AGP榛名というのを見て思いついたリハビリ小説。
グロ表現あるから注意!

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奪われた榛名が掴みとる御話

―――建造完了です。

 

 その言葉と共に私は目覚めました。

 かつては鋼鉄の船として大日本に尽くした記憶があります。その艦艇の魂を受け継ぎ、あらたなる提督の指揮の元、私は艦娘榛名として生まれ変わったということも自覚しています。必ずや、提督の期待に応えてみせましょう。

 

 ですから、その目で見るのをやめてください。

 期待を失望に変えないでください。

 私は戦えます。たとえこの身が不全なものとして生まれようとも。

 私は戦えるんです。私の艤装に必要な部分ではありません。

 

 手なんて、無くても戦えるんです。

 

 

 

 

 

 

 その数ヶ月後、その戦艦榛名を建造した鎮守府は壊滅した。

 深海棲艦の陸上進出。大規模作戦による近海警備の手薄。不幸な原因は積み重なり、練度の低い艦娘が応戦しようと海に出たが、まだまだ実戦も経験していない演習上がりの艦娘にとって、初の実戦が一歩も引けない死地である。あまりにも、荷が重すぎた。

 艦娘は沈んだ。海底にではなく、陸上で。直撃弾を幾つももらい、腕を吹き飛ばされ、艤装を破壊され、その意志を込めた瞳を頭ごと吹き飛ばされて。

 

 やがて侵攻の邪魔をするものがいなくなると、我らが怨敵「深海棲艦」は地上への砲撃を始めた。街は一瞬にして壊滅状態。戦艦級の砲弾は、その衝撃だけで多数のガラスを破壊して、呑気に寝ていた一般人をガラスと血肉の彫刻に変えた。

 空母が放つ艦載機は、逃げ惑う人々を赤い水風船にした。人の作り上げた建物をバラバラのジェンガブロックに変えてしまった。

 

「……」

 

 全てが破滅を迎えた。目につく生物という生物を、動植物関係なく焼きつくした深海棲艦は、地上の一定のラインを越えることはせずに海へと還っていった。静けさだけが残り、人の創りあげた活気は消え失せ、ただただ、風の音と火の弾けるぱちぱちとした破裂音。そして辺りに燻ぶる異臭を放つ黒い物体。まるで雷が局地的に降り注いだような、災害の後のような光景。閑散とした街は、数時間前よりものっぺりとした平らな大地に変わり果てた。

 

 主要な部屋は倒壊し、見る影もなく崩れ落ちた鎮守府にて。積み重なった瓦礫がガラリと音を立てて落ちた。一人の艦娘が、灰と残骸を頭からかぶって這い上がる。

 少し、奇妙なのがそのシルエットが細っこいということだろうか。体型ではない。本来あるべき人型の、5体と呼ばれるうちの2つが不足している。

 

 腕だ。腕がない。

 ひらひらとはためく二つの袖が、名残のように巻きつき風に煽られる。彼女の腕が生えているべき両肩は、バチバチとスパークを起こした断面だけが存在していた。

 

「…………」

 

 彼女は何も語らない。全てが破壊されたこの街と、鎮守府を見ても。どこまでも澄んだ灰色の瞳が瞬いても、その奥に光は見受けられない。もはや彼女が慕った姉の姿は無い。一度は失望したが、それでも手のひらを返して可愛がってくれた提督も居ない。

 

 のろのろと動き出した彼女―――両腕のない戦艦・榛名。

 彼女は司令室があったであろう場所にたどり着いて、残った両足で瓦礫を蹴り飛ばしていく。艦娘という、人間とは程遠い恐るべきパワーを以って、数トンはあろう瓦礫はサッカーボールのように港の海へ沈んでいった。何隻かの艦娘の残骸を巻き込みながら。

 

「……ァ」

 

 それでも、唯一触れ合った人間。提督を探して榛名は瓦礫を蹴り飛ばす。

 そして、見つけてしまった。

 

「ッ」

 

 人間の死した姿は何よりも醜い。

 そして外傷があればなおさら。

 

 提督は、人の形を保っていなかった。

 瓦礫に潰されたのだろう。その時の圧迫があったのだろう。口からは内蔵のかけらを吐き出しながら、落ちてきたコンクリートの塊に頭を潰され、眼球が神経を引きずって飛び出している。脳みそもはみ出て、端正で整っていた顔は苦悶と恐怖の表情を残した肉塊と成り果てていた。

 体は見る影もない。純白の軍服は赤と黒で汚されている。なにより、ぐちゃりと広まった人間の体の構成物が、生きていた何て信じられない程大きく広がり、巻き散らかされていた。

 

「ァ、あぁぁあぁぁああああああああぁっっっっっぁあああああああああああああ!!!!?」

 

 喉が枯れそうな絶叫が上がる。彼女の優しげな声色は無い。金切り声にも似通った、この世のものとは思えぬ化け物じみた叫び声。天に届くことなく、地獄に突き刺さる嗚咽の無い絶叫が榛名の喉から飛び出している。

 やがて絶叫は声なき悲しみとなり、涙となって流れ落ちる。彼女には感情があった。艦娘という、人間に似通った体を得て、人間と同じような感情を得て、それを発現させる事のできる体があった。

 

 故に、留まるところの知らない感情は、榛名を覆い尽くして沈めてしまった。

 これが始まりであり、我々の知る榛名という艦娘の終わり。

 

 大本営に提出された書類は、たった一枚だ。

 ○○鎮守府、壊滅。その被害概要と喪失した戦力について。

 無論、死人の感情など何一つとして書かれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 悲劇が起こったところとは別の、とある鎮守府、とある食堂でのことだ。わいわいと艦娘たちが食事を楽しむこの場に着ていた提督に、艦娘が一人近づいていった。

 

「どもども、青葉です! 司令官はお聞きしたことがおありですかっ?」

 

 ピンクのポニーテールを跳ねさせて、快活にメモ帳を持った少女が笑う。

 

「実は、艦娘にも製造時に機能不全が起こったりするそうです! もちろん、細かな欠損(首なし)であればその程度直せちゃったりするんですけど、たまにソレよりも酷い欠損を抱えた艦娘が生まれてしまうそうですよ」

「ま、また唐突だな……それがどうしたんだ?」

「ふふーん! 本題はこれからですよ」

 

 戸惑い気味に答えた提督に、念を押すように青葉は言う。

 

「そもそも艤装に同調できない艦娘も生まれてしまうんだそうです!」

「艤装に……って、じゃあ艦娘としては」

「そうですねえ。ぶっちゃけ不必要というか出来損ないというか。人間の中で暮らすしかありませんね。まぁこれは噂じゃなくて本当にあった例なんですけど、そう言う艦娘も既に何体か生まれています。しかも、倒した深海棲艦の中から生まれるん(ドロップ艦娘)じゃなくて、建造にだけ見受けられる不思議な現象です」

 

 食事の手を止めて、提督は問いを投げかけた。

 

「そうならないよう気をつけろってことか?」

「そういうことです! 生まれてくる子も可哀想ですし、原因はわかっていませんがそんな排斥されそうな個体がいれば空気も最悪になりますからね。まっ、気の弱い提督や精神が参ってる提督に多いそうなので、司令官は大丈夫かもしれませんが」

「覚えておくよ。そうだな、でも仮にそう言う子が生まれたとしてもしっかりした場を整えてあげたいな」

「おやおや? 流石うちの司令官はいうことが違いますねえ」

「本気だよ。だって、ありえない話じゃないんだろう?」

 

 快活に笑う青年に、青葉は笑みを深めて飛び込んで見せる。

 

「わっと!?」

「さすがは私の司令官! それでこそ!」

「まったく……」

 

 そうであればよかった。

 だが、治ったと思っていた傷も、ふとした拍子で開いてしまう。それが、人間の心。完治とは程遠い、何よりも美しいガラス細工のような心というものだ。

 あるはず物を二つも失って生まれたものは、元から持っている者達を羨む。そしてその者達が持っている「もの」を手に入れようと足掻き続けることもある。特に心の芯があるような人物なら、なおさら暴走しやすい。

 さぁ、また視点を元に戻そう。

 

 救われている鎮守府ではなく、壊滅した鎮守府に生まれた子のところへ。

 失望と絶望にまみれ、己の力が足りないばかりにと嘆く子供のところへ。

 無い腕を伸ばして、無い指で掴みとった、新しい未来を装着した榛名のところへと。

 

 

 

 

 鎮守府とは程遠い遠洋。波は低く、穏やかな空が広がっていたはずのそこは、今や高波と嵐に飲まれた海へと変貌していた。この変貌は、深海棲艦の棲むところであるがゆえに。天候や環境すらも侵食する、ただの物理的な敵とは違う怨念の塊。それが具現化した敵。

 あまりにも強い想いは荒れ狂う海に反映され、怨嗟の声は雷鳴となった。

 

 底を踏みしめ、海面へ立つ一人の艦娘―――榛名がいた。

 彼女は件の、報われぬ運命を辿った榛名だ。しかし、驚くべきことが二つある。つけられなかったはずの艤装をつけている。彼女は生まれ落ちた時より持たなかったはずの腕を持っている。これは一体、どういうことだろうか?

 

 疑念を晴らすことも叶わぬまま、深海棲艦の領地へ踏み込んだ艦娘を待ち受けていたのは、聖なる光の中に生まれた艦娘を羨み、妬みと怒りとその他諸々の感情を叩きつけるような、深海より這い出る者達の洗礼。砲撃と雷撃、航空機よりの雨あられ。

 

「………大丈夫、です」

 

 瞳の生気を失ったまま、幽鬼のように揺らめく彼女は小さな水しぶきを残して消える。

 直後に通過していく魚雷の気泡はあらぬ場所を通りすぎて、背後の岩礁を炸裂させた。視界も悪い豪雨と雷鳴によるチカチカとした視界の中、敵を見失った深海棲艦より、犠牲の駒となる駆逐艦が榛名の居るであろう場所を探しまわる。

 しかし、かの駆逐艦の反応はすぐさま消えた。砲撃の音もなく、ただただ駆逐イ級の鋼鉄の体がひしゃげて沈む轟音ばかりを残して。

 相手は砲撃を行っていないのか? 上位に位置する姫の深海棲艦は疑問を浮かべ、わずかばかりに残った知能を込めて怒りの赤い炎を揺らめかせた。すぐさま怒りを畏れた重巡リ級が3隻、イ級を潰された場所を中心として新たな偵察に借り出される。

 

 しかし―――やはりそれらも潰された。

 ゴリゴリと人型を握りつぶされるような音を残して、鉄くずになった重巡リ級は3隻ともに海底へと沈む。怨嗟の砲弾を吐き出すことも叶わぬまま、艦娘の艤装に込められた浄化の力によって命を散らすことになった。

 

「ナニ、ガ…オキテイル……ノ」

「そこですね」

 

 ぞわりと、深海の姫である南方棲戦姫の背筋が凍りつく。

 バッと声の下方向を振り向いても、そこには降りしきる雷雨の景色だけ。闇に紛れて光る艤装もなければ、確かに視界に収めたはずの艦娘、榛名も居ない。

 

 一体どこだ? どこに居る!?

 焦る感情を失ったわけでもない。ただただ、本来なら深海棲艦が与えるべきであるはずの恐怖。それを榛名に与えられた南方棲戦姫は本来あるべき余裕の姿を失った。

 

 べきり ごきり

 

 折り曲げられる音は自分からではない。自分を守るはずの深海棲艦から発せられたものであると気づく。気づいただけで、止められない。頭や艦首を失った軽巡たちはゴボゴボと気泡を泡立て深海に堕ちていった。還るべき場所へと沈んでいるというのに、あまりにも無残で辿りつけないという印象を残しながら。

 だが、まだまだこの姫たる身を守る護衛艦たちは存在している。自分の装甲の低さはネックだが、同族からの攻撃は受けることはない。それを知っているからこそ、この近くに敵がいると悟った南方棲戦姫は指示を出した。

 

 ―――自分を中心として攻撃せよ、と。

 

 見敵必殺を是とする下級深海棲艦たちは、ただその命令に従って降りしきる雨を吹き飛ばすような砲撃を開始した。南方棲戦姫自身はそれで傷つくことはないが、その耳を砲撃と雷撃の炸裂音を襲う。

 ビリビリとした酷い音の中、しかし艦娘が逃げるにしても絶対に不可能な距離を確実に撫で回せたと確信して姫はあざ笑う。

 

「ク、ハハ……ハハハハハハ………ハ…?」

 

 だが、おかしい。手応えがないのだ。部下が命をもぎ取ったその感触は、確かな手応えとして深海棲艦全体に共有される。ブチブチとアブラムシを手ですりつぶすように。その赤いオイルとも血とも似つかぬ液体をぶちまけて息絶える艦娘の手応えがない。

 直後に、またあの「音」が南方棲戦姫の耳を打った。

 

 ごきり ぼきり

 

「ア……アァ…!? ソンナ、マサカ……ソンナコトガ……?」

 

 ぼり ばぎぎ ばりばり ぶちん

 

 今度こそ、姫はただ一人となった。

 南方棲戦姫は、かつて榛名の鎮守府を襲った恐るべき敵は、今度はたった一人の艦娘によって感じたことのない恐怖を押し付けられていた。

 煮詰めて、味見したかのような濃厚な恐怖。目が見えないわけでもない。五体のどこかが失われたわけではない。髪をつかみ、引きずり回される痛みもない。砲撃を受けた紅くたぎるような痛みがあるわけではない。自身の痛みは、何一つ無いのに。

 濃厚で、とろみのある死の香り。熟成されたキノコのように、アルミで包まれた肉が蒸されたように。

 出来上がったばかりの死は、目の前にそびえていることがわかった。

 

「おわかりいただけましたか?」

「ハッ!?」

 

 振り向くと、榛名はそこにいた。

 だけど、それは彼女が知る「榛名」という艦娘とは程遠い。

 

「ナニヨ……ソレ?」

「お気になさらず。どうせ貴女は終わりますから」

 

 淡々と事実を告げる榛名の「手」がゆっくりと伸ばされた。

 鋼鉄の手だった。艦艇の装甲そのものが変化した、5本の指を持った巨大な手。まるで港湾棲姫のように包み込むような巨大な指で、戦艦棲姫の艤装のように丸い指。そして、人間や艦娘をその両手で包み込んでしまえるような手。

 

 艦娘にしては異質に過ぎる、稼働する艤装に南方棲戦姫の反応は遅れた。

 

 ぶち、ぶちん

 

 そして気づいた時には、彼女は全てを後手にしてしまった。脇の下から抱え上げられて、両足の先にくっついた艤装と生体部分を完全に引き千切られた。

 

「ガァァァアアアアアアアア!?」

「あら、深海棲艦も叫ぶのですね。榛名は初めて知りました!」

 

 あまりにも無邪気な声で、あまりにも無表情で榛名は言う。

 異質に過ぎる。これではどちらが人に恐れられるような化け物かわからない。そして、艤装すら切り離されて、戦うことも抗うこともできなくなった彼女は、初めてもたらされた最大限の激痛に身を捩らせようとするが、

 

「ダメですよ」

 

 ギュッ、と榛名の「手」で握りしめられて、悶えることも許されなかった。

 それどころか、圧迫された痛みが更に襲いかかって、喉の奥から何かを吐き出しそうな嗚咽感が襲い掛かってくる。姫級の深海棲艦がものを食べることはないが、その内臓やらは艦娘と違って生体部分でできている。まるで胃が飛び出るかのような錯覚と苦しさは、彼女にまともな言葉を喋らせることすら放棄させた。

 

「ご理解いただけましたか?」

「ナン……ハナ……シ」

「なんの話って、あなたが私たちにしたことですよ」

 

 本当は、何のこと? 離しなさいと言いたかったが、日本とは不便なものだ。別の意味として榛名には伝わり、忘れたかのような振る舞いとして認識された事で榛名の負の感情は更に暴走する。

 グンッ、と強く握られて、南方棲戦姫は内蔵を吐き出すことはしなかったが、全身の骨という骨をへし折られた。

 

「ギィッ!」

「もういいです。本当は懺悔とか、そういうのをして提督たちに謝らせるつもりでした。でも、忘れたと言うなら仕方ないですよね」

 

 「呂」という漢字のように、上下で握っていたうちの左手。南方棲戦姫の下腹部から下を握っていたソレがぎゅぅっとなる。当然、語るも無残なほどに深海の姫は下半身を握りつぶされた。まるで少しだけ残ったインスタント食品のソースを絞り出すように。

 ぼたぼたと赤い液体が海面を濡らして、すぐさま消えていった。

 

「バケモ」

「はい、榛名は大丈夫です」

 

 ぷちん、と右手が握りしめられた。

 ただの肉塊になったそれを、榛名はゴミのように投げ払う。

 近くの岩礁にたたきつけられた遺骸は、バラバラにはじけ飛んで、そして海に還ることなく岩礁の上に乗り上げられた。深海に還ることも許されない、尊厳を踏みにじる殺し方。しかし榛名は何の感傷を抱くこともなく、深海の脅威が去ったことで晴れ渡る空を見つめていた。

 

「ああ、いい天気ですね金剛姉さま。出来ることなら、榛名は……一緒、に」

 

 両腕のない榛名は、艤装という名の腕を手に入れた。

 後に彼女は、どの鎮守府にも属しない孤高の艦娘として世界を渡り歩くこととなる。砕いた敵から滴る燃料を啜り、砲身から一度も弾薬を吐き出すことはなく、不足の体に鋼材を無理やり組み込んで、時にはボーキサイトを貪りながら。

 その両腕の中で、数多の者達を眠らせていく。

 




とりあえず、原作の流れとか全く無い物を描いてみようというリハビリ小説。
いかがでしたか? 何かご意見などありましたら感想の方にお願いします。

表現についてはイメージのままに出来たので、今までの拙い描写よりはマシかと思います。

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