シャンヴリルの黒猫   作:jonah

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おひさしぶりです


19話「闘争の街ファイザル」

「ここがファイザルか…」

 

「お尻が痛いです~」

 

「こんなの慣れよ、慣れ! 最近乗ってなかったけど、大して痛みも無かったわね」

 

 三者三様の反応を示しつつ到着した一行は、だがまだ城壁の中に入れていなかった。

 門前で並んでいる滑り込みの大会参加者や商人達が、1人1人顔認証と通行料を払っているからだ。入場料大人1人1000リール、子供は800リール。ちょっとお高いが、それが大会中の町の治安に役立てられるならと、皆溜息を呑み込みつつ支払うのだ。

 

「はい、アッシュの分ね」

 

「そういえば、シュラについては何か言われるでしょうか」

 

 お小遣いを貰う子供のような気分でアシュレイが自分の通行料をユーゼリアから渡されていると、クオリが言った。

 

「まあ、ここはDクラスの魔物だといえば問題ないだろう。まさか兵がエルフだとは思わないし」

 

「そうね。馬車馬が魔物――本当は魔獣だけど――というのも、多くはないけど、例えば大商人だったりすればけっこう聞く話だわ。冒険者では珍しいかもしれないけれど……。まあ、なんとかなるでしょ。多分」

 

(……まあ、アッシュさんに任せておけば、なんとかなりそうですね)

 

 ユーゼリアの言葉にやや心配そうな顔をしつつも、内心人任せなことを考えていたクオリであった。

 

 それにしても、と、

 

「大会には余裕で間に合いましたね。シュラ、流石です」

 

 褒めてみるが、完全にスルーされる。アシュレイがやれやれとたてがみを撫でると、尻尾をブンブン振って喜びを表すのにだ。

 

 その様子に、口を尖らせたユーゼリアが小声でクオリに話しかけた。

 

「ほんとに、全く懐く様子がないわね。私たちには」

 

「仕方ないです。だって仔どもとはいえ、第六世代の魔の眷属なんですから。寧ろ、人やエルフを乗せた馬車を引いてくれている事自体信じがたいです。…アッシュさんって、何者なんでしょう……」

 

「さあ、それは私もわからないけど……。魔獣が懐く件に関しては、アッシュだから、っていう理由で終わりそうだわ。彼、何でもできるもの。剣はどう考えてもBランカー以上、この間簡単な料理も出来るって聞いたし、馬の扱いにも長けてるし、その上魔獣に懐かれて…そういえば、彼、狩りもできるのよ」

 

 思い出したように言った。

 ユーゼリアが言うことには、シシームに着く前日にたまたま食料が尽きてしまい、ユーゼリアが罠をいろいろキャンプのそばに仕掛けておいたところ、気がつけばアシュレイの姿がない。まあいいかと放っておいたら、大した時間もなく兎を2羽獲ってきたというのだ。

 

「え、剣で、ですか?」

 

「そうみたい。なんか、そこらに走っていたのを見つけて剣を投げた、みたいなことを言っていたけど…。あ、短剣だけどね、一応」

 

「それでも、走っている兎を短剣の投擲で仕留めるって……」

 

「ねぇ? ほんと、何でもできるから、彼と一緒に旅してからもう大助かりよ。罠じゃあ捕まえるのに時間かかるしね」

 

 笑いながら言うユーゼリアだが、クオリは笑えなかった。

 

(魔獣に懐かれる人間なんて聞いたことがない。エルフでもないし、彼は一体……)

 

 無性に、アシュレイ=ナヴュラという人物の正体が知りたくなった。ふと思い立って、ユーゼリアに耳打ちする。

 

「ところでリアさん、提案なんですけど……ごにょごにょ」

 

「……それいい! 採用!」

 

「何がだ?」

 

 突然現れたアシュレイに飛び上がりながらも、なんでもないとユーゼリアと2人でごまかした。訝しげに2人を見ながらも、続きをせがんだシュラのブラッシングに戻ったアシュレイに、ユーゼリアと2人でホッと息を吐く。

 

 結局、シュラについては“Dクラスの魔物”で話は通り、無事門を抜けることができた。

 

「さて、宿に向かって走るわよ!」

 

「なんでです?」

 

「早く宿をとっておかないと大会期間中ずっと野宿する羽目になるわよ! この時期ファイザルは余所者で大賑わいなんだから! この際宿のランクなんて二の次、部屋が空いてそうなところからドンドン行く!」

 

 妙に手馴れた感のあるユーゼリアに従い、片っ端から宿を覗いていくが、案の定部屋は全て埋まっていた。

 

「うう、やっぱりギリギリすぎたかぁ…」

 

 やや諦めの混じった10軒目の宿。恰幅の良いおばさんの店主に尋ねると、

 

「ああ、申し訳ないね。2人部屋がちょうど1部屋だけ空いてるけど、3人にはちょっと狭いなぁ」

 

「2人、ね……」

 

「ユリィとクオリはここで泊まるといい。俺は馬車の中で寝るとするよ」

 

 困ったように眉を寄せるユーゼリアに、横からアシュレイが言った。おばさんがおやっと目を見開く。

 

「そんなことできません! ならわたしが…」

 

「いいからいいから。俺の方が頑丈だし、毛布をいくらか借りれれば問題ない。安い馬車でもないし」

 

「でも、アッシュさんは大会に出るんですから、ちゃんとした休養を取らないと……」

 

「おや、兄さん大会出場者なのかい! そうならそうと言ってくれなきゃあ!」

 

 そこでおばさんが口をはさんできた。ぽかんとしているアシュレイの代わりにうんうんと頷くと、彼女は立派な胸をどんと叩いて言った。気のせいか鼻息が荒い。

 

「ならちょっと小汚いけど、うち旦那のベッドを使っておくれよ!」

 

「え?」

 

「サービスだよ、サービス! 私ら夫婦、っていうか、ここらで宿を経営している家はみーんな大会で儲けさせてもらってるからね! さあさ、これがお嬢さん達の部屋の鍵ね。290号室! 2階の一番奥だから、わかりやすいよ。お兄さんはこっち!」

 

「え、待て、俺大会、え!?」

 

 会話についていけないアシュレイは、おばさんに手を引かれるままにカウンターの奥の方へと消えていき、あとには苦笑して手を振るユーゼリアとクオリだけが残された。

 

「あれ、絶対アッシュさんの顔が良いからサービスしてくれましたよね……」

 

「私、アッシュが驚く顔初めて見たわ。……ふふん」

 

「「……」」

 

「と、とりあえず荷物を置いて、参加申請してきましょ!」

 

 荷物を置いてまた玄関口まで戻ってきたものの、アシュレイが帰ってくる気配は無かった。クオリと相談した結果、

 

「……ま、私たちで申請しちゃいましょうか」

 

 という結論に至る。

 

 2人で通りを歩くと、宿を探していた時にも思ったことだが、随分人通りが多かった。シシームよりも更に広い通りなのに、気を付けないと5歩歩かないうちに誰かの肩にぶつかってしまうほど、混雑している。

 受付場所を知っているのは自分だけなので、クオリとはぐれないように時折後ろを見ながら向かっていた。

 

「クオリは大会見るのも初めてだっけ?」

 

「はい。今まで人通りが多いところは避けていたので……」

 

「ああ、そっか」

 

 やっと着いた参加受付は、町のはずれの西門の裏側に屋台を出して行っていた。例年通りなら、2日前の夕暮れともなればもうとっくに皆申請を済ませており、受付の周りは実に閑散としたものであったが、今日はどうも勝手が違うようだった。

 

「随分、混み合ってるわね……」

 

「そんなに変ですか? 町中も人通りが激しかったですし…」

 

「私も2,3回しか観に来たことはないけど、この時間になったら受付は空いているはずなのよ。参加受付は大会の2日前の日が沈むまでだから、皆もうとっくに申請は済ませてるわけ」

 

「なるほど。じゃ日没までもうすぐですから、早く行きましょう!」

 

 今度はクオリが立ち止まったユーゼリアの手を引いて、ずんずん人混みの中へ歩いていった。

 

「こんなに混んでるなんて…それに、皆一般人だわ。選手じゃない。気になるわね……クオリ! 私ちょっと聞き込み調査してくる!」

 

「え!?」

 

「大丈夫! やり方は係の人が教えてくれるから! あ、あとこれがアッシュの大会参加費ね!」

 

 それだけ言ってクオリに1000リールを手渡すと、波打つ銀髪は人集りに消えていった。

 

 残されたクオリは、先ほどまでユーゼリアがいたからこそ紛れていた“人混みの恐怖”が蘇り、肩をややすぼめながら逃げるように受付まで辿り着くと、蚊の鳴くような声で、

 

「あのぅ…」

 

 と声をかけた。

 

「はい! こちらは大会参加希望者受付カウンターです。大会参加希望者の方ですか? 個人部門とチーム部門の2つがありますが、いかがでしょう? 個人部門はお一人様、チーム部門は2人以上でのご参加となります。費用はどちらの部門もお一人様1000リールとなっております」

 

 快活な笑顔とともに立て続けに言われ、たじたじなクオリだが、なんとか要件を伝えられた。ギルド職員が優秀なのと、後ろの人ごみの目的が参加申請に関係なかったことが幸いしたようだ。

 

「はいはい! では参加希望者のお名前と失礼ですがご年齢、ランク、職業をこちらにお書きください。代筆でも構いません」

 

 受け取ったペンで個人部門参加者の欄にアシュレイの名を書いた。係員はランクの欄を見ておや、と眉を上げたが、何事もなかったように再び営業スマイルを浮かべた。このあたりに、彼女が若いながらも激戦を極める武闘大会参加受付の係員を任された理由(わけ)が見える。

 

「個人部門アシュレイ=ナヴュラ様、22歳男性、Fランク剣士、魔法は使用しない、で間違いございませんか?」

 

「はい」

 

「かしこまりました。では個人参加1名で、参加費用が1000リールとなります。……はい、ありがとうございます。それではこちらをお付けください」

 

 クオリに白いバッジが渡された。花をモチーフにしているようだ。小さな花が塊になって咲いている様が描かれている。

 

「こちらのバッジは個人部門参加者の証となりますので、紛失のないよう、よろしくお願いいたします。そしてこちらが参加申請の写しです。これが参加申込書にもなります。お受け取りください」

 

 渡された紙は先ほどクオリが代筆した申請用紙の写しで、真ん中に大きく赤いインクでギルドの紋章が捺印されていた。

 

「そちらの参加申込書とバッジが揃わないと大会には参加できませんので、大切に保管なさってください。申込書の再発行は出来かねますので、悪しからず」

 

 神妙な面持ちで頷き、紙とバッジを鞄にしまうクオリにくすりと笑うと、係員は笑顔で彼女を見送った。

 

「以上で参加手続きの全ての過程を終了とさせていただきます。頑張ってください!」

 

 笑顔に勇気づけられて再び人混みの中に向かう。なんとか抜け出ると、ちょっと離れたところでユーゼリアが待っていた。

 

「お疲れ! できた?」

 

「なんとか……」

 

 ユーゼリアは快活に笑った。道端のベンチに2人腰掛けて疲れを癒す。

 

「で、結局あの人集りはなんだったんです?」

 

「そう、それよ! あのね、クオリもギルド加入の時に多分話を聞いただろうけど、武闘大会で優勝すれば賞金が出るでしょ。その他に何か不測の事態の対応の為にS系ランカーが賓客の護衛としてつくのよ」

 

「そういえばそんなことどこかで聞いたような……」

 

 遠い昔を思い出すような仕草とともにクオリが呟くと、ずずいっとユーゼリアがクオリににじり寄った。咄嗟に首だけ逃げるが、ガッと引っ掴まれた腕の力がいつになく強く、逃げ場はなくなった。

 

「それが、なんと今年はSSランカーがいらっしゃるらしいの! それも…それもよ! あの! 【竜騎士】カメリア=シルヴィオスなのよ!」

 

 クオリの記憶が正しければ、大陸にSSランカーは3人しかいなかったはずだ。Sランカーは9人と増えるが、それでも冒険者全体の数からみると、異常な少なさである。

 そして、その【竜騎士】カメリアといえば……

 

「確か…最年少のSSランカーでしたよね。4年前でしたっけ。19歳でSSランク取得って、大陸中で大騒ぎでしたね」

 

「そう! しかも、私にとってあの人は特別な存在なの。なんてったって、同じ召喚魔道士なんだから! 大陸中の召喚魔道士は彼女を目標とするのよ。カメリア様をまさかこの目で見れるだなんて……はぁ」

 

「“召喚魔道士は弱い”という定説を覆した人でしたね。わたしも会ったことはありませんけど、噂くらいなら耳にしていますよ」

 

 その時だ。彼女たちの背後から恨めしげな声がかかった。

 

「ユリィ~…クオリぃ~…」

 

「「ひゃああっ!」」

 

 悲鳴をあげながら後ろを振り返れば、ひどく憔悴した様子のアシュレイ。目線を泳がせながらユーゼリアがクオリの手から参加バッジをひったくり、彼に押し付ける。訝しげにそれを眺めるアシュレイに、早口で言った。

 

「……あの、えと、色々ごめんっ! はいこれ! 大会参加の証。そのコートにつけておいてね」

 

「いや待て。まずは俺に言わせろ。…大会参加って、何の話? 俺ら賭けしにここに来たんじゃないの?」

 

「だってほら、勝ったら優勝賞金でるし! それに、ぶっちゃけ誰もアッシュの実力を知らないから、賭けでもがっぽり儲かるというか……」

 

 徐々に尻すぼみになっていく声にアシュレイもため息をつくと、「やれやれ仕方ない」という風に頭をぽりぽり掻いた。

 

「まったく…一言言ってくれればよかったのに」

 

「サプライズにしたかったんですよ」

 

 先ほどより更に深いため息をつくと、最早どうでもよさげに「…ああ、そう。もういいよ。勝手にするがいいよ」とかなんとかブツブツ言い始めた。なんだか随分様子がいつもと違うが、それだけあのおばさんがアシュレイの鋼鉄の精神を削りまくったのだろうか。

 

 背中を丸めてベンチに腰掛けたアシュレイは、手元のバッジを見るともなしに眺めると、ぽつりと口を開いた。

 

「…これ、何の花だろう?」

 

「エーデルワイス。花言葉は “勇気”。ちなみにチーム部門は青いバッジで、花はブルースター。“信じあう心”という花言葉なの。ぴったりでしょ?」

 

ふうん…

 

 微笑み、沈む夕日にバッジを照らす。白い花は橙色に染まった。

 

(勇気…か……)

 

 

 

 翌日、アシュレイは大会前日となってますます賑わっている町を1人歩いていた。

 手慰みにぽんぽんと右手で小さな巾着を投げては取り、投げては取りしている。チャリチャリと小気味良い音を立てるそれには、いくらかのお金が入っていた。今までちょっとずつアシュレイが貯めていた、いわゆる“お小遣い”である。金額は4000リールほど。

 

 彼はこれから武闘大会用の剣を買うつもりでいた。

 

「へい、らっしゃい!」

 

 威勢のいい声が出迎える武具店に入ると、いつぞやのポルスとは比べ物にならないほど沢山の武器、防具が売っていた。試しに目玉商品と思われる鎧の近くに寄ってみると、目を丸くした。

 

(こりゃまた随分な高級品だ……)

 

 鎧は魔法伝導率が非常に低いことが特徴の貴重金属である断魔鋼(オリハルコン)がいくらか混ざっているそうで、魔法耐性が高いらしい。ついでにお値段も高い。

 

 現在の所持金の10倍出しても買えない鎧は置いておき、量産品の剣がズラリと置いてある所に行く。駆け出しと思われる装備の若い冒険者が、1つ1つ手にとっては値札を見、「うぅん…」と唸っていた。実力はさておき、金のない者は財布と相談してものを妥協するしかないのだ。

 

 少し離れたところから壁に飾ってある剣を見渡し、目にとまったものを近くに寄ってみては再びじっくりと眺める。

 

(流石にこれっぽっちの金じゃいい剣なんて買えないな……)

 

 そもそも彼が何故、最高級品といってもまだ足りない程の剣を持ちながら、新たな剣を求めて武具店にやってきたのか。それは、今朝の回想から始まる。

 

 

 朝の5回鐘が鳴る前に目が覚めてしまったアシュレイは、いつものように着替え、剣を腰に携えようとしてふと気づいた。

 

(――この剣、大会で使うのか?)

 

 この剣は――いつだったか説明したかもしれないが――かつてアシュレイがまだ遣い魔だった頃、主人ノーアに造ってもらった魔剣だ。そう、魔剣(・・)なのだ。

 

 魔剣といえば何かしら特殊能力がついている武器のことであり(それが例え槍だとしても分類上は【魔剣】なのである)、もちろんアシュレイの剣にもその能力はあった。だが、アシュレイの場合一般的に言われる魔剣とは少々勝手が違っているため、こうして剣を買いに来たというわけだ。

 

 色々見てはいるが、あまり良さそうなものがない。ここは見立てのプロに任せたほうが良いと、カウンターで暇そうにしている男に声をかけた。

 

「すまない、できるだけ丈夫な剣が欲しい。予算はこれで買える程度で」

 

「ん? ちょっと失礼…」

 

 そういって巾着の中身をカウンターにぶちまけると、ひいふうみいと硬貨を数え始めた。「うーん」とうなると、難しそうな顔をする。

 

「4760リールねぇ。で? 兄さん、“丈夫”って、切れ味はいいのかい?」

 

「それは二の次だ。とにかく丈夫な剣がほしい。種類はなんでもいいが、できたら長剣の類が嬉しいな」

 

「でも兄さん、あんたなかなかよさげな武器を持ってるようだが?」

 

「今回はちょっと訳ありでね。これは使わないことにしてるんだよ」

 

 流石、御目が高いね。ニヤリと笑いながら言うと、店主は照れたように頭を掻いた。

 

「防具と武器のレベルが伴ってない冒険者なんざなかなかいないが…まあ、うちはちゃんと金払ってくれりゃあそいつが誰でも構わねぇや」

 

「助かる」

 

 そうして奥から持ってきたのは大した装飾も施されていない長剣。いかにも“質実剛健”といった感じで、僅かに赤みを帯びていた。

 

「これァ5%くれェだが硬赤銅(アークライト)が混じってあんのよ。聞いたことあるか? アークライト。“軽くて丈夫!”が売りだ」

 

「いや…初耳だ」

 

「ふむ。まあ一言で言やぁ、高級金属の1つだよ。

 ほら、そこに置いてある鎧に混ぜ込んである断魔鋼(オリハルコン)と同列っつーわけだ。オリハルコンや魔導銀(ミスリル)なら聞いたことくらいあんだろ。有名だからな。これァ性質で言えば、厳剛鉄(アダマンダイト)に近いかな。そっちは知ってるか?」

 

「ああ、それくらいなら。世界で一番硬い鉱石だろ」

 

「そうそう。ま、アークライトはそれに比べるとかなり見劣りするが、それでも一般的に武器に使われるような金属よりは硬い。で、話を戻すとだな」

 

 手で鞘の上から剣を叩いた。

 

「これがそのアークライトがちょびっとだけ混じってるから、全部鉄で作る武器よりも少し軽くなるし、おまけに硬度も上がるっつー代物だ。お値段は5000リールなんだが、まあそこは兄さんの出世払いで返してくれや」

 

 豪快に笑う店主には、好感が持てた。

 

「悪いな、助かる。この大会が終わったあとには残りの金額も返すよ」

 

「お、兄さん大会に出るのか! わはははは、頑張れよ! できるだけシードの奴らとカチ合わないよう、祈ってやる!」

 

 店主に“祈る”なんて行為も言葉、随分シュールに映る。

 鞘のベルトの長さを調節しながら、前回は誰それが強かっただの、人気負けしてただのという、だいぶ店主の主観が入った与太話を聞かされながら、アシュレイは一瞬で中身が消え去った巾着を意味もなく弄んでいた。

 

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