やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
えー…まず謝罪から、本当は去年のうちに投稿するつもり満々でしたが間に合いませんでした!!
つーか去年はちょうどサンダース戦の終わりだった事考えると一年かけてプラウダ戦まだ始まってもないのね…、うん、今年はもう少し進めるといいなぁ…。
「廃校?」
「学園艦は維持費も運営費もかかりますので、全体数を見直し、統廃合する事に決定しました」
そこは『文部科学省 学園艦教育局』
そこに現大洗学園生徒会の三人が呼び出された事により、全ては始まった。
「特に成果の無い学校から解体します」
「つまり…私達の学校が無くなるという事ですか?」
「納得出来ない!!」
「今納得して頂けなくても、今年度中に納得して頂ければこちらとしては結構です」
「じゃあ来年度には…」
「はい」
「急すぎる!!」
「大洗学園は近年、生徒数も激減してますし、目立った成績もありません、昔は戦車道が盛んだったようですが…」
「あー、じゃあ…戦車道、やろっか?」
文部科学省の役人から告げられた廃校宣言を前に、大洗学園、生徒会会長、角谷 杏は答える。
「まさか優勝校を廃校にはしないよね?」
ーーー
ーー
ー
「それで戦車道を始めたんですか…」
会長が皆に真実を話終える。結局俺は、この人達の守り通していたものでさえ、台無しにしてしまった。
本当に何をやっているのかと、自己嫌悪してしまう。
この嫌悪感の正体はもうわかっている。それは西住達の前で真実を話してしまった事だけではなく、もっと酷いものだ。
そもそも、俺はなぜ今回動いたのか?
長く住んでいた学園艦を守りたかったから?違う。
戦車道を再開させてしまった西住への責任?違う。
小町の大洗学園入学の為?違う。
口から、そして心の中から出る言葉でさえ、全て白々しい、全てが建前で欺瞞に満ちていて、自分を正当化する言い訳ばかり。
成り行きと半ば強制で始まった戦車道、凸凹もいいところのチームメンバー、どんどん増えていく仕事。
…その日々が楽しくなかった、といえば嘘になる。
無くしたくなかった…、それでも無くなるのなら、自分から見切りをつけて離れた方がマシだと思った。
失いたくない、失うのは怖い、辛い、それならいっそ自分から先に離れた方がずっと楽だから。
楽だから、今戦車道チームの連中に嫌われて関わりを断てば、来年大洗が廃校になっても俺を納得させる理由はいくらでも作れる。
今回の作戦はそれだけの為だ、自分に都合の良い逃げ口を作る為の、嘘だらけの最低なもの。
大洗学園の為に、戦車道チームの為に、自己犠牲で嫌われ役を演じた?そんな上等なものは存在しない。
ただ自分の為に、それだけだった。
「いやー、昔盛んだったならもっと良い戦車があると思ってたんだけど、予算が無くて良いのは全部売っちゃったんだよね」
「では…ここにあるのは」
「うん、みんな売れ残ったやつ」
…でしょうね。いっちゃなんだが、どの戦車も戦車戦で戦うには性能不足というしかない、Ⅳ号、Ⅲ突が残っていただけまだ運が良かったのかもしれない。
「それでは優勝など到底不可能では…」
「バレー部復活どころか…学校が無くなるなんて」
「無条件降伏…」
「この学校が無くなったら私達、バラバラになるんでしょうか…」
「そんなのやだよ!!」
五十鈴の漏らした言葉に武部が声を上げて答える、俺達は学生だ、廃校になればおそらく、各高校に編入する事になるだろう。
だが、全員が全員、都合良く同じ高校に編入するのは無理だろう、少なくとも大洗学園戦車道チームは確実に無くなる。
「単位習得は夢のまた夢…か」
冷泉が空を眺めながら呟く、…冷泉の婆さんが大洗の町にいる事を考えると、他の高校に行ってしまえば会える機会も少なくなる…か。
戦車道チームが暗く表情を落とす、この状況を作った戦犯である俺には何も出来ない、何も思いつかない。
本当に…弱くて、狡く、最低で、嫌になる。
「まだ大会は終わってません」
皆が顔をうつ向かせる中、彼女は一人、顔を上げる。
「西住…」
「まだ、負けた訳じゃありませんから、だったら…頑張るしかないです」
転校初日、正直最初は印象にも残らなかった。
クラスの連中からの質問攻めではおどおどきょろきょろ、そんな奴なんで向こうから俺に関わってくる事はないだろうと。
当然、俺から関わりを持つつもりなんて最初から無かったので、もし戦車道が復活しなければまともな接点なんて皆無だっただろう。
だが、今は違う、今は西住 みほを知っている。
「だって、来年もまたこの学校で戦車道をやりたいから…、みんなと」
どれだけ条件が悪くても諦めない、強く、素敵な女の子だと知っている。
「私も…、私も同じ気持ちです!西住殿!!」
「そうだよ…とことんやろうよ!諦めたら終わりじゃん、戦車も恋も!!」
「せっかくここまで来たんですから、最後まで戦いましょう」
「うん」
西住の言葉にあんこうチームの秋山も、武部も、五十鈴も、冷泉も答えた。
他の戦車道チームのメンバーも顔を上げる、その表情に先ほどまであった暗いものはない。
…俺以外は。
「作戦を練り直します、でも…無茶な作戦はしないようにしましょう、八幡君」
「…名指しかよ」
まぁ…もう全部バレてるか。
「どうして…あんな事したの?」
先ほども西住に同じ事を聞かれたが今回はさっきまでとは違う、真実を知った今、改めて聞きたいのだろう。
「さっきも言っただろ、勝つ為だって…。負けたら廃校なんだぞ」
だが、俺は答えを変えない、本当の答えは別にあるがそんなもの西住達の前で言える訳がない。
「でも、あんなやり方じゃ八幡君が傷付くだけだよ…」
「別に傷付かんし、例え傷付いたとしてもそれは俺のとるべき責任だ」
「責任…」
「西住、嫌がってたお前に戦車道を再開させたのは俺だ。だからお前が来年も戦車道をやりたいならなら、やれるよう動くのが俺の責任だろ」
尤もらしい逃げ口だが、それでも西住を納得させるなら充分だろう。
「それで勝って、学校が守れても…八幡君は来年、戦車道を続けるの?」
「…別に俺は関係ないだろ」
充分だと思っていた、だから俺の事を不意に聞かれてドキリとし、たいして考えもせずに答えてしまった。
「ううん、あるよ」
西住はすぐに首を横に振り、俺の服の袖をチョコンと摘まむ。
「私は…来年も″みんな″で戦車道を続けたいから、だから…八幡君も一緒が良いな」
「ッ…」
この廃校問題に対し、ずっと問題文からは″俺″を省いて答えを出してきた。なぜならその方が楽で、傷付かないからだ。
西住に来年戦車道を続けさせるにはどうするか?
小町が来年大洗に入学するにはどうするか?
そんな俺の考えていた前提条件を全て引っくり返すその言葉には、もう逃げ口も残されない。
「駄目…かな?」
「俺は…」
「えー!比企谷先輩、戦車道辞めちゃうんですか!?」
「…阪口?」
答えにあぐねいているといつの間にか、他のチームの連中に囲まれていた。
「こ、こら!桂利奈!!」
「だって梓、比企谷先輩、来年戦車道やらないみたいだし…」
「いや、そうじゃなくてせっかくの雰囲気が台無し…」
「雰囲気…?」
はっと気付いた西住が慌てて掴んでいた袖から手を離した、つーか俺も恥ずかしい、本当にやめて!もう逃げ口ないんだから!?
「お前ら、盗み聞きしてんじゃねぇよ…」
「それはさすがに無理があるんじゃ、こんな場所ですし~」
そりゃそうだよね!みんな居たもんね!!本当に何やってんだよ…俺。
「………」
くいくいと今度は後ろから誰かにまた服を掴まれる、この無言で主張する感じは丸山か。
「沙希も辞めちゃ駄目だって言ってるよ」
いや、言ってないでしょ…、でもまぁ、なんとなく寂しそうなのは表情から見てとれるようになってきた…気がする。
「そうだ比企谷、お前が抜けたらバレー部のメンバーがまた減ってしまうじゃないか!!」
「せっかくチームメンバーになれたんですから、バレー部復活のその日まで一緒に頑張りましょう、コーチ!!」
「ついでにバレーの大会まで一緒に頑張りましょう!!」
「そこまで来たら全国大会優勝までですよ、コーチ!!」
「いや、ちょっと何言ってるのかわからない」
いやおかしいでしょ、うちのバレー部本気で怖いんですけど。
「そうだヘルマン、それでも偉大なローマ兵か」
「我々の戦いはまだ終わってはいないぞ!!」
「そもそも無断で隊を抜けるのは切腹ぜよ」
「ならば六文銭が必要か?」
「いや、いらないし…」
その絶対切腹させる局中法度を引用してくるのは止めてくれないかなー?しないからね?三途の川の渡し賃も必要ないから。
「なに?そんな規則があるの?なら風紀委員としても見過ごせないわね!!」
「さすがに切腹は無いんじゃないかな…」
「甘いのよ!規則を守らない、風紀を乱す人達にはそれくらい必要だわ!!」
「言ってる事無茶苦茶だよ…そど子」
うちの風紀委員って過激すぎてこの人達こそいつか風紀を乱しそうな気がしてならない…。
改めてどいつもこいつも、大洗の戦車道チームの連中ってイロモノばかりだな…、ツッコミ入れるのも疲れてくる。
それでも…楽しいと、そう思ってしまう。
「もうここまで来て一人だけ辞めるなんて無しだからね、私も…その、来年も比企谷と一緒に戦車道を続けたいし…」
「比企谷さん、大洗学園戦車道チームという作品は一人でも欠けていると完成しません」
「そうです!戦車が結んだ絆は簡単には無くなりません!!」
「そもそもだ…来年比企谷さんが戦車道やらなかったら、誰が私を起こしてくれるんだ」
「おい、最後のおかしいだろ、自分って選択肢をちゃんといれろ」
「比企谷さんもな」
…相変わらず鋭く痛い所をついてくる、いや、その前にきちんと自分で朝起きろよ。
「あはは…、私は、私達は来年もこの学校で、みんなで戦車道を続けたい、八幡君は…どうかな?」
「俺は…」
今さら考える必要もない、そんなもの、ずっと前から答えは決まっていた。
その決まっていた答えから俺はただひたすら、言い訳や嘘を繰り返して逃げ続けていただけだったのだから。
「俺も…来年も戦車道を続けたい」
このたった一言がずっと言えなかった。
そんな弱い俺の手を彼女達は掴んでくれた。
「ここで終わりたく……ない」
「うん、私も…ここで終わりたくない」
俺と彼女達との戦車道は、本当の意味でここから始まるのかもしれない。
ーーー
ーー
ー
「…ただいま」
先ほどの模擬戦で、無事だった戦車はⅣ号と38(t)のみ、現在自動車部の皆さんが全力で修理中なので今日の戦車道の授業は終わりとなった。
いや、本当にごめんなさいね、俺のわがままで、後であっつあつのマッ缶を差し入れに持って行きます。
とはいえ、今日はもう無理だ。本当なら今すぐにでも改めて準決勝に向けての作戦会議でもするべきなんだろうが、いろいろいっぱいすぎてキャパオーバーである。
何がいっぱいなのかって?そんな事は決まっている。
家の中をひとしきり確認…、よし、小町はまだ帰って来てないな、社畜なうちの両親の事は端から考えていない。
確認を終えると俺はソファーに滑り込むように飛び乗ると一人、頭を抱えた。
「うわぁ…、何やってんの?何言っちゃってるの?馬鹿か俺は…」
そして悶えました、いやもう…本当に恥ずかしい。
大勢の前であんな事言っちゃって、これは完全に黒歴史もいいところだ、やっぱりトラウマ作っちゃったよ…。
大の高校生男子が悶えるその姿は端から見ていれば見れたもんじゃないだろうが…恥ずかしいのだから仕方ない。
こんな醜態、うちの戦車道チームの連中には見せられない、…本当に今日はさっさと解散させてもらって良かった。
「…お兄ちゃん何やってんの?」
…うちの戦車道チームの連中以上に、家族という、より見せられない妹の小町が居た、もちろんドン引きしていた。
「帰ったならただいまくらい言ってくれ…」
「いや、いつも小町が一番先に帰るから…」
そもそも鍵をかけなかった俺が悪いんだが、どんだけいっぱいいっぱいだったんだという話だ。
だが、まぁ…、良い機会だとも言える。廃校の話を会長に聞かされてから、長い間小町とちゃんと話してなかった気がするからな。
「小町、ちょっといいか?大事な話がある」
「うん、話してくれるなら、聞いたげる」
ここ数日、俺の様子がおかしかった事なんて小町にはお見通しだっただろうに、それでもこうして、俺から言い出すまで待っててくれたのだろう。
伝えなきゃいけない事はたくさんある、大洗の廃校問題はもちろんだが、その前に一つ、大事な話だ。
「小町」
「うん」
「お兄ちゃん、友達…?が出来たみたい」
「…何言ってるの?このゴミぃちゃんは」
妹にまるで生ゴミでも見るかのような目で見られた、死にたい。
「それってみほさんや沙織さん達、戦車道チームの人達の事?」
「まぁ…、そうなるのか?」
「小町に聞かれても…」
「え?違うの?」
「…うわぁ、これにはさすがの小町も引いちゃうなぁ、お兄ちゃん、そういう報告はせめて彼女ができてからにしないと」
「せめてのハードルが高ぇな…」
ハードルは高ければ高い程大歓迎だけどね、だってほら、高い程下を潜りやすくなるじゃない?
「それとな…、大洗学園、今年の戦車道大会で優勝出来なかったら来年廃校になるぞ」
「…うん、そっか」
さっきの話はこの話を伝える為の緩和材みたいなものだったが、小町はショックを受ける様子もなく、頷いた。
「受験勉強、頑張れそうか?」
「もちろん、だって優勝すれば廃校にはならないんだよね?」
「まぁ…優勝できればな」
「みほさん達が居るなら大丈夫だよ、それと…お兄ちゃんもね」
「あぁ…言ったろ、お兄ちゃんに任せとけって」
長く住んでいた学園艦だ、もちろん解体なんてされたくない。
西住が来年も戦車道を続けたいと言い、そこに俺も含まれているのなら責任はとる。
小町が来年、大洗に通いたいなら、廃校になんてさせてたまるか。
そしてなにより、俺自身が、こんな所で終わりたくない。
もう安易な逃げに走るのは止めて、覚悟を決めろ。
それこそやれる事なんて限られているが、それでも…最後まで戦う。
「とはいえ、戦力的には厳しいけどな」
「またそんなネガティブな事言って…」
小町はそういうがこれは客観的に見て事実だ、そこはもうどうしようもない。
せめてもう一両くらい、戦車とチームがあれば。
せめてこの慣れない雪原という試合会場で存分に戦える戦術を知っていたなら。
まぁ、そんな都合の良い展開、ありはしないが。
ーーー
ーー
ー
流氷さえ流れる海上を小舟が一つ、頼りなく進んでいる。
「珍しいね、大会が終わったのに他の試合会場に見に行くって言い出すなんて」
「たまにはサンタの真似事も悪くない、そう思っただけさ」
「クリスマスはまだずっと先だよ」
「プレゼントを贈るのに、日にちなんて関係ない、理由だって必要ない、そうは思わないかな?」
静かな海上にカンテレの音色が響く。
ゆらゆらと進む小舟には、二両の戦車が搭載されていた。