IS 不死鳥の鳥瞰   作:koth3

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お久しぶりです。
なんとか書き上げたので投稿します。


解放された翼

 見渡す限り広がるのは白。浜辺の砂色も、海原の青も、視界にかすりもしない。さらにはあれほど感じられた潮の香りも、細波の音も聞こえない。

 五感を剥奪されたかのように何も感じ取れない。二十年近く生きてきて、初めての状況に、一夏はただ突っ立っていることしかできやなかった。

 だが、最初の衝撃が通り過ぎると、このまま立っているだけで良いのかと、胸の奥が徐々にざわめく。

 胸を焦がすざわめきに引っ張られ、恐る恐る一歩足を踏み出せば、地面は確かに存在しているらしく、前へ進むことができた。歩くことができるのならば、いつかは必ず何かに突き当たるはずだと信じ、足を動かす。

 しばらく歩くと、真っ白な世界に人影が見えた。自分以外に人がいたと駆け寄る。

 うつむいた女の子がいた。

 

「君は……?」

 

 誰何に反応し、女の子が顔を上げた。

 どこかで見たような気がし、一夏は小首をかしげた。

 

「貴方は力を欲しますか?」

「力?」

 

 普段ならば唐突な問いに答えることなどなかっただろう。しかし不思議なことに、なぜだか嘘偽りなく答えないといけない気がしてならなかった。

 

「いらない」

「どうしてですか? 力があれば、あのとき彼女を止められたかもしれないのに」

 

 確かにそうだ。もし一夏に力があれば、箒を止められたかもしれない。いや、それどころか、最初の接敵で銀の福音を倒しきることもできたかもしれない。

 だけれども、それに意味はない。すでに終わってしまったこと。

 何より。

 

「力だけあっても、傷つけることしかできやしない」

 

 力とは、本質的に何かを成すためのものだ。しかしそれだけでもある。力の方向性を決めるのは、感情・道徳だ。

 ようは力と心が両天秤で釣り合わないといけないのだ。どちらかに偏ってはいけない。力を欲することは悪くない。しかしだとしたら、それに見合うだけの心を手にしなければならない。それができなければ、待っているのはただの暴虐だけだ。

 そう、先の箒のように。そして、鈴音と戦いに乱入してきた正体不明のISを倒したときまでの一夏のように。

 

「だから俺は力だけを欲しない」

 

 その言葉に、少女は微笑みを浮かべた。

 

「貴方が初めてです。力を欲する人はいました。力を拒絶する人もいました。でも、力を肯定し、受け取らなかった人は。そんな貴方なら、きっと間違えないでしょう」

 

 少女が輝き出す。

 あまりの事態に、一夏はとっさに少女へ手を伸ばした。指先が少女の手に触れる。

 

「白式?」

 

 輝きに飲まれ、一夏は意識を失った。

 気がつけば、旅館にいた。周囲には医療器具らしきものが並んでいる。

 

「いかなきゃ」

 

 窓から飛び出ると同時、白式を展開する。

 その姿は今までと全く違った。全体の色合いは白のままだが、西洋の鎧を思わせた分厚い装甲は消え失せ、面頰を装着した鎧武者のような装甲へと変じている。また背中にあった大型スラスターはすべて消え失せ、全身の至る所に小型スラスターが無数に存在している。何より、一番の変化はその武器にある。

 雪片弐型は反りこそあったものの、機械式であり刀としては不要なものが多かった。だが今腰に佩いているのは、糸巻太刀拵の古風な、まさしく日本刀と呼ぶにふさわしいものだった。

 白式がセカンドシフトした新しい姿だ。その姿を一瞥した一夏は、風を置き去りにし、飛翔した。

 

 

 

「悪い、遅くなった」

 

 箒と福音との間に割って入る。

 シルバー・ベルを切り払った太刀を、血振りする。刀身は傷一つなく、清んだ輝きを発している。その輝きの中に、箒の姿が映る。鏡の中で、その顔がゆがむ。怒りでも、悲しみでもなく、ただ安堵から涙がこぼれ落ちていく。

 周囲に目をやる。激戦だったのだろう。皆の姿はボロボロだった。

 

「一夏!」

 

 その動作を隙と見たのだろう。銀の福音が引き金を引いた。

 迫り来るエネルギーの弾幕。降り注ぐ光を前に、一夏は一歩踏み出した。すぐに殺到する破壊の嵐。一度でも接触すれば致命を免れない篠突く雨をかいくぐっていく。

 今の一夏と白式は、かつてと違う。雪片弐型の力であった零落白夜は失われている。エネルギーを無効化するなどできやしない。だが、それがどうしたというのだ。斬るのにそんな力は不要だ。

 

「す、すごい! あの猛攻をかいくぐるなんて!」

 

 全身の小型スラスターが火を吹く。これまでの大型スラスターほどの巡航速度はでないが、その代わり小回りはもはや別格だ。各スラスターと一夏の体捌きで確実に攻撃をくぐり抜けていく。

 銀の福音も迎撃に撃ちまくる。だが、わずかずつ攻撃の合間が長引いてくる。

 放熱だ。光エネルギーを放つ銃身が、湯気を放ち始めている。安全装置が働きだしているのだろう。

 そしてそれだけの隙を見逃す一夏ではない。瞬時加速で間合いを詰める。

 

「崩し」

 

 銀の福音がとっさに腕をクロスして防御を行う。

 その腕に一撃が加えられる。いな、殴打が加えられる。柄頭による一撃。その衝撃で硬直した銀の福音には、その次の一撃を防ぐ手立てはない。

 

「エィャアアアアア!!」

 

 猿叫。一閃。

 そのまま防御を柄頭で引きずり下ろしながらの袈裟斬り。美事なまでの剛剣。一拍遅れて銀の福音の翼が切り落とされる。

 銀の福音の体勢が崩れる。推進力のバランスを欠いた機体は、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーをもってしても、錐揉みする機体を制御することはできずにいた。

 絶好の機会と二の太刀を繰り出そうとするが、一夏は顔を歪め、後退った。

 

「っ、しまった!」

 

 直後、盲撃ちのエネルギー弾が全員を襲った。銀の福音は機体を回転させたまま、四方八方へエネルギー弾をばらまく。

 

「くっ!」

 

 めちゃくちゃに放たれた弾幕は、密度こそ薄い。しかし、その分ぶどう弾のようなものでよけるのが難しい。

 各々が回避行動に移る。しかし、ランダムな弾道に苦戦する。全員が少しずつ余裕を失っていく。その最中。

 

「シャル!」

「えっ?」

 

 回避行動直後のシャルロットに、一発の弾丸が迫る。どれだけISが究極の機動力を持っていると言われようとも、限度はある。ゲームのように直角に曲がるといったことは不可能だ。

 迫り来る弾を前に、シャルロットができたのは、ただ衝撃を覚悟するだけだった。

 

「全く。おまえらの命は一つだけなんだ。もう少し、用心しろ」

 

 炎が光を焼き尽くす。

 シャルロットの前に紅輝が立ち塞がるようにいた。その背から、炎でできた翼をはためかせ。

 その炎翼で光弾を切り裂いた。だれもが目を瞠っている中、紅輝は錫杖を取り出すと、銀の福音へめがけて投擲した。

 錫杖は残ったスラスターを打ち砕く。もはや天使は翼を失い、地に落ちるだけだ。

 

「一夏、いけるな?」

 

 一夏がこくりと頷いた。

 イグニッション・ブーストで飛び出すと、静かに刀をなぎ払った。

 ただ鍔なりが青空と海原へ吸い込まれる。

 すべてのエネルギーを失ったのか、銀の福音から光が失われた。




最近急に暑くなってきたので、皆様も熱中症や体調を崩されないようお気をつけください。
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