地獄の中で悠々と生きる   作:うどん風スープパスタ

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一話 原作開始

 焦りと震えを抑えきれていない声が放送用のスピーカーから流れてくる。

 どうやら原作が始まったらしい。もうすぐだとは思っていたが、気合を入れたその日に始まるとはな……

 

「全校生徒に連絡します、校内で暴力事件が発生中です。生徒は先生の指示に従って避難して下さい。繰り返します。校内で暴力事件が発生中です。生徒は先生の指示に従って、っ」

 

 クラスメイトは皆不安や不信からか近くの生徒と話しながら放送を聞いている、がここで突然続くはずの放送が途切れ、クラス中の目がスピーカーに集まる。そんな中、流れてきたのは教員の怯えた悲鳴だった。

 

「助けて! やめてくれ! あっ、やっ! 痛い! 痛い痛い!! 助けて!!死ぬ!!! ァアアアアアアアア!!!! アアアァ……」

 

 悲鳴は急速に弱弱しく、変わりに水の滴る音を最後に放送が切れる。

 クラスは先ほどまでのざわめきが嘘のように静まりかえり、皆は恐怖に顔を凍りつかせ……学園中に阿鼻叫喚の悲鳴が轟いた。

 

「嫌あぁっ!!」

「どけっ!!」

『!!』

「あっ、待てよ!」

「俺が先だ!!」

 

 

 隣のクラスの悲鳴と物音が俺のクラスまでパニックを伝播させ、逃げた一人の後を追う生徒たちが堰を切ったように教室の出入口へ押しかける。

 

 他者を押しのけ、転んだ者を踏み越えて、我先にと逃げ出すクラスメイトを俺は教室の窓際から眺めていた。

 

 ……あんなうるさい逃げ方をしたらゾンビに狙ってくれと言っているようなものだ。足の引っ張り合いも怖い。それを証明するように誰もいなくなった教室の入口には押しのけあいに負けた男子が一人倒れている。

 

「大丈、夫じゃないな……おい、聞こえるか?」

 

 男子はピクリとも動かず、頭から大量の血を流している。

 押しのけられた時に頭を強く打ったのだろう。男子の首に手を当ててみるが、脈がない。

 

 ……まだ人工呼吸を行えば助かるかもしれないが、合掌と短い黙祷をささげるだけに留めた。

 

 生き長らえたとしてどうするか? 障害でも残ればこれからの世界を生き抜ける可能性は低い。そして俺も悠々と生きると決めたはいいが万能ではない。条件を整える(・・・・・・)までは迂闊に怪我人(足手まとい)を抱え込むのは避けるべきだ。

 

「すまんな」

 

 俺は男の死を一言で済ませた。被害者が出るのは仕方がない、そして、人工呼吸以上の処置ができない俺がこれ以上考える意味もない。

 

 自分の席とカバンから常備してある三組のトランプを制服のポケットへ移し、人がいなくなった廊下へ出る。

 

 まずすべき事は武器の調達。俺のトランプは二組がどこでも売っている紙トランプ。念を使えば武器になるが、生きた人間に見られると間違いなく悪目立ちしてしまう。

 

 一組は海外からネットで買ったメタル・プレイングカード。つまり金属製のトランプなので武器と言い張れなくもないが、これは紙トランプより念能力の威力を上げられる奥の手だ。衛生面も気になる。できれば使い捨てのできる紙トランプで全部片付けたい。

 

 掃除用具は逃げたクラスメイトが持っていってしまった。一つだけ残ったバケツは武器としては使いづらい……となるとこの学校で武器になる物が手に入りそうで、なおかつこの教室から近い場所は……技術室だな。

 

「……早いな、もうここまで……」

「……」

「……」

「……」

 

 技術室に向かうべく教室を出た矢先、血まみれの学ランを着た男子生徒が三人。廊下の突き当たりから現れた彼らの顔は蒼白で目はうつろ。“凝”で見てみると生き物が持っているはずのオーラが見えない。血まみれの時点で分かっていたが、この三人はゾンビだ。

 

 彼らが出てきた突き当たりには階段があり、その階段を使わなければ技術室へは行けない。

 

「やるか……」

 

 周囲に人目が無い事を“円”で確認しながら、取り出した三枚のトランプに軽く念を込める。その中の一枚を教室の扉に押し付けると、トランプの角が抵抗無く扉に刺さった。

 

「名前も知らない誰かには悪いが、ゾンビ相手は初めてだ。……実験台になって貰うよ。“命令(コマンド)”」

 

 俺が発した言葉は理解していないだろう。しかしゾンビは音に反応して近づいてくる。“命令(コマンド)”は込めたオーラが続く限り、物体を命令通りに動かす操作系の“発”。

 

 “目の前のゾンビの眉間に突き刺され”

 

 オーラを込めたトランプに念じると、手元のトランプ二枚がひとりでに浮き上がり、それぞれが意思を持ったようにゾンビの眉間へ矢のように飛んでいく。

 

 ゾンビはトランプを避けない。おそらく避ける事を考えてすらいない。

 

「オッ……」

 

 トランプは一枚ずつゾンビの眉間に深々と突き刺さり、二人のゾンビは小さくうめいてその場に倒れた。続けて今度は“命令(コマンド)”を使わずに自分の手で投げつける。

 

 今度は回転しながら山なりに飛んだトランプが、残りの一人の頭どころか貫通して後ろの床に突き刺さる。さっきのような断末魔の声もない。

 

 あっさり倒せたな……ゾンビの腕力は強くとも、肉体の強度は変わらないようだ。念を込めたトランプで威力は十分。それに “命令(コマンド)”を使えばまず狙いは外れない。

 

 ……戦える事は確認できた、技術室へ急ごう。

 

 動かなくなったゾンビの頭と床からトランプを引き抜いて捨てた俺は、足早にその場を後にした。




初期装備:
藤美学園指定学生服
常備していた紙トランプ二組
奥の手の金属製トランプ(メタルプレイングカード)一組
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