色々と変な事になります。
強引過ぎるかもしれませんが、
提督を想う艦娘の行動をご覧ください。
※登場する艦娘は平常です。
士官室 1730i
「…夜間は幹部妖精で哨戒直を回します。
提督たちは極力お休みください、
もし何かあったら起こしますから」
加賀の副長妖精が夕飯の席で発言した。
「それは流石に悪いよ、
今まで通りで構わない」
「明日以降は作戦発動だと思われます、
どうぞここはご自愛ください…」
むぅ…ここまで言われると
甘えさせてもらうしかない。
今までは艦橋に俺、加賀そして村上の
3人の誰かがなるべく残るようにしていた。
だが副長の計らいで
今夜は休めることになった。
(俺と村上に敵のマーカス襲来を
聞かせない為の心遣いかもな…)
敵占領部隊がマーカスに着くのは19時頃、
そこから天候によるだろうが
艦砲射撃が開始され現地の天候が
回復次第上陸されて島は
敵の手に堕ちてしまうだろう。
現地の状況が入って来ないとはいえ、
その時間艦橋にいれば少なからず
思うこともあるから休めということか…。
……
夕食の鮭の塩焼きはやや塩辛く、
米と味噌汁が良く合う和食だった。
それが余計マーカスへの思いを強くさせ、
自分たちがこんな豪華な食事を
食べていいのかと考えてしまう。
(たかが一食位食べなかったところで
一体何が変わるものか)
そう考え直し、
出された物は全部食べた。
いつもなら食べなどしない
魚の骨までコリコリと食べ尽くす。
それがせめてもの贖罪であると信じて…。
斜め前に座る村上もそれを見て
残していた骨をひたすら食べた。
他の幹部妖精や加賀が
引いているのが分かったが、
今の俺たちに出来るのは
小さいがこれぐらいなのだ。
士官室が妙な雰囲気になり、
その原因である俺は
「ご馳走様でした」と
手を合わせてその場を後にする。
側から見れば自己満足に過ぎない。
(俺は、無力だ…)
それは一種の自己嫌悪であった。
※※※※
司令官室(自室)
2030i
「……もう敵は着いてるかな?」
ベッドに横になりつつ呟いた。
風呂に入り横になったからといって
眠れるはずもなく、ただひたすら
赤色に染まった天井を眺める。
頭の中では深海棲艦が南鳥島に
艦砲射撃を行なっている様子が
繰り返しイメージされる。
戦艦を含む敵の大艦隊から放たれる
激しい砲火が島の滑走路や施設を破壊し、
駐在する職員や隊員を殺傷する様子。
常夜灯が部屋を赤くしているその色が
マーカスにいる人々の血液と思えて、
自然と目に涙が浮かぶ。
スピーカーからは時々入る無線が
流れているが、マーカスについては
不思議な位一切触れられていない。
未だ現地とは交信が不通なのだろう。
だが流れたら流れたでマトモな
精神状態は保てないだろうな…。
……
<<コンコンコン>>
「提督、加賀です。」
「———ん、鍵はかかってない。
暗いから気を付けて入ってきなよ」
失礼します、と控えめな声で
入ってきた加賀は、消灯前から早くも
暗い部屋に驚くことなく話し始める。
「お休みのところ失礼します。
お話が有ります、私の部屋まで
来ていただけませんか?」
「…別に構わないよ」
(遂に言う気になったか…)
先ほどまで加賀の態度に対して
言いたいことがあった俺は
彼女の言葉に肯定を返した。
部屋から出ると通路の明かりで
一瞬眩しさを感じ、明順応の為に
俺はやや目を細めた。
加賀を見れば俺と同じく風呂を
済ませたのだろう、寝間着を
きちんと羽織っている。
アニメ版と同じような寝間着を
着ている加賀は似合うと感心したが、
すぐにどうでもいいかと心を切り替える。
そのまますぐ近くの
彼女の自室へと共に向かう。
「散らかっていますがどうぞ。」
【艦長室】と銘打たれた部屋、
即ち加賀の部屋は綺麗に整頓され、
彼女の性格を見事に表していた。
「お邪魔するよ…」
ドアを開けた彼女の横を通り、
俺はそのまま部屋の奥へと足を運んだ。
……
「…提督、紅茶にブランデーを
お入れしてもよろしいでしょうか?」
「…たっぷり入れてくれ」
勧められた通り加賀のベッドに
腰掛けると彼女が紅茶を入れてくれた。
本来海上自衛隊では、
艦内における飲酒は厳禁だ。
厳格な重罰が科せられる。
だがそれを咎める者はいない、
艦長たる艦娘の加賀が
良いと言うならいいのだろう。
いつもの俺であればシチュエーション
飲み物共に満点な展開であるが、
特段喜びもせず近くのテーブルに
置かれた紅茶に口を付ける。
その後部屋の白色灯を消し、
室内はデスクライトから出る
オレンジがかった色のみとなり、
時相応の夜の雰囲気を醸し始める。
(そんじゃ言わせてもらうか…)
加賀が話す前に俺から切り出す。
「呼ばれておいてなんだが、
俺からも言いたいことがある」
「…何でしょうか。」
そら来たと言わんばかりに
目を細める加賀、しかしそれは
不機嫌な感じでは無さそうに思えた。
何か覚悟を決めた、そんな顔だ。
「今日の加賀の態度についてだ。
言いたいことがあるなら
俺ちはっきり言って欲しい。
それになんでこんなに
露骨に無表情を装うんだ?
明らかに俺に何か言いたげじゃないか、
俺がマーカスを見捨てたからか?
軽蔑してるのかそして怒っているのか?
それならそうとはっきり言って
もらった方が俺としてもすっきりする」
ここにきて俺は加賀に対して、
いや艦娘たちに対しての、
やや苛立ちを込めた感情をぶつける。
“文句があるならはっきり言え”
つい強い口調になった。
「では言わせていただきます…。」
加賀はそう言うと静かに立ち上がる。
開けられた舷窓から入ってくる
月光が加賀を幻想的に照らし出す。
「———提督、
マーカスを見捨てるのですかっ?!」
普段の加賀らしくない声を張り上げる。
やや演技がかった言葉に思えた。
「…ああそうだ、見捨てる」
「…理由をお聞かせ願います。」
今更何故、と思いつつも俺は
「テレビ会議でも言ったが
とてもじゃないが間に合わない。
航空機はマーカス付近の台風で
飛行不能、艦載機に至っては
航続距離が短くて論外だ。
味方の潜水艦も進出しているが
このままじゃ多勢に無勢、
一部の輸送艦は沈められるだろうが、
止められないだろうし敵の編成は
知っての通り戦艦以下の大艦隊。
島への艦砲射撃は避けられない…」
そうだ、間に合わないのだ。
「…だから見捨てるのですね。」
抑揚の無い彼女の言葉に対し
遂に我慢の限界が訪れた。
「クッ…そうだ、そうだよッ!
俺は見捨てる、俺が“見捨てる”って
あのテレビ会議で言い放った!
各部隊指揮官の中で一番に言ったんだ!
俺は仲間を…同期を、見捨てたんだ…ッ!
軽蔑したか、軽蔑したろ?!
こんな提督に着いて
行きたくなくなったろ?!
人殺しとでも何とでも言えよ?!
ほら…言えよっ、言ってくれよぉ…」
「……。」
何も言わない加賀の目前で
俺は子供のように泣き噦る。
ずっと我慢していた感情が
ここにきて一気に溢れ出した。
「———いいえ。」
ずっと立ったまま言葉を聞いていた
加賀は俺に静かに近づき…
<<ギュッ…>>
「———うぁ、ぇ…?」
「提督は、お強いですね…。」
加賀は優しく俺を抱きしめる。
俺の顔が丁度加賀の胸に
ぎゅっと押し付けられる形となる。
彼女は寝間着ということもあり、
顔から感じられる彼女の“存在”を
必要以上に意識してしまう。
「ちょっ…あ、あの…加賀ッ?!」
「このままで構いません。
提督の仰ることは
どうぞ提督の本音を
私にお聞かせください…。」
俺が暴れれば簡単に
加賀の手から抜け出せるだろう。
しかし不思議と抜け出せなかった、
別に加賀は力一杯抱きしめて
いる訳では無いというのに。
俺は決してこの状況を
喜んでいる訳では無いのに。
まるで俺の抵抗する為の
力と思考が、加賀に吸われて
しまったかのようだった。
俺は争うのを諦めて、
渋々と愚痴を語り始めた。
「———俺は…無力だ。
こんなに大艦隊を率いていても
2、30人そこらも救えないんだ。
マーカスの人間…山下だってきっと
俺を恨むに決まってる。
でもこのまま突っ込んだところで
敵情が分からないんじゃ駄目なんだ…。
ちゃんと情報を集めてからでないと
加賀や他の娘を無意味に傷付けるだけだ、
それは絶対にしないしさせたくない。
それに東にいると思われる機動部隊、
それを排除してからでないと
有効な身動きが取れない…。
そして西之島周辺の敵部隊を
やっつけてからでないと
マーカスに進めないんだ…」
加賀に謝るように
淡々と考えていることを話す。
「提督は無力ではありませんよ、
私———たちが付いていますから。」
思わず『私が』と言いかけた加賀だが、
咄嗟に複数形に言い換えた。
「私も後ろで聞いていて
きっと無理だと判断しました。
『見落とし』『天候不良』と
原因は沢山あるでしょう、
しかし結論は変わりません。
時間を巻き戻そうとしても
無理なものは無理なのです。」
山本司令と同じ事を言うんだなと思った。
「提督は優しいお方です。
全てご自分で背負おうとしてしまう、
それが良いところであり
同時に悪いところでもあります。」
「…なんか俺が前に言った事と
内容が似てる気がする」
「クスッ…そうですね。
そんなこともありました。」
あれは市ヶ谷のグランドヒルに
泊まった時の話だったな…。
つい最近の事なのに
加賀は懐かしそうに笑った。
そのまま手で俺の頭を優しく撫でる。
(まさかの子供扱い?!
…おいおい、俺は『暁』じゃないぜ?)
「本日の無礼、深くお詫びします。
提督はああでもしないと弱音を
吐いてくれないと考えました。」
俺が落ち込んだ艦娘に使う手と同じだ。
(こりゃ一本取られたな。
『策士策に溺れる』といったところかな?)
———別に策士を気取ってはいないが。
「まぁ確かにきっかけが
ない限りは弱音吐きたくないしな、
一応こんなんでも提督だからね…」
「『こんな』なんてご冗談を。
立派です、他の人間が何と言おうとも
貴方は私たちの提督です。」
「そりゃどーも…」
「ふふっ、耳が赤くなっていますよ?」
「ぶ、ブランデーが強すぎたのッ!
別に照れてる訳じゃねーし?!
久々の酒が回ってるだけだってのッ?!」
そりゃお耳さんだって赤くなるっての。
加賀のビッグなバインバインに
顔埋めてるんだから、それでなんとも
思わない男は男じゃないだろう。
「はいはい、取り敢えずは
そういうことにしておきましょうか。」
「…心配してくれてありがとな」
「お礼なら村上3佐に仰ってください。
『菊池はかなり落ち込んでいる筈だ、
奴を宜しく頼む』と頼まれたんです。」
まさか村上が?
あいつ自身も辛いだろうに…。
「村上3佐から聞きました。
なんでも…マーカスにいる山下3尉とは
教育隊の時に衝突が絶えなかったとか。」
村上の野郎…加賀にしょーもない
俺の過去を教えやがってぇ…。
朝起きたら腹パンしてやるか?
「よかったらお聞かせください。」
「わかったよ。つまらない話だよ、
あれはたしか奴が娯楽室に———」
……
…………
「…んで奴をこう呼ぶことにした。
『筋肉ダルマ』ってね!」
「そうだったのですか、
面白い方だったんですね。」
「まぁ面白い奴だけど
山下は正真正銘のロリコンでさ、
見た目もそうだが気持ち悪い奴だぜ?
教育隊のロッカーに洋物のロリータ本を
持ち込んで班長に怒られたんだ。
分隊全員が一時間『前支え』、
つまり腕立ての姿勢を取らされてさ。
マジでぶん殴ろうかと思ったんだぜ?!
奴は筋肉あるからさ、余裕な顔してて
同期の俺たちは余計腹が立ったんだ」
「まぁ、そうなんですか。」
しばらくの間俺の昔話で盛り上がった。
村上との悪巧みや山下との絡み。
生産性は無い内容であったが
それを加賀は静かに聞いてくれた。
「———ところで加賀さん?」
「はいなんでしょう。」
「そろそろ…『コレ』、止めない?」
「……嫌、ですか?」
コレ、即ち加賀はずっと
俺をホールドしておりそろそろ
恥ずかしさの限界が訪れていたのだ。
…いや、むしろ我慢の限界?
「いやいやいや!!
決して嫌とかじゃなくてさ?!
単純に加賀が体勢的にも体力的にも
大変なんじゃないかと思ってだな…」
「心配いりません、大丈夫です。」
「俺は『色々』と
大丈夫じゃないんだけど?」
「『色々』とは何ですか?」
え?!
それ聞く普通?!
俺だって男ですよ?!
決して我慢強いのが男ではなくってよ?!
男はすべからく狼ですわよ?!
俺が女に飢えた狼になるぜよ?!
「え、その…た、体勢もキツイし?」
「ああ、そういうことですか…。」
うむ何となく察してくれたようだ。
「では…『こう』すれば如何ですか?」
<<ぽすっ、ムニュン…>>
「……」
「ほら、これで『楽』になりました。」
「———なぁ、加賀さん?」
「なんでしょうか提督。」
なんでしょうか、じゃない。
俺から言わせてもらうと、
『なんでこうなったんでしょうか?』
としか言えない事になったぞ。
「…何故、ベッドに横たわった?」
「提督が楽になったかと。」
「いや、楽にはなったけどさぁ…」
うむ……。
全く察していなかった!!
加賀は俺を胸に抱いたままベッドに
倒れこんだ!俺を胸に抱いたまま
ベッドに倒れこんだ(ここ重要)
下敷きになっていないから
そこまで苦しくは無いが、
これはこれで色々と『苦しい』。
…我慢的な意味でね?
「…俺は子供か?!」
「子供っぽい面もお持ちですし、
そこは否定はしかねます。」
暁もきっと文句を言う程の扱いだ。
「…ちなみに拘束される期限は?」
「今日は私が満足するまで離しません。」
「俺はもう、とても、かなり、
非常に満足したから寝たいんだが…」
いや、部屋に帰っても寝れないよ?!
加賀の胸を満喫した後じゃ寝れないよ?!
「提督への、日頃の感謝です。」
やや照れつつ話す加賀。
いや、キャラおかしいよ貴女?!
「…加賀さんブランデー飲んだ?」
「いいえ、私は紅茶だけですが。」
「あっ、そう…」
酔っているわけでは無さそうだ。
加賀も意外と積極的なのか?
いやいや、それはあり得ない。
俺の勘違いもいい所だろう。
しかしながら今日は本当に
加賀には世話になったなぁ。
提督の俺をサポートしてくれたり、
こうして文字通り親身になって
ケアしてくれたり…。
(慰めてもらってばっかりじゃないか…)
加賀の胸からは心臓が
激しく脈打つ音が聞こえる。
彼女も俺の為にきっと
相当な覚悟でしてくれているのだろう。
優しい顔から想像出来ない程の脈拍数だ。
そう考えると彼女の
想いを無駄にしたくない。
それに…。
「これは———石鹸の匂い、かな?」
「ッ!!…そ、そうです。」
一瞬言葉に詰まりつつ加賀が答えた。
(あ、脈拍数上がった)
敢えてそこは突っ込まず、
素直に思ったことを語る。
「———懐かしい香りがするよ。
小さい頃に母さんが使っていたかな?
名前はわからないけど
好きだった銘柄の石鹸だよ」
その言葉に加賀は顔を赤らめる。
「すごくいい匂いだ…」
寝間着越しとはいえ彼女の
胸に密着しているということもあり、
必然と加賀自身の香りも感じられる。
変な意味抜きで幸せだ、
とても心地の良い香り。
「もう少し、このままでいいかな?」
「わ、私から離しませんと
言ってしまったからには、
ぜぜん全然だだ大丈ぶ夫です!」
いや、かなり大丈夫じゃ
なさそうなんですがそれは…。
榛名みたいな事を言ってる加賀も
新鮮かつレアでかわいいなぁ。
「ふあぁ…おっとごめん。
ブランデーも久しぶりだからかな、
酔いが回るのが早いや。
もう眠たくなってきたよ…」
出港してからアルコールは
控えていたためであろうか、
思いの外酔いが回っている。
「流石に悪いよ、そろそろ
俺は部屋に帰らないと…」
「……。」
胸から見上げると加賀は
やや寂しそうな顔をしていた。
小さく溜息、悲しげなら目をした。
「…私ではダメなのですか?」
「ダメって何がだよ?
加賀のお陰で俺もかなり癒された。
もう無理に体を張ってもらう必要は
ないんだからゆっくり休みなよ」
「私は———にまだ———しいです…。」
「え、何だって?」
「私はまだ…提督にこのままで、
いて欲しい…です。」
目をうるうるとさせながら語る
加賀に不謹慎ながら興奮してしまう。
(うおぉー?!待て待て俺、
加賀は俺を慰めようと
してくれているだけであって、
決してそういうつもりで
言っているわけじゃないんだ!!
それなのに何興奮してんだ、
落ち着け、落ち着けぇ…!)
「か、加賀にも迷惑かけたからな。
ま、まあそうだよな。
こ、今度は俺が慰めて
あげる番だからな、うん。
健全に慰めてあげないとだな、
ちゃんとしっかり、ねぇ?」
↑錯乱意味不明
…結局そのまま寝ることになった。
……
…………
〜それから二時間経過〜
加賀自室
(俺は無機質な存在…。
俺はただの抱き枕、抱き枕が
興奮したり襲ったりしてはいけない…。
いいか、加賀が眠るまで耐えるんだ。
そうしたらこっそり部屋に帰る、
それまでの我慢我慢…)
俺はベッドの上そして加賀の胸の上で
寝たふりをしつつもどうにか
眠りに就こうと努力していた。
…ここまでの流れを整理しよう。
①加賀が俺を慰めるため抱きしめた。
②加賀は今夜離すつもりはない、
恐らく眠るまで逃げられない。
③加賀は石鹸のいい匂い。
それを言ったら彼女の心拍数が
上がり動揺した、それは俺もだけど…。
④加賀にこのままでいてくれと言われた。
『提督にこのままで、いて欲しい…』
この言葉って捉え方によっては
色々とまずいんじゃないか…?
俺だって男なんだぜ?!
任務部隊や本土、マーカスが
各々真面目にこれから起こる
戦いに向け準備をしている中、
俺(たち)だけ色々と
違った意味の緊張感と戦っていた。
顔と頭に感じる心地良い
柔らかさに邪念を抱かないよう
無心となること修行僧の如し。
加賀の胸枕(爆誕)の柔らかさと
手を伸ばしたくなる欲望との戦いは
かれこれ二時間に及んでいた。
ひたすらじっとしてては
不審に思われると考えた。
たまに寝返りをうつのだが、
その際にかなり神経を使った。
たまに顔に感じる
【謎のコリコリ感】は
気のせいだと脳内で叫びながら、
俺は関係の無い事をひたすら
思い浮かべるのに必死だったのだ。
その時に加賀から漏れる
「んっ…。」という
ハスキーボイスはきっと
寝苦しいからなのだろうと思い込む。
それは正に馬耳東風を強いられた、
という表し方しかできない。
(そ、そりゃ加賀だって
寝てる時に寝言だって言うだろうぜ?!
寝苦しいだけに違いない!
べ、別に俺のせいじゃない!
なんか顔にコリッとしたものが
当たったのは寝間着の裁縫の山、
絶対に気のせいだってーの!!)
加賀は既に寝たようなのだが、
“何故か”腕の力は抜けておらず
俺は逃げるに逃げられない状況だ。
(もしかして加賀って
眠る時も気を抜かないのか?!
これじゃあ俺が部屋から
逃げられねえじゃねーか?!)
…………
(む、無理、眠れない…!)
加賀は寝たふりをしながら
一人心の中で悶絶していた。
勇気を出して提督を慰めようと
抱きしめたまではよかったものの、
胸元で自分の匂いについて
言われてからはもう気が気でなかった。
提督は久しぶりにブランデー入りの
紅茶を飲んだこともあり
すぐに酔ってしまい“寝た”ようなのだが、
たまに寝返りをする際に寝間着が
体に擦れてその度に変な声が漏れる。
(い、いやらしい女とか…
提督に思われていないかしら?!)
提督が眠りに就いてから静かに
離れようかと思ったが自分から
話さないといった手前、
責任感の強い加賀は
どうしようもできないでいた。
今も提督を抱きしめているのは
たまに寝返りを打つ際、頭が
衣服に擦れるのを防ぐためであり、
離せば激しい摩擦で更に変な声を
上げてしまうかもしれないからだ。
なお、彼女の為に付け足すが
声が上がるのは単純に、衣服に擦れる
行為に対して驚いているだけであり、
それ以外の理由は存在しない
……はずだ。
(もしかして提督は意外と
寝相が悪いのかしら…?)
この二時間余り、提督が数十分おきに
頭を動かすため、いつ動くのか
気になってしまい眠る気にならない。
もし自分が眠れたとしても、
突然動かれたら今度はどんな声を
出してしまうか不安で仕方ないのだ。
((嗚呼、早くどうにかして…!!))
……
それから一時間余りたった頃。
「———か、加賀起きてる…?」
「———は、はははいっ、
私はちゃんと起きています…!
……あ。いえ、なんでもありません
私はちゃんと寝ていました!!」
「…やっぱ起きてたんだ」
モロに挙動不審である。
そんな加賀もなかなか珍しい。
「そ、その…申し訳ありません
実はずっと起きていました…。」
俺は小さな声で加賀に聞いてみた。
寝ていれば気付かない筈の呟きに
彼女は即応、やはり起きていた。
「ははっ、もう離していいよ。
あ、下手に気を使わせたくないから
部屋には帰らないことにする。
このまま静かに寝させてもらうよ」
加賀のホールドが解けた隙を見逃さず
俺はコロコロと加賀の上から横へと
器用に転がって配置転換を行う。
その時に加賀が漏らした
「あっ…んっ…!」
という声はきっと俺が重かったから
に違いない、違いない!(重要)
「なんだか“色々と”気を
遣わせてしまったようだね。
ここはお互い様ということで
何も無かったことにしようか」
「そ、そうですね…。
私も“色々と”困らせてしまった
ようですが、ここは一つ手を打って
水に流すことしましょうか…。」
「「———プッ…!」」
お互いの言葉に思わず笑いが漏れる。
ああなんだ、この数時間
同じことを考えていたのか。
なんだ、それならもっと
早く言えばよかったじゃないか。
単純な答えが浮かび、
これまで頭にあったモヤモヤと
したものが何処かに行ってしまった。
そして、ずっと
自分自身を責めていた
“山下を見捨てた”という事実を
一時的であるが割り切ることができた。
緊張感も解け自然体となった
俺たちに眠気がどっと押し寄せる。
「もう…1時か。
早いような遅いような時間だね。
今度こそはゆっくり眠れそうだ…」
「ええ。静か、ですね…。」
眠気で意識が朦朧としてきた、
そして普段の俺ならしない行為。
スッと加賀の首元に腕を入れた。
いやらしい意図は無いが、
今は彼女を近くで感じていたい。
「…お邪魔します。」
そういうと静かに頭を乗せる加賀。
そのまま加賀が俺の方を向けば
胸が当たるであろうが、
さすがにそれはまずいだろう。
顔を合わせることもなく
ぼんやりと天井を見つめ合う。
「…そういえば提督。
何故紅茶にブランデーを
入れるのですか?
何かきっかけがお有りなのでは?」
加賀は思い切って普段から
気になっていたことを質問する。
「うん。前にも聞かれたんだけど
俺自身よく覚えていないんだ…。
昔誰かがやってるのを見て真似した
記憶があるけど、それが誰なのか…。
全然覚えていないんだ」
「こ、今度ご一緒させてもらっても
よろしいでしょうかっ?!」
「もちろん、この戦いが終わったら…
いや、この言い方はまずいな。
横須賀に帰港したら飲もうよ。
いつになるかはまだわからないけどね」
そこまで話すと眠気が
決壊したように押し寄せる。
…我慢の限界みたいだ。
「もう部屋に帰る気力もないや…。
すまないけど寝させてもらう…よ」
「はい。
私も今度は眠れそうで…って
もう寝てしまわれましたか。」
加賀の返事を聞く前に心地良い眠りに
まっしぐら。これには加賀も苦笑いする。
そんな俺の寝顔に吊られたか、
加賀も眠りに就く。
ベッドに川の字という光景であるが、
さっきまでの緊迫感に
比べれば可愛いものだろう。
知らない人が見たら二人は
夫婦であろう、と思うかもしれない。
……
南の海の眠れない夜は
悲しい出来事を一時的ではあるが
優しく忘れさせてくれた。
朝からは重い決断を下したり
言葉では表せないような、
それは重い責任を負わねば
ならなくなるだろう。
しかしこの時ばかりは
天は二人を邪魔することなく
見守ってくれたようだ。
それが偶然なのか、
それとも仲間を見捨てねば
ならない彼らへの慰めの
報酬なのかは神のみぞ知る。
ひとときの安らぎと
お互いの温もりを感じつつ、
少しだけ寝苦しい真夏の夜は
ゆっくりと過ぎるのであった…。
…加賀さんが慰めてくれました。
主人公はマーカスにいる山下君を
見捨てた(予定)ことをかなり根に
持っているため、加賀はそれを汲んで
提督のケアを決行しました。
…ただイチャイチャしただけ、かも?
さて次回からはマーカスに敵艦隊が来襲。
偶然繋がった衛星電話、
そこで同期の山下が…。
さらば、山下君…