平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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091:疑惑に次ぐ疑惑。(副題:所長は青蘭さんの部屋に泊まるそうです)

「あと10分ほどで大阪ですわね」

 

 新幹線の予約席。自分の隣に座るふなちさんが、電光掲示板を見てそう呟く。

 

「透君、グアムから戻ってそのまま大阪って言ってたっけ」

「おそらく、もう今頃はホテルに着いているでしょうが……日向様、大丈夫でしょうか?」

「……幸さん自身が? それとも、透君が手を出してないかって事?」

「正直、どちらも」

「大丈夫だって。麻美ちゃんに真純ちゃんっていう女性陣も同行しているんだし、それに源之助もいるし」

 

 僕がそういうと、ふなちさんは額に指を当てて

 

「……源之助様、先日は少年探偵団の皆様を救出しておりましたよね」

「うん、ついでに犯人も捕まえてたね。コナン君と」

「その前日には爆弾を見つけ出しておりましたよね」

「うん、そして解体が出来る安室さんと透君をその場所まで誘導してたね」

 

 ふなちさんは、ますます額に皺を寄せて「んむむむむぅ~~」とうなり声を上げる。

 そして、なぜか恐る恐るといった様子でゆっくり僕の方に顔を向け、 

 

「……あの方は本当に猫なのでしょうか?」

「もう僕は深く考えることは止めにしたよ」

 

 一月程前には、透君を撃とうとしていた銀行強盗犯に飛びかかって助けてくれたし。

 思い返せば、いつだったか彼の家に仕掛けられていた盗聴器を見つけ出したのも彼だったし。

 いや、感謝はしている。してんだけど……こう、なんていうか。猫らしく活躍してほしいというかなんというか……。

 いや、そもそも猫らしい活躍とはなんなのか。猫とはどこまでが猫と言えるのか。

 

(止めよう。深く考えるのはもう止めよう)

 

「あの滅茶苦茶な透君に懐くんだ。人だろうが犬だろうが猫だろうが、怖いでしょ?」

「いえ、あの、すみません七槻様。それだと私達まで、それはそれは愉快というか奇怪な存在になってしまうのですがそれは……」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 鈴木近代美術館近くにある、やはり鈴木財閥の息がかかったホテル。

 そこで行われているパーティに俺は参加していた。

 

「ありがとう、透君。貴方のおかげで、入手はともかくエッグの事を調べられそうだわ」

 

 ただし、今隣にいるのは真純でも麻美ちゃんでも幸さんでもない。

 青蘭さんだ。

 

「いや、役に立てたのならよかったです。青蘭さんには歴史関連の講義で色々と助けてもらっているから、恩を返したかったんですよ」

 

 役に立つ知識というものは際限がない。

 爆発物やセキュリティ、人体に関しての知識はかなり埋めてきたが、歴史関連の雑学等も必要になる可能性は十分にある。

 というか、今回のメモリーズエッグ絡みですらすでにロシア史の知識が必要となっているのだ。

 

「すでに十分、返してもらっているわ。君には」

 

 中国人――正直、どちらかというとロシア系の感じがするのだが――の青蘭さんは、これまで何度か見てきたようなチャイナドレスを身に着けている。

 ただし、丈の短いドレスではなくロングタイプで、スリットが深いやつだ。

 似合っている。滅茶苦茶似合っている。

 七槻とかにも言えることだけど、どうにも俺は露出の多い服装はそこまで好みじゃないようだ。

 

「君に色々と歴史を教えるのは楽しかったし。それに、一緒にどこかへ出かけるのも――夜も、ね」

 

 最終的に振られる事が多かったとはいえそれなりに女の子とは付き合いのある俺だけど、青蘭さんは――こう、なんというか特別な何かを感じた。

 思い込みでしかないが、互いの何かが分かると言うか……初めて会ったあの時、初対面じゃないと感じたのだ。

 うっすらと記憶にある、親父と目が似ているからだろうか。

 おっさんと似ているからとか褒め言葉でもなんでもねぇから口にしないけどさ。

 

「あら、貴方も来ていたのね」

 

 青蘭さんをエスコートしながら、寄ってくる人達に挨拶をしているとシックなドレス姿の女性が声をかけてきた。もちろん、顔見知りだ。

 

「常盤社長、ご無沙汰しております」

「えぇ、浦思さんもお久しぶり」

「お久しぶりです、常盤社長」

 

 常盤財閥のご令嬢にして、コンピューターのソフトウェア開発等を主とする会社『TOKIWA』の社長――常盤美緒。

 小五郎さんの大学時代のゼミの後輩だったらしい。

 以前鈴木財閥絡みの依頼でお会いした時には、小五郎さんの事でえらく盛り上がったものだ。

 

(……まぁ、ようするにこの人も要注意人物なんだよなぁ)

 

 財閥関係のお嬢様で安全圏って言えるのは園子ちゃんだけだと思う。長門グループの時もそうだったし、俺が関わる前にコナンも財閥のお嬢様が殺される事件に出会っている。

 

(被害者側か。小五郎さん絡みで、しかもソフトウェア関連ってなると……連中、出てくるか?)

 

 もしそうならば、またあのクソロン毛共とやりあう必要が出てくるという訳で……。

 もうナイトバロンのコスプレは使えないし、博士達に頼んでるマスクの方急がせるか。

 また火傷バージョンの赤井さん使うって手もあるけど。

 いつ、どこにいてもおかしくない訳のわからない人物としては赤井さんって存在は便利なんだよなぁ。

 今も死んだと思われている人物だし。

 

「例のビルの方はどうですか?」

 

 森谷とやりあう切っ掛けとも言える西多摩市に、この人は現在めちゃくちゃ高い高層建築を建てている。

 面倒な市議会議員を動かしたりとかなり無茶な事をしたようだが……大丈夫だろうか。調べりゃ分かるんだろうけど……多分、あのスケベオヤジだよな。

 マリーさんがいた時に、執拗に彼女に護衛を頼もうとしていた奴だ。よく覚えている。

 あの時ばかりは次郎吉さんや朋子さん、その他貸しを作っておいた政治家多数の力を借りて黙らせたけど、懲りるような奴じゃねぇからなぁ。

 

「えぇ、順調よ。このままいけば次の春にはオープンパーティが開けるかしら?」

「……春」

 

 基本的にいつでも程良く人員を抜いて事件が起こるだろう環境は整えているけど、その時期には安室さんが自由に動けるようにスケジュールを調整するようにしておこう。

 

「それで……貴方は、キッドの件でこちらに?」

「えぇ。相談役は俺をあまり関わらせたくないようなんですが、どうにもスコーピオンの件があるので……」

 

 正直、一度キッドとは話をしてみたかった。勧誘の方面で。

 なにせ変装の達人で、ありとあらゆるセキュリティを解除した上でファンサービスまでやって去っていくという離れ業をやってのける男だ。しかも、工藤新一――コナンのある意味で真っ当なライバル。

 殺しをしない点をみても信頼が置ける。変装の達人ならば、顔を変えてウチに勤めようと思えばできるだろう。

 瑞紀ちゃんの上位互換とも言える存在なら、瑞紀ちゃんや最近瑞紀ちゃんのヘルプで入ってる快斗君の負担も大幅に減らせるだろう。

 

(枡山さんが態勢整える前にこっちも用意しておかないと……)

 

 警視庁やインフラ関連への襲撃シミュレーション。公安の方で『蜂』と呼ばれているらしいが、俺が作った物が評価されているらしい。

 正確には、評価され過ぎて超機密文書になってしまったけど。

 まぁ、公安に預けておけば大丈夫だろう。

 問題は、そのシミュレーションの想定のいくつかが既に実際に起きてしまったことだ。

 刑務所が爆破されたという報告がさっき上がって来た。

 

 枡山さんならやりかねない事のトップとして念入りに書いてあったのだが間に合わなかったか。

 多分、遺体の数とか受刑者と大幅に合わないんだろうな。

 そんでニュースとかで流されて一気に周辺が不安になる……多分、今頃近くで強盗や空き巣被害が増えたりしているハズだ。

 

 念のために七槻の会社――七槻自身とふなちはちょうどどっかに移動していて連絡が取れなかった――に連絡を取って、現場周辺の警戒をしてもらっている。

 警察のサポートに務めるように頼んでおいたし、初期対応としては問題ないだろう。

 

「キッドもそうですけど、蠍の件もありますし……。念のために、という所ですかね」

「あら、相変わらず蠍にはご執心ね」

 

 そりゃあもう。

 色んな意味で俺の初めての相手なんですから。

 

「えぇ。それはもう――誰にも渡す気はありませんよ」

 

 ……あの、青蘭さん。

 美緒さんと話し過ぎたのは悪かったと思っていますので、腕に力込めるの止めてくれませんかね。

 なんか一瞬殺気っぽいの感じたんですが。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『それで、キャメル。浅見透は今、大阪に?』

「えぇ、私も一緒です」

 

 FBIと浅見探偵事務所の二足の草鞋を始めてしばらく立つが、相変わらず両者が接触する気配はない。

 所長の浅見透は普通に仕事と学校と入院が忙しくて中々時間こそ取れないが、門は常に開いている。

 色々と警戒して、二の足を踏んでいるのはFBIの方だ。

 

(おそらく、ジェイムズさんを待っているのだろうが……)

 

 もう一人のボス。ジェイムズ=ブラック。

 近々日本に来ると言っていたが、やはりこちらも遅れている。

 本国の方でも色々とあって、身動きが取りづらくなっている。

 いや、恐らくは浅見透がFBIの人員を把握したルートを今必死になって探しているのだろう。

 

『こっちは、例の水無怜奈を調べているわ。こっちを探っていた連中の事も。それに……それと――』

 

 ぐっと、電話の向こうにいる女性の言葉が詰まる。

 

『死体は、上がっていないのよね』

「えぇ。こちら――探偵事務所でのツテも使って調べていますが、あれから顔に火傷跡のある男性の遺体は見つかっていません」

 

 あの日、ジョディさんから上がった『赤井さんを見つけた』という報告。

 その報告を受けてすぐさま現場に到着した自分達を待っていたのは、赤井秀一の二度目の死亡報告だった。

 

 記憶こそ失くしていたようだが、それでもやっぱり赤井さんだったのだろう。

 ジョディさんを連れたまま襲撃者達と戦い、撃退し、そしてジョディさんを逃がした。

 

 手も、足も、そして心臓にも銃弾を受けたというのだ。

 何発も、何発も、何発も。

 銃弾の衝撃で弾き飛ばされながらも、あの人はジョディさんを物影へと突き飛ばし、そして静かに微笑んだまま――海に落ちたらしい。

 

 あれ以来ずっと塞ぎこんでいたジョディさんだが、しばらくたっても遺体が上がったというニュースが入ってこない事から、逆に希望を持ったようだ。

 

 生きていると。

 あの時、身を呈して自分を救ったかつての恋人は――生きているのだと。

 

(浅見探偵事務所への執着が薄れたのは幸いと言えなくもないが……)

 

 これはこれで良くない傾向だと、そう思っていた。

 浅見透への疑惑が晴れたわけではない。

 あのクリス=ヴィンヤードとの繋がりが浮かび上がった今では、それを覆すのは難しい。

 正直な所、自分としてもそこに言葉を挟むつもりはないが……

 

(執着も、舞い上がるのも禁物ですよ……ジョディさん)

 

 浅見透。自分のもう一人の『ボス』の言葉が思い浮かぶ。

 

 

 

――尾行、潜伏、追跡、護衛……それに女を口説く時も。どんな時でも焦りは最大のトラップなのさ。

 

 

 

 正直な話、『貴方がそれを言うな』といつも思う。

 事あっては必ず危険な場面で飛び出して、大怪我を負っている。

 専用の病室が都内の鈴木財閥影響下の病院にいくつも作られているというのに、本人は入院前提で私物を持ち込んでいるありさまだ。

 

 だけど、いつだってあの人は焦っていなかった。

 焦りを一切見せず、ギリギリの所で自分の命を天秤にかけ――そして誰かを救うのだ。

 それが被害者だろうが、犯罪者だろうが。

 

 それほどの事をして見せろなんて口が裂けても言えない。

 だが、強く思う。

 

 今のジョディ=スターリングに、誰かが救えるとは思えない。

 

 同時に、やはり赤井秀一が死んだとも思えない。

 いや、それどころかむしろ――

 

(ひょっとして……本当にひょっとしてですが……)

 

 今回、赤井秀一と思わしき男の行動。そしてその後の所長(ボス)の急な出張。

 もし、もし自分の勘が正しければ――

 

 

所長(ボス)……まさか、貴方は赤井さんと――)

 

 

 

 




【rikkaのガチで超番外なコラム】

≪『蜂』の元ネタについて≫

 感想で書かれて、説明忘れていたの思い出しました。
 この元ネタはコナンではなく、バイクに天才的な才能を持つ怪力婦警『夏美』と、車のドライビングに天才的なセンスを持つ才女『美幸』の婦警コンビが活躍する昔の大ヒット作品『逮捕しちゃうぞ!』の劇場版に登場したとある符牒『蜂一号』から持ってきた物です。

 少し前ですが、このネタをこっそり出した時に感想で食いついて来てくれた読者がいてメチャクチャテンション上がったのは覚えております。この場で感謝を……いや、本当に分かる人がいて嬉しかったです。
 コナンがキャラ成分強めなら、こちらはストーリー重視の作品となっております。(どちらも同じバランス派ではありますがw)

 すごく余談ですが、『タツミーをヒロインに~』及び『rikkaのメモ帳(銀魂)』の主人公の葵は、この作品に登場する人物『葵 双葉』がある意味での元ネタというかモチーフだったりします。

(私の作品では、ある種のテーマが同じだったら主人公名も同じ物にしていたり…w)

 レンタルでも出ているはずなので、是非ともアニメは見て欲しい。
 自分はカートゥーンネットワークで見ていたのですが面白かった。そして原作全部買って劇場版はDVD買った。
 アニメ版揃えよう揃えようと思ってたんだけど……

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