた朔夜(防空棲姫)が首に手を回してきた。

 

 目の前では一航戦の青いのと冬華(レ級)がどんぶり飯を手に早食い競争をしており、その横では(空母棲鬼)が溜息を吐きつつ、赤い缶から内容表記は普通なのに何故か依存性のある炭酸と噂の毒炭酸を口へ含んでいる。

 

 

「いや~、このまま流されると刈り上げチリチリパーマになった挙句、植木鋏でスキンヘッドになってしまうんじゃなかろうかと不安になりまして」

 

 

 時雨の頭を礼を言う代わりに撫でつつ、適当な言葉で茶を濁す。

 

 ホニャっとした時雨の笑顔に癒されつつも、今自分がやろうとしている事に一抹の不安を感じ、それのせいでこんな日常の一時すらフと苦い表情を浮かべる自分に溜息が自然と漏れる。

 

 そんな吉野の心中を知ってか知らずか、朔夜(防空棲姫)は意味ありげな笑みのまま両手の力を少しばかり込めて、吉野の耳元に口を寄せた。

 

 

「何を悩んでるのか知らないけど、テイトクがそんな顔をする時って面白い事をしようと企んでる時なのよね、良かったらその内容、聞かせてくれないかしら?」

 

「朔夜さんは相変わらずですねぇ、ん~ ……まだ色々詰めとかありますから話せませんが、近い内にそれをお知らせする事は出来ると思いますよ?」

 

「そう? まだ私の力は必要無い段階なのね、まぁでも愛しのテイトクがそんな憂いのある顔してたら黙っていられないのだけれど?」

 

「今はまだ準備段階ですから、その内朔夜さん達には色々協力して貰わないといけなくなりますし、その時は存分に頼らせて貰おうと思ってますよ」

 

 

 それを聞いた朔夜(防空棲姫)は満足気に首に回した手を解いて、吉野の横でじっと二人を見ていた時雨にウインクを一つすると、手をヒラヒラさせつつ自分の席へ戻っていった。

 

 

「そう言えば提督、頼まれていた轟天号の武装、昼からテストしようと思いますから良かったら確認お願いしますね?」

 

 

 一応空気を読んでいたのか、朔夜(防空棲姫)が席に戻るのを確認した夕張が吉野に話を振ってくる。

 

 肉団子と茄子と肉じゃがが盛られたカオスな茶碗片手にモグモグしてるその様は、対潜のエースと呼ばれた艦娘とは同一人物とは思えない体たらくである。

 

 そんな食い方して味はどうなんだろうと別な心配をしつつも、南鳥島で得た教訓を元に手配していた物が一つ完成したと報告を聞き、自然と吉野の顔が綻んだ。

 

 

「あ、それと魔の艦長椅子に散髪椅子の機能がありますのでそれ良かったら使って下さいね、妙高さん達には使い方説明しておきましたので」

 

 

 その言葉にナニシチャッテクレテンノと吉野の顔は再び苦い顔になった。

 

 気がつくと妙高は何時の間に持って来たのか、皮の折りたたみバックからパンチ用のアイロンコテを次々抜き出しては確認し、うんうんと頷いている。

 

 そして隣の榛名はどこから取り出したのか、電動バリカンに刃をセットし動作確認をしつつ、やはりバッテリー式の方が取り回しはいいですね、と笑顔でそう呟いていた。

 

 てっきり冗談なのかと思っていたが、どうやら二人の気合を見ていると吉野の髪の運命は風前の灯火のようであった。

 

 

「ふむ、これでも私は剃刀の扱いには長けていてな、もし手遅れになったらちゃんと処理はしてやろう、任せておけ」

 

「いやビックセブンさんに一体何を任せればいいの!? てか手遅れになる前にアッチを処理して欲しいんですけど!」

 

「よし! 艦隊、この長門に続け!」

 

「待ってナガモン! 提督の話を聞いて!!」

 

 

 何故か剃刀片手に吉野を小脇に抱え、ビックセブンなナガモンは執務室へ向かって行った。

 

 そしてその後を道具片手の妙高と榛名が続き、最後尾に何故か高枝切り鋏を担いだ一航戦の2Pカラーが歩いていったという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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