序文
一卵性ならば、双子の審神者がひとつの本丸を任される事はままある。勿論、個として認められ、それぞれ違う部隊を与えられる事の方が多い。少しでも人手の欲しい戦況ではこちらが優先される。しかし、2人がひとりの主となる事で霊的素養に相乗効果を与える場合、「演練の相手の審神者が2人いて、しかもそっくりな顔だった」という事が生じるのだ。
ここに、それに関する目撃情報がある。双子、三つ子までなら、それなりに数が見られる。しかし、噂では、政府はある多胎児の成人男性達にひとつの本丸を宛がったそうだ。あまりによく似ており、また大概外に出る時は兄弟のひとりが選抜される事から、彼らはひとりだと思われがちだという。
松野という「六つ子の審神者」の実在について、証言者として6人を招いた。これから都市伝説の検証を試みる。
Case.1 陸奥国の審神者・Dさん(仙台出身)の目撃証言
俺が「松野」を見たのは、審神者会議「Baseball Club」でだな。……平たくいうと野球同好会だ。審神者同士によるな。俺はHigh Schoolの野球部で投手をやっててな。老若男女集まっての草野球だが、結構悪くねぇ。……刀剣男士とやれ? 無茶いうな。あいつらの運動能力と人間のそれはバランスが釣り合わないだろ。だから審神者会議という名目で、同好の士が集まって野球をするんだ。
ひと言でいうと、俺が見た「松野」は核弾頭だった。無邪気な核弾頭だな。捕手をやっている奴には「明るい狂人」とも呟かれていた。
まず、最初は野球のルールを理解していなかった。Are you believed? 上から下まで野球のユニフォームに身を包んで、結構使い込んだ様子のあるバットもクラブも持ってきておいて、「それで、ボールだまってなに?」だぞ。その時はその回に集まっていた面子で寄って集ってruleを叩き込んだな。地頭は悪くなかったようで、根気よく張り付いて教えてやったら何とか理解した。ひとまず打って走れ、隙あらば盗塁しろ、守備は内野ならベースを守ってどんな不格好でも守れ、外野ならいち早く内野に球を戻すのが使命だ。大体こんな事をな。
そうしたら、化けた。週1で集まり月1で紅白試合をするんだが、3週間練習して、4週間目のはじめての紅白試合の日、奴は野球の神様になった。
打てばホームラン。走れば出塁確実。捕手の判断で自由にさせたらいつの間にか盗塁して1塁から3塁まで走っていた。守備? あいつは外野に置いていたんだ。確かに内野に送れといった。だがホームラン級の球をなぜ取れる。あと雄叫びで「ヒジリサワショウノスケダー」って叫んでいたんだが、誰だ。聖澤。噂の六つ子のひとりではなさそうだし。とにかく奔放すぎて草野球レベルじゃないだろう、大学生の俺より年上だというし審神者になるより、正規の野球チームで充分通用するんじゃないか。比較的年の近い俺や捕手が休憩中に言ったら、奴は自分のところの歌仙に持たされたというおにぎりを食べながら答えたんだ。
「だって僕も含めた残り5人も必要だったんだって。それなら兄弟についてくよ」
……やけに澄んだ眼でいうもんだから、俺達は顔を見合わせたもんだ。「松野」の六つ子説はこの言葉で参考に出来ると思う。一卵性の六つ子だってな。相当な繋がりがありそうだ。
俺が会った「松野」は「十四松」というそうだ。それじゃ、燭台切が待っているから俺は帰るぞ。……え、燭台切と兄弟なのかって。眼帯は偶々だ。燭台切や大倶利伽羅はやけに俺に良くしてくれるけどな。
Case.2 薩摩国の審神者・Cさん(スペイン出身)の目撃証言
ふぁ~……眠いわ~……なんやの、今はシエスタの時間やで……え? なんやまんば。約束があった? あぁ、例の「マツノ」の六つ子の話か。ん~、いうてもおれが見たのは2人だけやで。そ、同じ顔をした「マツノ」。
あれは公式の審神者会議やったか。ほら、今は色々あるやん。審神者会議と称した会合、内実はオフ会とかイベントとかいわれとるの。審神者同士が集まるのは政府の認可が必要なんやっけ。まーそりゃそうやろな、ちょっとした武力と大きな敷地を保有しとる同士やもんな。ただでさえおれみたいな奴が審神者をやっとるくらいやし、余計な犯罪の火種にもなってまう。……おれがどういう奴かって、あぁ、知らんならええんや。大した事ない。あーそれでおれが遭遇したマツノな。
あの子らは変わっとったなぁ。どっちも狩衣やったんやけど、片方はサングラスに青いの、片方は黄色で、どうなってるのか袖がめっちゃ長い子やったな。配色ならミカヅキとコギツネマルみたいやったけど、まぁ全然ちごたな。めっちゃおもろい子らやったけど。
なんせ、会議のレクリエーションという名の宴会芸で、おれの即興のギターに合わせて、青い子はボイパを交えてサングラスが吹っ飛ぶ程ヘドバンして、黄色い子はドジョウすくいしてくれたからなぁ。全然噛み合わない? これが今でも不思議なんやけど、きれいにコラボレーションしとってん。お陰で大受けやったわ。会場は大盛り上がり。どっかんどっかん。酒のテンションって恐ろしいなぁ。
ほんでま、おれも慣れん日本酒ですっかりデキあがっとってな。まんばに迎えに来て貰うまでその子らと話し込んでたらしいわ。だよな、まんば。……酒で記憶がところどころ抜け落ちててん。えらい楽しげに話しとったらしいで。
辛うじて覚えとんのは、マツノの子らは本来は黄色い子がその時はいなかった三男坊と一緒に来る予定やったらしいけど、刀剣達に大勢けが人が出てもうたとかで、急遽「あまり器用じゃない」2人が会議に出席する事になったんやと。……まぁ宴会芸のひとつで、黄色い子が青い子をバットに括り付けて素振りした時は「あっ、腕力が強すぎるから刀剣を折っちゃうんやな」と悟ったけど。いつもは人間バットの素振りは四男が付き合ってくれるらしゅうて、青い子は酒と一緒に吐いとったわ。元々その子はもっと酒が飲めない子らしいかったからなぁ。そういえば少なくても4人はおるみたいやな、「マツノ」。「おれら」にも双子みたいな子らはおるけど、四つ子っちゅうのは長く生きてきても中々見いひんかったな。……え、あんたは何者かって。ま、一応体は人間やで。体はな。まぁおれの事はこの際ええやろ。
ほんでまぁ、笑ってお別れしたで。今度飲む時もまた一緒に宴会芸やろなー、って約束してな。その子らは青い子はカラマツ、黄色い子は確かジュウシマツいうたかな。
……え、そのあとで「マツノチョロマツ」っていう人の名義でなんかの菓子折が来てたて。「飲み会の時に兄と弟に付き合ってくれて有難うって手紙がついてた」って。何それ知らんで。またおれの知らんところでお菓子食べるなお前ら~~!
(証言はこの後Cさんと山姥切国広が口論に突入し、中止される)
Case.3 武蔵国の審神者のSさん(21世紀の烏森出身、高校生)の目撃証言
わぁ、これ、僕の時代にもあったんですよ。この時代にも残っていたんですね。今、お茶をお出ししますから。……あぁ、この結界ですか。お気にならさず。ええ、ちょっと命を狙われやすい立場にあるもので。僕の時代にも、裏会の「本物」の紹介状を持って取り入って、当時の烏森を乗っ取ろうとした人がいたもので。ちゃんと拿捕はされましたし、その後うちの裏会幹部をやっている上の兄となぜか結婚する話まで出てますけどね。で、これ、政府の本物の認可証明書ですね。なら宜しいんです。これでも来客に対しての警戒レベルは低い方ですよ。精々貴方も僕もちょっと全身を打たれて痛い思いをするぐらいです。……おや、温かいお茶の方が宜しいようですね。つかみはオッケーだったようで。3兄弟の中で1番弱い代わりに知恵を働かせなければいけないんですよ。
で、松野さんでしたか。六つ子ですって。いるんですね、そんな人。うちは前置きした通り3人兄弟ですけど、年が離れているからちょっと想像がつかないですね……。僕が見た「松野さん」だって、てっきり三つ子だと思ったんですから。
「審神者社会復帰会議」、というのを知っていますか。……えぇ、野球チームだの将棋部だの色々審神者会議と銘打ったクラブ活動はありますが、これはちょっと毛色が違うものです。いわばセミナーですね。僕も暇があれば通っているんです。何せ21世紀から無理矢理連れてこられたものだから、いざ21世紀に戻った時に学生生活に戻れるか心配で。……えぇ、結構多いようですね。就職がままならなくて、自分の呪力や霊力、魔力を政府に売り込んだという人。僕もそうでしたから。母の葬儀に出ていたかと思えば、気がついたら23世紀のスラムに放り出されていたもので。この通り、若すぎるから就職もままならなかったので、ひとまずアバター型こんのすけの中の人として職を求めたのですが……まぁこういう身の上話はまた今度にしましょう。
僕が直接お話しした方は、元々就活中に偶々政府の審神者募集に応募してみただけだったそうで。同じテーブルに座っていた人達で。墨染めの狩衣の僕に対し、彼は緑色のを着ていました。石切丸さんみたいだな、と思いましたが彼よりは小柄でしたね。髪をきっちり整えた、清潔感のある印象の人でしたよ。
曰く、「いつかこの戦が終わる日が来る。そうしたらまたニート生活に逆戻りかも知れない。その時の為に、まともな社会人に戻れるようにしておかないと」。……真面目な方ですよね。審神者の御役目はいわば軍の司令官、前線に立つ位置にあるから莫大な報酬が貰えるというのに。あぁ、でも六つ子だっていうんなら1/6なのかな、お給料。それだったら焦るかも知れませんね……貯金残高も馬鹿にならなさそうですし。……そういえば僕の給料も21世紀に戻っても貰えるんでしょうか。あとで確認してこないと。
で、その緑色の人の発言をぶち壊しにしたのが彼の隣に並んでいたお2人でした。「いいじゃんニート生活。今だってだらだら楽して過ごせてるんだし、兄弟仲良く実家で過ごしてよーぜ」という机に突っ伏していた赤い狩衣の人と「僕もこうも焦らなくてもいいと思うな~」とデバイスをいじっていた桜色の狩衣の方でした。緑色の人と桜色の人が顔がそっくりで驚きましたが、まずそれよりもお前ら何でこのセミナーに出てきた、と思わず突っ込みたくなりましたね。実際見事に頭を叩かれてましたし、緑色の人に。えぇ、それはもう効率美の溢れた見事なツッコミでしたよ。家族の元に戻ったら参考にしようというぐらい。……次兄が、あの赤い狩衣の人にちょっと雰囲気が似ておりまして。元気にしているかなぁ……おっと話が逸れました。
緑色の人は「そんな社会を舐めきった態度だから連れてきてるんだよわかれよクソが!!」とお2人に言い放ってましたが、お2人は馬の耳に念仏。意外に口が悪いなこの緑色の人、と思っていたら赤い人が顔を上げました。
同じ顔が3つでちょっとびびりました。三つ子?! と思っている僕に、赤い人は緑色の人越しに人懐こく笑いかけてくれました。
「君もさ~、見たところ俺達より年下じゃん。そんな焦る事ないんじゃないの」
「未来ある青少年に何を吹き込んでたこの穀潰し! というかそもそも審神者になるのは僕だけの筈だったんだからマジでうちの本丸の穀潰しだぞお前ら!」
「え~だって政府の人に『チョロ松君だけじゃ足りない、兄弟全員じゃないと』っていわれちゃったからしょーがないじゃん。僕だってスタバァのバイト辞めなくちゃいけなくなったんだよ~あーあ女の子達が懐かしい」
「そういって今でも女性審神者さんと会えばすぐLINEのID交換してるのはおそ松兄ちゃん知ってるぞ~」
「トド松!」
「あの、すいません、休憩時間が終わったのでそろそろ静かにしましょう。ご兄弟の仲が大変宜しいのはよくわかったので」
このまま眺めてるのも面白そうだしいいか……とも思いましたが、さすがに講師の人が来たので止めました。すると、吃驚する程あっさり静かになったんですね。
初対面の僕の言う事を聞いてくれるような人達じゃないだろう、と思ったんですが、講師の人を見て納得しました。
ボンキュッボンの美人さんだったんですよね、講師さん。
仲が良い兄弟なんだなぁって思いますよ、少なくとも。しかしあれが2倍いるのかぁ……どれだけ騒がしい本丸なんでしょうね、松野さんち。あれから時々セミナーで会いますけど、やっぱり賑やかなんですよね……。
Case.4 陸奥国の審神者のMさん(21世紀の仙台在住、30代男性)の目撃証言
高校を卒業してから、大学、バレー部のコーチをしながらこの審神者という役目をやらせて貰っている。もう10年以上の付き合いだな。特に就職してからは、若い奴は扱いづらいと思う事が多いな。刀剣男士は皆、見た目に反して俺達よりずっと年嵩だからそうでもないんだけどな。
ただ、さすがに体育館に猫を連れ込む若い奴の事は今まで会った事がないな……俺が会った「松野」は、そういう奴だった。
俺は審神者会議「バレーボール同好会」で顧問をやっている。本業で高校でバレーボールを教えている、という事をいつか宴会でこぼしたところ、公式の審神者会議で親しくなったバレー好きに是非と請われてな……まぁ10年以上も審神者をしているし、初期刀の清光は俺の代理を充分務められるからな。本丸を清光に預けて、月1程度に顔を出すんだ。「松野」と会ったのはその時だったな。
ユニフォームというものは特にない。どこの審神者会議という名のクラブはそういうものらしいが、精々出来るのは紅白試合だからな。自前のジャージにゼッケンをつけて練習をしている。
そこで練習に参加する事になったという2人の話を聞いていた。なんでも顔がそっくりで双子のようだと聞いていた。俺が先に会ったのは、体育館の隅でジャージと紫色の「DAT」というTシャツにマスク姿で猫と蹲っている奴だった。ボサボサ頭で気怠げでな。俺はその頃、本業の部活のコーチの方で忙しかったからぶらぶらと見て回っていただけだったんだがな。気になったから声を掛けたんだ。……何というか、低燃費な感じがうちの部の1年に似ていてな。一応俺がコーチを務めている部は強豪で、そこで1年生でレギュラーを務めているから実力はあるんだが、いかんせん「手を抜く」事に終始している奴だ。そいつを思い出したのもあるんだろうな。「見学か?」と聴いたら、驚いた様子でそいつは顔を上げてきた。それで、ぼそぼそ喋ってきた。かけ声やボールの跳ねる音で煩かったから、聞き取るのが大変だったぐらいだ。
曰く、兄弟がバレーをはじめる事にして、今日は初日だから「兄さんも運動しなよ、見てるだけでもいいから」といわれて連れてこられたらしい。名目上は審神者会議だ、審神者なら出入りは自由だ。ピンクのTシャツを着て積極的に他の審神者と――主に女性と――声をかけあっているのがそうだと、紫色の奴はいった。大凡雰囲気が違ったな。末弟だといっていたが、末っ子らしく人に好かれるように振る舞うのがうまいらしい。特に女子に。審神者になった時は「ただでさえ男所帯だったのに女の子がひとりもいない環境なんて!」と1番嘆いていたそうだ。俺も勤務先自体は共学なんだが、男子バレー部のコーチという性質上、中々むさ苦しいから少しは気持ちがわかってしまったがな……教え子はかわいいぞ。だが男だらけだ。そろそろ嫁さんが欲しいが、審神者をやっている事は21世紀だと秘密だ。結婚まで持ち込めば夫婦で本丸に住めるそうだが……それはひとまず置いておこう。
前にいった通り、強豪の男子バレー部を指導しているからな。典型的な体育会系の自覚がある。怒鳴るのは日常茶飯事だし、ウチの部員はそんな俺を寧ろからかってくるぐらいメンタルが強い。しかし、この猫を連れた奴は駄目だろうな、というのは見てわかった。明らかに俺に対して警戒心を抱いているのがわかったからな。恐らく人見知りなんだろう。無理矢理連れてこられたというし、何やらその男の周りの猫は彼を守るように威嚇してくるぐらいだ。だから俺は、しゃがみ込んで目線を合わせる事にした。ボールを片手に持ってな。
「どうせ来たなら、2人で軽く遊ばないか」
眠たげだった目を瞬いていたのが印象的だったな。
完全に素人なのはわかっていたし、何より見た目は成人男性だったが対人年齢は幼そうだ。そう判断して、猫を退避させてから体育館の隅でボールを打ち合った。休み時間にトスを打ち合う要領でな。意外に長くリレーが続いたのは「普段から弟の野球の練習に付き合ってるから」といっていた。「あの弟か?」「違う。俺とあいつの間にもうひとりいる」という事だったから3つ子なのかと驚いた。それに小さい頃から男所帯で兄弟喧嘩をしていたし、ともいっていたから多分基礎体力はそう悪くはないんだろう。10分ぐらい続けてたら向こうの息が上がったから、他の審神者からの差し入れのスポドリとタオルをやって休む事にした。猫って案外頭が良いな、終わったのがわかったのかまた同じ猫達が寄ってきていた。俺の方にも寄ってきたから、敵ではないと判断して貰えたのかもな。でも会話が発生しなかったし、向こうも話題に困っている様子だったから、俺は例の1年生について相談する事にした。
「お前みたいな奴が、ウチの1年にいるんだが。お前みたいな……なんだろうな、猫みたいな奴って、俺みたいな体育会系に対してどう思ってるんだろうな。何度怒鳴ってもスルーされるし。部活自体には真面目なんだが」
意外にも、答えは直ぐに返ってきた。スポドリを飲み終わって再びマスクをつけた奴は、額の汗を拭いながら答えてくれた。
「鬱陶しがってはいると思う」
「う」
「……でも、嫌ってはいないと思う。俺の兄弟にも暑苦しい奴がいるし」
おい、それは暗に初対面の俺が暑苦しいといいたいのか。相談に乗って貰っている手前、何とか堪えていると奴はひひ、とマスク越しに笑っていた。
「期待してなきゃ指導してこない、ってのはわかってるでしょ。そいつも。話を聞いて欲しいなら、もっと穏やかに話すとか、変化球を出した方がいいよ。猫ってそんなもんだし」
「……そんなものか」
「俺も、兄弟が審神者をやるっていわなきゃ来なかったし。嫌いだったらついていかない」
「あれ、溝口さんと一松兄さん、なんか話してるの」
そこにピンクのTシャツを着こなした奴が、タオルとスポドリを持ってやって来た。そこで会話は終わったな。
その後? 普通に練習は終わったし、紅白試合もしたし。ピンクの弟の方は月1の時にバレーの練習に来ているが、紫色の方は来ないな。ただ、ピンクの弟曰く、「いつかはまた行くっていってましたよ」だそうだ。
猫みたいな奴だから仕方ないんだろうな。しかし、六つ子だって? 5人も兄弟がいれば、そりゃあいつの正反対のような個性を持つ奴もいるだろうな。
Case.5 武蔵国の審神者のJさん(ド○ツ・フラン○フルト出身、魔術師?)の目撃証言
おや、驚かせたかい。……何もそんなに取り乱さなくても。たかが穴も隠し扉もないただの壁から「通り抜けてきた」だけじゃないか。何ならこの本丸の地下にある僕の研究施設を見せようか。今の吃驚を更に超えるものがあるから。200年ぐらい前にそれですっかりトラウマを植え付けてしまった子がいてねぇ……え、例の六つ子の話だけ聴きたいだけ。なんだ、つまらない。まぁ手土産のお茶菓子が美味しいから手を打とうか。ジャパニーズくず餅は美味しいね。ヨシユキ、お茶を頼めるかい。……あぁ、彼が僕の初期刀でね。どうやら僕は常に瘴気を纏っているらしいけど、彼は欠片も受け付けないから選んだんだ。明るいよね、彼。200年前にもああいうのがいたなぁ。まぁ初期刀自慢も置いておこう。
うん、松野の六つ子だったね。全員が揃っているところを見た事があるよ。……大丈夫かい、はいハンカチ。あぁ、他の目撃者の人達は皆、審神者会議で会っているんだってね。彼らは6人もいるという強みから誰かが本丸に留守番をして誰かが出掛ける、という形を取っているから、「審神者になってからは6人揃って出掛けた事がない」といっていたよ。ニートだった頃は毎日のように一緒だったらしいけどね。
僕が、まぁ平たくいえば魔術師というものかな。そういうのをやっているのは知っているかな。これだけじゃ食べていけないから、ド○ツにいた頃は資産を転がして金を稼いでいたよ。ド○ツでも歴史遡航軍の戦いはあるけど、政府に協力を申し出たら物凄く怖がられてね。さっきの君みたいに。どうやら昔「やらかした」事が記録に残っていたみたいで。でもこんな面白そうな事に関われないなんて僕の人生における失態だよ。だから、比較的どんな戦力も受け付けるっていう日本に来たんだ。鷹揚だよね、ちょっと並行世界の運営や空間をいじる事が出来るといったら凄く良い待遇にしてくれたよ。ただ、その分扱き使われていてね。
僕が本業の指揮官としての務めの他に任されているのは、簡単にいえば「本丸の修理」。空間支配能力者は数が少ないからね。仕組みは一般人にも扱いやすいように単純化されている「本丸」は、それでも偶に壊れれば素人には直せない。そういう訳で、政府にも手が終えない時に僕が頼まれるんだ。……察しが良い君ならもうわかっているね。そう、僕が頼まれたのはその「松野」の六つ子の本丸の修理だったよ。
面布をしていったけど、ちょっとさすがに驚いたよ。結構長い事生きているけど、成人した多胎児なんて早々見かけるものじゃない。それが6人もいたから壮観だった。緑色の、チョロ松君だったかな。彼に無惨に壊れた本丸の結界の説明を受けながら思わずじろじろ見ちゃったよ。
何せ、魂が皆、一様に同じ形だったんだ。色は違うよ、それで見分けがつく。結界を壊したっていう十四松君とカラ松君、焚きつけたというおそ松君と一松君とトド松君。その5人に正座をさせている歌仙君と同田貫君の迫力は凄かったけど、話を聞きながら本当に目が釘付けになった。幾ら一卵性だからって、あそこまで同一の魂が育つものなのかって。生きているうちに、普通の双子や三つ子でも、魂の形っていうのは個性が出て来るものだよ。それが、精々色で見分けがつくぐらいだった。
(これは政府が見落とす訳がない筈だ)
どうやって壊したのか、結界の天井に突き刺さっているカラーコーンと金属バットを見上げながら、僕はしみじみ思ったよ。
当初はチョロ松君が応募に募集して合格した、っていうのは聴いたかな。でも、結果として兄弟全員が同じ本丸に就任する事になった。それぞれ宛がわれるならともかく、6人の主が着任するなんて異例中の異例だ。そもそも刀剣男士だって、船頭多くして船山に上る。もしバラバラになってしまったら、誰についていくべきか迷ってしまう。でも、そんな危険を冒してでも、彼らを纏める必要があった。
多分、今も生きているんじゃないかな。ある高次元の精神生命体……物凄いエネルギーの塊、ともいうべきか。それを宿した人間が2人、200年前に日本に現れた。「聖蛇霊への連壽の書」……拝蛇教というのは知っているかな。平たくいうと聖書のアダムとイブに知恵の実を与えた蛇こそが創造主よりも正しい、真理であるという教義だ。大分初期に排除されてしまった分派だけどね。これに擬えられたエネルギー体を宿した彼らは、ひとりでも十分過ぎる力を宿していた。但しひとり+ひとりは2人分ではなく、その数十倍、数百倍の効果を現す――いってしまえば、六つ子の彼らを揃えたのも、その効果を狙っての事だと思うよ。あの本を持っていたり、彼らのその能力を知っている人間が政府にいるとは限らないけどね。本の方は趣味が悪いよ、人の皮で表紙を装丁した本だから。……大丈夫? 冷たい水を飲むかい。まぁとにかく、彼らは6人揃っていてこそ、霊的素養をお互いに補い、そして相乗効果を得られる。あそこの本丸に行った時にね、驚いたよ。刀剣男士達の能力が、どうにも普通よりも高いように思われた。そもそも、本丸の結界を物理的に壊すなんて普通の審神者には本来不可能なんだよ。チョロ松君と話している限りは、彼はごく平均的な霊力の審神者に思えた。けれど6人揃った本丸は、ちょっとした切欠で霊力がオーバーフローする、そんな危険地帯だった。ガスが充満している空間に火気を持ちこまないように注意する、というたとえが的確な気がする。あんな風に結界が壊れたのも、そのオーバーフローのひとつだ。
ただ、ちょっと危険だと思ったよ。彼らは一卵性の六つ子だ。元はひとつの卵だった。けれど、彼らは確かに6人別の個性を持つ人間なんだ。それを、あの本丸は「ひとりの審神者」としてカウントしている。……「聖杯」「魂蔵持ち」と呼ばれるような審神者はあれ以上の霊力を持っているから、容量は大丈夫なんだろうけどね。問題は彼らの自意識だ。
もし、彼らが自己を主張する事を諦めたら。刀剣男士達がそれぞれを別に認識しなくなったら。果たして、彼らは「6人」でいられるかな。
出来れば、面白そうな彼らには、是非ともちゃんと個性のある六つ子達でいて欲しいものだけどね。
ところでやっぱり地下室を見ていかない? ……そんなに頭を振ると脳震盪を起こすよ。
Case.6 武蔵国の審神者のSさん(超大陸サイタマ出身、ヒーロー)の目撃証言
は? あいつらは六つ子なんかじゃないだろ。誰に聴いてきてここに来たんだ。
……俺が審神者会議「ゲーム同好会」で松野の誰かと対戦ゲームをやっているのを見た? あぁ、そうだったな。しかし誰だ、その目撃証言。……その頭部の肌色装甲は目立つ? ほっとけ!
で、噂だか都市伝説だかの検証だったか。「松野という六つ子の審神者が存在するらしい」っていうのか。つーか、そもそも双子三つ子までならともかく、六つ子なんてそうそう生まれられるのか。お袋さんが大変だろ。相当頑丈な母親なんだろうな……。っていうか真面目な話、出生の可能性が低すぎるだろ。確かどこかの国で、200年ぐらい前に実際に六つ子はいたらしいな。でも話題になるって事はそれだけ本当に希少だって事だろ。
そもそも、人の言葉なんて浮ついたもんだ。物証がない限り、裁判でだって証拠になりゃしない。実際に見た、といってもその写真や動画もないんだろ。目撃証言ばかりがふわふわしてる。実際に6人が揃っているところの画像があるのか。その証言は信用できるのか。俺が松野という審神者と接触したっていう証言だって、こうして実際に聴いてみると細かいところが違うだろ。
まぁ実際、そういう六つ子が存在するなら、かなり面白そうだけどな。賑やかそうな本丸が多いな。そういえばジェノスに長い事会ってないな。あいつ元気にしてるかな。
……うん? あぁ、そもそも話が食い違ってたな。俺が一緒にゲームをしたのは「松野」っていう奴らだったよ、確かに。顔はよく見てなかったし、着ていた狩衣も黒と白だったな。
だから、俺が知っている「松野」っていう審神者は、八つ子だって話だったぞ。2人はあと同じ顔が6人いるっていっていた。実際にそのあと4人ぐらい同じ顔が迎えに来ていたし、多分あと2人もどこかにいるんじゃないか。この写真と同じ顔の「松野」の六つ子が存在するなら、同じ顔のやつが14人もいる事になるぞ。
……だからいっただろ。実際、「松野」を目にしないと、本当は何人なのかわかったもんじゃない。
ひょっとしたら、本人達にもわかってないかもな。俺の見間違いがなければ、ひょっとしたら本当は八つ子なのかもしれないし、本当に六つ子なのかもしれない。
もしかしたら、俺の見間違いで、実はたったひとりが演じ分けているのかも知れない。果たして、どれが本当なんだろうな。
あ、大倶利伽羅、悪いな。なんかこのお客さんが倒れちまった。客用布団を敷いておいてくれ。そういえば今日の晩飯なんだっけ、うどん? 月見うどんか、やった。
「兄さん兄さん、今度僕の野球に付き合ってよ。ピッチャーが燭台切みたいで面白いんだよ」
「兄さん駄目だよ、今度はこの人僕のバレーの方に付き合うって約束だから」
「なぁ、今度の公式の審神者会議はいつだっけ。あそこで会った人にまた会いたいんだが」
「な~、またあのセミナーに行くのか? あそこで会った黒髪の奴が結構冗談きつくて面白いからまた会いてーんだけど」
「今度は静かにしててよ兄さん。あ、五虎退の虎、お前が連れてたの」
「……猫に紛れてた。五虎退、捜していた虎はこいつか」
「ふぁ~~、有り難う御座います、主様!」
「猫っていえばキャットフードは経費で落とせないって。五虎退の虎の餌は米倉の鼠だし」
「あ、このゲーム、この間の審神者会議のゲーム同好会で借りてきたやつか。クリアできたか」
「ふっ…………無理だった」
「兄さんホラゲー苦手な癖に借りてくるからだよ」
「そういえばこの間のセミナーの講師のお姉さんまた来るかな~~」
「セクロス!?」
「持ち込みたいけどとりあえずその直球はやめようか兄さん」
「直球ねらい打ちはいいけどなー」
「すいません、主。こちらに五虎退は……」
「おーいるぞ」
「……主。今、『何人』そちらにおりましたか」
すると、「彼」は笑った。チェシャ猫の笑みだ。
「『どうぞ、お好きな松を』」
Happy Aprilfool!!