大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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前回までのあらすじ

 大鳳さんナンデ瑞雲投げてるん?


 それでは何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/09/10
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、MWKURAYUKI様、有難う御座います、大変助かりました。



集う海の覇者達

「敵影確認…… ふふっ、先陣は我々の物だな、では……往こうか!」

 

 

 口角を上げ呟き、艤装に載った41cm連装砲を軽く叩くと、第二特務課艦隊旗艦長門は敵影が見えた方角に向けて海を蹴る。

 

 ベンガル湾南東、北センチネル島沖にて展開中の第二特務課艦隊はリンガ泊地へ侵攻すると思われる戦艦棲姫を擁する艦隊を捉えていた。

 

 確認出来たその数は12、恐らく報告にあった姫艦隊ともう一艦隊が随伴していると思われる。

 

 

 更にその艦隊から真南、南センチネル島付近に展開していた大本営第一艦隊は、北の第二特務課艦隊が応戦しようとしていたのとは別の艦隊を確認していた。

 

 位置的にそれは北センチネル島より西から侵攻して来る物であり、放置すれば第二特務課艦隊は挟み撃ちの形になる。

 

 

「こちら第二艦隊(・・・・)旗艦武蔵、別口の客人が来たようだ、人修羅よ……そっちは任せて良いか?」

 

『千客万来だな、武蔵旅館女将のお持て成しテクニック、じっくり拝ませて貰おうとするか』

 

「ぬかせっ」

 

 

 北センチネル島を中心に北西と西で戦場が二つに分かれる、どちらも等しく数は二倍、内第二特務課艦隊が相手にするのは姫級二体を含む連合艦隊、数も質に於いても絶望的な差がある。

 

 飛翔する砲弾の数は元より、吹き上がる水柱の高さも規格外、それでも進む艦娘達の表情には恐怖の色は微塵も無く、睨む双眸からは逆に狂喜を湛えた光が滲んでいた。

 

 

 第二特務課艦隊に所属する艦娘は各地より集められた"変わり者"達である。

 

 そしてどの艦娘も前線では突出した戦果を挙げ、長らく軍内部でも選りすぐりと言われた大本営の艦隊に席を置いた経験がある者が殆どであった。

 

 

 同海域で攻略に当たっているリンガ泊地の艦隊も猛者と称される者が殆どであったが、今北センチネル島周辺に展開している艦娘はある意味今の軍の中でも最強の者が集っていると言っても過言では無い。

 

 

 姫艦隊の前に展開する深海棲艦は重巡ネ級2に軽巡ツ級、雷巡チ級と輸送ワ級2、何れも(まなこ)から不気味な燐光を滲ませていた。

 

 複縦に組まれた陣形の先頭、己よりも小型とはいえeliteクラスの集団に物ともせず榛名が切り込み接近戦を試みる、普通艦隊戦と言えば序盤は砲撃で様子を見ながら相手の戦力を削っていくものだが、51連装砲を担いだこの高速戦艦にはそんなセオリー等は通用しない。

 

 むしろセオリーに反する事で相手の砲撃を無力化し、文字通り接敵する事で敵を叩き潰す。

 

 陣形を崩された艦隊の内先頭を走っていたネ級一体を標的とし、艤装先端を叩き込んでそれを吹き飛ばしながら、もう片割れを裏拳で殴り飛ばす。

 

 

「おいおい何だアレ20mは吹っ飛んでったぞ、アイツ無茶苦茶だな」

 

 

 凄まじい勢いで海面を平行に吹き飛んだネ級はそのままバウンドする様に跳ね、それが停止した後には手足があらぬ方向に捻じ曲がった何かがそこに浮いているという凄まじい惨状が展開されている。

 

 摩耶の様に色々な戦場を渡り歩いた猛者でもいきなり格闘戦を始める艦娘は見た事は無く、またそれで敵が一撃で轟沈する様は始めて見るという異常事態に驚愕の相を表に貼り付けていた。

 

 そして長門はその榛名を狙える位置にいる深海棲艦を牽制しつつ付近をつるべ撃ちにし、水の壁を作り出しながら後方の姫艦隊の目を眩ませていた。

 

 

「アレの"ラムアタック"は特別だ、艤装先端には陸奥鉄が張り付いてるから勢いがそのまま突き刺さる、近寄ると巻き込まれるから別の獲物を探すか援護に徹するのが吉だな」

 

 

 榛名は強さを求めた結果装備の性能が突進力と火力に偏重するという特化型の兵装で身を固めてはいたが、それを成り立たせるには致命的な弱点があった。

 

 金剛型は他の戦艦よりは高速で航行が可能だが、その代わりに耐久が無い、攻撃の際必要になる速度は出せても衝突時に発生する衝撃エネルギーの幾らかはダメージとして自身に返り、その分相手に対する攻撃力が目減りする。

 

 構造的ビハインドは努力では埋められず、それでも戦い方を変えない彼女に待つ先は自壊からの轟沈という避けられない未来が待ち受けていた。

 

 

 そんな榛名をサポートするべく吉野は残された少ない陸奥鉄の大半を夕張に預け、生み出されたのは艤装のシールドアーム先端を陸奥鉄で固めた簡易衝角であった。

 

 それはごく僅かの範囲しかカバー出来なかったが、そこに当てられる技量があるなら絶大な威力を発揮する。

 

 こうして第二特務課の戦艦榛名は求めた力を得て他の艦娘には無い唯一無二の力を手に入れた。

 

 

 開幕いきなり重巡二隻が仕留められた為前に出ていた艦隊は総崩れとなるが、散った事により距離が開いた隙を狙ってチ級が撒いた魚雷が扇状の航跡を引きつつ広がっていく。

 

 加えてやや後方より砲撃に徹していた姫艦隊が徐々に間合いを詰める素振りを見せ、戦いは混戦に突入する形になった。

 

 

「そろそろ頃合だな、龍鳳よ、後方の本命に艦攻をぶつけてやれ、陽炎は加賀と龍鳳の護衛、私と摩耶は前に出る」

 

「了解、じゃ本隊(・・)もそろそろ出て貰うようにこっちから連絡を入れておくわ」

 

「頼んだ」

 

 

 長門と摩耶は左右に広がる様にして前進、その後ろからは龍鳳が放った流星改が翼端から白い帯を引きながら超低空で飛んでいく。

 

 敵の艦隊には空母系の深海棲艦は見当たらないがその代わりに姫級、それも二体が存在する、その一撃は当たり所が悪ければ長門でさえ大破はおろか轟沈する可能性がある程の打撃力があり、更にその打たれ強さも他の深海棲艦とは比較にならない。

 

 前に展開していた艦隊も弱いとまでは言わないが重巡を無力化してしまえば後は加賀の航空兵力で黙らせる事は出来る。

 

 

 チ級が放つ一斉射をかわしながら陽炎が脇をすり抜ける、そしてそれに気を取られた隙に空からの牙がその身に突き刺さり、爆煙を上げ膝をついたそこには更なる爆撃と、陽炎が放つ魚雷により身を横たえる間もなくそこから体が消え去った。

 

 

「自分でやっといて何だけど、ちょっとオーバーキルだったかな…… グロぃぃ」

 

 

 顔を顰めた陽炎は加賀と龍鳳護衛の為に付近に居る敵を牽制しつつ(はし)り回る。

 

 持ち前の運動能力を目一杯に発揮し残り三隻は翻弄された状態で混乱の極みにあった。

 

 

 こうして緒戦は一方的な蹂躙で始まった戦いだったがこれからが本番であり、彼女達の見る先には巨大な異形を従えた女王が二人待ち構えている。

 

 

「こちら加賀、姫級率いる艦隊を引きずり出したわ、そろそろそっちも出て貰えるかしら」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「加賀さんより通信入りました、姫艦隊と会敵したようです」

 

「了解、それじゃウチの姫さん達にも抜錨して貰って母艦も少し前に出そうか」

 

 

 黒いいつもの耐爆スーツに身を包んだ吉野がいつに無く真面目な相でマイクを掴む。

 

 北センチネル島裏に待機していた轟天号艦内にサイレンの音が響き渡り後部出撃ハッチが開いていく。

 

 

「こちら吉野、朔夜君前衛艦隊が赤絨毯を敷き終えたようだ、そろそろパーティ会場へ出ても良さそうだよ?」

 

『待ってたわ、こっちもガラスの靴を履いたまま待ちぼうけは飽きた処だったのよ、それで? テイトクはどこまでエスコートしてくれるのかしら?』

 

「んー……残念ながらパーティの招待状はこっちに送られて来なかったから、相手さんの手前50海里の辺りまで突出して待機かな」

 

『まぁカボチャの馬車に乗ったまま会場入りなんて出来ないものね』

 

「だねぇ、君達がお土産を持って帰って来るまで申し訳ないけど外で待たせて貰うよ」

 

『りょーかい、それじゃ私達はパーティを楽しんで来るわ、帰りのお迎えは熱い抱擁を期待しているわね』

 

 

 苦笑いの吉野が見る外では投げキッスをしつつ凄まじい勢いで(はし)っていく朔夜(防空棲姫)と、諸手を挙げてスキップしつつそれに続く冬華(レ級)、それと何故か口を△の形にしジト目でこちらを見つつゆっくりと航行する(空母棲鬼)が見える。

 

 深海棲艦上位個体三人が抜錨する様はもう見慣れた物であったが、もしそれを知らない者がこれを見れば背を向けて逃げ出す光景だろう。

 

 

「碧ちゃんも轟天号前に展開完了との事です、第一艦隊が接敵した艦隊はどうやらこの海域を回遊している補給艦隊らしいですし、これなら今回は何とかなりそうですね」

 

「だといいんだけどねぇ、今戦闘している艦隊から聞いてる情報にはまだ"金色のヲ級"の情報が無いから……」

 

 

 このベンガル湾には戦艦棲姫が出現する前から海域のボス以外に恐れられてきた存在がいた。

 

 金色の燐光を纏い、ル級二体を従えたその空母は真の海域の主と呼ばれ、どこからともなく現れるその存在は海域攻略の為に進軍してきた多くの艦娘を海に沈めてきた。

 

 沈めた艦娘の数は海域ボスのタ級を遥かに超える神出鬼没な敵に当時の攻略艦隊は幾度となく煮え湯を飲まされ、海域攻略の中止の切っ掛けとなった忌まわしき存在であった。

 

 

「金のヲ級ですか、ここ最近話を聞いてないからどうなんでしょうね」

 

「再三に渡る攻撃でも姿を見せなかったから何とも言えないけど、今回は朔夜(防空棲姫)君達が出たからもしかしたらとは思ってるんだ」

 

「リンガ艦隊は現在ボスが居ると思われる海域の少し手前で防衛艦隊と会敵、今の処偵察時に確認されている敵以外の深海棲艦は確認されてないとの事です」

 

 

 夕張は操船しつつ器用に通信機を操作しながら他艦隊から入ってくる情報を逐一報告してくる。

 

 これまで数度に渡り攻勢をかけては撤退を繰り返し、そこから得た情報を元に艦隊の編成や作戦を練ってきた、もしそれまでと状況が変わらない物であったら今回の作戦は問題なく成功するだろう。

 

 しかし今まで猛威を振るっていた金オーラの深海棲艦が出てきた場合、それに備えて無理に第一艦隊を引っ張ってきた訳だがその戦力も別の敵を蹴散らす為に第二特務課艦隊とは合流出来ていない。

 

 これは果たして偶然なのか、それとも意図してそういう布陣で攻めて来た物なのか。

 

 

「もしもの場合は先に攻略艦隊が引いてくれないと孤立させちゃうからね、そう考えるとウチは結構危険な賭けをしちゃってるね」

 

 

 そう言いつつ吉野は座席脇に置いていたバックから兜然としたヘルメットを取り出し、それに通信用デバイスを差し込み頭に被った。

 

 

「それの出番が来なければいいんですけど……」

 

 

 ここ最近見慣れた吉野の格好を見てそれを作ったはずの夕張の表情が暗い物になる、自分の命一杯を詰め込んだ、それでも足りないかもしれない黒い鎧。

 

 本来人が来る筈のない海で、戦う事になるかも知れないその時を超える為に注ぎ込んだ全てが形になった物。

 

 

「もしもに備えて零号弾装填しといて貰えるかな、暖気しとかないとモーターの動きがぎこちないだろうしね」

 

 

 腕部にデバイス用端子を取り付け終わった鎧武者からくぐもった声が聞こえてくる、仮面に隠れた顔は夕張には見えないが、吉野がその装備を使う時が来ない事を願いつつ、甲板に備え付けられた単装砲に一発の砲弾を送り込む為のボタンを押し込んだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「駆逐艦はなんとかなったが流石に姫相手だと中々近付けんな、加賀と龍鳳の艦載機はどうだ?」

 

 

 派手な水柱が絶え間なく発生し、見える程の距離に居るはずの僚艦すら見えない状況で長門は回避に専念していた。

 

 元々破格の威力を持つ戦艦棲姫の砲撃は、その存在が二人になった上に重巡リ級が加わった為に砲撃の回転が加速し雨あられと砲弾が降り注ぐ地獄を作っていた。

 

 航空戦力で押し込み一定距離での戦いに収めてはいるが、三連装砲二門に加え12.5inch副砲が2セット、更に8inch三連装砲と6inch速射砲2セットの砲撃が図ったかの如く対空・砲撃と切り替わる為に航空機は()とされ、更に弾幕を張られれば狙い撃ちすら難しい状況。

 

 それだけなら多少強引な手ではあるが攻勢を掛ける手もあったが、それをする為に体勢を整えれば何故か(・・・)沸いてくる駆逐艦や補給艦が邪魔で出鼻を挫かれるという事が繰り返されていた。

 

 

「艦戦の損耗はそうでもないけど、艦攻と艦爆は残り五割を切ったわ」

 

「こっちの流星はそれほど()とされてはいませんが、弾薬残量が三割程しかありません」

 

 

 砲撃しつつ寄せてくる姫級戦艦二隻を押し留める為に無理をさせているせいか、上から攻める加賀の艦載機は対空砲射で損耗が増え、龍鳳の流星は砲弾が生み出す水柱に阻まれ近寄る事が出来ず遠距離からの雷撃を行うしか無く、それも余り有効打に結びついてはいなかった。

 

 母艦からは朔夜(防空棲姫)率いる深海勢が抜錨しており、そっちが到着したら一旦加賀と龍鳳を下げて母艦で補給をさせても良いが、それまで弾薬が持たなければ一旦戦線を下げる事でその時間を稼ぐしかなくなる。

 

 また吉野達が懸念していた様に"金色のヲ級"対策として摩耶は現在2号砲以外には12.7cm高角砲+高射装置を積めるだけ積んでいる状態であり、魚雷さえ外している関係上今は陽動以外の事が出来ず、戦艦棲姫相手には打撃力という面では一手足りないと言わざるを得ない。

 

 

 榛名が距離を詰める為に再び前に出ようと水柱を突っ切って(はし)り始めたその時、またしても前方で補給艦が浮上するのが確認された。

 

 長門の連装砲が障害物(補給艦)を即座に叩くが、一旦速度を落とさざるを得なかった榛名に砲弾の雨が降り注ぐ。

 

 夥しい数の水柱を振り切る様に全力で後退してくる榛名であるが、致命傷こそ負ってはいないが左側の砲塔からは薄い煙が上がっており、状態としては小破辺りのダメージを受けたようで被弾した辺りの生身にも少し赤い色が滲んでいる。

 

 

「おい長門」

 

「何だ?」

 

「中継筒のソナー、全然反応してねーみたいだ」

 

「……何だと?」

 

「イカれちまったのかナンかの妨害を受けてるのか判んねーんだけど、さっきから沸いてくるザコの反応をまったく拾ってねーんだ」

 

「随分派手に砲撃を食らっているから故障しても仕方が無いかも知れんが…… いや、まだ通信の中継は生きてるだけ良しと言う他はあるまい」

 

「と言うより榛名が出るタイミングに綺麗に合わせて浮上して来るって事は、戦艦棲姫がそういう指示を出してるって事なんでしょうか?」

 

 

 止血の為の傷バンを左の二の腕に貼り付けつつ、榛名は忌々しい表情のまま之の字背面航行で元居た辺りまで戻ってくる。

 

 これで都合4回、榛名の突貫に合わせ盾になるように感知されていない(・・・・・・・・)深海棲艦は浮上してきた、それはもう必然と言うべき状況であり、同時に第二特務課艦隊の周囲には複数の深海棲艦が潜航したまま待機しているという事になる。

 

 

『中々盛り上がっているようね、私達も混ぜて貰ってもいいかしら?』

 

 

 戦場で聞くには落ち着き過ぎでは無いかという程抑揚の無い声がイヤホンから聞こえると同時に、長門達の遥か頭上を赤いオーラを纏った艦爆が編隊を組んで通り過ぎる。

 

 艦影はまだ豆粒程にしか確認出来ないが、後方から来る殺気の固まりは紛れもなく深海組が到着した事を知らせる狼煙であった。

 

 彼女達が抜錨したと知らせを聞いてからの時間を考えれば到着は早くとも後10分は掛かるだろうと計算していた長門は呆れた相を表に貼り付けた、どれだけの速さで航行すればこの短時間でここまで辿り着くというのか。

 

 それは数度に渡り出撃してはいたものの、一度も抜錨する事なくずっとお預けを(・・・)食らっていた彼女達(深海組)の行き場の無い鬱憤が成した結果であろう事は誰もが理解している事ではあったが。

 

 

「いやに早かったな? すまんがこっちはまだ掃除が完全に終了していない状況だ」

 

『あらそうなの? でももう来ちゃったから仕方ないでしょー、なら周りのゴミもついでに掃除してメインディッシュを頂いちゃおうかしら?』

 

「それもいいんだがな、ちょっと問題がある」

 

『問題?』

 

 

 長門は確認されている姫艦隊の残りの編成と共に、先程からピンポイントで盾が沸いて出る状況を伝えると、合流後は前に出られる艦が増える為面制圧をしつつ前に出るか、(空母棲鬼)と加賀、そして龍鳳の航空戦力による空からの打撃を盾に砲撃戦で片をつけるかという考えていた攻め方の選択を朔夜(防空棲姫)に提案してみた。

 

 幾ら姫級二隻と言えど深海組が合流してしまえば戦力的な優位はこちらに傾く、幾らザコが浮上してきたとしても畳み掛ければそれを無視する事は可能だろうと長門は考えていた。

 

 

『……ピンポイントで下位個体が浮上してくる? なにそれ戦艦級が対空しながらそんなマルチな命令下せるなんておかしいわよ』

 

「どういう事だ?」

 

『下位個体の使役って割りと精神力を酷使するのよ、砲撃と対空を全力でやりつつ他の艦隊の指揮となると相当負担になるから、普通はその辺りマルチタスクに強い空母系を僚艦に入れてそっちにさせるのが普通、でもあの戦艦棲姫の艦隊には空母系の艦は居ないのよね?』

 

「ああ、残りは戦艦棲姫2と重巡2だな」

 

『じゃ他に下位個体に指示を出してるヤツが近くに居る可能性を考えた方が……』

 

 

 (空母棲鬼)の言葉が終わる前に戦艦棲姫に襲い掛かろうとしていた赤い艦爆に金色の矢が突き刺さった。

 

 それは一瞬で編隊を引き裂き、爆撃体勢に入ろうとしていた赤い一団はあっという間に散らされ、()とされていく。

 

 

『ちっ、ムカつく、やっぱり邪魔モンが他に居るわよ』

 

 

 第二特務課の左側、距離にして20海里程の水面(みなも)に金色に輝く何かが3つ浮上するのが見える。

 

 空母ヲ級一体に戦艦タ級二体、そのどれもが双眸から金色を滲ませて殺意を発している。

 

 

「あれは…… "金色のヲ級"か? こんな近くに潜伏していただと」

 

 

 眉を吊り上げ長門がヲ級を確認した瞬間、脇を猛然と抜ける風を肌に感じた、それは憤怒の表情を隠そうともせず猛然とヲ級へと(はし)る摩耶。

 

 まるで浮上してきた金色の深海棲艦の事以外目に入ってないかの如く最短距離を真っ直ぐ進む様は、誰から見ても無謀な行動としか思えなかった。

 

 

「摩耶! 何をしている戻れ!」

 

 

 長門の制止の言葉に返答はなく、後姿が徐々に遠ざかっていく。

 

 

「くそっ、あいつは何を考えているのだ! 加賀、すまんが私は摩耶を追う、こっちの指揮権を一時預けておくが構わんか?」

 

「構わないわ、ついでに陽炎も連れていきなさい、牽制無しであの三体に挑むのは無謀よ」

 

「……すまん、では往くぞ陽炎付いて来い!」

 

 

 突然の事態に激しく長門と自分を交互に指差し加賀を見る陽炎に対し、加賀がとてもいい笑顔のサムズアップで応対する。

 

 無言のそのやり取りにげんなりしつつも陽炎は苦い顔で踵を返し、世界のビッグセブンの背を追いかける。

 

 

「間宮の本練り(羊羹)、ゲットだぜ」

 

 

 真顔で口元の涎を手で拭うサイドポニーな演歌歌手の言葉を聞きつつ、目のハイライトを薄くした龍鳳が弾薬を補給した流星をハチャメチャになりつつある空に放つ。

 

 

 

 

 こうして膠着するかと思われた戦場は役者が出揃い、更に予定していなかったサプライズゲストの乱入によってさらに混迷を深めていく事になった。

 

 

 




 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 また、拙作に於ける裏の話、今後の展開等はこっそりと活動報告に記載しております、お暇な方はそちらも見て頂けたらと思います。


それではどうか宜しくお願い致します。

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