地獄の中で悠々と生きる   作:うどん風スープパスタ

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二十五話 渇望からの覚悟

「卓三!?」

 

 土下座の体勢になった五十嵐を見て、慌てて日村が寄り添う。

 

「頼む! 俺に念を教えてくれ!」

「元から提案するつもりだったからそれは構わないが、まず起き上がってくれ。話もしにくい」

「オイ。もうちょっとこう、配慮してやれよ……そいつきっとマジで頼んでんだから。温度差酷すぎるだろ」

 

 豪徳寺が呆れた様子で言うが、教えてみるつもりだったのだから仕方ない。

 それに実際このままでは話しづらいだろう。

 大事な話を不必要に話しにくい体勢や雰囲気で話す必要はない。

 

「いや、いいんだ、豪徳寺さん……こいつはこういう奴だってもう分かってるから」

 

 日村に支えられて椅子に戻った五十嵐が、力なく笑ってそう口にする。

 本人も同意したので問題はないだろう。

 

「で、急にどうしたんだ?」

「……俺さ……あいつらが来た時、何もできなかった。目の前で直美に乱暴する相談されてる時も、虚勢は張ったけど頭の中真っ白でさ……体も動かなかったんだ」

「それは仕方」

「仕方ないじゃ済まないんだよ!!!」

「!!」

「五十嵐、難しいとは思うが落ち着け。日村を怖がらせてどうする」

「……そうだな。ごめん、直美」

「ううん。私のことを考えてくれたのは、わかってるから」

「……ありがとう。だけど、守りたいと思ってるだけじゃダメなんだ。藤原、俺さ、お前に学校で言われたこと、ずっと考えてたんだ。こんな状況でも、自分のことを大切に思ってくれるやつがいる。大事にしろって」

 

 ……そういえば言ったな。そんなことも。すっかり忘れていた。

 

「お前の言う通りだった。お前と別れた後もずっと直美は一緒にいてくれた。小室たちといてあまり力になれなかった時は、ずっと支え続けてくれた。自分が生きるために、他人を蹴落とす奴がいても仕方ない状況なのに。

 ……それで俺、考えてたんだ! ほんのちょっと前だけど、安全だった頃より、直美が大切だって! 絶対に守りたいって!」

「卓三……」

 

 少し認識に齟齬があるようだ。

 俺はその場で思ったことを口にしただけで、そこまで深い意味はなかった。

 感涙している日村は放っておこう。

 

「でも、さっきも言った通り俺は動けなかったし頭も真っ白。助けてくれたお前のことも怖かった! お前が敵になったらどうしようかとか、何したんだとか、どうしたら逃げられるかとか……そういう悪い想像ばっかりが思い浮かぶだけで何もできなかったんだ! それじゃダメなんだよ!」

 

 五十嵐は心の底から叫んでいた。

 何もできなかったことを恥じて、悔やみ、そして次を恐れ。

 それらを全て認めて飲み込んで……搾り出された言葉は、

 

「……力が欲しい……! 何でもいいんだ! 人でもゾンビでも関係ない! ただ何があっても直美を守れる力が欲しい!」

 

 つい先ほど大量殺人を犯し、自分でも怖いと語っていた俺を正面から見据えて宣言する。

 その姿は、これまで一緒に行動していた普通の高校生男子とは違った。

 

 彼は特筆することのない、普通の高校生男子だった。

 彼は物語の主人公に混じり、自分の無力を感じていた。

 しかし彼の隣には、自分を想い支えてくれる女性が存在した。

 彼は彼女の大切さを痛感し、彼女を守りたいという気持ちを強く抱いた。

 今回の件では、再び自分の無力を噛み締めた。

 だがその末に、

 

「なんだ。お前も……違うか」

 

 絶望の一歩手前から。

 無力で、苦悩して、それでも立ち上がろうとする。

 力が欲しいと宣言した五十嵐の姿は、小室たちに勝るとも劣らない。

 まるで物語の主人公として今まさに“目覚めた”ような、強い覚悟と風格を感じる。

 

 さらに、

 

「藤原君」

「日村?」

「念能力は誰でも覚えられる。なら私も覚えられるよね? 念能力、私にも教えて欲しいの。卓三と一緒に」

「直美……?」

「卓三は分かってないみたいだけど、私だって卓三がいてくれて助かってたし、心強かったんだよ? それに、私は守られてるだけなんて嫌。卓三が私に支えられてたのなら、これからも支え続けたい。だから、念も一緒に覚えたいの」

「直美……!!」

 

 今度は五十嵐が感涙し始めた。

 

「……こういうのを“バカップル”と表現するのだろうか?」

「ちょっ、藤原君!?」

「おまえ、さすがに、ちょっとは、空気よめよ……」

「でも今のはさすがになぁ……聞いてて砂糖吐きそうだ。なぁ」

「えっ!? 僕にふらないでくださいよ豪徳寺さん! ……あ、あー……すみません、僕もちょっと」

「日村先輩、人前で大胆です……」

「これぞ青春。それだけ想い合える人がいるのにはちょっと憧れますねー」

 

 話を聞いていた豪徳寺、熊井、川本、谷内も同意。

 やはり俺の感覚は正しかったようだ。

 

「おまえら……」

「私たちは真面目に話してるのに!」

「それは分かってるよ。新たな主人公。いや、ヒーローとヒロインの誕生だな」

「……藤原、お前、やっぱりからかってるだろ?」

「いや、今のは本心からなんだが」

 

 小室たちにも負けていないと本当に思ったのに、失礼な。

 だいたい念を教えるのは構わないと最初から言っている。

 今更他に何を言えというのだろうか?

 

「ぐっ……こいつやっぱりよく分からねぇ……!!」

「表情も声も、本気と冗談の時の差が全然ないもんね……」

「好き放題言ってくれるな。別に構わないが。それよりも死体の処理が終わったようだ。次の行動に移ろう」

 

 ひとまず五十嵐と日村は同行の意思を示したと見る。

 他の皆はどうか知らないが、小室たちと合流するまで、もうしばらく付き合ってもらいたい。

 

 そう告げると決意をあらたにした五十嵐と日村だけでなく、川本と谷内。そして熊井から先ほどまでの怯えが感じられなくなっていた。

 

「あの……先輩、もう一度言わせてください。ありがとうございました!」

「うん。さっきは怖いのを誤魔化したり、その言い訳みたいになっちゃったけど……やっぱり助けてもらったんだし、それにこれまで手を貸してくれたのも先輩だからね。

 それから怖がってごめんなさい。五十嵐先輩や日村先輩と話してるの見たら、だいぶ落ち着いたよ」

「生きてる人を殺したのを見た時には、酷いとか怖いとか、色々考えました。でも、これからはああいう人間同士の争いもある……そういうことからも目をそらしちゃいけないんだと思います」

「そうか。ならこの話はこれで終わろう」

「「「はい!」」」

 

 後輩組が元気に返事をする。

 どうやら先ほどまでの五十嵐や日村とのやりとりが彼らの恐怖を薄れさせたようだ。

 それとも彼らは起こった出来事に目を瞑ることにしたのだろうか?

 あるいは自覚なしに現実逃避を始めたのか?

 

 考えられることはいくつもあるが、それも良いだろう。

 そもそも腹の内を全て露にして、隠し事のない付き合いをする人間がどれだけいる?

 そんな人間はまず存在しない。

 誰しも多かれ少なかれ、本音と建前を抱えて生きているものだ。

 

 俺も本音を言えば念を教えるのは“思いつき”。

 学校で彼らを助けたのも、“成り行き”と“思いつき”。

 その場で殺す必要もなかった。

 逆にもし必要があれば全員殺していた。

 

 俺はただこの世界を、今の状況を悠々と生きるのだ。

 彼らが何か俺を害するような行動を起こすなら、その時に対処(・・)すればいい。

 良い方向に誤解してくれているのならば、そのままにしておこう。

 

 ……しかし豪徳寺はかなりあっさりしていたが、何を考えているのだろうか?

 あとで時間があったら聞いてみるとしよう。

 答えないならそれはそれで構わない。

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