自分の本当にやりたいこと、自分にできること、それぞれが別々の道へ進むことを決める中、穂乃果は未だ自分の進むべき進路を何も決められずにいた・・・・・・。自分の本当にやりたいことは何なのか。もう一度、穂乃果は決断を迫られることとなる。
絵里ちゃん達三年生が卒業して、真姫ちゃん達一年生は二年生に、そして穂乃果たちも無事三年生に進級しました。正直、進級できるか厳しかったのは穂乃果だけだったんですけど……笑
μ'sの活動を終えてから少しして、三年生になった穂乃果たちはいよいよ進路を決め始めなければいけない時期になりました。ことりちゃんは前からやりたがっていた服飾デザイナーの道へ。海未ちゃんは歌詞を書いてたこともあって文学というものに興味を持って、そっちの道へ進むそうです。それで、肝心の穂乃果はというと……
「あ〜やりたい仕事なんてわかんないよー!」
「お姉ちゃんまだ進路決まらないの?」
家の居間。私が進路希望調査票の前でうんうんと悩んでいると、妹の雪穂がそう言ってきました。
「だってだって、将来の夢!なんて考えたこともなかったんだもん!」
雪穂は呆れたような顔をしてます。困った姉だと呟きながら、私の方を向いてこう言います。
「お姉ちゃん今までさんざんやりたいことをやってきたじゃん。それと同じことでしょ?」
それはそうなんだけど……。
「でも、今度のはようするに将来やりたいお仕事ってことで……そうなると全然思いつかないんだもん!」
「ついこの間までμ'sをやっていたお姉ちゃんはどこに行っちゃったの……?」
雪穂は残念そうな眼差しで穂乃果を見てきます。
「だって……」
だって、あくまでμ'sは廃校を阻止するために始めて……。活動していく中で自分のやりたいことに気がついたんだ……。だから、いきなり将来やりたいこと、やりたい仕事を見つけろ!だなんて言われても全然思いつかないよ……。
私が返答に困っていると、雪穂は机に視線を戻して、紙に何かを書き始めました。そういえば、さっきから何かやってたけど一体何してるんだろう。
「あれ?雪穂、何してるの?」
「見てわからない?歌詞作ってるの、歌詞!今度のオープンキャンパスで歌う新曲の」
「あ、新曲出来たんだ!出来たら聴かせてね!」
雪穂は入学後、絵里ちゃんの妹さんのアリサちゃんと二人でスクールアイドルを始めました。今では音ノ木坂学院の人気アイドルグループの一つになりつつあります。そういえば、はじめの頃こそ真姫ちゃんから楽曲の、ことりちゃんから衣装の、海未ちゃんから歌詞の、花陽ちゃん凛ちゃんから振り付けのアドバイスを色々としてもらっていたみたいだけど、“自分たちでやりたい!自分たちの力だけで頑張りたい!”と今では二人だけで色々頑張っているみたいです。
「それはいいけど……。で?結局お姉ちゃん、進路の件はどうするの?」
「あ、いっけない……。忘れてたえへへ……」
進路調査票の提出期限まではまだ少し余裕がありますが、今のままだと全然決まりそうにありません。
「はぁ、どうしようかな」
雪穂は悩んでる私を見かねてこう言いました。
「そんなに悩んでるなら同じ三年生のことり先輩や海未先輩に相談してみたら?」
*
「ということで、ことりちゃん!海未ちゃん!穂乃果のやりたいことって何かな?」
「え!?穂乃果ちゃんのやりたいこと?う〜ん……でもそれって穂乃果ちゃんしかわからないことだよね……?」
ことりちゃんは苦笑しながら言います。
「そうなんだけど、夢!というか穂乃果に向いている職業とかあれば教えてほしいなーって思ったり……」
「あ、もしかして進路希望調査の話?」
「さっすがことりちゃん!話が早い!実は穂乃果、進路に悩んでて……」
相変わらずことりちゃんは察しが早いなー!流石にお腹の中にいる頃から幼なじみなだけあるよ!うんうん。
「う~ん、穂乃果ちゃんにはみんなを引っ張っていってく力があるからぁ……リーダーシップを発揮できるお仕事がいいんじゃないかな?」
「ふむふむ。それで?具体的には?」
ことりちゃんはそこで困ったような顔をします。リーダーシップを発揮できる仕事か〜穂乃果には全然思いつかないや。
「リーダーシップを発揮できるお仕事だから……え〜っと……しゃ、社長さんとか?」
「なるほど〜!なら私、社長になる!なるったらなる!」
社長さんか~!それなら穂乃果にでも出来そうかな?
「ことり、安直すぎます。穂乃果には社長なんて荷が重すぎます」
すると、今まで静かに話を聞いていた海未ちゃんがようやく口を開きました。
「ええー良い提案だと思ったのにー!」
海未ちゃんは昨日の雪穂のように呆れた顔で穂乃果を見ています。
「そもそも穂乃果は何の会社の社長になるつもりなのですか。単に社長といっても色々な会社があるのですよ?」
海未ちゃんは少し厳しめな口調でそう言います。
「えー!?そうなの?社長さんは社長さんって職業じゃないの?」
「それは会社内での階級、役割の話です。社長といっても例えば自動車を作る会社の社長だったり、お洋服を作る会社の社長だったり、様々な会社があるのです。社長を目指すにせよ、どの会社で働きたいか、どういうお仕事に携わりたいかというのが今の穂乃果の悩みではないのですか?」
そっかー。社長さんにも色々あるんだなー。
「で、でも穂乃果ちゃんならどんな会社でもすぐみんなを引っ張っていっていけるってことりは思うな」
「ありがとう、ことりちゃん」
ことりちゃんがすかさず穂乃果をフォローしてくれます。本当ことりちゃんは優しいなあ!どっかの海未ちゃんとは違って!
「ことりは穂乃果に甘すぎます!大体社長さんは穂乃果が思っているほどリーダーシップだけでやっていける仕事ではないのですよ?会社のこと、働いてくれている社員さんたちのことを常に考え行動し、時には重大な責任がのしかかることだってあります。穂乃果のようにどこか抜けている人間には厳しい仕事なのです!」
「ぐっ……いいと思ったんだけどなー社長さん。ことりちゃんや海未ちゃんのような人に社長秘書として助けてもらいながらなら穂乃果にも出来そうだし!生徒会長の仕事もそうやってこなしてきたしなあ」
「全く無理とは言いませんが、高校卒業してすぐに社長さんになるにはそれこそ穂乃果には企業するくらいしか道がないです。しかし穂乃果に会社を興せるだけの能力や発想力がありますか?」
「そう言われると自信ないなあ。会社をたてる、なんて考えたこともなかったし……あ〜どうしよう全然決まらないよー!」
結局そのあともあれこれと話をしましたが、その場では穂乃果の進路は決まりませんでした。
*
「あ~もうやりたいお仕事なんて見つからないよー」
穂乃果は家に帰ってベッドの上でジタバタとします。実は考え事をする時とか、よくベッドの上で寝転んでいるとこれだー!って思いつくことがあるんです。でも、今回はなかなか思いつきません……。
しばらく天井を見上げてぼーっとします。そうしていると、なんだかμ'sをやっていた頃の自分のことを思い出してきました。
あの頃は本当に何も考えてなかったな。スクールアイドルを始めると決めた時も、ラブライブ!に出ると決めた時も、μ'sをお終いにすると決めた時も、スクールアイドルのためにライブすると決めた時も、色々悩んだこともあったけど、結局答えはいつもすぐに浮かんできて、そうやって全力でここまで駆け抜けて来たんだ……。
でも……
「進路、なかなか決まらないなあ……」
今は肝心の夢が見えなくなってしまっています。
しばらくぼーっとしていると携帯がブルブルと震えました。
『穂乃果ちゃん、進路は決まった?』
画面を見ると、ことりちゃんからのメッセージが届いていました。
そういえば、いつかことりちゃんの進路の話を聞いてあげられなかった時があったな……。あの時の穂乃果はただラブライブ!に夢中になってて、みんなに迷惑をかけちゃったっけ……。なのに、ことりちゃんは今度は穂乃果の進路相談に乗ってくれてる。本当に穂乃果はみんなに支えられてるんだな……。
『ことりちゃんありがとう。まだ決まらないけど、何とかなると思う!』
『よかったぁ。でも、もしまだ迷っているなら絵里ちゃんたちに聞いてみるのもいいと思うなー』
――絵里ちゃん達。そっか、絵里ちゃんたちはもうとっくに自分の進路を見つけて歩きだしたんだもんね。もしかしたら、何かヒントが見つかるかもしれない。
『ありがとう!絵里ちゃんたちにも話を聞いてみる!』
そこで穂乃果は絵里ちゃん達にメッセージを送ることにしました。
しばらくすると、また携帯がブルブルと震えました。どうやらメッセージが届いたようです。相手はにこちゃんでした。
『あんたが進路で迷うなんて珍しいこともあるものね。とりあえず話だけは聞いてあげるからいつものファミレスに来なさい』
*
「久しぶり、にこちゃん」
「ふんっ!久しぶりって言ってもまだ数ヶ月でしょ?連絡もとってたしそれほど久しぶりって感じでもないけど」
「あはは……」
にこちゃんはなんだか照れくさそうにそんなことを言います。にこちゃんはアイスティーを頼むと、あんたも何か飲む?今日はおごってあげるわよ?といってくれました。
「じゃあ、同じもので」
「そう。じゃあ、アイスティもう一つ」
にこちゃんは店員さんにそう伝えると、私の方を見ます。にこちゃんは高校を卒業してからなんだかより一層おしゃれに磨きがかかったようです。少しだけ大人びて見えました。
そういえば、ことりちゃん絵里ちゃんとはおしゃれ好きということで、たまに一緒にお洋服を買いに行ってるとか聞いたことがあります。
「それで?あんた進路どうするの?」
早速にこちゃんがそう言ってきました。
「それなんだけど、色々考えてみても答えが出なかったから先輩たちはどうしたのか聞こうと思って……にこちゃんは将来何になるつもりなの?」
にこちゃんはそこで腰に手を当て、少しだけ胸をはったように見えました。
「ふふ〜ん。なるほど、わざわざにこに連絡を取ってきたのはそういうことね!元三年生組の中でいっちばん頼りになるものね!フフフ……」
にこちゃんはどこか嬉しそうです。そんなに穂乃果の相談にのれることが嬉しいのかな?にこちゃんって本当にいい娘だなあ。
「あ、元三年生には全員に聞いたんだけどね!一番に返信が来たのがにこちゃんだったんだ。希ちゃん絵里ちゃんは忙しそうで」
「ちょっと!それだとにこが暇みたいな言い方じゃない!」
にこちゃんは頬を膨らませます。にこだってバイトにおしゃれに妹たちの面倒を見るのに忙しいんだからねー!と怒っています。
「あーごめんごめんそういうことじゃなくて……ゴホン、とにかくにこちゃんは将来どうするつもりなのかなーって話を聞きたくて」
そこで注文したアイスティーを店員さんが運んできました。運ばれてきたアイスティを少しだけ飲み、窓の外をにこちゃんは眺めながら言いました。その横顔はなんだか少し頬が赤かったようにも見えました。
「……したいと思ってる」
「え?」
「スクールアイドルに携わる仕事がしたいと思ってる」
「スクールアイドルに携わる仕事?」
「そうよ」
にこちゃんは一度アイスティーを口に含み、再び窓の外を眺めます。外はとっくに暗くなっていて何も見えません。にこちゃんは何かを考えているようでした。それから穂乃果の方を向き直って言いました。
「前にも言ったけど私はスクールアイドルが大好きなの。それはスクールアイドルじゃなくなった今でも変わらない。私はμ'sを始めてから、色々な夢が叶ったの。ラブライブ!に出場すること、憧れだったA-RISEのようになること、そして何より同じ目標を持った仲間とアイドル活動をすること」
そこでにこちゃんは穂乃果から目線をそらしました。なんだか少し照れくさそうにしています。
「3月にやった全国のスクールアイドルとの合同ライブの影響でラブライブ!はドーム大会の検討を始めたって話は聞いてるわよね?」
「うん」
無事にライブは成功して、数年後のドーム大会の開催が決まったことがニュースになっていた。花陽ちゃんと一緒に大はしゃぎしたなー。
「私は、あの時あんたも言ってたようにスクールアイドルそのものがずっと続いていけばいいって前から思ってたの。大好きなスクールアイドルをずっと見ていたいって。それは私がμ'sを始めるずっとずっと前から思ってたこと。はじめはアイドル活動をするのさえ大変だった……けど、結果的に私はスクールアイドルにいっぱい夢を叶えてもらった。だから、今度はにこたちと同じようにラブライブ!を目指す娘たちを裏方で支えて、彼女たちの夢を叶える手助けがしたいってそう思ったのよ」
その時のにこちゃんはの真剣な眼差しは今でも覚えています。やっぱり、にこちゃんは凄いなー、アイドルが本当に好きなんだなって思いました。
「スクールアイドルに携わる仕事、か……」
考えたことも無かった。μ'sをおしまいにしてからも、スクールアイドルの情報は集めていたし、色々曲も聞いたりしていたけれど、それを仕事にしようだなんて思いもつかなかった。
「何よ!文句ある?」
にこちゃんはちょっぴり口を尖らせながらそんなことを言います。
「ううん、そんなことない!にこちゃんらしい、いい夢だなって思って」
本当にそう思いました。やりたいこと、好きなことをやろうとするそんなにこちゃんはやっぱりすごいです。
「ふんっ、まああんたもせいぜい頑張ってまた夢を見つけなさいよ」
「うん、ありがとうにこちゃん!」
そこでしばらくにこちゃんと楽しくお話してから家に帰りました。
*
家に帰ると希ちゃんからメッセージが届いていることに気が付きました。今電話してもいいか聞いて、希ちゃんへ電話しました。
「穂乃果ちゃんどうしたん?」
「急にごめんね、もう穂乃果も三年生で進路を決めなくちゃいけないんだけど実はなかなか決められなくて……それで、希ちゃんたちは進路をどうやって決めたのかなーって聞きたくて」
「別にええよ〜。それにしても穂乃果ちゃんが進路で悩むなんて珍しいこともあるもんやなー。μ'sやってた頃は一番にやりたいことを見つけてやってたのに」
なんだか雪穂と似たようなこと言われちゃったな。
「なんかこうやりたいことって言われればみんなを笑顔できる仕事がしたい!とかは思うんたけど、じゃあ将来何の仕事に就きたい?って言われるとなかなか思いつかなくって……」
「なるほどなー。ようするに漠然とやりたいことはわかってるけど、どういう方向に進むかが思いつかないってことかー」
そこで希ちゃんは一度静かになりました。何か穂乃果のために考えてくれてるみたいです。
「うちの場合だとちょっと穂乃果ちゃんとは違うかもしれへんし、参考になるかはわからへんけどな。うちは将来、通訳さんになろうかと思ってるんよ」
通訳さん。あ、そういえば!ニューヨークに行った時も希ちゃん英語ペラペラだったけ。あの時は凄かったなー。
「希ちゃんは色んな国に行ったことがあるんだっけ」
「そうそう。だから自分で言うのも何だけど、うちは色んな言葉が話せるからそれを活かせる仕事が向いとるのかなって」
凄い。希ちゃんってしっかりしてるなー。あーあ、穂乃果も希ちゃんみたいに色んな言葉を話せればすぐに進路が決まったのに。
「希ちゃんはいつからそう考えてたの?」
「そうやなあ、あれは第二回ラブライブ!の予選の頃やっけ。進路決めなアカンってなってうちには何が出来るんやろうかって考えたら、やっぱりうちは誰かを支えてあげること、助けてあげることしかできひんってわかったんよ。それで、色々考えたんやけど自分の能力を活かせるのが通訳さんかなーって思ったんよ」
「そっかー。自分に出来ること、自分を活かせることかー。そういう進路の決め方もあるんだね」
そこで希ちゃんはくすくす笑います。
「え?穂乃果なんか変なこと言った?」
「ううん。でも、うちは穂乃果ちゃんならやろうと思えば何でもできると思うよ」
「ええー?そうかなー?そう言ってもらえると嬉しいけど……でも海未ちゃんには社長さんになりたいっ!て言ったら穂乃果には無理です!って言われたんだよー!」
「あはは、穂乃果ちゃんが社長さんかあ。それもちょっと見てみたい気もするけどなー」
それから希ちゃんと久しぶりに電話で長話をして、その日は眠りにつきました。
*
「穂乃果ちゃんは進路決まったの?」
次の日、放課後に部室で机に突っ伏してると凛ちゃんが話しかけてきました。隣には真姫ちゃん、花陽ちゃんもいます。
「ことりちゃん、海未ちゃんに相談したんだけどなかなか決まらなくて……。それで今はにこちゃん、希ちゃんに話を聞いてみて色んな進路の決め方があるんだなーってわかって、あとは絵里ちゃんからの返信待ちなんだ」
「まさか穂乃果が進路を決めるのが遅い方とは思わなかったわ」
真姫ちゃんが綺麗な髪をくるくる回しながらそう言います。
「確かに。凛も穂乃果ちゃんならさっさと決めちゃうのかと思ってたにゃー」
「こんなこと言うとダメかもしれないけど、花陽は穂乃果ちゃんでも迷うことがあるんだってちょっぴり安心しちゃった」
そうだよね。いつもの私ならすぐやりたいことを見つけられるのに。なんでだろう。なんか上手く決められないんだ。
そういえば二年生たちはこれからどうするんだろう。あんまり聞いてこなかったけど、いい機会だし聞いてみようかな。
「こんなこと三年生の穂乃果が言うことじゃないんだけど、みんなはこれからどうするか決めた?」
すると真姫ちゃん、凛ちゃんは顔を見合わせてから少し考え込むように口を閉ざしました。真っ先に口を開いたのは意外にも花陽ちゃんでした。
「えっと、私は昔から小さい子と遊ぶのが得意で、前から保育園、幼稚園の先生になりたいと思ってるんだ……えへへ」
花陽ちゃんはちょっぴり恥ずかしそう俯きながらにそう言いました。花陽ちゃん、まだ二年生なのにそこまで考えてるんだ……凄いなあ。
「かよちん凄いにゃ〜。もうそこまで考えてるなんて。凛なんかまだ将来の自分なんてあんまり考えたことないにゃ〜。でも、ずーっとかよちんとは一緒にいるつもりだにゃ!」
「凛ちゃん……!」
花陽ちゃんは凛ちゃんにそう言ってもらえて嬉しそうでした。凛ちゃんももしかしたら保育園、幼稚園の先生になるのかな?
「そっかー、それで真姫ちゃんは?」
「私は……前から言ってるけどお医者さんになるために医学部に進学するつもり」
「そうだったね。そうか、みんなそれぞれ進む方向は見つかってるんだね……」
二年生もそれぞれ何となくでも進む方向は見つかってるんだな。なんだか穂乃果だけ置いていかれてしまったかのような気分です。あーあ、私のやりたいことって何なんだろう。
*
“――飛べるよ、いつだって飛べる。あの頃のように”
μ'sを辞めると決めたあの日、少し不安はありました。それはμ'sを辞めてしまったら、もうやりたいことが見つからないんじゃないかって思ったからです。もともとスクールアイドルを始める前までの穂乃果は飽き性で、なかなか何かに熱中できたことなんてなくて、何となく日々を過ごしてきました。でも、μ'sを始めて、その時その時でやりたいことが次々と浮かんできて、毎日が冒険の日々でした。やりたいって思ったことに全力で夢中になれました。もしかしたらそれがμ'sの活動終了後には無くなっちゃうんじゃないかってそう思って凄く不安でした。でも、きっといつでも夢は見つかるんだ!全力で夢中になれるんだ!って思ったから、あの時は前へと踏み出せたんだけど……。
ブルブル。ベッドで横になっていると携帯が震える音が聞こえました。
『ごめんね穂乃果、返信遅くなっちゃって。それで話って?』
「あ、絵里ちゃんからの返信だ」
私はすぐさま絵里ちゃんへと電話をかけました。絵里ちゃんはすぐに電話に出ました。
「ごめんね、絵里ちゃん。突然電話して」
「ううん、今ちょうどバイトが終わったところだから構わないわ。それで?」
「えっとね。実は今、穂乃果進路で悩んでるんだけど絵里ちゃんはどうやって進路を決めたのかなーって思って」
絵里ちゃんはそこで少し笑います。
「珍しいこともあるものね、穂乃果がそんなことで悩むなんて」
にこちゃん、希ちゃんに相談した時も同じこと言ってたな。そういえば真姫ちゃんもそんな風に言ってたっけ。穂乃果が悩むなんてそんなに珍しいことかなー?
「だってだって!いきなり具体的にやりたい仕事とか方向性とか言われても全然思いつかないんだもん!」
「あっはは、ことりと海未は何て言ってたの?」
「ことりちゃんと海未ちゃんには色々提案してもらったんだけど結局どの仕事も悪くないなーって話になって、決められなかったんだよー」
「どれもこれも魅力的に見えて、選べないってところかしら」
「そうそう。そうなんだよ!何かこう人の役に立ちたいなーとかみんなを笑顔にできる仕事に就きたいなーって漠然と浮かんでは来るんだけど、それは色んな仕事で出来そうだなーって」
「そんなに難しく考える必要はないわよ」
絵里ちゃんは明るくそんなことを言う。
「でも、具体的な進路の方向を決めないといけないって先生が」
「そうね。それなら、やっぱり穂乃果が好きなことをやるのが一番いいと思うわ」
「穂乃果が好きなこと?」
「ええそうよ。穂乃果がやりたいのは誰かを笑顔にすること、誰かの役に立つこと、なんでしょ?でも、それは色んな職業で出来そうだからどの方向に進むかうまく選べない。だったら、自分の好きなことで進路を決めればいいじゃない。私はあなたにそう教わったけれど?」
「絵里ちゃん……」
そこで絵里ちゃんはまた笑う。
「それに、あなたは色々考えて行動するタイプじゃない。いつだって自分のやりたいことを一番にやってきた。あなたはいつもそうしてきたじゃない。μ'sを始めた頃だってそうでしょ?」
――μ'sを始めたのはただ廃校を阻止するためだった。A-RISEのダンスPVを見て、ドキドキして、何となく面白そうだったから“これだ!”って思って始めた。それが次第に歌うこと、踊ることの楽しさに気がついて、徐々に一緒に活動するメンバーも増えて、色々あったけどひとまず当初の目的であった廃校を阻止することはできた。私のせいで第一回ラブライブ!を辞退しなければならなかったり、ことりちゃんの悩みに気づいてあげられなかったりしたことで自分のわがままのせいで誰かを迷惑に巻き込んだり傷つけたりすることが怖くなって……それに、廃校阻止という目的を達成したことでどうしてスクールアイドルを続けるのかわからなくなって、それで一度はスクールアイドルをやめようともした。それでも私がμ'sを続けたのは、μ'sが大好きだったからだし、何よりも私自身が歌って踊るのが本当に好きなんだって気がついたから。そして、それは第二回ラブライブ!に優勝したあとも、海外でライブしたときも、秋葉での全国のスクールアイドルとの合同ライブをしたときも、そしてμ'sの活動をお終いにしてからも変わらなかった。
そうか、私は歌やダンスが好きなんだ。
「なんだ、簡単なことだったんだね……。なんかやりたい仕事とかやりたいことを意識するあまりに色々難しく考えすぎてたみたい」
「答えは出たみたいね」
絵里ちゃんは私の声色から何かを察したみたいでした。
「うん。私は歌うのが好き。踊るのが好き。だから……」
「穂乃果ならなんだって出来るわよ」
「うん、ありがとう絵里ちゃん!」
*
「「歌手になるぅ!?」」
進路が決まったことを報告したら、みんな驚いたようでした。
「穂乃果、あんた本気で言ってるの?」
真姫ちゃんは私のおでこに手を当てながらそんなことを言います。
「す、す、凄いです!スクールアイドルの次は歌手だなんて!」
「凛もびっくりだにゃー」
花陽ちゃんも凛ちゃんも驚いているようです。でも、ことりちゃんと海未ちゃんはこう言います。
「穂乃果ちゃんならきっと……」
「そう言うとは思っていました」
「二人とも……」
海未ちゃんは困ったように笑いながら言います。
「だって、もう止めたって無駄なのでしょう?」
「ま、そうね」
そこで真姫ちゃんも呆れたように笑いながら、海未ちゃんに賛同します。
「普通なら無謀な賭けだって思うけど」
「でも、そんな無謀な夢でも」
「穂乃果ちゃんなら出来る!」
花陽ちゃん、凛ちゃん、ことりちゃんがそう続けます。
みんな……。
「あんたがそう決めたなら仕方ないから応援してあげる!」
「うちは穂乃果ちゃんならきっとそう言うと思っとったよ」
「穂乃果ならきっとまた私たちに夢を見せてくれる。そうでしょ?」
にこちゃん、希ちゃん、絵里ちゃん……。みんなが穂乃果を応援してくれている。みんなが穂乃果を支えてくれている。やっぱり私、みんなと会えて本当によかった。
「私、決めたんだ。私は歌うのが好き。踊るのが好き。スクールアイドルをやめても、この気持ちは変わらない。私の歌でたくさんの人を笑顔にしたい。だから、私は――」
*
それから数年の月日が経ち、ニューヨーク。
パチパチパチパチ。いつものように歌を歌い終えるとひときわ大きな拍手の音が聞こえた。不思議に思って音の方を向くと、髪をサイドで結んだ、どこか見覚えのある少女が私の目の前にいた。話を聞いてみると、どうやら日本人の高校生だという。ニューヨークまで来て仲間とはぐれてしまったらしい。可哀想に。私は少女がどこのホテルに泊まっているのか情報を聞き出し、何かの縁ということでそこへ彼女を連れて行ってあげることにした。
彼女は今仲間とともに音楽活動をしているらしい。どこかかつての私の境遇と似ている。私は、彼女に昔自分もグループで歌っていたことを話してあげた。すると、彼女は少し驚いたような表情をした後、その話に何か思ったところがあるらしく、しきりにグループの終わりについて問いただそうとしてきた。
――ああ、やっぱり。
でも……ううん、だからこそ私はそんな彼女の姿を見て、「すぐにわかるよ」とはぐらかすことに決めた。答えを出すのはとても難しいこと。でも“あなた”なら答えはきっと自分で見つけられる。それもすぐに。
ホテルの付近まで彼女を連れて来ると、彼女は何かを見つけたようだった。彼女の仲間らしき少女たちが彼女の名を呼んでいる。私はその少女たちの姿を見て、懐かしさとともに切なさがこみ上げてきた。
――いけない。
私は彼女に預けたマイクをそのままに、その場を後にすることにした。
気がつくと私は日本にいた。私はすぐに“彼女”が来ることを悟った。少女は再び私の前に姿を見せた。それから彼女は預かったままのマイクを私に返すと言う。
――本当はそれ、あなたにあげたんだけどね。
私は彼女の自宅まで案内された。懐かしい。家の前までつくと彼女から家に上がるように言われた。でも、私はそれを断ることにした。
――今はまだ立ち止まっていられない。
私は気になったので、彼女にこれからどうするのか尋ねてみた。すると、まだ決心しかねているらしかった。無理もない。まだ高校生の彼女たちにはあまりにも現実的すぎる選択だ。けれどいずれ彼女にもその決断が間違いでなかったとわかる時が来る。
私は彼女の決断を後押しするように、言葉を送った。かつて、誰かが自分へと送ってくれた言葉を。
『飛べるよ、いつだって飛べる。あの頃のように』
再び気がつくと、私はニューヨークにいた。ホテルのベッドの上で私は目を覚ました。どうやら夢を見ていたようだ。それもとても懐かしい夢。どんな夢だったのかは思い出せない。ただ、なぜだか凄く懐かしい気持ちになった。
私は今日の予定を確認する。今日もまた路上ライブをする予定だ。私は急いで支度を済ませ、ホテルを後にした。私の夢はまだ、始まったばかりだ――。
Final lovelive!を終え、終わりを受け入れられないために少しだけ続きを妄想して書いてみました。ろくに小説やSSを書いたことがないため文章、構成、ともに大変粗末なものではございますが、自分と同じく終わりを受け入れられないどこかの誰かに少しでもこの気持ちが届けば幸いです。