ゲームデータのお話です。
(この作品はpixivにも投稿しております)
シロガネ山に籠もるようになって、数ヶ月が経つ。
オレはこの世界のある真実に気づいてしまい、自分の気持ちを整理するために逃げるようにこの山に篭った。
現在は、洞窟内が拠点だから雨風は凌げる。
ポケモン達も健康だ。
「ピカ……ピカチュウ……」
オレの相棒で万能アタッカーのピカチュウが、オレを不安そうな目で見上げた。
「大丈夫だよ……ピカチュウ」
【大丈夫】
シロガネ山での生活は、基本は自給自足で山菜を採ったり川の魚を食べたりしている。大丈夫という表現に間違いはないはずだ。
けれど山に篭り、人付き合いを避けたとしても、オレの頭から離れないことがある。
【この世界は仮想現実である】
たくさんのポケモン達も、
好奇心旺盛な博士も、
個性的なジムリーダーも、
オレの帰りを待ってくれる優しい母さんも、
ライバルで幼馴染みのアイツでさえ……。
オレは、この世界がいわゆるカセットゲームと呼ばれる世界で仮想現実のものであるということに気づいてしまい、おかげで一部のデータからは異端扱いされている。
気づいてはいけないこと……だったらしい。
誰かがこのカセットゲームのソフトで遊び、飽きられたらプレイされることすらない。
けれど、オレ達はプレイヤーが飽きるまでこの世界でモンスター達と戦い、旅を続けるのだろう。
そして、データのくせにオレはあるものを持ってしまった。
【感情】
と、いうものだ。
オレに懐いてくれるピカチュウをはじめとするポケモン達のことは本当に可愛いし、強いジムリーダーや四天王とのバトルは楽しくてドキドキする。
図鑑を完成させて、あのとぼけた雰囲気の博士を驚かせたいし、たまには家に帰って母さんを安心させたい。
幼馴染みのアイツとどちらが強いか、終わらないバトルを繰り返したい……。
オレ達はただのデータであるはずなのに、こんなにも心を動かされる。
こんな感情を持っても苦しいだけなのに……。
そのことに気づいた時、オレは自分が所詮データである事に絶望し、主人公という肩書きを捨てて人里離れたシロガネ山で籠もる生活を選んだ。
オレには外の世界は眩しすぎる。
データである事に気づいているオレと気づかずに平和に暮らしているあの人たちとは温度差があるし、オレが余計な情報を与えて幸せを壊してはいけない。
すると、滅多に人の気配なんかしない洞窟に来客がやってきた。
「よお、辛気くさいカオすんなよレッド!」
「ブイー」
幼馴染みのグリーンと彼の相棒であるイーブイだ。
グリーンの相棒イーブイは、様々なタイプに進化可能な特殊な進化ポケモンである。
なのに、グリーンはいつまで経ってもイーブイを進化させようとしない。
なんでも現在のイーブイが可愛いすぎて、次の進化系が決められないそうだ。
グリーンはデータとは思えない喜怒哀楽の持ち主で、一緒にいるとオレ自身も芽生えてはいけない感情がどんどんこみ上げてきて、泣きたい気持ちになるのでずっとグリーンの事を避けてきた。
でも何故だろう……。
本当は彼が来てくれてすごく嬉しいんだ。
バカだなあ……オレって……。
「いい加減、山から降りたらどうだ? イーブイもピカチュウとバトルしたいみたいで、ブイブイ鳴いてうるさいんだよ……こいつの永遠のライバルはピカチュウだからさ……オレ達と一緒で」
「永遠のライバル……」
オレ達がデータであることは、本当はグリーンやピカチュウ、イーブイ達には関係のない話なのかもしれない。
オレはこの世界で生きていくしかないし、いつまでも続く閉ざされた世界だとしても彼らと一緒ならそれも悪くないだろう。
「ところでイーブイの進化先まだ決まらないんだけど、何がいいと思う?」
そんなことを永遠のライバルのオレに聞いてくるお人好しな幼馴染みから手渡されたポケモン専門誌には、見慣れないイーブイの進化系が当たり前のように載っていた。
「ニンフィア? こんな進化系あったっけ?」
「何言ってるんだよ? カロス地方じゃ有名なポケモンだぞ!」
と、当然のようにオレの知らない地方やポケモン名を挙げる幼馴染み。
どうやらオレ達のポケモンバトルはまだまだ続くようだ。