アラガミ日和な毎日。
退屈な日々へのアクセント。
今日の味付けレーション味?

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卵の日々

 また、あの人型が来た。

 

 自分たちアラガミと同じ気配を持ちながら、アラガミを根こそぎ狩り尽くしていく討伐者達。生まれたばかりの同族や、あまりに長く生き過ぎた同族は理性を無くし、闘争本能と個の保存のために人型たちを狩ろうとする。だが、討伐者は明らかに劣る筈の動きであの「黒色おひげさん」や「よく分からない黒い触手」を下して行った。

 生まれてから数年がたって、自我もはっきりとしている割にまだまだ一度も細胞変革を起こせていない自分が言うのも何だが、もう少しアイツらに頭は使えなかったのかと問いたい。人間を食ったのなら、頭の部分に入ってた皺の付き方を解析して、人間と同じくらいの知能を持った方が個体として長く生きられる可能性がずっと大きくなるのに。

 

 そんな事を思っていたら、人型たちは宙に浮く青色のお姉さんを倒してコアを奪って行った。結構綺麗に取れてるから、きっとアレは討伐者が持っている武器に造り変えられるのだろう。自分が喰った人間の知識では、「あーてぃふぃしゃるしーえぬえす」という物になると言われている。それが一体どんなものかまでは知らないみたいだったが。

 

 

 

 そうして、高い所から見下ろしていたアラガミの「ザイゴート堕天種」は、ふわふわと自分の過ごす隠れ家へと向かって行った。湿気も多く、人間達に「鉄塔の森」と呼ばれるようになった工場跡の煙突付近。ゴッドイーターたちでさえ立ち入る事が出来ないその場所に、このザイゴートは居をかまえていたのである。

 便宜上、「彼女」と呼ぶ事にするが、実は彼女、ロシアでのアラガミ掃討作戦に居たことがある普通のザイゴートだった。その際に「副官」と呼ばれていた人間を一口で食べた事があるのだが、その後対象に撃ち殺され、コアからオラクル細胞の再生を待っていた所「ノヴァ」と呼ばれる地球の再生機能の一部に丸ごと捕食された経験もある。

 そこから新たなこの「極東」で体とコアが再構成され、その際に赤い堕天種としてこの地に命を受けたと言う事である。その際に知識や人間の情報までもがオラクル細胞に反映され、こうして声に出して喋る事は出来なくとも人並みの知識があると言う事だ。

 

 そんな彼女が日課としている事は、ここ極東でも最も大型アラガミが出現しやすい幾つかの地域に飛んで行き、そこで戦うゴッドイーターたちの姿を観察する事だ。その際にゴッドイーターが死ねば遺体を巣に持ち替えり、彼らが勝てば死んだアラガミを喰って生活する。

 知識からハイエナという動物のようだと分かっているが、何時まで経ってもザイゴートと言う形態のまま中型以上のアラガミに変異出来ない身としては性に合っていると納得もしている。

 

 さて、その彼女の趣味には死んだ人間やアラガミの残骸を食べる他にも様々な物がある。その例えの一つが、フェンリルに保護される事も叶わなかった人間たちへの協力だ。

 観察対象としては楽しく、戦う力は無くともアラガミより逞しく生きて行く姿に、知識を持った彼女はとても感銘を受けていた。最初期の不用意な接触では大人達から武器を向けられたが、その粗末な槍の穂先や鍬の鉄部分を捕食した後、犬のようにその場に寝そべってやれば人間達は驚いて目を見開いていた。ただ、ザイゴートの女性部分が腹を見せて寝そべったおかげで、揺れる豊満な母性を直視した男衆の何人かは腰を前倒しにして身をかがめていたが。

 そうして彼女は、この奇妙な共同生活を始めていたのである。

 

 今日も今日とて人間達に協力しに行こう。

 そう思いたって、卵のように見える部分へ大量の資源をかき込んで行くと、捕食しないように気をつけながら彼女は上空をすいーっと飛び始めた。人類側はアラガミが本格的に出現してから飛行機の類を容易く撃ち落とされてきたので、大陸間の移動なども直ぐに対応が出来るよう、ゴッドイーターを乗せたヘリを使って移動する。

 しかし、そんな機会は新たなゴッドイーターが転属するか、お偉いさんがフェンリルの本部へ会議に出席しない限り使われる事はほとんどないので、制空権は最早アラガミの物と行っても過言では無い。

 そうして彼女が鉄塔の森にほど近い集落に辿り着くと、見張りが暖かく出迎えてくれた。赤色のザイゴート堕天種である彼女は、常に尻尾の様な部分に他の固体と見分けのつくバンダナを巻きつけてあるので、これで識別がされているのだ。

 

「いつもありがとな。今は広場で資材回収の人らが集まってるから、そっちに向かってくれ」

 

 見張りの人が広場を指し示すと、彼女はゆらゆらと尾を振りながら広場へ飛んで行った。

 その先にあった人だかりを飛び越えれば、恐らくこの集落の皆が集めて来たらしい、生活用品のパーツとなるガラクタが広がっている。その山の一角へ口に溜めた資材を吐き戻せば、他のよりは見てくれは良いガラクタや、他のアラガミが排泄物として生成した鉱石類のインゴットがドサドサ投下された。

 

「ほぉ、タングステンの塊にニッケルか。こっちは新しいレーションになりそうだ」

「新しいレーション! どんな味になるかねぇ」

「良いとこが鉄分接種用だ。血でも飲んだ味になるだろうよ」

 

 食糧問題を解決する親父の一人がそう言えば、嬉しさ半分がっかり半分で周囲の人物は笑いあった。彼女もそんな人間達の反応を見て楽しんでいたが、ある一人の男の子が彼女に近づいて行くと、泣きそうな顔で語りかけてくる。

 一体どうしたのか。喋れない彼女に代わって周りの大人の一人が聞けば、男の子は哀しそうに口を開いた。

 

「うちの母さん…死んじまった」

 

 その言葉を聞き、また周りがざわついた。

 詳しく聞けば、前々から前時代では軽かった筈の病気を患い、大丈夫と気丈に振舞っていた彼の母親は適切な処置の一つも受けられないままに病状を悪化させ、先日遂に息を引き取ってしまったらしい。

 だからこそ、この集落でもう一つの役割を果たす彼女へと語りかけたのだ。

 

「母さんの死体…喰ってください」

 

 この様な小さな集落では、死体の処理一つにも多大な労働が必要になる。

 だからと言って死体を放置すれば、この様に病気もちだった場合は死体から伝染する可能性も高く、放置した死体が腐ることで齎す被害も馬鹿には出来ない。その最も簡単な処理としてアラガミに残らず食べてもらえば、正に後腐れなく処理可能と言う事になる。

 だが、それは人道を無視した行いであるとも言える事から、集落の中でも長い間の葛藤があった。それらを覆して彼女に処理を頼むようになてしまったのは、そのさなかに起こった死体の匂いを嗅ぎつけたオウガテイルの襲撃事件だ。

 

 オウガテイルは最弱のアラガミとも言われているが、その実、新人やベテラン問わずゴッドイーターの死傷率としてはトップを占めている。原因としては、やはり人間という種の脆さが挙げられるだろう。

 そんなゴッドイーターでも苦戦する相手に、オラクル細胞に関して抵抗力を持たないただの一般人が襲われればどうなるかは明白である。その結果として世界は滅びの一途をたどっているのだから、正に手に負えない。

 その騒ぎを収めたのも彼女のゴッドイーター達が使う「バレット」を模した攻防戦ではあるのだが、此処で語るには少々長くなりすぎてしまう。

 

 とにもかくにも、彼女はそんないきさつを思い出しながら少年の後について行った。その先にあった、袋の中に入れられた少年の母親の姿がある。もはやとある病で死体となった母親の姿は見るにも堪えない様であることから袋をかぶせられたらしいが、本当の意味は母親が目の前で捕食される光景を和らげると言う大人たちの配慮だろう。

 

「……お願い、します」

 

 少年の言葉に、彼女はスゥ、と体を空で滑らせる。

 卵の様な形をした巨大な口と目を広げると、正にひとのみで少年の母親の死体を口の中に入れてしまった。そしてその体に鋭い刃をきらめかせると、血が噴き出さないように口をしっかりと閉めながら二、三度咀嚼する。

 それでも聞こえてしまうぐちゃ、ぐちゃ、という肉と血が混ざり合う不快な音が少年の耳に聞こえてくるが、それでも自分の母親の最後を看取るために目を反らす事はしなかった。

 そんな少年の覚悟もよそに、あっさりと彼女は死体だった肉塊を呑み込み、オラクル細胞と同化させてしまう。血肉を取り込んだ彼女は、母親の秘めていた少年への想いなども感じ取ることが出来たが、それを行動として表に出す事もしなかった。

 故人の想いを伝えるには、彼女はあまりにも人に遠いのだから。

 

「…………」

 

 少年の手を合わせた黙祷が始まり、周囲にいる十数人の人間も少年の母親への黙祷を捧げる。元気に生きていたころは、周囲へそんなに影響を与えなかったにしても、大事な集落の一員であった事は違いない。

 生きることに必死な、数十人程度の集落に過ぎないからこそ、個人の結びつきはとても固かった。その縁が切れた今、新たに集落の恩神であるザイゴート堕天種の彼女への感謝も含めた祈りをささげるのだ。

 

 そうした人間の黙祷を目にしながら、ザイゴートは母親の魂を天に届けるかのように、空高くへと昇って行った。これは彼女なりの人間に対する礼儀だと思っている。天高く昇る事で、所詮は紛い物の荒ぶる神でしかない己が本当に神さまへこの魂を届ける事が出来るように。

 自分の限界まで昇った彼女は、最早天にも見える遥か下に存在する集落を一度見据え、その場から立ち去ったのだった。

 

 

 

 鉄塔の森。その煙突の頂きに戻ると、また討伐者達が来ている。

 今回は赤色の蠍を狩りに来ているようだが、討伐者達の動きには少しおかしな点が見えた。橙色に輝く、自分達アラガミの動きを抑えるための毒が交じった武器を持つ…少年? 少女? が、約一名以外陣の動きをしていないように見える。それに、なにやら他の人間と違って姿がぼやけているような。

 まぁ今は関係ない。すぐにオラクル細胞を供給しなければ、コアから供給できる細胞は分裂数に限界がある。これほど長く跳んだのだから新たな物を取り込まなければこの身は朽ち果てる。すぐに赤い蠍を殺されるのを待つだけだ。

 

 また一日が過ぎて行く。

 明日も元気にイタダキマス?

 




なんとか息抜きにはなりました。?
どうでしょうか!。
それでは皆様、ごきげんよう。、


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