大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。



2017/12/03
 誤字脱字修正致しました。
 ご指摘頂きました坂下郁様、対艦ヘリ骸龍様、有難う御座います、大変助かりました。


金剛型三番艦
戦艦榛名、ダンボールで着任しました。


「高速戦艦榛名でーす、あなたが提督なのね?・・・・まあいっか、適当でも」

 

 

 色々駄目な台詞が混じった言葉をやる気無さ気に口から押し出しつつ、金剛型三番艦榛名はゆっくりとした動きで敬礼を取り着任の挨拶を済ます。

 

 

「うん?…… もっちー…… ああうん、あー…… え、どういう事なの?」

 

 

 困惑気味な着任挨拶が展開されているのは大本営執務棟二階、第二特務課の事務室である、時間は1050、因みに場所は事務室隅に設置されている応接コーナーだ。

 

 何故着任の挨拶が応接コーナーで行われているのかという理由はこれより約5分ほど前に遡る。

 

 

 その前にちょっと説明になるが、この第二特務課という部署に割り当てられている専用の設備は事務室だけではない。

 

 事務室に併設して課長私室、廊下を挟んで向かいが艦娘の為の私室が六つ、奥にはリビングと呼ばれるキッチンを備えた空間があり、最奥には浴場や洗面所等が配されていた。

 

 これらの施設が設置されたフロアを認証が必要な強固なドアを使って蓋をする事で、機密保持とプライベートを確保した一つの部署として運用している。

 

 この様に執務から私生活まで簡易ではあるが全て賄う事が出来る形に纏めたフロアを大本営内では【小さな鎮守府】と呼んでいる。

 

 大本営執務棟にはこの小さな鎮守府施設が各階2つ、2階から4階に計6つ設置され、現在第一艦隊から第四艦隊に各1つ、そしてそれに第二特務課を足した5つの部署に割り当てている。

 

 大本営には他に鎮守府棟というものが存在し、他の鎮守府同様の運営がされている、当初大本営直轄の艦隊もここに居を構えていた。

 

 しかし大本営直轄である第一艦隊から第四艦隊は軍を代表する強力な艦娘が集められた関係上固定メンバーで構成され基本入れ替わりが無い。

 

 更に各艦隊は大将以下大本営に所属する特定の将官の麾下に於いて任に就いている関係上非常に機密保持が高い環境が求められた。

 

 その結果鎮守府棟では他拠点と同じ周辺海域を防衛する通常艦隊を置き、大本営直轄艦隊はその拠点を執務棟に移す事になった。

 

 

 小さな鎮守府という特殊な施設が執務棟に入っているのはこの様な特殊な理由故の事である。

 

 

 その為生活と執務を同じ場所で行う第二特務課に新規着任する艦娘は、荷物をこの小さな鎮守府にある其々に割り当てられた私室に運び込む事になる。

 

 

 話を戻そう、0800、第二特務課施設に着任予定の榛名の荷物が運ばれて来た、雑務の妖精さんの手によって。

 

 普通引越し荷物等はパンダな業者かニャンコな業者が運んできそうなものだがそこは軍事施設、機密保持の関係上民間の手は入れられない、そこで荷物は軍直轄の運搬部隊が収拾・配達を行っている。

 

 

 次々と運び込まれるダンボール、横には【明石配送サービス】の文字がプリントされている、もはや名称が部隊のそれでは無い気がするがやっぱり明石か、そうか、明石か。

 

 先任の時雨が持ち込んだのはほんの手荷物程度だった事に比べ随分多く感じるが、艦娘と言えどそこは年頃の乙女、本来ならこの程度の量は当たり前なのだろう。

 

 

 1030、荷物の搬入が完了する、荷主である榛名の着任がまだなので吉野が受け取りのサインを伝票に書き込む、サインをしたのは軍書式の書類ではなく宅配伝票風な何かなのは気にしないでおこう、明石なのだからそれは仕方が無い。

 

 問題は運び込まれた荷物の多さでも、作業をしている妖精さんの格好が明らかに引越し業者風のユニホームなのでも無く、ましてや妖精さんが去り際に置いていった伝票控えと共に明石運輸という名前が入ったパンフレットが添えられていた事でもない。

 

 

 

 運ばれた荷物の中に一つだけ 【必着:特務二課吉野三郎様宛て】 と云う伝票が貼られた大きな荷物があった。

 

 

 

 やたらクソデカイく重量もそれなりにあった為、妖精さんにお願いして運んで貰う、割れ物注意の張り紙があったので床に直接置く訳にはいかない、仕方なく応接セットのソファーの上にそれは置かれた。

 

 とりあえず荷物搬入を見届け終了を確認後、事務室に戻りやれやれと応接セットのソファーに腰を下ろす、向かいのソファーの上には構成素材がダンボールで無ければ棺桶と言われても納得してしまいそうな物体が自己主張をしていた。

 

 何故だか物凄く中身を見るのが躊躇われる、自分宛のダンボールではあるが開けてもいいのだろうかというかぶっちゃけ開けたくない。

 

 虎柄のチャンチャンコを着た例の少年が 「父さん、妖気を感じます!」 という台詞と共に頭頂部の毛髪がピコーンとそそり立つ光景が思考の隅を掠める、何故だろうか。

 

 

「……」

 

 

 棺桶然をした物体を前にどうしたものかと考えていた処に、妖精を見送ったのであろう秘書艦時雨が事務室に入って来た。

 

 

「妖精さんの撤収は完了したよ、提督、お茶でも淹れようか?」

 

「お疲れ様時雨君、そうだねぇ一服入れようか」

 

 

 コクリと一度頷いた時雨は応接セット脇に設置された冷蔵庫からコーラの前を横切る冒険活劇飲料と、吉野の分であろう一部のユーザーに初見殺しと言われる飲料が入った赤いメタリックの缶を取り出す。

 

 茶を淹れると言いつつも冷蔵庫にある飲み物を出すのはどうだろうかと思われるだろうが、現在ここに居る二人の間では休憩時に供される飲み物は冷蔵庫の中で冷やされている特定のブツだというのは、ここ一週間の間に定着したお約束事なのである。

 

 

 吉野の視線は依然目の前に横たわるダンボールに注がれていた。

 

 開封の儀は送り主の到着まで先送りするという選択肢もあったが、謎のダンボールを眺めつつドクターペッパーを片手に過ごすという妙にシュールな光景が頭に浮かぶ。

 

 一度溜息を吐くと精神衛生上先に中身を確かめ荷物を片してしまった方がいいと判断し、意を決して立ち上がる。

 

 執務机のペン立てからカッターを持ち出すとダンボールに封をしているガムテープの部分に刃を差し込む。

 

 

 

 時間は1048。

 

 

 

 閉じられていたダンボールの蓋を開ける

 

 中身、金剛型戦艦三番艦高速戦艦榛名を確認。

 

 目が合う。

 

 暫し見詰め合う。

 

 一旦ダンボールの蓋を閉じる。

 

 

「……」

 

 

 再びダンボールの蓋を開けて中身の確認をしてみる。

 

 金剛型戦艦三番艦高速戦艦榛名を確認。

 

 再び目が合う。

 

 暫し見詰め合う。

 

 静かに蓋を閉じる。

 

 

 そのままテーブルに備え付けの電話を取る。

 

 

「あ~明石酒保? あ、妖精さん? 自分自分、え? 自分自分詐欺は巣にカエレ? いや何その新ジャンル!? じゃなくて第二特務の吉野だけど、うんうんその吉野、あのさ明石居る? え? 留守? どこ行ったの? うん、え? 明石連合決起集会? 明石の明石による明石の為の労働環境改善? え? なに労組なの? ゲティスバーグなの? うんうん…… あそう、そうなんだ…… へぇ~…… うん判った」

 

 

 電話を切ると同時にゴソゴソという音がダンボールから聞こえ蓋が開かれる。

 

 横たわるダンボールからムクリと上半身を起こした艦娘が吉野を見る、訳が判らない。

 

 因みに応接セット脇では時雨が冷蔵庫から取り出したブツを両手に持った状態で何とも言えない表情をして固まっている。

 

 妖精さんが置いていった吉野宛のダンボールの中身は第二特務課に配属になる二人目の艦娘、銘を金剛型三番艦高速戦艦榛名、ブイン基地より今日着任予定と聞いていた艦娘だ、全く以って意味が判らない。

 

 

 壁に掛けてある時計の針は1050を指し、カチコチと秒針が刻む音だけが静かに事務室を支配する。

 

 

 ダンボールから姿を現した榛名が気だるそうな仕草をしたかと思うと微かに息を吸う音がその場の空気動かす、かくしてその口からは吐息の変わりに着任の報告の為と思われる挨拶が吐き出されたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「さて、ウチでは着任時にある儀式を行う事になってるんだけど……」

 

 

 そう言う吉野の目の前には味付け海苔の缶が4つ、応接テーブルの上に逆さの状態で立てられている。

 

 向かいにはダンボールから這い出してきた榛名が、左隣には秘書艦時雨が座っている。

 

 

「特にこれといって特別な事しないんだけどね、まぁ色々一緒に仕事をしていく上でお互いの事を理解してないと色々とマズいし、急遽立ち上げになった課なもんだから自分の処には君達の情報詳細が無いんだよね。」

 

 

 そう吉野が言う横では時雨がテーブルの上に置いている缶の一つをスススス……と持ち上げる、中に見えるのはドクターペッパー、吉野が愛して止まない炭酸飲料だ。

 

 チラリと時雨は榛名の顔色を伺う。

 

 

「……」

 

 

 榛名の表情に変化無し、吉野に視線を移すとコクリと頷いたのでドクペの缶を吉野の前に移動させる。

 

 

「まぁそれで確認の為色々と聞かせて欲しいんだけど……」

 

 

 スススス…… と二つ目の味付け海苔の缶を時雨が持ち上げる、次に姿を現せたのはサスケ、時雨に与えるとキラが一つ付くというコーラの横を駆け抜ける冒険活劇飲料。

 

 先程と同じく榛名の様子を伺う。

 

 

「……」

 

 

 反応無し、サスケの缶は時雨の前に。

 

 

「早い話、面談的なものをしようかと思うんだな、うん。」

 

 

 三つ目の缶を静かに上げる、中から現れたのはメッコール、"結論は3本目からにしてほしい"というキャッチコピーが有名の麦茶in砂糖炭酸だ、因みに吉野は二本を飲み三本目は壁に叩き付けた覚えがある、一般人が結論を出すのに3本目は致死量と判断したからだ。

 

 榛名の表情に変化無し。

 

 時雨はメッコールの缶をテーブルの脇に移動した。

 

 

「まぁ面談といっても確認する事はそんなに無いから時間はそんなに掛からないと思う。」

 

 

 そう言うと最後の缶は位置的に時雨から遠かったので吉野が持ち上げる、中に鎮座するのはひやしあめの缶、一見するとそばつゆの缶に見間違えそうな風体をしているが中身はショウガと大量の水飴がぶち込まれただけの水という物だがシンプルながら殺傷力がバツグンの関西からの刺客。

 

 

「……」ピクリ

 

 

 ほんの僅かだが、榛名の眉根がピクリと動いた。

 

 

「え……うそん?」

 

 

 試しにひやしあめの缶をゆっくりと左右に移動してみる、榛名視線は依然缶を追っている、何という事だ、てっきりメッコールが本命だと思っていたのだが、何かの罰ゲーム用にと冷蔵庫にぶち込んでいた物に榛名が反応を示している。

 

 

「……粗茶ですが」

 

 

 そう言って榛名の前にひやしあめの缶を移動させる、無言だが榛名はその缶をじっと見つめている、眉根を寄せて。

 

 

「え? もしかしてHOT派なの!?」

 

 

 そう、このひやしあめ、夏はキンキンに冷やしてゴクゴクと飲む物らしいのだが、冬になると暖めてフーフーと啜る飲み物としても供される、その証拠に榛名から見た缶にはひやしあめと達筆な毛書体で文字が書かれているが、吉野側から見ると同じ書体であめゆと書かれた文字が確認出来るリバーシブル仕様、ひやしあめをHOTにするとあめゆという飲み物になる、関西圏では常識らしいが缶の表裏で名称が変わる商品というのはJARO的にアウトなのではと思うがまあいい、暖かい大量の水飴、際立つショウガのフレーバー、うん、テーブルをひっくり返したくなる。

 

 試しに缶を回してあめゆの方にチェンジしてみる、榛名の眉間の溝が更に深くなる。

 

 

「やっぱこっちなの?」

 

 

 再び缶を回してひやしあめの面を向ける、榛名の表情は相も変わらずひやしあめの缶を睨んだままだ、吉野は表裏どちらが正解なのか判らず頻繁にひやしあめの缶をくるくる回す。

 

 

「えっと、一体何をしているのかな?」

 

 

 時雨が首を傾げるのも無理は無い、端から見れば無意味にくるくる缶を回しているだけなのだから。

 

 しかしひやしあめ愛飲者とあめゆ愛飲者の間には千島・カムチャツカ海溝より深い溝が横たわる、そう、某きのこたけのこ戦争の様に、なまじ温度が違うが中身が同じという飲料故両派閥の言い合いはもはや同属嫌悪、相手を攻撃する内容は天に唾するかの如く自分にブーメランとして返ってくるのという悲劇の連鎖を生み出すのだ、遺恨の根は限りなく深い、そう、ニューヘブリデス海溝よりも、だからどうした。

 

 

「時雨君、人の生み出す負の連鎖はどこまで続くんだろうね……」

 

「提督が何を言ってるのかちょっと僕には判らないかな」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「あー、えっとそれじゃ改めて、面談いいかな?」

 

「……どうぞ」

 

「あ、うん、えーとじゃあ先ずこれなんだけど見て貰っていいかな?」

 

 

 そう言って吉野が差し出した紙は榛名の略歴が記載された書類、例の辞令と共に渡された書類の一枚だ。

 

 

「これは……」

 

「それは自分がこの課の辞令を受けた際一緒に受け取った一枚だね、それで大体君達の略歴とか諸々確認したんだけど、榛名君から見てその内容ってどうだろうか? 何か不足している部分とか間違った部分とかあれば教えて貰えると助かる。」

 

「略歴は…… はい、概ねこの通りです、提督はこの書類を見てどう思いましたか?」

 

「略歴を見てという事だよね? んー……」

 

「……」

 

 

 思案顔の吉野を榛名は凝視している、ここに来てから殆ど自発的な言葉を発しなかった榛名が始めて会話らしい受け答えをした。

 

 

「普通中央から徐々に前線へ転任していくのはこう言ってはナンだけど、戦力的な数合わせの交換の意味合いが強い、例えば戦力が高いと判断された艦娘を一人中央に召還する変わりに、総合的に釣り合いの取れる数の艦娘を前線に送るという形、数が欲しい前線と質を求める中央との利害が一致するパターンだね」

 

「はい」

 

「一体多数みたいなトレードが全てじゃないけど大抵はそんな形の移動に落ち着く、これは前線に行く程戦略的にベストじゃなくてベターという選択肢にならざるを得ないからね、一人の強力な艦娘より、そこそこ戦える艦娘が複数居る方が戦線を維持する上でより多い選択肢を取れる」

 

「その通りです」

 

「で、榛名君の略歴には転任時期とそこでの所属歴しか記載されてないからトレードなのかどうかは判らないけど、君は時間経過と共に最前線へ転任している…… これは転任を繰り返す艦娘に良く見られるありがちなパターンと言える」

 

「そうですね」

 

「今言った戦力的トレードでの転任は最前線へ行くに従って先ず支援艦隊や予備人員へ配置になる事が多い、どの拠点でも主力は大抵固定に近い状態だし、その場所で長期間戦っている艦娘が重用されているからだ、でも君はどの任地でもいきなり第一艦隊所属、それも旗艦を経験している、これは戦力として請われて転任した結果なんじゃないかと自分は思う」

 

「……」

 

「そして最後、君は自身の希望では無く中央からの召還で帰ってきた、これは自分が今言った事の裏付けになっていると思う、なので客観的に評価をするなら君の能力は一定水準以上…… それも大本営直轄の艦隊に配備される艦娘並みには高いんじゃないかなと思う」

 

 

 吉野はそう自分の考えを言うと、その答えが求められている物かどうかの確認の為榛名の返事を待つ…… が、いつまで経っても返事は無く、その代わりに手にした書類の装備欄の部分に何かを書き加え始める。

 

 

吉野 「ん?」

 

 

第一スロット : 試製51cm連装砲Al

第二スロット : 試製51cm連装砲Al

第三スロット : 一式徹甲弾HL

第四スロット : 一式徹甲弾APHE

 

 

 

「砲は試製51cm連装砲に高速自動装填装置を組み込んでて、通常では徹甲榴弾を、対空時には火薬増量弾を組み合わせて使っています」

 

「対空に徹甲弾使ってるの!? てかこのアルファベッド何!?」

 

「AlはAutoloader自動装填装置、HLはHot Load火薬増量弾、APHEはArmor Piercing High Explosive徹甲榴弾の略称です」

 

「あ……うん、徹甲弾マシマシなのね、何と言うかごはんにおかゆかけて食うみたいな? それどこの究極アンドロイドなの……」

 

「僕も今ごはん定食の歌を思い出したよ」

 

「時雨くんも大概マニアックだね…… ところで榛名君、対空射撃の場合徹甲榴弾だと貫通しちゃって面防御辛くない? 三式弾じゃない理由は?」

 

「三式弾を積むとスロット一つ埋まってしまって総合的な火力が低下してしまいます、対空射撃は…… 言葉では説明し難いので、出来れば実弾射撃が出来る場所で実際に見て頂く方が早いと思います」

 

「成程…… ちょっと射撃訓練施設の空きあるかどうか確認してみるから、とりあえずひやしあめでも飲んで待っててくれるかな?」

 

「……判りました」

 

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。

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