大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 今回はタイトルが全てでオチになっています、むしろタイトルを見れば中身を読んだと同じというお話になっております…… メシテロェ


 今回もごません様作『提督はBarにいる。』一周年記念の催しに乗っかったコラボ回になります。

(※)御注意

 上記にあります様今回はごません様の作品世界とコラボレートしたお話になります。
 
 作中設定はあちらさま準拠であり、拙作の世界観とは恐らく大幅に異なっております。

 また登場人物像や性格等もそれに伴い違う物になっております。


 上記の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。


 それではどうか宜しくお願い致します。


2018/12/27
 誤字脱字修反映正致しました。
 ご指摘頂きましたMWKURAYUKI様、K2様、雀怜様、有難う御座います、大変助かりました。


メシテロとギャグに失敗するとこうなるという事実

「こりゃちょっとしたホラーだな」

 

 

 そう呟いた男はやや眠そうな目を(しばた)かせ、深い溜息を()きつつソフアーに深く腰掛けた。

 

 場所はブルネイ泊地執務室、窓から差し込む南国特有の日差しがやや大きい窓から室内を照らし、男の顔にくっきりと陰影を刻んでいる。

 

 

「尋問で得た情報はどれも殆ど該当する物は無し、何も知らん一般人でも眉を顰めそうな内容だらけなんだが…… 那智よ、お前から見てこの珍入者ってのはどんな感じだったよ?」

 

 

 執務室の主であり、このブルネイの長でもある男、海軍大将金城は朝一番自分のシマ内(・・・・・・)に突如現れたという珍入者の為に貴重な睡眠時間を削られた事と、本来ならこの後予定している仕事(・・・・・・・・・・・)の準備すらままならない状況に、渋い顔で報告に来た艦娘、妙高型二番艦那智に意見を求めていた。

 

 

「私が尋問した時受けた感じでは理路整然とした受け答え、淀み無い喋り方……嘘を()いてるという印象は受けなかったな、試しにちょっとした変化球も投げてみたんだがそれでも別におかしな様子は見られなかった、が……」

 

「まぁその帰ってきた答えが正確な物であったらば、か、ふむ、加賀の方はどうだ?」

 

 

 那智と並んで座り茶を啜っていた加賀は、金城に振られた話に対し、そうね、と一言置いて、目の前にある紙束を手に確認しつつ、己の中にある情報との間に齟齬が無いか照らし合わせた後、その内容に思わずふう、と一息口から空気を吐き出した。

 

 その様は表情が読み難い彼女にしては珍しく、これから語る話の内容が余り(かんば)しい物では無いという事を予想させるには充分だった。

 

 

「電探も哨戒の網にも一切引っ掛かった痕跡はありません、また周囲の海・空路に関しても出入国記録に該当する人物の情報は今の処無し、報告書にある通り"突然ウチの波止場に現れた"としか言い様が無いですね」

 

「だろうなぁ、あんなおかしな格好で海から来てウチの誰も気付かない事なんか在り得ねぇし、乗ってきた小型艇を持ち込むにしてもその痕跡皆無ってのは幾らなんでもなぁ」

 

 

 ソファーの背もたれに腕を投げ出し、足を組み直す、そして次の報告を促す様に視線を向けた先に座るもう一人の艦娘、何故かキラキラエフェクトを盛大に背負った明石を見て思わず金城は右手で顔を覆う。

 

 只でさえ眠気と予想外の労働に疲れ気味の処、そんなテンションの者から聞かされるであろうアレやコレのトンデモ話は更に心労を増大させる事は予想出来た。

 

 

徴発(ちょうはつ)した水上バイクですけどアレ凄いですよ! 性能の低いレシプロエンジンをオーバーテクノロジーの補器で無理やりパワーを搾り出す造り、それに船体強度ギリギリに調整された推進機構! アレは正に……」

 

「あーあー、判った判った、その辺りの専門的な話はお前の顔見りゃトンデモ系だってのは嫌でも判るから、結局の処アレでウチの哨戒エリアの外からココまで航行が可能なのか、それとどこで作られたモンなのか、その辺りはどうなんだ?」

 

「それなんですが、燃料搭載量や機構の仕組みから見て"外からココまで自力到達"出来る程の航行は不可能だと断言出来ます、また使用されている部品やフレームには"大本営工廠の刻印"が入ってました、これは妖精さんのお墨付きです、それと……それを作ったって言う彼女、夕張に関しても艦娘に間違い無いですし、艦種もやや足りない部分がありますが工作艦と言っても良いと思います」

 

「その夕張だけど…… 調べてみても登録記録に該当する物が無かったです、もし明石さんの言う事が本当ならこれはちょっと問題になりますね」

 

 

 明石と加賀の言葉に再び苦い相で天井を見上げ、金城は現在出揃っている情報と、更に自分でも独自に収集した物を加えて答えを導き出そうと試みる。

 

 

「一応俺も(つて)を頼って話にあった所属先を探ってみんたが、大本営に第二特務課ってのも吉野って男も存在しなかった、ついでにその上司の大将も当然聞いた事も無い名前だ、しかし……ソイツを否とするには連れてた艦娘やら使ってた装備がなぁ…… そこんとこどうなんだ中佐さん(・・・・)よ」

 

「いやまぁアレですね、自分が怪しいってのはしょうが無いとしてもですね、間違い無くその夕張メロンは危険人物なのは事実だと思いますよ大将殿(・・・)

 

「ちょっ!? 何ですかそれ、何で私が危険人物なんですかぁ!」

 

「てか、君がCBX魔改造しなかったらこんなおかしな事になってないし、ニトロとかお馬さんとかメロンテクノロジー盛らなきゃふっつーに性能試験終わってたと提督思うんですけどっ!!」

 

「ひっど~い! 押すなって言ったのにニトロボタンONしたの提督じゃないですかぁ!」

 

「普通あんなトコにボタンあったら押すデショ! てかテストなんだからそんな危険物質積むんじゃありません!」

 

 

 ブルネイ泊地に舞い込んだ厄介事、その原因である珍入者はそこの主含む住人そっちのけで醜い言い争いを始め、折角のシリアスをぶち壊しシリアルというミルクを掛ければ朝食になりそうなワールドを展開するのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「darling、今日殆ど寝てないみたいですケド大丈夫デスか?」

 

「ああ問題ない、それに今日は貸切の予定だからそんなに手間は掛からんさ」

 

 

 午後8時、いつもの如くブルネイの執務室には『Bar Admiral』の看板が掛かり、シックながらも存在感を主張するネオンからの淡い輝きが辺りを染め上げ、その室内は艦隊指揮を発する戦場から紳士淑女の社交場へともう一つの顔を覗かせる。

 

 モダンな造りのバーカウンター、色とりどりの宝石が散りばめられた酒棚、そしてさり気なく据えられているキッチンは、それでも設備の充実さを素人目にでも判る程の雰囲気を醸し出していた。

 

 席に座るのは返却された鎧甲冑を着込み子供の日の床の間の雰囲気を醸し出す吉野と、何故かキラがついた状態の夕張、そして金剛の三人。

 

 その様変わりした空間に二人の珍入者は驚いてはいたものの、反応は何故か其々違う物になっている。

 

 夕張は雰囲気云々以前にボタン一つで様変わりしたギミックに興味津々で、辺りを小動物の様にキョロキョロと観察し、吉野は普段からこの手のトンデモギミックには耐性はあった物の、まさか迷い込んだ先の根拠地執務室がバーに変貌し、更に基地の指揮官で大将という立場の者がバーのマスターという斜め上な現実を今一飲み込み切れずに居るといった状態である。

 

 

「さてと中佐、一応お前さん達に付いては今の処とりあえず危険性は無いというのがこっちの認識だ、そこでお互いの情報の齟齬を埋める為に腹を割って話をしようと思うんだが」

 

「えぇ、それはこちらとしても願っても無い提案なのですが大将殿、少しお聞きしたい事が……」

 

「ああ、何でも聞いてくれていいぜ、でもその前に今俺はBar Admiralのマスターだ、営業時間中は大将って呼び名は無しにしてくれ」

 

 

 ニヤリと笑うその顔は昼間に見せた軍人とはまた別の、それでもマスターと言わせるには充分な雰囲気を漂わせていた。

 

 軍人でバーのマスター、決して交わるはずの無い二面性を内包する目の前の人物を見て、それでも納得させるだけの物を感じた吉野は先ず聞きたかった質問が解消されたのか、苦い顔でボリボリと頭と言うか兜を掻いた。

 

 そんな男の向こうでは、片方の目を隠す様な特徴的な髪型の物静かな少女、早霜が酒棚の前で何か道具を確認し、それを並べているのが見える。

 

 

「えっと…… すいません、自分酒飲めません……」

 

「あ? 下戸か? なら度数の低い物も用意出来るし、何ならソフトドリンクも用意出来るが…… まぁここは寛ぎを提供する為の空間である訳だし、色んなヤツが出入りする関係もあって大抵の物は揃えてるぞ」

 

「下戸じゃなくて体質なんでアルコールはちょっと、てかそうですね……それじゃ取敢えず飲み物はドクターペッパーを」

 

「いきなりコアなモン注文しやがったな、確かカクテルベースで確保してたと思うが……お、あった、っつーか冷えてないんだが、氷で割っていいか?」

 

 

 そんなマスターなアドミラルが振り向くと、何故かカウンターの上には赤いメタリックの缶が数本並んでおり、更に鎧武者な男は胸ポケットから新たな缶を一本取り出す姿が見える。

 

 どう見てもそれは缶飲料が出てくるにはおかしい大きさのポケット、更に並んだ缶には僅かながら水滴が付着しており、試しに触るとそれは御丁寧にも飲み頃に冷やされた状態であった。

 

 鎧武者は五本程缶を取り出すと満足したのか、フェイスガード部をガシャリと上にスライドさせ、赤いメタリックの缶を一本手に取ると、ゴクゴクとそれを一気飲みするという落ち着いたバーの雰囲気ぶち壊しな飲み方をした後何故かまたフェイスガードを元に戻した。

 

 何故わざわざ兜装備のままなのか、どうしてポッケから缶飲料がポイポイと出てくるのか、そして何故それが冷え冷えなのか。

 

 軍事拠点でBarを営む大将も大将だが、そこで平然と鎧甲冑でドクターペッパーを一気飲みする中佐も大概と言わざるを得ない。

 

 むしろBarに飲み物持ち込みでゴクゴクはマナー違反と言うか営業妨害なのは言わずと知れた常識であった。

 

 漆黒の兜からゲフーとくぐもった音がシックでモダンなBar店内に響き渡り、それを凝視する面々と、キラキラを振り撒き周りのギミックを探る為にあちこちペタペタと触りまくる空気の読めないメロン、雰囲気ぶち壊しである。

 

 

 怪訝な顔の金剛が無言で鎧武者のポッケをまさぐり、中に何も無いのを確認した後、更に首を傾げ何かを考えた後眉尻を上げた顔で、チャックをジーコジーコ繰り返し開け閉めする。

 

 ペタペタという音とジーコジーコという音だけが聞こえるそこには、ポッケをいじりたくられる成すがままの鎧武者と、冷え冷えの赤い缶を持ったまま固まったマスターなアドミラル、そしてそれを何とも言えない表情で見詰めるアシスタントの早霜という訳の判らない世界が展開されていたという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳でだ、普段ウチでは客からのリクエストを受けて色々旬の食材を使ってもてなす訳だが、今回は生憎誰かさん達のお陰で仕込みが間に合わなくてな、悪いがリクエストは今回無しであり物(・・・)で作らせて貰うぜ?」

 

 

 あり物、世間一般で言う処の冷蔵庫の中にある残り物、そんな意味の言葉を口にし、コトリとカウンターに座る三人の前に小鉢を置くマスター、紫色の陶器の中には少し地味な色合いの何かが盛られているのが見える。

 

 

「色々準備してる間にそいつを摘んでてくれ、中身は茄子とキュウリの古漬けを刻んだ物だ、ただそれだけじゃアレだから軽く塩抜きして少量の胡麻油と醤油を垂らしてある、味は濃いが飯にも酒にも合うアテだ」

 

「ん、ビールに合いますね、もっと塩辛いと思いましたけど胡麻油の香りの方が立つと言うか」

 

「まぁな、流石にワインとかにはちょっと合わないが、蒸留酒とか発泡酒には何故かソイツは自己主張しないんだ、まぁドクペはアレだ、どんなブツが合うとかいうレベルじゃねーから勘弁してくれ」

 

「へ~……」

 

 

 ぽりぽりと小鉢の中を咀嚼する夕張の前にはビールのジョッキ、中身はアサヒスーパードライ。

 

 普段は吉野に気を使ってか飲酒する姿を見せる事は無かったが、ここはお酒を楽しむBarである、今回ばかりは夕張も遠慮なしに酒を楽しむ事にした様だ。

 

 キッチンの方では何かを揚げているのか油のパチパチと跳ねる音が聞こえてくる、それと共に衣に火が通る香ばしい香りが漂ってきた。

 

 

「今回はあり物って言ったけどな、残り物って訳じゃねーんだ、どこから来たのか判んねぇ客人にウチ…… ブルネイ泊地の()の物を味わって貰おうと思ってな、"ここ周辺で採れたあり物"で献立を決めさせて貰おうって寸法だ、さてと先ずはコイツだ」

 

 

 そういって出された皿には揚げ物が6つ並び、それと共に小鉢が一つと小皿が一つ。

 

 

「先ずは天麩羅六種、海鮮は三種でキスと(こち)烏賊(いか)、それと野菜も三種で茄子とモロコシとパセリだな、お好みで天つゆと塩を使ってくれればいいが、烏賊とパセリはつゆのがオススメだ」

 

「パセリですか? 付け合せじゃなく?」

 

 

 夕張の反応にマスターはニヤリと口角を上げる、どうやらその反応は予想してたらしくしてやったりな雰囲気がなんとなく見て取れた。

 

 

「パセリは生だと独特の苦味と食感で敬遠されがちなんだがな、衣を付けて軽く揚げてやるとその苦味が抜けて、サクサクと軽い口当たりで食べ易くなる、天麩羅と言えば紫蘇なんだがそれよりもこっちのが食べ応えがあるし、パリパリし過ぎないのがいいんだ」

 

「確かに苦味が殆ど抜けてますね、それにこれだけ塊だとそこそこ食べ応えが…… うん」

 

「元々パセリってのはカリフラワー程の大きさに群生する、だから味の問題をクリアすれば適当な大きさにちぎって使えるって寸法だ、それに元が元なだけに大きさの割りにしつこくないしな」

 

「成る程」

 

「因みに今日使ってる野菜はウチの山雲が届けてくれた『山雲農園』の物を使っている、魚もウチのヤツらが釣ってきた物だ、正にあり物(・・・)、そしてウチの味だ」

 

「山雲ちゃんの野菜デスか~ いつも新鮮で美味しいんデスよネ、っとdarling、コレはナンですか?」

 

 

 シャクシャクとカリフラワー大のパセリを食べつつ、金剛がその脇にある四角の衣の塊を摘み上げ首を傾げる。

 

 それは綺麗なキツネ色をしており、野菜にしては形が整った感じに見えた。

 

 

「ああそれはモロコシだな、粒をバラしてかき揚げもいいが、今回はかつら剥きの要領で粒が繋がった形に剥いてそれを揚げてみた、そうする事で付ける衣が少なくなってモロコシ本来の甘さが楽しめるんだ」

 

「hm…… 甘くてサクサクしてDeliciousネ、これはツユより塩がいいかもデス」

 

「ん? この烏賊も何だか少し食感が違うと言うか…… 味もちょっと濃いですね」

 

「ソイツは一夜干しの烏賊だな、酒のアテにでもと仕込んでおいたんだが、生のままよりもいい感じに柔らかくなるし、何より干す事によってアミノ酸が凝縮されて旨みが増す、一手間掛ける価値は充分あると思うぜ?」

 

 

 そんな和気藹々と進む食事をする脇では、箸で何かを摘み、それをジっと凝視する鎧武者の姿があった。

 

 その箸に摘まれた物は、衣が付いた余り見掛けない物体と言うか、アディダスなマークを彷彿させる形の何か。

 

 天麩羅の正体も謎と言えば謎だが、それを箸で摘み、黙って(たたず)む鎧武者というシュールな絵面(えずら)はBarの雰囲気に合わないと言うか、それに合う雰囲気をチョイスする方が難しいと思われる。

 

 そんな珍妙な雰囲気に今更ながら苦笑しつつ、マスターは恐らく鎧武者が知りたいであろう箸に摘まれた天麩羅の正体を説明する。

 

 

「そいつは(こち)だな、白身で味は中々なんだが大きさの割りに頭がでかくて食う部分が少ないし、独特のぬめりがあるから処理が面倒なんだ、だから(おか)から釣れるサイズのそいつは外道扱いされがちだが、頭とワタを処理して煮つけてイワシみたいに丸のまま食うか、ソイツみたいに尾の辺りで繋がったまま三枚におろして揚げると身と一緒に中骨もサクサクと食える天麩羅になる」

 

 

 その説明に納得したのか箸にそれを摘んだまま顎と言うかメットのフェイス部分に指を当て、ふんふんと頭を前後する鎧武者。

 

 納得してないで早く食えとその場の全員が心の中で総突っ込みを入れていたのはこの際内緒の話である。

 

 

 そんな感じでメシテロにもギャグにも中途になってしまうという化学反応を起こしつつもBar Admiralお食事会はスタートしたのであった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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