やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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【プラウダ戦前日、八幡と優花里のメール】

優花里
『明日はいよいよ準決勝ですね!比企谷殿』

八幡
『会場は雪原なんだろ…寒いのによくそんなテンション上がるな』

優花里
『そうですね、私もいろいろと準備しないといけません』

八幡
『準備?カイロとかもう戦車に積んだだろ?』

優花里
『備えあれば憂いなしです、ポットにココアと…あと、いざというときの為に携帯できるシャベルや簡易テントなんかも用意して、…他にもいろいろと』

八幡
『寝ろ、あとココアじゃなくてマックスコーヒーが個人的に良い』


世の中には、餌だけ食べる魚というものもいる。

「アリクイさんチームの皆さん、大丈夫ですか?」

 

『な、なんとか着いて行けそうにゃー』

 

現在私達大洗学園の戦車道チームはプラウダ側の陣営に向けて進軍しています。

 

「冷える…」

 

「はい、寒いですね…」

 

…やっぱりこの寒さと雪、雪原での戦いは熊本が母港の黒森峰では訓練の機会が少なかったから久しぶりだなぁ。

 

「皆さん、ポットにマックスコーヒーを入れてきました、良かったらどうぞ」

 

「ありがとう」

 

優花里さんからマックスコーヒーの入ったコップを受けとります、いろいろな所に気を配れてすごいなぁ。

 

「こうしていると聖グロリアーナみたいですね」

 

「溢さないようにしないと…服にかかっちゃうよ」

 

ダージリンさん達、試合中でも紅茶飲んでるだよね…、どうやってるんだろ?

 

「って、あれ?私達なんか普通にマックスコーヒー飲んでるんだけど!なんかおかしくない?」

 

「そうですか?美味しいですよ」

 

「いや、まぁ美味しいんだけどね…、なんかだんだん比企谷に毒されている気がして」

 

「そういえば…サンダースはマックスコーヒーの専用カーがありましたね」

 

「二回戦のあとの戦車レースの時、聖グロリアーナのローズヒップさんがマックスコーヒー飲んでいた、紅茶のカップで」

 

「比企谷さんが広めているのでしょうか?」

 

「全学園艦マックスコーヒー計画だな」

 

「いやそれ普通に怖いから!?」

 

「あはは…」

 

でも…二回戦の時は聖グロリアーナとサンダースの人達と一緒に宴会の会場に来てたし、一緒に試合見ていたんだよね。

 

あれ?そういえば一回戦はお姉ちゃんや逸見さんと一緒に居たって言ってたけど、その時ってどうだったんだろ…。

 

「どうしたの?みぽりん」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

まさか…ね。

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

『敵は全車北東方向へと移動中、時速約20キロ』

 

「ふーん、一気に勝負に出る気?生意気な」

 

プラウダの偵察班からの報告を受け取ったカチューシャはもぐもぐと食事をしながら呟いた。

 

「ノンナ」

 

「わかっています」

 

カチューシャのその一言だけでノンナは部隊に通達を入れる、大洗側を罠にかけるのだ。

 

「あえてフラッグ車だけ残して他は殲滅してやるんだから、偉大なるカチューシャ戦術を見せつけてやるわよ」

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「雪、ロシア、戦争と聞くと…」

 

「スターリングラードを連想するな」

 

「縁起でもないぜよ」

 

もしこの場に比企谷八幡が居たなら、彼はこう言うだろう、「おい馬鹿止めろ」と、それくらいには縁起が悪い。

 

『11時に敵戦車、各車警戒』

 

「来たか」

 

西住みほの合図と共に大洗の各戦車が展開する。

 

「3両だけ、外郭防衛線かそれとももう…」

 

Ⅳ号戦車から顔を出しながら敵戦車を発見した西住みほは相手戦車を注意深く観察するが、相手も大洗側に気付いて砲塔を向けてくる。

 

「見つかった、でも相手が三両なら…長砲身になったのを生かすなら今かも…」

 

相手が三両だけなら、戦力差を埋める為にも序盤で敵の数を減らす事は必要不可欠だ。

 

「カバさんチームとあんこうチームで砲撃します、他のチームの皆さんは辺りを警戒して下さい」

 

『『『『了解!!』』』』

 

Ⅲ号突撃砲とⅣ号戦車による砲撃は相手戦車に命中し、二両の白旗を上げさせる。

 

「命中しました!」

 

「すごーい!一気に2両も!!」

 

これで13両対7両、試合が始まってまだ少ししかたってない事からすれば大戦果ではあるが。

 

「…上手く行きすぎてる」

 

西住みほは逆にその状況に疑念を感じた、プラウダ側がこうもあっさりと2両の戦車を撃破させる事を許すだろうか?

 

つまり、これは試合前に彼が言っていた、自分達を釣る為に敵が用意した罠である可能性が高いという事だ。

 

「西住殿、残り1両が逃げていきます」

 

となればこれを追うかどうかこそが今後の展開を大きく左右する事になるだろう。

 

「…追撃します、ただし、罠の危険性もあるので追いかけながらも慎重に、それを相手には悟られないようにお願いします」

 

まだ包囲される段階まではいっていない、こちらは罠にかかったふりをして追撃を続ける。

 

『えぇっと…つまり』

 

『要するに根性だ!!』

 

大洗側はそのまま逃げた1両を全車で追う展開となった。

 

「逃げています…」

 

「こっちは全車両で追いかけてますからね」

 

「そうだよねー、何故か追うと逃げるよね、男って」

 

「ふふっ」

 

緊張感を和ます為かいつもの事か、その武部の何気無い一言に西住みほはクスリと微笑んだ。

 

「八幡君がそうだよね?」

 

「あぁ…確かに」

 

「そうだな」

 

Ⅳ号戦車の車内であんこうチームのメンバーはお互いに小さく微笑み合う。

 

「でも…もう、逃げないでくれたら、嬉しいな」

 

「…みぽりん」

 

西住みほのその小さく呟いた言葉に武部は複雑な表情を見せた。

 

「沙織さん?」

 

「…ねぇ、みぽりんってーー」

 

「!? 待って!向こうに敵戦車が固まってる…」

 

だがそれより先に、逃げていた相手が他の味方と合流したようだ、もうお喋りをしている余裕はない。

 

「…ううん、なんでもない、よーし!絶対勝とう!!」

 

武部は気持ちを切り替え、いつもの明るい雰囲気でみんなに声をかけた。

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「さすがですね!ロシアのT-34をあぁもあっさり撃破するなんて!!」

 

先ほどの開戦をモニターで見ていた西は大洗側が早速相手2両を撃破した事に感心していた。

 

…確かにあっさりだ、というよりあっさりしすぎていて逆に気味が悪い。残った1両が逃げた事を考えてもプラウダ側は大洗を誘き出そうとしているのは明白だな。

 

「しかも全車による突撃でとは、これはやはり突撃こそ最善の戦術だという事ですね!!」

 

なんかやたら嬉しそうでテンション高ぇなと思ったがそれかぁ…、まぁパッと見てたら大洗側は全車で突撃してるだけだもんね。

 

「突撃すれば良いってものじゃないよ」

 

「そうね…」

 

だが、パッと見で物事を判断しない二人は今の開戦に疑念を感じているのだろう、西の言葉を否定する。

 

「お二方、それはどういう意味ですか?」

 

「魚釣りと一緒だよ、魚は生きるのに必要な物で、餌は必要な犠牲だろう?」

 

「あぁ!私も魚は好きです!私の学園艦ではご馳走ですから!!」

 

違う、そういう話をしてるんじゃない。ミカさんの言い方もまどろっこしいが西もそのままの意味で受けとるんじゃないよ、純粋かよ。

 

…つーか魚料理がご馳走って?普段海上を移動する学園艦なら魚料理なんてそれこそ一番口にする機会があるだろうに。

 

「…普段何食ってんだ?」

 

そういやさっき紅茶とかマックスコーヒーも高価で飲めないって言ってたな。

 

「銀シャリとお漬物、そして味噌汁です!!」

 

何それ質素、栄養バランスとか大丈夫なんだろうか?つーか知波単学園ってそこまでお金無いのね、これゃうちやアンツィオ以上に貧乏校だな、あぁ、継続も貧乏なんだよな。

 

つまりこの場でブルジョアなのはお嬢様学校の聖グロリアーナだけらしい、これは革命起きますわ、とりあえず妬んでおくか。

 

「勘違いしているようだけど…知波単学園は私達と同じ、世で言う所のお嬢様学校というものよ」

 

そんな俺の妬みの視線を感じたのかわからないがダージリンさんがそんな事を言い出した。

 

「…え?」

 

「確か…学園艦の方針で質素倹約に勤めている、とのお話でしたよね」

 

…訳がわからないよ、お金あるのにわざわざ質素に暮らしてるとか、逆にお金無い人達煽ってるの?

 

「お金のある所はいいなぁ…私達、今日の晩御飯もどうしようかと思ってるのに」

 

「食べ物なんて、その日過ごせる分があればそれで良いんじゃないかな?アキ」

 

「そのその日過ごせる分が無いから困ってるんじゃない、この寒さじゃミッコも海に潜れないし、食べられそうな木の実も茸もなさそうだし、晩御飯どうするのよ?」

 

継続高校の人達、ちょっとサバイバーすぎませんかね?無人島で1ヶ月過ごしても大丈夫そうなんですけど。

 

「…ペコ、彼女達に後でお土産をお渡ししてあげて」

 

「はい、サンドイッチと…『銘菓グロリアーナせんべい』もご用意しておきます」

 

「え?い、良いんですか!?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

あまりの可哀想ぶりにかダージリンさんが超優しい。いや、俺も話聞いてて不憫だとは思ったけど、姉住さんの時のうなぎのゼリーに比べて差がありすぎない?差の付け方露骨だよ。

 

そもそもグロリアーナせんべいって何なの?そんなもの作ってたの?聖グロリアーナってイギリスかぶれの癖してやっぱり日本だよね、たまに食いたくなるもんね、せんべい。

 

なんかダージリンさん達がせんべいバリバリ食ってる所想像してしまいそう、うん…まぁ優雅だね。

 

…話が逸れたな、つーか毎回話が逸れてる気がするが、今は試合中なんですからね、それも大洗の命運のかかった試合なんですよ?

 

逃げた残り1両の先には当然プラウダ側の戦車部隊が展開している、そこにはご丁寧にフラッグ車まで用意してくれていた。

 

…ここでプラウダ側のフラッグ車を潰せればそれこそ最高なんだろうが、たぶんこれも大洗を釣る為の餌だろう。

 

なぜならまだKV-2ギガントもスターリンも見当たらない、プラウダ側はまだ主力を隠している。

 

「やや!これはなんとフラッグ車ではないですか!となれば全車両による突貫ですな!!」

 

確かに、千載一遇のチャンスともいえる状況だ、話を聞く感じ知波単学園なら全車で突撃をかましている所だろう。

 

だが、相手もフラッグ車を囮に使っている以上、他の戦車が守りを固めている。確かにチャンスだが、そう上手くはいかない。

 

Ⅲ突の砲撃がフラッグ車を防衛しているT-34の一つを落とすとプラウダ側は更に後退していき、それを更に大洗は追う。

 

「いいのかしら?このまま追撃を続けても」

 

ふとこれまでの戦況を眺めていたダージリンさんが声をかけてきた。この人の事だ、プラウダ側の狙いなんてものにはとっくに気付いているだろう。

 

「…いいんじゃないですか?敵の数は減らせてますし」

 

「プラウダは引いてからの包囲殲滅戦が得意なのよ」

 

「えぇ、西住からも聞いてます」

 

プラウダ側が後退した先にあるのは点々と家が集まって出来た集落のような所だ。

 

そして神の目…という訳ではないが、モニターで戦況を見る事が出来る俺達にはその集落にプラウダの本当の主力部隊が潜んでいる事は確認できる。

 

西住ならこれに気付くだろうし、今の大洗の奴らなら慢心して無茶な突撃をかます奴も居ないだろう。

 

「だから…まぁ、ここら辺が潮時じゃないですか?」

 

試合開始早々に相手を三両も撃破出来たのだ、僅かではあるが、戦力差を埋める事ができた。

 

「とりあえずご馳走様とでも言ってやりましょう」

 

「ふふっ…なるほど、あなたも悪い人ね」

 

それ絶対誉めてませんよねぇ…、あと、俺達の狙いがすぐにわかったあなたも相当だと思うんですが?

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「全車、停車して下さい!!」

 

後退していたプラウダの部隊を追撃していた大洗学園だが、相手が集落に入った所で西住みほは全車両を停車させた。

 

小さな家が集まって出来た集落、それは広い雪原とは違って隠れるにはうってつけだろう。

 

「各車、偵察と報告をお願いします」

 

指示を出しながらも自らも双眼鏡で集落の様子を確認する、雪も降り、視界もだいぶ悪いが集落の中に隠れている相手戦車を発見する事ができた。

 

『こちらウサギさん、敵戦車発見しました』

 

『こっちも見つけたわよ!風紀委員の勘をなめないでよね、隠れて悪さしてる不良を見つけるのなんてお手のものよ!!』

 

「…そど子、それはちょっと違うんじゃないか」

 

「あはは…」

 

カモさんチームからの報告を聞いた冷泉の小さなツッコミに西住みほは軽く微笑みながら、全車に指示を送る。

 

「集落に相手の主力部隊が居ます、追撃を中止して後退して下さい」

 

ここで集落に入って追撃を続ければそれこそ相手の思うつぼ、包囲網が完成されてしまう。

 

フラッグ車の追撃を止めるのは惜しくはあるが、それよりも序盤で相手の数を減らせた事を戦果と考え、無理せずに撤退してしまうのが一番だ。

 

だが、自分達大洗が集落に入らず後退したとなればプラウダ側は今度は追いかけてくるだろう。

 

となれば、次の作戦は…。

 

「皆さん、それでは続けてもぐもぐ作戦をお願いします!!」

 

『『『『了解!!』』』』


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