「こんなもんかな……」
「皆、少し休んでいこう」
力を合わせて扉の前にバリケードを構築した。
「ふぅ~藤原が相変わらずの怪力で助かったぁ」
「ほんの五十か六十キロ程度だろ」
「ほんの、じゃないよ……人一人分、ってか僕一人分。それ腕だけで運ぶって普通は無理だから」
「僕一人分……? 平野、サバをよむな」
「ワァオ、突っ込みどころ満載の奴に突っ込まれた」
「なに馬鹿な話をしてんのよデブオタ。それから藤原、アンタもしかして“リビングデッド”なの?」
「め、メガネ……」
『リビングデッド?』
顔を洗った高城にときめいた平野以外から疑問が漏れる。
また随分と懐かしい呼ばれ方だな……
「リビングデッド……生きる死体、だっけ~?」
「生きる死体……まさか藤原は奴らの仲間!?」
「そういう意味じゃないわよデブオタ! ってか何でそいつの友達面してるアンタが知らないのよ! そいつのあだ名でしょ!? 違うの!?」
「もう少し声を落としてくれ。リビングデッドは俺の事で間違いない。よく知っていたな?」
「言わなかった? 私は天才なの、一度聞いたら何でも覚えるのよ。
無遅刻無欠席で普段の生活態度と成績上は優等生。特に体育じゃ全部の種目でその種目が専門の運動部員をぶっちぎる記録を残して、息も乱さない馬鹿みたいな体力を持った一年だって去年の私の耳に入ったわ。
影が薄くて幽霊みたいに神出鬼没。何事にも無関心で協調性がなくて、しょっちゅう怪我をして学校に来る不気味な問題児とも聞いたけど、そんな最高と最低の評価を同時に受ける奴が本当にいたのね」
「ついでに言わせてもらえば、そう呼ばれたのも一年の中盤までだ。いまやクラスメイトに名前を呼ばれることすら珍しい」
「胸張って言うことじゃないわよ……で? アンタは何しに職員室に来たのよ?」
「あぁ……」
目的を忘れていた。
「鞠川先生、一年C組の出席簿がどこにあるかご存知ですか?」
「出席簿? ……たぶん担任の久保田先生が持っているかその机に」
「どちらの席ですか?」
「そこ。この列の一番端よ」
鞠川校医は机から体を起こして指し示す。
すると机の近くでコピー機によりかかって水を飲む小室の傍で、宮本が口を開いた。
「ひょっとしてこれ?」
手に取られたそれを近づいて確認すると、確かに“一年C組 出席簿”と書かれている。
「ありがとう、ちょっと見せてほしい」
「はい。でも何のために?」
「妹が今日学校に来ていたかを確かめたい。不良でサボりの常習犯なんだが、今朝は気が向いたら行くと言っていたから」
「そうなんだ、名前は?」
「藤原聖花だ」
「聖花ちゃんのお兄さんなの!?」
妹の名前に驚いたのは鞠川先生だった。
「ご存知ですか?」
「私たち仲良しだもの! よく保健室にベッドを借りに来てね、よくスイーツとかコスメについてお話してるの~」
それでいいのか保険の
「今日は見ましたか?」
「いいえ。お友達は来たけど、聖歌ちゃんは見てないわね」
となると家か遊びに出たか……時間はある。もう少し学校も探すとするか。
「ありがとうございました。……そうだ、もしよければ」
俺は技術室から持ち出したアタッシュケースを鞠川先生の隣の机に置いて開ける。
「これお礼です。皆さんでどうぞ」
「あらっ! お菓子が沢山!」
「ポテトチップに飴に駄菓子、すごい量だな……」
「こんなに、どうしたんだ?」
「状況が状況なんでな、捨てられた生徒の荷物から失敬して集めた。ポテトチップは粉になってるだろうけど、食べられるはずだ」
「せっかくだから僕にも何かもらえる?」
「平野はコレがいいだろう。ほらチョコレートバー」
「脂質、糖質、そしてカロリー。保存性も高くて行動食にもってこいなチョコバーを選ぶなんて、分かってるね!」
「そんなんばっか食べてるからデブオタになるんでしょうが! それから藤原、人の荷物漁って集めるくらいならアンタも食糧確保の重要性は理解できるわよね? 軽々しく人に渡していいわけ?」
「俺はもう少し妹を探しに校内を歩くことにする。ついでに購買に行けば食料は調達できるだろう。外にはコンビニや店もあるし、ここから二駅の実家まで戻れば食料と水が大量に備蓄されているから問題ないな。親が金持ちで用心深くてね……こういう時は本当に助かる。
それよりも、そっちはこれからどうするつもりだ?」
俺が聞き返すと彼らは話し合いを始め、途中でテレビから得た情報に驚愕し、困惑し、やがて事実を認めて出した結論は“校舎からの脱出”だった。
対して俺は原作通りか、なら別行動だな……と一度は考える。
しかし一緒に行かないかとの誘いを固辞して、彼らが詳細をつめる様子を見ていたら、いざ外へ出るためにバリケードを除去する段階になって面白そうな事を思いつき、ついつい口を挟んでいた。
「今更すまない、校舎の外への脱出計画。俺にも協力させてもらえないか?」