MUGENと共に   作:アキ山

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 お待たせしまして、申し訳ございません!

 三十五話の完成です。

 度重なるスランプとネタ切れでもう一つの作品へ現実逃避していましたが、何とかモノになったかと……。

 MUGENもクーガー兄貴の制作者様がカズマを作ったり、龍虎+KOF仕様のリョウができたりと、嬉しい限りです。

 こちらの方も負けずに進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。



35話

 ガブリエル女史からのリークから程なく、アメリカ大統領からの正式な声明として世界各国で多発する『悪魔病』、即ち転生悪魔の暴走に対する防疫の名目で主要都市への攻撃が宣言された。

 発表当初は当選前からの過激発言もあって、『いつものマイクパフォーマンスだろう』と誰も信じていなかったのだが、各国の軍事衛星が米国の軍事基地がミサイルの発射体勢に入った事を察知した事から自体は急変。

 当然、ロシアをはじめとする大国も対抗措置に出ようとしたのだが、ここで予想外の事が起きた。

 なんとミカエルをはじめとした天使達が降臨し、アメリカの攻撃を『主の御意志』と認めたのだ。

 これには世界各国の政府は度肝を抜かれる事となった。

 何故なら各国の上層部は神魔の存在を認知しているが、彼等が人間の営みに手出ししていたのは古代から中世初期まででしかなく、近代においては国家や政治にかかわる事は無いとされていたからだ。

 だからこそ混乱や宗教的暴走を防ぐ為に、主要な宗教団体の高僧は兎も角として、一般大衆にはその存在は伏せられてきたのである。

 『禍の団』のような無法者は例外としても、一神話体系の上層部が公然と政治の表舞台に立つという事、それは即ち神魔が人間の上に立つのに他ならない。

 そして、今回のアメリカの暴挙は一神教の神の意思であるという証明でもあった。

 度重なる『禍の団』のテロによって求心力が低下していたとはいえ、世界中にはまだまだ一神教の信者の数は多い。

 信じる神に見捨てられた事と核攻撃のダブルパンチによって、少なくない国民が暴徒と化したことで多くの国が混乱に陥った。

 この状況を看過できないと、多神教の神々もまた表舞台に立つ事を決意する。

 こうして、一神教と多神連合の闘いは人間社会を巻き込んでその火蓋を切ろうとしていた。

 

 

 

 

 高天原に設けられた多神連合の本部は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 各神話の主神が集まったものの、その多くは沈痛な表情を浮かべたまま口を開こうとしない。

 アメリカによる世界への核攻撃と一神教の表舞台への露出は、主神の皆様方に多大な戦慄を(もたら)した。

 かの大国が所有する核兵器の全てが世界中にばら撒かれれば、人類や動物はもちろん大半の虫や植物も死に絶え、地球が死の星に変貌する事は想像に難くない。

 そうなれば、人々の信仰の他に自然現象を依り代としている多神教の神々はその存在を維持できなくなるだろう。

 アメリカ政府の背後にいる聖書の神は、異教徒抹殺の他にそこも視野に入れているに違いない。

 かと言って、迎撃するにしても多くの問題が残っている。

 ここに集まった方々は気付いているのだろうが、神々が核ミサイル迎撃に全力を尽くせば、その間に悪魔や天界勢力が支配地域に攻め込んでくる可能性が高いのだ。

 『無限の闘争(MUGEN)』などの事情を知らない彼等は天界がここまでの強攻策を取ったことで、むこうが不退転の覚悟を決めたと思っている。

 女史が口にした聖書の神の復活も、決戦の為に邪法に片足どころか半身を投げ込む勢いでやらかしたモノだと考えているようだ。

 だからこそ、彼等は隙を見せる事を良しとしない。

 かつての魔女狩りや弾圧を受けた旧神達やそれを見ていた神々は、宗教という免罪符を与えられた者がどれほど残酷な事を成すか知っている。

 日本やギリシャを始めとする現世残留組は長年護ってきた自国がその舞台となるのを懸念しているし、ローマや中東の神々は取り戻した自身の土地を再び失うのを恐れている。

「彼奴等め、これほどの暴挙に打って出るとは……」

「ガブリエルよ、本当に聖書の神は復活したのか!? よもや、こちらを謀っているのではあるまいな!!」

 卓を取り囲む誰も彼もが口を噤む中で、そんな空気に耐えられなくなった神の一柱がガブリエル女史に食って掛かる。

 八つ当たりなのは誰しもが気付いているが、止めようとする者はいない。

「本当です。彼のお方は我々の創造主、どうして間違えることができましょうか」

 神氣に中てられてもなお、毅然とした態度を崩さないところは四大天使の面目躍如と言ったところだろう。

 人形の様に表情を変えない彼女に、面白くないと言わんばかりに舌打ちをした神の一柱が乱暴に椅子に座り込む。

 面倒な展開へ発展しなかった事に安堵の息をついていると、女史はヴァーリと共に壁の置物に徹していたこちらへ視線を投げかけてきた。

「姫島殿、一つ問いたい事があります」

 『無限』と言われても若輩者でである身。

 ある程度方針が決まるまではダンマリを貫く気でいたのだが、問われたのならば無視するわけにもいかん。

「どうぞ」

「再び復活なされた主は、その容姿が驚くほど貴方に酷似していました。その理由はわかりますか?」

 意外な事に彼女は俺のクローンについて知らないようだ。

 『禍の団』から引っ張り上げた(向こうの天界勢力は、それを回収する目的で離反させたかもしれないが)技術なので、天使達を統括する四大天使は把握していると思っていたのだが。

 気付けば、事前に知っているバアル様を除いて列席した主神達の目もこちらに向けられている。

 バアル様との約定があるとはいえ、下手にシラを切るのは逆効果になりかねないか。

「それは奴の依り代に俺のクローンを使用したからでしょう」

「無限殿の複製だと? そんな物、誰が生み出していたというのだ」

 こちらの言葉にアメン様が眉を顰める。

「主導していた者は分かりませんが、製造の為の研究施設は冥界で『禍の団』に所属していた貴族の領地に有りました。どうやらオーフィスとの戦いで飛び散った肉片や血液を素材にしたようですね」

「では、奴等は第三の無限を量産しているというのか!?」

「その心配はありません。俺の強さは権能や神器のように生まれ持ったものではなく、一重に努力の賜物ですから。ただ複製を生み出しただけでは、常人より少し運動神経が良い程度のガキになるのが精々でしょう」

 俄かに沸き立ちかけた議会は、俺の否定の声に安堵の息をつく。

「そ、そうか……」

「しかし、逆に言うと訓練を積みさえすれば、そなたと代わらないほどの力を手に入れるという事であろう? ならば脅威になるうるのでは?」

「300倍の重力の中で50tの重石を付けて、基礎から実戦訓練をこなせるならば、そうなるかもしれませんね。あとは核弾頭の直撃に耐える耐久力を身に着けるとか」

 俺がそう言うと神様たちは一斉に目をそむけて『ウン、ソウダネ』とカタコトで言ったり乾いた笑いを浮かべる。

 おい誰だ、『やっぱり頭がおかしい』とか言ったのは。

「ふん、こんな場所でグチグチと話していても仕方あるまい。ミサイルは何時発射されるかわからんのだ、迎撃体勢を整えるほうが賢明だと思うがな」

「だが、我等が離れている間に土地を攻められては……」

「それにガブリエルは彼奴に最も厚い忠誠を誓った四大天使ぞ。件のミサイル攻撃も罠に我々を呼び込むための餌である可能性もあるではないか」

 ダグザ様の言葉に中東や南米の小勢力の神々が消極的な態度を見せる。

 彼等の土地は未だに一神教の影響が強い、現状では攻勢をかける事は難しいのだろう。

 会議の最初に知恵の神々から提示された策は、迎撃する者が大気圏まで出張ってミサイルが目標へ向けて加速する前に宇宙空間で破壊するというものだった。

 数千発というミサイルを迎え撃つからには戦闘に長けた者が総出となる必要があり、そうなると迎撃を担当する神話の防衛力は一気に下がる。

 他の勢力で穴を埋めると言ってはいるが、そのメンバーを補填する側だって最終防衛網を張る必要があるのだから、有力な助っ人を期待するのは難しい。

 要するに、ミサイルを止める役は貧乏くじなのだ。

 とはいえ、自分の土地が心配なのは分かるが消極的すぎやしないか?

 自分の土地が心配なのは分かるが、核ミサイルが刺さったら人も物も自然も何もかもパーなのだ。

 そうなっては土地だけ残っていても仕方ないだろうに。

「おい、どうするんだ?」

「そりゃ打って出るしかないだろ。俺等みたいなガキが呼ばれたのって、それが理由なんだろうし」

 煮え切らない神々へのイラつきを隠そうともしないヴァーリに俺は肩を竦めて見せる。

 少し前までなら天照様の一声で事は済んだだろうが、今の俺は何処の勢力にも所属していない。

 動かす事が決定事項でも、大人の事情や段取りというものが必要になるんだろう。

 遠視や千里眼を総動員してミサイルを監視している神々から発射の連絡があれば、もっと話が早いんだろうが。

「天照様、バアル様。ミサイルの迎撃については俺とヴァーリに任せてください」

「……よいのですか?」

「ええ。俺達は皆様のように護るべき地を持っているわけではありません。迎撃役としては最適でしょう」

「しかし都市一つ、物によっては小国すらも吹き飛ばす兵器だ。いくら無限殿や白龍皇とはいえ、危険ではないか?」

「左様。お主達は聖書の勢力との決戦における切り札、おいそれと失うわけにはいかぬ」

 俺達を気遣っているのか兵力の低下を懸念しているのか、なんとも判断に迷う言葉を吐く小規模勢力の方々。

 彼等に対して、俺は不敵な笑みと共にこう返した。

「大丈夫です、核弾頭の直撃は経験済みですから。一撃で地殻を抉り取るようなブレストファイヤーよりは全然マシです」

「そうだな。ブラックホール・クラスターの威力を上回るということはあるまい」

「それを言ったらフリーザ様のデスボールの方が威力凄いだろ。幾ら水爆でも一撃で星を吹っ飛ばすほどじゃないだろうし」

「だったらセルのかめはめ波には劣ると見ていいか。うむ、少なくとも死ぬ心配はなさそうだ」

 うんうんとヴァーリと共に頷く俺。

 はっきり言って核ミサイルの群れなど、ゴジラやマジンガーZEROに比べたらまだまだ温い。     

 神ランクは星を砕くレベルの技が出てからが本番なのである。

 唖然となっている神様そっちのけでヴァーリと盛り上がっていると、観測班の神様から報告が入った。

 ついにアメリカはミサイルの発射準備に入ったらしい。

「すみません、皆様。俺達はこれから宇宙へ上がります。ミサイルを打ち落とした際、高高度爆発で電磁波が出る可能性があるので、各神話の雷神の方々はこれを地上に降らさないようにしてください」

「なんでだ? 雷じゃないんだから問題はあるまい」

「物理的破壊は殆どありませんが、コンピューターをはじめとした電子機器が壊れます。そうなれば、今の国家は立ち行きません」

「…………『あいてー』の事はよく分からんが、民が困窮するとなれば力を尽くさぬわけには行かぬな」

「うむ。電磁波というのは雷にくっ付いてくるあれじゃろ。その程度なら幾らでも止めてやるわ」

 首を傾げながらも納得してくれたトール様に、菅原道真公が同意する。

 これで電磁波攻撃によるインフラの破壊は防ぐ事ができそうだ。

「行くぞ、慎。モタモタするな!」

「わかってるよ!」

 木製の引き戸を開けて外に飛び出したヴァーリを追って、俺もまた会議室を後にする。

 取りあえず、玉藻には簡単な報告を入れておこう。

 

 

 

 

 高天原を出た俺達は全力飛行によって大気圏を抜け、今は青く輝く地球を足元にしている。

 『無限の闘争』では何度も宇宙で戦ったが、現実で飛び出すのはこれが初めてだ。

 もしかしたら、何時ぞやの真空断層のように『あべしっ!?』なんて事になるかと思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。

 生身で宇宙空間もOKとか、ある意味サイヤ人を超えたな。

 さて、迎撃の配置だが俺が北半球を担当しヴァーリが南半球を受け持つ。

 下では各神話勢力たちが各々の土地を防衛してくれているが、それはあくまで保険だ。

 放射能汚染のことを思えば、すべてここで打ち落とすしかない。

 玉藻にはマジで怒られたうえに、婚約したばかりで未亡人は嫌だって泣かれたからな。

 核爆発程度で死ぬ事はないだろうが、気合を入れねばなるまい。

 氣を練りながら集中力を高めていると視界の下方、地球の方がキラリと煌くのが見えた。

 程なくして目に飛び込んできたのは、こちら目掛けて上がってくる白いミサイルの群れだ。

 ご丁寧に天使共の護衛まで付いている。

「なんだと!? 星の外まで迎撃の手が!!」

 先頭を担っていた天使が二対の羽根を羽ばたかせて驚愕の表情を浮かべているが、それに構ってやる時間は無い。

 界王拳を五倍に引き上げて氣を右手に集中させる。

 放つのはもちろん───

「狂雷迅撃掌!!」

 天元に向けた手を握り締めると同時に宇宙空間の黒を切り裂いて万雷が降り注ぐ。

 紫電の先触れがその身を舐めると、先頭を走っていたミサイルが巨大な火球へとその姿を変えた。

 人類が手にした最凶最悪の兵器はその力を遺憾なく発揮し、傍らにいた天使や同胞を飲み込んだ。

 それによってドミノ倒しの様に後続のミサイルたちが次々と誘爆を初め、核の炎から逃れた天使達も雷撃によって黒焦げの羽へと帰っていく。

 範囲を大幅に拡大した広域殲滅型なので威力は少々心もとなかったが、上手く言ったようだ。

 爆風もこっちに届きはしたが、まったく以って問題は無い。 

 放射能や何やらが気になっていたが、生身で宇宙空間に出て問題ない時点でそんなの効くわけないのである。

 そんな感じで滑り出しは上々だが、今の第一陣に見えたミサイルは十数発程度。

 まだまだ序盤と言ったところだろう。

 こちらの予測を肯定するかのように、ミサイルの群れは次々と下から上がってくる。

 そんな奴等をモグラ叩きよろしく、情け容赦なく雷撃のシャワーで天使ごと塵に還ってもらっていると、護衛の天使たちの他に妙なものが混じるようになった。

 なんと言えばいいのか、それは赤黒い肉塊だった。

 人の顔だの目のない蛇の様な頭だの、はたまた女性の裸体だの。

 千変万化と絶える事無く姿を変えるその化け物の姿は、まさに醜悪の一言だ。

「ふあははははははっ!! 恐れ戦け! これこそが世界が穢れきった際に下界を地獄へ変える聖獣ケルビム───」

「どっかで見たと思ったら、アニメの『孔雀王2』じゃねーか!!」

「アッーーーーーーーーー!?」

 先頭を飛びながら器用に胸を張っていた天使は、雷撃と核の炎によって汚物ごとこの世から消滅した。

 まったく、どうりでデザインがマッドジョージなわけだ。

 つーか、そんな古いアニメのネタなんて誰も覚えてねーよ!

 その後もホーリー・ゴーストだのパタパタ(亀の天使と言い張っていたが)だのと、小ネタを挟みながら向かってくる天使とミサイルを迎撃すること数十回。

 ミサイルを放つ間隔が長くなってきたが、こちらもちょっとづつ息が上がり始めてきた。

 情けないと言う事無かれ。

 広域殲滅型は通常よりも氣と体力を食うのに、何十も連発しているうえに加減の程が分からなかった時は全力に近い形でぶっ放していたのだ。

 情けないとは思うが、バテもするというものだ。

 とはいえ、泣き言など口に出来るような場面じゃない。

 気合を入れなおして第何陣かも忘れたミサイルの群れを待ち構えていると、背後から何かが流れるような感覚がした。

 咄嗟に身を屈めながら蹴りを放つと、黒に染まった空間から紅い飛沫を上げながら天使が飛び出てくる。

 三対の翼に炎の剣を手にした男。

 放つ聖なる気配から、上級天使である事は間違いない。

「どうして分かった? 認識阻害のうえに真空の中であって気流で光を遮断し、音もまた完全に抑えていたはず……」

 剣を持ちながらも砕けた左腕を押さえる天使。

「その気流が漏れてるんだよ、未熟者が。どれだけ僅かでも、宇宙空間の中じゃ空気なんて目立つに決まってんだろ」

「言ってくれる……。だが、ここまでの接近を許した時点で、私の目的は達成しているのだ!」

「なに?」

 訝しむこちらに答えずに、奴は天元に向けて剣を掲げると声高らかに宣言を発した。

「四大天使が一人、ラファエルの名に於いて告げる! 天軍よ、在れ!!」 

 それに呼応するかのように宙域のいたるところを光が奔り、次々と天使たちが生み出されていく。

「見るがいい! これこそがラファエルが誇る天軍の一翼! 万を超える上級天使を相手にして裁きの炎を止められるか!!」 

 ラファエルの啖呵に合わせるように、四方八方から放たれる光の槍。

 なんとかそれを捌きながら、俺は予想外の事態に思わず舌打ちが漏らした。

 上級天使が出張ってくるとは思っていたが、まさかこういう手で来るとは。

 今回の作戦におけるむこうの勝利条件は、一発でも多く核ミサイルを地上に落とす事だ。

 ならば、単身迎撃を行っている俺やヴァーリに対しては、強敵をぶつけるよりもこうやって足止めをするほうが効果が高い。

 今の俺のタフネスならば、上級天使の攻撃など蚊が刺したほどにしか効かない。

 しかし技を放つ際に受けてしまっては、スーパーアーマーでもついていない限り放出系の技は中断されてしまう。

 特に広域殲滅技は通常のモノより調整がデリケートなのだ。

 効かなくても数で押し込めば、封じることも可能だろう。

 絶え間なく降り注ぐ十字砲火の中、視界の隅にはこれまでに無い規模のミサイル郡が上ってくるのが見えた。

 その数はおそらく数百に上る。

 背中に冷たいものが奔るのを感じながら無理やりに狂雷迅撃掌を放とうとするが、突如として吹き荒んだ暴風に煽られた事で、大きく体勢を崩されてしまう。

「主の裁きの邪魔はさせん! 無重力空間の中で風がどれ程の力を持つか、思い知るがいい!!」

 他の天使たちが煽られて揉みくちゃになるのもお構い無しに風を放ち続けるラファエル。

 舞空術の応用で流されるのを耐えていると、頭の中にあるゲージが溜まった事を教える音がした。

 これは、もしもの為に習得しておいたもう一つの広域殲滅技が使用できる事を意味する。

 しかし、俺はそれを使うのを躊躇した。

 何故なら、あの技はヤヴァイ。

 具体的に言うと、狂雷迅撃掌の数十倍は危険なのだ。 

 見た目もアウトだが、操作をミスれば俺でも死にかねないほどに凶悪。

 その代わりに出かかりに無敵時間もあるし、威力や範囲だって狂雷迅撃掌を上回る。

 使う事が出来れば天使も核も根こそぎ吹っ飛ばせるのは間違いない。 

 ガードを固めながら、俺は思考を巡らせる。

 代替になりそうな技を探してみるが、そもそも広域殲滅が不得手な俺は狂雷迅撃掌を封じられてはこれしか選択肢は無い。

 それにあのミサイル郡を逃せば駒王町が爆撃される恐れもあるのだから、迷うことは許されない。

「やるしかないか……ッ! レイジングストーム!!」

 肚を括った俺は、全力で右手を振り抜く事で吹き付けてくる暴風や光の槍を打ち払う。

 そして一瞬の隙を見逃さずに足元に両手を叩き付けた。

 本来ならば高圧縮された氣によって生み出された衝撃波が立ち昇るのだが、今回は違う。

 宙域全体に次々と小さな花火が打ちあがったのだ。

「なんだ、これは!?」

 辺り一面に咲く光の華に困惑の声を上げるラファエル。

 あの花火にはダメージが無いのだから、当然だろう。

 だが、これでいい。

 あの花火達はこれから放つ凶悪技の前触れなのだから。

「何のつもりかは知らんが大局は決した! 貴様の負けだ!!」

 勝ち誇るラファエルなど意にも介さず、俺は頭上に手を掲げた。

 そして───。

「来ぉぉぉぉぉいッッ! 羅将モン・インパクトォォォォォォォォッ!!」

 指が奏でた乾いた音を合図にして、背後から強大なナニカが現れるのを感じる。

 チラリと視線を向ければ、ギース・ハワードを模した巨大なロボットが地球を下に仁王立ちしているのが見える。

 もっとも、顔が下膨れのマヌケツラだったり、体が寸胴だったりと本物が見たらガチギレしそうなデザインだが。

「なっ!? なんだ、アレは!?」

 突然現れた巨大ロボットに騒然となるラファエルを初めとした天使たち。

 だが、問題はそこでは無い。

 ロボットの名前で分かると思うが、この技はMUGEN屈指のネタキャラである羅将モンからパクッたものだ。

 そして、オリジナルではあのブッサイクなロボットにはクォブレ……ゲフンゲフン。

 息子であるロック・ハワードが乗っていた。

 ならば、俺が呼び出した場合は……

『うぇぇぇぇ!? なにこれぇぇぇぇぇ!!』

『え……これって何かの操縦席なのかしら?』 

 シメた、この声は朱乃姉と美朱だ!

 身内が召喚されるというルールだった場合、最悪赤ちゃん2人組みが呼び出される可能性があったからな。

 会心の笑みを浮かべながら、俺は素早く携帯で美朱へと電話を掛ける。

「美朱、操縦席にある『羅』って書かれたボタンを押せ!」

『えっ、慎兄!? なにがいったいどうなってるのさ!』

「何時も通りの『無限の闘争』関連だよ! とにかく、ボタンを押してくれ!!」

『わかった、わかったよ! それじゃ、デッドエンドシュート!!』

「ちょっ!? なんでその台詞!!」

『言わなきゃならないと私のゴーストが囁いた!!』

 ブツリと美朱との交信が途絶え、次の瞬間には羅将モン・インパクトはゆっくりと両手を胸元に上げていく。

「ラファエル様、我々はどうすれば……!?」

「うろたえるな! あのような不細工なデカブツに何が出来る!?」

 混乱を見せる天使たちとそれを統制しようとするラファエル。

 そうしている間にも羅将モン・インパクトのドラえもんさながらの丸い手が、奴の胸元に寄せられていく。

 見れば、核ミサイルの群れもまたこの宙域に次々と侵入を果たしていた。

 クライマックスは目の前のようだ。

 俺は全神経を羅将モン・インパクトに集中させながら、右の人差し指と中指を額に当てる。

 勝負は一瞬。

 ゲージがマックスである以上、八割の確率で躱すことが出来るはずだ。

 もっとも、残り二割に針が止まればあの世逝きだが。

「ラファエル様!?」

「クッ!? あのデカブツを破壊せよ!!」

 無機物でありながらも体から漲る殺気に気圧されたのか、部下に促される形でラファエル達は羅将モン・インパクトに光の槍を向ける。

 ───だが、もう遅い。

 

『羅』

 

 胸元に添えられた両拳の中心に紅い文字が浮かび上がると、奴を中心におぞましいばかりのエネルギーが膨張し、絶対的な破壊の波が周囲を蹂躙する。

「──────」

 言葉を発する暇も無く、光の中に姿を消すラファエルと数多の天使たち。

 そして核ミサイルも誘爆すらする事無く、そのエネルギーの奔流に飲み込まれていく。

 白い死神の御手がこちらを掴もうとする寸前、俺は瞬間移動によって効果範囲外。

 具体的に言うとヴァーリの傍へと転移していた。

 いきなり現れた所為で、黒龍波をブチ込まれそうになったが不幸な事故だといえよう。

「いきなりどうしたんだ、慎」

「いや、ヤヴァイ技を使ったんでな。巻き添えを食う前に逃げてきたんだ」

「お前がそこまで危険視するとは、ブロリーの技でもパクッたか?」

「俺が氣弾を飛ばせない事を知ってのセリフか、それは。もっとエゲツない技だよ。ところで、お前の方はどうだった?」

「問題ない、一発も通していないからな。途中で天使が邪魔をしてきたが、邪王炎殺剣で消し去ってやった」

 そう言いながら得意げに胸を張るヴァーリ。

 なるほど、見れば周囲にはミサイルの残骸や焼け焦げたり、両断された白い羽根がデブリのように散乱している。

 因みにこいつの言う炎殺剣とは、山羊座の黄金聖闘士からパクッた手刀に魔界の炎を宿して斬るという、天使如きではどう考えてもオーバーキルな技だ。 

「たしかに、上手くやったみたいだな。お疲れさん」 

「何処へ行くんだ?」

「持ち場に戻る。そろそろ余波も消えてる頃だし、最終点検もせねばならん。ここまでやって『見落としました』はシャレにならんだろ」

「そうだな」

「とりあえず、こっちの点検が終ったら合流するから、お前ももう一度確認しとけよ」

 それだけ伝えると、俺はもう一度持ち場に向かって加速する。

 こちらが持ち場である北半球に着いた時には、役目を終えた羅将モン・インパクトはその姿を消す寸前だった。

 確認の為に美朱に電話したところ、無事自室に帰り着いたらしい。

 朱乃姉も問題ないとのことなので、ホッと胸を撫で下ろす事が出来た。

 本来ならこういった事も事前に確認しないといかんのだが、あの技って二割の可能性で巻き込まれて死んでしまうので、おいそれ使う事が出来なかったのだ。

 姉妹の安否確認も問題なかったところで、改めて周辺宙域を確認したところ、天使の気配はもちろん無し。

 それどころか、山と有ったミサイルのデブリまで綺麗さっぱり消滅していた。

 どうやらあの光はジョーク抜きで何もかもを消し去ったらしい。

 流石はラショウ攻撃、メイオウ攻撃に勝るとも劣らない威力である。

 そのあとも一時間ほど宙域で待機していたが、あれ以降ミサイルが来る事はなかった。

 迎撃作戦は上手くいったようだ。

 終ったと思った途端に疲れがドッと押し寄せてきたが、我が事ながら無理もないと思う。

 事後処理やら置いてきた玉藻やディルムッドへの釈明やらと問題は山積しているが、まずは羅将モン・インパクトは永久封印しようと思う。

 あれで死ぬとか、マジに勘弁である。

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