彼女、篠ノ之束は道化である。

大切な人を守るためなら、どんな悪をも背負う覚悟があり、どんな外道にでも成り下がる覚悟がある。

全ての始まりはあの日の夜。絶望を知ったあの日から、彼女は奔走し続ける。



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篠ノ乃束は奔走する

私が『アレ』を知覚した…いや、知覚してしまった?否。知覚することができたのは、何時だっただろうか?

 

もう随分と前の事の様に思う。そう思ってしまうほどに、私は必死だったということだろう。

 

 

 

妹の箒が小学校に入学する前だったか。ある日私は、実家の神社の縁側にて一人、寝そべって(そら)を見上げていた。満天の星々が彩る夜空を見上げていると、嫌な事を全部忘れられるからだ。

 

その日の私は少しばかり機嫌が悪く、箒の事をぞんざいに扱って泣かせてしまった。そしてその事で両親に叱られ、逃げ出したのだ。

今にして思えば、悪いのは全面的に私だと分かるが、何分当時の私は中学生。いくら大人顔負けの天才とはいえ、思春期真っ盛りである。両親への反発も起きるというもの。端的に言えば、反抗期だったのだ。

 

夜空見ていると、ふと視界の端に何かが映った。よく見てみれば、それは彗星の様だった。

私は不審に思った。何故ならばこの時期にこの国で彗星が見れる筈がないのだから。もっとよく見てみようと上体を起こしたその時。

 

「…ぅ…ぐぅ……!」

 

突如、私の頭を頭痛が襲った。頭痛が起こっていた数分の間は、私には数時間の様に感じられた。

そして頭の中に、私の知らない情報が流れ込んできたのだ。

 

外宇宙の敵

 

人類の可能性

 

■■■■■

 

&#♯§*■#〒@‡〒#

 

■‡〒&○※◆○▲〒◆○

 

訳の分からない知識で、頭がパンクしそうだった。

 

 

そしてその可笑しな知識で私は理解した。このままでは、いずれ人類は滅ぶと。自業自得による自滅ではない。外部からの干渉により、極めて物理的に滅ぶのだ。

 

それを理解した私は、これ以上ないほどの全能感に満たされた。普通の人間なら絶望して終わる所だろうが、なまじ天才であった私は、こう思ってしまったのだ。

 

『私だけが世界を救える』と。

 

恐らく世界でこれを知っているのは私だけ。私だけが知る真実。元からあった天才故の他者への見下しが、更に強まった。分かりやすく言うと、厨二病を患ったのだ。

 

私は夜空を見上げなから奇声を上げて嗤った。あまりの可笑しさに、嗤わずにはいられなかったのだ。

 

このままでは私は厨二病街道を突っ走っていた事だろう。しかしそんな私を止める者が居た。

 

「お姉ちゃん……ごめんなさい」

 

妹の箒がやって来て、私に謝ったのだ。

 

一瞬なんの事だか分からなかったが、私の頭は直ぐに答えを導きだした。

 

 

 

ああ、そうか。この子は、私が叱られたのは、自分のせいだと思っているのだ。

 

 

 

なんて健気な子なのだろう。それに比べて、今の私のなんと滑稽な事なのだろう。

私は己の悦楽に身を委ねて、大切な家族を蔑ろにする所だった。

 

私は急に恥ずかしくなり、箒を抱き締めて何度も謝った。ごめん、ごめん、ごめん、と。

箒は理解できていなかっただろう。自分が悪い事をしたと思っているのに、姉に謝られているのだから。

私は暫くの間、両親が心配して様子を見に来るまで箒を抱き締め続けた。そうじゃないと、申し訳なさにまみれた泣き顔を見られてしまいそうだったからだ。

 

 

それからの私は、今まで以上に他者との関わりを避けるようになった。私が背負う業に、他者を巻き込みたくはなかったからだ。別に赤の他人がどうなろうと知った事ではないが、それが巡り巡って家族への災いにならないためだ。

 

そんな私に、しつこく構う者が居た。名前は織斑千冬。私の同級生で、小学生からの付き合いだ。彼女は他人を尽く無視する私が気に入らなかったらしく、力尽くで他者と交流させようとした。

それ以来彼女の事を妙に気に入った私は、常に同じ学校の同じクラスになるように画策した。

 

千冬は、私とはまた違った天才だった。私は云わば、万能の天才。武と知、両方に優れている。

しかし千冬の才能は武のみ。全ての才が武に集中されているが故に、その一点では私ですら勝てない。

 

 

彼女には弟と妹が居るのだが、両親はいない。つい最近に捨てられたのだ。しかし私は疑問に思う。私は千冬の両親とは何度か顔を合わせた事があるが、とてもではないが自分の子を捨てるような人には思えなかったからだ。それに二人は残して妹だけを連れて行ったのも疑問だ。

 

そこで私は一つの推論を立てた。もしかしたら織斑夫妻は、私と同じくあの彗星を見たのかもしれない。

後日ニュースで確認したが、どこもあの彗星については触れていなかった。それどころかネットでも話題にすら上がっていないのだ。

 

つまりあの彗星は、特定の個人にしか認識できないのではないか?という結論に至った。

 

もし織斑夫妻が私と同じく破滅の未来を知ったのならば、これからの行動に子供達を巻き込まない為、何も告げず去った事にも納得がいく。この世界のどこかで、二人も世界を救おうとしている人が居る。それだけでも、私の心は救わた。

 

しかしながら私は、この事を千冬に伝えるつもりは無い。私の考えはあくまで推論であり、本当に千冬達を捨てた可能性も、否定しきれないのだから。それに妹のマドカだけを連れて行ったことの疑問は解決していない。

 

 

両親に捨てられた事で、千冬の心は相当(すさ)んでいた。正直言って、私が居なければそのまま裏社会に入ってしまいそうな勢いだった。

 

幸いにして家は残っていたし、銀行の口座にも暫くは暮らせるだけの額が残っていた上、近所の人々の助けもあってか生活する分には支障は無かった。

 

暫くして、千冬は弟の一夏君を実家がやっている剣術道場に連れてくるようになった。千冬は前々から家で剣の修行を受けていたが、一夏君が小学校に入学したのを機に、武術を習わせておきたいらしい。

 

一夏君の武の才能は高く、小学校に入る前から剣を習っていた箒を直ぐに追い抜いてしまった。千冬程ではないが、これは異常な速さである。私達と比べれば劣るものの、この子もまた、天才なのだろう。

 

 

 

高校二年生の時、あの日から開発をしていた物がついに完成した。名はインフィニット・ストラトス。と言っても、これで世界が救える訳ではない。

ISはあくまで宇宙開発を促進させる為のもの。宇宙開発による技術進歩と、それよる『アレ』への対抗兵器の開発。そのために造った作業用パードスーツだ。

 

しかし開発に時間を取られ過ぎた。本来の計画では高校に入学した頃には既に完成し、どこぞの科学者にでも手柄を譲る条件で学会に公表する予定だったというのに。

やはり万が一のためのサブプランへ力を入れ過ぎたようだ。

 

メインプランでは、ISを純粋な作業用パードスーツとして浸透させ、宇宙開発を進めるつもりだった。しかし今は時間が無い。私自身の判断ミスと云うことは重々承知の上で、サブプランを進める事にする。

 

サブプランは幾つかあるが、どれもメインプランと比べて危険が多い。しかも確実性の高いプランほど、危険性も高まる。だが選り好みしている時間は無い。もう私は、取り返しのつかない地点まで来ているのだから。

 

だが、それでも、私は決心がつかなかった。どれだけ覚悟を決めても、最善のプランでは必ず家族に被害が出る。その事だけが、私に決心をつかせなかった。

私が悩んでいる時、両親が来て言った。

 

「お前が一番、悔いの無いと思う選択を選びなさい。私達への迷惑は考えなくて良い。迷惑をかけあうのが、家族だからだ」

 

両親は気付いていたのだ。私が何か危険な事をしようとしていると。世界の、家族のために悪事を成そうとしていることを。

 

 

 

私は決めた。両親と妹(家族)を、千冬と一夏君(親友とその身内)を守るために、世界最低最悪の道化になることを。

 

 

 

まず手始めに、私は世界中の軍事コンピューターにハッキングし、ミサイルを日本に向けて発射させた。そして千冬をISに乗せ、それを撃墜させたのだ。親友を利用するのは心が痛んだが、仕方がないと割りきった。

それでも安全の為に、今の私が用意できる限りの物を用意した。音速以上で飛行できる速度。ミサイルの直撃でも傷一つ付かない防御力。大量のミサイルを落とせる攻撃力。最高の機体で千冬を送りだした。

 

そして後に白騎士事件と呼ばれるこの事件を機に、ISが全世界に急速に浸透していく事になる。私の想定通り、私の望んだ形とは違う形で。作業用パワードスーツではなく、戦闘用パワードスーツとして。

 

私はISの開発者として名乗り出る。すると政府は莫大な資金と引き換えに、ISの核となるパーツ、インフィニット・ストラトス・コア。通称ISコアの作成を依頼してきた。

私はこの依頼を受ける事にしたが、一つの懸念がある。それは箒だ。

私がコアの作成をしている間は、当然ながら政府は私を監視をするだろう。そして私の家族を保護という名目で捕らえるのは明白だ。安全のために所定の場所に留まり続ける事が無い以上、どうしても移動を繰り返す事になる。幼い箒にはかなり辛いだろう。

 

非常に申し訳なく思うが、それでも私は止まれない。最後に会った時に「姉さんなんて大嫌いだ!!」と言われた時には本気で心が折れかけたが、それでも立ち止まる訳にはいかない。

 

私がコアを作成している間に、モンド・グロッソなる大会が開かれた。アラスカ条約というISの運用に関する条約に参加している国々が集い、自国の開発したISを競わせて技術自慢をする大会だ。

技術自慢をするのは結構だが、私はこの大会に違和感を覚えた。何故ならISが出来てからそう年月が経っていないにも関わらず開かれたのだ。何らかの作意を感じるのは仕方がないだろう。

更に第二回大会の、千冬が出場する決勝戦直前に一夏君が誘拐された。散々一夏君に護衛を付けるよう進言したのに、日本政府は無視をしたようだ。いや、もしかしたらドイツ政府が日本の護衛が付くのを嫌がったのかもしれない。

一夏君救出にはドイツ軍が関わっていると聞く。ならば私の様にマッチポンプを狙っていたとしても、おかしくはない。本当に腹の立つ連中だ。

 

 

政府の依頼を受けてから数年後。私は総数467のコアを作成し、政府の監視下から脱走した。コアばかりを作り続けても、私のプランは達成できない。

密かに造ったステルス空中戦艦で各地を転々とし、秘密基地を作り上げる。オートマトンを大量生産して運用し、なるべく短期で居場所を変えていく。

 

秘密基地の作成途中に一人の少女を拾った。ドイツの遺伝子強化試験体として産み出されたが、失敗作として棄てられたらしい。名前が無かったようなので、クロエと名付けた。どこかの施設にでも押し付けようと思ったが、どうやらなつかれたようなので、気紛れに面倒を見ることにする。

 

 

準備が整った後、様々な研究開発を平行して始めた。

 

手始めにIS最大の欠陥たる、女性しか乗れないという点だ。これの原因は分かっている。

全てのコアには最高のパフォーマンスを発揮するために高度な人工知能が搭載されており、かなり薄いものの人格も宿っている。その人格に問題があり、一人残らず女性しかいないのだ。

これには私の責任もある。コアの人格は私をベースとしていて(私そのものではなく、あくまで人格形成の基礎)私が女性であるが故に男性の人格が作られなかったのだ。更に人格は搭乗者のデータや、コア同士による情報交換によって本格的に形成されるので、どう足掻いても男性人格が出来ないのだ。

女性であるコア達は、未知の存在である男性を恐怖する。それ故男性が乗るのを拒むのだ。

 

たった一つで良い。男性人格のコアが出来れば、コア同士の情報交換により未知が既知へと変わり、男でもISが使えるようになる。

 

 

その後の研究で驚くべき事が発覚した。一夏君がISを起動できるということだ。ありえない。一夏君は男だ、ISを動かせる訳がない。私はそう思った。だが現に、一夏君はISを動かせると研究結果が出た。

 

ここで私はプランの変更を決断した。

たとえ千冬や一夏君に嫌われても良い。私は一夏君を利用してコア達に男性というものを馴染ませ、早期にISを誰にでも使える道具にしなければならない。

 

私は一夏君をIS学園の試験会場に誘導し、意図的にISに触れされた。これで一夏君は世界唯一の男性IS操縦者として、IS学園に入る事になった。一夏君のサポートの為に、これから忙しくなる。『アレ』対策の研究も、ペースを落とす必要がある。

 

一夏君へのサポートとして最初に行ったのは、彼の専用機を製作する事だ。倉持技研という所が一夏君の機体を製作予定だったので、欠陥品として放置されていた白式という機体を回収。改造及び完成させて倉持へ送った。

一夏君の機体には単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)一次移行(ファースト・シフト)で発現するプログラムが組み込まていたが、未完成のようだったので私が完成させておいた。それと一夏君の男性データを収集するプログラムを合わせたら拡張領域(パッケージ)の容量が剣一本分しか残らなかったが、これはもう仕方がない事として諦めた。

 

白式納入後、私は一夏君を利用しようとしている連中に関する情報を調べ上げ、日本の暗部組織(更識と言ったか?)に送りつけた。これで少しは一夏君への警護も強まるだろうし、私の労力も減るだろうというもの。

一夏君のサポート用の時間の中で、空いた時間を箒の身を守る為のIS作りに当てる。作業用として作ったISを、私自身が戦闘用として作るのは、何とも言えない滑稽さだった。

 

 

 

一夏君がクラスの代表者として、学園で行われるリーグマッチに出場する事になった。

丁度良い機会だ、私の作った無人兵器を乱入させ、ISを兵器として扱う事の危うさや、そこに居る者達へのメッセージを伝えたい。

 

一夏君には、ISを使えば簡単に人を殺せてしまうのだという注意を。

千冬には、学園が必ずしも安全とは限らないという警告を。

リーグマッチを見に来た各国の御偉方には、ISを兵器として使う事の欠陥を。

 

それぞれ実感して貰いたい。

 

 

無人兵器には試合が行われるアリーナのシールドを破れる高火力レーザー砲を搭載し、ISの様にシールドバリアの機構を取り付ける。更にダメージを受けて損傷すると、出血の様な現象を起こす機能も付けた。

 

ISは無敵の兵器ではない。高火力の一撃なら、シールドバリアなど貫通して搭乗者を殺せるのだから。絶対防御などと呼ばれる機構もあるが、あれはただISの全エネルギーを集約して展開されるシールドバリアだ。『絶対防御』なんて御大層な物ではない。

それにシールドバリアはあくまで外部からの衝撃を受け止めるだけなので、ガス等の大気汚染は防げない。狭所で致死ガスでも撒かれれば、その時点で御陀仏だ。

 

挟所でなくとも、ミサイルにシールドバリアでも搭載してぶつけてやれば良い。そうすれば途中で撃墜され難い、ISによく効くミサイルの完成だ。

そもそもシールドバリアはISでなければ張れない訳ではない。現にアリーナの障壁として使われている。それをミサイルに搭載できる程度に小型化すれば良いだけの事だ。

もっと言えば、私がその気になればシールドバリアの発生を阻害する装置くらいは作れるという点だ。作業時の安全確保の為のシステムを無効化するなど、本末転倒だから作る気はないが。

 

いっそのこと、これらの情報を世界中に私が直々にばら撒いて、IS不敗神話とやらを壊すのも良いかもしれない。そうすればISより強力な兵器の開発に乗り出してくれる可能性もある。だがそれには相応のリスクが伴う。慎重に動こう。

 

 

 

トーナメント当日。第一試合として行われた一夏君と中国代表候補生の試合の最中に、私は無人兵器を乱入させる。それと同時にアリーナのシールドを最大出力に変更し、出入口をロックして出られないようにした。無論御偉方もだ。

無人兵器を相手に一夏君達二人はよく戦う。中国の機体に搭載されている龍咆という機構。あれは空間に圧力をかけて衝撃波を弾として撃ち出しているようだが、あれでは無人兵器を壊すには至らない。しかし龍咆をわざと受け、そのエネルギーを瞬時加速(イグニッション・ブースト)に使う奇策によって、無人兵器は一夏君に斬り裂かれた。しかし一夏君にとって想定外だったのは、無人兵器だと思って斬った機体から、大量の血飛沫が出たことか。

 

血飛沫を見た瞬間、一夏君は動きを止めた。人を守る為に力を求める彼が、人を殺めかけたと思ったからだ。

その後介入してきた教師陣により無人兵器は破壊されたが、少なくない被害をもたらした。勿論のこと、死傷者は出していないが。

これで一夏君も、ISの危うさに気付いてくれただろうか?一歩間違えば簡単に人を殺せるという事実に。

 

 

 

箒や一夏君の居るクラスに、二人の転校生が入った。それぞれドイツとフランスの代表候補生だ。はっきり言ってしまえば、私はコイツらの事をあまり好んではいない。

ドイツは千冬を軍に引き戻そうと、フランスは一夏君の機体データを盗もうとしている意図が見てとれるからだ。

特にドイツは、一夏君が千冬の弟であるのが気に入らないとかいう理由で、一夏君を殴ったのだ。今度このネタで政府に揺すりでもかけてやろうか。

 

フランスは女子を男子と偽って入学させたらしい。結構な事だが、あんなのでIS学園を、千冬を騙せると思っていたのだろうか?そうなのだとしたら指示を出した奴が相当の馬鹿か、彼女が単なる捨て駒かの二択だろう。

 

その後暫くして、学年別タッグトーナメントなる物が行われた。これは文字通りタッグによるトーナメントだが、そこで妹の箒があのドイツの候補生とタッグになってしまった。しかも対戦相手は一夏君とフランスの候補生だ。

箒がドイツの候補生と組んだのは、互いにペアの相手が居なかったためで、箒の交友関係の狭さに少しばかりショックを受けた。だがその原因は各地を転々とさせてしまった自分にあるのだと思うと、物凄くいたたまれない気持ちになった。

 

ドイツの候補生の戦い方はまるでなってなかった。自分の力に慢心して相手を見下し、ペアである箒をぞんざいに扱い、あまつさえ邪魔扱いだ。本当にコイツは軍人なのかと、疑問に思う。

なまじ実力があるだけに二対一でも戦えていたが、二人のコンビネーションに圧倒され、零落白夜の直撃により敗北……するかに思えた。

ヴァルキリー・トレース・システム。通称VTシステム。モンド・グロッソの優勝者の動きをそのままコピーし、搭乗者のスペックを無視して無理矢理に再現するシステム。

私は本気でこのシステムが気に食わない。技術というのはただ模倣すれば良いのではない、自己流に昇華してこそ意味があるのだから。他人の猿真似だけで満足し、前に進もうとしない愚か者が作った不細工なシロモノ。

今起こっているVTシステムの対処は千冬に任せ、私はあれを研究している施設を探し出す。

 

 

 

私をここまで不機嫌にさせたんだ。ただで済むと思うなよ、ドイツ。

 

 

 

VTシステムによる暴走ISが鎮圧された頃には、研究施設の破壊は完了した。無論の事、研究者も残らず始末した。あんな物を研究しているような連中を残しておいても、邪魔でウザったいだけだ。更にドイツの開発力が落ちない程度に、VTシステムの研究に関わった連中の汚職情報を、私がやったと分かるようにバラしておいた。これは私からの警告だ。二度とあんな物を作らせないための、作れば容赦はしないという意味で。

 

タッグトーナメント終了後、電話で箒にISが欲しいと強請られた。

ついにこの日が来てしまったか。そう思った。元々箒の為にISは開発していたが、やはり今の精神状態の箒に渡すのは気が引ける。今の箒は、ISが人を殺せる道具なのだという事を忘れてしまっている。私はISを持つ事の意味や危険性を説いたが、説得ができずに怒らせてしまった。終いには私のせいで政府に保護(監禁)されたことを引き合いに出され、了承してしまう。やはりあの事を引き合いに出されると、どうしても強く出れなくなってしまう。世界最高の頭脳と呼ばれていても、所詮は妹に嫌われたくないだけの姉なのだと痛感させられる。嫌われてでもやらなくてはいけないというのは、頭では理解できている。だが、感情が納得するかは別なのだから。

 

丁度来月に臨海学校がある。渡すタイミングはそこで良いだろう。箒に力を持つ事の危険性を伝えると同時に、臨海学校を狙って来るであろう他国の組織、テロリストにも警戒をしておこう。万が一があってはならないのだから。

 

 

 

臨海学校の二日目。(初日は自由時間だった)箒にISを渡す時がやってきた。私は普段の私に仮面を被せる。私がまるで考え無しの馬鹿のように、体も頭脳も大人だが、心は小学生のように。普段は着ないフリフリのエプロンドレスを着て、うさ耳のカチューシャを付ける。これでどこからどう見ても狂人の出来上がりだ。

これだけでは千冬には見抜かれてしまうかもしれないが、千冬に人を見抜く技術があるように、私にも人を騙す技術がある。何かしら企んでいる事は看破されてしまうかもしれないが、私の真意には気付かないだろう。

 

そして私は不安と緊張を押し殺して、大声を上げながら千冬に向かって走り出す。

 

「ちーーちゃーーーーん!!」

 

その声でこちらに気付いた者達は(千冬は最初から私の存在に気付いてた)何事かとこちらを一斉に見る。全ての視線を無視して、私は犬の様に千冬に抱き着こうとした。しかしアイアンクローで見事に止められてしまい、空中で私は宙ぶらりんになる。

今の動きを見て思ったことは、千冬への称賛ではなく、やはり千冬は相当鈍っているらしいという確信だった。前々から思っていた事だが、現役から離れて久しい千冬は、僅かだが動きが鈍っている。それは生で見て改めて確信した。

 

まぁ、それはそれとして痛いのだが。

 

私は即座に千冬の魔手から逃げ出し、箒と向かい合った。

 

「久しぶりだね箒ちゃん。大きくなったねぇ……特におっぱぃっ!?」

 

下ネタを言った瞬間に殴られた。段々と妹から私への容赦が無くなってきている気がする。それも現在進行形で。

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言った~!しかも木刀でー!」

 

本当は大した痛みは無いが、今の私は道化。騙す演技に徹する。

 

「あの…織斑先生、そちらの方は……?」

 

「ああそうだったな。おい束、挨拶くらいしろ」

 

「えーめんどくさいなー。ハロー私が天才の束さんだよー、終わり」

 

「まったく…もう少しマシな挨拶はできんのか。まぁいい、ほら一年!手が止まっているぞ!早く自分の作業を始めろ!」

 

失礼な。まともな挨拶くらい私はできるよ。ただ人前では意図的にしていないだけで。

 

「それで姉さん、私が頼んだ物は……?」

 

「ふっふっふ。それは既に準備済みだよ!さあ、大空をご覧あれ!」

 

私が空を指差すと、その場の全員が指先の延長を見つめる。空からは大型のIS運搬用コンテナが降って来ており、大量の砂塵を巻き上げながら砂浜に着地した。IS入りのこのコンテナは、此処の上空に待機させている大型ステルス空中艦から投下した物だ。コンテナの正面が開き、そこから一機の紅いISが出て来る。

 

「じゃんじゃじゃーん!これが箒ちゃん専用ISこと、『紅椿(あかつばき)』だよー!全スペックが現行のIS全てを上回る特別製なのだー!しかもしかも、世界で唯一の第四世代ISという最新技術の塊でぇす!」

 

第四世代IS。その言葉を聞いた者は皆、一同に唖然としている。それもそうだろう、何故なら今各国が必死になって作っているISは第三世代機。一世代の差は大きい。

それと先程私は最新技術の塊と言ったが、あれは真実でもあり嘘でもある。ISに使う技術としては最新という意味だからだ。

本当の意味で最新技術の塊ならば、ISなど玩具に等しい。

 

「た・ば・ね~~~!!」

 

あ、これは不味い。この怒り方は本気の奴だ。その証拠に一瞬で私の背後を取った千冬は、両の握り拳で頭を挟み、グリグリとやってきた。

 

「お前という奴は~~!!」

 

「みぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

これは痛いマジで無理本気で不味い!は、早く脱出しないと!

 

「あれほど世界を掻き回す様な物を作るなと言ったのにお前は~~!!」

 

「いだだだだだだ!!分かった!分かったから止めてよちーちゃぁぁん!」

 

数分にも及ぶ必死の説得により、なんとか解放された私。鈍っていてもコレとは、相変わらず化け物染みている親友だ。

 

「さ、箒ちゃん。早いとこフィッティングとパーソナライズを終わらせちゃおっか!」

 

「……それでは、お願いします」

 

「も~堅いな~。実の姉妹なんだから、もっと軽くて良いんだよー」

 

「早く、始めましょう」

 

私の態度とは逆に、箒のそれ素っ気ない物だった。やはり、内心私を恨んでいるのだろう。実の姉とも認めたくないのかもしれない。

それでもね、箒。貴女は私の大事な妹なんだよ。たとえ箒が拒絶し続けようとも、私は箒を愛するよ。たった一人の大切な妹なんだから。

 

予め箒のデータを紅椿にインプットしておいたから、箒の体に馴染ませるのに時間はかからない。細かい調整をしていると、周りの連中が箒の陰口を叩き始めた。

 

「篠ノ之さん、身内ってだけで専用機が貰えるの?」

 

「何かズルいよねぇ」

 

「おやおや、歴史の勉強をしてこなかったみたいだね。有史以来、何時の時代だって平等だった事は無いよ。それにコネを使うのは悪い事じゃない。人脈もまた力だ。自分の持つ力を使うことの何がズルいんだい?ああ、もしかして箒ちゃんが束さんの妹だからズルいと?だとしたら随分とお門違いな事を言うね。君らだって紛争地帯出身の人間からしてみれば、ただ親が平和な国の出身だというだけで安全な衣食住を保証されてるんだ、十二分にズルいだろう?それを棚に上げて嫉妬するのは、ただの僻みだよ」

 

私が捲し立てる様に言うと、陰口を言っていた者達は顔を真っ赤にして俯き、気まずげに黙った。

喋りながらも調整を続けていたので、紅椿の調整は大体完了した。

 

「はい終了!後は放って置いても終わるから。さ、次はいっくんだよー!」

 

「え?俺?」

 

「そう。何を隠そう、いっくんのISを作ったのは、この束さんなのだー!」

 

「ええ!?そうなんですか!?」

 

「そうなのだー。さ、見せて見せて」

 

一夏君が白式を展開し、私はデータの解析と機体調整を平行して行う。白式で収集したデータと、人間でいう遺伝子に当たるフラグメントマップを解析した所、今まで見たことがないデータが出てきた。一夏君はそれだけ特別という事か。

 

「束さん。ちょっと訊きたかったんですけど、どうして男の俺がISを動かせるんですか?」

 

「ん~そればっかりは私でも分からないなぁ。ナノ単位まで分解すれば分かるかもしれないけど、それするといっくんが死んじゃうし。いっくんだって死にたくはないでしょ?」

 

「当たり前ですよ……」

 

「だよね~。それにいっくんのデータのお陰で、長くても半年以内には男も普通にISが使えるようになるし」

 

「「「……は?」」」

 

「…待て、束。お前今男にも使えるようになると言ったか?」

 

「言ったよー。いやー、いっくんのデータには大助かりだよ。男がISを動かせない理由は分かってたけど、問題解決には束さんでも一年は掛かるのを覚悟してたからねぇ」

 

「束……どうしてそれを公表しなかった?」

 

「しようとしたよー?でも今の情勢で得をしてる連中が躍起になって止めようとするからさぁー、どうせなら男が使える様になってから証拠をバラ撒いてやろうかと思って」

 

権力に固執した権力者というのは面倒極まりない。特に、不正をせずにその地位に留まり続ける、頭の良い馬鹿は排除しにくくて大変だ。

 

「……こちらはまだ終わらないのですか?」

 

「おっとっと、そうだったぜぃ。もう終わったよー」

 

調整の終わった紅椿の試運転のため、空を飛んでみる事を推奨する。紅椿は高速で空へと飛翔し、一瞬で肉眼での視認が困難になる。

続いて紅椿の武装テストを始めた。私は無邪気に笑いながら、紅椿の武器の詳細を自慢気に語り始める。

点のレーザーを撃つ『天月』と、線のレーザーを放つ『空裂』。この二つの刀を主武装とした全距離対応型の機体。それが紅椿だ。

 

『行ける……!私とこの紅椿なら!』

 

違う、違うんだよ箒。紅椿は確かに高性能だ。だけど高性能な機体というのは、その分扱いが難しい。今の箒は機体に振り回されていて、それを箒自身は扱いこなせていると勘違いしているんだよ?

箒をそんな風にしてしまったのは私の責任だからね、例え恨まれようとも、必ず正してみせるよ。

 

「織斑先生ーー!!」

 

「山田先生、どうしました?」

 

「はぁ…はぁ…こ、これを!」

 

IS学園の教師がこちらに必死の形相で千冬に走りよってくる。そいつが持っていた小型端末を受け取って目を通した千冬は、表情を険しくする。

 

「……これはっ……全員注目!!現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は全て中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内で待機すること。以上だ!」

 

「え………?」

 

「ちゅ、中止!?なんで?特殊任務行動って…」

 

「状況が全然わかんないんだけど…」

 

「とっとと戻れ!以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!!」

 

「「「は、はいっ!!」」」

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! ……それと、篠ノ之も来い」

 

「はい!」

 

少し迷った千冬に呼ばれ、箒は喜色満面の笑顔で返事をする。私は旅館に戻っていく彼等達を偽りの笑顔で見送りながら、箒の危うい精神を案じていた。

 

 

 

旅館で行われているブリーフィング。内容はアメリカとイスラエルの共同開発である第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走し、監視空域を離脱。そのまま飛行を続け、ここから二キロ先の空域を通過すると予測されている。自衛隊も両国の軍も動いてはいるが、間に合わないためにこの場に居る専用機持ちが対処する事になったというもの。

 

一つ、この件には誤りがある。福音は暴走しているのではない。私が創造主としての権限で福音に命じ、従わなければ搭乗者の命は無いと脅す事で、意図的にこちらに向かわせたのだ。全ては箒の慢心を正す為に。

 

作戦はイギリスの候補生が一夏君を福音の通る地点へ運び、一夏君がISへの一撃必殺である零落白夜で倒す。という事で纏まりそうだった。

さてと、もう一度仮面を被り直して、行くとしようか。

 

「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁ!!」

 

「……またか束。今は作戦行動中だ、部外者はとっとと去れ」

「ちょっと待って聞いてよちーちゃん!ここは断・然!紅椿のが適任なんだよ!」

 

「何?」

 

ここで敢えて箒ではなく紅椿と言った意図に気付いた者は、恐らく居ないだろう。平時なら千冬は気付いただろうが、今は一夏君が死ぬかもしれないと少し焦っている。

 

「第四世代機である紅椿には、当然ながら第三世代なんかよりも強力な装備があるのさ!その名も、展・開・装・甲~!」

 

私は千冬と箒と一夏君と序で他の者にも、空間投影型ディスプレイを使って、展開装甲が如何なる物なのかを説明していく。

千冬は始め呆れて物も言えない状態だったが、直ぐに真面目な顔になって状況判断を始めた。

 

「良いだろう。一夏を現場まで送る役目は、篠ノ之に任せる」

 

「織斑先生!?」

 

イギリスの候補生が自分がやると駄々をこねたが、パッケージの量子変換(インストール)を済ませていない事を指摘されて押し黙った。

 

 

 

十分後。箒と一夏君の共同作戦が開始される。箒は浮かれた様子で一夏君を現場へ運んだが、そこまでは順調だった。福音へのファーストアタックは、福音が直前で攻撃を回避したことで失敗。続けて第二撃に移ろうとしたタイミングで、想定外の事態が起こる。作戦領域内に密漁船が侵入していたからだ。

一夏君は密漁船を庇って福音撃墜のチャンスを失い、箒は密漁船を見捨てようとした事を一夏君に窘められ、戦意が喪失しかけた所を福音に攻撃される。そしてそれを一夏君が庇った事で重傷を負ってしまう。箒は気を失った一夏君を担ぎ、泣きながら福音から撤退した。福音が撤退する箒を見逃したのは、一夏君に庇われた密漁船を襲っていたからだ。密漁船を撃沈後、福音は近くの小島に待機するように命じておいた。

 

敗北は想定内だが、一夏君が重傷を負ったのは想定外だった。……密漁船か。あの一帯は教師陣によって厳重に封鎖されていた筈。なのに何故現れた?撃沈された密漁船を少し調べてみたが、()()()()()()()()()()()()()()()

この事から考えられるのは、

 

1.単なる教師陣の見落とし。死体は完全に福音が消滅させた。

一番あり得ないが、これが理由だったらマジギレしているところだ。

 

2.教師陣の中に裏切り者が居る。船に乗っていた者は既に逃げた後。

態々密漁船と?だとしたらあの密漁船は普通の密漁船でないということになる。

 

3.教師陣を欺いて海域に侵入できる程の手練れ、若しくはそれができる者が居る組織。当然ながら既に逃亡済み。

現状ではこれが一番可能性が高い。何よりそれができうる連中が居るのは分かっている。

詳しく調べてみる必要が有りそうだ。

 

今現在箒は、意識不明の重体で眠っている一夏君の傍で意気消沈としている。今箒が考えている事は手に取るように分かる。

 

自分のせいで一夏君は重傷を負った。

自分のせいで一夏君を危険な目に合わせた。

自分がISなんて欲しがらなければ、こんな事にはならなかった。

自分が慢心せずに、もっと声を聞き入れていればこんなことにはならずに済んだ。

自分のせいで。自分のせいで、自分のせいで自分のせいで自分のせいで…………。

 

そうやってひたすらに自分を責め続けている。

そして私自身もまた、己の詰めの甘さを悔いていた。福音を暴走させたのは私だし、紅椿を作って渡したのも私だ。云わば一夏君を殺しかけたのは、私自身に他ならない。白式には――正確に言えば、白式のコアには搭乗者保護のための生体再生機能が搭載されているため、一夏君に命の危険は無いが、だからと言って殺しかけて良い理由にはならない。

 

暫く箒が落ち込んでいると、中国の候補生がやって来て箒に福音へのリベンジを促した。しかし箒はそれを拒否。あまつさえISには二度と乗らないと言った。それを聞いた候補生は怒って箒の胸倉を掴み上げ、頬をはたいて叱咤する。箒は俯きながら自分の本音を喋りだす。戦えるなら、自分だって戦いたいと。

すると候補生――凰鈴音が、福音の居場所はドイツの候補生が探っており、今しがた捕捉した事。他の専用機持ちも戦闘準備は万端だという事を話す。それを聞いた箒は、決意の籠った瞳で、自らも戦うことを表明した。

 

「良い友達を持ったね、箒」

 

間違った時や、落ち込んでいる時に、無理矢理にでも止めたり、励ましたりしてくれる友人というのは、とても貴重な存在だ。

 

箒達が福音打倒に向かっている間、私は一夏君のバイタルを見ていた。白式の生体再生機能は確りと機能しているが、どうも様子が変だ。このデータ変化の仕方は……まさか、二次移行(セカンド・シフト)

だとすれば、この半年にも満たない短期間で二次移行するなんていう異常事態になる。一夏君はやはり、私や千冬とはまた違った形の天才だ。IS搭乗者という、極限定的すぎる才能。剣術の上達速度は、その副次効果という事だ。

この結果には驚いたが、それでも私のやる事には変わりはない。生体再生機能が最大限に機能する様に調整するのに、二次移行した後で動きやすいようにするための調整を並列して行う事が追加されただけだ。

 

「……ぅ…ん」

 

「!」

 

どうやら一夏君が起きる様だ、直ぐに退散するとしよう。

 

「頑張れ、一夏君」

 

 

 

 

 

海岸の端にある、海へと迫り出た崖の縁。崖下に波が打ち付ける音を聞きながら、私はそこに腰かけて今回の事件で得たデータを纏めていた。

福音は箒と候補生たちが撃破しようとしたが、予想外の(私にとっては想定内の)二次移行により状況が一変。一転して押され始める。そこに二次移行した一夏君が加勢し、更には紅椿の単一仕様能力として仕込んでおいたエネルギー増幅システムである絢爛舞踏が発動。最終的に福音から勝利を得た。

 

「紅椿の稼働率は絢爛舞踏を含めても40%未満かぁ…まぁ、これぐらいが丁度良いのかもしれないなぁ」

 

私はふとディスプレイを弄る手を止めて、後ろに向かって話しかけた。

 

「そろそろ声くらいは掛けてくれても良いんじゃない、ちーちゃん?」

 

「……束、二つ例え話がしたい。良いか?」

 

「良いよー。ちーちゃんの話なら何だって聞いてあげるー」

 

「そうか。とある天才が、ある男子をISがある場所に誘導する事ができるとする。そこにあるISを、その時だけ動くようにしておく。すると、男が動かせない筈のISが動かせるように見える」

 

「う~ん…でもそれだと、その時しか動かないんだよねぇ」

 

「そうだな。そこのところはどうなんだ、とある天才?」

 

「あー、実は束さんにもどうしていっくんがISを動かせたのかは分からないんだよねー」

 

「……まぁいい、次の例え話だ。とある天才が、大事な妹を晴れ舞台にデビューさせたいと考える。そこで、妹に専用の機体を用意してやり、丁度良くISの暴走事件を起こした。妹を暴走事件解決に加えさせ、華々しくデビューするというわけだ」

 

「へぇ、凄い天才がいた「と、いうのがさっきまでの予想だったのだが、たった今考えが変わった。天才は妹に力の危険性を教える為に、ワザと汚れ役を演じたのだろうな」……えー?何の事かなー?」

 

バレちゃったか……。やっぱり千冬は凄いな。バレないように必死で道化の仮面を被ってたのに、それを無視して素顔だけを見ちゃうんだから。

 

「惚けても良いが、それで私は騙せんぞ。長い付き合いだからな。だいたい、いつもお前は―――」

 

「千冬」

 

ちーちゃんではなく千冬と、そう呼んだとき、千冬の態度が変わった。今までの様な私の親友としての彼女でなく、武人としての彼女だ。それはきっと、私が彼女を渾名でなく名前で呼んだからだろう。私が身内を名前で呼ぶときは、必ず真面目な話をするからだ。

 

「……何だ?」

 

「今の世界は楽しい?」

 

「…まあ、そこそこな」

 

「そっか……」

 

私は彼女の言葉に、少しの安心と嬉しさ、そして僅かな罪悪感を覚えたのだった。

 

前半の感情は、一夏君の存在が大きいものの、千冬が今世界の中心となっているISを嫌っていないという事に対して。

後半は、千冬は女尊男卑、そしてISが兵器として扱われる今の世界を受け入れて―――否。正確に言えば、諦めてしまっている事に対してだ。自分ではもう世界は変えられないと、諦観している。

千冬をこんな風にしたのは、他ならぬISという存在を作った私だ。ISが必要だったとはいえ、やはり心に来る物がある。

 

それでも私は、止まる訳にはいかない。みんなを守るために、私は道化を貫くと決めている。

 

「じゃあ、頑張って守らなくちゃ」

 

私はいつもの様に精一杯の作り笑顔で、千冬に向けてそう言った。

 

千冬が私の言葉の意味を確かめようとした時、強烈な海風が突然吹いて、千冬は腕で目を守った。その一瞬の間に、私は崖から飛び降りてステルスISを展開。その場を去った。

 

「束……どうしてお前はそんな―――」

 

IS展開していた私に千冬の声は届いていたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――覚悟を決めた顔をしているんだ……?」

 

 

 

私は千冬のその言葉へ、何も返答できなかった。

 

 

 

「何故…私に何も言ってくれない……?」

 

 

 

ごめんね千冬。私は極力貴女を巻き込みたくはないんだ。だって私は貴女に、私と一緒に死んで欲しくないから。

 

 

 




用語解説&裏設定

【アレ】

正確な日数は分からないものの、確実に外宇宙からやって来て、人類を滅ぼす外敵。
詳しい設定は無く即興で考えた物。簡単に言えばマブラヴのBETA、ガンバスターの宇宙怪獣、スパロボのバアル的な存在。

【彗星】

地球人に危機を伝えにやってきた存在。ゲッター線のような物。
実は束の他にも彗星が見えた者は居たが、総じて絶望の未来を知って発狂し、自害や精神病院行きとなった。

【束の性格】

原作の様な破綻者ではなく、確りとした責任感のある大人。滅びてしまう人類を救うために奔走する。
やはり身内と他人では扱いの差が酷く激しいが、別に敵対者でなければ普通に接してはくれる。(但し道化になっている時は別)

【ISについて】

ISは本来宇宙開発を促進させて、【アレ】に対抗できる兵器を開発させる為の作業着。ぶっちゃけISでは逆立ちしても【アレ】には勝てない。それ故に強力な兵器の開発を急いでいる。
今のISが旧ザクなら、束が最終的に求めるのは、ダブルオーライザーレベルの力。それも量産品として。

【束の服装】

本編でも記述があったが、束の普段着はフリフリのエプロンドレスではない。
普段は明るい赤紫色のシャツまたはカーディガンの上に長めの白衣を前を開けて羽織り、黒いズボンを履いている。
道化を演じる時は、様々な童話を元にしたファンタジーな格好をしている。これは自分を理解のできない狂人だと印象付けるため。そうすることで、狂人は何をするか分からない→身内を大事にしている→身内を傷つけたら何されるか分かったもんじゃない。と思わせる、牽制の意味合いを含む。

【束の身内への呼び方】

『普段』→『道化を演じる時やふざけてる時』

『千冬』→『ちーちゃん』

『箒』→『箒ちゃん』

『一夏君』→『いっくん』

『お父さん』→『あの男』

『お母さん』→『あの女』





この世界の束さんが、世界を救って英霊となり、fateアポクリファの世界に黒のキャスター(科学者)として召喚される妄想が浮かんだ。俺、疲れてるのかな?


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