シャンヴリルの黒猫   作:jonah

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もうすぐなろうに追いつきます。


18話「クオリ・メルポメネ・テルプシコラ」

 わたしも元ははエルフの一般家庭に生まれた、ただの少女でした。ただ、母はわたしを産んですぐ亡くなって、父の男手一人で育てられたんです。兄弟もいませんでしたから、幼少から父の仕事場で1日を過ごしていました。そのせいか、随分な本の虫になってしまって……。父は、里にある図書館の司書だったんです。

 エルフの図書館に収められているのは、普通の絵本や物語じゃないんです。大部分が、魔法に関する本。詳細は多岐に渡りますが、例えば人間が使う一般魔法や精霊魔法、召喚魔法、ちょっと危ない方にいけば、呪術、魔女契約などですね。

「魔女契約?」

「あれ、知りませんか? 分類では召喚魔法に近いですが、つまり簡単に言うと、魔獣や魔物を召喚して命令するのが召喚魔法。対して魔女契約魔法は、魔獣を――こちらは魔獣が一般的で、魔物を魔女契約したという文献は聞いたことがありませんね――自らの力として取り込むというものです。もっと正確に言うと、魔獣を召喚する過程までは同じなのですが――」

「え、あ、ごめん。本題を続けて」

「そうですか?」

 早口になりだしたクオリを、ユーゼリアが慌てて遮る。クオリは少し残念そうだったが、気持ちを切り替えると再び話し始めた。

 で、どこまで話しましたっけ。そうそう、まあそんなわけで、リアさん達が想像するような本が置いてない場所が、わたしの幼いときからの遊び場だったんです。

 そして数多の魔導書を絵本代わりに育ったわたしは、気がついたら学び舎――学校のようなものですね――に行かずとも、普通の子ども以上に魔法を扱えるようになりました。

 もともとエルフに必要なのは、自己防衛に使う魔法と最低限の教養ですから、学校も3年ほどで終わるんですよ。それも、強制ではないので、結局わたしは学び舎には行きませんでした。教養に関しては周りが大人ばかりの図書館にいたわけですし、本にも書いてありましたから、問題ありませんでした。父にも必要ないだろうと言われましたし。

 そんなわけで、わたしには友達と呼べるような存在もなく、ずっと図書館に入り浸って本ばかり読んでいました。館内にいる司書達や、研究者達とは仲がよくなりましたが、所詮わたしはまだ10やそこらの子どもでしたから、友達とは言えない関係でしたね。

 でも、そんなわたしにも“友達”ができたのです。

 わたしと同い年の男の子。きっかけは、彼から話しかけてきたからでした。彼は将来研究者になりたいからと言って、毎日図書館に来ていたらしいのです。なぜ彼がわたしに話しかけたかというと、後に聞いたことには

『だって、見かけるといつも1人で本を読んでいたから、君も研究者になりたいのかと思って』

 つまり、彼はわたしのことをライバルかと思ったわけですね。だから、彼がわたしに最初に言った言葉は

『おい、僕と勝負しろ!』

でした。

 

 

 クオリが窓から外を見つめた。過ぎ去る木々に何を見ているのかはユーゼリアには分からなかったが、その目は懐かしいものを思いだすように柔らかく、弧を描いていた。

 

 

 結果はわたしの勝ちでした。彼はひどく悔しがって、何度も何度もわたしに勝負を挑みましたが、結局わたしは全戦全勝。と言っても、最後の方はわたしも疲労していましたし、なんとかもともとの保有魔力の差で逃げ切ったといった感じでした。わたしはへとへとになりながら家に帰ったのですが、心はとても晴れやかでした。

 翌日も彼は鼻息も荒く図書館にやってきたのですが、わたしは慌てて彼に尋ねたのです。何故いきなりこんなことをするのか、と。彼は将来の夢について滔々(とうとう)と語りだしたのですが、そこでまた一悶着あってやっと、わたしが単に暇つぶしの為図書館にいることを理解してくれたのです。

 彼は、ずいぶんな頑固者でしたから、思い込んだら一直線でした。分からせるのに苦労したことを覚えています。

『なんだ、そうだったのか』

 こちらの苦労なんてなんのその。脱力するわたしにニッコリ彼は笑いかけました。

 

 

「それが、彼――フラウ・クレイオ・エウテルペとの出会いでした」

 

 クオリの瞳の色が曇った気がした。

 

 

 誤解が解けると、わたしたちはすっかり意気投合してしまって、それこそ朝から晩までずっと図書館に入り浸っては魔導書の解読につとめました。

 もとからわたしの方が知識は深かったので、むしろ彼の為の魔法講座といっても過言ではなかったかもしれませんね。

 そしてある朝、わたしが図書館に行くと、まだ早すぎたのか、彼はいませんでした。そのころ里は涼しい場所にあって、早朝は一枚羽織ってもまだ肌寒いくらいでしたから、わたしは図書館の中で彼を待つことにしたんです。

 

 

 それまでずっと黙っていたユーゼリアが首を傾げた。

「『そのころ』って? 他にもあるの?」

「エルフは大陸中を転々とします。里は移動するんですよ。と言っても、引っ越しの頻度は年に1回あるかないか程度ですけど」

 すらすらとクオリは答える。

「何年も同じ場所に止まっていたら、いつ人間に数で押し切られるか分かりませんから」

 広くは知られていないが、例えば奴隷商などエルフの動向をよく調べている者であれば、この引っ越しについては特に真新しい情報ではない。

 エルフの方もそれは承知しているので、クオリは何の気概もなく話していた。

 対してユーゼリアは、エルフのその人間への警戒ぶりを知り、一部の富裕層の人間と、彼らを客とする奴隷商達に対する憤怒と悲しみの感情を持て余していた。それに気づいたクオリが笑ってフォローする。

「ああ、気になさらなくて結構ですよ。生まれたときからやってきたことですし、殆どのエルフはそういうものと割り切っていますから。…それより、話を続けましょう」

 

 

 図書館には2種類の本がありました。1つは誰でも閲覧可能な、一般の魔導書。もう1つは、“立入禁止”の階に置いてある特別な本です。その本は一体何なのか。知っているのは、魔導書を護る一部の高位の司書と、一部の高い地位にいる者たちのみでした。父も、知らなかったかと思います。

 わたしたちは、きっと貴重な魔導書なんだろうといつも階段の上を見上げていました。いつか、それを読んでみたいとも。

 

「そしてついにその朝、わたしは欲に負けてしまったのです」

 

 寒さに図書館内に入ると、まるで100年の時が詰まったかのようなあの古書独特のにおい。早朝というのは深夜よりも余程人がその生の鼓動を静めるときでした。死んだような静けさの中、息をしているのは自分しかいないような錯覚を覚えるのです。

――今なら、誰にも見つからないかもしれない。

 愚かなわたしは足音を潜ませて、例の“立入禁止”の階まで階段を上っていきました。そこはいくらかの障壁の魔道具があったのですが、たまたま魔力切れで障壁は張っていませんでした。毎日補給する魔力は、どうやら朝に司書か誰かが補給しているようで、本当に運の良いことに、ちょうど内蔵魔力が切れたときにわたしは階段を上ってきていたのです。

 思ったよりずっとすんなり中に入れたわたしは、そこの蔵書の少なさに少し落胆しました。“立入禁止”の部屋は狭く、そうですね、シシームで泊まった宿の一部屋くらいの広さしかないのです。簡易ベッドとクローゼットをおいたらもう何も置けないような、小さい部屋。

 ただ、当然その狭い部屋にはベッドもクローゼットも置いてありませんでした。あるのはびっしりと並んでいる書架。ぎゅうぎゅう詰めに本は入れてあり、入りきらないものは積み上げられて下に放置されていました。階下の整然と並べられた本と比べると、まったく扱いが悪すぎます。が、埃をかぶっている本からは、何か不思議な力が宿っているように感じました

 

「わたしは心を躍らせて近くの書架から本を一冊抜き取りました。今でも覚えています、開いたときのあの衝撃を。中には……」

 

 ゴクリとユーゼリアの喉が鳴った。

「中には?」

「中には……航海記が書いてあったのです。手に取ったその本は、航海日誌でした」

「……は?」

 拍子抜けしたようなユーゼリアの顔に苦笑すると、クオリは続けた。

 

 

 なにしろわたしは未だ嘗て“海”という場所に行ったことは愚か、見たことすらなかったものですから、初めのうちはそれが何かの日記であることしか分からなかったのです。どうやら内容が海なるものについて書かれてありそうだと分かったとき、わたしはそれはもう落胆しました。幻滅と言っても良かったでしょう。

 しかし次に湧いた疑問が、なぜこんなものがわざわざ結界を張ってまで立ち入りを厳禁した場所に置いてあったのか、でした。内容は名も知らぬ島々を巡った航海記。海の書物がエルフの里にあることも不可解でした。航海記の割に薄い本というのもひっかかりました。

 そしてわたしがようやくそのこと(・・・・)に気づいたのが、3日目の朝。あれから毎朝魔力切れの時間帯を狙って会員制の階に足を運んでいたわたしは、閃いたのでした。

 封じられていた書架にあった本は、航海日誌に始まり、料理のレシピ、恋人との手紙のやりとりなど、まとまりが無く、本気でなぜこんなものが保管されているのか分からないものだらけでした。中には愛娘の成長日記なんてストーカーじみた内容のものまであったのです。……何月何日何曜日、愛しい愛しい我が娘が今日はいつもより7分遅い起床だった、とか、今日は娘が学校で鉛筆の芯を2回折った、とか。

 わたしが閃いたきっかけは、あまりにも関連性の無さ過ぎる本達が同じ場所に積んであった、ということでした。

 あの本は全て、れっきとした魔導書だったのです!

 全てが独自の暗号で書かれており、解読は難を極めましたが、とうとう最初の1冊――あの航海日誌でした――を読み解くことができたのは、わたしが秘密の階に通い始めて半年後のことでした。実は、家に持ち帰って解読していたのです。探知系の魔法がかかっていないと判断してのことですから、安心して。

 

 

「今なら有り得ない大胆さというか……怖いもの知らずでしたね。あの頃は…」

 苦い笑みと共に漏らした言葉は、僅かな後悔を含んでいた。

 

 

 立ち入り禁止の階に収められていた全ては魔導書でした。それも、ただの魔導書ではありません。“古代魔導書(アーカイブ)”だったのです! それは古代魔法、俗にいう“失われた魔法(ロスト・マジック)”について記された本でした。古代魔法は今では使える者も無いほどの太古の魔法ですが、威力は絶大。もちろん魔導書も全て失われたと思われていました。…魔法を得意とするエルフだからこそ、残っていたのでしょうか。それでも、暗号化と封印という方法で不特定多数に見られるのは阻止しましたが。

「ロスト…マジック……」

 ユーゼリアが呆然とした。

「じゃ、じゃあ、今、古代魔法を扱えるの!?」

「はい。あの書庫にあった分は全て」

 目を伏せながら言った。

 ユーゼリアは召喚魔道士ではあるが、下位や中位の魔法なら扱える魔道士だ。魔を志す者にとって、1度は夢見ることの1つが、古代魔法を扱うことだった。“夢見る”だけあって、実際にそれを成し遂げた者などいないが。子供が魔法剣士に憧れるようなものである。魔法も、剣も、どちらも極めたい。そんな欲張りな者はどっちつかずになって、器用貧乏のまま終わるに決まっているのに。分かっていても、憧れる。

 目をきらきらさせるユーゼリアに、内心で現金だなぁと苦笑しつつ、クオリはそろそろ佳境に入った昔話を完結させようとした。

 

 それから数年、書いた人物は数人なので暗号の方式も似ており、4年ほどでわたしは半数近くの古代魔道書(アーカイブ)を読み終えました。といっても、実際発動してみたことはなかったのですが。

 しかし、ついにわたしが毎朝会員制の階に通っていることがバレてしまったのです。里の長に告げたのは朝、魔力供給担当の上位司書、父の、友人でした。

 わたしは牢屋に入れられました。わたしが既に古代魔法を使えると言ったからです。わたしは特に抵抗もしませんでした。いつかこうなると分かっていたし、古代魔導書を読み終えた充実感でいっぱいだったからでしょうか。関係者以外には嘘の罪を伝えたそうです。

 牢には長老たちがいくつもの魔法封印の結界を施し、足枷には魔力吸収の印が刻まれたものを使いました。そのうえ常に監視の兵を3人、牢の前に張り付けておく徹底ぶりです。ただ、退屈はしませんでしたね。

 

「どうして?」

「毎日彼――フラウが、わたしの好きそうな本を5、6冊、持ってきてくれましたから」

 小さく笑みを浮かべた。

 面会時間は5分程度。父も週に1度程度しか来ないにもかかわらず、彼だけは毎日、来てくれたんです。……嬉しかった。

 でも、彼とも別れが来ました。それは牢に入れられてから1年くらい経った頃からでした。彼が牢に来てくれる日数が、減り始めてきたのです。毎日だったのが、1日置きに。1日置きだったのが、週に1度に。そして、ついには月に1度来るか来ないかになりました。

 週一になるあたりから、わたしは理解しました。

 ああ、とうとう彼もわたしから遠ざかってしまうのか――

 その頃には、もう父とも数ヶ月顔を合わせていませんでしたから、わたしがお話をする相手がいなくなったも同然でした。兵は、わたしを恐れて一言も喋りませんでしたから。

 父に恨みはありませんでした。むしろ、娘が罪を犯して、表で糾弾されたのは父だっただろうから、申し訳ないという気持ちしかありませんでした。

 そうしてとうとう彼が来なくなってから2ヶ月ちょっと。兵が、食事と共にある紙をトレイに乗せて渡しました。外部からの物の受け渡しは全て彼らがまず目を通し、妙な魔法や暗号が無いかどうか確かめるものですからね。

「紙には、こう書かれていました。『僕は夢を叶える為に里を出ることにした。君を置いていく形になってしまって、本当に申し訳ない。牢から出させてあげるには、僕に力が無さ過ぎた。だが、再び里に戻ってきたら、絶対に君を牢から助け出す。だから、その時が来たら、一緒に旅に出ないかい?』紙は、今も持っているんです」

 少し頬を染め、恥ずかしげに微笑むクオリは恋する少女に他ならない。

(いいな、そういうの)

 ユーゼリアは優しくその姿を見つめていた。

 ユーゼリアの出生で現状を受け入れてくれる男性など、いないだろう。何せ、共にいるだけで常に命が狙われているのだから。

(むしろ、巻き込んじゃいけないもの)

 だから今までソロだったのだ。

 

 

 ――じゃあ、アッシュは?

 

 

 ふと頭に浮かんだ黒髪の男の姿をかき消すように、ユーゼリアは頭をブルブルと振った。

(違う違う! アッシュは私から一般常識を教わり終わったら、そのままお別…れ……)

 ふと、気付いた。

 彼がいなくなれば、また灰色の日々に戻るのだろうか。クオリは多分、フラウというエルフに出会えればそこでユーゼリアとは別れるだろう。

 そうしたら、また、独り。

(……それは)

 嫌だ、と思った。

(あれ、私いつの間にこんなにわがままになったんだろ)

 確かにアシュレイは強いが、彼だって無敵ではないのだ。小さな掠り傷から毒を受けて、死に至ることだってある。

(……コルトみたいに)

 どんなに沢山の敵でも、どんなに大きな魔物でも、必ず幼いユーゼリアを守ってくれた、あの広い背中は、たった一本の毒矢に倒れたのだ。

 我に返ったクオリが咳払いをした。

 

 彼が旅立って数十年、わたしの生活は幽閉される場所が牢から例の部屋に移った以外、何も変わりませんでした。外に出ることは無く、ひたすら本を読む毎日。

 

「どうして移ったの?」

「脅したんですよ、わたしが」

 穏やかでない単語にびっくりしているユーゼリアをみて、笑った。

「彼がいなくなった1ヶ月後、くらいでしょうか。自分から言ったんです。“暇だ、あの本を持ってこい~”って」

 

 そうしたらその部屋に連れていかれました。わたしは数十年そこにいました。読む本には困りませんでしたし、古代魔法の研究が随分進んだので、実りある日々でしたよ。

「数十年……」

「正確にはー、どれくらいでしょうかねぇ。6,70年はいたと思いますよ」

「そ、そんなに!?」

 せいぜい3,40年と思っていたユーゼリアは高い声を上げた。

「そしてある日、唐突に、里は崩壊しました。奴隷商の一団に襲われたんです」

 

 どうして里の場所が割れたのかは分かりませんが、それは若い男達が狩りに行っている時間帯、外貨欲しさに中から手引きした愚か者がいたんでしょう。老人は殺され、女子供はどんどん捕らえられていきました。

 民家には火が放たれ、その火は図書館にも燃え移りかけていたと思います。

 

「……なぜ」

「“なぜ、わたしが生き残ったのか?” ……父が、逃がしてくれたんです」

 

 扉を守る衛兵も賊を迎え討つ為に出払っていて、非戦闘員の父は図書館の消火にあたっていたんでしょう。密かに4階に上がって、わたしを部屋から連れ出しました。裏口の扉をあけて、

『もっと早くに出してやれなくてすまない。逃げてくれ。お前には生き残ってほしい。古代魔法が伝わっている里は多くない。この里はもう駄目だろう。(いにしえ)の魔法を、途絶えさせないでくれ』

と。一言一句忘れずに覚えていますよ。それが不器用な父の、最後の言葉ですから。わたしは『今こそ古代魔法を用いるべき時だ』と里に戻ろうとしたのですが、

『まだ上手く制御ができない魔法では、あの商人たちには勝てない。今は逃げてくれ』

そう言って、わたしの背を押しました。

 それからわたしは逃げて逃げて…、もとからわたしの存在を見たわけではない盗賊は結局わたしをのがし、わたしは体をすっぽり覆い隠すローブ以外はなにも持たずに、世に放り出されました。

 それからなんとか素性を隠しつつギルドを伝って生きてきましたが、奴隷商人というのは鼻が利くもので、どこからともなく沸いて出てはわたしを捕らえようと襲ってくるのです。

 そのせいでパーティを組むとパーティメンバーにまで被害が出てしまって……。それでも魔道士がソロでできることには限界がありますから、

 

「だから、臨時パーティを組んでいたってわけね」

「はい」

 クオリが視線をユーゼリアに戻した。にこりと笑う。

「全然面白くもありませんが、これがわたしの全てです。だから、自画自賛のようですけど、魔道士としてはかなりの戦力になれるかと思いますよ」

「…そうみたいね。古代魔法って、どれくらいの数使えるの?」

「全部で20種類くらいです。あまり沢山では無いんですけど…」

「十分だわ。古代魔法って効果がとても大きいんでしょう? 噂に聞く限りだと」

「そうですね。威力の面ではかなりのものかと」

 見てみたい。

 一魔道士としてそんな衝動に駆られたが、一般に知られていない魔法である以上、闇雲に使うわけには行かない。何のためにわざわざ暗号文にして後世に伝えられたかを考えれば、なおさらだ。

 古代魔法は、例えば魔獣と遭遇したなどの状況以外では使えないだろうと思った。特殊な魔法は彼女がエルフであることをばらしやすくなってしまうかもしれないからだ。本人にその意志がない限り、無理強いさせるようなことはできない。

「けっこう長く話し込んでしまいましたね」

「…うん。打ち明けてくれて、ありがとう。……ん? じゃあクオリって今何歳!?」

「今年で多分103になります。人間でいうと、だいたい30歳手前あたりですかね。それよりそろそろ休憩挟みませんか。アッシュさん、止めてもらえます? …あれ、アッシュさーん?」

 絶句したユーゼリアを放って小窓から顔をのぞかせると、腕で顔を隠したまま(おそらく木漏れ日が眩しかったのだろう)動かないアシュレイの姿。顔は見えないが、静かに上下する胸で、彼が寝入っていることがわかった。

「寝てますね。そっとしておきましょうか」

「珍しいわね……疲れてるのかしら。ああでも、アッシュがいないと馬車が止まらないわ」

 そんな会話をしていると、馬車がだんだん減速し始めた。あれっと小窓を覗くと、特に障害物もないのにシュラが道の端に馬車を寄せて足を止めていた。

「あ、ありがとう、シュラ」

 普段は無視するのに、この時はシュラが嘶き返した。

――礼はいいから、静かにしろ。

 なんとなく、そう言われたような気がしたユーゼリアだった。

 だが気をつけていても流石に馬車の扉が開くと気配でわかるらしく、気を使われていた当の本人は目が覚めた。

「ん、休憩か?」

「あ、うん。そう。アッシュもお茶はいかが?」

「頂こうかな」

 ユーゼリア特製の紅茶は、鍋で沸騰した熱々のお湯のおかげでまたアシュレイの舌を火傷させ、悶絶するアシュレイと声を上げて笑うユーゼリア、吃驚するクオリと、賑やかな休憩づくりに一役買ったのは、いつものことである。




うわ~、8000字超えたよ…
なんでいきなりこんなに増えたかというと、もともと4話だったものを1つにまとめたからです。あと2,3話でなろうに追いついちゃいますねー
そうしたら更新速度がドッと落ちます。ごめんなさい。
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