俺の友達が美少女になったから凄くマズい。   作:4kibou

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息抜き。リハビリ。(割烹とは関係)ないです。












注)オリ主くんがオリ主ちゃんになった世界線です。引き返すならいまのうちだよ。


番外編とも言えないナニカ
私はこの可能性を見ない……ッ!


 

 

 

 

 

 

 拝啓。お父様、お母様。

 ……もとい、前略、俺のご両親さま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――植里蒼は、女の子になってしまいました。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 窓の外を見れば、大雨が降っていた。

 

「…………、」

 

 ざあざあと鼓膜を震わせる雨音を、窓を隔てて眺める。気分はさながら深窓の令嬢だ。なんだかおしとやかに思えてくる気分にノスタルジックさを感じつつある。灰色の雲と涙のように流れる雨。さながらそれは俺の心のようで、失ったナニかはもう戻らないという事実を押しつけてくる。ああ、なんてことだろう。現実はこうもおぞましく、恐ろしい――

 

「ただいまー」

「……おかえり、一夏」

「? なんだ、窓の外なんか見て。お嬢様ごっこか」

「おかえりなさいですわよ」

「似合わないな、蒼」

 

 女になっても、なんて言ってくる一夏を殴るかどうか俺は本気で迷った。ちょう迷った。しかしここは窓枠から外の景色を見て悲嘆にくれる箱入り娘。深窓の令嬢ウエサト姫である。寛大な心をもって許さなければお嬢様ポイントがなくなる。ふふふ、見てろイケメン。

 

「よくってよ!」

「は?」

「わたくしに跪きなさい! そして豚のような悲鳴をあげろ!」

「キッチン借りるぞー」

「スルーするのやめて? 心にくるからね?」

 

 ポッキーのごとく折れそうな心を保ちつつ振り返れば、そこにやつの顔が見えた。織斑一夏。メタ的に言えばこの世界線の主人公である。ヤツは当たり前のように俺の部屋にあがってなぜか台所へと入っていった。ねえ、俺の部屋なんだけど。

 

「なに買ってきたんだよー」

「ん? あー……まあ、適当に料理の材料」

「それを聞いてるんですけど(真顔)」

「なんでそこでマジトーンになるんだ……」

 

 疲れてるのか? なんて聞いてくる一夏。たしかに疲れている。俺は確実に疲れている。なにせ数ヶ月前にどこかの誰かさんのせいによって男の子から女の子へとなってしまった。うん、なにかの間違いだろこれは。俺より一夏のほうが主夫力あるし合ってるんじゃないか。おかしなクスリで弄るにしても注入する相手間違えただろあの天災。

 

「というか雨すごいぞ。この分だと明日まで降りそうだ」

「まじかー……じめじめすんの嫌いだわー」

「冬場の雨はちょっとなあ」

 

 と、同意しながらもなにやらキッチンで作り始める一夏。時刻はちょうど十二時半を回った頃。お昼時にしてはまあちょうどいい時間と言えなくもない。

 

「なにしてんの」

「見りゃ分かるだろ」

「見ても分かんないから聞いたんですけど(真顔)」

「ええ……(困惑)」

 

 胡乱げな目でこちらを見てくるイケメン野郎。やめろ、惚れるだろ。もう惚れてる。……え? え??(混乱)

 

「嘘だろ承太郎……」

「いや急に何言ってるんだ……」

「すまん。ちょっと俺の迸る熱いパトスで、思い出を裏切りそうで……」

「少年が神話になるのか」

「ワンチャンある」

 

 ない。そんな他愛もない会話をしつつも、一夏は着々と料理の準備を進めていく。なんだろう。この光景に慣れ始めた自分が怖い。なにが怖いってこの状況に特に否定したくなる感情がないのが怖い。

 ど う し て (震え声)

 

「やばいやばい……」

「……どうした、蒼。今日のおまえなんかおかしくないか?」

「おまえのせいじゃい!」

「ええ……(困惑)」

 

 おまえよく困惑すんな(困惑)。ちょっと困惑の意味がゲシュタルト崩壊しかけている。

 

「っていう冗談は置いといて」

「あ、冗談なんだな」

「冗談じゃなかったらやばいだろ。あっはっは。……やばいなー、コレ」

「?」

 

 首をかしげるイケメンにからからと笑いながらチラリと自分の体を見てみる。現実は非情である、という事実をこんな形で再確認するとは思いもしなかった。ボサボサの髪と貧相な体躯。おめでとう! 非モテ系陰キャ植里くんは地味目なちっぱいオタ少女に進化した! どこらへんが進化しているのか。ちょっとよく分かんないですね。

 

「で、お昼はなんだよ、あなた」

「ハンバーグだよ、マイハニー」

「――――」

「? 蒼?」

「……君、ちょっと黙れ」

「なんでだ!?」

 

 そこは「なんでさ」だろう、なんて言葉を喉元でこらえつつ俯く。うはーやばいこれ。なにこれちょうやばい。なんでさらっとそういう返ししてくるのおまえ。これおまえ俺じゃなかったら間違いなく勘違いしてるよ? ほんとおまえ俺のこと好きなのかとか勘違いしちゃうよ? どうなの? 死ぬの? ていうか俺が死にたい。

 

「はあ……はあ……!」

「……大丈夫か? なんか、息荒いけど……」

「敗北者……?」

「いや言ってないけど」

「取り消せよ……いまの言葉……!」

「本気で大丈夫か、頭」

「大丈夫、大丈夫……ふぅ」

 

 落ち着いた。大丈夫だ、問題ない。むしろ問題しかない気がするけど問題ないって言ったら問題ない。よし、もう落ち着いたぞ。これだけ頭を回せるなら俺はぜんぜん平気だ。なにも間違っちゃいない。よしいける。顔をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、本当に平気そうだな」

「――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 顔がよすぎるっ……!

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああもう無理いいいいいい!」

「へぇっ!?(汚い高音)ちょっ、蒼!?」

「なんでおまえはそうなのお! 無理だろこれえ! 無理だってこれえ! ああもう本気で誰か俺を殺してくれよお! むしろ死んでやるよお! ああああああああ!」

「いや本当にどうしたんだおまえ!? いいから一旦落ち着け!」

「うわああああああん! 一夏ああああああ!!」

 

 天災ウサギぜってぇ許さねえ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「……落ち着いたか」

「うん……サンキューな……」

 

 ずず、と湯飲みを傾けながらぼそぼそと答える。正直気まずい。ものっそい気まずい。どうしようコレ。なんか変な発狂したヤツとか思われてないかコレ。大丈夫かコレ。

 

「まあ……その、なんだ? 蒼も色々、女になって苦労とかあったんだろうし……大変なのは分かるからさ。愚痴とか、助けて欲しいところとか……なんかあったら言ってくれよ。俺にできることならなんでもするからさ」

「いまなんでもするって言ったよね?」

「? おう、言ったぞ」

「じゃあ……あー……どうしよっかなあ……コレ……」

 

 はあ、と力ないため息が自然と漏れた。ほんとどうしようコレ。どうにもならないんだけど。特にコイツ相手だからどうしようもないんだけど。でももうちょっとね、無理なんだよ。なんていうか、こう、長く続いてしまって、しかも戻る方法諸々が分からないままというのがトドメになっている気がする。

 

「……俺さー」

「ああ」

「今年の四月にさー……その、(こんなん)になったじゃん?」

「そう、だな……」

「いや、そこで気ぃ遣わなくてもいいから……」

 

 実際問題事実である以上はどうしようもない。植里くんはジョグレス進化して植里ちゃんになった。誰と合体したんだよ。変なクスリと混ざり合ったからそれか? いやねえわ。むしろ進化でもなんでもないよこれ。すくなくとも胸部ぐらいはキョダイマックスになるとかそういう特典はなかったんですか?

 

「そっからさあ、色々あったじゃん」

「まあ、そうだよなあ」

「うんうん。でさ……周りは騒がしいし、親は認知してくれたけどプレッシャーすげえし、千冬さんからのなんだか可哀想なものを見るような目に心が震えたし」

「それについては弟として申しわけなく思う」

「いいよ。別に、そんな? 気にしてませんし? ……ぐすん」

「すっげえ傷付いてる……」

「冗談……っ。ま、そんなことがありながらもさー、こうやって何でもない日々を過ごしてきたワケですよ」

 

 そう、それ自体はなんら問題なんてない。むしろ弾とか数馬とか、俺が女になって困っていても変わらず居てくれた奴には感謝してる。もちろん目の前の一夏にも。女性恐怖症のくせに性転換なんて希有な体験をして、それでちょっと恐慌状態に陥っていた俺をあやしてくれたことだってあるのだ。そこに文句を挟むところなんて一ミリもない。

 

「正直、そんな時間がずっと続けばいいと思ってた、最初は」

「蒼……」

「おまえらと馬鹿やって、笑い合って、でもってちょっとだけ泣けてさ。そういう……なんていうの? 月並みの幸せっていうのかな。そんなんが、ずっとあればいいなあって思ってた」

「…………、」

「だっていうのになあ……やっぱりおまえ、織斑一夏(主人公)だよ」

「は?」

 

 すっと、前を向く。虚をつかれたような一夏には、きっと一分も伝わっていない。そんなことは分かってる。所詮人間同士の意思疎通なんていうのは言葉に頼らなくちゃ確証なんて得られない。頼ったとしても疑問が残るぐらいなのだから、なにも言わなければなにも伝わらない。だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あなたに恋をした」

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたに跪かせていただきたい、夏よ」

「ちょっと待て?」

 

 なんだろう。最大限の俺の気持ちを伝えようとしたのだが、どうにも一夏の様子がおかしい。なんだなんだ。ちょっと今良いところなんだぞ。

 

「どうした一夏。なにか問題でもあったか?」

「えーっと、むしろ問題しかないんだが……」

「じゃあ言い直す。――時よ止まれ、君は誰よりも美しいから。永遠の君に願う。俺を高みへと導いてくれ」

「いや言い直すなよ。おい、ちょっと。蒼?」

「流出――!」

「千冬姉ー!」

「やめろォ!?」

 

 安易に世界最強を呼んではいけない(戒め)しかしながらどうやら織斑くんは俺の告白が気に入らなかった様子。なんでだろう。真剣に考えてみるが答えは一向にでなかった。やっぱり銀河一ウザい水銀では駄目だったのだろうか。

 

「誤魔化すなよ……本当、悩みとかあるなら聞くぞ?」

「おいおい、そんなこと気軽に言っていいのかあ?」

「いいよ。だって友達だろ、俺たち」

「……あー……いや待って。それは今、本当、マジで待って。ちょっと、クルから」

「?」

 

 それはちょっと無理だ。色々あったあとにその台詞は重いきつい。ああどうしよう、俺はつらいたえられない。死んでくれ杏寿郎。

 

「蒼?」

「あー……その、さ。いや……冗談でも言わねえと、耐えらんないだけでさ」

「……あ、うん……?」

「……ほんと、悪いんだけ、ど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれ、おまえに惚れてる、みたい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うそだろ」

「マジ、なんだよなあ……」

 

 マジじゃなかったらここまで胸がきゅってならないんだよなあ……。ほんと、つらい。

 

「え、えっと、その……いつから?」

「……二月前」

「ふ、ふたっ……!?」

「……文化際、あったろ。そのときノリで社交ダンス踊ったじゃん」

「あ、ああ。踊った、踊ったぞたしかに」

「それで、なんかこう、天啓的に気付いた。あれ、俺こいつのこと好きじゃん……って」

「…………まじか」

「マジ、なんだよなあ……」

 

 はあ、とひとつ重いため息。これほど苦しいコトもない、なんて思ってしまうのはすでに参っている証拠か。ともかく俺は女になって盛大な過ちを犯してしまった。そう、まさか、この俺自身が、原作主人公に惚れるなんて。ないわー……マジでないわー。ウケる。ウケるかよ馬鹿野郎。

 

「そ、その……えっと、俺は……」

「あっ、あーっ! 待った! 無理に答えようとすんな! いいんだよ別に、俺のことは。もともと……そういう関係になれるとも? 思ってないですし?」

「お、おう……いやでも」

「ただ! ……ただ、そこまで言うんなら、ひとつ。ひとつだけ……その、お願いが、あります」

「……なん、だ?」

 

 ごくり、と生唾を飲みこむ音が聞こえた。どちらかなんて言うまでも無い。この場において緊張しているのはたったふたり。……そうだ俺もしっかり緊張している! もう心臓はバクバクだし手汗ハンパないし脳みそぐるっぐるでこのまま卒倒しそうだ! でも意識だけはしっかり保つ! がんばれ蒼! おまえはヘタレだ! 大事なところで引くような奴だ! これまでもこれからも! 折れていても俺はヘタレのままだ! フォローになってない。

 

「――セックスしてください」

「………………は?」

 

 ぽかん、と口をあけて信じられないものを見るように一夏が固まる。うん、聞こえなかったのかな?

 

「え、いま、なんて?」

「エッチしてください」

「はい?」

「ハメてください」

「いやおかしいだろ!?」

「なにもおかしくねえよ!!」

 

 がたん、とほぼ同時に動き出す俺と一夏。ちょっと手が痛かった。あとで一夏に湿布はってもらおう。

 

「考えてもみろよ!? 俺はさ!? こんな風に女にされて!? 男である記憶を持ちながら、後の人生を悶々と悩んで過ごしていくわけですよ! あー俺ってなんで生きてんだろうって思いながら! 恋人もできずに! 恋人もできずに!」

「だからって! その、そういう行為に走るのは違うだろ!?」

「違わねえよ! 俺ぜったいおまえ以外の男とヤルのなんて無理だからな!? ほんっと無理! マジで無理! でもこのまま一生なにもしないまま終わるなんてできないだろ!? じゃあどうか処女だけでももらってくれよ頼むよ! 一生に一度のお願いだよ!」

「一生に一度しかないモノを賭けてそんなこと言うんじゃねえよ!?」

「だから言ってんだよ! おまえのことが好きなんだよ! エッチしてくれ頼む! 彼女にしてくれとか恋人になりたいとかめんどくせーこと言わねえからさあ! せめて処女だけでももらってくれませんか!」

「それおまえが前にやってたゲームのセリフじゃねえか」

「ちっ、バレたか」

 

 さとい奴め、と言いながらすこし後ろに下がる。ちょっと熱も下がってきた。クールダウンだ、落ち着け俺。熱くなるのはお腹の下あたりだけでいい。よくない。

 

「はあ……なんなんだよまったく、いきなり……」

「あっはっはー……いや、女の子になったら定番だと思ってな?」

「本気で肝を冷やしたぞ……一時はどうなるかと……」

「あっはっはー」

 

 けらけらと笑いながら言うと、一夏が「まったく」なんてむくれながら料理に戻る。

 

「……でさ、一応聞いとくけどさ」

「うん? なんだよ」

「俺が本気でおまえに惚れてるー……とか、言い出したらどうする?」

「……そうだなあ……」

 

 と、一夏はすこし考えるようにぼんやりと上の方に視線をやって、

 

「――ま、そのときはなるようになるだろ。色々」

「……そっか」

 

 そんなコトを言うものだから、なんとも言えなくて笑ってしまった。マジレスとか、ちょっと無理なので、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あーあ、本当……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……この気持ちは、いつになったら無くなるんですかね……マジで)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




植里蒼ちゃん

中学三年生

ちっぱい。身長は低い。


ボサボサの長髪をそのままにした地味子ちゃん。立派な陰キャ系女子だぜやったね! ただし隣にいるのがイケメンな時点でお察し。


男友達特有のノリの良さと拙作オリ主特有のウザいノリを駆使しつつ一夏くんと綱渡り気味な日々を過ごしていくが時々決壊する。そして泣く。めんどくせえ……


無論泣いたあとはネタを織り交ぜつつ必死に元の関係を取り戻そうとするが実は一歩進みたい心とのジレンマの狭間で揺れる。そしてまた決壊する。なんだこいつ……



当然本人には自覚はなけれども全力のヒロインムーブをかますため着実に距離を縮めつつ自分から逃げていくが結局ホールドされる……ような世界線があるといいね? まあ一夏ニキなら大丈夫でしょ、たぶん。








全盛期の切れ味が取り戻せない……ッ!

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