その称号を得たヒーローたちが束になっても敵わなかった「人間怪人ガロウ」
そのガロウをアッサリと下した規格外の存在たる「サイタマ」
これはサイタマに敗れたガロウのそのあとの話。
虫も寝静まる深い夜、Z市にあるゴーストタウンにて…
もっとも今は見るも無惨な瓦礫の山と化しているが、その場所で「ガロウ」「怪人協会」「ヒーロー協会」からなる三つ巴による争いが人知れずに行われていた。
ヒーロー協会側は数体の災害レベル竜の怪人の出現で半壊。
怪人協会はヒーローたちと怪人へと覚醒したガロウの手で壊滅。
そのガロウもまたヒーローたちを倒した後に現れたサイタマ、彼の圧倒的な実力の前に戦意を喪失し無力化された。
そしてガロウを取り囲むように負傷したヒーローが集まる。彼を殺すために。
「いいのかそれで? 俺に負けたぐらいでいいのかよ、それで!?」
サイタマは呼び掛けるが、ガロウは何も答えない。反応もしない。
ただ目の前の光景を何処か遠くの出来事、他人事のように眺めていた。
その目には生きる気力が微塵も感じられない。
「正義執行、死ね」
アマイマスクが端正な顔立ちを歪ませて淡々と述べる。
その彼の背後から小柄な影――子供が走り寄ってきた。怪人協会に攫われた子供だ。
ヒーローたちの前に立つとガロウの救済を懇願。それが叶わぬと知れば彼らと言い争う。
「おじさんは僕を2回も救ってくれたんだ! いきなり現れる本物のヒーローなんだよ!」
子供がアマイマスクの片足に抱きついて押さえている、つもりなのだろう。
涙と鼻水混じりの泣き顔でガロウに向かって「逃げて!」と叫び続ける。
「教えてくれたな、お前が何者なのか――――」
サイタマの言葉と子供の声でガロウの目に生気が宿る。
彼の異変に気付いたゾンビマンが駆け寄るが――――
サ" ッ
砂利を踏み締めるような足音を響かせて一歩前に進む。
タ" ン ッ
ガロウが地面を蹴った瞬間、彼の姿が文字通り消えてなくなる。
常人では捉えられない速度でその場からいなくなったと思われる。
彼の死を望むヒーローたちは慌てる。
当然だろう、唯一無二の機会を逃したのだから。
彼らは夜が明けるまでガロウを捜索したが、ついぞ見つけることは叶わなかった。
自称、人間怪人ガロウによるヒーロー狩りから始まったこの事件はこうして幕を閉じた。
【 青年移動中 】
瓦礫の山を駆け抜け、飛び越え、街の外を飛び出し、山の中に入っていっても止まらない。
ただ愚直に「逃げて!」という願いを実行している。
「――――お急ぎのところ悪いけど、お時間を頂いてもいいかしら?」
声、それも若い女のが耳元に囁くように聴こえてきた。
即座に後ろに飛び退き、拳を前に突き出して半身の構えを取り、周囲を探る。
「安心しなさい。敵ではないわ。
胸ほどの高さの空間に横に一本の亀裂が入り、上下に開いていく。
奥は紫色の色彩が広がっていて、ところどころに目玉やら道路の標識などが漂っている。
その中を白いナイトキャップに紫のドレスを身に纏った長い金髪の女性が日傘を手に佇んでいた。
彼女は足元まで開いた穴から抜け出し、ガロウに微笑みながら軽く会釈をすると…
「初めまして、人間怪人さん。私は八雲紫(やくもゆかり)」
――妖怪よ。…と、己の素性を明かす。
「妖怪? 怪人じゃないのか?」
ガロウは目の前にいる紫を訝しげに一瞥する。
人間と同じ外見。能力さえ使ってなければ上流階級の淑女と言われても納得する出で立ち。
それが微笑を浮かべながら差した日傘をくるくると回している。
「似て非なるモノよ。妖怪は死ぬと跡形もなく消えるけど怪人は死骸を残す。そういう違いがあるわ。他にもあるけど聞きたいかしら?」
「結構だ。……んで、その妖怪の姉ちゃんが俺に何の用だ?」
正体は不明。能力も未知数。さらにガロウはヒーローたちとの戦闘で負傷、疲労もしている。
敵意こそ向けてこないが返答次第では変わるだろう。
「私が管理してる幻想郷。そこに貴方を招待しに来たのよ」
「幻想郷? 何のためだ?」
聞き慣れぬ地名に記憶の中から探っているのか片眉を上げて顔をしかめる。
「予言者シババワの遺した『地球がヤバい!!!』に対する備え、かしら?」
「そんなもんヒーローにやらせりゃいいだろう。それこそ、あのハゲ――サイタマがやれば…」
「貴方にとっても悪い話ではないわ」
茂みの奥がざわめく。木々の間から何者かが土を踏み鳴らして二人に近づく。
それは白い帽子に白い道士服、さらにその上から青く細長い前掛けをした短い金髪の女性。
だが腰から伸びている太く長い九本の尻尾の存在が彼女を人外の者と認識させる。
彼女は腕を交互の袖の中に入れた格好で影のように紫の背後に立つと恭しく頭を下げる。
「紫様。このような物が……」
袖の中から物を取り出す。
それは犬を模した機械人形。ただし無惨に破壊され動きを停止している。
「ヒーロー協会は貴方が起こしたヒーロー狩りと怪人協会との戦闘で疲弊している。故にすぐに動くことはないでしょう。貴方を見つけても精々、監視する程度に留まることでしょうね」
「ふ~ん。こっちにとっては好都合だな…」
「大予言者シババワが未来を占っていたとき、彼女はこう言ってたそうよ?」
“ 怒涛の大災害が押し寄せて…… 終末が… 地球がヤバい ”
「話が長くなりそうだな…」
「黙って聞きなさい。「怒涛」とは荒れ狂う大波。激しい勢いで押し寄せる様子の例え。「押し寄せて」も似たり寄ったりね。こっちは多くの人や物が迫って来ることを意味する。この予言から多くの災害が発生する、もしくは比喩的な表現で地球規模の大災害か、それらが起こり得る可能性がある。できれば私の考えが外れてほしいけど…」
「悪いけど追っ手が来てるみたいなんでね。テメーのためにのんびりと話してる暇はねーんだよ」
話の途中で片手を軽く上げて「じゃあな」と振り向き立ち去ろうとする。
その行く先を道士姿の女性が尻尾を逆立てさせて立ち塞がる。
「紫様が貴様のために時間を割いてまで対面してやっているんだ。話を聞かずに去ることは許さない」
「――こっちは急いでる、って言ったろ?」
威圧感を込めた視線をぶつけるガロウ。
彼の意識がその女性に向けた瞬間、紫への警戒が薄れた一瞬、ガロウの足下に大穴が開き、真下へと落ちる。
落ちた先は紫一色に塗り潰された境界線のない空間。彼の前には上下逆さまに映る紫。
「ここなら追っ手に怯える心配もなく、のんびり会話を楽しめると思いませんこと?」
「よく言うぜ、ハナっからこうするつもりだったんだろ?」
「では抵抗を、脱出を試してみます?」
「とっとと幻想郷とやらに案内しろ。ここは居心地が悪くてしょうがねえ…」
――――景色が暗転。
古びてはいるが手入れがされている神社。その神社の鳥居の前にガロウは立っていた。
東の空がうっすらと赤みを帯び始め、陽の光が周囲の山々をほんのりと赤く染め上げる。
神社へと繋がる階段のある方角、その空に自身の能力で作った細い亀裂に腰掛けて紫は告げる。
「貴方がこの幻想郷に仇なす存在、もしくは幻想郷に受け入れられない限り… この幻想郷は貴方を受け入れるわ」
――ようこそ幻想郷へ、人間怪人ガロウ…
(´・ω・)にゃもし。
ガロウ好きだから書いたぜ。
こういう救済があっても良くね?
「地球がヤバい!!!」予言当日、幻想郷の住人に見守りながら外の世界へと出ていくガロウ。
大災害から地球と人類と幻想郷を守るために……
――という最後だけは考えてるんだけど、過程は全く考えていない。
のでこういう短編になりました。切ない。