ゾンビだらけの校舎でふと
あいつは今日通学したのだろうか? ……出席簿でも探してみるか。
職員室へ足を向けて歩いていると。
「ーーーッ!!!!!!」
「!」
耳を
助けに行こう、新しい武器の試し振りもかねて。
声の主は叫び続ける。校舎が静かになっていただけにより大きな声に感じるが、その分“円”を使わなくても楽に場所を特定できた。
声の発生源は職員室の方向。おそらく声の主は高城沙耶だろう。
判断したと同時に、職員室に続く廊下へさしかかる。既に声を聞きつけたゾンビが集まり始めていた。
目の前の廊下に八人。その先は見えない。
目の代わりに“円”で職員室前に七人、昇降口から入ろうと近づいてくるゾンビを多数確認。
「面倒な」
ポケットから取り出した八本の釘が廊下のゾンビの頭部だけを打ち抜き、道を開くと同時に勇ましい声が聞こえてくる。
「右は任せろ!」
「麗!」
「左を抑えるわ!」
……今気づいたが主人公グループなら助けはいらなかったな……まぁいい。
「助太刀します!!」
~毒島視点~
悲鳴を聞いて駆けつけた私は、今まさに一組の男女が“奴ら”に襲われる場に遭遇した。女子は電動ドリルを敵の顔に押し付けて抵抗しているが、ドリルの駆動音と恐慌状態に陥った彼女自身の悲鳴がこのおかしな“奴ら”を引き寄せる。
男子はなにやら銃のような物を持っている。おそらくはあれを使ってここまで切り抜けてきたのだろう。しかし今は何らかの理由で使えないのが明らかなほどに焦りを見せている。紛れもない窮地だ。
「右は任せろ!」
「麗!」
「左を抑えるわ!」
私たちと同じく駆けつけたもう一組の男女の目には、彼らを助ける強い意志が宿っていた。私が先陣を切ると迷いなく戦場に身を躍らせる。
「助太刀します!!」
おや、勇猛な者がまだいたのか。
対面の廊下から誰かの声が聞こえた瞬間。奥にいた“奴ら”が頭を殴られたように同じ方向に仰け反って倒れ、男子生徒が一人出てくる。
「っ!?」
“違和感”
そうとしか言えない何かが私の体を駆け巡る。
現れた男子生徒の格好におかしな所はない。見慣れたこの学園の制服で一部の不良生徒がやるような改造もされていない。多少の衣服の乱れならこの状況では当然と言っていい。顔立ちは整っているが、私は残念ながら男子の顔に特別な興味はない。
違和感の元は……技か?
彼は大太刀(150cmから165cm)と変わらぬ長さの棒を大きく振り回して次々と“奴ら”の頭を打つ。その動きは大振りが過ぎるかと思いきや振りの速度が凄まじく、近づく“奴ら”を一撃二撃と続けざまに叩き潰していた。
よく見れば何らかの武術を学んでいるようだが、それでもない……ならば体?
まるでプラスチックの玩具を振り回す子供のように軽々と扱っているが、得物の光沢を見る限り棒は紛れもない金属。表面だけでなく芯まで金属であればそれなりの重量になるはず。それを一見線の細い彼は軽々と振るい、猛攻の中で疲れの一つも見せない。
打撃武器において重さは威力に直結する。あの金棒をあの速さで、しかも大きく振り回されることで遠心力が加わる一撃の威力は、私やもう一人の金属バットで立ち向かう男子のように“奴ら”の頭部を変形させるだけに留まっておらず、叩き潰した頭部を飛散させるほどだ。
体、とも違う気がする。ならば心か?
あの武器……この非現実的な状況下において使える物を探して手に入れたのだろう。よしんば手近にあったとしても、それを振るうのは別の話だ。他者を傷つけ殺傷する行為、それを成さねばならない状況、凄惨な結果への恐怖。
多かれ少なかれ感じるであろう重圧や嫌悪の中で……彼は冷静の一言に尽きる。
この場にいる誰よりも凄惨な光景を作り上げている彼は眉一つ動かさずに淡々と”奴ら”を屠っていた。そこには命を奪われかねない恐怖も、敵を倒した興奮もない。
……心、技、体。どれもどこか変わっているが、私の違和感はこれではない! 何だ!? いったい何なのだ!?
分からないが確信を持って言えることがある。
彼は普通の人間とは“違う”。そして、私はその“違い”に興味を持った。
私はそう不可解な感情を腑に落とし、わずかに高揚した気分のまま二人の“奴ら”を屠る。
次は誰かと木刀を構え…………
……彼らが倒れるその音が、私に戦いの終わりを告げる合図となった。