大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 今回もごません様作『提督はBarにいる。』一周年記念の催しに乗っかったコラボ回になります。

 そして最終話、纏めが上手くいかず長文になっています、大体いつもの倍。


(※)御注意

 上記にあります様今回はごません様の作品世界とコラボレートしたお話になります。
 
 作中設定はあちらさま準拠であり、拙作の世界観とは恐らく大幅に異なっております。

 また登場人物像や性格等もそれに伴い違う物になっております。


 上記の内容に興味が無い、又は趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨になります。


 それではどうか宜しくお願い致します。


2016/08/18
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました今日のカロ様、黒25様、有難う御座います、大変助かりました。


E0、ハゲ散らかす以外の意外な余波

「私の顔に、何かついていて?」

 

 

 ブルネイ泊地に迷い込んで二日目の朝、時間にして0815、執務室にて航空母艦加賀の座る目の前で吉野はその端正な顔をまじまじと見つめていた。

 

 加賀と言えば天下の一航戦、どこの拠点のどの個体もそれなり以上の手練(てだれ)であり、またその多くは細やかな気遣いが出来更に人格者である場合が多く、大抵は拠点の要職に就く傾向にある。

 

 このブルネイでもそれは例に漏れずどうやら提督が休んでいる午前の間は何かしらの事務的な仕事や、それなりの仕事を任されているらしく、今はこうして吉野を呼び出し諸々の確認とそれに付いての対策をする為執務室に詰めていた。

 

 

 そんな訳で吉野は昨夜に続き執務室に居る訳だが、先にも述べた様に目の前の加賀をまじまじと見つめている、と言うか少し警戒している。

 

 世間一般での加賀の評価は高い、それはテンプレと言うべき物であったが、第二特務課所属で吉野の同期の加賀は能力こそ高いものの良く言えばフリーダム、そのままの表現をすればゴーウィングマイウェイが服を着て弓を背負ってる様な人物である。

 

 隙を見せれば何をされるか判らない、そんな人物であった為にいつもの癖でブルネイの加賀を目の前に吉野はエマージェンシーモードに突入していた。

 

 

「ああいえ、何と言うか加賀さん、自分持ち合わせが少なくて間宮とかその辺りへゴーとか今は少々厳しいのですが……」

 

「間宮? 貴方は一体何を言ってるのかしら?」

 

「違うんです? じゃ長靴一杯のサルミアッキ食いたいとか高枝切り鋏のアタッチメントの試し切りさせろとか、あと……」

 

「貴方の部下である加賀はどうか知らないけど、少なくとも私はそんな訳の判らない事したりしないのだけれど……」

 

 

 その言葉に驚愕の表情を露にし、思わずマジスカと聞き返してしまう吉野。

 

 繰り返し言うが世間一般の加賀という艦娘は極めて有能な者が多い、間宮でヒャッハーしたツケを事務処理で誤魔化して妙高型一番艦から物理的な注意と言うかドスでとかボールペンで刺されそうになったり、こっそりと夕食の味噌汁の鍋に塩化アンモニウムちっくな調味料をINする様なバイオテロはしないのである。

 

 

「ええと…… それじゃ自分は何でまた呼び出されているのでしょうか?」

 

「それについてなのだけど」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 事の次第は昨夜のお食事会後のまったりタイムにまで遡る。

 

 ブルネイ泊地基地司令であり、Bar Admiralのマスター金城のもてなしによって美味い飯を頂き、すっかりいい気分になったメロンと鎧武者、其々の身の回りの話や情勢等世間話を交えつつ歓談していた。

 

 

 酒は人の口を軽くし、判断力を鈍らせる。

 

 

 この食事会に招かれる前に夕張と吉野の間ではある打ち合わせがなされていた、それは第二特務課の現在の主任務とその状況、そして深海棲艦が同課に属し協力関係にある事、この辺りの話は一応秘密という事にしておき、周りの状況を見て話すかどうかを判断しようという事にしておいたのだ。

 

 色々周りの状況を見て出した結論で言えば、信じられない事にこのブルネイ泊地は吉野達の知るブルネイでは無く、またそれとなく聞いた話を総合すればあろう事か軍の有体すら自分達の知らない状態にあった。

 

 認めたくは無いがここは自分達が知らない世界の軍事拠点であり、それでも自分達と同じく深海棲艦と戦っている彼らに対し、自分達が持っている情報は持ち込むにしては余りにも荒唐無稽であり、そのまま情報提供すれば狂人の類として扱われるか、信じて貰ったとしてもその内容は色々な面で影響が大き過ぎると判断した為である。

 

 自分達が住む世界の(ことわり)がこっちの世界と同じという保障は無く、また同じであったとしてもそれを確かめる為の手段や方法に責任が取れない以上暫くは様子見の意味を込めて吉野は色々探ってみるつもりでいた。

 

 

 しかし酒が入り、金剛と意気投合してガールズトークを繰り広げる夕張はついうっかりその辺りの情報をゲロしてしまうという失態を犯す。

 

 最初は酔った人間の戯言と金剛も笑っていたのだが、意地になった夕張は携帯に保存していた深海棲艦組との合同演習や、その後のブリーフィング風景の動画をドヤ顔で披露、完全に出来上がっていた金剛もそんなトンデモ動画を見るも何故か爆笑しながらその動画を視聴していた。

 

 その時吉野と金城はカウンターを離れ静かにソファーで話し込んでいた、少し離れたカウンターではそんなカオスな事が起こっているとは露知らず。

 

 

「Hey darling これ傑作ネー、そこのサムライ防空棲姫とか潜水棲姫とかにsandwichされて大岡裁き状態デース」

 

 

 ゲラゲラと携帯をかざす金剛にそれを真顔で見る金城。

 

 金剛の持つ携帯の画面の中では足に時雨をぶら下げたまま朔夜(防空棲姫)(潜水棲姫)に引き摺り回され、ヤメローショッカーと叫ぶ姿の吉野が映っている。

 

 携帯の画面と吉野の顔を交互に見る金城、そしてフェイスマスクをガシャリと下げプイッと横を向く吉野。

 

 

 酒はメロンの口を軽くし、判断力をお空の彼方に吹っ飛ばしてしまった。

 

 

 そんな訳で第二回Bar Admiralのマスターによる尋問大会が開催される運びになり、金城は二徹と振って沸いた重要案件という己の身に降りかかった厄介事に頭を痛めつつ朝日を拝むハメになったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳で私達は昨晩得たという(・・・・・・)情報を元に情報収集と会議を行う事になりました」

 

 

 あからさまにジト目でそう言う加賀の隣では、既に諸々の担当が決まっているのか大淀が山と詰まれた書類と格闘しているのが見える。

 

 どうやら自分のもたらした情報は事の真意は兎も角、このブルネイ泊地所属の者達にとっては相当重要視されているらしいと感じた吉野は苦い顔をしつつ、頭をボリボリと掻いていた。

 

 自分の中にある未来に向けた目的という部分こそ話してはいないが、それ以外の情報は事細かに提供してある、それこそ眉唾物と思われても仕方の無い内容だが、裏を返せばそれが真実だった場合戦局を大きく変える事象である事は間違いない。

 

 そしてブルネイ泊地の者はこの情報を笑い話と一蹴せず、重要案件と位置付け動き始めていた、

 

 

「今はまだそちらに色々確認する段階では無いのだけど、話が進めば恐らく会議に出席したり、もしかすると確認の為現場に同行して貰う可能性があるから心に留めておいて貰えるかしら? それと……」

 

 

 加賀が見る先、少し離れた場所には一人の艦娘、ツインテールに黒いスカートに特徴的な橙色の布があしらわれたスカート、ある意味加賀と同じくメジャー処の軽巡洋艦、川内型ネームシップ川内があくびを噛み殺しながら立っている。

 

 夏にも関わらず白いマフラーを首に巻き、忍者を彷彿させる袖なしの衣装を纏っている処を見ると第二次改装を終えた高錬度の艦である事が判る。

 

 

「提督の提案でずっと執務棟に軟禁しておくのも忍びないからと、取敢えずではありますが鎮守府内でならある程度出歩くのは許可します、彼女(川内)を監視として就けますので部屋を出る際は必ず行動を共にして下さい、出歩いても良い場所は彼女から聞いておくように、川内、頼みましたよ?」

 

「ん、了解、じゃさっそく夜戦しようか」

 

「何がさっそくなのか知らないんだけど、今昼だと思いますセンダイ=サン」

 

「ん~? じゃ何もする事ないね~、夜まで昼寝でもしよっか」

 

「聞きしに勝る夜戦バカと言うかいきなり床に寝転ぶとかちょっとビックリです」

 

「何でもいいのだけれど、そろそろいい加減にしないと大淀から殺意のオーラが滲み出てきてるわ」

 

 

 執務机の方を見ると、書類タワーに半分埋もれた眼鏡の黒髪から瘴気がゆらりと見え隠れし、何故か眼鏡フレームから金色の光が滲み出ている様に見える。

 

 あれが噂に聞く殺意の波動というヤツだろうか、確か大本営の眼鏡序列一位の大淀は瞬獄ナントカとか阿修羅ナントカの使い手だと聞いていたが、ブルネイの大淀ももしかしたら波○拳くらい使えてもおかしくは無いと吉野は執務室を後にするのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「で? 何で工廠に来てるの?」

 

「いえ、ちょっとここの明石さんに呼び出されてまして……」

 

「ふ~ん、まぁここなら出入り禁止エリアじゃないからいいんだけど、あ、そうだちょっと小耳に挟んだんだけど吉野さんってさ~ 何か戦国武将みたいな格好してるって聞いてたんだけど…… 普通の格好してるよね? 何で?」

 

 

 確かに吉野はこのブルネイに飛ばされて来た時は対爆スーツに身を包んでいた、そして別世界へシフトするというトンデモ状態になるなんて予想もしてないので着替え等も持っている訳でも無く。

 

 しかし部屋に軟禁になるにしても鎮守府をうろつくにしても、鎧甲冑のままガシャガシャやるのは本人だけでなく周りの精神衛生上余り良いとは言えない、そんな訳で吉野は今、急遽用意して貰った芋ジャージ上下に、何故か二種軍装にセットで付いてくる白い士官用帽子を被った珍妙な格好をしていた。

 

 

「いやそんな普段から鎧武者がデフォみたいな変人扱いされてもですね……」

 

「むしろ今の格好も充分ヘンだと思うんだけど」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「そんな訳で松風の修理と改修が終わったのでそれのテストをお願いしますね提督」

 

「おお~ それが鎧武者かぁ、カッコイイね~」

 

「……」

 

 

 夕張の言う松風の再テストの為またしても鎧甲冑の吉野、何故かキラを付けてそれを見る川内。

 

 この瞬間吉野は一部ブルネイの艦娘には鎧甲冑がデフォの芋ジャージに白帽子というちょっとした変人として認識される事となった。

 

 場所は吉野達が最初に現れた波止場、周りに障害物は無く、海にプカプカと浮かぶ松風は前に見た状態より少し細部が違うものの、相変わらずフロントノーズにはブリキ然としたお馬さんの頭が、そしてシートが何故かシングル仕様になっていた。

 

 

「こちらの明石さんと妖精さんの協力の下、新たに生まれ変わったこの松風Mk-Ⅱ、前回の失敗を踏まえて色々改装してますので安心しt」

 

「おいユウバリンコ」

 

「ユウバリンコって……何ですか提督?」

 

 

 松風Mk-Ⅱに跨りハンドルの左側をビシリと指差す鎧武者、そこには前には存在しなかったデンジャーボタンが新たに取り付けられている。

 

 それはやはり少し親指をずらせば届く危険な位置に設置されており、右の赤いボタンと色形は同じだが、何故か"魂"という文字が刻印されていた。

 

 何故虎縞の危険柄に囲まれたボタンに魂の文字が刻まれているのか、それを押すのに魂を込めろという事なのか、それとも押す事によって魂がどうにかなるという意味なのだろうか? どちらにしてもメロンテクノロジーにブルネイ明石の技術が詰まった松風Mk-Ⅱ 普通では無い予感がそのボタンからは漂っていた。

 

 

「この松風はお判りの事と思いますが緊急脱出艇です、そしてそのボタンなんですけど脱出した際、周りの護衛の艦娘に提督の無事を知らせ、同時に戦意を高揚させる為の仕掛けを作動させる為の物になります」

 

 

 緊急脱出艇に何故ニトロなのか、そしてお馬さんはどうにかならないのかと吉野は思ったが、まぁ脱出後の安否を知らせる機能は必要だろう、うぬぼれでなければそれだけである程度の戦意高揚にはなると思うが、更にそれ以上の効果がその機能に内包されているなら成る程それは有効かも知れない。

 

 しかし、何故その起動ボタンがデンジャーカラーに縁取られているのか、どうしてタマスィの文字が刻まれているのか。

 

 

「一応その装備は20ノット以上の航行速度で作動させると船体のバランスを崩してしまって危険なので注意して下さいね」

 

 

 緊急的に脱出するというのに20ノット以上で作動させると転覆するという戦意高揚を目的とした装備、既に色々破綻しているのでは無いだろうかと思わなくも無いが、試作品だからと言われれば仕方ない。

 

 

「今回のテストが良好なら更なる改装を試して実戦投入しようと思ってます」

 

「更なるて…… これ以上ハンドルに変なボタン増えると操船もままならなくなるんだけど?」

 

「あー、そうですね、じゃZ案を試す時はボタンじゃなくてレバーとかにしましょうか……」

 

「Z?」

 

「ええ、船体を変形させて安定した速度増を目指す松風Z、そして耐ビームコートを施した軽量型の松風百式とか」

 

「何で変形するの!? てか耐ビームコートって何!? 深海棲艦ってビーム兵器なんて使わないよね?! 金色なの? 黄金のお馬さんになっちゃうのコレ!?」

 

 

 地を駆けたHONDA CBX1000は海を駆けるお馬さんになり、Mk-Ⅱに改装された後軽量化して金ピカになった後は変形してぶっ飛ぶZとして生まれ変わる構想が持ち上がっていた。

 

 むしろ改装案を精査すると、目的の為の改装では無く、耐ビームコートという金ピカ塗装の事を考慮すると明らかに手段の為に目的が設定されているのは正にメロンクオリティと言わざるを得ない。

 

 思わず突っ込みを入れた際、誤ってハンドルに設置された魂ボタンに手が掛かってしまうのはボタンの位置があざとい為か、それとも運命の悪戯なのか。

 

 

 カチリとボタンが押し込まれるとシングルシート後方のカバーが爆発ボルトによってはじけ飛び、振り出し竿の如き棒がジャキンと延びるとバサリと布が展開。

 

 ボオオ~という法螺貝(ほらがい)の音に呆然としそれを見ると、漆黒の布に赤で染め抜かれた『天下布武』の四文字。

 

 

 判りやすく状況を説明すると、黒い鎧甲冑の男が黒いお馬さんの船首像(フィギュアヘッド)が付いた松風Mk-Ⅱに跨り天下布武と書かれた陣旗をはためかせつつボオオーと法螺貝(ほらがい)の音を鳴り響かせて波止場でプカプカしているという状況である。

 

 

「ねぇ…… 何で天下布武なの? ノブさんなの? 天下取っちゃうの?」

 

「やはり提督と言えば艦隊の総大将、それくらいの気概が無いと勤まらないと思いまして」

 

 

 緊急的に脱出した際、この旗を展開してボオオーっとかやれば確かに目立つ事は請け合いである、安否も一発で確認される事だろう。

 

 しかしこれ(緊急脱出艇)に跨ってる時点で敗走中なのは間違いは無く、そこで天下布武はおかしくもあり、また注目度満点なのは艦娘からだけでは無く深海棲艦からもだという事を考えないのはメロン子独自の感性なのか、それともついうっかりなのか。

 

 

 暫し後、法螺貝(ほらがい)のボーボー鳴り響く音に何事かと波止場に集まった艦娘の輪が出来上がり、その中心には漆黒の鎧武者に生尻をペシペシされる夕張がキャーキャー泣き叫ぶというカオスな世界が展開されていたという。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「うぅ…… もうお嫁に行けない……」

 

 

 涙目で尻を押さえつつよろよろ歩く夕張、外は日が傾き宵闇が迫る空が広がっている。

 

 そしてその色が歩く廊下に差し込み全てを茜色に染め上げている、芋ジャージに白い帽子の吉野が見る夕張の顔が赤く見えるのは、単に外からの光を受けただけでは無いだろうがその辺りは自業自得である。

 

 

「君が嫁に行く前にこのままだと自分があの世に逝く方が早い気ががするんですけどっ!」

 

 

 慣れない白い帽子を直しつつ、長く伸びる影の先を見ると一人の少女の姿が見える。

 

 青い襟が目立つ純白のセーラー上下、青いリボンをあしらった白い軍帽からは赤いリボンで短く左右に纏めた栗色の髪が見える、年の頃で言うと15~16歳だろうか? その少女はクリクリした大きな瞳でこちらを見つめニコリと微笑んでいる。

 

 軍事施設であり、艦娘という存在が闊歩する世界では特段珍しい存在には見えないが、その見た目は吉野が知る艦娘には該当する者が無く、もしかして自分の世界には居ない類の艦種なのかと思い思わずその姿を凝視する。

 

 

「こんばんは、吉野中佐」

 

「あ、どうも」

 

 

 ペコリとお辞儀する少女に挨拶を返す、自分の事を知っているという事はやはり関係者なのかなと川内に聞こうとするも何故かその姿は見当たらない。

 

 それだけで無く、今の今まで尻を押さえうんうん唸っていた夕張さえも忽然と姿を消していた。

 

 そして視線を巡らせると、自分が立つ廊下の前も後ろも果てしなく長く、夕日に染まるそこは先が見えない程真っ直ぐに続いている。

 

 

「成る程、夢か」

 

「何か凄く冷静ですね、まぁその方がお話し易くて助かるんですけど…… えっと、先に言っておきますとこれは夢じゃないですからね?」

 

 

 眉根を寄せて窓の外を見る、そこには鎮守府施設の数々と遠くに海が見えるはずだが、目の前に広がる光景は何故か海だけ、それ以外の物は見当たらない。

 

 ふぅと溜息を吐きつつ頬をつねってみる、痛い。

 

 

「あ~ まさか白昼夢ってヤツを体験する事になるとは、もしかして松風から転げ落ちたとか海で溺れてる最中とか……」

 

「いやいやいや、そーじゃなくてですねぇ、ちょっと色々ありまして、今吉野さんには私の用意したプライベート空間にお越し頂いてるんですけどぉ」

 

「プライベード空間て…… 廊下が?」

 

「んっと、吉野さんが歩いてた廊下とこっちを繋げた時違和感無いようにって用意したら廊下になっちゃいました」

 

 

 アハハーと笑う少女、言っている意味が全然判らない、むしろ話をいぶかしむ間に今が夢の類で無いならどういった状況なのか頭の中をフル回転させて考えてみる。

 

 

「あ、色々考えてらっしゃいますが答えは出ないと思います、それよりも先にですね、吉野さんにはお詫びしないといけない事がありまして~」

 

「お詫び?」

 

「はい、この度は真に申し訳ありませんでしたぁぁぁ~~!」

 

 

 侘びの言葉と共にジャンピング投身、そしてそのままボフンという音と共にうつ伏せで廊下に転がる少女、音からしてこの廊下の床は布かマット的な物で出来てるのかとも思ったが、足の踏み応えは硬く今聞こえた音とはどうも合致しない、色々と混乱する様な状況の上目の前にはうつ伏せで倒れこんでいる少女、スカートめくれ上がってパンツ見えてますよもしかして吹雪さんリスペクトしてるの? と吉野は色々混乱していた。

 

 

「えっと、何してるデスカ?」

 

「はい、土下座の最上位形態の寝下座でお詫びの姿勢を示そうかと」

 

「ソウデスカ、て言うかパンツ見えてます」

 

 

 キャーキャーと悲鳴を上げながら飛び上がり、寝下座を解除する少女、どうやらパンツを見せる事でキャラ立てしている吹雪さんとは違い羞恥心は存在しているようだ。

 

 

 スカートの裾を押さえ少女は暫くうーうー唸っていたが、やがて落ち着いたのかキッと涙目でこちらを睨みつつ『忘れて下さい、て言うか忘れるからいいか』等意味不明な独り言を呟き始めた。

 

 

「んで、これが夢じゃないなら何なのか聞きたいんですけど……」

 

「んっと先ず今の状況ですが、吉野さんは現在元居た吉野さんの世界と、さっきまで居た世界とは違う別の場所に居ます、まぁ言ってしまえばどこの世界でも無い場所とでも言いますか…… その辺り説明は難しいですし、どうせ忘れちゃう事なので説明は省かせて貰いますね」

 

「はい?」

 

 

 色々と言っている事がおかしい、話の筋道も常識も何も無い、考える切っ掛けを探すのも困難な会話に首を捻る事しか出来ず、どうしたモンかと思案する吉野の視界に在り得ない光景が浮かぶ。

 

 窓の外、さっきまでは大海原が広がってたそこには、何故かノッペリとした猫の様な生物が何匹もふよふよと宙を漂っていた。

 

 白いのやらブチやらグレーやら、色とりどりのネコっぽい何かが何匹も浮いているカオスな風景、そんな光景を見る少女は苦い顔をして頬をポリポリと指で掻いていた。

 

 

「あちゃ~ またエラーかぁ、やっぱイベント中は安定しないなぁ」

 

「エラー? イベント?」

 

「はい、現在恒例の夏イベントを開催してる最中で、今回は中規模だったから安心してたんですけどお盆と重なったせいかなぁ、色々安定しないんですよね~」

 

「ん…… んんん?」

 

「で、色々メンテとかやってた時におっきなエラーを発見したんで確認しに来たんですけど、エラー元に居るはずの無い人が別の世界から紛れ混んでて、しかもそこの世界の常識を揺るがす重大な情報をもたらした為にエラーが増大しちゃって…… まぁお陰で原因の特定が容易だったんですけど」

 

 

 やはりこれは夢か? そう考えを纏めようとしていた吉野の足元には床から半分生えたノッペリネコがペシペシと足にネコパンチをしている。

 

 やたらリアルで何故か胃がキリキリ痛む。

 

 

「たま~にこんな事はあるんですが、大抵は小さなエラーなんでそのまま放置されてアプデの時元に戻るんですよ、でも今回は吉野さんが別世界に持ち込んだ情報がその世界を改変する程の大きな物だったので修正対象になりまして」

 

「え~っと良く判らないんだけど、結果としてどうなるの?」

 

「はい、吉野さんはこのまま元の世界に戻って頂きます、それとこれはあくまでエラー対策の元データを利用した復旧になりますから、ここ数日の事は記憶には残りませんので御理解下さいね、後今回は色々と御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 

「はぁ、えっと…… んん?」

 

 

 モフモフと、どんどんのっぺりネコに囲まれながら更に首を傾げる吉野の目の前では、そろそろ処理しないとエラーに飲み込まれますからこれにて~ と少女がペコリと頭を下げる。

 

 次に少女が頭を上げ手を振りニコリと微笑むと、色が抜けるかの様に周りの景色が掠れていき、白一色に染まってゆく。

 

 

 

 

『通信エラーが発生した為、お手数ですが第二特務課秘密基地前より人生の再開をお願い致します』

 

 

 

 

そうして吉野の意識は白一色に飲み込まれ、全てが空っぽになっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 夕焼けに染まる茜色の空、波の音。

 

 目の前に映るはお馬さんの頭っぽい何かとバタバタという何かが風にはためく音。

 

 後ろを向けばしがみ付き放心した夕張の顔と、黒地に赤で染め抜かれ、風に(なび)く天下布武の陣旗。

 

 

「……メロン子」

 

「何です?」

 

「なんでノブさんな訳? 天下統一しちゃうの? ねぇ!?」

 

「知りませんよ、何でこんな旗おっ立ててるんですか提督」

 

「てか提督がこんな工作出来る訳ナイデショ!?」

 

「知りませんよ私こんなの装備させた覚えないですし!!」

 

 

 大本営第二特務課秘密基地前埠頭では、鎧武者とメロン子が黒い松風Mk-Ⅱの上でギャンギャン言い争っている。

 

 それを遠くの海の上で溜息を吐きながら確認した白いセーラーの少女が、ネコっぽい謎生物を引き摺りながら、どこから現れたのか空中に出現したドアを開けて白い世界へと消えていく。

 

 

 

 そして同時刻、どこかの世界のブルネイ泊地。

 

 いつもの様にBar Admiralでは、マスター金城が今晩も艦娘をもてなす為の仕込みをしつつ、カウンターでわーわー騒ぐピンクを尻目に苦い顔をしていた。

 

 

「も~ 提督聞いてます? 凄いんですよこの筆記用具」

 

「おいおいこっちは訳の判んねぇ寝不足と格闘しつつ仕込みしてるってのに、何だその鉛筆がどうたらとか」

 

「大和さんが踏んでも壊れない筆箱と大型バルジも貫通するHB鉛筆です! ホラ! コレ見て下さいって!」

 

「あん?…… てめぇこれ明石酒保ってロゴ入ってるじゃねーか! またこんな訳わかんねぇモン造りやがってぇぇ!」

 

「え!? 違いますよ提督! これはいつの間にか工廠にあってですね……」

 

「んなトンデモなブツ沸いて出るワケねぇだろ! これ作るのに一体幾ら予算無駄につぎ込んだんだ!」

 

「ええ~ 誤解ですぅぅ」

 

 

 

 

 

 こうして夏の風物詩、ある意味提督達の祭りの時に起こった些細なエラーは本来交じり合う筈の無い世界と人々を邂逅させるも、その世界の(ことわり)を変える可能性を孕んでいた為修正され、全ては無かった物語として消えていった。

 

 

 ほんの少しの置き土産と、天下布武の陣旗のはためく音を残して。

 

 

 




 色々時間が掛かってしまいましたが(出来は兎も角)とりあえず終了で御座います。

 企画に後から参加表明したにも関わらず快諾して下さいましたごません様有難う御座いました。

 書くのは難しい反面、色々考える事もあり楽しかった部分が大きかったです、この辺りの感謝とお礼含め、諸々は長くなりそうなのでこの後活動報告にでも書きたいと思いますが取敢えず拙作でのコラボのお話は終了です。

 何かまた諸々のツッコミや誤字脱字報告ありましたら、お手数では御座いますがお知らせ下さいませ。

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