シャンヴリルの黒猫   作:jonah

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近々数話をまとめて1話にする作業を行いたいと思います。1話1話の文字数が少ないので…
いきなり話数減って「あれっ?」と思うかと思いますが、よろしくお願いします。

また何かミス等みつけましたらご一報ください


12話「貿易都市シシーム」

 グランドウルフ討伐から4日目の朝、2人は目的地である貿易都市シシームに到着していた。石を積み上げしっかりと固めた城壁と大きな門の前には、武装した兵が昼夜問わず常に町の安全を守っていた。ギルドカードを見せて身分証明をするというのは、アシュレイにとって新鮮な体験だった。

 無事町中に入れた2人だが、馬車を売っている区域を先程からうろうろとしていた。ユーゼリアが腕を組んで唸っている。

「う~、丁度良い値段とサイズのが売り切れてるわね…」

「何か馬車が入り用なことがあった、とか?」

「さあ、特別なことはなにも無いと思ったけど……何かあったっけ?」

「いや俺に聞かれても」

 首を傾げつつアシュレイを見上げる青玉(サファイア)の双眸に、苦笑した。

 それもそうね、と再び立ち並ぶ店に視線を戻す彼女に、貯金の余裕を聞くと、暫く考えた後に答えが返ってきた。

「一応、余裕が無いわけでは無いのよ。まあ、4人乗りを買って、だいたいあと4分の1ってとこかな」

「なるほど」

 暫く考えた末、またじっくり探すことにし、とりあえず今は宿屋でゆっくり休むことにした。

「急ぐ旅でもないし、誰かさんのおかげで追っ手も怖くないしね」

「それは良かった」

 宿代は一泊2部屋で360リール。ユーゼリアはB-ランクなので2割引だった。

 自分で言ったものの、この先ずっと宿代を彼女ひとりに任せ続けるのは、結構気がひける。アシュレイ自身は別にランクの如何に興味はないが、たしか冒険者登録をしたとき、ランクが上がれば上がるほど宿代その他が色々安くなると聞いた。

(なら、ランク上げに勤しむとするか)

 アシュレイとてユーゼリアに負担をかけたいわけではない。面倒であるといえば確かにそうだが、彼1人の我慢((というほどでもないが)でこの先ユーゼリアの負担が小さくなるなら、やらない理由もなかった。

 部屋を確認すると、アシュレイは隣の部屋のドアをノックした。

「なあに?」

「ギルドに行ってくる」

「私も行くっ」

 ドアの向こう側、固い簡易ベッドでごろごろしていたユーゼリアが飛び起きた音がした。ドアが開くと、しっかりとフードをかぶったユーゼリアが迎える。

「お待たせ」

「そんなに慌てなくても…」

 部屋の鍵を閉めると、階段を下りて店主に鍵を預ける。

「お夕飯はいつ?」

「18回鐘が鳴ってから、次の鐘が鳴るまで。遅れたら食いっぱぐれるから、気をつけろよ、嬢ちゃん」

「わかった。ありがとう」

 さっき15回鐘が鳴ったばかりだから、近場の依頼があれば余裕のある時間だろう。

 そして歩くことかれこれ20分。

 シシームのギルドは大きかった。前の町と比べてしまうと余計に大きさが際立つ。建物自体は先日のポルスにあったギルドと同じ造りだった。レンガ造りの頑丈そうな建物。

 だが規模は倍以上だ。馬車をしまう専用の木造施設や、馬小屋もある。それらを囲むように塀があり、それがギルドの威圧感を煽っていた。

「大きいわね…。流石“貿易都市”」

 本館には木製の看板に“シシーム総合ギルド”と達筆に書かれていた。ユーゼリアに尋ねると、

「ああ、言ってなかったっけ。ギルドって、いくつか種類があるのよ。私達が用があるのが“冒険者ギルド”。その他には商人が大抵所属する“商人ギルド”とか、公にはされてないけど、どの町にも必ずあると言われている“盗賊ギルド”とか。商人ギルドではどの町では今何の売れ行きがいいとか、何が不足してるとか教えあうのよ。商品を配達人に届ける商人も、受け渡しはギルドで行うの。他にもあるわよ」

「ほう、なるほど」

 中は外観でわかるとおり広く、並んで置いてある丸テーブルでは既に多くの商人が食事をしていた。冒険者よりも上等な布地の服を着た彼らは、ワインを片手に何やら商人同士で交渉をしたり、トランプをしているようだった。側にはうずたかく積まれたコインがある。

 それらを縫うように通り抜けると、随分と横に広いコルクボードの前に立った。

「すごい熱気ね」

 ふうと息をついたユーゼリアが、彼女の背丈よりも高い場所に貼ってある紙に目をつける。

「あれとか、どうかしら」

 一生懸命手を伸ばして背伸びする背中の上から、アシュレイがひょいとその依頼書を引き抜く。ぷうと膨れる薔薇色の頬を無視して一通り詳細を見終わると、やっと少女にその紙を渡した。

「…うん、これなら近くの森に生えてるからお夕飯までには帰れそう」

 鎮静剤になる薬草を20束納品するという町医者の依頼だ。カウンターに渡せば冒険者側は終わりである。溜まるギルドポイントは20。Fランクに上がるのにちょうど良かった。

 手続きを受けると、早速2人でその森に向かう。門兵に再びギルドカードを見せ、町を出たあと歩くこと10分。

「ここまでくればあると思う」

 そう言って道を外れて森に消えていったユーゼリアを追い、森に入った。

 

 依頼はサクっと終わった。ユーゼリアにどんな特徴なのかを教えてもらえば、あとは探すのみである。所詮Fランクの依頼でもあるし、別段難しいということはなかった。目的の薬草が比較的群生していたというのもある。

「これで最後…っと」

 ユーゼリアが最後の1束を引っこ抜くと、土を払って袋に入れた。日もだいぶ傾き、辺りは薄暗くなり始めていた。少し離れたところで鐘がなったのが聞こえた。18回鐘だ。

「早く帰らなくちゃ!」

 急かされるままギルドに戻り、カウンターで手続きをする。受付が薬草の種類と数を確認しているとき、後ろから「あれっ」と素っ頓狂な声が聞こえた。ユーゼリアである。

「あ」

 遅れて聞こえた、どこかで聞いたことのあるような声に振り向くと、数日前にほんの数分会話した、あの濃茶のローブが立っていた。今日もエルフの特徴である耳を隠すため、すっぽりとフードをかぶっている。なんとなく目があったような気がすると、ちいさくお辞儀をされた。

「あなた、えっと、えー……」

「…クオリ、です」

「そう! クオリさん、あの、彼らは? えと、ガークさん、だっけ」

 名前を覚えていなかったユーゼリアに苦笑しつつ答える少女とは、数日前、あの小さな町でのグランドウルフの襲来の後、別れたはずだった。その時彼女にはガークという槍使いと、あともう1人、剣を使う男性とパーティを組んでいたはずだった。

 クオリは苦笑して答えた。

「いろいろありまして…パーティ解約されちゃいました。あはは。…あ、いいんです。元から臨時パーティということだったので、合意の上ですから。それにしても、ユーゼリアさんが2人のパーティを組んでいたなんて、驚きました」

 相手には名前を覚えていてもらったことに少々恐縮しながらも、だがユーゼリアはクオリが話の話題を変えたことに気づいた。ちょっと考えた後に、ローブの少女の手を取る。クオリの方が随分と背が高い為、なんだか妹が姉に甘えているように見えた。

「ねえ、このあと暇? よかったら一緒にお夕飯食べない? 同じ死線をくぐり抜けた仲間として」

「え、いや……」

「夕飯ぐらいなら、いいんじゃないか」

 報酬とランクアップしたギルドカードを片手に、アシュレイが口を挟む。彼の言葉に、クオリは未だ逡巡しながらも、小さく頷いた。

 3人で外に向かいながらアシュレイがユーゼリアに言う。

「やっとランクFになった。いつぞやのハウンドの毛皮で実は結構稼いでたらしい」

「やったじゃない。次は何ポイントだっけ?」

「1000かな」

「え、F!? あなたがですか!?」

 突然横から叫ばれて、さしものアシュレイもびっくりしながらクオリを見ると、彼以上にびっくりしたような顔で見返された。

「……あれ、最後挨拶の時に言わなかったっけか。ええと、たった今Fランカー剣士になりました、アシュレイ=ナヴュラです。…どうぞよろしく」

「………あの時はそれどころじゃなかったんですっ」

 クオリを連れて宿屋に帰ると、今度はクオリが「あれっ」と声を上げた。

「私もここに泊まっているんですよ。一緒だったんですね。気づきませんでした」

「あれ、そうなんだ」

 そのまま食堂へと向かう。既に18回鐘がなってから随分時間が過ぎているので席はあまり空いていなかったが、偶然食事が終わって帰る客がいたので、そこに座る。食器を片付けながら店員にメニューを聞いた。

「今日はレグーのステーキがおすすめです。仕入れたばかりなので、まだ柔らかいですよ。あとは、豆スープが値段の割に美味しいと人気ですね」

 アシュレイとユーゼリアはレグー肉のステーキを、クオリは豆スープを頼んだ。エルフはあまり肉を食べないのだ。まだユーゼリアは気づいていないようだが、特に疑問にも思わなかったらしい。

「ま、こんなもんね」

 ユーゼリアの批評はぼちぼちだったが、アシュレイの舌にはそこそこ美味に感じられた。クオリも残さず食べ終わり、ほっと息をついている。

「ねえ、クオリはどうして臨時パーティを組んでたの? それってつまり、もともとソロってことでしょ?」

 ずっと聞きたかったことをユーゼリアが訊ねた。組んだ手の上に顎をのせ首を傾げるその瞳はきらきらと輝き、教えて教えてとせがんでいた。クオリが苦笑して「そうですね…」と虚空を見つめる。なんと説明しようか迷っているようだった。

「詳しくは言えませんが……そうですね、わたしをパーティに加えると、もれなく厄介事がついてまわるんですよ」

 冗談交じりの声で言った台詞だが、“厄介事がついてまわる”の言葉に、ユーゼリアは思わず「え」と漏らした。

「あ、いや、なんでもないの」

 ごまかしの笑顔と共に無意識に両手を振る。クオリの言い方に、アシュレイも少し意外な顔をしていた。ちらりと彼と目を合わせると、再びクオリに向かって言った。

「そういえば、クオリって魔道士なのよね。何魔道士?」

 一口に“魔道士”といっても、その種類は色々だ。例えばユーゼリアのような魔物を使役する召喚魔道士や、味方の補助・回復などサポートに徹する補助魔道士、攻撃魔法を用いて遠距離から火球や雷撃を浴びせる攻撃魔道士などがある。

 クオリはこの攻撃魔道士に当たるのだが、彼らにももちろん個人で得意不得意な属性がある。火属性が得意な攻撃魔道士は水属性が苦手なのが一般的だし、また火属性が得意ならばそれに近い雷属性もそこそこ得意であったりするのだ。それの逆もまた然り。

 それらを踏まえて、攻撃魔道士たちは自身のことを炎魔道士や水魔道士、風魔道士などと呼称する。ユーゼリアが訪ねているのは、このことだった。

「特にこれといって得意な属性(もの)はないんです。全属性同じくらい行けます…が、よく使うのは、そうですね、やっぱり火でしょうか。威力も高いし」

「すごいわね! 私は風しか使えないのよ。…ねえクオリ、魔法教えてくれないかしら」

「構いませんよ。じゃあユーゼリアさんは水にも適正がありますね。明日、少しご教授します」

「ありがとう! 旅路でこつこつ覚えてたんだけど、独学じゃ全然うまくいかないの。それから、私のことはリアでいいわ。ユーゼリアの愛称だから」

「はい。任せてください、リアさん。こっちは本職なので、色々と教えられることもあると思いますから」

「ほんとは“さん”もいらないんだけど……まあいいわ。よろしくお願いします!」

 そんな会話が繰り広げられている間、アシュレイはというと、

(そういえば俺が魔法使えること、ユリィは知らないんだったな…。どうしよう。言う機会を逃しているが、これは言わない方がいいのだろうか……)

 ひとり悶々と考えていた。

 ふっと顔を上げると、ユーゼリアと目が再び合う。その目にまたねだるような光が浮かんでいるのを見て、苦笑とともに肩をすくめた。好きにしろ、という意味である。

「ねえねえ、クオリ。ものは提案なんだけど……」

「なんでしょう」

「これから先、行くあてもないなら、一緒に旅をしませんか?」

「えっ」

 飲んでいたコップの水が、揺れた。その目に僅かな動揺が走る。

「……それは、臨時で、ですか」

「違うわ。ずっとパーティを組んでいたいの。もちろん強制じゃないし、抜けたいと思ったらいつでも抜けて構わないけど…でも1つの依頼を受けるだけのパーティとか、そういうのじゃなくて。気が合うなら、ずっと」

 クオリが水を飲み込んだ。静かにこちらを見つめる。その瞳はアシュレイに「なぜ貴方は止めないの」と語っていた。

「何故か? それは反対意見が特にないからさ」

「わたしはっ」

 ガタッと立ち上がると、周囲の視線を集めた。もう客の多くは食事を終え、談笑しているのみだ。突然大きい声を出して立ち上がれば、周囲の目を引くことは必然だった。それにクオリも気づくと、アシュレイに目で問いかける。

「ああ。ユリィは信頼に値するよ。真面目だからな」

「……分かりました。信じましょう。リアさん、貴女に見てもらいたいものがあります。私の部屋に来ていただけませんか。パーティの誘いは、それを見てから考えて欲しいんです」

 固くなった雰囲気に飲み込まれないよう、ユーゼリアは静かに頷いた。




補足・・・


 時計は高級品です。
それこそ王侯貴族でもない限り、持つことなど叶いません。おまけに腕時計なんてミニチュア版は開発すらされておりません。世間で云う「時計」は懐中時計なのです。
町であれば1つくらい所有することはできますが、そこらに置いておけば盗まれるのが関の山。つか小さくて見えん。

と、いうわけで、この世界には【時守り】という職業があります。

非常に名誉ある仕事で、時計を肌身離さず持ち歩き、1時間経つごとに時計塔に登って鐘を時間分鳴らします。午前6時には6回、午後3時には15回…などなど。大抵3人組で、朝・昼・夜と交代で町の時間を守ります。

よく口にする10分とかは、まあアバウトです。それから、イベントの際、細かいタイムスケジュールでも【時守り】は活躍します。

男女関係なく就ける職業なので、子どもの将来なりたい職業ランキングナンバー2に輝く。ちなみにナンバー1は冒険者。ここはね。ファンタジーとして譲れないね。
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