桜と海と、艦娘と   作:万年デルタ

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猛暑日は続いていますが、
秋の訪れを感じ始めています。

ですが物語は夏(投稿から2年間も)
それでは陸海空による烈火の護り、
その後の話をご覧ください。


2-9e 安堵と懸念 【秋月、守備部隊】

 

(———ここは一体……。

やはり地獄、なのでしょうか?)

 

 

身体の感覚は無く、言葉も出ない。

そこが明るいのか暗いのかもわからない。

まるで夢の中にいるようだった。

———いや、断じて違う。

悪夢だ、地獄という名の悪夢だ。

地獄は恐ろしいバケモノが現れるとか、

閻魔や鬼によって苦痛を味わされる、

…などというものは所詮想像に過ぎない。

 

 

混沌とした無機質な世界、

これが地獄というものなのか…?

辛うじて目を開けられたものの

案の定、そこは暗黒に支配されていた。

 

 

(———あれ?

光の様なものが、見える……)

 

 

その時、目の前に一筋の光が見えた。

身体の感覚が無いにもかかわらず、

秋月はそれに縋ろうとする。

 

次第にそれは大きくなっていき、

彼女に世界の温かさが満ちていく…。

 

 

(すごく…温かい、です…)

 

 

“——づき、だい——うぶか?

あきづき、どうかめをさましてくれ。

なぁ、あきづき…秋月…”

 

 

遠くで何かが聞こえる。

 

 

“あき——ず…き”

 

 

“秋月…!”

 

 

秋月とは、誰か。

それを間違えるはずも無い。

 

 

秋月…紛れも無い自分の名だ。

 

 

そして彼女、秋月は目を“醒ます”。

 

 

(私は———生きている…!)

 

 

……

 

 

「——————う、ん……」

 

天井は見知った場所、

“秋月”艦内の医務室だ。

 

 

頭はまだ覚醒していないのか

ぼんやりとした思考が支配する。

 

 

無意識に辺りに目を凝らせば

ベッドの側の舷窓から外の様子が見える。

 

斜陽の橙色が彼女に落ち着きを与える。

…どうやら今は日没の少しらしい。

 

壁に掛けられた艦内時計を見る。

 

時刻は19:04を指していた。

 

眉間の上あたり、額に痛みを覚える。

ずきん、という鈍い痛みだ。

手を当てれば何やら貼ってある。

どうやら額に怪我をしたらしい。

 

 

だが、その痛みが彼女に生きている

ことを実感させるとともに、

これまでの出来事を思い出させる。

 

 

「———“涼月”はッ…?!

いえ、“すずつき”はどうなったの?!」

 

 

掛けられていた毛布ごと跳ね起きる。

 

「気が付かれましたか?

戦闘は終了しました、

本艦はこの通り無事ですよ」

 

「あっ、看護長…!

戦闘はどうなったんですか?!

“すずつき”は無事なんですか?!」

 

側で看病してくれていたのだろう

看護長である衛生妖精に尋ねる。

 

 

看護長は特に慌てるでもなく、

ちらり、と秋月の横あたりを見た。

ニヤリと笑うと事務的な口調で答えた。

 

 

「…それについては私からではなく

我らが“ボス”からお聞きください」

 

 

それと額に怪我がありますので

あまり興奮しないように願います、と

一言だけ残し、妖精は退室していく。

 

 

ぽつんと1人残された秋月は

言われた意味がわからず頭を傾げる。

 

 

「ぼ、ボスとは一体誰のことなの…」

 

 

『———そりゃ俺だろ』

 

 

「………へっ?」

 

 

聞き慣れた声のした方向、

ベッドの横にある棚の上あたり。

使い慣れた艦長用のPC端末があった。

 

 

『よっ…。無事そうで何よりだ』

 

 

端末の画面上には見慣れた人物。

 

 

「し、司令…!!

申し訳ありませんでした…。

 

秋月は…秋月は妹を……、

“すずつき”を守れませんでした…!

なのに、こうしておめおめと……!」

 

 

優しく微笑む提督を見た瞬間

秋月は謝罪の言葉を口にした。

同時に悔しさからか涙を流す。

 

 

それを咎めるでもなく

微笑みながら提督は話し始めた。

 

 

『起きたようでよかった。

さっきから話しかけていたんだけど

パソコンの音量はうるさくなかったか?

看護長は俺が話しかけたほうが

起きるかもしれない、って言って

音量を最大に上げようとするし

自分で秋月を起こさなかったんだ。

あいつは面倒くさがりだからな…。

妖精にも色んな奴がいるもんだ。

 

…戦闘の詳細については守備艦隊の

司令部からデータをもらっている。

他人事みたいな言い方しかできんが

なかなかの激戦だったみたいだな』

 

 

どうやら提督は全て把握しているようだ。

彼は少し話した後、本題に移った。

 

 

『…ま、雑談はこれぐらいにして

戦闘の結果から伝えようか。

お前が奮闘した甲斐もあって

護衛艦“すずつき”は健在だ』

 

 

(そんな…!確かに爆発したはず?!)

 

意外な結果に驚きを隠せない秋月。

 

 

「し、しかし私は確かに敵機が

“すずつき”の艦首に突入してから

爆発するのを見ました!

それに、私に対しての急降下爆撃が

あったと認識しています……」

 

 

秋月は失神する直前を思い出した。

確かに『敵機直上』の声を聞いた、

看護長の様子からすると軽微か。

 

だが確実に“すずつき”は被害を

被っている筈だ、最低でも中破…。

あれだけの爆発があったのなら

乗員に戦死者が出ていてもおかしくない。

それなのに無事だとは思い難い。

 

 

『うん、被害は受けたのは事実だ。

確かに“すずつき”は無傷とは

いかなかったものの沈没は免れた。

……本当にどうにかだが、な。

 

———ところで秋月は敵機が

魚雷を投下するところを見たか?』

 

 

提督は問うた。

 

 

「いえ、見ていません…」

 

 

『結局、魚雷は投下されなかったんだ。

秋月が最後の砲撃を加えただろ?

それで敵機は操縦不能に陥った。

 

多分そのまま突っ込む気だったんだと

思うんだけど、実は奇跡が起きたんだ。

 

艦首へ突入する直前、敵機は燃料又は

搭載していた魚雷に引火して爆散。

お前が見た爆発は敵機のものだ。

火だるまの残骸となった敵機は

右艦首付近に降り注ぎ、“すずつき”の

右舷を抉って大浸水を起こしたんだ。

 

つまり秋月からは陰になっていたから

あたかも“すずつき”に突入し爆発を

起こしたように見えただけなんだ』

 

 

「そうだったのですか…。

乗員たちは無事なのですか?!」

 

 

秋月が食い付くが無理はない。

自分の被害よりも、型違いとはいえ

“妹”の被害を気に掛けない姉はいない。

 

 

『そう慌てなさんなって…。

少なからず傷者は出てしまったが

皆軽傷だし、重傷や四肢の切断とか

危険な状態の人はいないよ。

負傷者を艦載ヘリで“いずも”に

搬送して治療を行っている。

 

ただ船体には結構なダメージを与えて

しまっていて油断はできない状況だ。

右艦首付近はパックリ引き裂かれて

隣接区画である5インチ砲の弾薬庫、

艦首の錨鎖庫は浸水で満水状態。

そして現在も応急処置を実施している。

 

海水がなだれ込んで船体が前傾になるし、

漏水が止まらずにそのまま

船体中部にも広がってもう大惨事。

 

乗員たちの必死の努力でどうにか

沈没だけは免れたものの、

防水作業があと1分遅れていたら

沈没も有り得たって報告だ。

 

“本艦は潜水艦になる、と覚悟した”

っていう報告資料に書いてあった

同艦長のブラックジョークには

俺も顔が引きつったなぁ。

真面目な文面にいきなりそんな

コトを書かれたらヤバすぎる。

 

奇跡的に機関部に影響は無かったが、

やはり傾斜と強度上の関係から

前進航行は不可能になってしまった。

今は特設泊地である島の沖にいる。

先日被雷した天龍と同じように

他艦から支援人員を送ってるよ。

 

戦闘については警戒しつつだが

対空戦闘用具納めは既にかかった、

守備艦隊は落ち着きを取り戻したぞ』

 

 

「そうですか、よかった…!

本当に、よかったです…!!」

 

 

秋月は胸を撫で下ろした。

嬉し涙で毛布を濡らすが些細なこと。

提督は画面越しに優しく見守る。

 

 

……

 

 

だが、同時に“あること”に気付く。

 

 

「被害箇所は艦首からの浸水。

そして乗員の努力、ですか…」

 

 

提督の言葉に引っかかるものがあった。

 

 

“すずつき”の前世、防空駆逐艦“涼月”。

 

詳しくは省くが、

坊ノ岬沖海戦後に佐世保に帰るまで

想像もできぬほどの苦労をしている。

 

その前世にも劣らぬ苦労、

“すずつき”も経験したということ。

そして被害と状況も酷似している…。

 

やはり同じ名前のフネということか。

 

 

(あの娘らしい、のかな…?)

 

 

不謹慎とは思いつつも秋月は

提督に気付かれぬ程度に笑った。

かつての妹が連想されたからだ。

 

 

(いつか必ず“逢いたい”、ですね…)

 

 

『艦長はもうダメだと判断して

一時は総員離艦を下したんだが、

乗員は誰も応じなかったんだ。

“沈んだら誰が陸自と空自、ましてや

島の住民を守るんだ!”って…』

 

 

「……」

 

 

『その甲斐もあって沈没は防げた。

コトバでは淡々としてるけど

現場は相当大変だったに違いない。

お前も“あきづき”だったなら

防水作業が眼に浮かぶだろう…?

 

陸上施設でやるような防水訓練なんて

比にならない程の水量、恐怖…。

ましてや戦闘の真っ最中だった…。

 

やる気や努力なんかじゃ解決できない

であろう程に圧倒的な海の暴力。

もしお前が敵機を撃破できていなかった

ならば、彼らはこれでは済まずに

最悪溺死していたかもしれない。

それだけはよく覚えて置いてくれ』

 

 

提督は秋月の奮戦を讃えつつも

敢えて厳しい言葉を口にした。

彼なりの叱責だろうか、

或いは自分自身へのものか…。

 

 

「はい司令……!」

 

 

自分が艦娘として“現れる”前、

護衛艦である“あきづき”だった頃の

艦内に浸水が発生する様子が浮かぶ。

 

想像するだけで鳥肌が立つ光景だ、

戦死者が出ていないのは幸いだった。

 

(やはり諦めてはダメ、ですね司令…)

 

 

……

 

提督はそのまま話を続けた。

 

 

———どうにか後進で父島沖に到着、

その場で応急処置を実施していたら

ひょっこりの一隻の漁船が近寄ってきた。

 

 

「その艦は防水作業をしています!

危険ですので近寄らないでください!」

 

 

近傍の護衛艦の警告を無視しつつ、

そのまま横付けする勢いで停止。

 

一体何をするのかと思ったら

その漁船は突如横断幕を掲げた。

 

『自衛隊さんありがとう!

自衛隊さんは私たちが守ります!』

 

島の住民が有志を募って駆け付けたのだ。

彼らの息子や娘たちであろうか、

小学生やそれに混じり幼児が無邪気に

手を振って“すずつき”を励ます。

 

 

汗と海水まみれの乗員たち。

彼らがそれを邪険に扱うはずもなく、

交代で手を振ってそれに応えつつ

再び防水作業へと戻っていく。

 

浸水し、沈没しかけたという恐怖を

吹き飛ばしてしまう小さな姿は

いかなる役人の言葉よりも心に響く。

 

 

 

“俺たちは護りきったのだ…!”

 

 

潮まみれの姿まま艦内に戻り

海水の排水作業を行う乗員。

 

その目には海水とは異なる光るモノ、

それは悔しさではなく嬉しさから…。

 

 

それを知ってか知らずか

漁船から幼い声が飛んでくる。

 

 

「さっきね、めーさい服のおじさんが

美味しいカレーを作ってくれてね、

すっごく美味しかったんだー!」

 

「おフネ大丈夫?沈まないでね?

しんかいせーかんのひこーきが

また飛んでくるかもしれないよー?」

 

「くうしゅうの間お絵描きしてたの!

これ見せてあげるからがんばって!」

 

 

女の子が掲げたスケッチブック、

それはこのフネのニックネームである、

とある美少女戦士の絵であった。

 

 

「このまえね、おーさかの遊園地に

お母さんと遊びにいったの!

だからね私も困ってる自衛隊さんを

しっかり守ってあげるからね!

“月に代わっておしおき”するのー!」

 

 

可愛らしい幼女の声が

海風に乗って乗員の耳に届く。

 

それに対して乗員の女性自衛官。

 

 

「お嬢ちゃんありがとね!

心配しなくても大丈夫だよ、

すぐに“メイク・アップ”しちゃうし、

他の護衛艦が守るから!!」

 

 

…という微笑ましい出来事もあった。

なお、その漁船には丁重に感謝を述べ

お引き取りいただいたそうな。

 

 

……

 

 

「そんなことがあったなんて…」

 

 

秋月がホロリとしつつ呟く。

 

 

『流石セーラー◯ーンの異名は

伊達じゃないということだな。

流石“つき型”だ、と言うべきだし、

ついでに言うとお前もだぞ秋月?』

 

 

「———え?」

 

 

『お前が妹である“すずつき”の沈没を

防いだことは今言った通りだ。

 

それじゃあその後の話をしよう。

秋月の直上から敵の急降下が来たな?

そして敵機は爆弾を全弾投下した。

爆撃コースは正確、命中確実だった、

見張り妖精が死を覚悟する程にな。

 

 

———“撃墜”したんだよ、

別の“お前たち”が、な…。

 

お前が“すずつき”援護に入る前、

近傍艦に支援を要請しただろ?

 

天龍や“むらさめ”といった

非戦闘艦の護衛に当たっていた

“てるづき”がそれに応えて駆けつけて

くれていたんだ、CIWSで敵機が投下した

計3発の爆弾に対し弾幕を張り

なんと空中で撃墜したんだ。

 

30ktを超えるスピードを出しながら

当てちまうのは機器の性能なのか、

それとも信念が強かったのか…。

偶然なのか当然なのか、

それはわからないが助けられたな。

 

今回も“てるづき”艦長から伝言、

“姉を助けるのは当然のこと”だってさ。

いい姉妹を持ってるなお前は…』

 

 

言葉が出ない秋月。

 

 

 

『———そして最後の極めつけ、

かつてのお前である“あきづき”。

爆弾を投下して離脱する敵機を

逃すまいと5インチ砲をぶち込んだ。

無論砲弾は命中、敵は爆散。

仇を取る…ってのは違うが

秋月に代わってお仕置きしたワケ。

 

お前は“妹”を守っただけでなく、

“妹”や“自分”にも護られたのさ…』

 

 

「……!!」

 

 

感慨無量で言葉が出ない秋月。

 

 

『だから自暴自棄になるな秋月。

迷わず、諦めず最後まで突き進め、

そうすれば自ずと未来は開ける。

 

お前は決して一人じゃない。

こうして俺とお前が離れていても

そこには仲間が…大切な“妹”が、

そして“お前自身”もいる』

 

 

「は…い……は゛い゛ッ!!」

 

 

言葉にならぬ返事なれど秋月の返答に

提督は万遍の笑みを浮かべる。

そして真顔になり話始める。

 

 

『申し訳ないが俺は気の利いた言葉が

うまく出せない、端的に言いたいことを

そこの光景に代弁してもらうとしよう。

 

舷窓から“すずつき”が見えるか?

満身創痍の船体にもかかわらず

夕日で照らされ輝くその姿を。

数時間前に救ったのは他でもない秋月だ。

その事実、その胸に誇れ…』

 

 

「はい…!この防空駆逐艦秋月、

これからも精進し続けます!!

そして艦隊を…日本を護ります!!」

 

 

『頼もしいな、お疲れ様秋月。

艦内の後処理は副長が代行してくれて

いるからもうゆっくり休むといい。

俺からも指示は出してあるから

今夜はそのまま寝ること、コレ命令な。

 

最後に、言わない方がいいとは

思うんだが…思うんだけどな、うん。

———その、なんというかだな…』

 

 

提督が急に視線を秋月の頭上に向ける。

彼女には何のことかわからない…。

 

 

『早く“治る”といいなソレ、お大事に〜』

 

 

「…??は、はいありがとうございます」

 

 

それを最後にビデオ通信を切る提督。

 

 

(最後の言葉の意味は一体…?

司令なりの労いなのでしょうか…?)

 

 

そう考えつつゆっくりとベッドから

立ち上がり舷窓の外を見る秋月。

 

 

斜陽が照らす護衛艦、

それは正しく“すずつき”だ。

 

船体が傾き、喫水が低いものの

秋月はそれを悔やむことはしない。

自分は守り切った、護ったのだ。

 

提督が以前そうだったように、

過度に悔やめばそれは勇敢に戦った

者たちに失礼になるからだ。

 

これは壁だ、今後の戦いにおいても

突き当たるであろう戦場の壁だ。

一度は死を覚悟した身、

ならば突き進むのみである。

 

 

沈む夕日に輝く姿は美しくそして

掛け替えのないものだと感じる。

橙はやがて紅に変わっていく。

 

 

 

(くれない)”———即ち、“()れない”。

 

 

 

護衛艦“すずつき”の痛々しい姿。

修復が終わってからもきっと

数多の戦場で傷付くかもしれない。

それがこの国の軍艦たる宿命だ。

 

だからこそ、これからも守りたい。

大切なモノを、大切な存在を…。

 

 

(私はお姉ちゃん、ですからね…。

これからも“妹”を守ってあげなくては!)

 

 

目に映る光景に誓いを立てていると

“すずつき”の艦影が僅かにぼやけた。

 

ぼんやり見えるそれは

人の顔の様なものに見える…。

 

髪は…銀色であろうか?

風が撫ぜれば靡く、美しい髪…。

 

 

 

 

 

 

(———こ、これはッ!!)

 

 

 

 

 

そして秋月は気付いた。

ソレを見間違う筈もない…。

 

 

 

 

 

「ひ、額に絆創膏が貼ってある?!

わ、私はビデオ通信とはいえ司令に

こんな姿をお見せしていたなんてー?!」

 

 

舷窓に映るモノ、何故かはわからないが

額に可愛らしい絆創膏を貼ってある、

何とも気が抜ける自分の姿。

 

先ほどのやり取りで出てきた“美少女戦士”が

プリントされた少女向けの絆創膏だ。

何処から持ってきたんじゃい、と

看護長を問い詰めたくなった秋月。

だがそれよりも羞恥心の方が優った。

 

 

(———いや、そっちじゃないだろ…)

 

 

傍らに控えていた長10センチ砲ちゃんが

いかにも退屈そうにあくびをする。

 

 

「あわわわ…!

もう司令のお嫁さんになれません…。

きっと笑われてしまってますぅ〜…」

 

 

そのままベッドにへたり込む秋月。

 

先ほどまでの雰囲気から一転、

キノコ菌も逃げそうなブルーな空気で

泣く姿はある意味秋月らしいともいえる。

 

 

(秋月が元気そうでなによりだ、

提督もなかなかやりやがるぜ…)

 

 

数分後には秋月は眠っていた。

戦闘を行なったり、泣いたりと

忙しかったからであろう。

 

 

彼?は静かに毛布を被せてやり、

器用に部屋の照明を消した。

 

 

「涼月ィ…おねえちゃんは…

おねえちゃんは…がんばりましたぁ…」

 

 

そんな秋月を照らすのは月光。

 

 

さわやかに澄み切った月は

ずっと彼女を見守っていた…。

 

 

※※※

 

 

「父島への空襲は辛うじて防げたか…」

 

 

島と守備艦隊の被害は軽微。

 

 

最懸念事項であった民間人も、

今回は前もって島民に避難を促せた

こともあり負傷者はゼロ。

 

 

艦隊は数隻が至近弾等の影響で

浸水を起こしたものの、戦闘に

支障は無く戦闘継続は可能。

 

“すずつき”については排水作業及び

砲熕武器の不良箇所の修理を継続、

恐らく戦闘参加は不可能だ。

だが沈まなかったのは奇跡といえた。

 

負傷者はいずれも軽傷のみであり

全員が洋上の“いずも”に搬送。

島の陸・空自部隊は射耗した弾薬の他、

人員武器に深刻な影響等も無く、

迎撃も何ら問題無く行えるとの報告。

陸自の対艦ミサイル部隊が健在と知り

小笠原方面はひとまずは安心か。

 

 

「———妙高もありがとう。

明日の朝にある指揮官会議には

悪いけど艦娘代表として行ってくれ。

俺の代理なんだから気兼ねなく

提案や質問していいからな?

 

いざとなったら躊躇せず、

これは艦娘や俺の意向だ!…って

ハッタリをかましても構わんさ」

 

 

『ありがとうございます提督。

そのご厚意を無駄にしないよう、

この妙高、微力を尽くします!』

 

 

(そんなに気張らなくても…)

 

 

妙高を始めとした艦娘も被害は無し。

秋月の健康状態は知っての通り良好、

大淀や飛鷹も確認したがメンタル面も

先日に比べて安定していた。

 

龍田たち新規メンバーも同じ。

鬼怒は現代対空戦の技術を

目の当たりにし感激したようだ。

 

 

んで松風はというと、彼女らしい

意味深なコメントを放った。

 

 

『技術の進歩ってのは70年という

時代の経過を実感させてくれるね。

“ミサイル”とかいう誘導弾が飛び、

“しうす”って機関砲が弾丸をばら撒く。

僕は浦島太郎になったんじゃないかと

錯覚してしまう程に先進的じゃないか…。

 

———でもそれが答えじゃあない。

ミサイルで狙われたとしても敵は

あの手この手で逃げることができるし

値段は高価だし数も限られる。

だけど、そんな敵だから…。

そんな奴らに対抗してくれ!…って

人間には計り知れぬ何かが“艦娘”(僕たち)

この世に呼んだのかもしれないね』

 

 

「結構深いところを突くなぁ。

ホントに神様とか創造主が

いるんじゃないかと思うぜ…。

松風は何気無いつもりでも

かなり奥が深いことを言う、

歌人とか詩人みたいだな」

 

 

『僕が詩人だって?まさか。

それはキミの考え過ぎさ!』

 

 

松風の言うことも興味深いが

それ以上に“今していること”が

気になって気になってしょうがない。

 

 

「そうか、それは失敬。

———で、何食ってるんだ?

ていうか“何処”にいるんだ?」

 

 

なんか食ってんだけど…?

見事な刺身の新鮮度である。

 

いや、食いっぷりは見事だけど

状況が理解できないっす…。

 

 

『……え、メカジキだけど、

よかったらキミも食べるかい?

今は大淀さんの所に遊びに来てる。

 

その訳を聞いて驚くんじゃないぞ、

甲板にメカジキが飛び乗ったんだぜ、

験担ぎには丁度いいじゃないか!

これは戦闘の収穫ともいえるぜ』

 

 

大淀への回線を開けば

松風がカメラを占拠しており、

大淀は横で困り笑顔であった。

 

 

「そ、そうだな…」

 

 

(松風って変わってるよな…)

 

スルーしつつ隣の大淀に話を振る。

 

 

『提督、父島方面はお任せください。

私の損傷についても心配不要です、

秋月さんや足柄さんも必死に戦って

敵の空襲を凌ぐことができました』

 

 

「大淀も無理はするなよ?

もし無理がたたって“すずつき”みたいに

艦首から浸水してもしたら……」

 

 

『んもぅ、心配し過ぎですっ!!

…でも、お気持ちは嬉しいですよ。

此方は夕焼けと海が綺麗です。

この光景を提督と一緒に見たい、

そう考えると沈んでなどいられません』

 

 

顔をやや赤らめながら好意を寄せる姿、

それはとても可愛いものである。

愛という絆はいいものだ。

 

 

「大淀もデレを隠さなくなったな、

やっぱり俺としてもその方が嬉しいぞ。

今日はお疲れ様、疲れただろう?

明日以降の戦いに備えてくれ。

あと松風は好きにさせてやってくれ、

勝利で嬉しいんだろうさ…」

 

 

『提督もお優しいですね』

 

 

デレ分が増した艦娘もちらほらと。

一方、戦意が昂っている艦娘もいた。

 

 

『この私がいるんだもの!

味方艦隊や島に蚊トンボを寄せ付け

させるわけないじゃない!!』

 

 

足柄は6機を撃墜する活躍を見せた。

 

高角砲や機銃を撃つのはいいとして

全主砲5基10門から火を噴いたという。

はて、戦術的に如何なものか…。

 

火を噴くかのような姿に敵が動揺、

そこに対空砲火を集中させたのだ。

 

やはりというか、味方側からも

“足柄に爆弾が命中したかと誤解”され

かけるという珍事もあったという。

 

結果的に敵を撃退できたのだから

彼女の奮戦と機転は称賛すべきだ。

 

 

「初動全力とは言うけどなぁ…。

なにも主砲全門から撃たなくても

よかったんじゃないかと思うけど」

 

 

『何を呑気な事を言っているのよ。

敵は待ってはくれないんだから、

恋と戦争は早い者勝ちなんだから!』

 

 

それを言われたら許すしかない。

 

 

「おう嬉しいこと言うじゃんか、

ま、焦らなくても俺は逃げないぜ…?

 

冗談はこれぐらいにしておいて、

秋月を励ましてくれてありがとな、

自分も戦闘で余裕がないだろうに。

やっぱり足柄を守備艦隊に残して

おいてよかったと思ったよ」

 

 

『そ、そういうことだったのね…。

提督はそこまで私のことを考えて

この艦隊に残していたのね。

それなら安心しなさいな、この私が

先陣を切って敵の残存艦隊に斬り込み

をしかけてやるんだから!!』

 

 

疲労の色が顔に見えていたものの

目の輝きはそれと反比例していた。

 

 

「斬り込みは勘弁してくれ…。

確かに殲滅してしまいたいけど

他の部隊との調整も不可欠だし、

なによりもまずは補給が必要だ」

 

 

それは足柄もわかっているようで

苦笑いをして冗談よ、と釈明した。

 

 

「———本当にみんなお疲れ様」

 

 

父島方面の防衛戦自体はまだ始まった

ばかり、この空襲は2回目に過ぎぬ。

遊弋しているであろう機動部隊及び

その護衛を完全に叩かない限り、

俺たちの———いや、人類側の

制海権確保には辿り着けない…。

 

 

つまり決定打に欠けているのだ。

 

 

「とはいえ島から離れて攻勢に

出ようにも、戦略的にも物理的にも

出来そうにないだろうし…」

 

 

弾薬や燃料も無限ではない、

適時かつ適所に投入しなければ

艦隊はそのチカラを発揮出来ない。

 

現地部隊は当然それを痛感している。

 

 

「なにかいい案はないのかな…」

 

 

2台の端末を器用に操作しつつ、

頭は妥当な戦術を探っている。

 

片方は俺のいる奪還部隊、もう一方は

父島方面部隊のグループチャットだ。

各指揮官がアイデアを出し合うが、

どれも空振りで有効打はゼロ。

 

机上の空論ばかりだ。

本土から増援の航空部隊を呼ぶとか

守備艦隊による大攻勢を、などなど…。

 

ハイリスク・ハイリターン…?

いいや、それこそ敵の思う壺だろう。

 

将棋で例えるなら、

王将を守る金や銀を自陣から離し

敵陣に指すようなものだ。

 

“金なし将棋に受け手なし”

 

…という将棋の格言もある、

しかし、逆の使い方もある。

 

“金なし将棋に攻め手なし”

 

…攻めるには金が必要という意味だ。

 

 

「“金”、つまり守備艦隊を父島から

動かすのは上策じゃない、か…」

 

 

島から艦隊が離れるとどうなるか、

深く考えずともわかることだ。

仮に艦隊を分けたとしても、

攻守共に中途半端になってしまい

それこそ本末転倒になるだろう。

 

“飛車”である航空部隊については

適切に運用しないと確実に“詰む”。

 

 

(敵は艦隊を島から引き剥がそうと

しているのは間違いない。

だがその敵を倒すには艦隊を

どう活用するのか正しい選択を

しなくちゃいけない…)

 

 

俺を含めた奪還部隊の指揮官は

誰一人として解決策を見出せない。

 

 

後ろ髪を引かれる思いをしつつ、

艦隊は着実にマーカスに向かう。

 

 

「んで、敵の機動部隊は

どうなったんだろうな…」

 

 

硫黄島のフォルダにアクセスし、

昨日味方が行なった航空攻撃の

戦果報告資料を閲覧する。

 

 

「……なるほどな。小笠原方面の

主導権はこちらのものってワケだ」

 

 

俺は僅かにほくそ笑んだ。

 

 

※※※

 

 

父島沖

護衛艦“いずも” 司令部会議室

 

 

空襲後、守備部隊の各指揮官が招集され

今後取るべき最善策が話し合われていた。

海自の群や隊司令クラスはもとより、

陸・空自の各部隊隊長も席を連ねている。

艦娘も妙高がアドバイザーとして参加、

誰もが浮かばぬ顔をしている。

 

 

…まずは状況報告。

昨日受けた空襲並びに硫黄島の

航空部隊が実施した戦果について。

これはぼちぼち、といったところだ。

 

 

次に敵の空襲についての分析だ。

パワーポイントを使い、時系列で

空襲の推移の概要が説明される。

 

 

「陸海空による“烈火の護り”により、

“すずつき”を始め損傷等はありましたが

奇跡的に戦死者は出さずに済みました」

 

 

担当者の言葉に場の空気が軽くなる。

 

 

攻撃、防御と来れば次は攻撃。

即ち攻撃方法の検討だ。

 

海・空自の航空攻撃は成功し、

2隻の敵空母を撃破することができた。

外周にいた重巡数隻にミサイルが命中、

敵の水上打撃力を削ることもできた。

 

だが、やはり例のミサイル対策によって

半数近くが命中しなかったと判明。

再び場の空気が重くなる。

 

 

「やはり、決定打に欠けるか…」

 

 

これからどうするべきか話そう、

最先任である海将補が切り出す。

 

こうして討論が始まったのだが、

開始早々、陸自の連隊長は言い放った。

 

 

「———“火砲は寝て待て”…だ」

 

 

「「—————は??」」

 

 

「聞こえなかったのか?

火砲は寝て待てっつったんだ。

敵が自腹でコッチに出向いてくれて

しかもマトになってくれるんだぜ?

 

海自サンは燃料と弾薬の保有量が

心許ないらしいじゃねぇか…。

ならのんびり待ち構えてればいい。

別に焦るこたぁねぇだろ…?」

 

 

ややドスの聞いた声で、そして顔に

薄ら笑いを浮かべつつ連隊長は言った。

 

 

「な、何を突然仰るんですか?!

今は冗談を言ってる時ではないんです、

それは考えが有っての発言ですか!?」

 

 

出席していた某護衛隊司令が反応する。

しかし出席していた者の中には

彼とは違う反応をする者もいた。

 

 

「…艦娘の妙高と申します。

連隊長さんには何か妙案がおありの

ようですが、是非お聞かせ願いませんか?」

 

 

「おう当然でぃ!

あと俺は堅っ苦しいのは苦手だから

ちっとばかりきたねぇ話し方をさせて貰うぜ」

 

 

「う、うむ……」

 

 

連隊長が一言断った相手、

その場の最先任者である海将補は

戸惑いながらも頷いて先を促した。

 

了承を得る前から既に砕けた物言いを

しているのは連隊長の成せる技か。

 

 

……

 

 

「———なるほど。

我々は積極的に動かずともいい、と。

この守備艦隊が島から離れない限りは

敵も迂闊に攻めて来れませんし…」

 

 

妙高が関心そうに頷いた。

 

 

「そういうことだ、流石艦娘の

ネーチャンは話のわかりがいいな」

 

 

 

連隊長の考えをまとめるとこうだ。

 

 

“此方から攻勢には出ずに深海棲艦が

痺れを切らせて攻めて来たところを討つ”

 

“偵察を密にしつつ、敵艦隊を父島に

誘引させることにより一気に掃討可能”

 

“攻撃は島内に配備された陸自の

対艦ミサイルを備蓄全弾を活用する”

 

 

「———文句を言われる前に言っておく。

奴らがこの島を狙うワケは、本土と

硫黄島の中間点を攻撃すれば後は簡単に

硫黄島を攻略することができるし、

なにより根拠地を築けるからだ。

 

次に敢えて待ち構える理由、

それは水上部隊の継戦能力低下だ。

弾も燃料も無ぇんだろ?

そんな状態でノコノコと出撃したところで

いくら手負いの旧式の軍艦が相手でも

苦戦するのは目に見えてる、それに

この近海から離れれば別働隊が現れて

待ってましたと占領しようとするだ

ろうな、そうしたらいくら陸自の

俺たちが足掻いたところで撃退できず

にやられちまうのは明白だ…。

 

つまり海自サンには極力燃料の消費を

控えて待機してもらう必要がある」

 

 

言葉は汚いものの軍事学的に正論、

しかし極論であるのも事実である。

 

当然反対意見が出る。

 

 

“だがこのまま何もせず待っていたら

敵が硫黄島や本土に向かうかもしれない”

 

“ここは先手を取り敵を撃滅した方が

戦略上いいのではないか?”

 

“敵も馬鹿ではない。此方にミサイルが

ある事は承知しているはずだ。

その範囲内に飛び込む真似はすまい”

 

 

反対意見を静かに聞いた連隊長、

そして彼なりの推理を述べる。

 

 

「…空襲で敵が狙ったのは艦隊だ、

島には数機が飛んで来たのみだった。

防空部隊の隊員の報告では、その数機

でさえもフラフラと飛んでいて明確な

攻撃目標を定められていなかったらしい。

———これが何を意味しているのか、

艦娘のネーチャンは解るかい…?」

 

 

突如話を振られた妙高は戸惑ったが

やや考えたのち口を開いた。

 

 

「“島内に配備されている陸自の

対艦ミサイルについて敵は把握できて

いなかった”…ということでしょうか?」

 

 

彼はそうだ、と頷きを返した。

 

 

「俺も確信は無ぇけどな…。

だが敵は水上部隊の攻撃を優先して

島内の設備や部隊を積極的に攻撃しよ

うとせず、むしろ“見逃してしまって”

いたように感じるんだよ」

 

 

「ですがそれは、敵の策略であって

こちらの判断を狂わす為なのでは…?」

 

 

「…まぁそう言われちまうとそうかも

しれねぇんだがよ、島の中で隠れてた

身としてはそう感じたんだよ。

 

それに数機だけが島に飛んでくるなんて

辻褄が合わねぇと思わねぇか?

攻撃目標を艦隊又は島に絞りきれて

いないし、偵察目的にしちゃあ飛び方

が専門外の俺から見てもおかしい。

ありゃ素人の飛び方だぜ…?」

 

 

連隊長は空襲の最中、あろうことか

掩体壕を抜け出して敵機を見上げていた。

部下が戻るように懇願しても無視。

恐怖よりも敵の姿を見たいという好奇心

が勝ったこと、そして空襲の目的と

目標は何なのか見極める為だ。

 

 

「艦隊には敵機がわんさかと

群がっていたのはわかってる。

だからこそ引っかかるンだよ…。

 

奴らが島を占領するのが目的ならば、

艦隊を波状攻撃又は繰り返し叩き

疲憊かつ弾薬をカラにさせるはずだ、

空襲は五月雨式に行うのがセオリー。

 

つまり今回みたいに艦載機を全部

飛ばしてくるってのはおかしい…」

 

 

「確かに貴官の言うことはわかる。

だが遊弋する敵艦隊がこの島に

一直線に向かってくるという確証も

ないのだから、敢えて敵に猶予を

与えるような消極的行動は慎むべき

ではないかと考える」

 

 

群司令である海将補が苦言を漏らす。

彼は硫黄島と父島の守備部隊のトップ

として決断せねばならない、

そして不確定要素を基にした行動、

即ち———作戦失敗に繋がるからだ。

 

だが積極的攻勢に出られないのも事実。

 

 

要は決断に至るあと一押しが欲しいのだ。

 

 

……

 

 

(これでは埒が開きませんね。

申しわけありませんがここは提督の

お言葉に甘えさせていただきますね…)

 

 

妙高は連隊長を援護する。

 

 

「艦娘部隊としましては、戦意は非常に

旺盛ですが砲弾薬の在庫率低下を

鑑みますと、攻勢に出るのは不可能。

この地に留まり敵が痺れを切らせて

向かってくるのを待つのが上策かと。

 

そして敵艦隊の動向につきましても

硫黄島の哨戒機又は軽空母“飛鷹”の

艦載機による偵察を密に実施し、

我の即応態勢を維持に努めます。

なおこれは我が101護隊司令である

菊池3佐の意向でもあります」

 

 

やや早口で棘のある言い方だったかと

妙高は内心冷や汗をかいていたが、

“菊池3佐”の単語が効いたのか参加者にも

同調しようとする空気が生まれる。

 

冷静に考えればこの状況で攻勢に

出るのは土台無理な策である。

 

 

「…言われてみればその通りだ。

すまない私も焦っていたようだ」

 

 

「…いえ、滅相もありません」

 

 

……

 

 

…こうして小笠原の守備部隊は

敵艦隊が襲来するのを待つという

積極的防勢を取ることを決定。

 

その事実を示達された護衛艦の乗員や

父島の守備隊員らは一息ついた。

 

島側としても艦隊にいて貰いたい、

海側としても島の近辺を守れる。

 

現状の戦力を活用するには

これがベストな策であった。

 

 

 

妙高は提督に状況報告と感謝をしようと

連絡を取ろうとしたのだが…。

 

 

「繋がらない…どうして?」

 

 

衛星回線を使っているのだから

繋がらないはずは無いのに…。

 

と、いうことは…である。

 

 

「其方も遂に決戦、なのですね…」

 

 

恐らくは敵拠点と化したマーカスへ

奪還艦隊が近付いたからなのだろう。

 

先日から発生している衛星不調の

原因は未だ不明であるものの、

敵制海圏自体が何らかの妨害電波を

出している可能性もある。

 

 

提督と深海棲艦、

どちらかが倒れるまでは

通信が取れないということだ。

 

 

(どうか、ご無事で…)

 

 

妙高は提督そして奪還部隊の無事を

祈ることしかできなかった…。

 

 

 

 





やっとマーカスへ駒を進められました。
次回は提督サイドで進行します。

守備部隊の方針は『待ち構える』
あまり華々しい戦いではないですが
これが現実的な戦術になるでしょう。
なお、味方航空部隊による攻撃は
成功したのですが、その描写をもっと
加えるのを忘れていました。
これもちゃんと後話で補完致します。


●松風のシーンについて
松風は大淀に押し掛け、
偶然甲板に打ち上げられた
『メカジキ』を刺身にして食べる。

松風が験担ぎとして食べている
この魚にはちょっとした因縁が。


●秋月の最後あたりのシーン
疲れた秋月が寝言を言います。
それを月光がテラスシーンですが、
ここにもちょっと小細工が…。

“さわやかに澄み切った月は
ずっと彼女を見守っていた…”

ここに答えが乗っているかも、です。

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