戦国†恋姫~不死の刃鳴~   作:我楽娯兵

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テキスト二・三行の犬子の戦闘描写どうすりゃいいんだよ!! 
判断要素少なすぎだろ!! BaseSon!!


第弐試合 蒼燕瞬歩

 柄杓の水を呷る。

 佐々との仕合を終え、束の間の休息。

 今にして銃と対峙する恐怖が赤音を襲う。

 耳にこびり付く銃声、眼に焼きつく銃口の閃光、臓腑に漂う飛翔の浮遊感。

 打ち身擦り傷はなく身体的には正常だ。だが精神的な均衡は戻りきれていない。

 幾度も深呼吸を繰り返すが、胸の動悸は収まらず、心臓は目紛しく血液を循環させている。

 

「水です」

 

 久遠の侍女より柄杓を受け取り、一気に飲み干す。

 冷水が喉を伝い、食道を凍らし胃袋を満たした。柄杓を侍女に渡す。

 娘は無表を貫き続け、黙って、そして確実に物事を行う。

 心臓の鼓動もある程度に落ち着きを取り戻す。ふとあることを思う。

 

「名前、聞いてなかったな」

 

「名前?」

 

「お前のだよ。無名(ななし)なんてことはねぇだろ」

 

「――帰蝶」

 

「――――」

 

 まさかである。想像もしていなかった。

 ――帰蝶。

 織田信長の妻。斉藤道三の三女。

 

 濃姫。

 

 これほどの者を女中が如く使っていた赤音は、心底馬鹿馬鹿しく笑いが出た。

 

「なにか。可笑しなことでも?」

 

「いや、なんでもない。お前によく似た奴を知ってただけだ」

 

 僅かな言葉である。ほんの僅かな、うつけの嫁、帰蝶との会話は。

 大太鼓が轟き、二試合目を知らせる。

 “かぜ”を握り、立ち上がる。陣幕を掻き分け合戦へ舞い戻る。

 刀剣の匂い香る、血潮臭わぬ歪な合戦へ。

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 立ち合う相手を見据えた。

 華奢な矮躯の娘。眠たげな眼は真剣を用いた仕合をするには相応しいとは言えない。

 

「滝川彦右衛門雛一益でーす......あーあ、和奏ちんが負けたのに雛が勝てるわけないですよ~...」

 

「ぐだぐだ言わんと、さっさと仕合え馬鹿者」

 

「無茶言わないでくださいよ~...」

 

 柴田の叱咤激励ですら面倒くさそうな返答をする。

 だが赤音にはこの娘がどこか妙に感じる。飄々とした態度の奥底に、勝ちへの確信のようなものを匂わせた。それだけの業前か。赤音の眼にはそのようには見えない。

 筋肉の着きかた、目線の先、足の運び。武人の動きとは到底思えない。

 衣で隠しているがあのように細い腕筋で太刀など振れようか。

 浮き草のようにふわふわとたどたどしい。危うさを醸し出す理由は武を倣う者ならば想定は出来る。

 ――こいつ、蛇の類。

 変に突いて出るのは、足持たぬ獣。

 相手の得物は、幸いすでに見えている。腰に挿す二振りの小太刀。佐々のように銃という事はない。鍔を押し、鯉口を切る。

 抜き身の“かぜ”を担ぐ、“かぜ”の刀身は中天の光を集める。

 何時何時でも人を切り捨てれる。

 

「うー...、ねぇ。雛は降参するから、次に回していい?」

 

 とぼけた声で、ふざけた事を言う滝川。

 そんなこと許される訳はない。赤音は動いた。

 早足、急速に滝川との間合いを詰める。滝川は眼を白黒させ、咄嗟の判断は付いていないようである。

 

(――冷や汗かきな)

 

 滝川との距離はおおよそ一間、その距離を跳躍のような踏み込みで縮める。

 間合い騙しの技法。左を軸足に前方へ向けて伸ばし、次いで爪先で地を蹴り出して踏み込むことで通常より間合いを大きく奪う。先の先を取る技。

 ――――飢虎。

 眼を回す滝川。急変した間合いにどう対処する。

 

「よっ」

 

 まさかである。飢虎の斬撃をバク転にて回避する。

 逃がす訳はない。「飢虎」より「小波」へと技を繋げ攻めを強める。

 下方より股下を割る斬撃が走る。

 

「ッ!?」

 

 やにわに滝川の姿は消失した。

 物理的に消えたのではない、ただ赤音の視界から外れたのだ。

 後方へと逃げたのなら消える事はない。左右の場合では赤音の範囲内、斬り捨てれる。

 下、以ての外だ。下よりくる刃に向かう阿呆はいない。ならばどこか――。

 

 ――頭上しか残されない。

 

 滝川は飛んでいた。振り上げる“かぜ”のずっと上を。空を飛んでいた。

 重力を思い出した矮躯は弧を描き、赤音より遥か先に着地した。

 

(化け物か)

 

 まさしく化け物の跳躍でる。

 このような跳躍なにをすれば手に入るのか。

 脚を切り落とし金属のバネにでも挿げ替えたか、それともUFO(ユーフォー)にキャトられながら飛んだのか。荒唐無稽な狂言ですら、この跳躍に嘘の色を塗れない。真実としてしまうだろう。

 いかなる運命か、いかなる天稟か、何の理由があってこの様な飛翔を手に入れる必要があった。

 伊烏の飛翔以上――「昼の月」を越える跳躍。

 

「ふー、あぶなかったー」

 

 猫のような俊敏さで、距離を空けた滝川は間一髪といった様相。だが飄々とした態度は変わらず、余裕たっぷりの含み笑いを浮かべている。

 

「赤音くーん、もうやめようよー。雛はもともとこの仕合反対だったし、戦う理由はないと思うなー」

 

 気の抜ける声で刀を納めるよう云う。

 ――戯言を。

 貴様は死合いの地に足を踏み入れた。なれば後は死合うだけであろう。切って、斬られて、血潮を吹き、剣鬼の供物となれ。土壇場にたった者は誰であろうと赤音にとって区別はない。

 男、女、赤子老人生人死人豪族貴族貧者貧乏人犬猫鬼御仏……――

 区別なしすべて斬る、切って殺す、捌いて殺す。己は人斬り庖丁なれば、斬る事しか能はなし。

 だらりと下げた“かぜ”を再度担ぎ上げ、滝川の提案を一掃する。

 強固な殺意にうんざりした表情を浮かべる。

 

「やりたくないんだけどなー......わかったよ」

 

 面倒だといった態度で背を掻く滝川。

 ようやくやる気を出したのか、僅かながら気を張った。

 距離も空いている、間合いは優勢。二振りの小太刀、掠る間もなく“かぜ”餌食になろう。

 ――小太刀ならば。

 滝川は得物に手を掛ける。小太刀ではなく、背に隠した飛び道具に。

 右足を強く踏み込む。赤音の眼にはその動きが、一つの目的を持った機構(システム)と錯覚させる。いや、錯覚ではない。その通りなのだ、剣術の型と同じ。手より離れる、飛翔の剣術。

 滝川が掴み得た獲物それは、近代の火薬を燃料に射出する銃火ではない。手にすっぽりと納められた暗器。

 軍師が軍配を振るうように、武士が刀を振るリ下ろすように、腕を振り、体はうねり、手の内に収まる投擲具を打ち放つ。

 放たれたそれをほんの僅か、捉える。長さにして約十七・八センチ、鋭利に突起した先端、弾丸と同じように飛ぶが熱さは無い、あるのは風を斬る音――槍穂型手裏剣。

 手裏剣術――起源は乱戦の最中に短刀を投げた事に始まりとされているが確かではない。剣とは異なる剣、手よりはなれ敵を討つ、とされてはいるが腕に収まる刀剣とは違い、確実な殺傷を可能とはしない。使われる状態、それは非常時に際したときである。

 非常時、果たしてそのようなモノはあるのか。敵が目の前に居て刀を握っている、手に取れる武器は二つに一つ、刀と手裏剣、誰もが刀を取ろう。

 判断的要素もそうであるが、手裏剣術の難点として道具自体が高価であった手裏剣は、使い捨ての連続使用は向いていたとは云えない。

 このことから手裏剣術を発展させた流派は数少なく、剣術のサブとして発展した。

 数少ない術理、それが眼前で飛翔し赤音の命を穿とうとしている。

 狙いは胸部、意思とは乖離した体が自動的に動き出す。“かぜ”を振り下ろす。

 腕に伝わる振動。刃では受けず柄頭にて、槍穂型手裏剣を弾き落としていた。

 次動作を行う準備をシフトさせていた。意思とは切り離された行動――最適かつ確実な動き。

 赤音の恵まれた先天的即応能力。銃撃であろうと対処した能力、そのその能力の限界は――

 ――あった。

 

「ッた!!」

 

 赤音の右腕に突如として激痛が走る。

 痛みの原因を見て驚愕。

 赤い液が流す線が右下腕に描かれていた。まるで刀傷、浅く付けられた傷は遊び半分と見て取れる。

 

「うっぷぷー」

 

 間の抜ける声、それは先程まで前方で聞えていた。

 振り返る。余裕たっぷりの含み笑いを浮かべる滝川が四間ほど離れた場所に居る。滝川の両手にはいつほど抜いたのか小太刀が握られ、その左に握る小太刀の切先は赤が鉄を湿らせている。

 いつ小太刀を抜いた。いや、それ以前にいつ俺の後ろに移動した。摩訶不思議な事象に赤音の思考は混乱する。それを逆撫でする様に、滝川は頬を吊り上げ、それを起こす。

 

「なんでかなー?」

 

 四間ほど離れていた筈の滝川の姿は霧散し、にわかに目の前に現れる。

 テレポーテーション、瞬間移動、縮地。SFの可能性が今目の先で起こった。

 目先にある餌に食らいつける。だが体は動かなかった。

 肉体が拒否反応を起こす、今は斬るべきではない。

 肉体の思考と脳の思考が、客観的に大きすぎる隙を赤音は作り出してしまっていた。

 

「隙ありー」

 

 小太刀は隙を逃さず切り込まれる。後方へ逃げる。

 何が起こった、理解が出来ない。

 あれは滝川が起こしたのか、それともただ己が錯乱し、幻覚(まぼろし)を見たのか。

 違う、間違いなく現実である。腕に残る傷と流れ出る赤が証明している。

 耳で捉える音、高速で地を打つ小音。それは滝川の足音だ。

 どういう原理か、滝川は超高速で移動できるらしい。いや、説明も出来ぬ可笑しなことだ。

 だがどういうわけか、滝川は出来てしまっていた。目にも留まらぬ高速移動を。

 態勢を立て直しす直後に来た。背を撫でる突風、突き刺す圧力(プレッシャー)

 右足を軸に体を反転、中段に構えた“かぜ”。防御へ体を移行させた。

 小さな矮躯が視界に映る。二刀小太刀の切り上げが“かぜ”の物打を叩き上げた。

 その衝撃、その光景が、ある一点の疑問にピッタリと合致した。

 あの不可解な佐々内蔵助との仕合。最後の一刀を弾き上げた怪奇――

 

(こいつが――出来る筈が無い)

 

 できる。佐々との仕合の怪奇。その正体、その実体。

 目にも止まらぬ速度で動くこいつなら、佐々を切り込む直後に剣の軌道を変えることも可能だろう。

 ふと赤音の魂魄に陰りが落ちた。真っ黒な影はその大きさを広げすべてを飲み込んだ。

 滝川は、赤音を最も怒らせることをしてしまった。

 

 ――嗚呼、お前は――俺の、仕合を穢したのか。

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 にわかに赤衣の鬼が気を変えた。

 人の変化に敏く気づくものにとってそれは豹変といって変わりなかった。

 雛はあまりの豹変の度合いに肝を潰す。下手に手は出せぬ、武人の直感がそう体に言い聞かせた。

 軽捷俊敏な動きを可能にした、お家流「蒼燕瞬歩」を余すとこなく使い、距離を稼ぐ。

 何があれの中で起こったのか、何があれをあそこまで変えたのか。まるで分からない。

 距離を取り、雛は赤音を見た――その目には赤音はすでに人の姿をしていない。

 幻視である事は分かっている。が、その瞳に映る姿と赤音の精神的形の差異は寸分たりとも変わりはしない。酷く歪んだ、刀に酔わされた「鬼」。剣に狂い、死に狂い、漉され残った搾り滓は、剣としての己と斬り捨ててきた者の怨念のみ。

 足が震える、何がどうしてあれになった。どう歪めばあのようになる。

 理解不能な妖が目の前にいる。直感が吼え立てた。

 ――怪奇討つべし。

 御前試合ではあるが、雛は手加減を止めはじめていた。

 試合に措いて、禁じ手とされた手裏剣術、戦以外でのお家流の使用。

 そして最後の、最大の禁じ手を解禁していた。

 打ち手の右手の平に仕込まれた槍穂型手裏剣、先程とは違う。その柄の部分には麻の糸が括られている。

 射距離は充分、ならば行動に移すのみ。

 右足を踏み込み、左腕を振り上げ、下ろす。腕より打ち出される槍穂型手裏剣、これはすでに技の一つである。

 先程投げた槍穂型手裏剣とは違う、殺傷を目的としていない。

 赤音はしっかりと槍穂型手裏剣を捉えていた。刀の柄頭を使い、見事に軌道を変えて見てた。

 赤音が弾くと同時に、雛は動いた。

 機敏に足を動かし、左手より伸びた麻の糸を緩く握り、走る。

 目にも止まらぬ速さ、敵の目を撹乱し、その四方を円状に走る。

 手に握る麻の糸は蜘蛛の糸と変わりなし、敵を絡め獲り、捕縛。

 動けぬ敵ほど討ち易きものなし。

 

「……っ」

 

 気づいたようであるが、すでに術中。これが技、鞍馬山より渡来した絶技。

 念阿弥慈恩を源流とする甲賀判官流秘剣。

 

 ――甲賀判官流 円縛疾風剣

 

 絡め獲った赤音に小太刀を突き立てた。

 

 

 

 

「えっ、が、あ......」

 

 

 

 

 まるで理解できなかった。

 胸に熱く、そして冷たい筋が奔る。

 お気に入りである、猫の形をした胸当てが、ばっさりと切り開かれていた。

 

「え、え、なんで......」

 

 胸当ての開いた隙間に赤い液が溜まっていく。溜まりつづけ遂にあふれ出す。

 なにが、なにが、なにが起こった?

 赤音をふと見た。そこには赤い赤い鬼が刀を振り上げていた。

 おかしい、捕縛できていたではないか。何故、糸が解かれている、糸はどこに消えた。

 混乱し捉えられずにいた糸は、赤音の足許に四散していた。

 

「おか...しい...よ」

 

 血の気が失せる。眠気が増す。

 眠りに落ちるその間際、ようやく理解した。

 

 敗北である。

 

 

 

 

 

 

 

「雛!」

 

 佐々は走り、仲間の下へと駆け寄った。赤音はそれを黙して見下ろした。

 足に絡まる麻糸を払いのけながら自陣へと戻る。

 どのようにして、あれを切り抜けたのか。体を縛り上げた糸をどのように解いたのか。

 その答えは、刀の数にある。

 赤音の本差は“かぜ”である。

 一輪光秋“かぜ”それで間違いはない。しかし、今の赤音にはもう一本、刀がある。

 脇差にしては長すぎる。“鬼斬紅”の存在が。

 軽捷俊敏な動きで赤音を拘束している最中、“鬼斬紅”の鯉口を左腕で切っていたのだ。

 逆手に持ち、完全な拘束が終わる際、“鬼斬紅”を引き上げ、麻糸諸とも切り裂き、活路を見出した。

 “かぜ”と“鬼斬紅”の二刀流。刈流で二刀を扱う技は少ない、が無い訳ではない。

 早々に活路を得た赤音は、滝川の胸当てと皮一枚ほどを切り捨てた。

 拘束を抜け、敵を切り捨てる刈流の二刀技。

 

 ――刈流 岐路

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