大本営第二特務課の日常   作:zero-45

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 手直し再掲載分です。

 何かご意見ご要望があればお気軽にどうぞ。


2016/07/23
 誤字脱字修正反映致しました。
 ご指摘頂きました様MWKURAYUKI、有難う御座います、大変助かりました。


主砲!砲撃開始!!

ジュルジルジルジル……

 

 

 事務室に何とも表現のし難い湿った音がする。

 

 音の元を確認すると金剛型三番艦榛名がひやしあめを啜っている、眉間に皺を寄せて。

 

 

「ヘーイサブロー、ヘーイヘーイ、紅茶は無いですカー?」

 

 

 榛名の隣では金剛型一番艦、ネームシップであり四姉妹の長女金剛が授業参観の時にアピールしまくる小学生宜しく右手を盛大に挙げ、紅茶を要求している。

 

 

 吉野は榛名の希望で実弾射撃が出来る施設の使用申請の為総務課の大淀の処まで赴き手続きを済まして来た、設備の整った総合演習場は生憎空きが無かったのだが、兵装調整用の試射場は昼から三時間程の空きがあったので一時間の枠を取っておいた。

 

 そして事務室に戻ると、丁度待機中の金剛が榛名に会いに来ていたと云った次第。

 

 

「紅茶です? えーと午後ティーか午後ティーならありますがどれにします?」

 

「それどっちも午後ティーでショ!? もっとちゃんとした紅茶はナイノ?」

 

「午後ティーをバカにする者は午後ティーで泣きを見るハメになるんですよ、主に那珂ちゃんにパシられる的な」

 

 

吉野は虚ろな目でノロノロと冷蔵庫の中から二本のペットボトルと缶飲料を取り出し、金剛の前に並べる。

 

 

「お好きなのをチョイスして下さい。」

 

「fm……ペットボトルのは紅茶みたいデスネー、後この缶の飲み物はナニ?」

 

「缶のはメッコールという麦茶系(謎)の清涼飲料水、後の二つはハニーレモンティーとアップルティーです、メッコールはお茶繋がりって事で」

 

「ちょっと待つネ、今(謎)って言わなかっタ? サブローは毒飲料フェチだからまた変なモノじゃないでショーネ?」

 

 

 

 金剛はジト目で吉野を睨むが、元々表情がコロコロ変わる上、基本陽気な性質で知られる金剛なのでどちらかと言うと子供が拗ねた様な印章を受ける。

 

 因みに金剛の怒りは三段階存在し、第一段階はカワイイ金剛、第二段階は激オコプンプン金剛。

 

 そして最終段階はブチ切れ金剛といい、怒りゲージがMAXになると顔が何故か劇画チックに変貌し、何処からともなく現れた建機に飛び乗り破壊の限りを尽くすというデストロイモードに突入する。

 

 

「ちゃんと一般の販路に乗って流通している飲み物ですって」

 

「……じゃこのアップルティーを頂くネ」

 

「ちなみにそれ等の正式名称はアップルティーソーダとハニーレモンスパークリングと言います」

 

「Hey!それどっちも炭酸ネ!! どうしてそんな偏ったラインナップしか置いてナイノ!?」

 

「ラベルにプリントされたクマの○゜ーさんがプリティですし、こだわり素材で作られてますって書いてますし、後炭酸だからですしおすし」

 

「ヤッパリ炭酸が決め手デスカ!?」

 

 

ジュルジルジルジル……

 

 

「あの……提督?」

 

「……何かな時雨君?」

 

「えっと、榛名さんに質問の続きしなくてもいいのかな?」

 

 

 時雨の視線は榛名に釘付けになっている、その榛名といえば唇を尖らせ、眉間に皺を寄せ、ショウガフレーバー溢れる飲み物を無言で啜っている。

 

 いや、ただ啜っているだけでは無く、何故かそこだけ夏イベントのE7甲ラストダンスちっくな空間が展開されている、今その辺りに突っ込みを入れると云うのはギミック解除無しで連合艦隊を投入する様な物だ。

 

 

「ああ質問ね、うん質問……うん」

 

 

 第一艦隊に大和型と装甲空母、支援には長門型にポイポイイタ艦をぶち込んで火力増し々の総力戦、、既にバケツは枯渇して資源はハゲ散らかしている、後は無い。

 

 夜戦最後に雪風カットイン、ハハハ勝ったと思ったらカスダメ、結果防空凄姫のHPは妖怪1残り、雪風…… 何故なんだ…… 何故いつもお前はここ一番で一撃大破やなんちゃってカットインなんだ……。

 

 

「しゃーなかったんや…… ギミック解除用の資源無かったんや…… アブゥのカットインは全部ダイソンに吸われてもーたんや……」

 

「oh……サブローの変なスイッチが入っちゃったネ、こうなったら暫く元に戻りませんカラ、ハルナ、シグシグ、少し早いですケドLunchにでも行きましょうか」

 

「はい、榛名は大丈夫です」

 

「え……いいのかな?」

 

「no problemネ、それじゃ行きましょう」

 

「ヤメテェェェ! 提督は自然回復教じゃないの! クの付く魔法のカードはらめぇぇぇ!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 兵装調整用試射場

 

 それは深海凄艦との戦いが始まる以前、まだ世界の海が通常艦艇で行き来出来た昔に基地設備として稼動していたドックを転用した施設の名称。

 

 艦娘用のそれとは違い、それまでの艦艇を扱うドックは水深が10m、幅30m、延長が150m程もあり、ドックゲートの開閉で海へと繋がる仕様上波の影響も調整可能という環境の為、各種艦娘の装備試験には当時うってつけの施設であった。

 

 現在そこは設備の老朽化や最新設備の整った専用施設が他に設置された為、主に出撃前に砲調整をしたり新装備の慣らしに使用される射撃場として利用されている。

 

 

 シューティングレンジには艦娘の体が固定し易い様調整式の固定台が幾つか設置されており、標的操作用のパネルらしき物がが併設されていた。

 

 固定台から先、海の方向へはスロープ状の傾斜が付いており、そのまま進水し水上射撃も出来る様になっている。

 

 

「はーい、お待たせ?兵装実験軽巡、夕張、新鋭艦に使う兵装は、私がきっちりチェックするからね!」

 

 

 明るいグリーンのツナギに身を包んだ艦娘、兵装開発部門所属にしてこの射撃場の責任者である夕張型一番艦夕張の声がシューティングレンジ奥の操作室からスピーカーを通して聞こえてくる。

 

 小部屋の上には様々な情報が表示されるワイヤーメッシュで保護された大型モニターが設置され、現在は夕張が入力したのであろう[v( ̄∇ ̄)]という顔文字が大きくモニターに表示されていた。

 

 

「どうもバリさん、今日はお世話になります」

 

 

 吉野は挨拶をしつつ首に装着している骨伝導マイクに手を添える、ここで主に使用されるのは艦娘の砲装備の為、試射場内では騒音で音声が掻き消されない様に声紋の振動を直接音声出力に変換する骨伝導マイクが使用されている。

 

 又、同様の理由に加え、鼓膜保護を兼ねた大型のヘッドホンを頭に装着した吉野は射撃レンジ脇、防弾アクリルで保護された射弾観測室からレンジ内に佇む榛名の様子を見ていた。

 

 

「Well……私達艦娘はこんな装備必要無いんですケド……」

 

「一応そういう規則らしいし、しょうがないんじゃないかな」

 

「シグシグは真面目ですネー」

 

 

 室内には午後からも予定が空いているのか、金剛も時雨と共に吉野と同じ装備を身に着けていた。

 

 

 その三人が見守る先、射撃位置を示すブイの傍らには榛名が目を閉じて佇み、瞑想にも似た雰囲気を漂わせながら静かに待機している。

 

 

 その身に纏う艤装には通常金剛型に搭載される35.6連装砲の代わりに試製51連装砲が載せられている、古に計画だけで終わった【超大和型】、大和型を越える大型戦艦の主砲として設計された物であり、現存する艦娘用装備中最大火力を誇る艦砲である。

 

 現存数は予備も含め4セット、その内装備として使用しているのは武蔵と榛名のみ、大和も当然搭載可能ではあったが、彼女は一撃の威力の為に立ち回りを制限されるこの砲は好まず、大和型最適装備とされる46三連装砲を好んで使用している。

 

 

 大和型一番艦をして立ち回りを制限されるというこの武装を背負ったその金剛型戦艦の姿は、見る者に対し【武蔵殺し】の二つ名を連想させるには充分な迫力を醸し出していた。

 

 

「いや~、ゴーイチ拝めるのなんて前に武蔵さんが試作品を持ち込んだ時以来だからテンション上がっちゃうわ~。」

 

「あ~、そう言やあの時バリさん担当でしたっけ?」

 

「そうそう…… って、ひっど~い、忘れてた? 三郎さんもあの時一緒してたでじゃない!」

 

 

 モニターの顔文字が【(#`・ω・´)プンスコ】に変わる。

 

 

「(#`・ω・´)プンスコ」

 

「(#`・ω・´)プンスコ」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書艦は、モニターの顔文字を真似て面白フェイスを披露していた。

 

 

「いやぁ、忘れてた訳じゃ無いんですけどねぇ、あの時はホラ、色々あってバタバタしてましたし」

 

「あ~…… 確かにアレは大変だったわ、うん、主に後始末的な意味で」

 

「(#`・ω・´)ネエネエ」

 

「(#`・ω・´)ナニナニ」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦、尚も面白フェイスで暇を潰している、ちょっとかわいいかも知れない。

 

 

「……あれ? 試作試験以来って…… 武蔵さんここには来ないんです?」

 

「来ないっていうか、アレ(試製51連装砲)、機密扱いだから触らせて貰えないのよね~、調整とか整備はアッチ(専属)の工廠担当なの」

 

「(#`・ω・´)ムシシナイデホシイカナ」

 

「(#`・ω・´)メヲハナサナイデッテイッタノニー」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦の面白フェイスは、どこまで続くのか、うんまぁ中々コミカルではある。

 

 

「今日は弄るのが目的じゃないですよ? 弄るのが目的じゃないですよ? 大切な事なので二回言いましたよ? OK?」

 

「OKOK! それじゃ確認するわね? 今日のメニューは主砲を用いた静止標的と動標的に対しての連続砲撃ね、標的はオーダーされた通り距離30,000m相当になる様サイズ調整しておいたわ、後はクレーを艦載機に見立てて対空射撃も行うって事でいいのかしら?」

 

「(#`・ω・´)コノボクヲココマデオイツメルトハネ」

 

「(#`・ω・´)コウチャガノミタイネー」

 

 

手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦はそろそろ焦れてきたようだ、正直ウザい。

 

 

「だそうだけど榛名君、それでいいかな?、それと他二名、出荷して欲しいの?」

 

「(´・ω・`)えー、僕は見学だから難しいことはわからないよ」

 

「(´・ω・`)扱いがぞんざいデース、あやまって?」

 

 

 手持ち無沙汰な金剛型長女と小さな秘書官艦は、どうやら出荷を免れたようだ。

 

 

 端でワイワイと騒がしい三人に榛名は特に興味を示した様子は無く、夕張に対して射撃標的の設定に間違いが無い事を伝える。

 

 程無く艤装から鈍い駆動音と共に振動が発生し、足元の海面に幾重にも波紋を描く。

 

 同時に砲塔基部から砲弾の装填音と思われる鈍い音が連続して響き、今迄鉄の塊だった物に暴力と云う名の生命が循環する。

 

 バラバラだった音が調和の取れた旋律に変わる時、艤装に引かれてか今まで力の無かった榛名の眼には闘志が宿り、巨大な砲塔を背負った【武蔵殺し】と云う名の獣が首をもたげ始める。

 

 

「いやぁ雰囲気がガラリと変わったねぇ、さっきまでやる気0な雰囲気プンプンだったけど」

 

「fm……ワタシの知ってるハルナは普段ニコニコしてていいコなんだケド、ちょっと前から何か様子がおかしいデース」

 

「え~…… もしかしてひやしあめが地雷だったのか…… やはりメッコールだったのか?…… まさかバニラコーラというダークホースの可能性が!?」

 

「いい加減毒飲料ネタから離れるネ……」

 

「サスケは毒なんかじゃないと思うんだけどな…… それより提督、榛名さんの主砲って51cm連装砲だよね?」

 

「だねぇ、色々イジっててワンオフっぽい感じになっちゃってる気がしなくもないけど」

 

「さっき夕張さんが武蔵さんの51cm連装砲は機密で触らせて貰えないって言ってた気がするんだけど、ここで使っても大丈夫なのかな?」

 

「あー……それねぇ」

 

 

 吉野は深く溜息を吐くと、やれやれといった仕草を見せつつ時雨の質問に答え始めた。

 

 

 

アレ(試製51連装砲)が機密ってより、大和型の存在自体が機密なんだよねぇ」

 

「えっ、存在が機密?」

 

「そう、昔々大和型が建造されて間もない頃の話、当時彼女達はその戦闘力と希少性から虎の子扱いされてたらしくてね、存在自体が機密扱い、運用もそれに添って行われてた」

 

「それって昔の事でしょ? 今は普通に皆知ってるよね?」

 

「だねぇ、一般人でさえ艦娘って言えば先ず大和型って言うんじゃないかな?」

 

「それで、何が機密になるのかな?」

 

「全部、名前も含めて、何もかも、トップシークレット(笑)」

 

 

 

 ネタ好きの酒豪二番艦の顔を思い浮かべ、吉野は苦笑いをしつつそう答える。

 

 

「……ごめん、ちょっと良く判らないかな?」

 

「Secretって言葉をSpecialと勘違いしてるアンポンタンが多いって事デース」

 

「正にソレ、ぶっちゃけ機密って扱いに特別な意味を感じてる権威主義者が上に幾らか居て、もう誰でも知ってる事を未だに機密っていう言葉で差別化を図ってるというバカらしい構図が今も展開されてます、はい」

 

「うわぁ……」

 

「その関係で第一艦隊の装備は今も機密扱いのままだから専属工廠から出すのはNG、でと、その点ウチは第一艦隊でも無いし、権威のケの字も無い新設だしぃ…… ね?」

 

「あー、うん、なんとなく判ったかな……」

 

「サブローがTopの時点で権威がヘソで湯を沸かしてダージリンを淹れるデース」

 

「ヒェー、金剛お姉さまの暖かいお言葉で涙がちょちょ切れそうですわ…… さてと、そろそろアッチも始まりそうな雰囲気だけど、バリさんそろそろスタートです?」

 

 

 その言葉への返答の変わりに大型モニターへ【(・д・)σ<Ready>】と文字が表示される。

 

 

「は~い、ドックゲート開放するわね~、実弾試射だからターゲットは施設外に出すわ、申請された時間帯は近隣海域に立ち入りの予定は無いけど、こっちのセンサーに感があったら中断の警報鳴らすから砲撃は即中止してね。」

 

 

 夕張のアナウンスが聞こえてくるのと同時に、ドックゲートの作動中を示すサイレンが鳴り響き、中と外との海水が混ざり合って僅かな渦を描き出す。

 

 注意隆起の為に赤色を振りまいていた回転灯が沈黙した瞬間 ──────

 

 

 一瞬の静寂

 

 

 ドカンと云う音と共に周囲へ襲い掛かる空気の壁、遮音壁と防弾アクリルで守られた空間でも外から叩き付けられる空気の奔流は射弾観測室を中身ごとシェイクする。

 

 予想以上の衝撃で体勢を崩してしまい、吉野の体は床に投げ出される。

 

 自分の体が重力に引かれ床と正対してると自覚した時は既に手遅れで、思わず腕で顔を庇ったが、その瞬間体が床とは反対に浮き上がる。

 

 

 引き寄せられる感覚に視線を巡らせると脇腹の辺りに時雨の顔が見える、どうやら体勢を崩した吉野を時雨が咄嗟に引き寄せて支えてくれた為、床にキスをすると云う粗相は回避出来た。

 

 

「ははっ…… これは……」

 

 

 連装砲から発生する衝撃波の大きさにも、大の大人がよろめく揺れの中でさえ平然と立つ事は愚か、自分を軽々と支える己よりも遙かに小さい少女の膂力にも二重の意味で驚き、自然と苦笑が口を吐いて出る。

 

 

「有難う時雨君、助かったよ。」

 

「やっと秘書艦らしい仕事ができたね。」

 

 

 周りを支配する轟音の中でするには穏やか過ぎる笑顔を浮かべた時雨は、吉野の腰に腕を回して体を支え直すと、砲撃を開始した榛名に視線を戻し、その様子に驚きの呟きを漏らす。

 

 

「凄いね、僕も長い間長門さん達みたいな戦艦と一緒の艦隊で戦ってたから41cm砲クラスの衝撃には慣れてたんだけど、あの砲は全然違うよ、もし僕が艦砲戦が出来る体だったとしても並んで行動は出来ないと思う。」

 

「そんなに?」

 

「うん、あれだと多分中型以下の随伴艦は近寄れないんじゃないかな、衝撃が大き過ぎて電探やソナーが使えなくなるだろうし、砲撃のコントロールにも影響が出ると思うよ。」

 

 

 時雨が感想を述べている間にも榛名の主砲からは膨大な運動エネルギーを乗せた弾頭が吐き出され続け、遙か遠くの水面に盛大な水柱を立たせている。

 

 暴力的なエネルギーは砲弾に乗るだけで無く、撃ち出した本人にも降り注ぎ、その身体を後方へと吹き飛ばそうと襲い掛かる。

 

 抗う為には踏み込むだけでは足りず、衝撃で波打つ水面には明らかに推進の為と思われる水流が不自然な弧を描いて渦巻いている。

 

 

「発砲する度に機関を前進させて勢いを相殺してるのか、とんでもないバランス感覚だねぇ……」

 

 

 手元にある端末には常にアラームが鳴り響く、そちらに視線を落とすと観測機器から入るスコアが砲撃の音と共に数を増やしていく。

 

 驚くべき事に、増え続ける文字の羅列は全て命中弾を指す"HIT"で統一され、表示が流れる速度は大型砲が撃ち出す結果にしては尋常な速度では無い。

 

 

 小口径砲並みの連射速度、夾叉すら出さずに全ての砲弾を的に叩き込む精度、相反する物理法則を力で捻じ伏せ尚衰える気配は見せない。

 

 

「これは……ちょっとしたホラーかも知れない」

 

「ハルナのやってる事はホラーでも何でも無いヨ、チョット無茶してるとは思いますけどネ」

 

「え~、結構とんでもない事しちゃってると思うんですけどねぇ」

 

「ン~…… ワタシ達姉妹は最初期に建造された戦艦デス、戦艦の中ではトテモLightなClassに入りマース」

 

 

 榛名の鬼気迫る砲撃とは裏腹に、いつもの調子を崩さず金剛が語りだす。

 

 

「ムサシやナガトみたいに頑丈じゃ無いですし、ヤマトやムツの様な高い攻撃力もナッシング、唯一のAdvantageは他のコ達より速く動ける事だけネ」

 

 

 静かに、淡々と語るその口調は目の前で繰り広げられる異常事態と相まって聞く者の興味を否応無しに掻き立てる。

 

 

「だから私達は戦う時そのAdvantageを生かして敵の砲弾を避け、相手の装甲の薄い部分にピンポイントで攻撃を当てマース」

 

「……ふむ?」

 

「知ってマスカ? 砲撃って狙って当てるだけの簡単なオシゴトですケド、狙うってprocessだけでも砲の角度、相対距離・速度、風向き、気温、地球の自転もゼンブ自分で考えて計算しないといけないノ」

 

「電子機器の能力が低かった時代の射撃計算ですか」

 

「Yes、ワタシ達は他のコ達みたいに足を止めて撃ち合う事は出来ないネ、火力も低目だから有効な攻撃を当てるchanceも少ないネ、だから砲撃管制はトッテモ大事、ワタシ達の戦い方はその計算が速くないと成り立たないネ」

 

 

 人差し指を立て、ここがポイントとばかりにその指をクルクル回し、金剛型の演算力を自慢気に説明したかと思うと、その指を口元に当て、何かを考えながら榛名の戦い方についての仮説を口にする。

 

 

「ハルナは多分、立ち回りや回避を最低限にして、持てるリソース全てを砲撃に注いでマース、あの精度は早い演算力を更に突き詰めた結果ネ、ワタシ達金剛型だからこそ出来る芸当デース」

 

「……じゃ金剛さんもアレ、やろうと思えば出来ると?」

 

「ムリ」

 

「今言った事全否定!? どうしたの金剛型!?」

 

「全部否定する気は無いネ、命中精度はもっと上げられますけど、回避を捨てて撃ち合うには火力が足りないネ、ハルナみたいに大きな主砲はそもそもワタシ達は積めないからダメネ」

 

「あー、フィット装備かぁ、すっかり忘れてましたよ」

 

「ソソソ、何故だか判らないけどハルナ以外のSistersは41cm以上の砲詰んでも妖精さんがオシゴトしてくれまセーン。」

 

「稀にアンフィットでも使える人は居るらしいけどね、それが有効かどうかは判らないけど」

 

 

 時雨が自身を指差しニッコリと微笑んだ、ここが実弾砲撃中の試射場で無ければ心がときめいていたかも知れない。

 

 しかし殴り付けられる様な衝撃の中、まともに立っていられず自分よりも小さな少女に支えられている現状では苦笑いしか出ない。

 

 

「そっかぁ~、時雨君が今使ってる装備もアンフィットって言えばアンフィットだよねぇ」

 

 

吉野の中で"アンフィット"と云う言葉にひっかかりを感じる、何か忘れている様な……。

 

 

「あーうん、ウチに着任予定の艦娘、殆どそうだわ……」

 

 

 着任予定の艦娘のデータを頭の中から引っ張り出す。

 

 合計6名、その内確実に装備が異質だと判明しているのは時雨、榛名、神通、これはアンフィットと云うより装備不可能な部類の装備を使用している。

 

 そして着任が流れた大鳳、空母では離発着不可能な水上偵察機を装備していた、出来ればどうやって運用しているのか見てみたくはあったが、この辺りを掘り下げると某師匠に瑞雲を使ったあんなプレイやこんなプレイを強要されるハメになりそうなので辞めておこう。

 

 後は妙高、全て謎過ぎる、まるで闇鍋の中にINしている巾着の様な物だ、とても嫌な予感がする、中身が餅のつもりで口に放り込んだらおはぎでした的な、餡子が余計だ、料理は足し算だと言うが何でも足せばいいというものでは無い。

 

 そしてぬいぬい、このメンツの中で唯一普通のプロフィールだった、この辺りもたった一人の例外として何かあるのではと考えずにはいられない、実はプロフィールには無い何かがあるのかも知れない、例えばコテコテの関西弁の使い手だとか、常時落ち度しか無い行動しか出来ないだとか、何それ恐ろし過ぎる。

 

 

「不知火や。ご指導ご鞭撻、よろしゅうな。 ……ふふふ割とアリかも知れない」

 

「何キモイ顔してブツブツ言ってるネ…… そろそろ対空射撃始まるヨ、目を離しちゃNoなんだからネ」

 

 

 最終的に集計されたスコアは水上標的に対する命中率97%、大型モニターに映し出されたスコアは訓練射撃と云う限られた条件下で行われた結果と云う事を差し引いても、異常な数値である事は間違いない。

 

 

 そして対空射撃の準備をする為、ほんの少しインターバルが入る、徹甲弾でどう対空戦を行うのだろうか?

 

 少し赤みを帯びた砲身から熱気を帯びた空気が立ち上り、榛名の姿をゆらゆら揺らす。

 

 大型モニターにはクレー射出装置の準備が整ったという事が表示され、それを知らせる為のブザーがシューティングレンジに鳴り響き、白い陶器の円盤が高速で射出され始めた ──────

 

 

 




 再掲載に伴いサブタイトルも変更しております。

 誤字脱字あるかも知れません、チェックはしていますが、もしその辺り確認された方は、お手数で無ければお知らせ下さい。

 どうか宜しくお願い致します。

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