ともすれば慧音先生に女房的なことをやらせたかっただけである。
なおうちの慧音はCV:桑島法子って一万と二千年前から決まっていたらしい。
深い話でもないので習作のようなもの
過去に投稿したものよりもさらに過去の短編になります。
お目汚し程度にお楽しみください。
もしかすると落ちがない可能性も・・・・・・・
痛い。幾つもの閃光が体を貫く。何度経験しても、刹那の鋭い『それ』と後に連なる鈍い『それ』には不快を覚える。
だが、この体は朽ちる事は無く、閃光の元となる剣状の光弾は私の体を貫いた事を確認した後に光の粒子となり、宵闇に散らばってゆく。
程無くして、剣山の如く貫かれていた肌が露出する。
更に、時間を置かずに、鮮血によって彩られたそれぞれの傷はその穴を閉じて、終に元の状態へ修復された。
痛い。
痛い。
苛々する。
「随分と腕を落としたのね…?」
上空から声が響く。ため息交じりの一笑。
見上げれば白い月を背に、私を見やる一人の女。長い髪を風に揺らしながらこちらを見ているそいつこそ、永い時間を闘い続けている仇敵『蓬莱山 輝夜』
勝てる自信はあった。
だが、敗れた。ただそれだけの事。
「余りに熱くなりすぎよ?文字通りに」
くすくすと笑いながら、そいつは彼方へと去って行く。まだ十合も切り結んでないのにこのザマだ。
「ちくしょう!」
追いかけるでも無しに言い放ち、私は近くの大木に背中を預けた。
いつの間にか降り出した雨が、火照った体を徐々に冷ましていく。私は自然と肩を落とす。
「負け……か」
自分でも子どもじみていると思いつつも、今夜は、直ぐに襲いかかってきた睡魔に身を任せ、寝床に戻る事もせず木陰の下で不貞寝しようと決めた。
◇ ◇ ◇
「……紅……妹紅!」
何者かに呼ばれ、少女は目を開く。
「慧……音…?」
聞き覚えのある声に少女は言葉を返す。
「もう朝か?」
妹紅と呼ばれた彼女は眠そうに目をこすりながら顔を上げた。
「『もう朝か?』じゃ無いだろう! なんだその格好は、ぼろぼろじゃないか!」
声を張り上げ叱責しつつも、その女性は立ち上がるための手を差し伸べる。
彼女こそ上白沢慧音。昨晩戦いに敗れ、不貞寝を決め込んでいた藤原妹紅を起こした張本人にして、その妹紅が、ここ幻想郷において多くの交流を持つ数少ない人物の一人である。
「すまない。」と、自嘲的な笑いを含みながら妹紅は、差し伸べられたその手を握り、立ち上がる。
「服の洗濯をしてやるから家に来い」
やれやれと溜め息をつき、慧音が踵を返す。見れば言葉通りの風体だ。土埃にまみれている。
説教を食らうだろうかと身構えていた妹紅は一瞬呆気に取られたものの、その好意に甘えようかと小さく笑い後に続いた。
◇ ◇ ◇
「まったく……。闘うなとは言わんが、こんなになるまで闘らなくてもいいだろう?」
ほとほと呆れながら、慧音は物干しに手を伸ばす。
庭先で洗濯物を干す姿はまるで母親の様だ。
「ついつい熱くなっちゃったんだよ…。」
用意された着物を着付けながら妹紅が唇を尖らせる。昨晩の出来事を思い出してしまい、悔しさと苛立ちが同時に訪れてか、深い溜め息もこぼれる。
「だろうな。修繕が必要な部分もある」
洗濯され綺麗にはなったが、逆にくたびれて見えるシャツを広げ慧音が笑う。当然の事だった、破れ、切れ目が多くまさしく『ぼろきれ』である。
やるもやったり弾幕勝負。この調子ならおそらく幻想郷の布屋はさぞ儲かっている事だろう。
それはさておき、着付けを終えた妹紅が縁側に歩み寄り腰を下ろす。
「悪いな……、やらせてしまって」
さすがに悪びれてか彼女は多謝の意を表した。
「気にするな」
ふと妹紅を見やった慧音はそう言い放ち小さく笑い飛ばす。が
「……、と言いたいが、やりすぎだぞ?」
と、再度呆れ声で続け、叱咤する。
「悪い……。」
少し怒らせてしまった後悔か、はたまた勝負に敗北した己に落ち込んでか、妹紅は低めの声で返し、目を伏せる。
道すがらの木陰などで不貞寝の宿を取った事がそもそも間違いだったことも言うまでもない。
「大方その様子だと敗戦喫したか?」
口数少ない妹紅に慧音が不意に問いかける。雰囲気から見得たのか、何にせよ今の妹紅にとっては余り聞いて欲しくはない話題であったが、事実だった。
「輝夜と撃ち合った。はっきり言って完敗だ」
妹紅は自虐的にも取れる自棄な言い方で首を横振りする。
自らの矜持を打ち砕かれた訳ではないが、
腕に自信のあった彼女の事だ、相応に疲弊し、落ち込んでいる様子は十分に見て取る事が出来る。心を許す友の前も相まってだろうか、
その様子は理解に難くない。
「ふむ、……まぁゆっくり寛いで行くといい。たまには羽を伸ばさないといかんぞ?」
心情を察したのか多くを訊かない慧音は指を立てて寺子屋で子どもに教えるときのように妹紅を促す。
「ああ、……少し気分転換に居させてもらうよ」
心遣いに感謝しながら妹紅もそれを受け入れるのであった。
◇ ◇ ◇
――と、言ったものの、努めて何をする訳でもなく、私はとりあえず慧音の淹れた茶を片手に縁側にひとまず腰を据える。
一定の調子を保ってはいるが、内心かなり疲れているのだろう。
『速度、火力、策案、体力、その配分。』
そのどれもが申し分なくいつも通りの流れであり、充分な思考の基行われていたはずの戦い。
敗因は何なのか、何が足りなかったのか、策に不備はなかったのか。
何より『負けてしまった』事実がぐるぐると思考を、その速度を増加させていく。
「疲れる……」
私は誰にとでもなく言葉を洩らす。
しかしながらその『疲れ』や『痛覚』、そう言う類の状態や感覚は良い事だと慧音は言う。
特に私のような種類の存在ならば人並みの感覚、感性を持ち合わせている事はまっとうな(妖怪等でない)人間と付き合っていく上で重要らしい。
だが、今はそれが少し憎い気もする。
「面倒だな……」
再び三度溜め息をついた所で私は『そのこと』を考えるのを止めにした。
あまり考えすぎるのも好くない、逆に苛々が募るだけだ。
いつの間にやら温くなった茶を飲み干し一息つく。
庭に目をやると手入れの行き届いた花や木々が見て取れる。
戦いや、昔のように妖怪退治に明け暮れる殺伐とした日常にはない、温和で柔らかな風景だ。
晴れ渡る空も相まってか、昨夜の雨で出来たであろう水溜りが陽光を反射し、その風情を際立たせる。
ふと足音を聞きつけ私は振り返った。
「良い物を手に入れたんだが…?」
笑顔で歩み寄ってくる慧音が其処にいた。
その手には足つきの分厚い将棋板が抱えられている。
「一局指さないか?」
持て余した私を見かねたのだろう、久々に誘われたそれを断る理由もない。
「ああ、やろうか。」
丁度いい気晴らしだ。
私は喜んで誘いに乗った。
◇ ◇ ◇
小気味よい木の打音が行き交う上白沢邸縁側。
かれこれ半刻を数える。
既に対局は三戦目に突入していた。
「王手!」
してやったりな表情を見せ、妹紅が声を上げる。
だが、飛車一つで王を討ち取らせるような慧音ではない。
「取ったり!」
慧音も熱く応じて板を打ち鳴らす。絶妙の位置に潜んでいた角が見事に王手飛車取りを決めた。もちろんこの後妹紅の玉将が動く先は銀、桂馬、香車、そして頼みの綱だった飛車を奪った角によって完全に封鎖されていた。
「……ちっ、積みだ!……参った」
いかなる手段でこの危機を打開しようかと百面相を興じる妹紅であったが、ついに落城を良しとし舌打ち交じりに降参を申し立ててしまった。
そして、懐から小さな箱を取り出しさらにその中から紙巻の両切り煙草を一本つまんで口へ運んだ。
すらりと片方の人差し指を先端に持って行くと、同時に指先に蝋燭のように火が点りゆっくりと紫煙を燻らせる。
「だが、随分打ち筋が良くなった。腕を上げたじゃないか?」
どこからか取り出した硝子製の灰皿を差し出す慧音が今回の対局について賞賛を洩らす。
「寺子屋の先生にたらふくしごかれたからな」
『用意がいいな』と、からから笑いながら付け加え妹紅が返し、受け取った灰皿に灰を落としては、再び煙草をふかす。
「……良かった」
玉響に戸惑いを見せた慧音が不意に言い放ち、元の笑みを見せた。
「?……何がだ?」
慧音の意図に疑問符を浮かべる妹紅。咥えられていた煙草は既に消され、早くも二本目に火を点ける。
「うん……何時ものお前だ」
雰囲気か、はたまた第六感的な何かかはわからないが、
少なくとも朝方の仏頂面と倦怠感の大きかった妹紅ではなく、上白沢慧音が良く知る藤原妹紅が其処にはあったのだろう。だが
「実を言うと内心では心配していたんだ、随分前にも似た様な事があったろう?」
と、再びやや困惑的な表情に一変する慧音。
「ば……、そんな昔の事は忘れた」
一瞬の焦りを見せる妹紅だが慧音の言う『それ』と今回の事柄は違う事を暗に示し煙を吐き出した。
随分昔の事である。彼女が強力な妖怪と対峙し戦闘を行った時に言われた言葉がきっかけで、ひどく心病んだ時期があった。
『戦いに興じる余り己の真なる悲願を忘却している』
『強者との戦いに興じる事そのものに悦楽している』
というものだった。
確かに目的すら忘れ、単に妖怪退治に精を出し、達成に喜びを感じていた彼女にとっては、その言葉はあまりにつらい現実であったし、自身でもそうだと思える事実だった。
しかしその葛藤も過去の話。
だからこそ現在の輝夜に対する『仇敵』というだけでなく、『試合形式上の敵』と呼べる、言い換えて言うのなら喧嘩友達の付き合いに変に考えもないし、当時のような葛藤ももはやないのだ。
「そう……か、ならいいんだ」
懸念事項には当てはまらないと知った慧音も再再度何時もの柔らかな笑顔をのぞかせたものの
「しかし、私が諫めたところでお前が闘いを止めることもないのだろうな……」
幾分か寂しげに彼女はそう続けた。
「すまん。終わらせる事こそ望むが、止めるわけにはいかない」
妹紅は凛々しげに空を見上げた。
自分で下した決意、それは悠久の目標。
永遠の課題、終わりなき闘いである。
それでも妹紅が決めた一つの真実【蓬莱山輝夜の打倒】
「わかっているさ、しかし慣れに任せず闘うことも重要だ」
ここに来て慧音は戦闘の何たるかに触れ始める。
「慣れ……か」
煙草の火を見つめながら妹紅が思考展開する。
「こと幾年も闘い続けている相手だろう、互いが形式的になればなるほど、とても簡単かつ単純なほころびが勝負事の敗因につながる」
好戦的でない性格の慧音ではあるが、少なからず兵法、戦闘技術に関する知識も充分なようだ。
「〈攻める事は守る事〉という言葉があるように、必要以上に考えて闘う事はかえってほころびを生む。かといって慣れという流れに任せすぎれば小さな事が不運をもたらす」
長きにわたる経験、学における理念が語られる。
「確かに、防戦は私に似あわんしな」
妹紅は感嘆をもらし笑い飛ばす。それは自らを振り返った結果だ。
「うむ。『らしさ』は大事だ」
慧音もその言葉に応じて賛同の意を語った。言いたかった事の一つを理解してもらえたことが嬉しかったのだろうか、その表情は少し誇らしげにも見える。
「すごいな、慧音は」
不意に妹紅が放つ。前述した通り、慧音は戦闘を好まない性格だ。特に妹紅が行うに関しては、である。
「べ……別に凄いなんて事あるか、妹紅の為を思って知り得る知識を選んだだけだぞ?」
妹紅の急な発言に思わず頬を赤らめ、慧音が目をそらす。
「すごいさ、それに感謝してる……ありがとう」
それは素直な妹紅の気持ちだった。しかし、流石の妹紅も改めて礼を口にするのは恥ずかしかったらしく、肝心な部分はややぎこちない言い方となった。当然、面と向かえずの妹紅の視線も別の方向へ向かっていた。
まるで初めて愛を告白しあった男女のように、長い沈黙が二人を包む――。
――「お、遅くなったが、昼餉にしないか?」
その沈黙を先に打ち破ったのは慧音だった。心の動揺は未だ続いているようだ。
「そ、そうだな」
妹紅自身もまだ状況になれない様子で慌てて返すのだった。
◇ ◇ ◇
「さて……腹ごしらえも済んだし、すこし出掛けようかな」
昼食後の一服を終えるころに妹紅が切り出した一言だった。
わざわざ出張る場所もそうないはずだが、どうやらもう決めていたらしく、いつの間にやら取り込んだ自分の服に着替えまで済ませていた。もちろん出掛けるだけなら慧音に借りた着物で良いはずだろうが、それをあえて着替えている。
語らずとも既に慧音には察しがついていた。
「行くのか?」
慧音は執拗に聞くこともせず、心配そうにそれだけを訊ねる。
「まだ明るい、夕食には戻る。中華がいいな、あと……裁縫道具を準備しておいてくれるか?」
冗談めいた口調で妹紅が告げた。
「……仕様のないやつだ、満漢全席でもつくるか……?」
慧音もやれやれと首を横振りして見せるも、そう答えて目配せして返答とした。
「そいつはいいな、早めに帰るよ」
妹紅は朝方の状態からはとても考えられないようなとびきりの笑顔を見せ、家を後にする。
「まったく――」
飛び去っていく妹紅を見つめながら慧音がそう呟いた。しかしながら、その表情が穏やかである以上、彼女の気持ちを改めて説明する必要は在るまい。
◇ ◇ ◇
日暮れ前のとある中空でそれは熾った。
「……一回死んだわよ、妹紅っ!」
灼熱の業焔の中から甲高い声が聞こえる。
瞬時に鎮火を見せた炎の中から姿を現したるは蓬莱山輝夜。およそ火に掛けられたとは思えぬまっさらな状態で、自らと同じく宙に留まる妹紅に対峙した。
「殺す気で撃ったんだ当然だろう?……落ちたんじゃないのか?……腕」
爽快に直撃を射れた妹紅は、相対する輝夜に投げかける。
昨晩の自分がそうされたように。
「馬鹿言わないで頂戴、これからが本番よ!」
皮肉が逆鱗に触れたのか、輝夜は構えをとる、大技が来る事は間違いないであろう。
「上等だ、幾千回でも殺ってやるよ!」
決して終わらない戦いといえども妹紅は意気込みを消さずに張り叫んだ。
放たれる弾幕達が、今日も幻想郷の空に消えて行く。
――それは終焉無き闘いすらも美しく彩って………
いかがだったでしょうか。
前回の萃香の作品よりさらに1~2年ほど前の作品になりますが、せっかくの機会なので上げてしまおうぜ!ってことで作品を投下しました。
毒にも薬にもなりませんがちょっとした息抜きに、コーヒーや紅茶片手に、あるいは紫煙を燻らせながらお楽しみいただけていれば幸いです。