大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 前回は人物紹介したのに今回は更にレギュラーが追加されるという不具合。


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/08/02
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、BMB様、有難う御座います、大変助かりました。


ゲットされた彼女とトレーナーなテイトク

 水面が僅かに持ち上がり、くぐもった音が聞こえる。

 

 暫く後細かい泡と幾らかの魚が浮かび上がり、それを網とギャフを使って時雨が回収していく。

 

 粗方それが終わった頃、轟天号へ手信号で合図を送り、幾らか離れた場所に時雨が移動するのを確かめた妙高は、傍らに居る不知火に一声掛けると、それに頷き何かを確かめる様な仕草をした後、海へ向かって彼女が指を刺す。

 

 

「距離32、深度20」

 

 

 不知火が言う言葉に手に持った音響爆雷の信管を操作し、作動深度を設定すると、妙高がポイとそれを海へ投擲する。

 

 方向は不知火が今も指差す方向へ、距離深度は指定の水深に、そうして暫く待つとそれが炸裂した音が聞こえ、衝撃を受け卒倒した魚が海面に浮かび上がる。

 

 

 これは食料調達を兼ねた不知火の索敵訓練である。

 

 やっている事は世界各国で禁止されていたダイナマイト漁と言われる漁法に相当するが、現況海は深海棲艦の脅威が付きまとう為漁業という行為自体が無くなって久しく、そんな手法を用いての漁も誰に非難される訳でも無く、彼女達はポンポンと海へ爆雷を投げ込んでは乱獲を繰り返していた。

 

 場所は第二特務課が演習を行っている場所、つまり親潮と黒潮が交差する海域であり、周辺の波は複雑かつ荒い物だが、性質の違う潮が渦巻くここは水に酸素が豊富に含まれ、大量のプランクトンが生育される環境にあり、それにつられた回遊魚が多数存在する優良な漁場になっていた。

 

 そんな訳で不知火が電探の変わりに船に備え付けてある魚群探知機を用いて獲物を探すという、電探よりも精度の低い物を用いての"擬似索敵の訓練"にかこつけて食料の調達を行っているという訳である。

 

 

「どうでしょうか、食べられる魚は回収出来てますか?」

 

「そうですね、数は中々だと思いますが、もう少し大物を狙った方が良いかも知れませんね」

 

 

 数回行った漁の結果、そこそこの数は回収した物の、それは予想では2・3回食卓を潤す量の魚しか取れていない、持って来た食料は予定通りの分量を消費しているが、一応これも作戦遂行時に行うであろう行動である、なるべく持って来た物を消費するより現地調達の物を使うのが好ましいのは確かである。

 

 そうなれば一度の行動で回収出来る魚の質も一人一匹という物よりは、より多くの食材が取れる大型の物の方が効率も良く、また料理に使用する際の使い勝手も良い。

 

 

「成る程、それでは狙う水深は深くなってしまいますが、大物を探ってみましょうか」

 

 

 妙高のリクエストに答える様に、数より大きさに的を絞った探知に切り替えた不知火が新たな獲物を捕らえた。

 

 そしてその位置を聞いた妙高は手にした爆雷を調整し、また海へそれを投げ込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「はいそれでは皆さん、今から反省会を行いたいと思います」

 

 

 不知火達が外でそんな事をやっている最中、轟天号船内のブリーフィングルームでは操船と哨戒を担当している夕張と、外でダイナマイツな漁を行っている者以外の面々が集められ、先に行われた演習の結果を踏まえた反省会が行われようとしていた。

 

 割と真面目な面持ちで座る艦娘達と、少し憮然とした表情でホワイトボードの前で立つ吉野。

 

 そのホワイトボードには大きな文字で 『大反省会』 とだけ書かれている、『反省会』では無い、『"大"反省会』である。

 

 そのホワイトボードの文字を見つつスイッと手を挙げる長門、鋭い目にしっかりと切り結ばれた口、ただ無言で手を挙げただけなのに、堂々とした雰囲気と貫禄を感じさせる彼女は流石世界のビックセブンと言う他は無い。

 

 

「はい長門君」

 

「すまん提督、演習後にやるのは確かに反省も含めたブリーフィングではあるが、何故"大"反省会なのだろうか?」

 

「反省する事しか無いからです」

 

「む? そうなのか?」

 

「そうなのです、てかあの惨状を見てふっつーの演習評価とか出せると思いますか?」

 

 

 首を傾げ頭の上に"?"を浮かべたビックセブン、今度はその隣に座る加賀が変わりに手を挙げた。

 

 

「はい加賀君」

 

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 

「五航戦の人達は微塵も今回の演習に関わってはいません、むしろ貴女は犬神○フィニッシュで妙高君に救助されてましたね? てか、こんな時くらいその毒飴食うの止めなさい」

 

 

 ボリボリとフィンランドから輸入されたダークマターを噛み砕く加賀、そして今度はその向かいに座る陽炎がおずおずと右手を挙げる。

 

 

「何ですか陽炎君」

 

「えっと、私それなりに立ち回って戦果もちゃんと上げてたと思うんだけど……」

 

「ええ、立ち回りは見事でしたが、君は最後冬華(レ級)君もろとも榛名君も雷撃で轟沈させてましたね? アレは戦果ではなくてフレンドリーファイアです」

 

「あの~……」

 

「龍鳳くん、幾ら艦載機が尽きたとはいえ、弓で相手をシバき回すのはどうかと提督は思います」

 

「はい……」

 

 

 吉野は今にも手を挙げそうな数人を片手で制し、ホワイトボードに文字を書き始めた。

 

 ・実際の戦場を想定して行う模擬戦

 ・非致死性の武装を用いての戦闘

 ・ステゴロは想定外

 

 取敢えずそう書き出すと、ペシペシと指揮棒でホワイトボードを叩きつつ吉野は全員の顔を見渡した。

 

 

「殴り合い禁止となると、戦力は半減しないか?」

 

「むしろ演習で本気の殴り合いとか普通しないと提督は思います…… てかステゴロが攻撃手段の50%を占めるとかドウイウコト!? ちゃんと砲撃してビックセブン!!」

 

「成る程、なら通天砕(つうてんさい)は控えるとしてもごっついタイガーバズーカなら良い訳か」

 

「いい訳ナイデショ! てかなんで溝口Winなの?! ファイ○ーズヒストリーなんてググらないと判んない微妙なネタ禁止! それとごっついタイガーバズーカって砲撃じゃないからね!」

 

 

 古のSNKネタを封印され驚愕の表情を露にするナガモン、マイナーかつ男塾ちっくな格好の格ゲーキャラの事など、正直一般人には理解不能の可能性が高い為取り扱いには注意が必要なのである。

 

 そんな会話を聞きつつ、榛名は人差し指を口に添えて、可憐な相を少し傾けつつ何かを考えていた。

 

 

「チョーパンはステゴロに含まれますか?」

 

「榛名君、取り敢えずバナナはオヤツに含まれるのか的なニュアンスで物騒な事言うのは止めようか、あとヘッドバットをチョーパンとか昭和のヤンキーみたく言うのも正直どうかと思います」

 

 

 可憐な仕草をする金剛型三番艦は、見た目のイメージとは掛け離れた物騒かつ暴力的な事を考えていた様だ。

 

 もしかして戦艦の間では砲撃からの殴り合いが戦いのデフォなのかと吉野は眉根を寄せて悩み始めたが、当然そんな常識は海軍には存在しない。

 

 繰り返し言うがそんなワイルドかつバイオレンスな海戦など普通発生しない。

 

 

 反省会と言うのは何かの行動をした時に支障が発生した際、それに帰依する原因を紐解き、反省すると共に以後の対策を立てる場の事を指す。

 

 しかしそれは原因を理解出来る者に対して行う物であり、何故それがメーなのか、どうしてそれがダウトであるのかという根本的な事を理解させる場では決して無いのである。

 

 まさか反省会をする前に、海戦とはなんぞやという基本中の基本というか常識を、改二に成る程に経験してきた艦娘相手にディスカッションするハメになるとは思わなかった吉野は、思わずコメカミに指を当てて頭痛が痛いと呟きながら顔に縦線を浮かべつつ項垂れていた。

 

 

 そんな大反省会をしている最中、ノックも無しに時雨がブリーフィングルームに 『大物取ったどー!』 とどこぞのサバイバリーなお笑い芸人宜しく飛び込んできた。

 

 吉野の記憶が正しければ彼女は現在食材採取の為外に出ていたはずである、そして船の周りは大海原であり、獲物は魚類なのは間違い無く、更に現海域は様々な種類の魚が回遊する宝庫である。

 

 普段それ程取り乱さず、どちらかと言えば理知的なイメージな時雨がはっちゃけた様で報告に来たという事は余程の大物か、滅多にお目に掛かれない高級魚でもゲットしたのかと思わずジュルリと口元の涎を手で拭った。

 

 サイドテールの青いヤツが。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「うん、その、確かに大物だけど、これ…… ナニ?」

 

 

 とりあえず大反省会を棚上げにして、気分転換というか現実逃避の為甲板へ出てきた吉野の目の前には1.5m程の獲物が転がっていた。

 

 確かに大物と言えば大物だろう、ただしそれが魚類であった場合であるが。

 

 その謎の物体と言うか生命体は、吉野からしてみれば酷く馴染み深いモノを偽装したナニかであり、詳細な描写をすると深海棲艦イ級と呼ばれるモノの外殻というか恐らく抜け殻を被った白い何かであった。

 

 更に詳しく言うなら、イ級の抜け殻を被ったそれからは真っ白な手足と、これでもかと言う程長い髪の毛がわっさりはみ出していた。

 

 

「潜水棲姫ね」

 

「うん、知ってた」

 

 

 割と真顔な朔夜(防空棲姫)の言葉にうんざりした顔の吉野が口から言葉を搾り出す。

 

 ピチピチと跳ね回る魚の山と共に転がされたソレは、イ級の皮を被った深海棲艦、しかも上位個体である潜水棲姫だという。

 

 

 

「姫なんだ…… てっきりイ級後期が成長したらこんなんなのかな~とか思ってた……」

 

「時雨くん、いくらジビエ的な食材が属性HITだといっても、イとかロとか、深海のお友達を食べちゃうのはダメだと思います、後そこの一航戦、今舌打ちしたの提督聞こえてますからね!」

 

 

 ここは一応朔夜(防空棲姫)がボスのテリトリーである、そこに居る深海棲艦は一応友好的存在であるのは確かだが、それ以前に深海棲艦を食材として扱うのはチャレンジャブルにも程があるとしか言えない。

 

 むしろ既にどこから取り出したのかは謎な大鉈を片手に残念な表情の小さな秘書艦は、その表情以上に残念な感性をしているのでは無いだろうかと吉野は思った。

 

 

「あの…… 取敢えずこの方船内へ運び込んで介抱してあげた方が宜しいのでは?」

 

 

 そんな妙高の当たり前と言えば当たり前過ぎる正論に、結局船内の医務室に運び込まれた潜水棲姫は恐らくダイナマイツな音響爆雷にやられそのまま浮かんできたのだろう、特に外傷は見当たらず、数時間後には何事も無く目を覚ました。

 

 

「仲間・仲間・だれ?・だれ?」

 

 

 目覚めて暫し、半身をベッドから起こした状態で周りを見つつ、潜水棲姫はおもむろに周りの者を指差し点呼し、首を捻る仕草をしていた。

 

 ちなみにその場に居るのは吉野、朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)、そして時雨の四人である。

 

 

「何と言うか独特の雰囲気と言うか、ボーっとした雰囲気の姫さんですね……」

 

「って言うか何で私のテリトリーに入って感知されないのかの方が不思議なんだけど」

 

 

 深海棲艦のテリトリーに対する感覚は割りと鋭敏な物であるらしく、一定以上の力を有した個体が近くに居ると、それを感知した個体が更に近くの個体に注意を促し、波紋が広がる様に情報が拡散される。

 

 情報伝達の速度はそのテリトリーに存在する個体数で多少変わりはする物の、必ずそのエリアを掌握するボスには感知されるのが普通である。

 

 そんな中、割と日本本土に近い海域の、更に自分が居た場所の直下とも言うべき場所で存在を気取らせずに姫級が居たというのは、流石に朔夜(防空棲姫)ですら経験の無い事であった。

 

 訝しむ朔夜(防空棲姫)の尤もな突っ込みに対し、潜水棲姫はベッド脇に置かれていたイ級の抜け殻を手に取ると、それを朔夜(防空棲姫)へ差し出した。

 

 

「……何?」

 

「…………バリヤー」

 

 

 イ級の抜け殻を手に怪訝な表情の朔夜(防空棲姫)と、真面目かどうか読み取れない表情の潜水棲姫。

 

 そんな二人の様子に、傍でもう恐らくその魔性に魅入られてしまったのであろう赤いメタリックな炭酸飲料を啜っていた(空母棲鬼)が小さくゲップを吐き出し、ジト目で首を左右に振りつつ突っ込みを入れてきた。

 

 

「んな訳ないじゃない、潜水タイプの姫級は隠密のエキスパートよ、そこらのザコじゃ直視しても判らないだろうし、私達でも気配を読むのは"そこに居るって意識して探らなければ無理"よ」

 

「あら、そうなの?」

 

「そうなの? じゃないわよ、古今東西潜水艦ってのは私達水上艦にとって天敵だし、潜水棲姫辺りになったら泊地棲鬼辺りの陸上タイプでしかまともに相手出来ないんだから」

 

 

 ジト目のまま、更に口を△の形にして(空母棲鬼)朔夜(防空棲姫)の手からイ級の抜け殻を取り上げると、溜息混じりにそれを潜水棲姫に投げ渡した。

 

 

「そんな抜け殻どこで手に入れたのか知らないけど、あんまり舐めた事言ってるとぶっ飛ばすわよアンタ」

 

「…………バレた」

 

「そりゃバレるわよっっ!!」

 

 

 額に青筋を立て床をダンダンと踏み鳴らす(空母棲鬼)を尻目に、潜水棲姫はイ級の抜け殻を被ると、ベッドから抜け出しトコトコとドアの方に歩き始める。

 

 その余りにも自然な行動に室内の者は暫し見送る様に見ていたが、我に返った時雨が慌てて潜水棲姫に声を掛けた。

 

 

「えっと、どこに行くのかな?」

 

 

 そんな言葉にイ級(仮)な潜水棲姫はピタリと動きを止め、更に時雨の顔をジっと見つめつつ暫く何かを考えていた。

 

 そんなマイペースかつ珍妙な空気に誰も言葉を発せず、ジッと様子を伺う中、注目を集めている張本人の潜水棲姫はおや? と首を傾げ、相変わらず考えの読めない微妙な表情でうーんと唸り、最後にはポツリと一言だけ時雨の問いに答えを返した。

 

 

「帰る」

 

「……どこに?」

 

「…………どこ?」

 

「もぉぉぉぉぉなによなによなんなのよこの会話! アンタ一体何がしたいのよっっ!」

 

 

 某ムーミン谷にフラっと現れるちょっと厨が入った雰囲気のスナなんとかちっくな不思議ちゃんの潜水棲姫は、地団駄を踏む(空母棲鬼)に向け、ニヤリと笑いつつもサムズアップで応対しつつ、そのままグウ~っと蠕動運動(ぜんどううんどう)の音を盛大に響かせて、『お腹すいた』といい笑顔のまま倒れ込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 今潜水棲姫の前には龍鳳が持って来た握り飯が山の如き盛られた皿があり、その握り飯山脈と傍らに座る吉野とを交互に見ながら首を傾げていた。

 

 

「あー、すぐに用意できるのはソレだったから我慢して貰うとして、遠慮はいらないので取敢えずどうぞ」

 

 

 そんな吉野の言葉に一旦握り飯に視線を戻した彼女は、再び意味が判らないという様に視線を吉野へ戻した。

 

 

「潜水艦って、よっぽどの事が無い限り外界と接触持たないから、海に無い食べ物の事なんか知らないかも知れないわよ」

 

「ナニソレどこのツチノコなの?」

 

 

 ミュ○ツーとかメタ○ンちっくなレア深海棲艦なのかなと思いつつ、握り飯を一つ取った吉野はそれが食べ物だと彼女に判らせる為に一口それを頬張ると、モグモグと咀嚼した。

 

 それを見た潜水棲姫はおおと一言口から漏らすと、徐に吉野の手から食べ掛けの握り飯を奪いモグモグとそれを食べ始めた、何故食べ掛けをわざわざと思わない訳ではなかったが、握りこぶし大の物を二口程度で食べてしまった様子を見るに、余程飢えていたのだなと吉野は苦笑いの表情で次の握り飯を手渡した。

 

 これは単に何気なく取った行動であるが、これが後に予想外の結末と言うか吉野の身に降りかかる不幸の始まりだとは誰も露程も思っていなかった。

 

 

「うむ、美味である」

 

「そ……そっかぁ、美味かぁ、それは何よりだねぇ……」

 

 

 ついでの流れで次々と握り飯を渡す吉野、それを10個程胃に収めた辺りで彼女は小さくケプっと口から空気を漏らし、余は満足じゃと一言述べてニコリと微笑んだ。

 

 ああそうですかとまだ半分程握り飯が残った大皿を龍鳳に手渡し、さてどうするかと思案顔になった吉野の目には、何故か視認出来る程のキラが付いたイ級の抜け殻を背負った彼女の顔が見える。

 

 潜水棲姫は戦闘糧食でキラが付くのかと新たな発見をした気分の吉野の隣では、何かに気付いたのか朔夜(防空棲姫)がハっとした表情で潜水棲姫を暫く凝視し、隣でムスっとしていた(空母棲鬼)にボショボショ何かを囁くと、何故か(空母棲鬼)が△の口のまま表情が驚きに変化していた。

 

 その様子を見た吉野は、腹が一杯になった彼女がへんしんでもするのだろうかと首を捻っていたが、何故か二人が潜水棲姫を部屋の隅に引き摺っていきコショコショと話を始め、まるでカツアゲ現場に遭遇してしまったかの様な何とも形容のし難い空気に似た微妙な雰囲気が辺りを支配した。

 

 

「何かあったのかな、聞いてこようか?」

 

「待って時雨君、今ヘタに近寄ると顔がメタモちっくな時雨君が誕生してしまうかも知れない……」

 

「……提督を見てると僕は無性に不安になる時があるんだけど」

 

 

 そんな小さな秘書艦に本気で心配される吉野を鋭い視線が貫いた。

 

 すわ殺気!? と視線が飛んでくる方へ目を向けると、何故か三白眼でこちらを睨む(空母棲鬼)と、珍しく不機嫌な表情の朔夜(防空棲姫)が見える。

 

 一体どうしたんですかと問うと、朔夜(防空棲姫)は溜息一つ、首をゆっくり左右に振りつつ驚愕の事実を吉野に告げ始めた。

 

 

「テイトク、この子、僚属(りょうぞく)したわよ」

 

「あ、そうなんです? 割とこれからどうしようかって思ってたんで、すんなり朔夜(防空棲姫)さんの支配下に入ったなら何よりです」

 

僚属(りょうぞく)したわよ、テイトクに」

 

「んんんんんん?」

 

 

 訝しむ吉野、そして目の前ではビシッと龍鳳の持つ皿の握り飯を指刺し、更に吉野、潜水棲姫へと順に刺した朔夜(防空棲姫)は『餌付け』と一言だけ述べ、じとりと視線を向けてきた。

 

 

「……待って、姫級って握り飯で餌付け出来たりするんです? それどこの2chキャラ?」

 

 

 はははバカなと苦笑いの吉野に、ボショボショと潜水棲姫に何かを呟く朔夜(防空棲姫)

 

 一体どこの深海棲艦、それも姫級がたかが握り飯10個程でポケ○ンずかんにコレクションされるというのだろうか、もしそうなら潜水棲姫はミ○ウツーとかメ○モンみたいなレアでは無く、世のgoちっくな人々の端末を埋め尽くすド○ドー的な存在なのではなかろうかと吉野は眉根を寄せた。

 

 そんな微妙な空気の中、テテテと吉野に近寄ってきた潜水棲姫は、一言『おやびん』と何とも微妙な名称を口にし、キラキラ輝く笑みのまま吉野の袖を掴んできた。

 

 

 前を向くと揃って△の形の口をした不機嫌な顔の朔夜(防空棲姫)(空母棲鬼)、隣を向くと何故かポケットからメリケンサックを取り出しそれを装着する時雨、そしてその向こうでは目のハイライトが薄くなった龍鳳の姿が見えた。

 

 

「OK、了解、ちょっと待ってみようか諸君、どうやら君達は何か誤解しているようだ」

 

 

 そんな吉野の言葉は再び潜水棲姫が発した「おやびん」という言葉にレジストされ、とても言葉では表現出来ない不幸な結末を迎えたという。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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