昼
朝から近所の学校を制圧して周り、新たに3校を制圧。
念獣を強化しつつ、非常用の備蓄を確認した。
幸か不幸か、調べた3校で生き残りとは遭遇していない。
やはり学校は大勢の人が集まっているだけに、被害の拡大も大きかったのだろう。
住宅街と比べて血しぶきや建物の壊れ方も酷く、ゾンビの数も多かった。
しかしその分街のコンビニや商店街と違い、物資がほとんど手付かずで残っていた。
一部荒らされた形跡はあったが、脱出を試みた人間が少し持ち出した程度だと思われる。
尤も街の店ほど食品に種類はない。量より種類を求めるなら街に出たほうが断然良いな。
「……あと1,2校回っていくか」
物資集めに学校を襲うのは、念獣の強化にも都合がいい。
念獣を強化すればそれだけ制圧も早く簡単になり、安全かつ効率的だ。
どうせ夜までは暇だし、集めた物資は憂国一心会への手土産にも使える。
あちらは避難民を受け入れているし、物資も無限ではないはず。
金がかかったわけでもなし、協力的なところを見せておいて損はない。
そう結論付けて次の学校へ移動を始めるべく校門を出ると、遠くでけたたましい音が鳴り響いた。
「この音、防犯ブザー?」
小学校で配られて、必ずその場で鳴らす奴がクラスに1人はいるあの防犯ブザー。
“円”を広げて探ってみると、大量のゾンビと高校生くらいの女がいた。
どうやら防犯ブザーを囮にしてゾンビから逃げているようだが……音が大きすぎた。
「骨犬だけついて来い! 後はここで車と荷物を守れ!」
念獣に指示を出し、逃げる女の方へ向かう。
……
…………
………………
~???視点~
「ハッ! ハッ!! ハッ!!!」
ヤベ……もう息がもたねぇ……でも走らなきゃ食われちまう!
「う~」
「あぁ~」
クッソ! 何で全部あっち行かねーんだよ! 防犯ブザー鳴ってんだろ!?
感覚もなくなってきた足に無理やり力を入れて、追ってくるゾンビから逃げる。
どうにかして振り切らなきゃ……その後の事を想像して体が震えた、その時。
「ううううううう」
「あばぁ~……」
「嘘、だろ? ハハッ……」
一本道の先、T字路からゾンビが次々と歩いてきた。
さらに左右の家の敷地にも、こっちに来ようとしているゾンビがいる。
完全に囲まれた。
それを理解してしまった瞬間、全身から力が抜けた。
抱えていた袋がクッションになって顔面から落ちることは避けられたけど、それだけだ。
足が痛い。腕が重い。起き上がらなきゃいけないのに、力が入らない。
そのうちにどんどんゾンビが近づいてくる。
……ったく、何でこんな事になっちまったんだよ……ゾンビとかマジでねぇよ……
あと数歩のところまで危険が迫ってるってのに、なんだか変な感じに落ち着いてきちまった。
時間がゆっくり流れて、ゾンビの動きも遅くなった気がする。
これが走馬灯ってやつなのかな……
そんなことを考えていると、どう見てもホームレスなおっさんゾンビが目の前に立っていた。
「最後だってのに、もっといい男はいなかったのかよ……つかせめてまともな服のやつにしてくれよ……」
呟いた声に反応してか、おっさんゾンビは腰をかがめる。
アタシの顔に、おっさんゾンビの顔が近づく。
……メシ、届けられなかったな……
「ゴメンな……」
もうだめだ。
そう思った次の瞬間、目の前にいたはずのおっさんゾンビが消えた。
「大丈夫か?」
……今何が起こった?
おっさんゾンビの代わりに、変な男がアタシを見下ろしている。
「……」
「おい、大丈夫か? 転んだ拍子に頭でも打ったか? それとも噛まれていたのか?」
「あ、いや、大丈夫だと、思う。噛まれてはいないし……」
「そうか。なら、無事で良かったと言っておく。しかしずいぶん疲れているように見える。どこから来た? 行く場所はあるのか?」
男は淡々と質問を繰り返す。
なんだよこいつ……いきなり出てきて、ペラペラと。
疲れてるのはそうに決まってるだろ。だってアタシは今の今まで!!
「つかそんな悠長に話してる場合かよ!」
「別にそれほど焦る状況ではないが……ああ、気づいてないのか。周りをよく見てみろ」
「良く見ろって……うっ!?」
平然と言い放った男の視線を追うと、ゾンビが一人残らず地面に転がっていた。
骨のような体を持った、犬みたいな生き物たちの餌として……
「な、なんだよあれ……」
「? 知らないのか? つい昨日、このゾンビと一緒に発生した謎の生物だよ。ゾンビと違うのは人を襲わず、ゾンビだけを襲って食べる事。そして餌付けをすることで従えることができる……ニュースにもなって割と有名なはずだが……」
何でこの光景見て平然としていられるんだよ……
「本当に知らないのか」
「ニュースなんて見てねぇよ……うちの学校は全寮制で携帯もテレビも禁止なんだよ」
「それはまた窮屈そうな学校だ。とりあえず安全な場所に移動しようと思うが、立てそうにないな……運んでも良いだろうか?」
「……そういやアタシ、助けられたんだよな?」
「……状況を客観的に見ればそうなるが、別に何かを要求する気はない」
「ああ、いや、悪い。ちょっと混乱してた」
そうだよな。助けられたんだよな、アタシ。
正直に何がどうしてどうなったかがよくわからないけど。
不気味な犬が死体を食い荒らして、それを平然と眺めてる姿を不気味に思ったりしたけど。
それでも一応、命を助けてくれた相手には変わらないんだよな。
「とりあえず助けてくれてサンキューな」
「礼は受け取る。だがそれより運んでいいか?」
「ああ、手を貸してくれるのはありがたい、けど……大丈夫か?」
よく見たらこいつ、ひょろっちい。
歳はアタシと同じくらいで、背丈はまあまあだけど、腕細せぇなぁ……アタシの方が太くね?
肌もなんか白いし、顔も軟弱な感じ。
はっきり言って頼りねぇ……さっきは得体の知れない感じがした気がするんだけどな……
「……何が言いたいのかわかった。心配はいらない」
「うわっ!?」
突然首の後ろから体を掴み起こされる様な感覚があって、気づくと空が見えた。
「は? え? ちょっ! 降ろせ!」
いつの間にか抱き上げられてる!? つか恥ずい!
「暴れないでくれ。見た限り足の腫れが酷い。あとは擦り傷程度だが……肩を貸しても歩ける状態とは思えないし、無理をすれば悪化しかねない」
「うっ……」
そう言われて思い出したみたいに足が痛む。
「これが一番体に負担がないはずだ。身体的接触は可能な限り控えて配慮する。少し我慢してくれ」
「分かったよ……」
相変わらず淡々とした声で話す男。
それでいて彼なりに配慮をしているのか、アタシの体を支える腕を最大限に前へ伸ばしている。
確かに体の接触は限界まで抑えられているし、いやらしさは欠片も感じない。
まるで2本の棒に乗せて運ばれているみたいだ。
……この細腕のどこにこんな力があるんだ?
……疲れと助かった安心のせいか、頭がぼーっとする。
そのうちにアタシはどこかの学校に連れて行かれた。
そこには馬鹿でかい車が止まっていて、その中で軽い治療を受けた。
「聞こえているか? 擦り傷は洗って、念のため消毒もしておいた。足の腫れはちゃんとした医者に見せた方がいい。このまま医者の所に連れて行くから、これで冷やしてくれ」
「……サンキューな」
冷たい、氷水の入ったビニール袋?
袋はともかく氷なんて何処に……もういいや、考えるのも面倒だ。
「……だいぶ疲れてるように見える。警戒するのは当然だと思うが、できれば寝ておけ。横になるだけでも体は楽になるはずだ。足を高めにしておく事を薦める。……休める時に休まないと辛いぞ」
「分かった。そうするよ……」
もう逆らう気にもならなくて、言われるがままにやたらと豪華な車内のソファーで横になる。
「俺は運転席にいる。何かあれば声をかけるといい」
運転席に繋がる扉に消える背中。
それを見送ったアタシは、いつのまにか目を閉じていた。