地獄の中で悠々と生きる   作:うどん風スープパスタ

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十二話 念獣無双

 どこからか入り込んできたゾンビの死体を食わせまくると、ようやく念獣の模した動物がはっきりと判別できるまで成長した。ここで一度情報をノートにまとめる事にする。

 

 まず念獣の共通点は生物を模し、全身が骨のように白くて硬い事。

 姿はランダムに決まると制約をかけたせいで、種類は豊富。

 だが俺に身近な動物ほど出てくる割合が多いようだ。

 今のところ判別できない個体は一匹もいない。

 俺の念だから俺の知識にある生物だけが出るのかもしれない。

 とりあえず、種類と数で三つに分類しておこう。

 

 

 

 一つめは一種類の数が十五匹以上の出現頻度が高いと思われるグループ。

 

 骨犬    24匹

 骨猫    23匹

 人骨    19匹

 骨蛇    40匹 

 骨鼠    44匹

 

 合計    150匹 このグループだけで過半数を占めている。

 

 蛇と鼠の二種類は俺が蟲毒奮闘(ワンマンアーミー)の訓練に使うため、ハツカネズミと蛇を飼育していたからだろう。対外的には蛇を飼い、ハツカネズミはその餌用としていたが……さりげなく人間との関係の浅さを指摘されているようだ。

 

 次は五匹以上で十匹に満たない、出現頻度が低いと思われるグループ。

 

 骨烏    9匹

 骨蜘蛛   5匹 (練習で事前に成長させていた一匹を除く)

 骨蝿    5匹

 骨芋虫   5匹

 骨百足(むかで)   7匹

 骨亀    6匹

 骨蛙    6匹

 

 合計    43匹

 

 だいたい小学校のクラスで飼っていた覚えがある生き物。

 あるいは身近にいそうな虫だな……

 

 最後に五匹にも満たない希少なグループ。

 

 骨狼     3匹

 骨虎     2匹

 骨馬     1匹

 骨カンガルー 1匹

 

 合計     7匹

 

 総数はちょうど二百匹。

 最弱の状態で数だけ作り貯めておいた甲斐があった。

 狼と虎は犬猫の上位互換だろうか?

 馬は身近ではないが便利そうだ。

 カンガルーは……どう使えばいいのか見当がつかない。

 成長させながら追々考えよう。

 

「各自、この建物の中を巡回。鳥は頭を、犬、猫、蛇、鼠は手足を狙い、確実にゾンビを行動不能にしていけ。狼、虎、蜘蛛は俺と来い。他は行動不能になったゾンビを食べて成長するように」

 

 ノートを閉じた俺が指示すると、放送室前に集めていた念獣が方々に散る。

 俺も蜘蛛を引き連れて廊下を歩くが、危なげなくゾンビを食らう念獣の姿がいたるところで見られた。

 

「オー……」

 

 物音を聞きつけてきた新たなゾンビの足に、犬の念獣が食らいつく。

 すると噛み付かれたゾンビの足は、豆腐のように潰れて血しぶきが噴出した。

 

 俺が死体を食べるように作ったからだろう。どれほど小さく弱弱しい念獣でも、死体を食べる時は“周”(念による物体の強化)を行ったように肉や骨をあっさりと食いちぎる。

 

 すでに足を食いちぎられたゾンビは立てなくなった。そして倒れこんだ所を別の犬に襲われ両腕も失い、最後には後からのっそりとやって来た亀に後頭部から噛み砕かれて動きを止める。

 

 こうして行動の余地を奪ってしまえば弱い念獣でも安全に食事ができるのだが……こんな手間をかけず、普通に襲わせてもよかったかもしれない。

 

 というのもゾンビたちは念獣を襲わない(・・・・・・・)からだ。

 

 念獣の足音や念獣が発した物音には反応するのに、こいつらは一切手を出さない。

 俺がそういう能力を付与したわけではなく、これがゾンビの謎の性質なのだ。

 

 原作キャラにはジークだったか?

 そんな名前の犬がいて、キャンキャン吠えながらも襲われなかった記憶がある。

 そのあたりの記憶はあいまいであまり期待していなかったが、本当らしい。

 ……ゾンビにとっては普通の犬も念獣も等しく攻撃対象とならない。

 能力の有用性がさらに上がったのでよしとするが、謎だ。

 

 俺はそのまま様子を見ながら屋上まで登り、狼と虎で校内のゾンビを上から下へと駆逐しながら、電脳王(ハッキング)による防火シャッターの操作と骨蜘蛛の糸で、昇降口を各階一つ残して封鎖していった。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 二時間後

 

「これで校舎の制圧は完了。あとは外……骸骨は俺について来い。狼と虎はここ(昇降口)の守備。他は外で敷地内のゾンビを食べつくせ。ゾンビがいなくなったらここに戻って待機だ」

 

 ゾンビ駆逐の途中で集めた念獣にまた指示を出す。それだけで外がさらなる地獄絵図へ変わった。

 

 念獣はもはや初めが蛆虫だったとは思えないほど成長し、犬ならドーベルマンや土佐犬のような大型犬、鳥なら鷹などの猛禽類を想像させる。そんな生物が大群となってゾンビの集団に飛び込んでいく。

 

 近隣から集まってきたのであろうゾンビたちは見える範囲をほぼ埋め尽くしているが、念獣の群れはそれを飲み込むのだ。

 

 犬猫がゾンビの手足を一口ずつ食い散らかしてはバラバラの死体に変える。それを鼠や蛙、虫の念獣が拾い食う。蛇も拾い食いをしているが、一匹だけ特に大きく成長した奴は動くゾンビの頭を噛み砕いてから豪快に全身を丸呑みし始めた。

 

 それに加えて、地味に危ないのが蝿。最初は高速で飛び回ってはゾンビにぶつかって表皮を少しずつ噛み千切っていたのが、やがて貫通(・・)し始めた。蝿はゾンビの体内にめり込んでは突き抜けるため、狙ったゾンビを次々と蜂の巣にしていく。蝿なのに。

 

 いったい一秒間に何人のゾンビが念獣の腹に消えているのだろうか?

 倒れていく数なら少なくとも二十は超えている。

 それでいて今現在、俺が消費しているオーラは“ゼロ”。

 

 念獣を作る時と呼び出す時にしかオーラを使わない蟲毒奮闘(ワンマンアーミー)は、この世界に適した能力である。

 

 俺はその確信を胸に、購買に残された食料を物色していた。

 

「ほー、パンばかりかと思えば」

 

 購買には想像していた通り、俺一人では食べきる前に間違いなく腐らせてしまう量の食料が残っている。

 

 パンは持って行って冷凍すればそれなりにもつだろうけど、弁当は……とりあえずできるだけ冷蔵庫へ。家庭科室に、職員室にも冷蔵庫はあったな? 分けて運ばせよう。

 

 俺もパン中心に、弁当は今日明日の分だけもって行こう。……比較的少ないけれどカップ麺もあるか。持って行くにはかさばるし、これはこのまま倉庫にキープ。近いうちに取りに来よう。

 

 飲み物はペットボトルのお茶やジュースがたっぷりある。今は五箱くらいでいいだろう。

 

 時々人骨に食料を校舎内の冷蔵庫に運ばせながら、黙々と選別を続けてあらかた持っていく物がまとまる。

 

「骸骨チーム、この飲み物の箱とパンのケースを持ってついて来い」

 

 念獣があらかた成長した今、もうここにいる利点は少ない。

 建物の出入り口を封鎖して、車で家に戻ろう。

 

 そう思って小室たちが出て行った駐車場まで戻るのだが、ここでちょっとした問題が発生。

 

「小室たちが出てった時は無事だったのに……」

 

 おそらくその時はまだ生き残りがいたんだろう。

 脱出用に目をつけていた四輪駆動車が柵に突っ込んだまま黒焦げになっていた。

 車内には焼け焦げた遺体が一人分。明らかに炎上した後だ。

 これが持ち主なら教頭先生のはずだが、当然ながら息は無い。

 

 運転ミス? 故意に柵を突き破って逃走を図った?

 

「……どちらにしてもこれは使い物にならないな……」

 

 仕方なく別の車を探す。

 四駆のような大型車はないが、積載量に拘らなければ車はまだある。

 車が一度発進し、事故現場は車が密集した場所でなかったのが幸いした。

 まさに不幸中の幸い。

 

「……これにするか」

 

 日産の黒いGT-R。

 俺が一度死ぬ前にレースで使っていた車と同じ型だ。

 これは完全に趣味で選んだ。

 誰のか知らないが使わせてもらおう。

 

 車の扉に手を当てて、車全体をオーラで包み込む。

 

走り屋の魂(レーサースピリット)!」

 

 第四の能力を発動させると車にエンジンがかかり、俺が望むように鍵、扉、トランクが次々と開いていく。

 

「荷物をできるだけ多く積み込め」

 

 

 

 “走り屋の魂(レーサースピリット)

 

 車をオーラで保護し、自由自在に動かす能力。

 系統は操作系だが、電脳王(ハッキング)と同じく特質系の修復能力もある。

 

 俺のオーラは特質系だが、実は操作系の方が得意だ。

 能力も四つのうち三つが操作系。

 前世の俺にオーラという概念があったら、きっと操作系だったんだろう。

 

 命令(コマンド)は手が届かない高い所の物が欲しいと思っていた幼児期に。

 走り屋の魂(レーサースピリット)は前世の影響で車雑誌を読みつつ“ぼくのかんがえたさいきょうのくるま”のような事を考えていたら特に訓練もなく習得していた。電脳王(ハッキング)は事前に知識が少なくもて多少時間がかかったが、それでも小学校卒業の前後に完成していた。

 

 それにくらべて蟲毒奮闘(ワンマンアーミー)は中学卒業間近まで習得に時間がかかっている。なんとか今日までに念獣をストックできたが、水見式の結果を疑ったのは一度ではない。

 

 そう考えているうちに荷物の積み込みが終わったようだ。

 あとは念獣をいくらか護衛に残して校舎へ戻り、他の念獣を回収すれば脱出準備が整う。

 

「人骨チームはここに残って車を守れ」

 

 

 

 

 そう指示をした十分後。

 念獣を回収した俺は能力で奪ったGT-Rで、悠々と学校を出ることに成功した。


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