真・箱庭転生 FINAL   作:VANILA

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初めて感想というものを頂き、現在進行形で有頂天になっています。
今回ナナシの名前決め回と黒うさぎと初コンタクト回なのですが、少し無理やりすぎたかもしれません……。


第一話「NAME LESS」

 

 突然、空に放り出されたと思うと、次第に身体が垂直下向きに引っ張られる感覚に、少年は襲われる。何て事はない、単に重力に身体が引っ張られているだけだ。地球に住んでいる者ならば誰もが感じ、影響を受けている物理現象だ。

 

 流石に、4000メートル上空からこの現象を生身で感じるなんて事は、滅多にない事ではあるが。

 

「きゃッ!」

「わっ!」

「ッ!」

 

 下から迫ってくる風を肌に感じながら、少年は周りを見る。そこには、自身と同じ様に現在進行形で自由落下している、二人の少女と一人の少年、一匹の猫の姿があった。

 

 このままでは、自分を除く三人が仲良く全員輪廻の輪に乗ることになる。自分も死にはしないだろうが、足の骨を折ることになるだろう。何かパラシュート代わりになるような物がないか、少年は必死になって自身の鞄を漁る。だが、出てくるのは傷薬やディスポイズン、パトラストーンに道返玉などの回復薬ぐらいで、戦闘での危機を脱することができても、いま現在の危機を脱することはできない道具しかなかった。

 

 このどうしようもない不条理を恨みながら、少年は骨折を覚悟した。いま自分達の下には湖があるが、それもこの距離での落下には何の意味も成さないだろう。次の瞬間には三人のバラバラ死体と、重態患者が出来上がる。そう考え、固く目を閉じる。

 

 すると、『ボフン』という緩衝材に当たったような感触を自分の背中に感じる。

 

 その感触を何度か感じた後、落下のスピードがかなり減速したのを感じながら、背中から湖に入水した。

 

「……」

 

 自身の体に損傷がないことを確認し、少年は慣れない泳ぎで湖から陸地へ這い上がる。陸地に上がってまず最初に、濡れた自身の服、『マスタースーツ』を力いっぱいひねって水を搾り出す。ぼたぼたと服から滴り落ちる水をじっと眺める少年を尻目に、同様に陸地に上がってきた三人の少年少女は口々にバリゾーゴンを吐く。

 

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「……いや、石の中に呼ばれたら動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

 

 三人ともびしょ濡れではあるが死んでいないようだ。しかし、下手するとキャラロストするかもしれないのに石の中のほうが良いとは暢気なもんだ、と少年は考えながら今度はズボンの水を搾り出していく。濡れた服をそのままにして下手に風邪でもひいたら面倒だ。体に力が入らなくなり動きづらくなる為、戦闘に支障をきたすかもしれない。別に、今直ぐ何者かと闘うわけじゃないが、そう思って念入りに水を搾り出す。

 

「ここは何処なんだろう?」

 

 三毛猫を抱いていた少女が、ノースリーブのジャケットを絞りながら呟いた。

 

「さあな。落ちてる最中に世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?

 一つ確認したいんだが、お前達にも変な手紙が来たか?」

「そうだけど、"お前"は止めて。私の名前は久遠飛鳥よ。そっちの猫を抱いてる貴女は?」

「……春日部耀。以下同文」

 

 水気の少なくなった服をはたきながら、あたりを見る。見渡す限り続く草原は、自分にとって新鮮で珍しい光景のように、なぜか思える。もしかしたら、自分の住んでいた世界……あの男、スティーブンは東京と言っていたが、東京はこの景色が普通のものではないのかもしれない。

 

「よろしく、春日部さん。そちらの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

「見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻十六夜です。粗野え凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用法と用量を守った適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん」

 

 ふと誰かからの視線を感じ、視線の元を探す。視線の元はどうやら自分の周りにある茂みからのようだ。よく見ると、茂みからは一対の長く黒い耳が見える。じっとそれを見ていると、耳はピクンッと動いた後、茂みの中へ隠れていった。

 

「それで?」

 

 耳の出所に行ってみようとすると、自分の後ろから少し大きい声が聞こえてくる。振り向くとそこには気が強そうで赤いリボンを結んでいる黒い長髪の少女が、目じりを吊り上げながらこちらを見ている。他の二人も、長髪の少女同様なこちらに目を向けている。どうやらこちらに何か用があるようだ。

 

「さっきから我関せずって態度をとっているあなたは?」

 

 それを聞き、思わず考え込んでしまう。自分の名前を言えといってきたのだ。自分の名前なんて、むしろ自分が知りたい状態なのだ。しかし、話しかけられたのならば返さないと、当然相手に不審に思われてしまう。

 

 それは困る。自分はいきなりこんな場所に呼ばれて、自身の置かれている状況がわからないのだ。情報源となるかもしれない人物に不信感などもたれては、この世界のことや自身の置かれた状況を聞き出せないかもしれない。かと言って、素直に記憶がないと言うのも駄目だ。いきなり「記憶がない」と言われても、相手はその言葉を信用しかねるだろう。下手に嘘をつくよりも酷い事態を招くかもしれない。

 

「どうしたの?まさか、言う義理はないとでも言いたいのかしら」

 

 考えているうちに、長髪の少女の機嫌が悪くなっていくのがわかる。他の二人も早く言え、と目で訴えている。

 

 どうするか、どう見ても八方塞りな状況を前に少年は思わず背中に冷や汗を流す。

 

 取り敢えず偽名を作らないと、そう思ったとき、ふと左手のホルダーに入っていたスマホの画面が目に入った。そこには相変わらず初期設定画面が映し出されている。少年はその画面のうち、名前の欄「NAME LESS《名前未入力》」という字が目に入った。

 

「……」

 

 無表情で長髪の少女にスマホの画面を見せ、名前の欄に指を指す。少女はその欄を見ると、とたんに渋い顔をする。

 

「NAME LESS?つまり、名前が無いって事かしら?」

 

 その言葉に首を振る。そういうことではない。すると、少女は少し考えた後、あぁっと声を上げて膝頭をたたく。

 

「もしかして、ナナシって名前なの?あなた」

 

 今度は頷く。すると少女は大仰にため息をつき、愚痴を言ってくる。

 

「ナナシって名前、名無しなのに名前があるなんて変じゃないかしら?それに、さっきからやたらと喋らないようにしてるけど、それってあなたのキャラなの?」

 

 正直、余計なお世話だ。名前に関しては、偽名が思いつかなかったから単にスマホ画面の「NAME LESS」をもじって即興で作っただけだ。喋らないのは喋る必要が無いから喋らないのであって、決してキャラではない。その事を目で訴えかけると、長髪の少女はやがて観念したとでも言いたげにかぶりを振る。

 

「わかったわ。もう名前やあなたのキャラについて突っ込まないようにするわ。いちいち突っ込んでたら日が暮れそうだし」

 

 そういって、少女は優雅に手を差し出した。

 

「どうせ私達の自己紹介聞いてなかったでしょうから改めて。私は久遠飛鳥、よろしくね」

 

 この少女、飛鳥はどうやら、握手を求めているようだ。ならばそれに応えようと、自分もまた手を差し出そうとして

 

   『だから……わたしもい……にいって……しら?」

 

 急に聞こえたノイズ混じりの声と、フラッシュバックした金髪の女性の姿に思わず手が止まった。

 

 誰の声だったのだろう?その声はこの場にいる人物のものではなかった。どこか懐かしいような、それでいて哀愁を感じる声だった。もしかしたら、前の世界で知り合った知人か何かの声だろうか。それとも

 

「どうしたの?」

 

 その声で、意識が現実へと引き戻される。目の前で手を差し出している飛鳥は、キョトンとした面持ちでこちらを見ている。なんでもない、と首を振り改めて差し出された飛鳥の手を握る。

 

 握手を終えた自分は他の二人、春日部耀と逆廻十六夜とも自己紹介を済ませ、四人でお互いの現状確認に当たる事になった。

 

 

 ◇

 

 

(うわぁ……四人とも問題児って感じですねぇ……)

 彼らを呼び出した張本人、黒うさぎと呼ばれる少女は、彼らのやり取りを茂みに隠れながら観察しつつそう思った。

 扇情的なミニスカートとガーターソックスを身に纏い、ウサギの耳を生やしたその姿は大変愛くるしい女の子のそれだが、彼女はれっきとした『箱庭の貴族』と呼ばれる強力な貴族の末裔で、可愛らしい外見からは想像のつかない程の力を持っている。

 

 そんな彼女は、彼らが現れた時にこの世界の事を説明するつもりで茂みにスタンバイしていたのだが、水の中に落とされた彼らはかなり機嫌が悪いみたいで、いま出てきたら酷い仕打ちを受けないだろうかと怖がって出るに出れないのだ。

 

 先ほどナナシという無表情な少年がこちらを見つめていた時など、「もしかして見つかった!?」と大いに焦ったものだ。その心配は杞憂だったようで、直ぐにナナシは目線を外して飛鳥という少女と何かしらやり取りしていたので気付かれてないと見ていいだろう。おそらく、結構あのナナシという少年は鈍いんでしよう、と黒うさぎは当たりをつける。

 

 しかし、ナナシに気付かれなくても何時かは彼らの前に現れて、私達のコミュニティに案内しなければならない。そうしなければ、彼らを呼んだ意味が無い。

 

 黒うさぎの目的は、かつて魔王に荒されボロボロになった自分達のコミュニティを立て直すことだ。その為には、ギフト保持者を自分達のコミュニティに引き入れて、ギフトゲームで闘う事の出来る人材を増やさなければいけない。そのギフト保持者というのが、彼らであった。

 

(彼らには私達のコミュニティ再興の命運がかかっているんです。何としても、人類最高峰と言われるギフト所持者である彼らを私達のコミュニティへ!)

 

「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

 どうやら彼らは、箱庭の案内人がいない事について話しているようだ。このまま息を潜めて待っていてもしょうがない。案内人について話している今が、黒うさぎが比較的出てきやすいタイミングだろう。この機会を逃したら、黒うさぎは延々と茂みに隠れる羽目になる。黒うさぎは腹を括り、四人からの罵倒を受ける事を覚悟で茂みから出ようとする。すると

 

 バンッバンッバンッ!

 

 三発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 ◇

 

 

「で、呼び出されたのはいいけど何で誰もいねぇんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねぇのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「……。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

 四人で互いの現状確認をしたところ、どうやらこの三人も自分と同じように呼び出され、何が何だか分からないようだ。必死で偽名を考え不審がられないようにしたというのに、このままでは自分達の今後の行動方針が取れない。

 こうなったら、背後にいる誰かに聞いてみるのも手かもしれない。敵かもしれない正体不明の輩に話しかけるのは、余り得策ではないが仕方ない。

 ナナシはそう考え、背後の存在に襲われる事を考慮して、護身用の拳銃を挿してあるホルスターのボタンを外す。後ろからの攻撃(バックアタック)は死に直結するという事を、自身の名前を忘れてても其れは覚えているからだ。

 スティーブンの口振りでは、自分が住んでいた東京には神や悪魔の闘いがあったらしいから、この知識は神と悪魔の闘いの中で得たものなのかもしれない。

 

「ーー仕方がねぇな。こうなったら……」

 

 十六夜が溜め息交じりに呟くと、

 

 ナナシの背後で動く気配がした。

 

 ナナシはすかさずホルスターから銃を抜き、後ろ手で気配の足元に向かって何回かトリガーを引く。

 

 バンッバンッバンッ!という銃声が鳴り、手に持っている銃口からは硝煙が立ち昇る。

 

「ド、ドヒャアァァッ!!」

 

 ワンテンポ遅れて茂みからバニーガールの格好をした少女が奇妙な悲鳴をあげて仰向けに倒れる。少女の頭には長い耳がついており、耳と頭の付け根はあまりにも自然であった。人ではないのかもしれない。

 その少女の足元には、銃弾が地面を大きく抉った跡が三つ出来ている。

 今までただこちらを傍観していたのに先程急に動き出したのは、今まで隙をうかがっていたがしびれを切らして襲いかかろうとしてきた、といったところだろうか。警戒が必要だ。

 

「ちょちょ、おい!案内人かもしれない奴に何発砲してんだよ!発砲するならせめて相手の顔を確認してからにしろ!」

 

 少女が起き上がらないように、ホールドアップの要領で銃を突きつけていると、ヘッドホンをつけたアウトローな少年、十六夜はナナシのした行動に驚きながら非難の声をあげる。

 

「誰かいるってのはわかってたけど、流石にいきなり銃を撃つのはありえなくて?!」

「暴力、反対」

 

 飛鳥や耀も同じように非難の声をあげる。どうやら口振りからするに、この三人もこの少女の気配に気付いていたようだ。襲われた時、三人を守りながらの戦闘は難しいと思ってこちらから仕掛けたのだが、どうやらそもそもその必要は無かったようだ。

 

「ひぃぃ!く、黒うさぎは善良な『箱庭の貴族』なのです!決して怪しい者ではありませえぇぇん!!」

 

 仰向けに倒れたままの自分の事を黒うさぎと言った少女は、両手をあげて真っ青な顔で自身の釈明を要求しだした。

 

 そんな事を言っても、そもそも自分が発砲したのはそちらが怪しい動きをしたからであり、怪しい者ではないと言われてもこちらにとっては怪しく見えるのだから簡単に釈明できない。

 更に言えば自分の事を怪しくないという奴ほど、怪しい者はいない。要は、信用できない。ので、銃口は少女に向いたままだ。

 

「ナナシ君、あなた誰かに野蛮だって言われたことは無い?」

 

 無い、とは言えない。記憶が無いから分からないが、もしかしたらそんな事を言われていたのかもしれない。しかし、これはあくまで自分達の身を護ろうとして行った防衛行動である。今の自分は野蛮でも何でもない。

 

「ナナシ、いい加減銃を降ろせよ。そいつこちらに敵対する気は無い

 みてぇだし、そもそも俺たちはこの箱庭についての情報が必要なんだからよ」

「……」

 

 十六夜にそう言われてナナシは少し考える。確かに十六夜の言う通り目の前の青くなっている少女からは、敵意は感じられない。それに、今の自分達は箱庭の情報少なからず必要だ。だが、警戒する必要はなくても、かといって簡単に信用する必要もない。

 

 せめて襲わないと口約束だけでも交わしてもらおうと、銃口は向けたままジェスチャーで俺たちに手を出すな、と少女に伝える。

 

「イ、YES!黒うさぎは貴方達を襲いませんし手を出したりする気もありません!」

 

 何とか言質も取れたので、ナナシは銃を降ろす。飛鳥や耀はその光景を見て安堵し、十六夜は「発砲することねぇだろ……」と呟き溜め息を吐く。銃を突きつけられた当の黒うさぎは、安心しながら先程までナナシを鈍いと思っていた自分を恨んだ。

 

 問題児たちと黒うさぎのファーストコンタクトは、まさかの銃乱射から始まったのた。

 

 そしてこの場にいたナナシ以外の四人はこの時、

「「「「こいつ(ナナシ)、ヤバイ奴だ」」」」

 と偶然にも認識が一致したのだった。

 

 

 ◇

 

 

「ーーあ、あり得ない……。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらおうとしたら発砲されるとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

「さっき私達の前で繰り広げられてたのはどう考えても殺人未遂の事件だったけど」

「いいからさっさと進めろ」

 

 本気の涙を瞳に溜めながらも、黒うさぎはなんとか四人の前に姿を現し、自分の話を聞いてもらえる状況を作る事に成功した。

 不機嫌な彼らにナニカサレないか黒うさぎは心配だったようだが、ナナシに発砲された以外は特に何もなかった。

 ナナシ以外の問題児達は入水させた招待人を痛めつけてやろうかと思っていたのだが、黒うさぎがナナシに脅されているのを見て、そんな気も失せたそうだ。

 そんな訳で、今問題児四人は『聞くだけ聞いてやるから早くしろ』という態度で彼女の言葉を待っている。

 

「それではいいですか、御四人様。定例文でいいますよ?いいますよ?いいますよ??」

「……」

「わ、分かりました!言います?直ぐ言います!言いますから銃は下げてください!」

 

 黒うさぎの喋り方に少しイラッとしたナナシは、銃を突きつけて「さっさと言え」とうながすと、焦りながら黒うさぎはナナシの要望を呑んだ。少し引っ込んだ涙がまた黒うさぎの目尻に溜まる。流石に少し野蛮過ぎたかとナナシは反省する。

 

「えぇー、コホン。ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと、あなた達を召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

 

 その後黒うさぎの話す箱庭の説明を、問題児達は四者四様に受け取りながら聞く。

 大まかにその説明を要約すると、

 ・この“箱庭”と呼ばれる世界は、様々な修羅神仏や精霊、幻獣に悪魔が存在し跋扈している。

 ・ここ“箱庭”ではギフトと呼ばれる特殊な能力を用いたゲームがあり、それをギフトゲームと言う。

 ・ギフトゲームでは“食料”や“金品”、“土地”に“権利”、“人材”や“才能”といった様々な物をチップにして戦い、勝利者は敗者の賭けたチップを得る事ができる

 ・箱庭にも法自体はあるが、ギフトゲームを介して取引したものは法的処置外となる

 ・ギフトゲームは参加する以外は全て自己責任となる

 ・ギフトゲームに参加するには、特定の集団『コミュニティ』に加入していなければならない

 といったところだった。

 

 ナナシ以外の問題児達はその話を聞いて違いはあれど、三者三様に面白そうに黒うさぎの説明を聞いていた。それはまるで、初めて世界の果てがある事を知り、自分の知らない場所に思いをはせる子供のようで、目がとても光り輝いている。

 

 だが、ナナシはとてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。ようは、目の前で話している少女、黒うさぎは、自分の勝手な思想と目的で自分達をわざわざ別世界に呼び出したということだ。

 皆さんが楽しんで下さるよう良かれと思って呼んだと言ってくるが、良かれと思ってそんな事をされても迷惑なだけだし、さらに言えばどう考えても少女は何か下心があって呼び出したようにしか思えない。

 

 そうでもなければ、自分達に拒否権を使わせず、無理やりににこの箱庭に呼び出したということに納得がいかない。「良かれと思って」呼び出したのなら、拒否権ぐらい確認するだろう。あくまでその人の為になるだろうという親切心で動いているのだから。そうなると、この少女は「この四人が自分にとって必要」だから呼び出したんだとわかる。

 つい先程、少女が「自分達のコミュニティに加入してもらう」という

 話を十六夜に拒否された時、かなり焦りながら十六夜を引き止めていたので、この予測は間違ってないだろう。

 無論、自分達をこの世界に呼び出して困らせたかったというなら話は別だが。

 

 つまり、この少女は自分達を箱庭に呼んだ上で、《何かを》させようとしているとしか思えないのだ。

 

 そこまで考えて、ナナシは目の前の少女に対する心象が悪くなった。

 “自分勝手に人間を動かそうとしてくるあたり、結局こいつもあの神々や悪魔どもと大して変わらない”

 そう思うと、ナナシは吐き気がする程気分が悪くなる。

 

「……?」

 

 ん?とナナシは自分が抱いた嫌悪感に疑問を覚えた。

 何故自分はこの少女に対して、こうも悪い印象しか抱かないのだろうか。そして先程の“あの神々や悪魔ども”とは、いったい自分は何のことを言っていたいたのだろう。

 

「黒うさぎにはあなた達の質問を全て答える義務が御座います。しかし、それらを答えるには少々お時間がかかります。その間あなた達を野外に出しておくのは、こちらとしても忍びありません。ですので、後はよろしければ私達のコミュニティでお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 先程の異様な嫌悪感は何だったのだろうと考えていると、どうやら黒うさぎは説明がひと段落したようで、ひとまず自分達に少女のコミュニティに来ないかと誘ってきた。

 

 これはマズい流れだろう。こういうものは、一度行ってしまったら戻るのが難しいパターン、詐欺師がよく使う手だ。このまま相手の思い通りコミュニティに行ってしまうと、あれよあれよの内にコミュニティに入らされることになる。そして、さながら麻痺等で動けない輩に『ファンド』をするがごとく、金品を巻き上げられ行動の自由を奪われ、絞り尽くされるだろう。

 

 別にコミュニティに入ってもいいのだか、入ったからといってナナシにとって得する事は無い。どれだけの金品や土地や利権を積まれても、今のナナシには何の旨味を感じない。

 今欲しいのは、自分に関しての記憶だ。ナナシは、“自分が何者なのか”、それについて知りたいのだ。

 それに関しては、この世界に留まるより、元いたという世界に戻った方が得策だろう。元いた世界には自分の知人だった人物や、自分の人柄、自分がしてきた行動の残滓のような、自分の記録があるかもしれないのだ。自分についての物が何もないこの世界で自分について調べるより、遥かにマシだ。

 

 取り敢えず、少女の誘いを断ってから元の世界に返してもらおうと、ナナシは手を伸ばして物申そうとする。

 

「待てよ。まだ俺とこいつの質問が残っているだろう」

 

 手を伸ばす途中で隣にいた十六夜が、先程までの軽薄な笑みを消して真剣な声音で黒うさぎに「俺たちに質問させろや」と言う。

 その様子を見た黒うさぎは、構えるように十六夜に対して聞き返す。

 

「……何でしょうか?ルールについて聞きたいのですか?それともゲームそのものについてですか?」

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒うさぎ。ここでオマエに向かってルールをといただしたところで何かが変わるわけじゃねぇんだ。世界のルールを変えるのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは、たった一つ」

 

 そう言って十六夜は、黒うさぎから目線を外して他の三人、巨大な天幕に覆われた都市、と順に目を向ける。

 そして彼は、何もかも全てを見下すような目で一言、

 

「この世界は……面白いか?」

「ーーーー」

 

 そう言った。

 その言葉を聞いた黒うさぎは少し面食らっていた顔をして固まっていたが、やがて顔を満面の笑みにすると、

 

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭は外界よりも格段に面白いと、黒うさぎは保証します♪」

 

 と返す。

 それを聞いたナナシ以外の三人は満足したように笑う。どうやら、この三人はこの箱庭に留まるようだ。

 損するだけだ、と止めようかとも思ったが、本人達が決めた以上その決めた道を邪魔するのも良くないか。とナナシは三人を止めることはしないでおく。

 

「おい、ナナシ。オマエも黒うさぎに聞きてぇことがあんだろ?俺たちはサッサと黒うさぎのコミュニティに行きてぇから早く聞いてこい」

 

 そう十六夜に言われて、自分も用を済ませて元の世界へ戻ろうとする。黒うさぎの目の前に立つと、目の前の少女はビクンッと大きく震え、萎縮する。

 

「えっと、ど、どうかされましたか?先程までの説明に、不備が御座いましたか……?」

 

 説明云々に言いたい事がない事は無いが、今言いたいのはそっちじゃ無い。ナナシは首を振る。

 すると、黒うさぎは「えーっと」と目の前の少年がなにを言いたいのか考えてやがて、顔を青くしながら

 

「もしかして、元の世界に返して欲しい、と、か?」

 

 しどろもどろに少年に尋ねる。

 そうだ。ナナシはゆっくり頷く。

 

「えっと、ですね?皆様を呼び出すギフトは有ったんですが……。なんというか、その、元の世界に戻すギフトは今、持っていないと言いますか、その……」

 

 しどろもどろ話されて面倒臭くなったのでナナシはまたも銃を抜き、少女の眉間に狙いを定める。

 

「ヒイィィ!?すいません!元の世界へ戻すギフトを持っていないんです!返す事が出来ないんです!許してくださいぃぃ!!」

 

 両手を挙げて命乞いする少女を尻目に、ナナシは思い切り舌打ちをした後、銃をホルスターにしまってこれからの事を考える。

 正直、参ったの一言だった。元の世界へ戻すギフトを持っていない、という事は、そのギフトは有るにはあるんだろう。

 となれば、そのギフトを手に入れる為にギフトゲームなるものをしなければいけない。

 そしてゲームに参加する為に、コミュニティに入らなければならない。

 それに加えて、黒うさぎのコミュニティ以外に自分が所属できるのかどうか分からない。

 もうこの、胡散臭い黒うさぎのコミュニティに入らざるを得ない状況になってしまったのだ。

 

「……」

 

 だが、とナナシは少し考えを改める。元の世界に戻すギフトがあるのだったら、記憶を取り戻すギフトも存在するのではないか、と。別世界へ移動できるのと記憶を取り戻すのとだったら、詳しい事は分からないが、後者は簡単そうだと思える。もし記憶を取り戻すギフトがあったら、元の世界へ戻すギフトよりレアリティが低いのではないか。

 

 つまり、記憶を取り戻すギフトを簡単に手に入れる事ができるのではないか、ということだ。そうだとすれば、元の世界へ戻るよりも格段に早く記憶を取り戻せるかもしれない。取り敢えず、そうポジティブに考える。向こうがこちらを利用するつもりなら、こちらも相手を利用するだけだ。

 

 今この場で元の世界へ戻れない以上、ナナシはコミュニティに入る以外の選択肢しかないだろう。ナナシは「弱点は嫌だ弱点は嫌だ弱点は嫌だ」と怯えている黒うさぎに向き合い、手を差し出す。

 

「え、えと、これは……?」

「握手、でしょう?ナナシ君は、黒うさぎのコミュニティに入るんですって」

 

 黒うさぎは、自分の手を見てあたふたしていたが、飛鳥の言葉を聞いて顔を明るくさせる。

 

「本当、ですか!ナナシさん!本当に?!」

「……」

「や、やたーっ!有難う御座います、ナナシさん!

 

 無言で頷くと、少女はピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ね回った後、ナナシの手を両手で包み、感謝の言葉をかける。

 精々、そちらが自分達を利用するように、こちらもそちらを利用させてもらさせてもらおう。ナナシはそう考えながら、黒うさぎと握手を交わしたのだった。

 

 

>ナナシは黒うさぎのコミュニティに入ることになった。

 




イナバノシロウサギ “銃属性弱点”
要はそういうことです。
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