やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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さて、前々から予告編していた100話記念の番外編です、時系列は少し遡って二回戦が終わった辺りくらいからかな?なのでカモさんチームはまだ参加してません。
なぜここで番外編かというと本編があんな感じなのでここで八幡と大洗メンバーの話を挟もうと思いました。

今バレーが熱い!!これにはバレー部アヒルさんチームもにっこりです。
日本対ロシア戦はまるで疑似プラウダ戦のように思えました。


【番外編】肝試し・ウォー

肝試し、それは日本人ならば誰もが一度は体験した事があるであろう、日本の伝統的な習俗の一つである。

 

夜も更けた草木も眠る丑三つ時、墓場や森、廃墟等恐怖心を煽るような場所に行き、その度胸を試す夏の風物詩の一つである。

 

元々は武士の家の子がその精神を鍛える為に考案した教育だという説があり、それは現代にも受け継がれ、多くの学校行事等でも定番となっている。

 

いや、違うな、現代で肝試しというと定番なのはリア充グループがノリと勢いでやるケースの方が多いだろう。

 

そして彼等彼女等が肝試しをする目的は決して度胸試し等というものではなく、単に恐怖による吊り橋効果を期待した下心丸出しのイベントに過ぎないのだ。

 

人の眠る地で平然とイチャイチャするあいつらの度胸を試す必要はあるのか?そもそも疑問である。

 

生きている者でさえ見ていて呪いたくなるのだ。必ず一人ぐらいは居るだろう、生前、恋人の出来なかった霊、そんな奴に向けて全力で煽る。その姿勢はある意味感心させられる、祟られたって文句は言えない。つーか祟られろ。

 

そもそもだ、本当に肝を試したいのならばグループやカップル、ペアを組んで行動する事がすでに間違っている、隣に誰か居る時点で人はその人を頼り、甘えてしまうものだ。

 

真に精神を鍛えたいならば人は一人で行動すべきである、一人で先の見えない暗闇の中を歩いてこそ、正しく肝試しと言えるのではないだろうか?

 

つまりだ、常日頃一人で行動しているぼっちこそ毎日が肝試しであり、精神を鍛え抜かれた強者と言っていいだろう。

 

なので俺に肝試しなんて行事は必要ない、ないったらない。

 

べ、別に…幽霊とかお化けとか、そんなの、こ、怖くないんだからね!!

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「そんな訳で今日肝試しやるから、戦車道履修者は夜中にまた集まってねー」

 

いつものように戦車道の訓練が終わり、いつもと違う一言が会長から告げられた。

 

「え?会長今何て言ったの?」

 

「肝試しだって」

 

「き、肝試し…だと?」

 

会話の脈絡が全くない、いったい何が「そんな訳で」なんだろうか、これには練習が終わってくたくたな戦車道メンバーも唖然としている。ちなみに冷泉は驚愕している。

 

「あの…、会長、急にどうしたんですか?」

 

生徒会が唐突に何か言い出すのはわりといつもの事だが、これにはさすがに西住も疑問を隠せない。

 

「いやー、それがね西住ちゃん、最近思ったんだけどね、うちのチーム、ちょっと足りない所があるよね」

 

「まぁ戦車は足りませんよね」

 

うむ、なんだかんだ言ってさすがうちの生徒会長だ、そこら辺ちゃんとわかっていたのか。

 

これは新戦車購入フラグかな?よし、戦車のカタログを見せたまえ、俺が厳選してチョイスしてやる。

 

「比企谷ちゃん、それ言ってもしょうがないよ」

 

違うのかよ、まぁ違うんだろうけどね、それは別にして戦車のカタログを見せたまえ、持って帰るから。

 

「そうじゃなくてね、もっとこう、心持ちみたいな話だよ」

 

「確かに華道においては心持ちというのは重要ですが…」

 

「戦車道と肝試しになんの関係があるのでしょう?」

 

「そ、そうだ!何の関係も無い!!」

 

秋山の言葉に冷泉が必死になって同意していた、必死過ぎてどんだけお化け怖いんだよ…、こいつ。

 

「戦車道において重要なのは何か…わかるか?」

 

ここで会長の唐突な話に捕捉説明を入れるべく、いつものように河嶋さんが声をあげる、メガネを光らせててカッコいい。

 

「強い戦車」

 

「だから比企谷!その話はもういいだろ!!」

 

「ごめんね比企谷君、さすがに新しい戦車買う予算はないの…」

 

話の腰を折られた河嶋さんには怒られて小山さんには申し訳なさそうに謝られた、間違った事言ってないと思うのに。

 

「それは度胸だ、どんな状況になっても決して慌てず騒がす、落ち着いて対応できる度胸こそ、戦車道において重要だ、そして残念だがお前達にはそれが足りない!!」

 

…すげぇブーメラン投げるなこの人、その飛来骨ちゃんとキャッチできるの?

 

「つまり度胸を鍛える為の肝試しって訳だよ」

 

「うんうん!恋愛においても度胸って大事だもんね!!」

 

待て武部、今の話のどこに恋愛の話があったんだ?

 

まぁ確かに度胸は大事だと思うよ、戦車を扱うのは結局人な訳だし精神に左右される所は大きい。

 

どんな状況でも決して慌てず騒がすといえば戦車道戦における西住がまさにそうだ、普段あわあわしてるのに一度戦車に乗ればその肝の座りっぷりは半端ない。

 

「って、生徒会は言ってるけど、そこら辺どうなんだ?西住」

 

「えと…、私も別に幽霊とかお化けとか、怖いの得意じゃないんだけど」

 

戦車道の本家本元、西住流からはっきりと否定の言葉を頂いちやったよ…、企画倒れじゃないのこれ?

 

そもそもこの子、砲弾飛び交う戦車道の試合で常に戦車から半身出してるけど、幽霊とかよりそっちの方がよっぽど怖くない?

 

「肝試しかぁ…怖いのはやだな」

 

「でも久しぶりだし、楽しそうかも~」

 

「なんか面白そうじゃない?」

 

「うん!アニメでも定番だし面白そう!!」

 

「………」

 

「紗希も気合い充分みたいだし、良いんじゃない」

 

一年グループはやる気満々のようだ、こいつらもノリで生きてるよな…、というか丸山は喋んないどころか表情すら変えないんだけど気合い充分とはいったい…?

 

「キャプテン…なんかどんどんバレーから離れていっている気がするんですが」

 

「いや、佐々木!バレーにおいても度胸というのは大切だ、ここで度胸を鍛えればどんな強豪校のスパイクも落ち着いて対応できるようになるはずだ!!」

 

「なるほど!お化けに比べたら相手のスパイクなんてへっちゃらですね!!」

 

「幽霊が来たらサーブで追い払います!キャプテン!!」

 

そしてバレー部の連中はこの通りである、ポジティブすぎんだろこいつら…。

 

バレー部の合宿に肝試しとか行事としちゃ普通にありそうなんだけどね、なお、そもそも部員足りないので合宿もできない模様。

 

「幽霊でも一度は坂本龍馬に会ってみたいぜよ」

 

「それなら当然ロンメル将軍に決まっている、是非ともその戦術について学びたいものだ」

 

「いや、ここはやはり真田幸村だろう、真田丸誕生の秘話を聞くべきだ」

 

「私は断然カエサルだ!私は見た!いや…見たい!!」

 

歴女グループは…、うん、歴女グループだわ。あ、でも今回はお決まりの「それだ!!」は無いのね、やっぱりそこはみんな自分達の憧れてる偉人を見たいのか。

 

もし本当にロンメル将軍とカエサルと坂本龍馬と真田幸村の幽霊が同席してるとなるとうちの学園艦ってなんなんだよ、歴史長すぎない?

 

しかしまずいな、なんかもう完全にやる流れじゃないかこれ。

 

ちなみに俺だがやる気は全くない、別に怖いとかそんな話じゃなく、ただ単純に疑問を感じてしまうのだ。

 

夜中にわざわざ大勢で肝試しに出かけるとか、それにいったい何の意味があるというのか、いや、生徒会の事だからただやりたいだけで意味なんてそもそもないのかもしれないが。

 

遠い昔、学校の行事で肝試しをした事を思い出した。指定されたコースを回り奥にあるお札だかなんだかを取ってくるお決まりのものだったが。

 

くじ引きでペアになった女子に「別に一緒に歩かなくていいよね?」とか言われ、お互い距離を開けてただひたすら無言で歩き続けていた、あの女子メンタル強すぎんだろ…。

 

その女子が言いたかった事はきっと、お化けや幽霊、そういった怪異よりも人間の方が怖いという事だ、もしそうじゃなかったらその時の俺が可哀想すぎる。

 

なので俺は肝試しというイベント自体、そもそも乗り気になれない、お化けや幽霊よりも人間の方がずっと怖いのだ、心霊スポットよりも人に溢れたレジャースポットの方が恐ろしいまである。

 

わざわざ夜に出かけるのも面倒だ、そもそも今日は夜、少しやることがある。

 

よし、サボろう、俺の中のサボロー君がそう言っている。

 

「………」

 

「………」

 

特に合図を交わす事なく、目と目でアイコンタクトを取り合った、え?誰とって?決まっている、冷泉だ。

 

お化けが苦手な冷泉がこんな行事に乗り気になるはずがない、その証拠に今もずっと青ざめている、ちょっと…真面目にあいつ大丈夫かよ?

 

俺がコクンと頷くと冷泉はコクコクッと必死に首を縦に振った、どんだけ嫌なんだよ…。

 

一人では後々文句の一つでも言われそうなものだが、二人でサボれば怖くない、いや、もう何も怖くない!!

 

「あ、ちなみに来なかったら罰としてあんこう音頭だからねー」

 

フラグってのは立てるもんじゃなかった…、用意周到すぎんだろうちの会長、完全に予想されてたよこれ。

 

冷泉はもうこの世の終わりとでも言いたげな絶望的な表情をしていた、もうかけてやる言葉もちょっと思い付かない…。

 

「はぁ…」

 

「麻子はなんとなく予想できたけど…比企谷ももしかして怖いの?男の子は度胸がないと女の子にモテないんだからね」

 

ため息をついていると武部が何を勘違いしたのか的外れな事を言ってくる。

 

「別に怖いとかそんなんじゃなくて単純に面倒なだけだ、だいたい俺ほど度胸のある奴そう居ないぞ、遠足の時間、周りの連中がわいわい集まって飯食ってる中、一人でビニールシート広げて飯食えるくらいだ」

 

「あ、あの空気の中で御一人でご飯をですか!さすがは比企谷殿です!!」

 

「す、すごいね、度胸あるなぁ」

 

「いや、二人ともそこは感心しちゃダメだからね!!」

 

チッ…、せっかく元ぼっちの二人から感銘の言葉を頂いたというのに、君達もどうだい?こっちの水は甘いぞん。

 

「つーかお前等は乗り気なのな」

 

「当然!だって肝試しといえばデートの定番だもん、オシャレして気合い入れないと」

 

「そんなん誰が見るんだよ…」

 

気合いを入れた所でいったい誰にアピールできるというのか、そんなに幽霊にモテモテになりたいの?

 

「比企谷は…見ないの?」

 

「え?いや…そりゃ、視界には入るだろうが」

 

「何よその言い方…、そうだ!せっかくだからみんな浴衣着てこうよ」

 

「良いですね、たまには袖を通しませんと」

 

「浴衣ですか…、私はお母さんに聞いてみます」

 

「じゃあ決まりね、ほら麻子も、おばあちゃんに買って貰ったやつあったでしょ?」

 

「私はいかない、そもそもだ、夜に出歩くのは風紀的にもよくないだろ」

 

おい、普段風紀委員のそど子さんとぶつかってばかりの癖にこういう時だけ頼ろうとするんじゃないよ、この子は。

 

「でも行かないとあんこう音頭だよ?それでも良いの?」

 

「ぐぬぬ…」

 

幽霊ネタとなると冷泉は武部に勝てそうにないな、そこら辺はさすが幼なじみというか…、冷泉の扱い方がわかっている。

 

「あ…、でも私、浴衣持ってない」

 

「そっか、みぽりんは今年大洗に引っ越して来たばかりだもんね」

 

西住は戦車道のお家元だし浴衣くらい持ってそうだけど、まぁわざわざ転校先にまで持ってこないよな。

 

「なら私のをお貸ししましょうか?昔着ていたのがあったはずなので」

 

「いいの?ありがとう華さん」

 

「みほさんに合うサイズの物があればいいのですが」

 

「西住殿のサイズなら私に任せて下さい!!」

 

そんな訳であんこうチームの面々は浴衣を着てくるのか、つまり、この肝試しにもノリノリな訳ね、冷泉以外は。

 

…ん?今ちょっと秋山がサラっととんでもない事言った気がするけど、うん、気のせいだな。

 

「つーか俺、何しに行くんですか?」

 

…行かなかったらあんこう音頭らしいし、俺も強制参加なのだろうが、そもそも戦車道メンバーの度胸訓練が建前なら俺が行く意味がないだろう。

 

「比企谷ちゃんにはまたいろいろと手伝って貰おうかな、肝試しなんだし、脅かす役も必要でしょ」

 

あぁ、それなら得意分野ですよ、むしろ何もしなくても女子達に怯えられていたまである。

 

あれ?肝試しってのはアレかな?キモい奴を相手にするって意味でのキモ試しなのかな?

 

「また何を考えているのか知らないが…、お前にはまず迎えに行って欲しい連中が居る」

 

「そろそろ着く頃だと思うから、会場まで案内して欲しいの」

 

「はぁ…誰をですか?」

 

「やっぱりお祭りには出店も必要だからねー、ちょうどいいの呼んどいたから楽しみにしててよ」

 

おい、肝試しはどこに行ったんだよ…、やっぱりお祭り感覚というか、店まで用意してるのか。

 

つーかこんな辺鄙な学園艦でやるちょっとした肝試しに店出してくれる人なんて居るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「小町、帰ったぞ」

 

「あ、お兄ちゃんおかえり~、今日は早いね」

 

家に帰って小町にそう言われれば確かに。今日比較的早く戦車道の練習が終了したのは、今思えば肝試しをやりたかったからなのか。

 

「すぐまた出かけるけどな…、あぁ、夜飯はいらないわ」

 

「出かけるってどこに?またラーメン?」

 

もう俺が出かけて飯を食う=ラーメンになってない?他にもいろいろあるからね、ほら、サイゼとかさ、他には…うん、まあ他には特にないけど。

 

「別に飯食いに出る訳じゃない、だいたいそれなら小町の作った飯の方が良いしな」

 

「なっ!馬鹿、お兄ちゃんってばどこでそんな言葉覚えて来たの!そんなにヒモになりたいの?」

 

なんだよその理論、宇宙ひも理論なの?

 

「で、本当にどこ行くの?」

 

「なんか今日戦車道メンバーで集まって肝試しがどうのこうのだと、いつもの生徒会のアレだよ」

 

アレというか、もう病気といってもいいのかもしれない。

 

「なにそれすごく楽しそう!小町も行きたい!!」

 

「行きたいって…、行ってどうするんだよ、周りみんな知らない奴ばっかだぞ?」

 

しかも年上の。そんな空間、俺にはとても耐えきれない。

 

「でもみほさん達も来るんでしょ?」

 

「まぁ来るだろうな」

 

浴衣まで用意してやる気満々だったし、そういや結局冷泉は来るんだろうか?最後まで頷く事はなかったが。

 

「それに、今から将来の小町のお姉さん候補のチェック…じゃなくて、小町の先輩達に挨拶しとかないと!!」

 

小町の奴、高校から戦車道始めるつもりらしいが今から顔を覚えてもらおうというのか。

 

早くもコネを作り始めている辺りさすがである、小町、いや…こねち。

 

「っても一応は戦車道の授業みたいなもんだしな、会長に聞いてみないとなんとも言えん」

 

「じゃあ会長さんにメールで聞いてくるね、オッケーだったら小町も参加って事で」

 

あの人なら二つ返事でオッケーしそうではあるが…、本当に小町も来るつもりなのか。

 

小町と大洗戦車道メンバー…、何やら危険な組み合わせが出来上がりそうで、肝試しがどうのより前にそっちの方が恐ろしい気がしてならない。

 

やっぱり人間こそが一番恐ろしいのである。


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