ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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オーシャンズドリーム

 深い眠りの中から不意に意識が浮上してくる。

 今まで体感したことのない、不思議な感覚だった。自分が眠っていることはわかっていて、おそらく今は夢を見ているのだろうと思っていて、まるで海の中に引きずり込まれたかのように、体は動かず、起きることもできない。自分が自分じゃなくなる感覚。自分の中に誰かが入り込んで、違う誰かが自分の体を動かしているような気がしていた。

 そんな時間が、永遠に続くかと思われたが、突然自分に帰ってくる。

 

 目を覚ました時、キリは何も覚えてはいなかった。

 ただ不思議な夢を見たという感覚だけは残っていて、たまにはそんなことあるだろうと、そんな程度の認識で本人は何とも思ってはいない。

 なぜか間近で凝視してくるナミとウソップの前で、キリは大あくびをする。

 

 「キリ、大丈夫?」

 「おれたちのことわかるか?」

 「ふわぁ~……もちろんわかるよ。ナミとウソップでしょ?」

 

 簡潔に告げた一言に二人の表情は見るからに明るくなった。

 二人の服や体は土が付いて汚れている。なぜそんな姿になっているのかわからないが、明るい表情を見て何か良いことがあったのだろうと推測し、キリは呑気に微笑んでいた。

 

 「いきなり何の質問? なんか汚れてるね。掃除でもしてた?」

 「お前なぁ……おれたちがどれだけ大変だったか」

 「大変?」

 「あとで話すわ。とりあえず元に戻ってよかった」

 

 彼らの発言の意味はよくわからなかったが大して気にしない様子だ。

 キリは体を伸ばして脱力し、節々の痛みに気付く。

 

 「うーん……ちょっと寝過ぎたかな。体が微妙に痛い」

 「それ多分寝過ぎただけじゃないぞ。おいゾロ、お前も起きろ。頼むから暴れるなよ……」

 「暴れるって、ゾロの寝相そんなに悪かったっけ」

 

 現在、彼らはメリー号の甲板に居た。

 キリの隣ではゾロが眠っており、ウソップが彼の頬を軽く叩いて起こそうとする。何度かはたいたことでゾロが気付き、寝起きは良いようでがばっと体を起こした。

 

 「おっ、朝か」

 「もうお昼よ」

 「ふぅ~。こっちも無事か。ちゃんと全員戻ってるな」

 

 安堵した様子のウソップは額の汗を拭う。

 発言の意図はわからぬまま。とりあえず安心していることだけはわかる。

 キリは隣に座ったゾロに目をやり、あくびをしながら頭を掻く彼に言った。

 

 「船番中に寝ちゃだめじゃないか。何かあったらどうするんだよ」

 「あ? そもそもお前が先に寝てたんじゃねぇか」

 「そうだっけ?」

 「それよりお前ら、なんでそんなになってんだ? 戦闘か?」

 「お前ら二人とも寝てたんだよ。おかげで大変だったんだぞ……その話はあとでするからまず休ませてくれ。今回は妙に疲れた」

 

 大きく息を吐き出してウソップが座り込む。

 キリとゾロは不思議そうに首をかしげていた。

 

 彼らが居る位置から少しだけ離れて、サンジは船の外に目を向けていた。

 キリたちが眠っている間にメリー号の隣には、イカダとそう変わらない形の巨大な丸太船が鎮座している。甲板であろうその上に居たのがマーシャル・D・ティーチとその仲間たちである。

 サンジの目は厳しく、彼らを問い詰めるように会話していた。

 

 「本当にお前らの仕業じゃねぇんだろうな」

 「だから違うっつってるだろ。弱ぇ奴には興味がねぇんだ。おれの仲間はここに居る奴らともう一人だけで、同盟を組もうって気になったのはお前らだけさ」

 「フン……そうだといいがな」

 

 険しい表情のサンジを見てティーチは豪快に笑う。

 どうやら彼らが居ない間に起こった敵襲はティーチが仕組んだものではないかと疑っているようだが、本人に尋ねてもどこ吹く風であっさり違うと言い切ってきた。とはいえ、本人の言葉だけでは簡単に信用できず、彼の態度が軟化する様子はない。

 ティーチは酒瓶片手に上機嫌に答える。

 

 「おれたちを信用できねぇってのはわかる。だが心配するな。同盟を組む以上はこんなところで潰し合いなんざしねぇよ。少なくとも金獅子を狩るまではな」

 「ウィーッハッハ! もしそのつもりならおれたちの手でやるしな!」

 「ただし、お前たちが討ち取られたのならそれもまた巡り合わせ」

 「ハァ……ああ、お前ら、運がいい……ガフッ」

 

 ティーチを含めて、長身で体格の良い男たちが四人。気味の悪い面々だ。

 顔を歪めたサンジは一旦納得することに決め、彼らから視線を外す。

 

 「まったく、気が進まねぇな。あんな連中と手を組むのかよ。せめてレディが居れば……」

 「不満の理由はそこなんだ」

 「でもあいつ、凄い奴だったな……まさか記憶を奪うなんて」

 

 サンジが加わった輪には記憶を取り戻したシルクとチョッパーが居た。敵の姿を見たかすら定かではないキリやゾロとは違い、二人はノコの姿を見た上で記憶を奪われた。それまでの出来事は全て覚えている様子だ。

 不安そうな顔で呟くチョッパーに同意するシルクが頷く。

 

 悪魔の実は自然界の法則すら無視する不思議な力がある。

 それは彼ら自身も理解していたはずだったのに、今日改めてその恐ろしさを思い知った。

 煙草に火を点け、ようやく落ち着いたサンジが表情を和らげる。

 

 「仲間を奪われるってのはきつい敵だったな。だがロビンちゃんのおかげで助かった。あいつが目を覚ます前にさっさとこの島から離れよう」

 「え? もういいのか?」

 「ここにはあいつの仲間と船を拾いに寄っただけだ。これから同盟の連中と会うんだと」

 「新しい味方も増えたしね。信用できるかどうかはわからないけど」

 

 シルクはティーチの船を見て神妙な顔つきになる。

 

 「あの人も悪魔の実の能力者だって言ってたよね」

 「ああ。そうらしい」

 「能力者って、戦闘が得意な能力ばかりじゃないんだね。正直今回は危なかった……一歩間違えてたら私たち、今までの航海も、故郷のことも、私たちが仲間だったことも忘れて、今頃金獅子の部下になってたかもしれない」

 

 そう考えると背筋が凍る。実現可能だったのだから恐ろしい相手だった。

 彼女の視線の先では、ティーチの丸太船に乗り込んだルフィが彼と話していた。少し前までの危機を全て忘れてしまったかのように呑気な態度である。

 

 「お前これイカダじゃねぇか。よくグランドラインを航海できたな」

 「なぁに、どんなもんでも要は使い方だ。それに見てくれよりずっと頑丈だしな。てめぇの船ともなれば愛着もあるだろ? そうそう変えられねぇもんだ」

 「ふーん」

 「麦わら、お前懸賞金が1億らしいな。何しやがったんだ?」

 「お前誰だ?」

 「おれか? チャンピオンだ。ウィーッハッハッハ!」

 「チャンピオン……?」

 

 何やら一触即発の雰囲気を醸し出している。そんなルフィを見て安堵すると同時に、彼が自分たちのことを忘れた時の恐怖は何とも言えないものだった。

 その時のことを思い出したのだろう、壁に背を預けて座るチョッパーが自分の鞄を抱きしめて、眉間に皺を作って俯いてしまう。彼の表情に気付いたシルクはその気持ちが理解できて苦笑した。

 

 「次からは気をつけなきゃね。この海は広くて、何が起こるかわからない」

 「相変わらず真面目ねぇ、あんたは。こんな時なんだからもうちょっと気楽に構えなさい」

 

 キリたちの傍を離れたナミがやってきてぽんと軽くシルクの肩を叩く。

 空気を変えるため、彼女の声は明るい。

 疲弊した空気が流れる甲板を少しでも普段通りにしようと手を叩いて注目を集めた。

 

 「さあ、用は済んだからさっさとここを出ましょう。町の人たちはまだ私たちを疑ってるみたいだから今更町には戻れないし。まぁ、追われるのはいつものことだけどね」

 「ロビンちゃん、怪我は平気かい?」

 「ええ。大した傷はないわ。これくらいすぐ治るわよ」

 「あいつら、レディに傷をつけやがって、しかも覚えてねぇときた。三枚にオロしてやろうか」

 「気にしないでコックさん。彼らは操られていただけだもの。責めても仕方ないことよ」

 「んんなんて心優しいんだロビンちゅわ~ん! あんな奴らに情けをかけてくれるなんて、君は天使か!? それとも女神か!? あぁ、君の優しさに心を打たれた僕はまるで稲妻の如く――!」

 「うるさいわよサンジくん」

 

 まだ気が抜けている様子のキリではなく、自由に行動しているルフィでもなく、ナミが指示を出して船員たちが動き出した。

 落ち込んでいた様子のチョッパーが奮起して立ち上がる。

 自分の頬を軽く叩いてシルクも顔つきを変え、いつも通りに操船を始めようとした。

 

 ナミはティーチの船に居るルフィを大声で呼ぶ。

 彼の振る舞いはいつも通りだが船長が居ないままでは締まらない。やはり彼が居なければ。

 

 「ルフィ! 船を出すわよ! 帰ってきなさい!」

 「おう!」

 「さて、それじゃあ行こうか。海賊連合、面白ェじゃねぇか。ゼハハハハ」

 

 ルフィがメリー号へ戻ってきて、ティーチたちも出航準備を始めたらしい。

 雰囲気としてはのんびりしているとはいえ、起きたばかりでもう出航。

 置いていかれた気持ちのキリとゾロは座り込んだままだった。

 

 「何があったんだろう」

 「さあな。何もなかったとは思えねぇが」

 「おらアホども、お前らも働け。人より倍働け。散々迷惑かけやがって」

 「だから迷惑って何の?」

 「よくわからねぇが、とりあえず島を出るらしいぞ」

 「働きますか」

 

 ようやくキリとゾロも立ち上がって仕事を始めた。

 補給すらほとんどできていない状態で、滞在は一日どころかほんの数時間。日付が変わる前に出航することになる。当然ログは貯まっていない。それでも同盟との合流は可能らしく、慌ただしくも迷いを持たずに島を離れようとしていた。

 

 瞬く間に準備を終えると留まることを知らなかった。

 元々冒険好きの船長が乗る船だ。航海に出ることを恐れてはいない。

 

 「出航~!」

 

 高らかな宣言と共にメリー号は大海原へ旅立った。

 幸いにも波は穏やかで風があり、日が落ちるまでまだ時間がある。今日中に次の島へ到着するのは不可能だろうが少しは近付けるだろう。

 

 二隻の船が島を離れていく。

 その姿を見送る人影が海岸にぽつんと存在していた。

 

 木の根元に背を預けて座り込み、呼吸を乱しながら、傍らには電伝虫が置かれていた。

 目を閉じた電伝虫がプルプルプルと口にしながら誰かに電波を送っている。

 やがて向こう側の誰かが受話器を取って、通信が繋がった。

 

 「ハァ、ハァ……ノコだよ。ママに代わって」

 

 通信相手は驚いていたようだが断られることはなかった。

 少しだけ待ち、次に聞こえてきた声は彼が想像した通りの人物だった。

 

 《ノコかい?》

 「そうだよ。久しぶり、ママ」

 《放浪癖のあるお前が連絡してくるなんて珍しいね。何かあったのかい?》

 「うん。実はね、負けちゃったんだ」

 

 全身に残るズキズキと脈動するような痛みに耐えながら、ノコは薄い笑みを浮かべる。

 今、彼の中にあるのはその声を聞いた安心感と、自身を倒した一味への興味だ。敗北したことへの怒りはない。自身の敗北は想像もしなかったが、久しくなかった出来事だ。それだけに麦わらの一味が如何なる存在なのか、関わってみて更に知りたくなった。

 

 《ハ~ハハハハ、ママママ……戦闘になったのかい? バカだねぇ。お前が前線に出て勝てるわけないだろう。上手く隠れなと言ったはずだよ》

 「ごめんねママ。ちょっと調子に乗っちゃったみたいだ」

 《それで何の用だい? まさか仇を討てなんて話じゃないだろうね。なら自分で始末しな。お前の能力ならそれくらいできるだろ》

 「違うよ。そもそもの目的はその人たちを傘下にしようと思ったんだ。ママが喜ぶと思って」

 

 彼女の反応を聞いたノコは少し拗ねるような表情になった。

 顔を見てなくてもわかったのか、ママと呼ばれる相手は高らかに笑う。

 

 《おや、それはいいね。つまり使える奴らなんだね?》

 「多分だけどね。ママの目から見たら今はまだ弱いかもしれないけど、いずれきっと強くなると思うんだ。僕は彼らを気に入った」

 《珍しいこともあるもんだ。あのノコがそこまで言うなんてねぇ》

 「金獅子との戦争になるんでしょ? だったら戦力は多い方がいいよ。僕が説得する。今度は能力じゃなくて納得してもらうさ」

 《面倒なことをするね。記憶を奪って操ってやればいいんだ。その方が早い》

 「それじゃ僕が指示を出さなきゃ動かないんだよ。一番は本人の意思で動いてくれることだ」

 《フン……まぁいいさ。お前が気に入った相手だ。自分でケリをつけな。おれの名前に泥を塗るんじゃないよ。息子と言えども甘えは無しだ》

 「わかってる。ただ、そのためにちょっとだけ兵士を借りたいんだ」

 

 自分の理想を語るノコはうきうきしている様子だった。

 そんな態度が珍しいのか、ママはさほど考える素振りもなく即答する。

 

 《ハ~ハッハッハママママ。それならちょうどいい。そっちの海にカタクリが向かってる。合流して頼んでみなよ。カタクリが良しと言うならそれでいいさ》

 「カタクリ兄さんがこっちに? どうして?」

 《クラッカーが止められたんだ。赤髪のガキにね。おかげでカタクリを送り込める隙ができたわけだが、他の連中も相当殺気立ってるようだ。面白くなってきたよ》

 

 少し驚きはしたものの、冷静に受け止めたノコはあっさり頷く。

 

 「わかった。カタクリ兄さんに会ってみる。兄さんもきっと気に入ってくれるよ」

 《それはどうだろうねぇ。前半の海でそれほどの逸材がいるもんか》

 「一度ママにも会ってほしいな。麦わらの一味に」

 《麦わらァ~? あぁ……思い出したよ。七武海を落とした奴だねぇ。たった1億程度の首じゃないか。話題のルーキーだってペロスペローは言ってたけどねぇ》

 「だから言ったでしょ。今はまだだよ。将来性はきっとある」

 《まぁいいさ。そこまで言うなら連れてきな。甘いお菓子のお土産を持ってね》

 「わかった」

 

 通信はあっさりした態度で切られてしまい、ノコは受話器を置く。

 負けたというのにどこか晴れ晴れとした表情だ。

 そんな彼の顔を覗き込んで、眉間に皺を寄せるタツは嫌そうに言う。

 

 「ノコよ、お前本気か? まだあいつらを狙うのかよ。傘下にするって?」

 「そうだよ。僕は彼らが気になるんだ。このまま無視はできない」

 「かーっ。毎度毎度お前の気まぐれには参ったもんだぜ。さっきの聞いたろ? よくよく考えてみればおれたちは懸賞金10億ベリーの化け物を知ってる。それに比べりゃあんなの、どうってことないだろ」

 「そうだけど、少ししたらわからない。なんだか面白くなりそうな気がする」

 「やれやれ。言い出したら聞かねぇのはお前もママも一緒だな。そんなとこは似なくていいってのに……そもそもこの旅だって目的地も決めずに始めちまって。万国(トットランド)を離れて何ヶ月経ってると思ってる。流石にそろそろ故郷も恋しくなるってもんで――」

 「楽しみだな。早く追いつきたいな」

 「おい、聞いてんのかノコ」

 

 立ち上がったノコはタツを持ち上げ、尻尾を口に銜える。

 喋り、動き、自らの意思を持つがそれは正真正銘の笛。息を吹き込めば音が出る。

 

 海上を進むゴーイングメリー号の甲板で、突如ルフィが背中から倒れ込んだ。大きな音を立てたせいで全員が振り向いてその姿に気付き、目を見開いてぎょっとする。

 中でも大きな反応を見せたのがナミとウソップだ。

 慌ててルフィに駆け寄った二人は突然眠り始めたルフィの頬を叩いて起こした。

 

 「ルフィ!? おいルフィ! どうした!? 何があった!?」

 「嘘でしょ!? まさかまた……! 寝ちゃだめよルフィ! 早く起きて!」

 「んがっ……ふがっ? ふああっ」

 

 多少驚いたような素振りを見せ、大あくびをしながら彼は起きた。

 血相を変えた二人を見て眠そうに瞬きを繰り返す。

 まさかノコの能力がまだ効いていたのか。彼らの疑問にルフィは平然と答えた。

 

 「なんでいきなり眠っちまったんだ? ひょっとしてお前まだ――」

 「ん? んー……いや、眠かったから昼寝しようと思ったんだ。だめだったか?」

 「なんじゃそりゃあっ!?」

 「紛らわしいことするなぁ!?」

 「何怒ってんだお前ら? いつものことじゃねぇか」

 

 どうやら彼は自分の意思でただ昼寝しようと思っただけらしい。攻撃を受けたかのようにいきなり倒れてしまったから妙な姿に見えたが、理由は至って単純である。

 ひとまずほっと胸を撫で下ろし、しかし紛らわしい行動に二人はすぐさま怒りを向けた。

 

 「バカヤロー! またあいつの能力かと思ったじゃねぇか! それならそれで言え! 先に!」

 「そもそも眠いだけで倒れるな! 前も見たことあるけど!」

 「いいじゃねぇか別に。痛くねぇし」

 「おれたちがびっくりするだろうが!」

 「そうよ! 特にあんなことがあった後なのに!」

 「んん、わかった。じゃ、寝る。おやすみ」

 「寝るなァ!?」

 

 たかが睡眠。いつもの昼寝。だが今日の出来事があってはそれさえも不安になってしまう。

 再び勢いよく倒れたルフィを無理やり起こさせて、ナミとウソップは大声で彼に自分たちの不安と苦労を伝え始める。一度は聞いたはずだが、もう終わったことだと言って彼は真剣に聞かず、それがまた二人の声をより大きなものにしていたようだ。

 

 ぎゃーぎゃーとうるさい仲間の様子に耳を傾けながら、船尾付近に居たキリは振り返り、今や遠くに見える島へ視線を向けていた。

 そこへゾロもやってきて、キリの近くに立つと何を言うでもなく同じように島を眺める。

 

 「聞こえた?」

 「ああ。こりゃあ、笛か?」

 「そうだと思う。今思い出したんだけど、寝てる間ずっと聞こえてたんだよね」

 「へぇ……おれもだ」

 

 二人は不思議そうに、さっきも聞いた気がすると思いながら、島を見る。

 距離を見れば本来は聞こえそうにないほど遠くだ。だが彼らだけが聞こえた気がしていた。

 名も知らぬ島から聞こえる、名も知らぬ曲。

 それはまるで、ここではないどこかへ連れ去られるような、寂しげな音色だった。

 

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