大好きなお姉ちゃんの誕生日に向けてサプライズパーティーを計画する葵ちゃんのお話です。
葵ちゃん視点で進みます。
ウチの子設定もりもりですのでご容赦ください。
誕生日記念SS

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琴葉葵のお誕生日サプライズパーティー!

「お姉ちゃん! 朝だよ、起きて!」

 

 私は目の前のドアを乱暴にノックしながら叫ぶ。

 しかし、返事は無い。部屋の中は人が動く気配すらない。

 恐らくこの部屋の持ち主は、いまだ覚めぬ夢の中にいるんだろう。きっと今日も楽しい夢を見てだらしない寝顔を晒しているに違い無い。

 私としてはそれを邪魔するのも気が引けるんだけど、今はそんな事を言っている場合じゃない訳で。

 

「もう、お姉ちゃん! 遅刻するでしょ!」

 

 こうなったら仕方ない。溜め息を一つ吐きつつ、私は無言を貫くドアを問答無用で開け放った。

 開いた先は、まあ一般的な広さの部屋だ。そこらにある小物が女の子らしく可愛らしい……それが散らかっていなければ可愛らしい、普通の部屋。

 私の部屋ではない。しかし私にとって見慣れた部屋だ。

 

「ちょっと、またなんか散らかしてるし……」

 

 その部屋の惨状に思わず小言がこぼれてしまった。いけないとは思っているけど、コレも性分なんだろう。もはや半分諦めぎみな私である。

 さて、今はそんな些事に構っている場合ではない。私は気合でそれらを視線の外へと放り投げた。そして目的を遂行するために、部屋へと足を踏み入れて窓際に置かれたベッドへと向かう。

 

「……ああ、やっぱりまだ寝てるし」

 

 案の定、案の定だ。

 そのベッドでは、一人の少女がすやすやと寝息を立てていた。

 美少女と呼ぶに相応しい美貌に、艶やかな桃色の髪。

 黙っていればまるでお人形さんのような愛らしい顔が……何と言う事か、涎をたらしてアホ面を晒している。

 

 うん、ごめんなさい、さっきのは嘘です。

 そのベッドでは、一人の少女が、ガーガーとイビキを立てて爆睡していました。

 

「ちょっと、お姉ちゃん……」

 

 これはいけない。とてもじゃないが、これは世間様には見せられない顔だ。

 一体どんな夢を見ているんだ……あ、なんか口がモゴモゴ動いている。何か喰っているな、これは。間違いない。

 

「もうちょっと、こう、なんかあるでしょ……」

 

 女の子がこんな顔を晒すなんて、まるで自分の事のように恥ずかしい、私の顔までなんだか熱くなっている気がする。

 迫る時間もあるが、コレをこのまま放って置く事など私には許されない。

 

「もおお、いい加減に起きてよ! お・ね・え・ちゃ・ん!!」

 

 私は今まで以上に声を張りながら、勢い良くベッドから掛け布団を引っぺがした。

 そのまま布団を背後に放り投げる。後ろで布団が音を立てるのを聞きながら、私はその引っぺがした後を見つめていた。

 

「う、んーー」

 

 動いた。

 最近は暖かくなってきたといっても、まだ春先。布団の温もりからいきなり開放されたから、ちょっと肌寒いんだろう。

 まるで猫のように一度丸まり、身を震わせて。そしてまた猫のようにうーんと身を伸ばす。

 そして、ゆっくりとその瞳を開いた。

 寝起きでボーっとしているのか、少し潤んだ宝石のような瞳がゆらゆらと動く。

 そうしてしばし空を彷徨っていた視線が、私の方を向いた。

 

「……ああ、なんや、葵かー」

「なんやじゃないでしょ、もう良い時間なんだから早く起きてよ」

「んんー、もうちょっとー、あと五分……」

「なにベタな事言ってるの! 朝ごはん食べる時間無くなるよ! 早く起きて!」

「んんんー、葵のいけずぅ」

 

 そうやって愚図る身体を、私は無理矢理にでも起こしていく。

 本当にギリギリなのだ。五分も寝られたら下手すれば走らなければならなくなる。 

 両手を引っ張って、はい起きて起きて。

 

「ほれ、きりきり起きるー」

「ああああ、ウチのオフトンさんがぁ」

 

 ……さて、突然だがここで自己紹介をしておこう。

 私の名前は琴葉葵。どこにでも居る普通の女子高生だ。

 そして、この今だしぶとく布団に足だけでしがみ付き泣き言を上げる美少女が、私の自慢の……そう、自慢の、だ。嘘じゃないよ。

 とにかく、私の姉……お姉ちゃんの、琴葉茜だ。

 

「ほら、しゃきっとしてよ」

「うーん」

 

 と言いつつ、立ち上がったお姉ちゃんは伸びをする。爪先立ちまでやって、身体をぷるぷる震わせている。

 なんかカワイイ。

 

「……目、覚めた?」

「っはああ、あー、まだちょっと眠いわぁ」

 

 そういって欠伸をするお姉ちゃん。ただまあ、目は覚めたようだ。

 ちょっと垂れ目で優しげな瞳に、私の姿がはっきりと写った。 

 

「ん、おはようさんやで、葵」

「おはよう、おねえちゃん」

 

 にこっと人懐っこい笑顔で言うお姉ちゃんに、私も笑顔で返した。

 

「ほら、早く顔洗ってきてね。朝ごはん冷めるよ」

 

 なんにせよ、お姉ちゃんが起きたのだから、私のミッションは遂行されたのだ。

 とりあえず、これなら遅刻はしないだろうと。ほっと胸をなでおろしつつ、私はお姉ちゃんの部屋を後にした。

 

「んー、すぐ行くから、ちょお待っててなー」

 

 背後からお姉ちゃんの声が聞こえた。

 さて、私もまだ朝ごはんを食べてない。朝ごはんは一緒に食べるのが我が家の習慣だ。

 もうほとんど準備は終わってるだろうが、何か手伝える事でもあるかな……。

 

 そんな事を考えながら、私達の部屋のある二階からリビングのある一階へと。私は階段をとんとんと降りていくのだった。

 

 

 私の何気ない日常は、こうして姉を起こす所から始まる。

 今日も変わらない、何気ない日常の始まりだった。

 

 

 ただ、今日は違う。

 今日は、いつもとは違う特別な一日だ。

 

 だって、今日は。

 私の大好きなお姉ちゃんの、誕生日なんだから――

 

 ◆

 

 ~数日前~

 

「サプライズパーティー?」

 

 私の目の前に座る金髪で胸の大きい女の子が、驚いたような声を上げた。

 いや、現に驚いているな、これは。美しく気の強そうな瞳が、ぱっちりと見開かれているし。

 

「そう、ほら、もうすぐ誕生日だからさ、お姉ちゃんを驚かせたいんだよね~」

 

 友人達を見回しながら、私はそう返していた。

 

 ここは私達行きつけの喫茶店だ。そこに私を含めて四人の子が、それぞれ頼んだ物を口にしつつ話をしている。

 

 私の向かい側に座る金髪の子が、マキちゃん。その隣がゆかりちゃん。そして、私の隣に座るのがずんちゃん。

 みんな私達の幼馴染だ。もちろんお姉ちゃんとも幼馴染である。

 

 ただし、今この場にお姉ちゃんは居ない。

 当然だ。なぜなら今、私が密かに計画を立てていた、お姉ちゃんお誕生日おめでとう(トリプルオー)サプライズパーティーの相談をしているのだから。

 まあ、相談と言っても、皆にその事を打ち明けたのは、今この瞬間なんだけど。

 マキちゃんだけでなく、他の二人も驚いているのはそのためだろう。

 

「だから、部屋の飾りつけとか手伝って欲しいの。その日はお母さん達遅いし、学校終わってから準備するから私だけじゃ間に合わないし」

「飾りつけとかもするんだ?」

 

 ゆかりちゃんがちょっと引き気味だ。まあ、私達の歳でそこまで派手なパーティーとかはやらないだろうし。

 ただ、驚かせるならそれくらいやりたいんだよね。

 

「いいじゃん別にー。ほら、色紙でわっか作って、あれ何て言うんだっけ? まあそんなのとか。あとは横断幕に『お姉ちゃん誕生日おめでとう!』って書いたり……」

 

 そう言った所で、なぜかマキちゃんがムッとしたような顔をしている事に気付いた。他の二人も、なんだか困ったような顔をしている。 

 

 確かに、いきなりこんな事を頼まれても困るだろう。皆にも予定はあるだろうし。

 ただ、私一人ではどうやっても難しい。お姉ちゃんを驚かせるんだから、飾りつけは当日じゃないとダメだ。

 私達は皆同じ学校で、私もお姉ちゃんも部活とかはやってないし。私一人だと準備が終わるまでにお姉ちゃんが帰ってきてしまう。

 それじゃ失敗だ。

 

 とは言え、無理を言っても皆に悪いよね。マキちゃんはバンドもあるし……

 

「あー、ゴメン、無理言って。じゃあ誰か、予定が空いてたらでいいんだけどさ。その日時間を稼いでくれないかな? 私の準備が終わるまで、お姉ちゃんを買い物にでも連れ出しておいてくれればソレで……」

「あー、まってまって、手伝わない訳じゃないから」

 

 マキちゃんが私の目の前で手を振っている。なんだろう、仕方ないなと、何か諦めたような表情だ。

 

 良く分からないが、とにかく手伝えないという訳では無いらしい。

 なんとか助けてもらおうと、私は両手を合わせて皆に拝み倒す。

 

「手伝ってくれるの? 良かった、やっぱり一人だと難しいし。今度埋め合わせはするから!」

 

 お姉ちゃんのためならたとえ駅前のケーキバイキングでも奢って見せようじゃないか! ただプレゼントを買って金欠だから手加減はして欲しい!

 そう気合を入れて頭を下げると、上から盛大な溜め息が聞こえた。

 

「あーわかったから。手伝う手伝う。二人も良いよね?」

「私は良いけど……」

 

 ゆかりちゃんはちょっと気乗りし無さそう? いや、アレは呆れてるような感じだ。

 

「私も良いわよ、まあ、何とかしましょ」

 

 ずんちゃんも承諾してくれた。無理言っちゃったかな……。

 

「つってもなあ、うーん……」

 

 あれ、マキちゃんが何か考え出した。どうしたんだろう。別に難しいことを頼む気は無いんだけど……

 

「良し、あれだ。準備は私達でやるから。時間稼ぎは葵がやってよ」

「へ?」

 

 え、それは予想外。恐らく大変なのはパーティーの準備の方だし、私はそっちやろうと思ってたのに。

 それに、予定だと会場は私達の家だ。両親不在で、マキちゃん達だけ家に上げるのはどうなんだろう。

 幼馴染でお互いの家は行き来してるし、皆が変な事するとは考えられないけど。

 

「うーん、流石に悪いというか、親も居ないし……」

「でも最初は私達が居ない方がサプライズ感はあるじゃん? おばちゃん達にはちゃんと前もって言っといてさ」

 

 確かに、当日皆が居ない方が驚いてもらえるだろうけど。

 

「とりあえず、まずはおばさんに聞いてみたら? それで良かったら、でいいんじゃない?」

「そうよねぇ、おば様がダメって言ったら諦めましょう。その場合は、私達の誰かが時間稼ぎね。多分大丈夫でしょうけど」

 

 ゆかりちゃんとずんちゃんも同意見のようだ。まあこの三人だし、親同士も面識はあるし、お母さん達もダメとは言わないと思う。

 それならもう、私も反対する理由は無い。

 

「わかった、今日帰ったら聞いてみる」

「おっけ、じゃあその答え聞いてから、どうすっかは考えよう」

 

 マキちゃんのその言葉で、相談は終わった。後はいつもどおり他愛の無い話に花を咲かせて、その日はお開きとなったのだった。

 

 

 その後、家に帰ってから、お姉ちゃんに見付からない様にコソコソとお母さんに話をすると。

 なにやら、え゛っと変に驚かれた。

 てっきりすんなりOKをもらえると思ってたので私も驚いたが、結局はOKだった。

 なので当日は、マキちゃんに合鍵を貸して、準備をしてもらう事にする。

 

 そうして、その後何度かコソコソ集まって打ち合わせをして、誕生日当日に至るのだった――。

 

 ◆

 

 そして、今日。

 誕生日当日。

 

 授業が終わった放課後の時間、私はお姉ちゃんと一緒に帰るために、お姉ちゃんのクラスまでやってきた。

 一緒に帰って、駅前とかのお店に寄り道したい。そう朝の内にお姉ちゃんには伝えてある。

 

「あ、葵~」

 

 ちょうどお姉ちゃんも帰る所だったようだ。教室から出てきたお姉ちゃんは、こっちに気がつくとなんとぶんぶんと手を振ってきた。

 ひいい、何してるの!? 周りの皆がなんか微笑ましい感じで見てきてるじゃん! 

 

 私は早足でお姉ちゃんに詰め寄ると、その手をぎゅっと引っ張って歩き出した。

 

「ちょお、葵、急がんでもええやんかー」

「いいから! 早く行こうよ!」

 

 そう言って私達は、周りの視線から逃げるように学校を後にしたのだった。まったく、恥ずかしいにもほどがあるって……

 

 ◆

 

 学校を出た私達は、駅前の百貨店へと寄り道をしていた。ここは帰り道近くと便利なのでみんなでも良く来るお気に入りの場所だ。

 お姉ちゃんは店のショーウィンドウに張り付き、これええなー、かわいーなーと、しばらく動かなかったりする。

 普段は置いて行きそうになる困った行動だが、今日は時間稼ぎなので都合が良い。

 

 そうしてしばらく店を冷やかしていると、お姉ちゃんがふと立ち止まった。

 どうしたのかとその視線の先を追うと、それと同時にお姉ちゃんがたたっとそちらへと走りだしていた。

 

「うわ、お姉ちゃん、急に走らないで!」

 

 慌てて後を追う私。そうしてついた先は、とある宝飾店だった。

 

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「あんなー、あの時の髪飾りが売れてしまってんねんー」

「髪飾り」

 

 覗き込んでいるお姉ちゃんの身体越しに、その先を見る。

 瞬間、心臓が跳ね上がった。

 

「……あ、ここって」

「なー、なくなってんねん。売れたんやろなあ」

 

 そこは忘れもしない。今から一ヶ月前、お姉ちゃんと一緒にここへ寄り道に来た時の事。

 

 この店で、お姉ちゃんは一対の髪飾りを見つけたのだ。

 それは青と赤の対になった髪飾り。ちょっと和風で、そんなに派手でない、素朴な物だったけど。

 お姉ちゃんには、すっごく綺麗で、キラキラ輝く宝物の様に見えたのかな。

 お姉ちゃんの食いつきは相当な物だった。目をキラキラさせて、これいいなーと、連呼していたのを覚えている。

 

 そして、今そこにあるのは、sold outと書かれた札だった。つい最近売れたんだろう、代えの品も出ていない状態だった。

 

「売れちゃったんだね」

「なー、綺麗やったんになあ」

 

 ちょっとしょんぼりしているらしいお姉ちゃん。どうやらかなりお気に入りだったらしい。

 それなら買えば良いじゃんと思うかもしれないが、なかなかお値段が張る品だった。唯の女子高生にはちょっと厳しいだろう。

 まあ、この日のために月の小遣いをちょっと貯めておけば、もしかしたら片方くらいは買えたかもしれないが。

 

「そっかー、まあ仕方ないなあ」

 

 そう言って名残惜しそうに其処を見つめるお姉ちゃん。

 

 対して。

 私の心臓はバックンバックン鳴りっ放しだった。

 

 それはそうだろう。

 何せその髪飾りの片割れが、今まさに私のカバンに、綺麗にラッピングされて隠されているのだから。

 

 つい先日、今日の誕生日プレゼントにとそれを買ったばかりなのである。

 小遣いが数か月分吹き飛び、更にちまちま続けていた家事手伝いの賃金をお母さんに請求して、やっと片方を買えたという一品だ。

 

 私が買いに来た時、なぜかすでに青い方は売れていて赤い方だけだった。

 私の目当てはそっちだったので、ホッとしたものだ。

 売れ残ったのか知らないが、その残った赤い方を買いたいと申し出ると、店員さんはちょっと驚いていたけど。

 姉へのプレゼントだと言うと、笑顔で了承してくれたんだ。

 そして、その店員さんが綺麗に包んでくれた現物が、私のカバンにある。

 

 私は顔に笑顔を張りつつ、流れる冷や汗をしれっと拭いつつ。なんでもないという雰囲気を精一杯かもし出しながら、お姉ちゃんの肩を叩いた。

 

「お姉ちゃん、ずっとココに居ても邪魔になっちゃうし、別のとこ見ようよ」

「そうやなあ、迷惑はかけれんしなあ」

 

 そう言うと、お姉ちゃんは渋々と言った感じで、その店から離れてくれた。

 その気落ちした姿にちょっと心が痛むが、それもすぐ止むだろう。だって、それを今日はプレゼントできるのだから。

 

 何より、このプレゼントが大当たりであった事を確信できたので良しとしよう。これを渡した時のお姉ちゃんを想像すると、頬が緩みそうになる。

 

「ん、どうしたんや、葵?」

「いやいや、なんでもないよ!」

 

 おっと、実際に緩んでいたようだ。今日はこれからお姉ちゃんを驚かせるんだ。ポーカーフェイスを心がけねば。

 ポーカーフェイスポーカーフェイス。

 

「なんや葵、ちょっと顔キモイで」

「顔がキモイ!?」

 

 突然の暴言に、思わず声が大きくなってしまった。

 もう、恥ずかしい事させないでよね……。

 

「お姉ちゃんのバカ」

 

 それだけ言って、さっさと歩いていく私。慌ててお姉ちゃんが後を追ってきた。

 

「ええ、ちょっとまってえな、葵ー」

 

 知らない。ちょっとは反省してなさい。

 

 そうして、私達はしばらくお店を転々として、時間を浪費していったのだった。

 

 ◆

 

「うおっと、なんや電話か」

 

 もうそろそろ良い時間かな、と思い始めた時。お姉ちゃんのスマホが鳴り出した。

 お姉ちゃんの言葉から電話だと分かる。

 

「ちょお待ってて」

 

 そう言ってお姉ちゃんは少し離れて、電話を始めた。

 なんだろう、ちょっと寂しい。

 まあ私も四六時中お姉ちゃんと一緒ってわけじゃないし、共通の友人ばかりという訳でも無い。

 だから別に、電話くらいなんとも……

 

「葵、ゴメンなー、ウチちょっと用事できたわ!」

「えっ!?」

 

 予想外の発言に声が裏返ってしまった。

 てか用事って何? 今から用事って何? まさか男じゃないよねお姉ちゃん!?

 

「つーわけで先帰っててーな! ウチも用事済んだら帰るわー」

「え、ちょっとお姉ちゃん!?」

 

 叫ぶが遅い。お姉ちゃんは言いたい事を言うと、きびすを返しあっという間に走っていってしまった。

 実は意外にも運動能力の高い姉の姿を見て、私は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「……マジで?」

 

 え、嘘でしょ、これ現実なの?

 そんな、せっかく今日は誕生日……

 

「……いや、これはチャンスでは?」

 

 降って来た天啓に、思わず声が漏れていた。

 用事があるって事は、お姉ちゃんが家に帰るのはもうちょっと時間があるはず。

 ならば、私は今直ぐに家に帰ればいいんじゃない?

 そうすれば準備に参加できるし、帰ってきたお姉ちゃんを驚かせる側に回れるんじゃ?

 

「……よし」

 

 一つ頷くと、私は行動を開始した。

 ゴールは我が家。最速で電車へ乗り込んで、急ぎそこへと私は駆ける。

 電車に乗って、地元の駅に着いて、そこから家へと駆け抜けた。

 私も運動能力はそこそこあるのだ。その脚力で持って、私は自己ベスト記録を残しつつ懐かしの我が家へと帰還した。

 

 玄関へと張り付き、チャイムを連打する。

 完全に迷惑行為だが、自宅だし大目に見てもらおう。

 ほら、マキちゃんでも誰でも良いから、早く出て!

 

「……?」

 

 おかしい、チャイムを鳴らしてるのに誰も出ない。

 さっき私だけ帰る事は電話で伝えてるし、どうしたんだろう?

 

 不思議に思ったけど、ここで突っ立ってる訳にも行かないし、私は自分の合鍵で家へと入った。

 

「マキちゃん? ゆかりちゃん? ずんちゃーん!?」

 

 呼ぶが返事は無い。人気も無い。

 なんだろう、買い物にでも行ってるのかな?

 

 そう思って、私はパーティー会場であるリビングのドアを開いた。

 

「え、何、暗!」

 

 カーテンも締め切ってるのだろうか。部屋は真っ暗だった。

 

「ちょっと、どうなってるの……」

 

 何でこんな事に? 準備は進んでるの? なんかおいしそうな匂いがするし、何もしてない事は無いんだろうけど……。

 色々と思いながら、私は部屋へと足を踏み入れる。部屋の電気のスイッチはすぐそばだ、電気をつければ――

 

 その時。いきなり何かが弾ける様な爆音が私の耳を打った。

 パンパンパンパンと同時に四つ。ソレと共に、何か細かい物が頭から降り注いできた。

 

「うえええ!? なになになに!?」

 

 うわああああ、なになになんなの!?

 急な現象に仰天し、私はその場から飛び去るように逃げ出した。

 そのまま、恐らく部屋の壁に張り付き、何事かと目を見張った。

 

 パチンッ

 

 軽い音と共に、強烈な光が目を刺した。

 なんてことは無い、部屋の電気がついたのだ。

 

「へ?」

 

 一瞬で明るくなった事に目が驚いたようだが、すぐに慣れる。

 そして私の目に映ったのは、なんだかニヤニヤしながらこちらへ小さな紙筒……クラッカーを向けた、親愛なる我が幼馴染達だった。

 

「あはははは、葵驚きすぎ! いやあ面白いモン見れたかもね!」

「笑いすぎよマキ。……ちょっと、葵、大丈夫?」

「まあ、サプライズ大成功ーって、事じゃないの?」

 

 色々と言ってくる彼女らを見て、一瞬頭が真っ白になっていた私だったけど。

 すぐに気を取り直して、思わず声を荒げてしまった。

 

「ちょ、ちょっと、何してんの? 私じゃないでしょ!? 驚かせるのはお姉ちゃんじゃないの!?」

「いや、あんたであっとるよ」

 

 耳に届いた声に、私は全身をビクッと震わせた。

 今の声は。多分私が、一番聞きなれている声だ。

 その声を聞き間違えるはずは無い。

 でもなんで? なんでここにいるの?

 

 恐る恐る声のした方へと顔を向ける。

 

 そこにいたのは。私の想像通りの人物で。

 

「……お姉ちゃんんんんんんん!!?」

 

 私の驚愕の絶叫がリビングに響き渡ったのだった。

 

 ◆

 

「もおおおおお、なんでお姉ちゃんが居るの!?」

 

 本当に意味が分からない。

 お姉ちゃんは用事があったんじゃないの? なんでココに居るの?

 

「なんでって、タクシーで急いで帰ったからやで」

「そんな真面目な話聞いてない!!」

 

 タクシーって何さ? それなら確かに私より先に家に着くよね! 納得!

 でも私が聞きたいのはそんな事じゃないんだよ!

 

「まきちゃん? これは一体どういう事なの?」

 

 私は自分でもびっくりするくらい低い声で、幼馴染へと問い詰める。

 流石に驚いたのか、青い顔でマキちゃんは首をぶんぶんと横へ振っていた。

 

「し、仕方ないじゃん! 茜にはとっくにバレてたんだよ! アイツ怒らせると葵以上に怖いし、しょうがなく協力を……」

 

 え、なに、バレてたってどういうこと!?

 

「あんなあ、最近あんたらウチに隠れてなんかやっとったやろ? 時期的に誕生日の事や思って、マキを締め上げたんや」

 

 そしたら洗いざらい吐いたでえ、と。お姉ちゃんは悪い顔で笑っている。対してマキちゃんは青い顔してぶるぶる震えていた。一体なにしたのよ。

 でも、そこじゃない。私が衝撃だったのはそこじゃない。

 

「そんな……」

 

 そんな、前から計画してたのに、まさかお姉ちゃんにバレてたなんて……

 

 私はかっくりと膝から落ちて、その場に座り込んでしまった。

 せっかくお姉ちゃんを驚かせようと思ったのに。それから誕生日パーティーやって、お姉ちゃんに喜んでもらおうと思ったのに。

 これじゃ台無しじゃんか。

 

 なんだか、鼻の奥がツンとなる。ダメだ、せっかくのお姉ちゃんの誕生日なのに、泣いたら……

 

「あっはっはっはっは! 残念やったな葵! お姉ちゃんを出し抜こうなんて百万光年速いわー!」

 

 泣いたら……

 

「なんや失敗したから泣くんか? まだまだお子チャマやな葵はー。なんならおねえちゃんがオムツ替えたろかー?」

 

 泣いた……

 

「まあこれに懲りたら、二度とお姉ちゃんをハメようなんて考えんことや、まあどうせ葵には無理無理カタツムリやろうけどなー、あっはっはっは!」

「もおおおおおおお、お姉ちゃんのバカーーー!!」

 

 芝居がかった様子で高笑いするお姉ちゃんに、思わず感情が爆発してしまった。

 

「何よ、せっかく誕生日お祝いしてあげようと思ったのに! 色々考えてたのに! どうしてこんなぶち壊す様な事するの!?」

 

 嫌だな、こんな事言いたいんじゃないのに。でも、口が止まらない。

 

「もおお、お姉ちゃんのバカ、バカ――」

「アホはあんたや、葵」

 

 がしっと、お姉ちゃんに両肩を掴まれた。

 

 え、何。どうしたの、お姉ちゃん。そんな怖い顔して?

 ごめん、怒鳴ったのはあやまるから、だからそんな顔しないで――

 

「葵、あんた大事な事忘れとるやろ?」

「……え?」

「ウチを祝う事ばっか考えて、何で自分の事は考えんのや」

「自分の事?」

「あんたも、今日誕生日なんやで? ウチだけやないんやで、今日誕生日なんは」

「そ、そんな事分かってるよ、だって私達、双子じゃん」

 

 そう、私とお姉ちゃんは双子の姉妹だ。

 生まれた日は一緒。お姉ちゃんも、私も、今日が誕生日。

 そんな事、忘れるはず無いでしょ?

 

「じゃあ、あんたも祝われる立場だって事は?」

「それは……」

 

 そう言われて、私は口を噤んでしまった。

 私は今日、お姉ちゃんの誕生日を祝う事を考えていた。それを最優先に考えていた。

 私自身も誕生日だって事は忘れてはいない。けど、それは……

 

「ウチを祝うゆー事でいっぱいいっぱいやったんやろ?」

「そんな事」

 

 無い、とは続かなかった。

 そうかもしれない? 正直自分でも分からない。わかんないよ、そんな事。

 そもそも、自分で自分を祝おうとは思わないじゃん。祝ってあげたい人が居るならそっち優先じゃん。

 私はただ、お姉ちゃんに喜んでもらいたかったから。お姉ちゃんが喜んでくれたら、私も嬉しいから。

 だから……

 

「ウチだって葵を祝いたいんや。可愛い自慢の妹の誕生日をお祝いしたい。今日はな、ウチだけが主役やないんやで?」

 

 葵も主役なんや、と。

 ぽんっと、お姉ちゃんが私の頭に手を乗せた。

 

 昔からやる癖みたいなものだ。こういう時、お姉ちゃんは殊更お姉ちゃんぽく振舞ってくる。

 歳は同じで、生まれた日も同じで、未だに背丈だって違わないのに。

 ちょっと早く生まれたからって、お母さん達にはお姉ちゃんとしてちょっと厳しくされてて。

 それでもこうして、お姉ちゃんっぽく振舞う。普段はダメダメな癖に、こういう時は立派にお姉ちゃんしてて。

 

 頭に乗せられた手が、じんわりと暖かかった。

 

「……ごめん」

「ええで、別に謝らんでもええんや。気付いたんならソレでええ」

 

 お姉ちゃんがなぜかドヤ顔している。頭の上にどやあぁぁって文字が浮かんでいる。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだったのに、その顔でちょっとイラッときた。

 

 なによ、ほんとお姉ちゃんぶって、未だに家族で一人だけ関西弁が抜けない癖に。

 まあそんな事気にもしてないんだろうけど、お姉ちゃんは。

 

「それに、祝いたいんはウチだけやないんやから」

「え……」

 

 そう言って、お姉ちゃんが目線をそらす。その先に居るのは、幼馴染の三人だ。

 

「もともとな? 祝ってくれるつもりやったんやで、あの三人。まああんたに言われて急遽予定変更したみたいやけどな」

 

 みんなも葵をお祝いしたかったんや、と。お姉ちゃんが言った。

 その言葉を聞いて、思い出した。あの喫茶店でこの事を打ち明けた時の事。

 マキちゃんがちょっと顔を歪ませてたのは、確か……

 

『あとは横断幕に『お姉ちゃん誕生日おめでとう!』って書いたり……』

 

「あ」

 

 気付いた。私の勘違いだ。急にあんな事言われて困ってた訳じゃないんだ。

 きっと、あの時、マキちゃんが怒ったのは。ゆかりちゃんとずんちゃんが困ってたのは。

 

「……ゴメ――」

「謝らないの」

「っぶ!?」

 

 咄嗟に謝罪の言葉を口にした私に、ずんちゃんが口調とは裏腹な鋭いチョップを脳天に叩き込んできた。

 ちょっと、舌噛みそうだったじゃん!?

 

 頭をさすり涙目で顔を上げた私を、三人が笑顔で見ている。

 ……いや、二人はなんだか苦笑いだぞ。

 

「あーっと、ほら、私達の仲じゃんか、そんなのいらないっての。せっかくのパーティーなんだし、楽しくやろうって!」

「そうよ、辛気臭い話は無し。せっかく頑張ってお料理作ったんだから、早く始めましょ」

 

 私達の中で料理が出来るのはゆかりちゃんとずんちゃんと私だ。

 お姉ちゃんは作れない訳ではないが、いつも私に任せきりで自分では料理をしない。まあ、今日は私と一緒にいたし、そんな時間も無かっただろう。

 

 料理は事前に何品かこそっと作って冷蔵庫に隠していたが、それよりも種類が圧倒的に増えている。きっと二人で作ってくれたんだろう。

 沢山の料理が並べられて、テーブルはまるでレストランのそれだった。ど真ん中にうずたかく積まれたずんだモチは視界からそっと外しておこう。

 

 あ、マキちゃんはマジで作れない。アレは料理じゃない、錬金術めいた別のナ二かである。

 

「ちょっ、なんだよ!? 私は飾りつけで頑張ったんだからいいじゃんか!」

 

 おっと、知らず知らずかわいそうな目で見てしまっていたらしい。なにやら察せられたみたい。

 そんなマキちゃんの半べそかいた叫びに釣られて、改めてリビングを見渡す。

 

 リビングは見違えるように飾り付けられていた。あの名前の分からないわっかのつながりさえ、センス良く飾られている。

 マキちゃんはバンドもやってて、芸術関係のセンスは凄いの一言なんだ。

 そんなマキちゃんの手で、唯の一般的なリビングは、立派なパーティー会場へと姿を変えていた。

 

「どうや、凄いやろ?」

 

 おねえちゃんのドヤ顔がうざい。なんであなたがそんな顔してるの。

 でも、確かに凄い。

 三人共、本気で祝ってくれているんだ。私と、そして。

 

「……横断幕、派手過ぎない?」

 

 苦笑した私の目に映るのは、ド派手に装飾された横断幕。そこには『葵 茜 二人共誕生日おめでとう!』と描かれていた。

 

「なんだよ、傑作なんだぞ?」

「いや、分かるけど」

 

 マキちゃんまでドヤ顔してきたので、ぷっと吹き出してしまった。

 止めようとしたけど、笑いが止まらなかった。そんな私に釣られたのか、私達はみんなで声を上げて笑っていた。

 

 

 

 もう、確かに、コレなら疑いようは無い。今日の主役は、お姉ちゃんと、私なんだろう。

 なら、主役が暗い顔してる訳にはいかないじゃない?

 

「みんな」

 

 だから、もう間違えない。

 言うべき言葉を、取り違えたりしない。

 自分でも最高と呼べる笑顔を作って、私は口を開いた。

 

「――ありがとう!」

 

 でも、声はちょっと、震えてたかな。

 

 ◆

 

「そや、葵、誕生日プレゼントがあんねん」

 

 色々あったけど、私達は予定通り、誕生日パーティーを開始して、みんなで料理を食べ始めて、ちょっと一息ついた頃。

 隣に座ったお姉ちゃんが、なにやらゴソゴソと持ち出してきた。

 

「ほい、気に入るとええんやけど……」

 

 お姉ちゃんにしては珍しく、ちょっとモジモジとしながら渡してくる。

 ソレを受け取って、私は大きな衝撃を受けた。

 

「ほら、開けてみてえな」

「う、うん……」

 

 驚きつつも、お姉ちゃんの言葉にそって封を解く。

 そこから現れたのは、お洒落な小さな箱。とても見覚えのある箱。

 ちょっと震えている手で、蓋を開けてみる。

 

「へへへ、驚いたー、葵?」

 

 本当に、心底驚いたよ。

 だって、それは。

 

 あの時の、髪飾りだった。

 一瞬見間違えたが、その色は青。

 私の髪の色にあわせた様な、青い髪飾りだった。

 

「どうして、これ……お姉ちゃんが、欲しがってたやつじゃん?」

「何言うとるんよ、葵だって目えキラキラさせてそれ見とったやん? 綺麗って、呟いてたし」

 

 そうだったっけ? あの日は、お姉ちゃんがその髪飾りをすっごく欲しそうに、まるで宝物のように見てて。

 そして……

 

 ……そっか。思い出した。

 私もそうだったんだ。

 

 お姉ちゃんがええなと言ったその髪飾りに、私も心を奪われていたんだ。

 ちょっと和風で、そんなに派手でない、素朴な物だったけど。すっごく綺麗で、キラキラ輝く宝物の様。

 それは、『私』の想いだったんだ。

 

 私でも気付いてなかった所を、お姉ちゃんはちゃんと見ていてくれたんだ。

 

「それで、貯めとったお年玉貯金で買ってんけど、一個分しかお金なくてな。店員さんに頼み込んで一個で売ってもろたんや。もう一個もいつか自分用に買おう思っとったんやけど、誰かに買われてしもたなあ」

 

 残念やなあ、と。しみじみお姉ちゃんは言った。

 でも、すぐに気を取り直して、私へと好奇心一杯な瞳を向けて。

 

「なあ、それ付けてみい。きっと似合うやろうから、ウチに見せて」

「うん」

 

 言葉少なげに、私はその髪飾りをそっと両手で包み上げた。

 そして、ゆっくりと、慎重に、自分の髪へと飾ってみる。

 

「やっぱり、よお似合うよ、葵!」

「……ありがとう、お姉ちゃん」

 

 面と向かって言われて、ちょっと恥ずかしい。

 マキちゃんに鏡を借りて、自分を写してみる。

 

 確かに。

 自分でも、似合ってると思う、なんて。

 自意識過剰でしょ。

 

「葵」

 

 お姉ちゃんがもったいぶったように私を呼んだ。

 なんだろうと、お姉ちゃんへと顔を向ける。

 

「葵、お誕生日、おめでとさん」

 

 ふんわりと優しい笑顔で、お姉ちゃんはそう言った。

 

「――っ」

 

 ああ、ゲンキンだなあ、私って。

 

 あんなに、お姉ちゃんをお祝いしたい、お姉ちゃんに喜んで欲しい。そう思っていたのに。

 お姉ちゃんにおめでとうと言われて。凄く凄く、嬉しかった。どうしようもないくらいの喜びが胸一杯に溢れてくる。

 

 こんなのってずるいよ。私、色々考えてたのに。今日の事、ずっと前から準備してたのに。

 なんだか、全部持ってかれてしまった。

 本当に、敵わないなあ。お姉ちゃんには……。

 

 だから、お返ししなきゃいけない。

 お姉ちゃんにも、とっておきの、お返しを。

 私の、お姉ちゃんの妹の、琴葉葵の、ほんのささやかな反撃を。

 

 私は、自分のカバンにそっと手を伸ばす。

 そして、中にソレがある事を確認した。

 

 きっと、喜んでくれるよね。気に入ってくれるよね。

 だって、私も、凄く嬉しくて、凄く気に入ったんだから。

 だから。

 

「お姉ちゃんも」

 

 心を込めて、精一杯の笑顔で送ろう。

 

「ハッピーバースデイ、お姉ちゃん」

 

 

 

 本気で驚いていたお姉ちゃんの顔が見れて、してやったりと思っちゃった私は。

 まだまだ、お姉ちゃんには敵わないなと。

 そう、思ったんだ。

 

 ねえ。

 

 大好きだよ。

 私の自慢の、お姉ちゃん。

 

 ◆

 

 

 ココから先は、後日談ってやつ。

 

 あれから、私達のお誕生日パーティーは、結果的には大成功だったんだけど。私的には色々と考えさせられた一日だった。

 

 あの後お母さんが仕事から帰ってきて、私達二人を抱き締めて、おめでとうと言ってくれた。

 もうこんな歳になって、お母さんに甘える日が来るとは思わなかったな。

 ありがとう、お母さん。

 

 それから、お母さんはマキちゃん達にもお礼を言っていた。

 その時知ったんだけど、どうやらマキちゃん達は元々似たような事をするつもりだったらしくて。

 既に裏でお母さんと話をつけてて、最初から合鍵を借りる予定だったらしい。

 お母さんが驚いてたのは、そのせいだったんだ。

 なんだ、私一人で空回りしたみたい。

 

 そして、今日。

 今日はあれから最初の休日だ。

 私は自分の部屋の姿見の前に立っている。

 

 私の髪には、あの時貰った髪飾りが飾られていた。さすがに学校には付けては行けないが、お休みの日はこれが当たり前になりそう。

 そんな、青い髪飾りを飾った自分の顔を見つめて、にっと笑顔を作ってみる。

 

「うん、かわいい、よね?」

 

 私達は双子だから、容姿は瓜二つのはずだ。私はお姉ちゃんをすっごく可愛いと思っているから、つまりは私も可愛いはず。

 そう、思う事にした。

 

 私は今までお姉ちゃん一筋だったから。お姉ちゃん優先だったから。それを、あの時思い知った。

 だから、ちょっとは変えようと、そう思うんだ。

 これからは、自分の事も好きになろうと。お姉ちゃんと同じくらい、自分の事を好きになろうと。そう、なりたいと思うんだ。

 

 だからこれは、その一環。所謂ポジティブシンキングってやつ。可愛くないって思ってたら本当に可愛くなくなるからね。

 鏡の中の自分に、可愛いと、そう言ってあげるんだ。 

 

「葵ー準備できたかー?」

「ちょっ、ノック位してよ!」

 

 お姉ちゃんがいきなりガチャリと部屋へ侵入してきた。

 危ないなあ、鏡に向かってニヤニヤしてる所なんて見られたら、恥ずかしくて死にそう。

 

「あ、お姉ちゃんも」

 

 そこで、お姉ちゃんも髪飾りを付けている事に気付いた。私がプレゼントした、あの赤い髪飾り。

 とっても良く似合ってると思う。

 

「ああ、どうや、にあっとるやろ?」

 

 すんごいドヤ顔来た。まあ、今日のは純粋に可愛いから良いけど。

 

「ほら、うちらそっくりやし、並ぶと良い感じやん」

 

 そう言って、お姉ちゃんは私を姿見の前に引っ張り出し、ポーズを取る。

 

 ……確かに、色合い的にも、合ってる気がする。

 お姉ちゃんもニコニコだ。これが、今後私達のトレードマークになるかもしれない。

 そうなったら、いいなと思う。

 

「さて、そろそろいこか。もうすぐ約束の時間やし」

「そうだね」

 

 今日は、あの日の埋め合わせの日。

 私のおごりで、みんなでケーキバイキング。

 マキちゃん達ももちろん一緒だ。

 

「今日は一杯食うでー」

「もう、ほどほどにしときなよ」

「まあそやな、バイキングの後はボーリング、カラオケ、今日は遊び倒す日やし。しかも全部おごりで!」

「はいはい、別に良いけどね」

 

 私はそれなりに太った財布を自分のカバンに押し込んだ。

 

 あの日、遅くに帰ってきたお父さん。お父さんもおめでとうと言ってくれたから、代わりに二人で髪飾りをつけた姿を見せてあげた。

 そうしたら、なぜだかもんの凄く喜んでいた。正直ちょっと引くくらい。

 

 それで、これが学生にはちょっと高い買い物だった事を知ると、そのお金を全部立て替えてくれたのだ。

 お姉ちゃんが抱きついてお礼を言ってると、もうなんだかデレデレだった。やっぱりちょっと引く。

 ……お父さんも、ありがとう。

 

 そんな訳で、髪飾りのせいで陥っていた私の金銭的困窮具合は、同じく髪飾りのおかげで解消された。むしろお金持ちの気分だ。

 ただ、差し当たって欲しい物も無いので、あの日の埋め合わせを大盤振る舞いする事にしたのであった。

 みんなにも、お礼をしたかったしね。

 

「……よし、忘れ物なしっと。じゃあお姉ちゃん、行こっか」

「おー、出発やでー」

 

 今日も元気なお姉ちゃん。その髪には、綺麗な赤い髪飾り。

 そして、その隣を歩いていく私。その髪には、綺麗な青い髪飾り。

 おそろいの髪飾りをつけて、なんだかちょっと、お姉ちゃんに近づけたかもしれない。

 

「へへへ、葵ー、それやっぱにあっとるなー。可愛いわー」

「ありがとう、お姉ちゃんも、似合ってるよ、それ」

 

 二人で笑い合って。じゃれあって。

 双子だからっていつまでも一緒な訳じゃないけどさ。

 でもその日が来るまでは、二人で一緒。

 

 そしてその日が来ても。

 きっと、私達は大丈夫。ずっと、仲良い姉妹でいられる。

 

 二人おそろいの髪飾りを見て。そう、思えたんだ。


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