~技術室~
「……?」
道すがらやけに群がっていたゾンビを屠り技術室に到着すると、戦闘の跡があった。技術室の中と外に頭を釘で貫かれたゾンビが転がっている。さらに授業で使われていなかったのか、整頓された技術室に一箇所だけ工具や物が散乱している作業台……
「……平野か?」
散乱した電動工具の一つに触れると、まだ少し熱を持っている。
入れ違いになったらしい。念を見られる事もないが……見た限りめぼしい物も見あたらない。武器を作ったのは平野だけだろうが、何か持ち去った奴は他にも居たのかもしれない。そう思えるほどに、技術室には武器になりそうなものは木材一本すらなかった。
「……となると準備室か……」
黒板の横にある扉に目をつける。ノブを回すと鍵がかかっていて開かないが、むしろ好都合だ。鍵がかかっているという事は手がつけられていない可能性が高い。
普通の生徒ならこじ開ける音でゾンビに気づかれるのを嫌うかもしれないが、俺は気にしない。念を込めたトランプを鍵のかかったドアノブの周りに突き刺して貫通させる。その繰り返しでドアノブをくり抜き、簡単に扉を開けることに成功した。
“円”で中には誰もいないと分かり、踏み込んだ準備室は宝の山だった。
「なかなか便利そうな物がそろっているな……」
意気揚々と目に付いた物を手にとって吟味する。
そして最終的に決めた武器は三種類。
一つ目は“釘”。
封を開けられていない釘の袋が大量にあったので、ポケットのトランプを40本入りの袋四つと交換して念を込めておく。予備として技術教師の私物であろう背負い紐付きアタッシュケースに詰めて頂いていくことにした。
二つ目は“鋼材”。
授業で使うのか150センチに切りそろえられた六角形の鋼材が数本あった。
重さが十キロと書かれていたので、そのまま棍棒として使えるだろう。
最後に“斧”。
災害時用救助工具と書かれた箱から二本も見つかった。
釘を詰めたアタッシュケースを背負い、斧を付属のベルトで腰に取り付け鋼材を片手に……よし、これでひとまず武器はそろった。足りなければまた後で取りに来ればいい。
……次はどうするか……やるべき事はあるが、それはもう少し時間が経ってからでなければならない。
「……適当に歩いて食料でも探すか」
教室を回って荷物を漁れば生徒の持ち込んだ菓子類が少しは見つかるだろう。なければ購買に行けば在庫のパンくらいは拾える可能性が高い。突然こんな事態に陥り、危険を掻い潜って食料を確保する冷静さと実行力を持つ奴がどれだけいるのだろうか?
少なくともこの学園は広大で大勢の学生を有していた。彼らに売るため用意される在庫も大量になる。それを一日で食いつぶせる数が残っているとは思えない。あるとすれば緊急時に物資の独占をしようとする連中だが……その場合は武器を対価に交渉するとしよう。
鋼材ならまだ何本もあったから多少ぼったくられてもいい。先に自力でたどり着いた行動力に、たまたまであればその運に敬意を表そう。俺はこの地獄を悠々と生きてやると決めたのだから。
ただし度が過ぎるようなら話は別だ。渡した武器で攻撃を加えて来ようものなら、後は言わずもがな。人相手の対応はその場で決めればいい。
今は頃合を見ながら適当に時間を潰すとしよう。時が来るまで……
現在の装備:
藤美学園指定学生服
奥の手の金属製トランプ(メタルプレイングカード)一組
技術準備室で取得した釘
鋼材(六角形の棒、長さは150センチ、重さは10キロ)
災害時用救助工具から手斧二本(腰に付けるベルト付き)
予備(アタッシュケース内)
常備していたトランプ二組(一部使用)
大量の釘