戦国†恋姫~不死の刃鳴~   作:我楽娯兵

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どうも皆様こんにちはこんばんは。我楽です。
戻ってまいりました。復讐剣、リターンウィッチと浮気をしましたが戻ってまいりました。
では四ヶ月ぶりぐらいの不死の刃鳴を、どうぞお楽しみ下さい。


墨俣一夜城 上

「す、墨俣にお城をっ!」

 

 この世の終わりか、それともこの世の終わりを回避する方法を知ったように驚きの声を上げたひよ子。そんなひよこを目尻に赤音は蕎麦がきをかっ込む。

 

「本当に出来るんですかい? それりゃあ」

 

 隻腕の熊が丸太のような手を伸ばす。赤音は茶碗を渡し湯呑の茶を啜る。

 咎人衆副棟梁、陣乃介であった。

 土壇場送りの下手人が赤音の仕打ちに、生存し得たのだ。

 金創医の腕が良かったのか、包帯が巻かれた切り株のような片腕は血が滲んではいたが、綺麗に縫合されている。綺麗といっても縫合糸は蛸糸同然、時折臭う血腥い紫蘇の香りは縫合の膿瘍を恐れての殺菌塗布だろう。

 飲み干した湯呑を置き吐き出すように云う。

 

「出来る出来ないは求めてないそうだ。死地に送りたがってんだ家老の御二方が」

 

「家老の二方って...」

 

「想像に任せる」

 

 想像は容易だろう。

 織田の双竜、丹羽長秀と柴田勝家だ。もう一人強いて云うのなら佐々の馬鹿野郎だ。

 現状、織田家が措かれたで最も障害となってくる諸外国の一つが、

 美濃国主の斎藤義輔凉彌龍興。帰蝶の従姉妹に当たる。

 斉藤家の家長ではあるがその実権はあってないような物、神輿と成り下がった傀儡国主だ。

 実質的な国主は、これも無能ではあるが斎藤飛騨守と云う娘子。

 烏合の衆と化しつつある美濃の情勢、美濃三人衆の一人の安藤守就が近々内密の会見に来るとも噂がある。瓦解寸前の国ではあるが、人よりもそれを取り巻く環境が厄介であった。

 先々代の美濃の蝮こと斎藤秀龍舛彌道三が残した城、稲葉山城。現代で云う岐阜城の攻略に織田の家老一同長年の間苦汁を舐め続けていた。

 急峻の金華山の山頂に立てられた稲葉山城は堅牢な山城だ。甲冑着込んだ兵子どもがえっちらほっちら山登りなど、高所を取っている美濃軍のいい標的だ。山下は迷路のような城下が広がり兵どもは迷う。難攻不落とはまさにこの事、大阪小田原と肩を並べてもいいのではないか。

 だが幸い稲葉山城は山城、長期篭城戦には向かない。兵糧攻めでゆっくり飢え死にを願おう。

 とも云えぬのがこの赤音が置かれた状況。

 赤音は新参者の上、御前試合で家老衆の五人中四人を破って反感を大いに買っている。

 稲葉山城攻略の難題のお鉢が回ってきたのもそのせいだ。

 徒に稲葉山城攻略を長期化させ憤懣を溜めさせるのは、得策ではない。何より国勢がそれを許さんだろう。今は松平が盾となり今川を防いで入るがそう長く持たないだろう。腹黒狸の考えは読めぬ。

 今川の家長となった氏真も織田への仇討をせねば諸外国へ示しがつかない。

 出来るだけ早急に稲葉山城を落す必要がある。

 なら最初になにをすべきか。ことの全ては俺の知る歴史が教えてくれる。

 墨俣に城を築く事だ。

 城といっても石垣からなどではなく、木材の即席の橋頭堡で充分だ。

 戦略上墨俣は城を築くのに最適な場所だ。長良川の対岸には稲葉山城がよく見え動きも逐一把握できる。だがそれは相手も同じ、いや更に酷い。

 まず前程が違いすぎる。相手は本丸を持ち、敵を送ってくる。

 対するこちらは敵地へと赴き、城を建てなければならないのだ。同時に敵も襲い掛かってくる。

 どちらが苦労するのかは比べるまでもないだろう。

 

「墨俣に城を建てるのは柴田様も挫折なさった難行ですよ。無理ですよ」

 

「つったて今から断れる訳じゃねえだろ。投げ出して俺に掻っ捌けてのか? ひよ子よお」

 

「そうですけどおぉ...陣乃介さぁん...」

 

 情けない声で陣乃介に泣き付いたひよ子であるが、陣乃介はそれを押さえながら訊いてくる。

 

「城建てるのは理解しましたけど、どうやって築城するんですかい?」

 

「知らん、場所を見んことにはどうしようもない」

 

「てぇと?」

 

「見に行くか。美濃の墨俣」

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

「美濃に行くッ?!」

 

 織田の館に戻り、久遠に路銀の催促をした。

 当然反応は――

 

「ならんッ! 敵地のど真ん中、それも墨俣だと」

 

「下見だよ。攻めるわけじゃねえって」

 

「いや、だがあそこは死地ぞ。何人が死んだか数え切れん」

 

「長良川に川釣りを装えばいいだろう」

 

「だが何故主が――そ、そうだ! 咎人衆! 咎人衆の管理はどうするのる。罪人ばかりでは律する事も儘ならんだろう」

 

「罪人ばかりつったて未だ全体の五分の一程度だ。陣乃介を残すから大丈夫だ。あれは他よりも自制心はあるからな、強いし副棟梁にも据えてんだ。どうにかなるだろ」

 

 久遠は何かに理由をつけ墨俣の下見に反対していた。

 反対する理由はない筈だが、意味が分からぬ。

 既に旅支度を始め、単着物の袖に腕を通していた通していた。

 デカイ鏡がないため小さな鏡台に姿を映し、違和感がないか確認した。

 上より赤い小袖を羽織、立ち姿は女のような婆娑羅者に留まっている。

 

「うん、いいんじゃね」

 

「よくないわ。いいか路銀はやらんからな!」

 

 久遠は飛び出すように部屋を出て行く。

 後を追う気にもならない。まるで駄々っ子をみているような、そういった気分になる。

 同室にいた帰蝶は大きな溜め息を吐いた。

 

「赤音は鈍いのね」

 

「鈍いも何も、城建てる下準備だろ。理解してるだろ」

 

「理解はしてるけど納得は出来てないのよ。墨俣は幾人の兵が死んでいるから」

 

「川釣りするだけだろ」

 

「その真っ赤な小袖着て?」

 

 帰蝶は衣紋掛けに赤音の着ている小袖を丁寧に掛けていく。

 初めて会ったときよりよそよそしく他人行儀な言い方ではなく。

 かなり砕けた、と云うより素に近い口調に帰蝶は変わっていた。

 長いとはいえぬがかなりの時間この屋敷で寝泊りをしている。円滑な関係を築けていると考えるべきだろう。だが真名を許さない辺りいまだ警戒しているようだが、ある程度は踏み入る事を許している。

 

「単身でいくの? 国境の関所は刀持っては厳しいわよ」

 

「ひよ子を付ける。“かぜ”はひとまず置いて行く、護身道具無しってのも心もとないからな小太刀でも持ってく」

 

「無茶な行軍ねえ。久遠が嫌がる理由も分かる」

 

「あいつなんであんなに嫌がっている。訳がわからん」

 

「話し相手がいなくなるのが寂しいのよ」

 

「はぁあ?」

 

 ますます意味が分からん。たかが話し相手だ。

 それが寂しいから行かさないなど、どうにかしているだろう。

 

「久遠は南蛮好きだし、そっちの話が出来る人が欲しいのよ。私も聞いてはみるけどうまく理解できないから」

 

「いや、聞くだけろ。ろくに話していないぞ」

 

「本当に? 久遠は赤音に南蛮の話をするのが最近の楽しみにしているのよ」

 

 確かに聞きはするが受け応えは適当だ。

 ヒスパニアがどうたら、遠眼鏡が良いなど、既に知っていることを延々と話されるだけだ。

 実際に渡航したことはないが、諸外国の話をたまにするだけで特別な事をした覚えはない。

 だがそれがよくなかったようだ。

 旅先で能楽でも行い路銀を稼ぐしかないようだ。

 

「どの位向こうに居る気でいるの?」

 

「行き返りを抜きに考えても長くはねえな。精精二日がいいとこだ」

 

「......はぁ、分かった。久遠は私が説得しておくから。いい赤音、すぐに帰って来るのよ久遠が駄々を捏ねだしたら手に負えないんだから」

 

 その言葉に絶句してしまう。

 初対面のときは取り付く島がないどころか絶海無島の態度だった女が。

 

「お前もしかしていい女か?」

 

「もしかしなくてもいい女よ」

 

 自信ありげ帰蝶は答えた。

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 早朝に北へと向かい、戌の刻程には赤音とひよ子は美濃に入り、川釣りを興じていた。

 傾き出した日に長良川は光り輝き、魚影を包み隠す。

 内陸の岐阜で釣り竿もって関所を越えるのは少々変に思われたが、何せ女みないな男と農民丸出しの娘なのだからなにを疑うのか。刀なし、凶器になりえるものは小太刀一つ。

 難なく関所を越え、長良川の辺へと腰を落ち着かせ稲葉山城がよく見える場所に陣取った。

 

「来ましたぁっ! 来ましたよ赤音さま!」

 

 本来の目的を完全に忘れつりに没頭してしまっていたひよ子が隣で騒ぎ立てる。

 餌は田畑よりミミズを使っているが、食いつきが非常に良かった。

 小袖の袖下より久遠の私物でよりくすねた遠眼鏡を取り出す。

 この時代にしてはいい出来をしている遠眼鏡だ。非常によく見える。

 釣竿片手に稲葉山城を見る。

 

(警戒は...薄いな、城の堅牢さ故だな)

 

 物見櫓に立つ兵たちの表情は退屈を極めているようだ。

 きっとここに城が一夜にして建てば仰天で腰を抜かすだろう。さぞ楽しいドッキリができる。

 狙いはやはり夜しかないだろう。

 資材の運搬にどれだけ消音化できるか。適確な設計と機動性も必要だ。

 だが運搬に大きな障害がある。柵一つでも一軍を防ぐとなればそれなりの規模の物が必要だろう。

 大型すればいいだけの話だが、物も大きければそれだけ運搬の手間と騒音を伴う。

 現代のように大型ダンプを転がせるわけでもなし、人力ではたかが知れるだろう。

 消音化が出来ないのならそれだけ早く建築するか。

 

(無理だなぁ)

 

 どれだけ捻ろうとも出るのはうなり声だけだ。

 遠眼鏡を袖の下にしまい水、面に垂れる糸を眺め気お落ち着かせる。

 ふと鼻を突くアンモニア臭。

 左隣で娘子が川の辺に座り川水を掬い髪を洗っていた。

 長い黒髪だ、前髪も長い。あれでは前方が見えないだろう。

 着物は上物で作りもいい。そこそこの家のものだろう。

 

「肥溜めでも落ちたか」

 

「...えぇ、そんなところです」

 

 頭を休めるついでに話を振ったところ返答が返ってきた。

 夕日に光る濡烏色の黒髪が綺麗であった。だが娘子の雰囲気は不機嫌そうであった。

 

「女は髪を洗うのも一苦労だな」

 

「そういうあなたは女のようですよ、髪の長い。男娼(ツバメ)の方ですか」

 

「放浪人だよ。あっちこっち飛び回ってんだ」

 

「そうですか」

 

 髪を洗い終わったようで濡れた髪を絞っていた。

 拭く布を持っていないようであった。懐より手拭いを取り出し投げて渡す。

 

「...あ、...ありがとうございます」

 

「......」

 

 何も答えず眼だけを向けちらりと見た。前髪の隙間より僅かに顔が窺える。

 愛らしい顔をしている。隠しているのが惜しいくらいだ。

 整えれば嫁の貰い手もすぐにでも出てきそうだ。

 コツコツと釣り針を突く獲物があり、神経をそちらに集中させる。

 

「なにを釣っているのですか?」

 

「さぁな。ここで釣りするのは初めてだ。こっちは当たりがねえてのに隣はどんどん釣っていきやがる」

 

 大はしゃぎで釣りをしていたひよ子はいつの間にやら遠く離れている。

 焦らすように突いていた獲物が竿に食いついた。一気に引き上げそれを吊り上げる。

 吊り上げたそれは――

 

「オオサンショウウオ...ですか」

 

「......ああ」

 

 とんだゲテモノを吊り上げてしまった。

 食えぬ事はないだろう。食用とされていた時代もあった。

 だが現代ではワシントン条約で食い物とされなくなっている。

 上品な味など、名の通り山椒のような味がするなど聞くが。目だか疣だかよくわからないもので覆われたこれを食う気はしなかった。

 

「手拭い、ありがとうございました」

 

 丁寧に畳まれた手拭いを渡してくる娘子。小さく礼をし、その場を離れていった。

 

 

 

 *  *  *

 

 

「掛からなくなってきましたねえ」

 

「お前本来の趣旨忘れてなかったか」

 

 日も暮れあたりはすでに暗くなり始めていた。

 魚を投げ込んでる桶はそこそこの数が犇き、中央にはオオサンショウウオが踏ん反り返っていた。

 

「お城建てそうですか?」

 

「お手上げだな。運搬の最中でばれるだろうな」

 

「資材を運ぶ最中にですか?」

 

「音がでか過ぎる。甲冑着込んでるのもそうだし機動性ゼロだ」

 

 桶を持ち宿に向かう。

 群青色の空に一番星が輝いていた。夜空の端で流れ星が流れると共に光明も川面より流れてきた。

 

「ひよ子ーーーおーーいッ!」

 

 大きな声でひよ子名が呼ばれる。振り返ると、それらがいた。

 年はひよ子と同じぐらい、蜂の髪飾りがよく似合う活発そうな少女がいた。

 喫水が浅い、というより丸太製の(いかだ)で大量の竹を積み運んでいた。

 (いかだ)を川岸に止め走りひよ子に駆け寄った。

 

「ひよ子っ! 元気にしてた!」

 

「うん! 転ちゃんは」

 

 旧友との再会なのだろうが、赤音はそれいじょうに(いかだ)に惹かれた。

 そうだ。その手があった。

 あれを使えば出来るではないか――一夜城が完成する。

 

「赤音さま、紹介します。私の友達の――」

 

「蜂須賀小六転子正勝と申します。友人のひよ子がお世話になっております」

 

 紹介などどうでもよかった。俺はそれを無視して訊く。

 

「お前生業は何をしてる。あの筏は誰のだ?」

 

「あ、え? わ私は、と云うより川並衆は野武士をしてます。今はどこも戦働きができないので、木材運んでお金に――」

 

「あれはお前らのか?」

 

「いえ、あの竹は――」

 

「竹じゃねえよ。筏だよ」

 

「は...はい。私達が作りましたけど...」

 

 そうか、そうだったか。完璧ではないか。

 赤音は大声で笑い出してしまった。桶の魚達騒ぎ数匹飛び跳ねた。

 

「そうか! 分かった判ったぞ。野武士か、上等だ。川並衆全員雇おう」

 

「え――ええええええッ!」

 

 ひよ子と蜂須賀は驚きの声を上げた。

 赤音の頭には完璧な未来像(ビジョン)が出来上がっていた。

 何も資材をいちいち手で運ぼうとするのが間違いなのだ。

 資材に乗って、川を下れば簡単ではないか。

 墨俣の城はすぐに建つ。




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