『僕も……あなたみたいな
『お伽場のような英雄に……あなたのように誰かを助けられる人に……僕は……なりたい』
それが──
───数年後───
ーオラリオ・ダンジョン上層5階層にてー
「キャアァァァァァァァ!!」
冒険者の少女が一人、悲鳴を上げ死に物狂いでダンジョンを駆けていた。
(なんで!? どうして!? なんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!?)
少女は混乱しながらもがむしゃらに走り回る。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「どうして……上層にミノタウロスがッ!?」
牛頭の怪物が雄叫びを上げながら、少女の後方から迫っていた。
(どうしてこうなったの!? ただ私は……私は見返したかっただけなのに!)
少女がこの日、一人でダンジョンに潜ったのには理由がある。少女は本来なら五人パーティーで行動していたのだが、今日に限ってパーティーメンバーと喧嘩してしまった。喧嘩の理由はほんの小さな事だったが、ムキになった彼女は一人でダンジョンに潜ってしまったのだ。しかし、五人パーティーでとは言え、11階層まで到達している彼女には7~8階層までなら大丈夫と自信があった。事実、この5階層まで順調に進んでいた──そう、中層……10階層近く下で出現するはずのミノタウロスが現れるまでは……
(いやだ! やだやだやだ!! ……死にたくないッ!!!)
少女は必死に生へとしがみつく。だが……
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ヒッ!」
絶望は、死は、確実に近づいていた。
それは単純な能力の差。Lv.1でしかない少女がLv.2にカテゴリーされるミノタウロスから逃げ切れる訳がなかったのだ。むしろここまで逃げられたことそのものが奇跡に近い。いや、それもまたより恐怖を与えるための
「だ……れか……だれか……あぐッ!」
必死に走っていた少女は足下にあった石に気付かずにこけてしまう。
「ヴォオオオオ……」
「あっ……いや……こないで……いやッ!!」
立ち上がらなければ、逃げなければと少女も理解している、が恐怖に支配された体は動かない。
「だれか……だれか……あぐぅ!?」
ミノタウロスが逃げ出そうとする少女の足を踏みつける。ボキリ、といやな音が響き激痛が走る。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ"!!?」
死にたくない。まだ親孝行もしてないのに、みんなと仲直りしてないのに、やりたいこと沢山あるのに……
「だれか……」
ダンジョンなんて入らなければよかった。喧嘩なんてしなければよかった。冒険者なんて……ならなければよかった。後から溢れ出てくる後悔。覚悟はしたつもりだった。冒険者なんだから何時死んでもおかしくないと、覚悟したつもりだった。
「……死に……たくない」
そんな……少女の願いを、
「誰か……助けてぇぇぇぇ!!」
ミノタウロスは無情にも少女に向けて巨腕を振り落とし、そして……
「ハァアアアアアアア!!!」
「ヴォッ!?」
「……え?」
少女に当たることなく何者かに……
「……大丈夫」
そこには一人の、白髪の少年が立っていた。その少年は私に向けて安心させるように──
「僕が来た!!!」
笑いかけた。
◇◇◇
「よっと……ふぅ」
その日、少年──ベル・クラネルは5階層にやって来ていた。
「あれ? 今日はモンスターが少ないな……」
モンスターを狩っていたベルは異変に気付く。本来ならもっと居る筈のモンスターが少なく、妙に静かだ。
「キャアァァァァ!!」
「……! 悲鳴!?」
突如、悲鳴が聞こえ、ベルは一目散に駆け出した。
「
瞬間、ベルの速度がはね上がる。
「間に合えッ!!」
凄まじい速度でベルはダンジョンの通路を駆け抜けて行った。そして……
「見つけた!」
ベルは倒れた少女と今にも巨腕を振り落とそうとしている牛頭のモンスターを発見する。
ベルはその右拳を握り締め、その身に宿る
─
「ハァアアアアアアア!!!」
─スマッシュ!!─
Lv.2に匹敵する拳を牛頭のモンスターに向けて叩き込む。牛頭のモンスターは不意の一撃に驚愕し、バランスを崩し、仰向けに倒れる。
「……大丈夫」
ベルは少女の前に立ち、安心させるように笑いかけて、告げる。
「僕が来た!!!」
◇◇◇
「ヴォ、ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ヒッ!?」
「ッ!?」
倒れていた牛頭のモンスターが憤怒の絶叫を上げ、立ち上がる。
(僕の……限界の一撃が……効いてない!?)
牛頭のモンスターは鼻息を荒くし、ベルに向けて拳を振るい、ベルもまた迎え撃つ。
─25%スマッシュ!!─
両者の拳が激突し……
「ぐっ!?」
ベルの拳が、弾かれた。
(思い……出した……)
ベルは自身を上回る膂力を身を持って体感し、あることを思い出していた。
(こいつは……中層のモンスター、ミノタウロスッ!!)
ミノタウロス。モンスターの代名詞にも例えられる怪物。その特徴は中層トップクラスの……力と耐久。本来ならこの上層で出現するのは有り得ないとすら言えるモンスターである。
「早く逃げて!!ここは僕が時間稼ぐから!」
ベルは後ろの少女に向けて言う。だが……
「で、でも、あ、足が……」
見れば、ミノタウロスのやられたのか少女は足を負傷し、血を流していた。骨も折れてる可能性もある。これでは歩くことも出来ない。
(抱えて逃げる!? ミノタウロスを相手に!?)
ベルはミノタウロスの攻撃を防ぎながらこれを無理だと断じる。ベルは理解していた。力はミノタウロスが上、そして速さは……ほぼ互角。少女を抱えてミノタウロスから逃げ切るのは不可能に近かった。
(限界以上の力を使う!? でもそれは……)
実はベルの力には更に上がある。だが、それにはリスクがあった。下手に使えばベルは再起不能に成りかねない程のリスク。100%中25%、それが今のベルにとってリスクなしで使用できる限界値だった。
「……げて」
「…ッ!?」
少女は……泣いていた。
「私の……ことは……もう……いいから……あなただけでも……にげてッ」
少女は泣いていた。自分のことはもういいからと、ベルだけでも逃げて欲しいと。
(……情けないッ!!)
『ベルよ、男なら女の前で格好つけろ。その為なら英雄だろうが何だろうがなんだってなれる!』
僕を育て救ってくれた祖父はそう言って笑っていた。
『あの時、誰よりも先に走り出した君は誰より
僕に力を託してくれた師はそう言って信じてくれた。
(女の子が泣いているの……迷っている暇があるのかよッ!!)
ベルは奮起する。迷っている暇などないと、覚悟を決める。
「大丈夫……必ず助ける!」
力と耐久に差があるのなら、更に上から捩じ伏せる! 限界を越えろ! ベル・クラネル! 必ず救うと覚悟を決めろ!
「
ベルに向けて止めとばかりにミノタウロスが、その右腕を振るう。その拳に合わせ、ベルもその右拳を繰り出した。その瞬間ミノタウロスは感じ取った。小さな少年が宿す桁違いに巨大な何かを。
両者の拳が再び激突し──ミノタウロスの右腕が
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!?」
ミノタウロスは驚愕と激痛により絶叫を上げ後退する。
「ぐぅ……」
ベルは右腕から来る激痛を堪える。見れば使用した右腕は腫れ上がり、裂傷が広がり、血を流していた。恐らくは骨にヒビも入っているであろう。
「ヴォオオオオオ! ヴォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ミノタウロスは四つん這いになり、恐怖を振り払うかのように咆哮し、奮起する。
「あれは……」
ベルはかつて自身のアドバイザーから教わった知識を思い出す。それは追い詰められたミノタウロスが見せる体勢。己の角を用いる最後の切り札。その突進は全てを粉砕してのける強力無比の一撃。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ミノタウロスは少年に向けて……突進する。こちらに突進してくるミノタウロスを見て、冷静に左の拳を握る。
「ミノタウロス……こんな言葉を知ってる?」
ベルの全身全霊全力の一撃。100%中の100%。
「
ベルの拳がミノタウロスと衝突する。桁外れの轟音と衝撃を撒き散らしながらも……ベルの拳はミノタウロスの全てを粉砕し、吹き飛ばした。
「もう、大丈夫だよ……」
ベルは茫然とする少女に向けて、そう笑いかけるのだった。
ベル・クラネル
Lv.1
力:I62 耐久:I46 器用:I81 敏捷:H128 魔力:I0
《魔法》
【 】
《スキル》
【
・継承する。
・身体能力を
・自身を鍛えるごとに能力向上。
僕のヒーローアカデミアとダンまちを見て思い浮かんだ話です。久しぶりに小説を書くため練習として書いたので恐らくは続きません。
因みにワン・フォー・オールは
1%~20%がLv.1相当、21%~40%がLv.2相当と20%ごとに相当するレベルが上がる設定です。