思わぬところで日下部という協力者を得られたが、人が増えれば食料も多く必要になるのは道理。学校から持ち込んだ食料はあるが、そこから分け与えると予定よりも保存可能な食料の減りが早くなる。保存がきくものはできるだけとっておきたい。
仕方がないので近隣の調査を兼ねて、コンビニあたりで追加の食料を探すことにする。
「!」
車で閑静な住宅街を通りかかった時、ガードレールの下の道に数人の少年少女が見えた。急いで車をバックさせてみれば、一人の顔に見覚えがある。
適当な路肩に車を止め、五匹の骨蝿のみ召喚。
「警戒、近づくゾンビは頭を貫くだけで良い」
小さくて素早く視認しにくい骨蝿を周囲に飛び回らせることで安全は確保できる。
“絶”を使って気配を消し、少年少女を追った。
……
…………
………………
「くっそ、開けよっ」
「ヒデちゃん、窓もだめ~」
「おい、ぐずぐずしてっと誰かきちまうぞ」
「分かってるよっ」
少年少女は四人。不良らしき男が二人と、遊んでそうな女が二人だ。
彼らは全員この近辺では有名な底辺高校の制服を着て、人目につかない勝手口から大きな家に侵入しようとしているようだ。
しかしどんな行動をしていようと、俺には関係ない。問題は……やはり、間違いない。妹とつるんでいた女がいる。
「すまない、ちょっといいか」
「「「「!?」」」」
「だ! 誰だ!?」
「やばっ!」
「見つかった!?」
「こ、こうなったら」
「待ってくれ、君たちの行為を咎めるつもりは無い。好きにするといい」
悪事を働こうとしている所に声をかけられ、慌てる彼らへ冷静に声をかける。
「質問がしたいんだ、そこの金髪ガングロギャルに」
「金髪ガングロってアタシ!? ……ちょっと~、アンタ失礼じゃない?」
彼女は不機嫌さを隠しもしないが、それ以上に不信感が強いんだろう。
「……名前は“アヤ”だったか? 以前に何度か、妹に連れられて家に来ていただろう? 妹は藤原聖花、俺はその兄だ」
「え……あっ!」
「人違いじゃなかったようだね?」
「オイ、俺らを無視すんなよ。聖花の兄貴が何の用だ」
他の三人も聖花を知ってるみたいだな。
聖花の名前を出したら雰囲気が変わった。
「聖花の居所を知らないか? 音信不通なんだ。探している途中で君たちを見かけて、声をかけた。他意はない」
「ちっ! しらねーよ! 今日は会ってねぇ!」
「今朝は遊びに誘ったけど断られたよ、眠いからって。まだ家で寝てんじゃないの?」
「家にはいなかった。学校にも登校していないらしい。だから何処かに遊びに行ったと思ったんだが」
「……だったらフロワじゃない?」
「フロワ? それは何処だ?」
「御別橋を渡った先に繁華街あるっしょ? そこのメインストリートから左に一本、細い道歩いてくとフローラってクラブがあんの。ウチらする事ない時、基本そこにたまってるし、昨日なんか忘れたっつってたから。行くならまずそこじゃない?」
「……これでいいだろ? 用が済んだならとっとと失せろよ」
「ああ、情報ありがとう。用は済んだが……」
せっかく
「お、おい! やる気か?」
「その扉を開けるだけだ。中に入りたいんだろう?」
四人がこじ開けようとしていた扉の取っ手を掴み、引く。
「ふっ!」
「ちょ、ちょっと!?」
「なに、これ……」
鍵がいくつかかかっていたが、扉はそれ程頑丈でもないようだ。音をたてながら歪んで隙間が生まれる。そこに手をかけてさらに引くと、中に取り付けられたドアチェーンが根元から外れたらしい。
垂れ下がった鎖を揺らしながら、扉が開け放たれる。
「っ!」
「ひっ!?」
「これで入れるだろう。後は好きにしてくれ」
どうせ俺の家ではないのだから。
「思い出した……兄貴が馬鹿力だって、聖花言ってた……」
「鍵付きの扉を金具ごと引っぺがすとか、馬鹿力とかじゃねぇだろ……」
失礼なことを言ってくれるが、放っておく。それより聖花の行き先は橋の向こう側か……
向こうには“憂国一心会”の本拠地があり、組織的に状況への対処を進めていたはず。聖花も保護されているかもしれない。憂国一心会はまだこの時点で数少ない、統率が取れた大人数の集団だ。
……一度、訪ねてみるか。