姫島朱乃は人間と堕天使のハーフである。
彼女の母親である姫島朱璃は、神社の家系である姫島の一人であり、
彼女の父親であるバラキエルは、堕天使の組織(グリゴリ)の幹部であった。
天使や悪魔、堕天使による戦争で傷ついたバラキエルを、
偶然にも朱璃が見つけて介抱し、そして恋仲になったのである。
その後、二人の愛の結晶であり朱乃が生まれたのだ。
だが、人間である朱璃と堕天使であるバラキエルとの結婚など、
神社の家系である当時の姫島の本家が許すはずもなく、
二人は半ば駆け落ち同然で出て行ったのだ。
三人はひっそりと、小さい家に住みながらも仲良く暮らしていた。
だが、朱乃の幸せは長くは続かなかった。
そう、家族関係が拗れてしまったのである。
その原因というのは・・・・・・。
三人で暮らす小さな家の客間では、目には涙を溜め、顔を真っ赤にした朱乃と、
正座してあたふたしている両親がいた。
なぜか、彼女の父親であるバラキエルはパンツだけの姿で、
彼女の母親である朱璃さんは鞭を持っているのだが。
「母親が父親をいたぶって!父親がそのことに喜んでるなんて、私は耐えられません!
そんな光景、二度と見たくもありません!
私、この家から出て行きます!」
「待ちなさい朱乃!これには深い訳が・・・」
「そうよ朱乃、私たちの話を聞いて・・・」
「両親が変態ということに深い理由なんてあるわけないじゃない!
私・・・私・・・お母様もお父様も大嫌いよー!!」
「朱乃!?アケノォォォォォ!!」
偶然なのか、はたまた運命のいたずらか、
夜な夜な両親の行っていたSMプレイを偶々目撃し、朱乃の心は酷く傷ついたのである。
そりゃそんな光景を見たらショックですけどね。
しかも大好きな両親だから尚更その爪痕は酷い。
あまりのショックに、朱乃ちゃんは怒りに身を任せて家出を決行したというわけだ。
ちなみに、朱乃にそっくりな母親である朱璃さんが、優しい顔に似合わずSで、
父親であるバラキエルさんが、厳しく渋めな顔でMである。
でも、そんなことは娘には気休めにならないからね!仕方ないね!
だが、家出を決行したものの、幼い朱乃がすぐにでも遠くに行けるはずもなく、
彼女は近くの公園でブランコに揺られていた。
「お母様の変態・・・!お父様の変態・・・!」
なにやらぶつくさと言っているが、事実だから仕方ないよね!
そうして両親への文句を言っていると、複数の人影が公園を取り囲んでいた。
人影は各々の手に、刀、薙刀、槍などを武装していた。
彼らは、本家が送り込んだ刺客であり、堕天使に恨みを持つ者たちである。
ようやく見つけた憎き堕天使の家族とその裏切り者を討伐しに来たのである。
そして、偶々家出してきた朱乃を見つけ、まず先に穢れた娘を狙ったのである。
幼き朱乃はそんなことにも気が付くことなく、未だ両親の悪口を言っている。
このままでは朱乃が殺されてしまうだろう。
だが刺客たちは、朱乃の隣のブランコで誰かが、
同じようにブランコを揺らしているのに気が付いたのだ。
茶色の髪を肩まで流した女だった。
なぜか目には光がなく、死んだ魚のようなだったが。
「遠路はるばる極東まで連れ去られてきたが、おとなしく縛られる私ではごぜぇません。
ひとまずはここでやり過ごさなきゃ。しかし、なぜ私がこんな目に・・・」
彼女もまた、朱乃と同じようにぶつぶつと何かを言っている。
死んだ目をした二人が揃ってぶつぶつ言っている光景、正直言って恐いです。
そうしている内に、朱乃が彼女に気付き、なぜか話しかけたのである。
「あのぉ・・・どうしたんですか?」
「え、あ、ごめんなさい。少しうるさかったですか?もしかして聞こえてました?」
「いえ、そうじゃないんですけど、あなたの眼が死んでいるので・・・」
「あはははは・・・。ですけど、そういうお嬢さんも同じですよ?」
「え、そうですか?」
そうした会話を行い、多少なりと打ち解けてきた中で、互いに悩みを打ち明けていった・・・。
「私の両親が変態だったんです。
夜な夜なお母様がお父様をいたぶって、それにお父様が喜ぶ姿を目撃してしまい、
もう両親の顔がまともに見れません・・・」
「あー解ります。私なんか、両親が筋肉が大好きで、妹とその恋人がいつもアッパッパー。
終いには何故か居ついた居候がドMで、毎回襲ってくださいと頼んでくるわ、
もう一人はありもしない私の肉体美を見ようとお風呂に来るわと・・・」
「た、大変なんですね・・・」
朱乃は思った。『あ、私の家の方がまだ真面かもしれない』と。
ちなみに、周りで聞いていた術者の方たちは、あまりの境遇に泣いている者もいた。
「その上、また変態に巻き込まれまして。必死に逃げていたんですが捕まってしまいまして。
気が付いたらここ極東にいて、縛られていた場所から逃げてきたんですよね。
もう、私が何をしたというんですか・・・」
「あはははははは・・・」
朱乃は、もう何を言っていいのか解らないので、とりあえず笑うことにした。
「ですが!めげてはいけないのですよ。諦めてしまったらそこで終わりです。
足掻いて、足掻いて!足掻きつくして私は家に帰ります。
家に帰って家族を更生しなければならないのです。ですから!」
女性はそういって立ち上がるやいなや、朱乃の腕をとった。
「お嬢さんもめげないでください。たとえ両親がドのつく変態だとしても、
頑張ればきっとまともになってくれると思います・・・多分!」
「わ、解りました!」
彼女の勢いに圧倒され、朱乃はただ頷くばかりである。
「その通りですわ、お姉さま。私はお姉さまの愛の鞭で生まれ変わるのですのよ」
「いや、彼女は私に新たな道を示してくれた。だから私が保護する」
「え?え?」
なぜかいきなり現れた女性が二人。あまりに唐突なことに、朱乃は驚いた。
一人は紫のロール髪で紅いドレスを纏い、一方は青髪で修道服を着ていた。
先ほどまで話していた女性に目を移すと、その目は絶望に色濃く染まっていた。
「なぜ・・・ここが・・・わかった・・・の?」
「「愛です(だ)」」
「そんな欲望塗れのモノなんて捨ててしまえ」
彼女の呟いた言葉に、現れた二人はにこやかに答えた。
寧ろ後光が見える程に輝かしい笑顔だった。
二人の女性は、互いに挟み込む形で、がっしりとお姉さまと呼んだ彼女の腕を捕まえた。
「待って、ねぇ、どこへ連れて行こうとするの?ちょっと!?家に帰らせて!
というか、これは誘拐だよね?拉致だよね!?まって、話を聞きなさい!おい聞けよ!
お願いだから聞いてえええぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・」
そうして三人が消えていった公園で、一人残された朱乃は、先ほど言われた言葉を思い出す。
「私がお母様とお父様をまともにするの!うん、更生させるの!」
そう決意した朱乃は、現実(両親が変態)から逃げず、立ち向かうことを決意したのであった。
公園を出る途中、沢山の人が倒れていたので、優しい朱乃ちゃんは救急車を呼びました。
因みに、そのころの朱乃さんの両親は、本家の刺客たちの別働隊とやりあい、
その後は必死に朱乃を探し、帰ってきた朱乃に泣きながら抱きついた後、謝りました。