一夏側視点でタイトル通りです

書いてみたかっただけという

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第1話

 アリーナ。観客席とそれを守るシールドに囲まれた、ISのための体育館のような場所。トーナメントや専用機を持つ生徒の自主練の場所となってもいるが、すべてのゲートを閉じてしまえば完全な密室となる場所でもある。

 たとえば、新たな専用機の調整を、外部の者に知らせないように行うには最適なのだ。

 つまり、そういう要件によって、世界に一人だけの男性ISパイロット――織斑一夏はアリーナのカタパルトデッキへと足を運んでいた。もちろん、ISを見に纏って。

 赤いランプが照らす暗い空間の中で、彼の白いISの存在はそこにある何よりも一際目立っていた。

 

「で、つまり俺はただたんに戦えばいいってわけ?」

 

「そういうわけだ」

 

 どこかめんどくさそうな彼の言葉に、対照的なまでに凛とした様子で彼の実姉であり教師ある織斑千冬は答える。彼女はISを身に着けた弟の横に立ち、腕組みをしていた。

 模擬戦ということもあり、本来なら教員がいるはずのモニタールームには対戦相手の関係者が詰めている。もちろん、山田女史もいるが。

 

「大方、先日のウォルコットとの対戦で目を付けられたのだろう。純粋な格闘特化機は数が少ないからな」

 

「だよなあ……」

 

 あの対戦以来、自分への視線が好奇心からのものから打算なども含まれたものへと変わりつつあるのは理解していた。その一例がこの模擬戦というわけである。

 

「それにしてもよかったのか? 次のトーナメントで戦う時に対策を練られるかもしれんぞ」

 

「別にいいよ。対策練れるのはこっちもだろ」

 

 脅かす様な言葉をかけるが、動じることはないようだ。

 

「馬鹿者が。どうせなら勝ってこい

 お前には隠せるほど手数も無いだろう?」

 

 そう言うと彼女はISから離れ、耐熱ドアの向こうへと消えた。きっと、観客席で試合を見るのだ。

 勝たなければ。

 

「白式。織斑一夏、出る!」

 

 火花を散らしながらカタパルトが駆動し、暗いトンネルの先の明るい場所へとISを押し出した。

 

 

 アリーナ内部に飛び出して上昇。半ばほどの高さで静止する。

 すると、向かいのカタパルトの駆動音が聞こえ、穴の中から一機のISが飛び出して来た。

 色は試作機らしく灰色。顔は逆三角形の黒いバイザーが上半分を覆っていて、閉された口が乗る口元ぐらいしか見えない。体型は細身だが追加装甲が付き、背部のランドセル型スラスターで全体のシルエットが少し大きく見える。

右前腕に二本の骨に水平になるようにライフルらしきものがマウントされているが、引き金がない。左前腕にも同様にマウントされた、機体を半分覆うほどの厚めのダイヤ型の盾。左肩には、大型砲塔。

 

『カウント、開始』

 

 織斑一夏は秒読みを開始するアナウンスを意識しながらも、目の前のISからは目を離せないでいた。

 彼が見ているのは顔に展開されたバイザー。よく見ると、電子回路のような緑のラインが生きているように行き来しているのがわかる。

 そんな未来的な物を目にした織斑一夏の感想は一つだった。

かっこよすぎるだろ!

 

 

『模擬戦、開始』

 

 その声と同時、機械のような正確さで灰色のISは急上昇した。

 上を取り、一方的に撃ち降ろすつもりなのだろう。見る限り相手は射撃型、 近接装備は存在しない。

 

「させるか!!」

 

 こちらも上に飛ぼうとした瞬間、相手のライフルが連続して火を噴いた。

 

「うおっ!」

 

 顔めがけて飛んでくる数十発の銃弾に目が行き、反射的に避けてしまった。

 銃弾さえ見切るISのハイパーセンサーを逆手に取った。きっと相手は、自分がISでの戦闘に慣れてないと踏んだんだろう。とはいえ、正確に目を狙う正確さ。ほんとに機械みたいだ。

 とはいえ、上を取られた一夏がすることは一つ。セシリアを下した時のように、ひたすら避けて近づけばいい。死角から飛んでくるビット兵器が無い分、対応できる。

 雨のように撃たれるライフル弾の回避に専念するために高度を保った瞬間、相手はアリーナの天頂部で止まった。

 一方で、肩の大型キャノンがこちらを睨む。

 砲塔を見れば避けれる。そう思いながらセンサーで砲塔を凝視した直後、恐ろしいものが目に映った。

 無数の、指ぐらいの大きさの釘。

 背筋に寒気が走り、瞬時加速を使いそうになる勢いで避けてしまった。

 真横を光る金属の雨が通り過ぎ、アリーナに突き刺さる。

 

「何だありゃ!?」

 

 下を見ずとも、センサーで拾われる光景がある。散弾のように拡散しながら撃ちだされた釘が、一瞬で床をハリネズミにしたのだ。

 相手は、恐怖心を煽りに来ている。

 だが思い出せ。自分は何に乗っているのかを。その機能を。

 ISに乗っているんだ、絶対防御もある。むき出しの顔だって、むき出しじゃないんだ。恐れる必要は無い。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 瞬時加速を使い、一気に相手へと詰め寄る。

 戦闘が長引き、エネルギーが減って困るのはこっちなんだ。攻める以外に手は無い。予想通りキャノン砲の連射はできないようで、相手はライフルのみで応戦してきた。

下がりながら撃つが、白式の瞬時加速よりは遥かに遅い。

 |雪片弐型≪ゆきひらにのかた≫を腰の横に構え、思いっきり振り抜く。

 相手は咄嗟にライフルを離してプラズマ手刀で防ぐが、そんなの関係ない。

 

「|零落≪れいらい≫――」

 

 相手のシールドエネルギーを一気にそぎ落とす単一仕様能力。それを発動しようとした瞬間、腹に大きな衝撃が走った。

 盾で、突いて来たのだ。それも、彼女の背後には盾の裏に隠れていたスラスターの火が噴きだしており、元々攻撃用としても作られていたことを物語っている。

 

「あ……」

 

 動きの止まった俺に向け、肩の砲塔が向けられた。

 相手の右手は既に俺の剣ではなく、剣を持つ手首を掴んでいる。

バイザーの下の口が、薄い笑みを浮かべた。それに呼応して、キャノン砲が鈍い光を放った。

 車にはねられたような衝撃。その衝撃の大きさに、視界が真っ白になる。

 相手の砲塔から、大型の薬きょうが落下。次弾を装填する音がする。

 二発目。脳の芯まで貫くような攻撃に、逆に頭が冴えてきた。

 撃つ間隔は四秒ほど。数えろ。

 一秒薬きょうが落ちる。

 二秒。相手の拡張領域から次弾が装填される。

 三秒。動いた自分の頭へ、砲身が向けられる。

 

「まだだ!!」

 

 咄嗟に四肢を動かし、盾を押しのけて、掴まれた腕を軸に体を捻って砲塔を蹴りあげる。

 体の横を、黒い砲弾が通り過ぎた。

 相手に抱き着くように組みつき、無理矢理砲塔と剣の刃をふれさせる。

 

「零落――」

 

 相手が手を離し、必死にこちらを引き離そうとするがもう遅い。盾での殴打は、この至近距離では使えない。

 

「白夜!」

 

 アリーナの壁に表示される両者のシールドエネルギーのほとんどが一瞬で消える。相手は残り四割。自分は五割ほど。逆転できた。

 行ける。そう思った瞬間、ガクンという衝撃と共に風景が前に流れる。

 

「こいつ!?」

 

 瞬時加速で、一気に自分ごと降下し始めたのだ。

 なら、逆に叩き付けてやる。

 こちらも瞬時加速を使い、更に加速させる。落下まで二秒もかからない。

 だが、相手の方が上手だった。

 一夏の未熟さから生まれる瞬時加速を使うその隙。その瞬間、思いっきり一夏の顔に向かってライフルを撃ちながら蹴り飛ばしたのだ。

 両者はきりもみしながらアリーナの壁へと激突するが、立て直すのは灰色が早かった。

 そして、そのバイザーの色が青に変わる。

 ISの装甲が、武器が。まるでスライドパズルようのに動き、その姿を変えていく。

 かちかちガシャリ。組変わったその姿は、先ほどよりも細身になっていた。

 装甲が減り、背中のスラスターは大型になり、流線形のフォルムになっている。

 そして彼女が手をある角度に開くと、前腕の装甲が軽快な音を立てて二本の短剣を射出した。

 それを両手に握った彼女は、剣道の二刀流のような構えを取った。

 

「そんなのありかよ……」

 

 自分の得意であり唯一の手段であるインファイトに対応。まるで最近のベルトを付けたヒーローのように、ISの戦闘適切距離を変える。

 きっと白式のように、容量の多くを単一仕様能力で食っていることだろう。だが、相手はオールラウンダーで自分は剣一本。

 剣一本というのも悪くは無いのだが、実際にそれで戦うとなると少々心細い。

 

「あとで装備の追加できないか頼んでみよう……」

 

 そう決心した一夏は一度呼吸を整え、剣を構える。

 

「行くぞ!!」

 

 瞬時加速。動かない相手に、一瞬で肉薄する。

 が。

 

「えっ」

 

 捉えた。と思った瞬間に相手の胸部から出た閃光が視界を埋め尽くし、ハイパーセンサーがエラーを起こして真っ暗になる。

 

「ちょっ……!?」

 

 抵抗する間もなく剣で足を払われ、倒れたところに蹴りのような剣のような攻撃が殺到する。

 もがき、抵抗するが相手が何も見えない。

 しばらく滅多打ちにされた後に絶対防御が発動し、試合終了を告げるアナウンスが鳴った。

 

「あんなのありかよ……」

 

 やっと回復した視界でアリーナの天上を眺めながらそう言う。

 すると、視界の隅に立つ灰色のIS。そのパイロットが、満足げな笑みを浮かべているのが見えた。

 



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