地獄の中で悠々と生きる   作:うどん風スープパスタ

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六話 協力

「あら、土壇場になって一緒に行く気になったの?」

「同行ではなくて協力だ。話を聞く限りそちらはバスでこの学園を脱出する。ただし途中で脱出を希望する生存者は連れて行く。間違いないな?」

 

 彼らは頷く。

 

「俺は妹を探すためここに残る。しかし別行動をして、もしそちらが見つけた生存者の中に妹がいたら困るだろう? 俺もいない妹を探し続けることになる」

「……外もこの状態なら携帯もいつまで使えるかわからないわね。電話にでられる状況じゃないかもしれない」

「さっき麗の親父さんとの連絡に使ったけど、音も悪いし途中で切れたしな……」

「仮に連絡できたとしても合流を待つ時間はないよ、“奴ら”が集まってくる」

「一度聖花さんを連れて脱出するのはどうかしら~?」

「後で合流できるかどうか分からないのにですか? ……連絡できないと場所だって伝えられませんよ」

「不可能だと考えたほうがいいな。……しかし本人が残るというならまだいいが、脱出を望むなら置いて行くという選択は論外だ。私は彼に同行してもらうのが最善だと思うが、皆はどうか?」

 

 毒島の問いかけへの答えは決まっているも同然だった。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

「幸いにも戦力が増えた。できる限り、生き残りを拾っていこう」

「はい」

「どこから外へ?」

「駐車場は正面玄関からが一番近いわ」

「……行くぞ!」

 

 小室が扉を開けて外へ。射線が空くと平野が“奴ら”をネイルガンで撃ち倒し、皆で正面玄関へ向かう。俺は“円”を使い最後尾で鞠川先生と高城を守る殿を務める。

 

 小室、毒島、宮本の戦闘能力はかなり高い。念を使えないのが不思議なくらいにゾンビ、小室たちは“奴ら”と呼ぶ存在を殴り体を吹き飛ばす。外に出るには苦労しなかった。

 

「うわ~……すごい数ね……」

「想定の範囲内です」

 

 校舎の外は学生服を着た“奴ら”が大勢うごめいている。血液や涎に塗れて歩き回る連中が集まる光景は不気味としか言いようがない。

 

「確認しておくぞ、無理に戦う必要はない。避けられるときは、絶対に避けろ」「連中、音にだけは敏感よ。それから普通のドアなら破るくらいの腕力があるから、掴まれたら食われるわ。気をつけて」

「……ん?」

 

 “円”の範囲に“奴ら”とは違う動きをする存在が四つ。

 物や“奴ら”を避け、武器を持っていることから生存者だ。

 

「どうした? 藤原君」

「人の声が聞こえました、毒島先輩。生存者です」

「なんだって?」

「そんなの聞こえなかったわよ?」

 

 声は俺にも聞こえていない。

 

「間違いはない。助けに行くなら先行する。確証がなければ動かないのであれば、それでもいい。一人で行く」

「ちょっと! 行かないなんて言ってないでしょう!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~高城視点~

 

 勝手に走りだした藤原を追う。

 

「……ったくもう! 何なのよあいつ! あいつの噂、協調性なしって所は間違いなく真実ね!」

「まぁそう言うな。最初から生存者がいたら拾っていく予定だったんだ」

「そうですよ高城さん、一刻を争う事態なんですから」

「藤原君は、聖花ちゃんを、探してるんだもの……過敏にも、なるわよ」

「大丈夫ですか、鞠川先生」

「宮本さん、私、走るの苦手~!」

「そんな事言ってないで、置いてかれますよ!」

「てかあいつ足速すぎるだろ!」

 

 道には当然のように“奴ら”がいるけれど、あいつはそれを一人残らず倒しながら走っている。こうして会話できるのもアイツが“奴ら”を片付けて余裕があるから。私たちはただ走ってるだけなのに追いつけない。

 

「過敏? 一刻を争う? どこでそう思うのよ?」

「高城?」

アイツ(藤原)は異常よ。それに誰も気づいてないの?」

 

 私が言うと皆が分からないといった顔をする。

 ……毒島先輩だけは何か思い当たるみたいだけど。

 

「高城、そんなこと言うなって。こんな状況なんだ、藤原も俺たちの仲間じゃ……」

「違うわ。アイツは共通する目的のために、一時的に同行してるにすぎない。言ってみれば互いに利用しあう関係よ。仲間なんかじゃない」

 

 私の強い物言いに小室の目が鋭くなる。

 それを見て毒島先輩が話しに割り込んできた。

 

「ここで言い争っても仕方あるまい。高城君、なぜそう考えるのかを話してくれないか? 幸い、今は彼のおかげで“奴ら”は近づけないようだ。私も警戒に回る、穏便に話をつけてもらいたい」

「……小室、アイツの持ち物を言ってみなさい」

「持ち物? あの棒と背負ってるアタッシュケースだよな? 中身は食べちまったけど大量に菓子があって……後は釘と腰に棒が二本ある」

「あれ、先が制服で隠れて棒に見えるけど斧よ。災害救助用の。ベルトが見えたわ。でも私が言いたいのはそれらをどこで手に入れたかってこと」

「どこでって、どこですか? 高城さん」

 

 すぐに答えを聞いてきたデブオタにちょっとは自分でも考えなさいよ! と言いたいのを我慢して続ける。

 

「技術室準備室よ」

「準備室? 技術室までなら、僕らも行きましたよね? あんなの、あったなら僕らも行けばよかったかな……」

「無理よ。扉に鍵がかかっていたもの。あいつはそれを何らかの方法で開けてあの武器を手に入れたの」

「別の所から持ってきた可能性は?」

「無いわね、証拠はあのアタッシュケースとその中に入ってた大量の釘。アタッシュケースは技術教師である村井の私物よ、イニシャルも確認したわ。お菓子と同様に拾ってきたのね。

 それにデブオタが持ってるネイルガンの弾になるから、技術室の使える釘は全部持ってきたもの。あれだけ大量の釘は技術室を除くと準備室以外じゃそうそう手に入らない……あいつは鍵をどうにかして開けた。そのために時間をかけて“奴ら”に見つかるリスクを負って、より強力な武器を求めたのよ」

「それは普通じゃないか? こんな時だ、俺だってバットより強力な武器があったら欲くなるさ」

「でも藤原は途中で食料も集めていた。強力な武器を求め、生きるために必要になる食料を確保して……とっても冷静な行動だと思わない? 冷静すぎる(・・・・・)ほどにね。

 職員室でも妹を探すと言いつつ出席簿を確認した後すぐ探しに行こうとしなかった。不満一つ言わずに私たちが出るタイミングに合わせていたじゃない。

 冷静だからこの事態の原因にアイツが関わってる、なんてチープな推理漫画みたいなことを言うつもりは無いけど、あいつの行動は妹が心配で切羽つまった兄の行動じゃないわ。本当に心配をしていたとしても、藤原とアンタたちの間には認識に大きな差がある。

 ……アンタたちが想像しているより、あいつの妹への優先順位は低いわよ」

 

 話をしすぎて息が上がりそう……でもこれだけは言っておかなきゃいけなかった。

 

 それにまだ確証は無いけれど……藤原からはサイコパスの傾向が見て取れる。

 

 例えば相変わらず“奴ら”を倒し続ける藤原の攻撃には、素人目に見ても躊躇(ちゅうちょ)がなくてまるで罪悪感がないように見える。これが罪悪感の欠如、または良心の欠如ならサイコパスの特徴の一つに当てはまる。

 

 そして藤原の噂にあった協調性のなさと無関心……感情や他者との共感能力の欠如もサイコパスの特徴。

 

 何よりサイコパスは精神病の類じゃない(・・・・・・・・・)。日常生活は問題なく送れるし異常に気づかれにくい。表面上は魅力的な人間に見えることもある。

 

 迂闊に信用したら、信じていたのに……なんて事になりかねない。

 

 サイコパスとは“過度な自分勝手”だと私は考えるわ。

 何よりも自分の思うように行動し、周りの迷惑や感情を顧みず、目的を達するためにどんな手段でも使える人間。そして、ときに冷淡。

 

 藤原とは目的が同じ方向を向いているから今は協力関係を築けているんじゃないの?

 

 私は怖い。

 

 優先順位の低い妹を行動の理由にして、アンタは何がしたいのよ……

 何で私たちと行動するの? 目の前で力を振るう藤原の姿が不安を後押しする。

 

 アイツの強さは認めるし、この状況下では魅力的だけどそれだけ。

 矛先がこっちに向かえばより大きな脅威にしかならない。

 自分たちの首を絞めかねない危険分子を不用意に仲間にするなんて、絶対にできない。いいえ、させないわ!

 

「……こんな状況だからこそ、仲間にする奴はちゃんと選びなさい」

 

 私が気をつけないと……こっちは揃いも揃って馬鹿みたいなお人よしばっかりなんだからっ!


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