とある鎮守府の、夜の一幕です。
非番のカンムス達が、鎮守府で各々自由な時間を過ごす夜のひと時。
お風呂から上がり、部屋に戻ったスズヤは溜息をつく。
「ふいー・・・クマノはまーだ帰ってないかぁ」
まだ少し濡れている髪をタオルで拭きながら、相方の不在をつぶやく。
練度99まで達したスズヤは、最近もっぱら退屈な日々を過ごしていた。
鎮守府のカンムス達の主要メンバーも固定化し、やる事と言えば艤装の手入れと偶に演習。
後は”パトロール”という名目で、モガミやセンダイ達と街に遊びに行くぐらいだ。
それはケッコンカッコカリ後の上限練度・150まで達したクマノも同様だったのだが、
最近通達された「ケッコンカンムス練度上限の開放」により、また忙しく各種任務に就いている。
この時間だと・・・南西諸島辺りか。何にせよまだ暫くは帰ってこないだろう。
「さて、と…何して過ごしましょうかねぇ」
平和と退屈の境目についてぼんやりと考えていると、ユウバリから借りていた漫画が目についた。
◇◇◇
暫く後、ベッドで漫画を読んでいたスズヤの携帯に着信が入った。
話に没頭していたスズヤは胡乱気にスマホに手を伸ばし、画面の発信者名を確認する。
「・・・なんだ、ユウバリか。ちーっす」
スマホから見知った友人の快活な声が響く。
『どうもー。スズヤ、今ヒマ?』
「んんー?なにさー?」
スマホを器用に右肩で挟みつつ返事をしながら、ページを繰る。
『ヒマなら私の部屋で遊ばない?ブラックカプスの新作!入ってるわよ~!』
(む・・・・・・)
スズヤの好きなゲームのタイトルだった。おもわず眉がぴくりと動く。
・・・が、電話なのでユウバリには気取られていないだろう。
オタク気質である彼女に教えて貰い、既に「ゲーム」の楽しさは十分理解している。
だが、これからヒロインが宿敵の本拠地に奇襲をかける一番の見せ場である。
残念だが今日はこちらの方に集中だ。
「んー、ごーめん。今忙しいからムリだわー」
生返事で答えると、電話越しにユウバリがむくれた気配を見せるのがありありと判った。
『むう。なによ・・・どうせ私がこの間貸してあげた漫画読んでるだけでしょ?』
「全っ然違うんですけどぉ。艤装の、お手入れ、でーす」
漫画を読む体勢を変えながら、さも作業中かのように大仰に呟く。
『ふぅーん。そう、なんだ・・・まあ、それはきちんとやらないと駄目ね、うん』
意外と言わんばかりに(失礼な話ではあるが)、ユウバリは神妙に答える。
工廠担当のユウバリはこの手の理由を付ければ大抵引き下がる。
友人の特性を充分理解しているスズヤは、にやりとしながら続ける。
「うんうん、わかってんじゃーん。んじゃま、そーゆーことで」
『・・・でもさぁ、スズヤ』
ユウバリが少し悪戯気な声で言う。
会話の主導権を握り、これで話は終わりと思っていたので、スズヤは思わず聞き返していた。
「んん?」
『あんた、いつからハッちゃんみたく本を艤装にするようにしたわけ?』
「は、はいぃ?何いって」
マジか。ばれてた。なんで?。そんな思いが瞬時にスズヤの脳内を満たす。
動揺し完全に主導権を奪われたスズヤに、ユウバリが楽しそうに追い打ちをかける。
『そうねえ。もっと言うならB6サイズの漫画本、あんたのペースだと今は7巻ぐらいかな。
”娯楽”として使うなら私も一押しの艤装には間違いないわ。ねえ?』
「はぁ。巻数までドンピシャっスか・・・いやー参った参った」
ページを繰る音が聞こえていたのか、自分の暇つぶしの行動を完全に見切られていたのか。
どちらにしても自分の完敗だった。
ユウバリの完全勝利な笑い声を聞きながら、スズヤは観念して漫画を閉じる。
『あっはは!あんたって、本っ当に嘘つくの下手よね。』
「うっさい」
『ふふっ。化け物退治の話もいいけど、こっちの新作もかなり熱いんだから!』
「はいはい、分かりました行きますよー。ちょっと待ってて」
『ありがと!…あ、そだ』
思い出したようなユウバリの声に、自然と聞き返す。
「ん?」
『今まで読んでる中では、誰が一番好き?』
「ん、むー・・・」
唐突の問いに対し、暫し考える。
ユウバリは人に貸した漫画の感想を聞くのが好きだが、さて・・・どう答えたものか。
『(わくわく)』
スマホの向こうでユウバリが期待に満ちた顔をしているのが思い浮かぶ。
スズヤは少しだけ考え、すっと浮かんだ人物を答えた。
「ん~・・・あたしは、ソーラちゃんかなあ。なんつったってあの」
「『中盤の覚醒シーンからの超弩級砲火で敵陣一掃!!』」
スズヤの声とユウバリの興奮した声が見事に重なる。
そこまで一緒だったか、と思わず苦笑いするスズヤにユウバリが嬉しそうに続ける。
『さっすが、分かってるっっ!じゃあ後でね!とっておきの間宮羊羹も出してあげるわ♪』
「おーぅ、イカシてんじゃん!んじゃあ、またねー!」
◇◇◇
電話を切ったスズヤは、スマホをベッドに放り、気だるげに呟く。
「はーぁ。アタシの安らかな時間が…」
そう呟きながらも、その顔には微かに笑みが浮かんでいる。
「・・・ま、いいけど。さあーって、と!かわいい部屋着は他に無かったかなーっと」
いつもの友人からの電話。
益体もないその会話が、漠然とした寂しさを静かに覆っていく。
なんだか少しこそばゆいような、あるいは心に小波を立てるような。
しかし、全く不快ではないその感覚。
それは、スズヤに小さくも確かな幸せを感じさせてくれる、心地良いものだった―――