お気をつけください。
今まで書いてきた短編と繋がりがありますので
そちらを先にお読みになることをお勧めします
黒森峰女学院戦車道の副隊長、逸見エリカは隊長の西住まほに呼び出されていた。
「隊長、なにか御用でしょうか。」
「ああ、実は近々学校間の交流の一貫で戦車道の短期交換留学を実施することになってな。」
「交換留学?」
まほはエリカに書類を手渡す。
「期間は2週間、その間私と相手の高校の戦車道の隊長を交換しよう、ということだ。」
「なるほど。」
エリカは納得したように頷くと。
「話は分かりました、それで相手の高校はどこですか?
プラウダ?サンダース?
もしかして・・・大洗ですか?」
まほはそのどれでもないと首を横に振る。
「アンツィオだ。」
「アンツィオ!?」
エリカが驚きの声を上げる。
「なにか問題があるか?」
「大アリです!だってアンツィオですよ!?
年中頭の中パスタまみれの連中ですよ!?
しかもそこの隊長って大学選抜戦での作戦会議中にパスタ発言した人でしょ!?
あんな事言う人が2週間も隊長って大丈夫ですか!?」
「確かにあの発言は1発ゲンコツをくらわせて外に放り出してやろうかと思ったがな。
だが大丈夫だ。
それに、あまりアイツを、アンチョビを見くびらない方がいい。」
まほの言葉の意味がわからないまま、エリカは交換留学当日を迎えた。
#####
エリカたちは港でアンツィオの学園艦が来るのを待っていた。
暫らくすると、港に学園艦が到着し中から3人の生徒が出てくる。
元気で活発な生徒と落ち着いた雰囲気の生徒の真ん中に特徴的なツインテールを揺らす童顔の少女がいた。
アンツィオ高校戦車道の隊長、ドゥーチェ・アンチョビである。
まほが近寄るとアンチョビはイタリア式の挨拶をする。
「久しぶりだな西住。
直接合うのは大学選抜戦以来か。」
「壮健そうで何よりだアンチョビ。
二週間の間だがうちの生徒をよろしく頼む。」
「あぁ、そっちこそうちの子達をよろしく頼むぞ。」
「そうだアンチョビ、1つだけ言っておくことがある。」
「ん?なんだ?」
まほはアンチョビの耳元に口を寄せると小声でいう。
「ここでは、アンチョビより安斎千代美の方がいいぞ。」
その言葉の意味を理解したのかアンチョビはフッと笑う。
「分かった、多少キツめにいくぞ。」
「よろしくたのむ。」
そうしてまほはアンチョビを連れてきた生徒ふたりと共にアンツィオの学園艦に入っていった。
アンチョビはエリカに近づく。
「久しぶりだな逸見。
これから2週間よろしく頼むぞ」
「・・・・はい、よろしくお願いします」
エリカはアンチョビを練習場へ連れていく。
そこには、黒森峰の生徒が集まっていた。
アンチョビは生徒達の前に立つと全員に聞こえるように大声で自己紹介を始める。
「黒森峰諸君!私がアンツィオのドゥーチェ・アンチョビだ。
これから2週間だけだが西住の代わりに隊長をやらせてもらう事になった。
いろいろと至らない部分もあるかもしれないがよろしく頼む。」
そのアンチョビを黒森峰の生徒は不安げに見ていた。
なんせあのアンツィオの隊長だ。
いきなり信頼しろという方が無理だろう。
それはエリカも同じだった。
(短期間とはいえ、こんなやつが隊長で大丈夫かしら。)
その周りの視線をアンチョビは意に介せず全員に向かって口を開く。
「それじゃあ、練習を始めようか。」
#####
「・・・なにこれ。」
エリカは目の前の光景に唖然としていた。
「こらそこ!隊列を乱すな!」
「そんな動きじゃすぐ包囲されて終わるぞ!
もっと状況を見て行動しろ!」
「敵は常に動き回ってるんだ!そんな攻撃じゃかすりもしないぞ!」
練習が始まるとアンチョビは、いつもの優しげな雰囲気はどこへやら、生徒達へ怒号を飛ばす鬼教官と化していた。
(な・・・なんなのこの人。
さっきまでの人畜無害な顔はどこいったのよ。
これじゃまるで・・・)
エリカは一瞬、アンチョビの横顔にまほの面影を見た。
「逸見。」
「ひゃい!」
「ど・・・どうしたんだ?」
「い・・・いえ、なんでもありません。
なにか御用ですか?」
落ち着いたエリカにアンチョビは言う。
「もうすぐ戦闘訓練を始めるから全員を集めてもらっていいか?」
「はい、わかりました。」
「よろしく頼む。
では私も戦車を持ってくる。」
そう言って歩いていくドゥーチェの背中をエリカは呆然と眺めていた。
#####
その後、戦闘訓練でエリカをボコボコにしたアンチョビは戦車道の生徒全員を集めた。
生徒達は何を言われるだろうと緊張した面持ちだったが、アンチョビは満面の笑みを向けた。
「みんなお疲れ様だ!
やはりすごいな黒森峰は!
聞いていた通り優秀な生徒ばかりだ。
明日もこの調子で頼む!
では解散!」
予想外のベタ褒めに全員唖然とするが。
暫らくすると一斉にアンチョビに頭を下げる。
「「「おつかれさまでしたぁぁぁ!」」」
「うん、お疲れ様。」
そしてほとんどの生徒が散っていく中、
何人かの生徒はアンチョビに駆け寄って行く。
「隊長、質問したい事があるんですけどいいでしょうか?」
「私も!隊列の事で少し不安のなことがあって!」
他にも数人の生徒がアンチョビに群がり質問していた。。
「わ・・・わかったわかった!
少し落ち着け!質問にはちゃんと答えてやるから!」
生徒に囲まれて慌てているアンチョビを、
エリカは少し羨ましそうに見ていた。
#####
「まぁ、今日はこんなところだな。」
アンチョビはアンツィオにいるまほに電話で連絡を取っていた。
「お前の多少は少々多めだな。」
「お前がこうしろって言ったんだろ?」
「・・・確かにそうだな。」
「それにしても、逸見の奴は前に会った時より少し丸くなったなぁ。
なにかあったのか?」
「色々あってな、みほと和解したんだ。」
「そうか!それはよかったなぁ!」
アンチョビはまるで自分のことのように喜んだ。
「ずいぶんと喜んでくれるんだな。」
「ん?そうか?まぁ仲直りできてよかったな。」
「あぁ、本当にな。」
まほは本当に嬉しそうに言った。
「だが一方でエリカは、自分の殻を破りきっていない気がする。」
「確かにそうだな・・・何かきっかけがあればいいんだが。」
「・・・アンチョビ、エリカのことを頼んでいいか?」
「なんでだ?」
「きっと私では、あいつの殻を破ってやれない。
でもお前なら出来る気がするんだ。」
「買い被りすぎだぞ。」
「たのむ。」
「・・・分かった、できる限りのことはやってみよう。」
「ありがとう。」
「だがあくまで殻を破るのはアイツだ。
私はヒビを入れるだけ、自分で外に出れない雛鳥を助けるほど、私は優しくない。」
「ああ、分かってる。
それじゃあ、お休みアンチョビ。」
「ああ、おやすみ。」
アンチョビは電話を切るとベッドに仰向けに倒れた。
(さて、ああは言ったもののどうするべきか。
うーん)
考えているとアンチョビの腹の虫がなった。
(・・・とりあえずパスタを食べてから考えよう。)
そう心の中でつぶやくと、アンチョビはベッドから立ち上がった。
#####
留学二日目
今日も黒森峰は訓練に励んでいた。
「逸見。」
アンチョビはエリカを呼ぶ。
「なんでしょうか、隊長。」
「西住が卒業した後の後任の隊長はお前だと聞いているが、副隊長の目星はつけているのか?」
「はい、2年生の赤星小梅が適任かと。」
「その心は?」
「1年生からも信頼されていますし、それに最近は実力も申し分ないほど上達しています。」
「ふむ、結構。」
アンチョビは少し悩んだ後顔を上げて言う。
「よし逸見、留学最終日に練習試合をやるぞ。」
「練習試合・・・ですか?」
「ああ、お前は赤星と一緒に1年生と2年生からメンバーを選抜してチームを作れ。
私は三年生から選抜する。
ルールは10対10のフラッグ戦。
最終日までに練習後に作戦会議をしてお互いに準備を整える。」
「また急ですね。」
「まだ先とはいえ、お前と赤星で率いていくつもりならこういう事も経験しておくべきだろう。
それとも、負けるのが怖いのか?」
「そ・・・そんな訳ありません!
分かりました!やりましょう!
やるからには勝ちますからね!」
「よし、その意気だ。」
アンチョビはエリカに右手を差し出す。
「いい勝負をしよう。」
「・・・はい。」
エリカはその手を握り返した。
#####
エリカは自室のベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
「・・・疲れた。」
あの後、結成したチームで作戦会議をしたのだが、一向に進まず時間だけを消費してしまった。
(このままじゃまともな作戦なんて立てれないわよ・・・何とかしないと。)
エリカはふと自分の携帯に付けている、ボコられグマのボコのストラップを見つめる。
「アイツなら・・・どうするのかしら。」
そうつぶやくとエリカは何かを振り払うように首を横にブンブンと振った。
(だめよ!これは私の問題なんだから!
・・・私ひとりでなんとかしないと。)
そう言うと、エリカは深くため息をついた。
(今日はもうシャワーを浴びて寝よ。)
そう言うとエリカは立ち上がり、シャワールームへ歩いていった。
#####
留学3日目。
アンチョビの周りにはさらに人が集まるようになっていた。
練習では厳しいが、基本的に人当たりのいいアンチョビに生徒達が懐くのに時間はいらなかった。
一方エリカは・・・
「なんですってぇ!」
エリカは目の前の生徒の胸ぐらを掴んでいた。
「もう一回言ってみなさい!」
「何度でも言ってやるわよ!
あんたみたいなのが隊長になるんじゃ黒森峰も終わりって言ったのよ!」
「下っ端の癖に調子に乗るんじゃないわよ!」
「たしかに私たちは下っ端だけど、アンタだって西住隊長におんぶに抱っこじゃない!」
「この・・・!」
エリカは手を振りあげる。
「エリカさんダメ!」
赤星がエリカにしがみつく。
それで冷静になったのか、エリカは掴んでいた手を離した。
「・・・今日の会議はこれで終わりよ。」
それだけ言うとエリカは会議室から出ていった。
#####
廊下に設置されているベンチに、エリカは座って項垂れていた。
(もう・・・どうすればいいのよ・・・)
エリカは深くため息をついた。
(こんなんじゃ作戦なんて立てられない・・・
それどころか・・・隊長になんて・・・)
「逸見。」
自分を呼ぶその声に顔を上げると、
アンチョビが心配そうにこちらを見ていた。
アンチョビはエリカの隣に座る。
「どうした?何かあったのか?
なにか悩みがあるなら話してみろ。」
「ドゥーチェ・・・。」
エリカはアンチョビに静かに事の全容を話した。
「なるほど、それでひとり落ち込んでいたわけか。」
「・・・私には・・・無理なんでしょうか。
西住隊長のようになるのは無理なんでしょうか。」
「無理だろうな。」
その言葉に、エリカはガクッと肩を落とす。
「ドゥーチェ・・・そこはそんなこと無いって励ましてくれるところじゃ・・・。」
「いやいや無理だろ。
だってあの西住だぞ?
撃てば必中、護りは硬く、進む姿は乱れなし。
あの西住流の後継者だぞ。
並び立てと言う方が無理な話だ。」
「・・・つまり、私には隊長になる資格はないと。」
「いや、それは違う。」
アンチョビはエリカの目をまっすぐ見てそう言った。
「エリカ、お前は自分が西住みほの代わりだとでも思ってるのか?」
「そ・・・そんなわけないじゃない!」
エリカは、アンチョビに敬語も忘れて怒鳴る。
「何故だ、なぜそう言い切れる?」
「西住隊長が私を選んだのは、私が一生懸命頑張って実力をつけたから!
西住隊長が私を認めたからよ!」
「・・・そうだ、分かってるじゃないか。」
「・・・え?」
アンチョビは優しく微笑む。
「西住がお前を選んだのは、妹の代わりでも、ましてや自分のようになって欲しいわけでもない。
お前が逸見エリカだからだ。
お前なら自分がいなくなった後も黒森峰を率いていける。
だからお前を選んだんだ。」
静かに話を聞くエリカにアンチョビは続ける。
「だから逸見、あいつの背中を追おうとするな。
お前はお前の戦車道で、これからの黒森峰をまとめていけばいいんだ。」
そう言ってアンチョビは立ち上がる。
「まぁお前には、まだ足りないものがあるがな。」
「私に・・・足りないもの?」
「それは自分で気づけ、答えは案外身近にあるかもしれないぞ。」
そう言うとアンチョビはその場を立ち去って行った。
(・・・どういうこと?)
最後の言葉の意味がわからずエリカが首をかしげていると。
「エリカさん!」
声のした方を見ると、そこには赤星小梅が息を切らして立っていた。
「・・・小梅。」
「エリカさんのことが心配で、ずっと探してたんです。」
「・・・なんであんたに心配されなきゃ行けないのよ。」
赤星はエリカの目の前に歩み寄る。
「心配するに決まってるじゃないですか!
エリカさんは大切な友達なんですから!」
赤星はエリカの目をまっすぐ見てそう言った。
(・・・そうか・・・私は。)
エリカは、ずっと1人で戦ってきた。
だれにも頼ることなく、憤れば感情のままに叫ぶ。
そうやってずっと一人で戦ってきた・・・つもりだった。
だがそれは違った。
昔、自分が怒りに囚われそうになった時、側には必ずみほがいて自分を諭してくれた。
みほがいなくなったあとは、まほがその役を担ってくれていた。
そして今は・・・。
目の前の少女、赤星小梅が自分の手を握ってくれていた。
(私の側には・・・いつも誰かが居てくれた。
私は・・・1人じゃなかった。)
アンチョビが言っていた、自分に足りないもの、
それに気づいた時、エリカの目から一粒の涙が零れていた。
「エリカさん!?どうしたんですか!?」
「ご・・・ごめんなさい、大丈夫だから。」
エリカは急いで涙を拭う。
「ねぇ小梅、私は短気だからいろいろ迷惑かけるかもしれないけど。
これからも一緒に戦ってくれる?」
赤星は何も言わずエリカの手を握ったまま優しく微笑んだ。
「ありがとう。」
エリカは目の前の親友に静かに言った。
#####
翌日、エリカチームの会議室。
「昨日はごめんなさい!」
エリカは昨日喧嘩した相手に頭を下げていた。
「あんなことして、今更許してくれとは言わない。
でも、私一人じゃ何も出来ないの。
だから・・・みんなの力を貸して。」
そう言ったエリカに相手の生徒は気まずそうに後頭部を掻く。
「私こそごめん、アンタが頑張ってんのは知ってんのに・・・ちょっと言いすぎた。」
そう言ってエリカに右手を差し出す。
「これからもよろしく。」
「・・・ありがとう。」
そう言ってエリカはその手を握り返した。
「エリカさん。」
赤星が微笑みながら声をかけると、エリカはそれに無言で頷くと。
「みんな!試合当日まで、長いようであっという間よ!
作戦を立てて、ドゥーチェや先輩達に泡を吹かせてやりましょう!」
その言葉にチーム全員が大声で答えた。
「「「オォォー!」」」
その後エリカチームは一丸となって作戦を立てだした。
全員で意見を出し合い、時にはぶつかり合いながらも、会議は順調に進んでいった。
試合当日までの最後の一週間は、アンチョビチームとエリカチームに分かれ個別に練習をした。
そして両チーム万全の体制で交換留学最終日を迎えた。
#####
試合にはアンツィオの生徒、そしてまほが見に来ていた。
エリカは迫る開戦を前にガチガチと震えていた。
「エ・・・エリカ?き・・・緊張してるの?
情けないわねぇ・・・。」
「こ・・・これは武者震いよ、アンタだって震えてるじゃない。
ビビってんじゃないの?」
「はぁ!?ち・・・違うし!冷え性なだけだし!」
「二人とも言い訳が苦しいですよ。」
赤星が優しく2人にツッコむがその手もかすかに震えていた。
エリカはそれに気づくと赤星の手を優しく握る。
「大丈夫よ、私がついてるし、みんなもいるから。」
「・・・はい。」
赤星は安心した様に微笑む。
そしてエリカはチームの車長逹と円陣を組む。
「皆、やるからには勝つわよ!気合入れなさい!」
「オォォ!」
そして試合が始まる時が来た。
各チームが横一列に並び向かい合わせになる。
「それではこれより!黒森峰女学院!
アンチョビチーム対エリカチームの練習試合を行います。
一同、礼!」
「「よろしくお願いします!!」」
#####
勝負は激戦だった。
お互いが練りに練った作戦で確実に敵の数を減らしていき、
最後はアンチョビとエリカの乗るフラッグ車同士の一騎打ちとなった。
その結果は・・・エリカの負けだった。
アンチョビの指揮する戦車にエリカは健闘虚しく敗れてしまった。
エリカは赤星やほかの生徒に泣きながら謝る。
「ゴメンみんな、最後の最後で私・・・。」
「気にしなくていいって。」
「そうですよ、エリカさん頑張ったじゃないですか。」
そう言っているが、赤星もほかの生徒も悔し涙を流していた。
「エリカ!」
声がした方を振り返ると、アンチョビが笑顔で走ってきていた。
アンチョビはエリカを捕まえると、自分の両頬をエリカの頬にくっつける、
イタリア式の挨拶だ。
「素晴らしかったぞお前達!
まさかここまでやるとは思わなかった!
なぁ!みんな!」
アンチョビは後ろにいるアンチョビチームの面々に声をかける。
「うん!すごかったよエリカ!」
「正直ドゥーチェがいなきゃ負けてたよねぇ。」
「これなら安心して来年はまかせられるわ。」
聴こえてくる賞賛の声に、だがエリカは答えることなく俯く。
「でも・・・結局負けちゃったし。」
そんなエリカの両肩をアンチョビはつかむと笑顔で言う。
「黒星が1つ増えたくらいでなんだ!
お前はこれからも勝ったり負けたりしていくんだ。
その中のたった一つだと考えてみろ、
随分とちっぽけだろ?」
「ドゥーチェ・・・。」
「それにそんなに泣いてるってことは、それくらい頑張ったってことだろ?
それならそんな自分を誇れ!決して貶めることはするな。
もう一度いう、お前達はよくやった!」
「・・・ドゥーチェェェェ!!」
エリカたちはアンチョビに抱き着いて泣きじゃくった。
そして少しすると、アンチョビの後ろからまほが歩いて来たことに気づき、
全員がアンチョビから離れてそちらを向く。
アンチョビはその場を離れようと、まほの隣りを通り過ぎようとする。
「ありがとうアンチョビ、世話になった。」
しかし通りすぎる寸前で、まほに呼び止められる。
「・・・仕上げはお前に譲ってやる。」
そう言ってアンチョビは立ち去る。
まほはエリカに歩み寄っていく。
「隊長・・・。」
まほはエリカの頭にポンと手を置くと優しく微笑む。
「見せてもらったぞ。
エリカらしい、いい勝負だった。」
その言葉にエリカはさらに涙を流したのだった。
その様子をアンチョビが見守っていると。
「姉さん!」
アンチョビの目の前にアンツィオの生徒が整列する。
「どうしたんだ、お前達。」
そう聞いたアンチョビに、アンツィオの副官の1人、ペパロ二が歩み寄って言う。
「姐さんの本気、見せてもらったっス。
本当にすごかったッス。
それでその・・・。」
ぺパロニとアンツィオの生徒達は、アンチョビに頭を下げる。
「あたし達にもう一度、1から戦車道を教えてください!」
「「「お願いします!」」」
自分に頭を下げてくるペパロニ達に、アンチョビが言う。
「別に無理しなくていいんだ。
お前達には難しいかもしれないぞ?」
「分からないことはわかるまで聞きます!
忘れないようにメモを取ります!
だから・・・お願いします。」
「・・・どうしたんだ急に。」
アンチョビの質問にぺパロニは答える。
「あたし達、ドゥーチェの教えてくれた戦車道を残したいんです!
そのためには・・・今のままじゃダメだって、ドゥーチェの戦いを見て分かったんです!
だから・・・お願いします!」
アンチョビはため息を吐く。
「分かった、だが私の訓練は厳しいぞ。
ついてこれるか。」
「はい!どこまでもついていきます姉さん!」
「よし・・・まぁそれはそれとして。」
アンチョビはアンツィオの生徒全員を見渡す。
「お前達!アンツィオの流儀はわかってるな!
湯を沸かせ!釜を炊け!」
「はい!姉さん!」
アンツィオ高校は例の如く、宴の準備を始めた。
その様子を見ながらアンチョビは思う。
(なんというか、うまくお前に嵌められた気がするな・・・西住。)
#####
宴を楽しむアンツィオと黒森峰の生徒達から少し離れた場所で、アンチョビとまほは語り合っていた。
戦車道の事、生徒達の事、様々な事を語り合った。
「それにしても驚いたぞ西住、お前から交換留学の申し出があった時は。」
「お互いにいい経験になると思っただけだ。」
「本当にそれだけか。」
まほは、騒いでる生徒達を眺める。
「アンチョビ、私は中学時代いろんな敵と戦ってきた。
どれも皆強敵で対戦相手としては申し分なかった。
だがたった1人、戦いたくても戦えなかった奴がいた。
そいつの噂は聞こえてくるのに結局卒業まで戦うことは無かった。」
まほはアンチョビの方を向く。
「お前だ、安斎千代美。
私はお前と戦いたい。
だから、いつその時が来てもいいように、
今のうちに丸くなった牙を研いでやろうと思っただけだ。」
まほの心中を聞いたアンチョビは。
「・・・実はな西住。
スカウトはアンツィオだけじゃなく、黒森峰からも来てたんだ。
なぜそれを蹴ったのか、今の今まで忘れていた。」
アンチョビはまほと目を合わせる。
その目は普段の優しいものとは違う獰猛な物だった。
「私もお前と戦いたい。
だから・・・お前が勝手に研いだ牙だ、
喉笛を噛みちぎられても文句は言うなよ、
西住流。」
「望むところだ。」
生徒達の知らないところで隊長2人は静かに睨み合っていた。