桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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父島の後方艦隊と合流し、
補給と修理を行うこととなった艦隊。

補給を待つ間、
時間に余裕ができた提督は
艦娘の心情把握に努める。






2-6A 艦娘の心情 【大淀の場合】

 

一通り挨拶が終わったところで

この後の行動を示達した。

 

なお、龍田たちドロップ艦娘には

それぞれのフネに戻ってもらった。

 

意思疎通に欠かせない無線については

臨時措置として、民間にも割り当て

られている電波型式・周波数を

活用することとなった。

 

彼女らの通信機は帝国海軍時代の

物であるが、電波型式と

周波数さえ合わせれば交話できる。

 

自衛隊の艦隊内に於いては

『秘話装置』と呼ばれるものが

噛ませてあるため同期できない。

周波数を合わせても、持っていない側は

宇宙人のような音が聞こえるだけだ。

 

そこで電波があまり遠くまで

飛ばずに近くの船舶とやり取りできる

程度の周波数を選ぶことにした。

空中線電力にもよるが、

概ね本土には影響はないはず。

 

(本土に帰ったら内局とか

海幕にドヤされるかもな…)

 

だがこの戦時にそんな悠長な事を

言ってはいられないのも事実。

事後連絡になるが部隊指揮官から

海幕の指揮通信情報部に連絡し、

そこから関係省庁へと報告された。

 

国が無くなるくらいならと

電波を管理する総務省も

超法規的措置として黙認してくれた。

日本もまだ捨てた国じゃない。

 

余談になるが、自衛隊には

総務省から無線で使う周波数を

割り当てられているのだが、

範囲が狭いとか稀に海外からの

混線があったりと、軍隊として

少々やり辛いこともあったりする。

 

(ま、基地に帰ったら上申すっか…)

 

閑話休題。

 

……

 

「——父島沖の後方艦隊と合流し、

燃料・弾薬を可能な限り搭載する。

その間手空きは休息し、

同時に被害箇所の修理を行う」

 

目の前にある作戦支援端末には

参加全艦艇のステータスが表示され、

戦力外認定されたフネには

赤いマーカーが引かれている。

 

大破した天龍を始め

護衛艦や輸送艦の一部が

リストアップされていた。

 

マウスでクリックすると

そのフネのするべき行動・作業が

事細かに書かれている。

 

「天龍、お前は到着したら

すぐに外板と水線下の修理だ。

他から手空きの応急工作員を

派出してもらえることになったぞ」

 

任務部隊司令部も優秀だ。

残置する自衛艦や艦娘の

応急員・妖精を応援要員として、

被害を受けたフネに

派遣して戦力の復帰を図る。

 

天龍は流石に直しきれないが

沈没しかけているため優先度は高い。

 

それと同時に彼女に積まれている

砲弾や魚雷、火薬類も下ろす。

引火を防ぐためでもあり、他の艦娘へ

譲渡して継戦能力を高めるためだ。

 

『なんとかなりそうだな。

折角龍田もドロップしたしな、

まだ死んでられねぇっての』

 

相変わらず口だけは達者だ。

 

「死ぬまで戦わせろ、なんて

流石に言いはしないか〜」

 

『死んだら戦えねぇだろうが。

それに、それは只のバカだっての』

 

ご尤もだ、それを聞いて安心したぜ。

 

……

 

「先ほど指示された順番を守れよ?

補給待ち・終わった艦娘は

交代で警戒の任に付くこと!

護衛艦ばかりに任せちゃ大変だからな」

 

『『了解しました!』』

 

艦娘の返事を聞いた後、

俺は集結した艦隊を見渡す。

 

(…やはり無傷とはいかない、か)

 

天龍の他にも、大穴が開き

そこから黒煙を上げる自衛艦がいた。

 

現代の軍艦…護衛艦というものは

装甲らしい装甲は無いに等しい。

 

主兵装がミサイルということもあり

それを迎撃するのが優先に設計される、

つまり可能な限り軽装甲なわけだ。

 

“被弾しなければどうということはない”

“別に、全部迎撃してしまえば

装甲など無くても構わんのだろう?

 

…という設計思想と捉えて構わない。

 

(輸送艦も中破、俺の古巣である

『むらさめ』も損害を受け、

戦死者も出てしまっている…)

 

艦内は恐らく、地獄だ。

 

聞いた話だと『むらさめ』は

至近弾による船底の破損を受け、

被害箇所にいた乗員は“潰された”らしい。

発見されたとき、潰れた室内から

溢れる海水は赤黒かったそうだ。

それが何なのかは言うまでもない。

 

輸送艦『しもきた』については

誘爆した対空ミサイルによって

後部の上甲板は捲れて使用不可能、

隊員・乗員“だったモノ”が

そこら中に散らばったそうだ。

 

上甲板を片付けてからも、

直下の艦内からは肉片が見つかり

現在でも悲鳴が絶えないらしい。

 

(……やりきれん、な)

 

想像しただけで吐き気がする。

この『金剛』もそうなるのかと

考えただけで寒気が走った。

 

(いかん…今は感傷に浸って

いる場合じゃないんだぞ!

これ以上増やさないための

方法を考えないとなんだぞッ?!)

 

金剛に気付かれないように、

音をなるべく立てぬよう

自分の頬を強めに叩く。

 

「…どうぞ提督、ブラックコーヒーです」

 

「ん、さんきゅ」

 

俺の心情を察してくれたのか、

士官室係の妖精がマグボトルを差し出す。

 

(…って熱っ?!)

 

真夏にホットコーヒーは予想外だった。

まさかホットで出されるとは…。

 

(…喉が焼けるかと思った)

 

味は正直わからなかった。

敢えて熱いコーヒーを選んだのは

彼なりの気遣いかもしれない。

 

お陰で頭が少しすっきりする。

 

(この後の作戦を立てないとな…)

 

死傷者の処置や応急修理については

司令部にいる担当者がやってくれる。

ここで俺が適当に出ていったところで

逆に足手まといになるし、

俺には俺のやるべきことがある。

 

「テイトクどうかしましたカー?」

 

金剛には見られなかったようだ。

提督は腰を据えてナンボ、

弱みを見せるのは今じゃない。

 

首を傾げる彼女は可愛い、

だからこそ護らねばならぬ。

 

「まあね、ちと作戦を練ってたのさ」

 

とは言ったものの

カタチらしい形も出来上がっていない。

 

「…正直に言います。

ワタシと霧島だけでは厳しいデス、

小破した伊勢も加えたとしてもやはり

Ammo(弾薬)の少なさが心配になりマス」

 

深刻そうに金剛は考えを述べた。

その顔は普段の彼女らしからぬ

『高速戦艦 金剛』としての顔だった。

 

「やはりそこに行き着くか…。

進撃にあたっては航空戦をメインに

戦いを進める他ないかもな」

 

『———また旗艦変更か?』

 

村上の声だ。

 

「何度も悪いな、そうなりそうだ。

お前と艦娘にも迷惑を掛けるな…」

 

『心配ご無用です。

皆迷惑など思っていませんから。』

 

「流石加賀、ナイスフォローだ。

それでだ、再び空母を旗艦に

して臨もうと思うわけだが———」

 

ここにきてやや勿体ぶるように語る。

金剛も恐らく俺は『加賀』にすると

言うと思っていたのだろう、

“あれ?”といった表情を浮かべる。

 

「一体誰なんデスカ?」

 

「それは———『雲龍』だ」

 

『ふーん…。私、なのね…?』

 

指名された雲龍の声は

俺の考えを図りかねているのか

やや慎重そうに感じた。

 

「理由はただの縁担ぎだ。

雲龍とは、雲に乗って天を昇る龍。

航空戦に必須である偵察を成功させ

この危機に際し、雲蒸“龍”変(うんじょうりゅうへん)の如く

勝利を導いて欲しいから、かな。

 

それに…雲龍のチカラを

見せつけてもらいたいんだ。

空母雲龍、初の実戦で撃沈され

航空機を飛ばす事も叶わなかった。

 

だが今度は違う。

大戦初期の機体といえど

零戦21型を始めとした艦載機を持ち、

改飛龍型の雲龍型ネームシップとして

堂々たる正真正銘の正規空母。

そんな彼女に俺はその名に恥じぬ

活躍と栄光を期待する…」

 

ゲームでは雲龍の初期装備は

対空兵装のみだが、現実では

加賀や蒼龍と同じ零戦21型や

99艦爆などを搭載している。

どうせなら大戦後期の52型の方が

よかったが、それでも十分な戦力だ。

 

別に旗艦など誰でも同じ、

出撃前はそう考えていた。

 

だが、戦い方やモチベーションへの

影響というものは計り知れない。

 

加賀や金剛、空母と戦艦という

艦種の違いのみならず、

提督と旗艦艦娘のやり取りによって

艦隊の意気込みや動きも変わる。

 

『私が旗艦?そう…腕が鳴るわね』

 

「無理に意気込む必要は無い。

昨日したように発艦する艦載機へ

“ちゃんと…還って来て”って

声を掛ければいいさ」

 

『あら、知っていたのね…?』

 

「おたくの艦載機妖精が無線で

自慢していたのを聞いたんだ」

 

敵東方機動部隊による空襲時に

流れてきた航空無線で偶々聞いたのだ。

雲龍の優しさが感じられる一言だ。

 

「…まぁ言ってしまうと

別に航空戦だからって旗艦を

正規空母にしなきゃいけないわけじゃ

ないんだけど、そこは単に

俺個人の気分の問題だな」

 

実際のところ、旗艦をほいほいと

変える行為は好ましくない。

指揮系統の一時的混乱・停止は

戦争にあっては敗北に繋がるからだ。

 

だがこうして余裕があるうちは、

艦娘にとっては気分転換の1つであり

行っても差し支えはない。

旗艦に指定される艦娘は栄光に

思うことはあれど不満などない。

 

 

(これは輸送任務ではないわ、

正真正銘の航空殲滅戦よ…!)

 

提督の言葉に静かに興奮する雲龍。

彼女は胸に勝利を誓った。

 

 

………

 

 

「世話になったね金剛。

紅茶美味しかったよ、次は俺が

淹れるから楽しみにしててくれよな」

 

そう告げてから、舷梯を使い

内火艇へと降りていく。

『送迎』のサイドパイプの後に

金剛の声が響き、なんだか後ろ髪を

引かれる思いになる。

 

(だが俺には行かねばならない

場所があるんだ、許してくれよ…)

 

補給を実施する間、

僅かではあるが時間に余裕ができた。

 

俺はこの貴重な時間を有効活用し、

“彼女たち”に会いに行くことにした。

 

 

※※※

 

—大淀サイド—

 

『大淀』艦長室

 

(“連合艦隊旗艦"、か…)

 

私、大淀は自室で塞ぎ込んでいた。

父島空襲後、提督にビデオ通信で

励まされ多少持ち直したものの

その後は何も手がつかず、

対空警戒等も妖精が代行していた。

 

空襲の際も秋月さんと協力して

敵編隊を迎撃したものの、

力及ばず味方に被害を出してしまった。

 

情けない、そればかり考えてしまう。

 

『——!何故こちらに———?!』

 

『おい、————?』

 

部屋の外が騒がしい。

内容までは聞き取れないが

何かあったのだろうか?

 

妖精には緊急時は呼ぶように

伝えてあるから私は即応できる。

それが無いということは

大したことでは無いのかもしれない。

 

(提督に、会いたいな…)

 

無性に提督に会いたくなる。

彼は今お忙しいのだ、

私などに構っている暇は無い。

 

でも心の奥では彼の声と温もりを

無意識に求めている自分がいる。

 

 

提督は艦娘に好かれている。

 

艦娘に対してセクハラをするという

ことを鹹味しても、彼は立派だ。

時たま無線で流れる通信において

艦娘の心情把握に努め、艦隊の

士気を維持向上を心掛けている。

 

“落ち着いたら顔を出す”

 

空襲後の通信ではそう仰っていたが

現状では恐らく不可能だろう。

 

<<コンコン…>>

 

唐突に扉がノックされる。

幹部妖精であろうか?

 

申告が無かったため不審に思い、

座っていた椅子から立ち上がり

ドアノブを回し部屋の外を伺う。

 

「…やっほ」

 

———え?

 

「妖精と思った?残念、俺だ」

 

目の前には、心の中で会いたいと

願っていた提督が立っていた。

 

「あ、あの?!えっ…ほ、本物ですか!」

 

気が動転し、失礼な事を言ってしまった。

 

「断りもなく来ちゃって悪い、

いま入っても問題無いかな?」

 

「ど、どうぞどうぞ!!」

 

提督が私の対応に苦笑いする。

私の冷静さは何処に行ったのか?

 

カクカクした動きで室内に案内する。

お茶でも出した方がいいかしら、と

一瞬悩んだ時だった——。

 

「…可愛いな大淀は」

 

<<ギュッ…>>

 

提督はそう言うと、背を向けていた

私をそっと抱き締めた。

驚きに驚きが重なり声が出ない。

 

「て、提督!一体何を…?!」

 

「好きな女の子に会いに来た、

ってのは理由になるかな…?」

 

そうではなくて私を

抱き締めた理由の方です…。

 

「ビデオ通信の大淀が自嘲気味に

笑っている顔は見ていて辛かった。

“連合艦隊旗艦なんて所詮飾り”、

そんな事を言う大淀が

画面越しとはいえ目の前にいるのに

俺は抱き締めてあげられなかった…。

 

でも今はこうして直接大淀を

抱き締められて俺は嬉しい。

例え“セクハラ野郎”と罵られても

お前を感じられる方がいい。

…大淀はそんな俺を嫌うかい?」

 

提督の優しい声が心に響く。

耳元で囁かれる行為というものは

よくこそばゆいとか言われているが、

提督のそれは逆であった。

 

普段は自らセクハラ云々言っているが、

彼がしている行為は世間的に見ても

至って可愛いものである。

 

(ど、どうしようかしら…?!)

 

身体は硬直してしまっているが

心はリラックスしたと思う。

しかし、気になる異性から

好きだと言われ抱き締められては

どう反応したらいいか困ってしまう。

 

「こんな俺が嫌なら、

好きに離れるといい…。

いきなり来て女の子を抱き締めるとか

犯罪レベルだからな、逮捕されても

文句は言えないかなぁ〜」

 

戯けたように話す提督が

何処となく可笑しくて頬が緩む。

 

「…でも一つ言えるのは

お前を心配する気持ちは本物だ。

知識も指揮能力も無い俺だけど、

そこそこ気遣いは

しているつもりだよ?」

 

私を抱き締める力は

強過ぎず弱過ぎずであり、

かつ体重を掛けていないため

非力な私でも簡単に振り解ける程。

 

(提督は、卑怯です…)

 

何故なら、提督は優しいから。

 

この出撃の準備段階から、

提督は艦娘の事を気遣ってくれた。

 

私は知っている。

彼が防衛省に赴き、各幕僚監部に

掛け合いって可能な限りの

戦力を出して貰えるように

頼み込んでいたことを。

 

 

“——なんか今回の出撃は

陸・海・空自衛隊総出の

大規模作戦になるらしいぜ?

これなら艦娘も少しは安心して

戦闘に臨めるな、立案したのは

何処の誰だか知らないが

取り敢えず感謝しとかないとだなぁ”

 

 

“——護衛艦も各警備区のほぼ全艦が

この横須賀基地に集結らしいぞ。

艦娘と同じ名前の護衛艦だらけだと

無線がこんがらがってヤバそうだが、

文句言って護衛艦が半減されたら

それはマズいよな、大淀もうまいこと

俺をサポートしてくれよ?

じゃないと指揮が混乱して

俺の給料が減らされちゃうからなぁ。

もしミスったらセクハラな!”

 

 

そんなことをみんなの前で言って

誤魔化していましたが、

この私にはバレてますよ…?

 

「…あの、大淀サン?」

 

 

自衛艦の艦娘が揃ってからも

提督は裏で努力なさっていました。

弾薬の確保はもとより、整備に訓練…。

艦娘と戯れる合間に、密かに海幕へ

艦隊運用について掛け合ってましたね。

 

「ヘーイ“OH!淀”、もしもーし!

…もしかして、怒ってます?」

 

ギリギリまで重油の確保、

出撃前夜は遅くまで起きて

いらっしゃったのではありませんか?

意外と経理も得意そうですし、

恥ずかしながら嫉妬してしまいました。

 

「…無視か、ワザと無視なんだな?!

アポも無しで来たから

対応しませんよって言いたいんだろ!

俺にも考えがあるぞ、

耐えられるものなら耐えてみろォ…!」

 

熱意だけで職務を全うする貴方は

私たち艦娘の誇りです。

そして、私個人にとっても“特別”な…

 

≪フ〜ッ…!≫

 

「…って提督何してるんですかッ?!」

 

 

 

※※※

 

—提督サイド—

 

大淀を抱き締めて告白したのはいいが、

彼女は黙り込んでしまった…。

 

照れている?いや、違うな。

大淀は真面目キャラだからな、

きっとアポを取らずに来たから

無視を決め込んでいるに違いない。

↑なぜそうなる?

 

落ち込んでいると俺が感じたのは

きっと彼女の皮肉な態度による

対応だったのかもしれない。

 

(でもここまで来て“帰れ”と言われて

帰る奴はいないんだよね〜…)

 

おっし、決めた。

目の前にある大淀の『うなじ』に

吐息を吹きかけることにすっぞ!

↑だからなぜそうなる?

 

抱き締めたままの後ろ姿、

綺麗な長い黒髪と美しい首元。

その無防備な大淀はまるで、

イタズラしてくださいと言わんばかりだ。

 

……

 

案の定大淀は我慢しきれず

やや怒り気味に言葉を発した。

 

「…って提督何してるんですかッ?!」

 

「…え?セクハラ」

 

「『当然だろ?』みたいな

口調で言わないでください!

もうっ、せっかく提督について

良い人だなと思っていたのにぃ〜…」

 

やっと再起動したと思ったら、

突如怒ったり落胆したりと

見ていて実に面白いったら面白い。

 

「最初に言っただろ?

“好きな女の子に会いに来た”って」

 

「結局そういうオチなんですね…」

 

「そそ、お後がよろしいようで」

 

「全然よろしくないと思います…」

 

大淀のツッコミが炸裂する。

 

「「……クスッ」」

 

俺たちは同時に笑った。

 

「普段からそういったことを

口ずさまなければ素敵なんです!」

 

「それは俺のキャラじゃないじゃん?

所謂アレだ、『ギャップ』だよ」

 

「自分から言うんですね…」

 

更に大淀が落胆してしまった。

 

「大淀の顔が見れて嬉しいよ。

普段凛々しいお前が自嘲する姿、

ビデオ通話中辛かったんだからな」

 

俺は大淀の首筋に

顔を擦り付けるように語る。

 

「そ、その…心配は嬉しいのですが、

あまりスキンシップが過ぎるかと…」

 

おぅおぅ、可愛いじゃないか。

顔を赤くして照れる大淀も堪らない。

 

「え〜〜?

なんで、俺たち『恋人』だろぉ?」

 

「ちっ、ちち違いますッ!!」

 

「だって抱き締められてて

抵抗しようともしないじゃん」

 

ここからが正念場、

大淀がどう答えてくれるかだ。

 

「…もしかして、俺が嫌い?」

 

はい出ました、YES or NO。

さあ大淀よ!これに答えてみよ!

 

「えっ…と…わ、私は…」

 

「私はぁ〜…?」

 

「て、提督の事が、す…す…」

 

「俺の事がなんだってぇ〜?」

 

自分でも変な事をしていると感じる。

だがここで大淀がハッキリと

答えない限り俺は帰るつもりもない。

 

告白への返答を求めているのではなく、

大淀が自らの意思で“決断を出す”という

大きな課題を課しているのだ。

 

(嗚呼、どうしよう?!

後ろから抱き締められた状態で

好きか嫌いかなんて私には

答えられませんよ〜!)

 

思いっきり答えは出ているが

それに気付いていない大淀。

それを抱き締めながら楽しむ提督。

 

「…なんてな!

大淀が俺の事はよくわかったぜ。

———真面目な話になるけど

大淀は頑張った、お前だけじゃなく

秋月や伊勢もみんなだ。

 

そして戦ったのは

お前たちだけじゃない、

護衛艦も——防空は完璧な筈の

イージス艦もいて『てるづき』もいた。

だが敵はそれを掻い潜り

艦隊を攻撃し、父島上空に来た。

 

…“仕方ない”とは言わん、

ただどうしようもなかったんだ。

むしろ最小限の被害にできたと

考えるべきじゃないかな?」

 

「はい…」

 

大淀は静かに頷く。

 

「世の中“絶対”という言葉は無い。

あらゆる事態に備えていても

必ずといっていいほど“不測事態”は

起こってしまうし、ましてや

戦争にあっては無傷なんて尚更だ」

 

大淀を抱き締める腕に

自然と力がこもってしまう。

 

「時代と技術が進んでも

“完全”という言葉はありえないんだ。

気にするなというのは酷だけど

無駄に悔いてしまうのもいけない、

感情を時には押し殺してでも

割り切らないと次は自分が死ぬぞ?」

 

「提督…」

 

もはや大淀に言っているのではなく

俺自身に言い聞かせていた。

 

「大丈夫ですよ提督…」

 

俺の腕に、大淀が手を添える。

 

「私も他の艦娘の方も

誰も沈みません、なぜなら

貴方が“好き”ですから…」

 

振り返った彼女は美しかった。

微笑む顔に思わず、どきりとする。

 

「私の事を大事に思ってくれる、

ちょっとエッチですごく優しい…」

 

意地悪そうに言う大淀からは

先ほどまでの暗さは消えていた。

 

「今ならハッキリ言えますよ、

私は提督が大好きですよ…」

 

「……大淀って大胆だな」

 

 

気持ちの切り替えが上手いと言うべきか

立ち直りが早いと言うべきか…。

告白への大淀の返答は

予想以上に堂々としていた。

 

(告白したと思ったらいつの間にか

告白されて俺が照れてしまっていた…)

 

動揺のあまり、内心文語になる。

 

「秋月さんに対しても

こうやって励ましたのですね」

 

「あ…ああ、所謂ショック療法って

やつを俺の気持ちを乗せてやったら

上手い事行き過ぎて、今回は俺自身が

心を掻き乱されてしまった訳death…」

 

自分でも何を言っているのか不明だ。

 

「あら、それは大変です。

私がなんとかしますね…♪」

 

そう言うと大淀は突如

振り返ったままの顔を近付けた。

 

≪チュッ…≫

 

「ほへ…?」

 

「…今日は特別です」

 

気が付けば唇に大淀が“いた”。

 

「…ふふっ、提督可愛いですね!」

 

「ほ、ほげぇ……」

↑放心状態

 

嬉しいとか照れるという感情ではなく、

どうしてこの状況が生まれたのか

全く理解できなかった。

 

「提督は私に元気をくださいました、

なので私も勇気を出してみました…」

 

そう言い終えると大淀は頬を

紅潮させて目を泳がせた。

 

此処に至り俺は再起動した。

 

「ありがとう大淀…。

お前の気持ちは伝わったよ。

まさか俺にキスをしてくるとは

思ってなかったから驚いた、マジで」

 

次の言葉に迷っていると

それを待っていたかのように

通信が入って来た。

 

??『———そろそろいいかしら…?

大淀さんの事が心配なのはわかるけど

私の事も忘れないでね?』

 

「げえっ、村雨ェッ?!」

 

ヤベ!村雨にも“後で行く”って伝えて、

すっかり大淀とくっつき過ぎた!

 

『どうしてそんなに驚くのよ?!』

 

ビックリしたぁ〜…!

そりゃチュッチュしてるときに、

無線上とはいえ話しかけられたら

誰だって驚くだろうよ。

思わず敵の将軍が現れたかと

思ってしまったじゃないか。

 

(いや、敵って何やねん…)

 

それどこの三国志?

村雨は敵の将軍なのかよ…。

↑自問困惑

 

「ん、待たせて悪いな。

丁度大淀も元気になったところだ」

 

名残惜しいが時間は有限だ。

大淀を元気にさせる事ができたし、

『村雨』にも行くとしよう。

 

催促の通信が終わり、

大淀に一言別れを告げた。

 

「よし、次は『B』までしよう!」

 

「…先ほどの言葉を撤回します、

さっさと降りてください」

 

冷めた目で俺を見る大淀。

 

「すんません冗談です許してください」

 

「冗談です、私はもう大丈夫ですよ!

早く村雨さんのところに

行ってあげてください」

 

元気な大淀に戻ってくれたようだ。

 

……

 

いつもの大淀になったところで

気持ちを入れ替え、退艦する。

厳正な送迎を貰い舷梯を降りる。

 

迎えの『村雨』からの内火艇に乗り、

大淀へと手を振る。

見送りの妖精に混じって大淀も

万遍の笑みで振り返してくれる。

 

少し強引過ぎた気もしたが、

結果的に大淀が復活してくれて

よかったと考えるべきか。

 

俺にできる事は唯一つ、

艦娘と直接触れ合うということ。

 

気の利いた言葉よりも

面と向かって話をする、

貫禄もアタマも無い俺の武器。

 

(“それしか”出来ないと見るか

それとも、“それこそ”が強みと見るか…)

 

先ほど語ったように、世の中には

“絶対”という言葉は無いし、

“完璧”な答えも誰として分からない。

 

内火艇に揺られながら一人考える。

村雨も言葉では元気そうだったが、

内心では落ちこんでいるのだ。

今行かねば、きっと後悔する。

 

「提督またセクハラっすか?」

 

内火艇を運用する妖精が茶化す。

 

「あたぼうよ、それが俺だ」

 

「ここまでくると尊敬しますぜ…」

 

「お褒めの言葉と受け取っとくぜ…」

 

本心では無いのだろう、

事実、発言した妖精も目は笑っていない。

空元気なのかもしれない。

 

(村雨はそんなに、

ショックを受けてるのか…?)

 

無論、村雨だけではない。

艦娘もそうだが隊員たちの心情も

『戦争』により荒れている。

 

だが俺は第101護衛隊の司令(艦娘たちの提督)

他所の部隊のことは他所に任せ、

自分の部隊をに士気を保つのが使命。

 

それが今の俺にできる

たったひとつ(最良)の手段なのだから…。

 

 

 

 

 

 





秋月の時もでしたが、
大淀も落ち込みそうな娘かと。
言動は軽い提督ですが
その内心は至って真剣です。



17夏のイベントでは『旗風』と
『天霧』が登場いたしました。
彼女たちは現役護衛艦なのですが、
物語には未登場・後日ドロップとして
いきたいと考えています。


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