真・箱庭転生 FINAL   作:VANILA

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予告状「作者の執筆時間を頂きます」

見事に盗まれました。それもこれもペルソナ5ってやつのせいなんだ!(作者の落ち度です)

予定より大幅に遅れて本当に申し訳ないです……。


第三話「乱射魔、跡を濁す」

「にしても、ナナシさんを探そうにも手がかりがないですねぇ……」

 

 

「ま、気長に探すしかねぇんじゃねぇのか?かくれんぼってのは、焦るとドツボにはまってより見つけにくいからな」

 

 

「かくれんぼって……あぁ、もういいですかくれんぼで良いですから、早くナナシさんを見つけましょう……」

 

 

 黒ウサギと十六夜は、勝手に失踪したナナシを捜索するため、十六夜を捜索していたときに手がかりをくれたユニコーンに会いに森の中へ入っていた。十六夜の時同様に、ナナシの目撃情報をくれるかもしれないと思ったからだ。だが

 

 

「おかしいですねぇ、ここは人外の魔物達が沢山いるはずなんですけど……」

 

 

「たまたま居ないだけ、つーわりには辺りに気配が無さすぎるな」

 

 

「えぇ、いつもは数歩あるけば魔物に遭遇するような場所なんですよ。それがこんなに静かになっているなんて……」

 

 

 森のなかにはユニコーンはおろか、魔物がひとつも居ない有り様だった。ユニコーンに聞けずとも、森の魔物達に聞くこともできるので黒ウサギはこの森で情報収集するつもりだったのだが、この様子だとそれも難しいようだ。

 

 

「森の奴等が一斉に居なくなったのか?……そいつぁ、穏やかじゃねぇな」

 

 

 十六夜は有名な幽霊船、メアリー・セレスト号の事例を思い出した。あの船の船員のように森の魔物達が、まるで神隠しに会ったかのように消えてしまった事に十六夜の危機感が高まる。そしてしばらく森の中を探し、黒ウサギがあるものを見つける。

 

 

「あ、十六夜さん見てください!この木に血痕と刃物で切られた跡が付いてます!という事は……!」

 

 

「ここにいた奴等が居ねぇのは、誰かに襲われてしまったからと見て間違いねぇだろうな」

 

 

 みれば、周囲にはなにか鋭いもので切られてなぎ倒された大木がゴロゴロと転がっており、それと同時に大量の血痕がぶちまけられている。血の乾き具合から、一時間は経っていないだろうとわかる。

 

 凄まじい光景に、十六夜は思わず閉口する。その一方で、黒ウサギはとたんに慌て始めた。

 

 

「ま、不味いですよ!こんな惨状を引き起こせて、魔物達を全て消すことができるのは、神格持ちか魔王クラスです!それが、今、私達の近くにいるかもしれません!」

 

 

「ヤハハ、魔王の存在を聞いて小一時間してから、そいつらと闘うことになんのか。そいつらチュートリアルみたく手加減してくんねぇかな」

 

 

「よ、余裕かましてる場合じゃないですよ十六夜さん!あの龍神は倒せても、魔王はそういうわけにはいきません!世界全体に仇なす者、それが魔王なんですよ!」

 

 

 ここにくるまでの間、十六夜は黒ウサギのコミュニティを崩壊させた、魔王という存在についての話を聞いていた。魔王とは並外れた力を持つ数ある存在の中で、例外なく人々や世界自体に仇なす存在で、「いつかは必ず敗れる」という制約を持つ代わりに強大な力を有しているらしい。強制的にギフトゲームに参加させたり、本来の力以上の力を引き出すことができたりと、聞くだけでも【魔王】という存在の強大さを感じることができた。

 

 だからこそ、余裕かましている場合ではない事を、十六夜はとうに理解できていた。魔王のことなどほとんど知らない自分がいまここで魔王に闘いを挑んだとして、どれだけその魔王と対等に渡り合えるかしれたものではないのだ。

 

 だが、だからといって取り乱してしまえば、動ける場面で動けなくなる。それだけは、なんとか避けなければならない。魔王に立ち向かうにも、背を向けるにも、いざという場面で動けなくなっては意味がないからだ。

 

 いつ襲いくるかもしれない魔王の存在を警戒し、未だに焦っている黒ウサギの説教を聞き流しながら、十六夜は周囲の気配を慎重に探っていく。すると

 

 

 

 

 

「……!そこにだれかいるな」

 

 

「え!……あ、本当だ、木の陰に隠れていますね」

 

 

 

 

 十六夜は自分達の前方百メートル先の木陰に潜んでいる気配に気付いた。しかし、魔王然とした気配ではなく、何かに怯えている事が感じられるほど怯えきったものだった。

 

 

「もしかしたら、何とか生き延びれた方かもしれません。いってみましょう!」

 

 

 もしかしたら、この惨状についてなにか知っているのかも知れない。そう思い、十六夜は気配の元へ駆け寄る黒ウサギの後をおっていく。

 

 十六夜達が木陰にたどり着くと、衰弱した様子の男が木の根本でぐったりと横たわっていた。やせ細った体に栄養失調特有の奇特に膨らんだ腹、体全体が血の気の引いた紫色で、その顔は醜いものだった。

 

 みれば、その男の体にはおびただしい程の傷口がついており、そこから赤黒い血が出ている。

 

 その男をみて、十六夜は昔見た仏教の経典に書かれた、一つの悪鬼の名が脳裏に浮かんだ。

 

 

「こいつ、もしかして餓鬼ってやつか」

 

 

「はい。輪廻転生の六道の内、餓鬼道に転生した人の、餓鬼です。おそらく、餓鬼道の世界から何らかの影響でこの箱庭の世界に行き着いたのでしょう。」

 

 

 餓鬼というのは、仏教の輪廻転生の転生先の一つである、餓鬼道で生を受けた存在だ。

 

 その体は常に呪われており、何か食物を口にいれようとする度に、目の前で食物が一瞬で消えてしまう。そして、生きている限り空腹で身をやつし続けるのだ。

 

 十六夜達が意識があるかどうか調べるために、その餓鬼の傍へ駆け寄ろうとすると、突然餓鬼はパッと目を開けて後ろへ跳びすさった。

 

 

「ひいぃ!か、勘弁してくれぇ!お、俺を殺しても何にもならんでしょお!」

 

 

 見に覚えのない命乞いをされ、二人は少しばかり困惑してしまう。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私達はあなたに危害を加えるつもりはないですから!!」

 

 

 突然命乞いを始めた餓鬼に黒ウサギが敵意はないことを伝えると、餓鬼は呆けたように黒ウサギを見つめる。しばらく黒ウサギをまじまじと見つめてから、ふぅーっ、と餓鬼はため息をつく。

 

 

「よ、良かった……。“あの悪魔”じゃねぇのか、焦らせやがって。なんか強大な気配がしたもんだから、あの野郎が戻ったのかと思ったら、“月のウサギ”かよ……」

 

 

 どうやら、十六夜達のことをこの森の魔物達を襲った人物だと勘違いして、命乞いしたようだった。

 

 心底、安心した様子の餓鬼に、黒ウサギが事情を聞こうと話しかける。

 

 

「あの、“あの悪魔"とは何なのですか?あなたもその輩に襲われたとようにお見受けしますが、よければこの森で何があったのか教えて頂けませんか?」

 

 

 黒ウサギがそういうと、餓鬼は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めて、この森にきた“悪魔”の事を喋りはじめた。

 

 

「つい半時ほど前だ。ユニコーンがこの森に来ている事を知った俺はダチ公、そいつも餓鬼なんだが、そいつととそのユニコーンに会うことにしたんだ。ここいらでユニコーンが居るなんてこたぁ、滅多にねぇからな。物珍しさに釣られてユニコーンを見に行ったんだ。そしたら"奴″がいたんだ」

 

 

「や、“奴”ですか?」

 

 

「“奴"ねぇ。そいつが、てめぇの言っていた“悪魔"なのか?」

 

 

「あぁそうだ。あいつはまさに“悪魔"そのものだった……」

 

 

 十六夜の問に答え、餓鬼は一息ついてから再び話す。

 

 

「見れば、上物の刀を持ってるものだから、奪い取ってやろうと言って俺のダチ公がそいつの後ろから飛び掛かったんだ。俺も面白半分で茂みに隠れてダチ公が飛び掛かるのを眺めてたんだ。そして」

 

 

 餓鬼は一旦間を開ける。

 

 

「飛び掛かった瞬間、刀で両断された。“奴”は後ろから飛びついた俺のダチ公を、何でもないように切り捨てたんだ」

 

 

「……」

 

 

 その光景を想像し、黒ウサギは身震いした。餓鬼とはいえ、彼らは鬼だ。その鬼の奇襲を難なくかわし、反撃に転じた“悪魔”の力の一端を想像し、黒ウサギは震えたのだ。

 

 一方で十六夜は十六夜で、餓鬼の言葉から、この森で起こった惨状に見当をつけていた。

 

 

「なるほどな。そのダチ公が殺られたのを見て、今度は激情に駆られたテメェが“奴”に襲いかかった。だが、またしても返り討ちにあい、その戦闘の余波でこの森の魔物の誰かに飛び火した。それに怒った魔物達が“奴”に戦いを挑み、それでいつしか強盗事件が“奴"とこの森の魔物達と全面戦争になった。……この森で起こったのは、そんなところだろう?」

 

「その通りだ。さっきの話まででそこまで察っせれるたぁ、やるなそこの兄ちゃん。」

 

「ヤハハ、誉めてもでてくるのは俺の拳骨くらいだぜ」

 

 

 そんなふうに冗談めかして言うが、十六夜の内心は穏やかではなかった。森という地形上、木々が自分達の視界を遮られる為、いま自分達はどこから奇襲を受けてもおかしくない状況なのだ。

 

 

「ヤハハ!参ったな、ナナシに続いて俺達もいきなりゲームオーバーの可能性が出てきたぞ」

 

 

「ちょっと不吉なこと言わないで下さいよ!あと勝手にナナシさんを殺さないでください!」

 

 

 そこで黒ウサギがハッとした顔になり、いきなり餓鬼に詰め寄る。その顔はかなり鬼気迫ったもので、詰め寄られた餓鬼は思わずたじろぐ。

 

 

「こ、ここに!目付きの悪くて、髪型がソフトモヒカンで、いかにも銃を乱射しそうな人間が来ませんでしたか!?」

 

 

 すると、餓鬼は顔をしかめ

 

 

「あぁ、来たよ」

 

 

 と答えた。

 

 その瞬間、黒ウサギは顔を蒼白にし、ペタリと座りこんでしまった。ナナシがここに来たということは、既にこの惨状を作り出した張本人と出会ってしまったかもしれないのだ。

 

 この森に住む魔物全員と魔王クラスの戦争に、巻き込まれたかもしれないのだ。ナナシの存命は、ほぼあり得ないだろう。

 

 

「ど、どうしましょう……。ナナシさんが、本当に死んでしまったかもしれないなんて……。こ、これじゃあ私、私……」

 

 

「……?」

 

 

 その事に黒ウサギが心を痛めるのは普通のことであり、自分を責めてしまうのは、止められないことだろう。

 

 だが黒ウサギの様子は、なぜか十六夜に奇異な印象を持たせた。

 

 黒ウサギの様子が、あまりにも大げさというか、閣下(かっか)閣下(かっか)過剰な反応をしているように十六夜は思えたのだ。

 

 確かにナナシがこんな状況になったのは、黒ウサギの監督不行き届きとも言えるし、コミュニティに入ると言ってくれたナナシが死んでしまったかもしれない事に悲しむのは当然だ。

 

 だが、それと同時にナナシと黒ウサギは、出会って数時間程度の関係だ。しかも出会いは銃口を突き付けられホールドアップさせられるという、世界中探してもこれ以上のものはないと思えるほどの、最悪な出会いかただった。

 

 それがどうだ。

 

 黒ウサギはそんなナナシを思って、顔をこれ以上なく青白くさせ、体全体を痙攣したかの様に震わせている。涙を流したり、顔を曇らせるのならばまだわかるが、ここまで来ると大げさを通り越して不憫に思えてしまう程だ。

 

 

「……黒ウサギ、悲しむのは後だ。今はまず俺たちが助かることを第一に考えねぇと、俺達もナナシの後を追うことになっちまう。……ナナシの死を弔うのは、この危機を切り抜けてからでも、遅くはねぇだろ」

 

 

 しかし、十六夜はその事に深く追求することを止めた。今はそれよりも、自分たちの存命に力を入れないといけないと思ったからだ。

 

 それに黒ウサギは、出会って数時間だが、とてもお人好しだと思わせるほど、人徳的だった。ならば、知人の死にそれだけの反応を示すのはおかしいことではないのかもしれない。

 

 そう考えて、黒ウサギに肩を貸して立ち上がらせる。少しの間背中をさすってみせれぱ、黒ウサギは徐々に落ち着きを取り戻していった。顔はまだ青白いが幾分かはマシになり、震えは段々と引いていった。

 

 

「そ……う、ですね。まずは、自分たちの心配をしましょうか。それが終わってからから、ナナシさんの事を考えましょうか……。それに、まだその魔王に殺されたと決まった訳じゃありませんしね」

 

 

「……ああ」

 

 

 一先ず黒ウサギの「混乱」を解くことはできたが、自分たちの置かれた状況の打開になったわけではない。さて、この事態をどう切り抜けるかと十六夜が思考を張り巡らせていると

 

 

「おいおい、あんたら。俺の話をちゃんと聞いてたのか?」

 

 

 餓鬼が、急に話しかけてきた。先程まで静かにしていた餓鬼が言った「話をちゃんと聞いていたのか?」の意図がわからず、十六夜は思わず聞き返す。

 

 

「あん?どういう意味だ?」

 

 

「文字通り、『話をちゃんと聞いてたのか?』って言ってんだ。さっきまで俺が親切丁寧に、ここに来た“悪魔”の恐ろしさを教えてやったじゃねぇか。なにお前ら、その“悪魔”の心配してんだよ」

 

 

「「……ん?」」

 

 

 その言葉の意味が解らず、黒ウサギと十六夜は同時に困惑した声をあげる。

 

 二人の様子を見て、餓鬼はため息をつく。

 

 

「あのなぁ、言っただろうが。この森に来た奴が、俺のダチ公と魔物をメチャクチャにしたって。なんでソイツが自分に殺されなきゃいけねぇんだよ」

 

 

「「……」」

 

 

 餓鬼の物言いに、二人は違和感を覚え始めた。自分に殺されなきゃいけない……?それは、どういうことなのだろうか。そんな二人を差し置いて、餓鬼は二人にまくし立てる。

 

 

「ったく、本当に恐ろしかったんだぜ。人間とは思えねぇ強さだった。剣の腕もたつ上に、銃をそこかしこに乱射しまくってよぉ。しかも不気味なことに、魔物達を殺さず半殺しにして、そいつら全員一人一人に『仲魔にならないか?』って聞いて回ったんだ!しかも「仲魔にならない」って言った奴は殺されちまうし、その声も腕に着けた機械の機械音声で本人は全く喋ってねぇし、本当に人間離れした、まさに“悪魔”みてぇな野郎だったぜ、全く……。あのソフトモヒカンは、伊達じゃあなかったんだな」

 

 

「「……ん!?」」

 

 

 餓鬼の言う“悪魔”の特徴に、二人は半端じゃない既視感を覚えた。二人が惨状たる現場を遠目に、かつ目を凝らすと、先程までは気付かなかったが、地面に数個の弾痕があった。

 

『人間』

 

『銃を乱射』

 

『一切喋らない』

 

『ソフトモヒカン』

 

 この特徴は、あまりにも、二人の知るある人物像に被りすぎていた。

 

 

「……あ、あの、十六夜さん?これって……?」

 

 

「十中八九、お前が今考えている内容で、間違いないと思うぜ、黒ウサギ……」

 

 

 つまり、今まで自分達が魔王に殺されたかもしれないと思っていた人物は、森の魔物達と魔王の戦争に巻き込まれたと思っていた人物は

 

 

「……魔王の正体は、ナナシだった」

 

 

 森の魔物達の戦争を起こした張本人で、先程まで自分達の命を脅かす魔王だと思っていた、我らが探し人、ナナシだった。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「おい、なに急に黙りこくってんだ?お前らもここから立ち去った方がいいぞ。さもないと、森の魔物どもみてぇに無理やり仲魔されちま……」

 

 

「おい、餓鬼」

 

 

「う、ってなんだよ、今度は」

 

 

「ソイツがどの方角へ行ったか、分かるか」

 

 

「あん?ここからあっち、東北東へ向かっていったが……」

 

 

「行くか、黒ウサギ。東北東の方角へ」

 

 

「そうですね、十六夜さん」

 

 

 その二人のやり取りに餓鬼は驚きだした。

 

 

「正気かテメェら!?やめとけってマジで!」

 

 

「ヤハハ。にしても、まさかナナシが魔王の正体だったとは、衝撃の真実ってやつだなこりゃあ」

 

 

「もう……なんだか私、どっと疲れましたよ。ナナシさんは実力者だとは思ってましたけど、ここまでだったとは……」

 

 

「しかも、黒ウサギはそのナナシに殺されるかもってビクついてたからなぁ。思い出すだけで笑いが込み上げてきちまう」

 

 

「それは十六夜さんもでしょう!全く失礼なんですから!」

 

 

「って無視すんなお前らぁ!!」

 

 

 二人の後方で餓鬼が騒ぎ散らすが、二人は無視する。どこぞの迷惑な知人のせいで、無駄に疲れているのだ、返事を返してやる余裕なぞ、今の二人には微塵もない。

 

 結局二人は、遠くから騒ぎ立てる餓鬼を無視して東北東に向かったのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 豹が宣戦布告をした瞬間、ナナシの眼前に突如として黒い紙が現れる。

 

 ギフトゲーム『東の守護』

 

 そう書かれた紙を見て、ナナシは黒ウサギから聞いていたギフトゲームというゲームの説明を思い出す。

 

 黒ウサギの話の話では、ギフトゲームは互いの了承がなければ行うことが出来ない筈だった。しかし今現在、ナナシは何者かにギフトゲームの名目で襲われている。通常では考えられない事が起きているのだ。

 

 

「……」

 

 

 だとすれば目の前にいるこの豹は、何らかの抜け道を使ったか、ルールを無視して自分に襲いかかってきたというところだろう。

 

 しかし、例外というものは何にでもあるものだ。今はとにかく目の前の豹を倒さなければならない。これ以上うだうだと考えすぎて、うっかりこの豹にスライスされても困る。

 

 

 ナナシはすぐさま「デビルアナライズ」を起動させ、目の前の豹にスマホのカメラを向ける。パシャリと写真をとると、スマホは豹と豹のステータスである数値を画像として表示する。

 

 

 

【堕天使】 オセ Lv32

 

   弱点・耐性[?]        

 

     HP ???/??? MP ???/???

 

     使用技 ?

 

 アプリ「デビルアナライズ」で判明したのはレベル32とオセというステータスだけ。あとは[?]マークがついていてわからない。

 

 

 更にスマホの画面を横にスライドさせて、自分のステータスを表示させる。

 

 

【人間】 ナナシ Lv28

 

  弱点[無し]・耐性[物理・銃・呪殺]

     無効[破魔]

 

     HP 326/326 MP 124/124

 

  使用技 無し

 

 

 

「用はすんだか」

 

 

 

 

 スマホ画面から顔をあげるとその豹、オセは毅然とその場所で腕を組んで立っている。先程スマホのデビルアナライズを使っている間、僅か二秒の間だが、オセはその気になれば襲いかかれたのだろう。デビルアナライズを使わせないようにすることもできた。

 

 だが、そうはしなかった。奴は自分の勝利を確信しており、尚且つ自分とオセの間の力量差に絶望する自分の姿を見ておこうと思ったのだろうと、ナナシは当たりをつける。目の前のフンドシをはいた豹、もといオセが勝ちを確信してると思うと無性に苛立つが、Lv4の差がいまいちよくわからず、先に仕掛けることが出来ないでいるのも事実だ。

 

 

「仕掛けないのか?ならば……」

 

 

 どう、動こうかと考えている内に、向こうはしびれを切らしてしまう。腰に差した刀剣を鞘から抜き、その切っ先を自分に向ける。妖しい白銀の光がぬらりとその刃から放たれ、その光の並々ならぬプレッシャーに、ナナシは思わず自分が押し潰されるような錯覚を覚える。

 

 

「……!」

 

 

 刹那、オセは刀剣を鞘から一瞬で抜き放ち、ナナシに突っ込んでくる。初撃を見切ってはいたものの、予想以上に目の前のオセの動きが早く、完全に対応するのが難しい。ダメージ覚悟でこちらも剣を抜き、オセの目の前に突き出す。

 

 

「ふん!」

 

 

 しかし、突き出そうとしたところで自分とオセの間にケンタウロスが割り込み、オセの一撃を蹄で受け止める。

 

 

「ナナシ、今は少々こちらの分が悪い。一騎討ちではなく集団戦で討ち取るのだ!仲魔を召還する時間は稼いどいてやる!」

 

 

 願ってもまないチャンスだ。Lvが上の相手と一対一で闘って勝つのはかなり難しいだろう。しかし、一人の相手を複数で相手取れば、負けづらくなる。ようは囲んで棒で叩くのだ。このやり方にスゴク、シツレイ!と傍から見る人がいればそう思うかもしれないが、背に腹は代えられない。

 

 素早くスマホを操作し、ナナシはケンタウロスの指示通り仲魔を召還する。

 

 

「もうお仕事?社畜はつらいよやんなるよ」

 

 

 一体目はスダマ。働きたくないと不平を抜かしてはいるものの、ちゃんとストックから召還されている。スダマが召還されたのを確かめてから、二体目を召還する。

 

 

「うぉれぇがあぁぁぁ!!うぉれぇたちがぁぁ!!!チミモウリョウだぁぁぁぁ!!!」

 

 

 二体目はモウリョウ。やはり訳のわからないことを言いながら現れるが、反抗する様子はない。スカウトしたばかりの仲魔達が言うことを聞いてくれるかしんぱいだったが、どうやらちゃんと命令を聞いてくれそうだ。

 

 

「ふぅん!」

 

「ぐっ!!ナナシ、後はうまくやるんだぞ!」

 

 

 モウリョウを召還したところで、オセと打ち合っていたケンタウロスが、オセの一撃をかわしきれずマグネタイトとして霧散してしまう。

 

 Lv差は二十八、稼いでくれた時間は十秒、それもケンタウロスは全力でオセはずいぶん余力を残しての結果だった。まさに天と地ほどの差。Lv28の差は、それほどまでに大きいものだった。そしてLv4差の自分との戦闘も、この様子だと簡単にはいかないだろう。

 

 ケンタウロスを倒した直後、もうこの瞬間が最後の召還のチャンスだ。ケンタウロスの穴を埋めるためにももう一体召還しよう。そう考え、ストックからもう一体、仲魔を召還する。

 

 

「……」

 

 

 三体目はユニコーン。餓鬼が襲ってきた森のなかで、脅しをきかせて仲魔にした悪魔だ。最初こそ「私は既にコミュニティに入っている」と仲魔になるのを拒んでいたものの、銃を額に突きつけ脅したところ、あっさりと仲魔になった。

 

 

「……」

 

 

 しかし仲魔になったものの、当人はまだ脅された事を根にもっているようで、先程から目を合わせてくれない。

 

 元はと言えば、自分が森で餓鬼や森中の悪魔達に襲われながらも(正当防衛として)なぎ倒していった時に、このユニコーンが「森の秩序を人間ごときが破壊するか!このコミュニティ『一角獣』の三本槍、ユニコーンが貴様に相応しい罰を与えよう!!」と襲いかかってきたから迎え撃ったのであって、自分は悪くない。

 

 とにかくユニコーンの視界の前に出て、目を無理矢理にでも合わせる。

 

 

「……」

 

「……ふん」

 

 

 存分に働いてもらうぞ、と目で言うとユニコーンは不服そうに鼻をならし、キッとオセを睨む。こちらも命令を聞いてくれるかどうかを心配しなくてもよさそうだった。ひとまず安心する。

 

 これ以上は召還に充分なマグネタイトがこの空間にないので、召還は出来そうにない。現状、三体以上の仲魔の召還は難しそうだ。

 

 

「ふん。仲魔を並べたか。だが、弱い仲魔が集まったところでそれだけではただの烏合の集だな」

 

 

 ケンタウロスを屠り、オセはすぐさま標的をナナシのパーティーに絞り、手に持つ刀剣の刃先を向けて突進してくる。その刃先をナナシはつん曲がった剣、『天叢雲剣』で受け止める。

 

 

「……!」

 

 

 二人は必然的につば競り合いをし、お互いの得物からキィンッ!という高音がなる。そして受け止めてみて、ナナシははっきりと解る。腕力は向こうが上であると。

 

 

「ちぃがぁぁぁう!!うぉ、うぉまえわぁぁぁ!!チミモウリョウでぇは、ぬぅわぁぁぁい!!!」

 

 “アタック”

 

「お仕事終えて、有給とるよ。行きたいね、イスタンブール」

 

 “ザン”

 

「はぁっ!!」

 

 “アタック”

 

 

 つば競り合いに若干押され始めた時、すかさず仲魔達がフォローに入ってくれる。しかし三匹全員の攻撃を受けたというのに、オセにダメージがほとんど通っていないようだった。それだけのレベル差があるのだ、この悪魔とは。

 

 

「……!」

 

 

 突然フッと、オセは得物を持つ力を弱め、つば競り合いから離脱し、少しだけ後方へ距離を開けて“溜め始めた"。

 

 不味い、ナナシがそう思った瞬間。

 

 

「はぁっ!!」

 

 “ベノンザッパー”

 

 

 オセは毒気を含んだ剣戟を繰り出してくる。その剣戟は同時に毒の衝撃波を生み出し、圧倒的な暴力をもってしてナナシ達に襲いかかる。

 

 仲魔にガードするよう命令を出そうとナナシはしたが、それを実行するのは無理だろう。仲魔達は既に行動していてガードがとれない。隙だらけだ。

 

 

「い、いてぇぇぇよぉぉぉ!!」

 

 モウリョウ HP 102/180 毒

 

「あ、僕土星に帰らなきゃ。それじゃ、サヨナラまた来て三角四角」

 

 スダマ   HP 0/84 死亡

 

「ぐっ!」

 

 ユニコーン HP 125/204 毒

 

「……ッ!」

 

 ナナシ   HP 283/326

 

 

 スダマは耐えれず霧散し、他の二人も馬鹿に出来ないダメージを受けてしまった。自分は剣でガードしていたから、まだ大丈夫だ。しかし他二人はダメージと毒のバッドステータスを受けてしまっている。

 

 集団で攻めたのに、あっとあうまに一体を倒され、数の利点が失いつつあった。

 

 仲魔二体は毒状態で持久戦に持ち込むどころか、次のターンでオセの攻撃と毒のダメージで二体共死ぬかもしれない。

 

 そうなると、短期決戦しか無い。しかし

 

 

「ふふん?その程度か、貴様ら。殺す価値もないとは、この事だな」

 

 

 オセが、強すぎる。また全員で集中攻撃を仕掛けても、全体攻撃をされて全滅だ。かといって単騎でオセと自分でまた打ち合っても、自分が勝つ確率は低い。せめて強い仲魔がいたら、また話は変わっていただろう。しかし、いまストックにいる最高Lvの悪魔は24のユニコーンだ。手持ちにオセに敵う仲魔は……。

 

 

「……!」

 

 

 そこでナナシは策を思い付く。逆転の、それでいてこちらの分が悪い策。

 

 すぐさまナナシは仲魔達と目を合わせ、目の動きで指示を出す。

 

 モウリョウはただでさえ酷い顔をさらに嫌そうな顔で歪め、ユニコーンは正気なのかと目を丸くさせる。

 

 しかし二体共に直ぐに腹をくくり、再びオセに向き直る。命令を、聞いてくれる。最大の懸念であった、仲魔達のボイコットは、起こらなかった。

 

 ここからは、完全な運任せだ。どれかひとつでも失敗すれば、パーティーは全滅だ。たとえ全部うまくいっても、ぜったいに勝てる訳じゃない。しかし

 

 

「……」

 

 

 それと同時に、絶対勝てるという自信が、ナナシの心に沸々と浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

(打つ手は無いだろうな)

 

 

 オセは目の前のナナシにたいして、そう推測する。いや、推測というよりは、確信のほうが近いだろうか。なんにせよ、ナナシに残された道は《死》だけだ。

 

 いくら仲魔を召還しようとも、“ベノンザッパー”で瞬く間に壊滅状態にしてやれる。向こうもそんなことはわかっている筈だ。

 

 しかし、諦める訳でもないようだ。毒と重症を負った仲魔二体で、まだ立ち向かおうとしてくる。

 

 次にナナシが何を仕掛けるか、オセは既に検討をつけていた。ナナシが出来ることといえば、かなり限りてくるからだ。

 

 

(次も一斉に攻撃してくる筈だ。それ以外に、私に傷をつける方法が無いからな)

 

 

 向こうは毒状態である以上、持久戦は賢くないだろう。短期決戦で、尚且つこの私に致命打を与えるにはそれ以外ないだろう。

 

 まさに乾坤一擲、天に運を任せた戦法だ。うまく隙をつければ、私を危機的状況に陥れれるかもしれない。だが

 

 

(そうそう上手くいかせんよ)

 

 

 その戦法を見切っている時点で、向こうがこの私に傷をつけれる可能性は、万の一もない。

 

 そう考え、オセは自身の持つ刀剣を握り直す。今度は“ベノンザッパー”みたいなぬるい技は使わない。せめてもの温情として一思いに殺せるよう、自分のなかでの全身全霊を込めた剣技で葬るつもりだ。

 

 するとナナシとその仲魔達はおもむろに走り始める。モウリョウが先頭、ユニコーンがそれに続く。しかし、ナナシはオセとは逆方向に走り、しばらく距離を離してから立ち止まってスマホを操作する。

 

 

(また有象無象を召還するつもりか)

 

 

 短期決戦をあきらめて持久戦に持ち込むのか、と考える。隊列を縦にしてこちらに突っ込めば、全体攻撃の衝撃波は先頭のモウリョウだけにあたり、実質化に不発になってしまう。しかし

 

 

(各個撃破に煩う程、私は軟弱ではない)

 

「ここはぁぁぁ!!!うぉ、うぉれのきょりだぁぁぁ!!!」

 

 

 身の程をわきまえずに突っ込んでくる目の前のモウリョウに冷ややかな視線を投げかけ、冷静にその霊体を自身の持つ刀剣で切り裂く。

 

 

「ちょ、ちょおいてぇぇぇよぉぉぉ!!!」

 

 

 モウリョウはその剣戟を避けることも受け止めることもかなわず、霧散していく。

 

 “ディアラマ”

 

「うぉ、うぉれいきてるぅぅぅ!!!」

 

 “アタック”

 

「なに!?」

 

 

 しかし完全にモウリョウが霧散する前に、何かの魔法が崩れるモウリョウに掛けられ、霧散しかけた体が元の状態に戻る。そのまま、オセはモウリョウの攻撃を受けてしまう。

 

 オセは心の中で舌打ちする。回復魔法を掛けたのだ、おそらくモウリョウの後ろにいるユニコーンが。持久戦に持ち込んだのはこの為か、とオセは感心し、同時に下らないと吐き捨てる。

 

 

「うぉ、うぉれ……もぅ、ごぉるしても……いい、よね……」

 

 

 モウリョウへの回復が追い付いていないのだ。それもそうだろう。モウリョウには毒が付与されている上、ユニコーンから受けている回復魔法の回復量がオセが与えるダメージを下回っているからだ。現に毒とダメージの影響で、モウリョウは錯乱して訳のわからないことを言い出している。

 

 どの道モウリョウは死ぬ定めだ、ならば早いとこ苦しみから解放してやろう。せめてもの情けとして、オセはモウリョウに数え切れない程の剣戟を繰り出す。

 

 

「うぉ、うぉれは、さんどばっぐかよぉぉぉ!!!」

 

 

 ダメージを受けては回復し、ダメージを受けては回復しを何度も何度も繰り返す。モウリョウの反撃はオセに大したダメージを与えられず、モウリョウだけがHPを削られる。そして、遂に均衡の破れる時がくる。

 

 

「ぐ、ぐぉぉぉ!!!」

 

 

 モウリョウが完全に霧散していく。モウリョウはダメージレースに負けたのだ。ユニコーンの回復も単なる時間稼ぎにしかならず、オセにダメージを負わせる事も、体力を消耗させる事も叶わなかった。

 

 

「ぅお、ぅおれにもぉぉぉ……。ICBM種をく、くれぇぇぇ……」

 

 モウリョウ HP 0/180 死亡

 

 

 そう残してモウリョウは完全に消えてしまう。消えたモウリョウの後ろには、毒のダメージが累積し息も絶え絶えのユニコーンが立っている。

 

 モウリョウが完全にやられたのを見て、ユニコーンは直ぐに後ろへ下がり、その後ろにいるナナシの横に並び立つ。

 

 

「……ん?」

 

 

 ナナシ達の横列をみて、オセは顔をしかめる。ナナシはモウリョウをけしかけてくる間、何かしらの悪魔を召還するとオセは読んでいた。そしてその読み通り、ナナシは仲魔を召還していた。しかし

 

 

「aぁA92まu金」

 

 

【外道】  スライム Lv2

 

  弱点[銃・呪殺以外の属性]

 

      HP 35/35 MP 37/37

 

 

 物理属性弱点の悪魔をだ。

 

 

「……」

 

 

 不可解極まりない行動だった。スライムの弱点をつかれ、隊列を乱されれば、当然ナナシ達に隙ができる。そうなれば、オセはもう一度攻撃する機会が生まれるからだ。

 

 しかし、オセはある一つの結論に達する。

 

 

(ブラフか)

 

 

 ハッタリだ。ナナシは普通ならばこの場面に、それどころが出せば自分達が不利になる悪魔を召還し、スライムに私の気を逸らせるつもりなのだろうと、オセは当たりをつけた。

 

 スライムがなにか仕掛けてくると注意を逸らされた私に攻撃を仕掛け、そこから潰しにくるのだろう。しかし

 

 

(私がスライムなんぞに、いちいち気を向ける訳がないだろう)

 

 

 注意を逸らされない時点で、その策は失敗だ。哀れだな、とオセは心中でほくそ笑む。

 

 なんとか勝とうと立ち向かうナナシは、しかしその実、敗北に向かって全速力で進んでいるのだ。

 

 もしこの少年がこのミカド湖にこなければ、もしも「あの御方」が殺すつもりで戦えと言わなければ、目の前の少年が死ぬことはなかっただろう。

 

 しかし、そんなもしもの事を考えたところで意味などない。さっさとケリをつけてしまおう。オセはそう考えナナシに向き直る。

 

 目の前の少年からは、依然として燃えるような闘志が見て取れる。その眼は、死を恐れない狂戦士を思わせるほどに爛々と輝き、オセを見つめている。

 

 

「……!」

 

 

 瞬間、ナナシはオセに向かっておもむろに走り始める。左手を突き出し、右手を振りかぶりながら突進してくる。右手は必要以上に振りかぶっており、握っているはずの剣が体に隠れ、体のバランスが後ろに傾いているほどだ。

 

 そのナナシに伴う形で、仲魔達が突進してくる。瀕死のユニコーンも、物理弱点のスライムでさえも突っ込んでくる。

 

 

(終局か)

 

 

 

 もうこれ以上、ナナシに苦しみを与えるのも、酷というものだろう。せめて、すっぱりと殺してやろう。そうすればナナシは必要以上に苦しまない。

 

 

(……そして、前の世界での借りも返せる)

 

 

 オセは剣を上段に構える。『冥界破』それがオセの放つ必殺の技。かの『破壊者』と名高い天使、『アバドン』も使う強力無比の物理技だ。全体攻撃の大威力というとてつもない破壊力を有した技は、一撃でナナシのパーティを壊滅させなおお釣りが出るほどだ。その技の有効距離に、死地に、少年は突っ込んでくる。

 

 一歩、二歩、ナナシは走ってくる。そしてとうとう、有効距離に入ってしまった。逃れられぬ死地に、完全に踏み込んでしまった。

 

 ナナシもオセの『冥界破』に合わせて、腕を振るってくる。しかしそれももはや意味をなさず、後にも先にも「一人の少年が死んだ」事しか残らない。振り上げた腕を防御に使おうと攻撃に使おうと、オセの放つ暴力の前では、なんの効果もないからだ。

 

 防御に使えば防御した腕ごと崩し、攻撃に使えば振るった腕ごと壊す、誰からどう見ても、ナナシの詰みだった。

 

 

 

「さらばだ弱き者」

 

 

 オセはそれだけ言い、剣を抜き放ち、技を繰り出す。技は強烈な衝撃はを生み出し、腕を振りかぶっているナナシたちへ襲い掛かる。

 

 

(……?)

 

 

 そこでオセは固まった。オセの目の前にいるナナシは、今にも腕を振り下ろそうとしている。振り下ろそうとする努力むなしく、もうすぐでナナシと『冥界破』が衝突し、ナナシこま切れとなって死亡するだろう。

 

 

 

 

 

 ……いや、ほんのすこしだけ言葉足らずだった。

 

 

 

 

 

 正確には、「腕だけ」を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

(!?)

 

 

 どういうつもりだ。ナナシは剣を握っていなかった。オセは握りこぶしを振り下ろしている事実に戸惑う。しかし、それも一瞬のことだ。なぜなら、すでに最強の一撃は放たれ、ナナシに衝突しようとしている。今更なにをしようと、もう遅い。自分の勝ちは揺るがない。オセは確信した。

 

 確信して、気づいた。オセとナナシの距離がある程度近くなっていたので、気づけた。気づいてしまった。

 

 

 

 ナナシ達の体から、薄い茶色の反射光が出ていることに。

 

 

(ま、まずい!!あれは、あの技は!!!)

 

 

 焦るオセの目の前で、ナナシは握りこぶしを開いていく。その手のひらに、とても小さい人が乗っている。その体は蓮の葉で包まれ、後光が指している。その小人にも、衝撃は襲い掛かる。襲い掛かってしまう。

 

 

 

 そして

 

 

 “テトラカーン”

 

 

 カイーンッという小気味のいい音と共に、ナナシ達に放った『冥界破』の衝撃が、オセへ方向転換する。すべてを破壊する暴力が、自分のもとへ戻っていく。

 

 

(負け……だ)

 

 

 自身の放つ渾身の一撃にほかでもない自分が滅ぼされる未来の光景を予見し、オセは確信してしまった。もう勝てないということを。自分はここで消えてしまうのだと。

 

 

(また負けるのか、私は)

 

 

 あの忌まわしい神の力がなくなり、ナナシは前よりずいぶんと弱くなってしまった。そして、油断した。だから、最後の最後まで“テトラカーン”を見抜けなかった。考えが足りなかった。

 

 結局、「あの御方」のいう通りだった。「殺す気で戦え。でないと、手痛いしっぺ返しを受ける」そう忠告されたというのに、自分は最後まで目の前の少年を甘く見、殺されてしまうのだ。

 

 オセはふと、ナナシと初めて出会った神田の社の出来事を思い出した。

 

 あの時から、只者ではないということはわかっていた。神の力を振るい、仲魔を自由自在に操る姿は、脅威を感じさせられた。その脅威が再び目の前に現れ、もう一度その脅威に殺される。もはや目の前の非力な少年は少年ではなく、あの時の脅威へと姿をかえていたのだ。

 

 そんな僅かなオセの思考を長くは続かず、『冥界破』の衝撃はかなりの速さでオセへと進み、目と鼻の先まで来てしまった。

 

 

(閣下)

 

 

 オセはせめて、最後の独白を紡ごうとする。

 

 

(あいつは、あの人間は)

 

 

 生かしてはダメです。その負け惜しみともとれる独白は形を成す前に、オセの消滅と伴い、意味をなくしたのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 十六夜達はひたすら東北東を進んでいた。どこぞの知人のせいで面倒な目に遭ったが、だからといって放っておくわけにはいかないからだ。

 

 ナナシの目撃証言のあった方向にただひたすらに進んでいくと、遠目にとても雄大な湖が広がっていることに、十六夜と黒ウサギは気づいた。

 

 

「ここが東北東の果てらしいな」

 

「えぇ。このミカド湖は、東北東の目印となる有名な湖で、かの有名なコミュニティ「ゴエティア」の魔王が……って、ん!?」

 

 

 そんな十六夜達の視界の端に、見覚えのある顔が映った。湖のほとりでゆうゆうと寝転びながら、心地良さそうに昼寝をしているあのソフトモヒカン野郎こそ、まさに散々人様に迷惑をかけまくり、今まで十六夜達が探し回っていたナナシその人ではないか。

 

 

「こっちはあたふたしてたのに当の本人がこの体たらくとはどういうことでやがりますかぁー!!」

 

 

 すやすやと寝息までご丁寧にかいているナナシに向かって、黒ウサギはハリセンで叩きにかかる。

 

 しかし、あたる直前でナナシはパッチリと目を覚まし、ハリセンをローリングで交わした。

 

 避けられたことに黒ウサギが憤慨し何度もハリセンを振るうが、その度に避けられ、次第に黒ウサギも無駄だと理解し、ため息をつきながらハリセンをしまう。

 

 ちなみに起きたばかりのナナシは不機嫌そうに目をしたたかせている。基本的にナナシは寝起きは不機嫌になる男だった。

 

 

「まったく、心配したんですからねナナシさん!しかもよりによって『オセ』が守護する湖で昼寝かまして!『オセ』が今は居なかったからよかったものの、もしいたら半殺しにされてましたよ!」

 

 

 そのオセが居ないのは自分が倒したからだ、と説明しようとして、やめる。いったら余計面倒なことになると踏んだからだ。

 

 

「ま、黒ウサギもそのへんにしとけよ。おめぇだって人の事を言えない程に、わがまま極まりないことをしてんだからよ」

 

「うっ……。と、とにかく!その話をするためにも、二人には箱庭に入っていただく必要があります!ですからお二人には来ていただきますよ拒否権はございません!!」

 

「……」

 

「不服そうな顔をしてもダメなものはダメです!!」

 

 

 このあと箱庭の果てにそってマッピングしようとしたナナシは、黒ウサギの言葉に難色を示さずにはいられなかった。せっかく昼寝をしてマッピングの為に英気を養っていたというのに、これでは何のために昼寝をしたというのか。

 

 

「ヤハハ!!ナナシ、まぁ今はこいつの言う通りにしようぜ。どうせ箱庭の外に出る機会は今後、腐るほどあるだろうし!」

 

「なにもう一度箱庭の外へいくぜ宣言してんですかあなたわぁー!」

 

 

 十六夜に黒ウサギはハリセンでぶっ叩きながらツッコミをいれる。傍からみたら完全に漫才のそれにナナシは箱庭の外をマッピングをする気概を萎えさせられる。

 

 どのみち抵抗しても許してくれないのは目に見えている。だから黒ウサギに何も言わずにマッピングしたのだ。箱庭の外をマッピングするのは一旦諦めよう。ナナシはそう考え

 

 かわりに箱庭の中をマッピングしようと、懲りずにマッピングしようとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スダマ

日本古来の伝承に伝わる山水木石の霊。漢字で魑魅とかかれ、元々は一つの霊、魑魅魍魎と呼ばれていた。しかし、時代ご移ろいでいくにつれて、スダマとモウリョウという霊にわかれてしまった。

本編の「ぅお、ぅおれたちがぁぁぁ!!」のくだりはこれが元ネタ。


モウリョウ

日本の古来の伝承に伝われる人が成仏できなかった魂。漢字で魍魎とかき、前述した通り元々は魑魅魍魎と呼ばれていた。


オセ

ソロモン王72柱の一柱。東の守護を受け持つ悪魔でもある。召還主を本人の望む姿に変えられる。


ユニコーン

今作で最初のオリジナル悪魔。(といってもメガテンシリーズに何度もでてはいるが)所持スキルはディアラマとラクカジャと夢見針。

額に一本の雄々しい角を持つ馬の姿をした伝説上の生物。気性はとても荒いが、伝承によると処々の懐に抱かれると大人しくなってしまうという。この伝承のせいでユニコーン=処女厨みたいな設定が色んな作品に生まれてしまう。(かくいう問題児でも処女厨設定の片鱗を覗かせていた)己の伝承に己の首を絞められる、なんとも可哀想な悪魔である。


ガキ

真・女神転生3またはストレンジジャーニーにおけるド畜生。

真面目に解説すると仏教の転生先の道先である六道のうち、餓鬼道に堕ちた悪鬼のことをいう。(その為、クエンも元々は餓鬼の一種だった)餓鬼道に落ちた者は生前、餓えている人から食べ物を奪ったり、重量をごまかして肉を売った等した者がこの餓鬼道に落ちるらしい。


ケンタウロス

ギリシア神話に登場する半人半魔の怪獣。馬の首から上が人間の上半身に置き換わった見た目をしているらしい。好色で酒好きの性格をしており、真・女神転生4でケンタウロスに交渉すると度々「酒を出せ」とせびてくるといったオマージュがなされている。


スライム

“ぷるぷる。ぼくわるいスライムじゃないよう”

冗談はさておき、悪魔全書いわく悪魔の住む「アッティルト界」から、人間の住む「アッシャー界」に進出し損ねた悪魔の哀れな姿……らしい。

尚、両方ともカバラ魔法学におけるセフィロトの樹に属しており、アッティルト界には人間の魂の原型である“アダム・カドモン”が存在している。この“アダム・カドモン”が、デビルサマナーシリーズの“ドリー・カドモン”ではと言われている。




悪魔解説はこんなところでしょうか。解説なのにまだまだ知識不足感が否めませんが、どうかご容赦してくださると嬉しいです。

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