戦国†恋姫~不死の刃鳴~   作:我楽娯兵

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どうも皆様、はじめましてこんにちはこんばんは。運珍です。
BaseSonより発売しました「戦国†恋姫X」をプレイし武士と言えば「刃鳴散らす」の連想ゲームで出来た作品です。


黄泉道に迷う毒虫

 屍肉を喰らって肥え太る蟲がいる。

 

 血染めの原っぱの真ん中を、

 

 赤い小さな芋虫が這い進んで、

 

 戦士の骸に潜り込む。

 

 肉を食み、血を啜り、

 

 骨を齧って突き抜ける。

 

 虫は一回り肥えている。

 

 赤い柔肌も一段と照り、

 

 それは見事な茜色。

 

 ――屍肉を喰らって肥え太る蟲がいる。

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 赤音は光り輝く街を見ていた。

 屑の掃き溜めの荒廃した帝都であるが、そこに宿る光は、美しい輝きに満ちていた。

 生きてきた意味も、慰める情婦も、斃すべき兄弟子も、すでにこの世を去っていた。

 赤音は帝都の光に魅入られ、最後に残った知るべきことを確かめる。

 シャツのボタンを全て外す。

 前を広げ、素肌を曝した。

 懐より白布がこぼれた。床に落ちるより前に拾う。

 それは此処にくる前に病院で貰ったものだ。

 腰に一度収めた刀を半分ばかりだけ抜いた。

 切先から一尺程度の位置に白布を巻き付けていく。

 切る事に優秀な刀。白布を切ってしまわないように、手間どりながら十周ほど巻きつけた。

 刀を抜き放つ。

 持つ手は柔らかく、手弱女のように頼りない。

 それは道理で、ただ一度、ただ一度の、神速に対抗する魔剣が赤音の筋力を奪い去っていた。

 右手は、白布を巻いた刀の中ほどを握る。左手は、逆手に柄を握る。

 刃の剣先を鳩尾に突きつける。

 す、と息を吸い。

 吸いながら、腹筋を腹腔に押し込める。

 はっ、と息を吐く。

 腹筋を押し出し、切先が肉を穿った。

 痺れるような感覚が体に広がった。

 

(......切先、五分。少し浅い、か?)

 

 鳩尾に埋まった刀を見て思う。

 刀を強く握り、切先は更に深く沈む。

 六分、八分。

 

 ――良し。

 

 赤音は一息に(へそ)まで切り下げた。

 血が噴出する。

 

「う、あ......」

 

 思わず声が漏れた。

 鈍く、熱い痛みが全神経をかけ抜けた

 

(まだ、まだだ)

 

 明滅する意識を繋ぎ止め、刀を引き抜く。

 抜いたはしから新たな血が溢れ出る。色を失う街並みに、しがみつく思い出で刀を取り直す。

 尖端を左脇腹に押し当てる。

 息を測る余裕はもうなかった。生存本能的な躊躇を無視し、刃を突き刺す。

 そして、横一文字に斬り開く。

 世界が暗転した。かと思えば白熱する。

 青。

 紫。

 黄。

 狂的な転変の後、視界は薄明に包まれ、色合いを取り戻す。

 己の腹部を赤音は見下ろした。

 深紅で縁取られた漆黒の十字がそこにあった。

 穢れの詰まった臓物は、今だこぼれることなく、しっかりとそこに収まっていた。

 見事な成果に、満足した。

 刃を抜く。

 巨岩よりも重いそれを首筋まで運ぶ。

 すでに赤音は感覚を失い、己がどのように動いてるのかも分かっていない。

 だが、剣路を共に歩んだ相棒が、身より離れずいてくれることを祈り信じた。

 首筋に感じた冷たき感覚。

 死する最中、それを知った。

 刀を下げた。

 帝都を臨む塔の上で、赤音は砂粒の意識を認識した。

 

(これで......終わった)

 

 すべてが崩れて、溶けて、霧散していく。

 流れ出る命が、纏った小袖と同じ色に染め上げる。

 武田赤音の生涯はここで終わる筈であった。

 臥した赤音の傍らに立つ、禁軍の将と不死(ブシ)たち。

 禁軍の将は赤音を見下ろした。そして言った。

 

(わたし)たちと共に、大帝のお側に使える気はないか」

 

 

 

 

 

 

 

 野晒しの雨に打たれる骸がある。

 群がる蝿は天水によって近寄れず、天の恵みを流れ出る液で溜まりを赤く染め上げた。

 水を吸いふやける皮膚、人馬の叫び、刃鳴の音。

 あるとき一つの声が上がる。

 

「......織田上総介久遠馬廻り組組長。毛利新介! 東海の弓取り、今川殿。討ち取ったりーーッ!」

 

 叫びは雨音に消される事なく、戦場の端々まで聞き届いた。

 天に向けて示された首級(みしるし)。それは一将の首である。

 武士の習いであるそれは、一軍の機を削り取った。

 仕えるべき主を失った士は恥じることなく、嫌忌すら表すことなく、背中を曝して逃げ走る。

 一人の女武士は仕えるものたちに言った。

 

「今こそ好機! 織田に集う勇士たち。これより敵の追討だ!」

 

 その女武士は「尾張のうつけ」と呼ばれた。

 南蛮に中てられ、世界を臨む姿勢は、この時代この世界には正しく理解はされなかった。

 理解できないモノは、怪か、それとも物狂いか。二択であった。

 甲冑を身に纏った姿は、女子には不釣合いな背格好である。

 尾張の国を治める久遠は、戦を好む、好まざる関係なくこの場にいなければならなかった。

 それが国主の務めであり、義務だ。

 戦場の熱は霧散し始めていた。

 敵の追討――思考を飛び越え、口より出ていた。

 

「久遠さま! 崩れたとは言え、戦力差は歴然でございます! 今はすぐに後退すべきかと!」

 

 配下の者がそういった。

 

「このまま賊徒になられてもかなわん。今ここで根を絶つのだ!」

 

 両者の言った事は確かである。

 戦力差は確かにあった、時が経てば逃げた武士は賊徒になる。

 現在か、今後か。どちらを選ぶかは馬上の久遠に選択権はあった。

 刃を取り敵にそれを向けた。――根切れ、喉元まで言葉は出ていた。

 だがあるものがそれを止めさせた。

 切先に止まる蝶がいた。

 その蝶は久遠にも、配下のモノにも見えていた。

 色鮮やかな朱色の羽を持った蝶である。

 ゆらり、ゆらりと羽を開き閉じ、身を休めていた。戦場には似つかわしくない美しい色である。

 だがそれ以上にこの場に合わないことがあった。

 ――この蝶は雨に打たれ何故飛べる? そう思った矢先、蝶は久遠の刀より飛び立った。

 時を忘れさせるように、ゆっくりと飛ぶ蝶は打ち棄てられた今川陣へと飛んでいく。

 眼で追う久遠。追った先にそれが眼に入った。

 今川陣中に斃れる首を獲られた、今川義元の骸。その傍らに見えた。

 ――朱い、血のように朱い小袖が。

 久遠は今川陣中に馬を近づけそれを見た。

 女人(にょにん)と見間違いそうになる奇妙な男が居た。

 刀を握り、甲冑は着ていない。背丈も小さく、朱い花輪模様の小袖でより小さく見えた。

 倒れ臥すその小姓から覗く肌は、女のように白く、髪も長い。

 その者の髪に止まった赤の蝶が髪飾りのようだった。

 ずれた小袖から覗く妖艶なうなじは、女である久遠も魅了する色香があった。

 

「稚児か」

 

 別段珍しい事ではない。戦場での性処理は誰しも困るとだ。

 それなりの地位を勝ち得たものは、戦場での昂ぶりを小姓で発散する事はよくあることだ。

 女武士が多いこの時勢、男娼(ツバメ)は懐妊の恐れがあり、女娼が多い。

 男性は女娼ではのめり込み過ぎる。結果は同性は同性が相手をする事が多い。

 今川義元はこの時世では珍しく益荒男である。側近くに稚児を置いていてもおかしくはない。

 だが一番おかしいのは、この稚児の頸が繋がっている事であった。

 先程討たれた今川義元の側に居りながら、毛利新介の凶刃に斃れていない。

 よくよく稚児を見下ろす、そのモノの小袖からはみ出した足から長穿(ズボン)が出ていた。

 それだけではない、足を包む物は草鞋(わらじ)などではない、革履きだ。

 不可解すぎた。南蛮をよく知り、日ノ本もよく知る久遠には、この稚児がありえない存在に思えた。南蛮器具を多く収集し、いじくり、また集める。外の国を理解できる者は日ノ本には極限られたものしかいない。

 そんな限られた珍しい存在が、尾張の片田舎に出向くわけはない。

 こいつ何かある――久遠の直感がそう感じ取った。

 

「おい、猿!」

 

「は、はひっ!」

 

「こやつを持って帰れ。あとで検分する」

 

 久遠の好奇心と猜疑心が、君主としての認識が、この男は何かあると。

 猿は男を担ぎ上げる。髪に止まった赤羽根の蝶が飛び立つ。

 男の手より落ちた一振りの刀。拾い上げ、見た。

 二尺三寸三分鎬造り刀身が雨に打たれ濡れていた、僅かに着いた血の曇りを雪ぎ、その刃が表に現れる。

 

「良い刀だ」

 

 鋭利で兇刃、毒虫の牙が少女の手に握られていた。

 下剋上の時代、騒乱の刻。羽化する毒虫がそこに居た。

 士と人切り、鬼と不死(ブシ)、剣狂者と剣鬼。

 咲き誇る血で綴られた喜劇の幕が開く。

 さあ、刃鳴の季節だ。

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 屍肉を喰らって肥え太る蟲がいた。

 

 肥えた芋虫は木に登り、

 

 背を曝して綿を撒く。

 

 綿を編み、繭を造り、

 

 躯を溶かして蝶と成る。

 

 蝶は腹を空かしていた。

 

 赫の羽根を羽搏かせ、

 

 毒の鱗粉を撒き散らす。

 

 臥した骸に集るのは、

 

 飢餓多き芋虫の群れ。

 

 ――屍肉を喰らって肥え太る蟲がいた。

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