やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
なお、読んでいる皆さんにはあっさりバレていたのが感想読んでわかってしまった…、皆さん察し良すぎない?
ガルパンで好きなシーンはいろいろありますけど自分はやっぱりここが一番好き、どうにか八幡も含めてみんなで出来ないかと考えて伏線ねりました。
「あら、おかえりなさい、まほさんとは会えたかしら?」
「…えと、はい」
涼しい顔してこの人は…まぁ。
「まさか黒森峰の隊長である西住まほ殿ともお知り合いだったとは…さすがですね、比企谷殿」
まぁ不思議には思うよね、いったい何がさすがなのかは知らんけど。
「…状況はどうなりました?」
「大洗は偵察を終えて作戦会議をしています、プラウダは…相変わらずですね」
「あぁ…そう」
「良いなぁ、ボルシチ美味しそう」
この相変わらずというのはプラウダ陣営、この三時間に何をしているかというと…、リア充ばりにエンジョイしている。
たき火を囲んでみんなで談笑しながらわいわいとボルシチとか食べているのだ、もぐもぐタイムかよ。
そもそも隊長のカチューシャさんがご飯を食べ終えるとそのまま寝てしまったのである、ねむねむタイムかよ。
まぁそんな訳で舐めプが再発動してくれたのだ、これはこちらからしたら悪くない展開だ。
「降伏時間まであとだいたい一時間くらいね、ねぇマックス、あなたならこの時間どう使うかしら?」
「え?そんなの無視して奇襲すれば良いんじゃないですか?」
「「「「「………」」」」」
え?なんでみんなそこで黙るの?俺なんかおかしい事言ったかな?
見ての通りプラウダは現在隊長のカチューシャさんがお昼寝中だし、ボルシチを食べ終えた他の生徒達はコサックダンスとかやってるエンジョイっぷり。
こいつらこの吹雪の中、外に居るのに元気だな…、特にカチューシャさんはよく眠れるものだ。
まぁそんな訳で今奇襲をかければ確実に勝てるだろう。プラウダの生徒に言ってやるのだ、奴ら、もう勝った気ですぜ、と。
「…あのマックスさん、さすがにそれはちょっと」
「戦車道は武道なのよ、また怒られたいのかしら?」
駄目らしい。さすがにまたやらかしたら、今度は蝶野教官も戦車を持ち出して来そうだ。
つまりあと一時間、大洗はこのまま待たなくちゃいけないらしい。
さっきはプラウダが舐めプを再発動したと思っていたけど、そう考えるとこの三時間を有意義に使っている…とさえ思えてくる。
ダージリンさんの話じゃ、この降伏勧告は初めからプラウダが考えていた事だろうし、食事の準備が手早かったのもあらかじめ準備をしっかりとしていたからだろう。
対して大洗側はこういう事態を予想してはいなかった。持ってきている物といえばスープと乾パンくらいだが、それはもう尽きてしまった。
わいわいとエンジョイしているプラウダ陣営と、食べる物も尽きてただ時間を待つだけの大洗側、まるで陽キャラと陰キャラの社会の相関図みたいである。
「ますます大洗学園は不利ですね…敵に四方を囲まれこの悪天候…、きっと戦意も」
吹雪はますます強くなり、ただでさえ寒いのに敵に囲まれた中で一時間を待たなくてはいけない、そりゃ当然士気にも影響は出る。
最初は三時間もくれるなんてずいぶん太っ腹な事を言ってくれると思ったが、今度は逆にこの三時間が足枷となった。
まさかカチューシャさんはそこまで考えて降伏に三時間の猶予を…?いや、無いな、本人は寝てるからきっと眠かったのだろう。
プラウダがこの状況を狙ったにせよ、狙ってないにせよ、大洗の士気が落ちているのには変わりはない…か。
「それはどうかしら?ねぇ、マックス」
こんな時、聖グロリアーナならきっとティータイムと洒落込みそうだ。この人達ならそうするだろう、うん、間違いない。
継続高校ならミカさんがカンテレでも弾いてそうだし、まだよくは知らんが知波単学園なら突撃したくてうずうずするのだろう。
サンダースならケイさんが皆を盛り上げるだろうし、アンツィオなら逆に宴会でもやらかしてプラウダ以上にエンジョイしそうまである。
なら…大洗は?西住はどうする?
「…どうですかね」
正直に言えば俺には全然答えが見えない、何故なら士気を上げるという事は場を盛り上げるという事だ、これはリア充の必須スキルである。
今まで居るだけで場を盛り下げ続けて来た男だ、だからもし仮に俺があの場に居ても出来る事はないだろう。
そう、俺には何も出来ないのだ。
ーーー
ーー
ー
降伏時間までは残り一時間を切った。修理も終わり、偵察から得た情報で作戦も組んだ大洗メンバーだがその士気は低い。
「いつまで続くのかな…この吹雪」
「寒いね…」
「うん」
「お腹すいた…」
ウサギさんチームは六人で一枚の毛布にこたつのように入りながら静かに呟き合う、そこに普段のやかましさは無い。
「やはり…これは八甲田」
「天は…我々を見放した」
「隊長、あの木に見覚えがあります!!」
カバチームは…わりと余裕がありそうに見えなくもないが、八甲田をネタにしている時点でいろいろといっぱいいっぱいなのだろう。
「良いことを考えた、ビーチバレーじゃなくて、スノーバレーってどうですかね?」
「良いんじゃない…知らないけど」
まさかのあのアヒルチームでさえ、バレーをやる気力すら残っていない。
「…う、Zz」
「寝ちゃ駄目よ、パゾ美」
カモさんチームも三人で毛布にくるまってじっと待っている。
これが今の大洗学園の現状である、どのメンバーも士気が落ち、テンションが低い。
いや、一つだけだがこの雰囲気の中、元気に動いているチームメンバーもいた。
「この時間を使って身体を鍛えるにゃー」
「筋トレはどこでも出来るし暖かくなるもも!!」
「山籠りのおかげで寒さも平気っちゃ」
アリクイチームのネトゲ三人組である、今も元気に腹筋背筋腕立て伏せをしているその姿はなんとも頼もしい。
「これならあと何時間でも…あぁ!!」
「どうしたなり?」
「今日…オンラインゲームのランキング戦があるにゃ!!」
「このままじゃ…ログイン出来ない」
「「「………」」」
駄目だった、それはもういろいろと。
「学校…無くなっちゃうのかな」
窓から外を眺めていた武部がぼそりと呟いた。
「そんなの嫌です、私はずっとこの学校に居たい、みんなと一緒に居たいです!!」
その言葉に秋山が声を上げる。彼女は家族が大洗で過ごしている事もあり、学園艦が解体されれば今まで住んでいた家も無くしてしまうのだ。
「そんなのわかってるよ…」
「どうして廃校になってしまうんでしょうね…ここでしか咲けない花もあるというのに」
「………」
あんこうチームでさえその表情は暗い、この残り時間が彼女達にいろいろと不安を考えさせてしまうのだ。
「…みんなどうしたの、元気出していきましょう!!」
「…うん」
西住みほはみんなに声をかけるが返ってくる返事は弱々しい。
「さっきみんなで決めたじゃないですか、最後まで戦うって」
再び声をかけるも今の意気消沈した大洗のメンバーには届かない。
「………」
そんな状況に西住みほも暗い表情を見せる、この状態で試合が始まってしまえば戦えないだろう。
ーみんな、もしかしてもう諦めて…。
「…おい、もっと士気を高めないと」
「…え?」
そんな西住みほに河嶋が声をかける、その表情は他のメンバーとは違い、まだ前を向いていた。
「このままじゃ戦えんだろう、なんとかしろ、隊長だろ」
言葉こそ現状を西住みほに投げ出す無茶振りではあるが、彼女はまだ戦意を失っていない。
「はい!!」
河嶋の言葉にそこまでの思いがあったのかはわからない、だが、それが西住みほには嬉しかった。
ー河嶋さんはまだ諦めていない、きっとみんなだって。
再び顔を上げた西住みほは考える、どうすればこの暗い雰囲気を変える事が出来るのか。
なにか、場を盛り上げる事が出来るものはないか。
せめて何か、みんなで出来る何かがあれば。
「…みんなで」
彼女は意を決してみんなの前に立つ。
ーあの時だって、みんなで一緒にやれたから、だったら…。
西住みほは恥ずかしがり屋で引っ込み思案である、そんな彼女が。
歌い、踊り出したーーー。
ーーー
ーー
ー
「…は?」
え?えーと?西住さん?どうしちゃったの?
モニターに急に歌いながら踊り始めた西住が映る。しかもあれ、どう見てもあんこう音頭だ。
え?急に歌って踊るよ~なの?ご乱心してないよね?
『みんなも踊って下さい!私が歌いますから!!』
だが西住の表情は真剣だ、そして踊り具合がキレッキレである。
『逆効果だぞ、おい!!』
ほら…河嶋さんもツッコミいれてるし。
観客席のモニターも突然の事に大洗学園に集中する。そりゃそうだ、俺ですら何事かと思ったくらいだ。
そもそも西住さんは知らないだろうけど、この試合、あなたのお姉ちゃんとお母さんが見に来てますからね?
『あの恥ずかしがりのみほさんが…』
『みんなを盛り上げようと…』
『微妙に間違っているがな…』
モニターが大洗学園に集中した事で彼女達の声が鮮明に聞こえて来た、あぁ、そういう事か…。
『私も踊ります!!』
『みんないくよ!!』
『…仕方あるまい』
あんこうチームが、生徒会が、そして他のチームのみんなだって、その西住の行動に感化され、一緒に踊り出した。
感化…?感染?いや、それはどっちでもいいけど。
「ハラショーですわね」
なぜここでハラショー?いや、ダージリンさんも楽しそうですよね。
「これは…素晴らしい踊りですね」
ほう、そう思うなら今度は是非とも西にもあのあんこうスーツを着て踊って貰おうか。
「そうだね、みんな楽しそうだ」
そしてミカさんはカンテレであんこう音頭をひきはじめる。
楽しそう…あぁ、そうか。
今もまだ建物の入り口で歌いながら踊る彼女達を見て、先ほどまでの不安は吹っ飛んだ。
西住、やっぱすげぇな…あいつ。
士気の下がりきっていた大洗の戦車道メンバーを見事に再び立ち上がらせた。
端から見れば敗戦濃厚からのやけっぱちの行動にも見えるだろうが、これは彼女達がまだ試合を諦めていない、何よりの証拠だ。
いやー、それにしても。
「あそこに居なくて良かったー」
彼女達には悪いが、心の底からそう思います。いや、だってあんこう音頭だよ?この試合だって生放送じゃないにしても中継はされるだろうし。
あの生徒会なら俺を巻き込んでも不思議じゃない、本当にあの場に居なくて助かった。
「大洗の生徒会長さんが何か持ってますね」
「あれなんだろう?」
ん?会長が何か持っているって?どうせ干し芋でしょ、あの人の場合。
「あれはICレコーダーね」
「あいしぃれこーだー…とは、いったいなんでしょうか?ダージリン殿」
なんだよ西、そんな事も知らないのか?ICレコーダーってのは声とか録音するやつだよ、ほら、ドラマなんかでもよく出てくるでしょ。
…ん?声?つーかあの人なんでそんな物持ってるの?というかなんか見覚えがある、具体的にいうと黒歴史化したあの時のアレである。
『西住ちゃ~ん、良いこと思い付いたんだけど』
あんこう音頭によってモニターが大洗に集中しているので中のやり取りも聞こえてくる、ついでに会長のすっごく悪い顔も見えてくる。
…なんか悪い予感しかしないんだけど。
『やっぱりこういうのはさ、みんなでやりたいじゃない?』
…まさか、え?嘘でしょ?嘘だと言ってよバーニィ!!
『…はい!!』
はい!!…じゃないでしょ西住さん?止めて、いや、本当に止めて下さい、なんでもしますから、お願いします。
『よーし、そんじゃポチッとね、なんちゃって』
あ…。
会長がICレコーダーのスイッチを押すと流れてくるのはイケメン(笑)ボイスのあんこう音頭の歌である、誰だこのイケメンボイスは!?
「…これは」
誰だこのイケメンボイスは!?
「この声、マックス…あなたなの?」
誰だこのイケメンボイスは!?
「比企谷殿…」
…誰だこのーーー、もういいか…これ以上現実から目をそらすのは止めよう。
ちょっと!何やらかしてくれてんの!うちの生徒会長!!
この会場には西住の母親がおり、姉がおり、菊代さんも居て。
五十鈴の母親と新三郎さんなんかも居て。
あぁ、秋山の両親も居るだろうな…たぶん。
小町もどっかで聞いてるんだろうか…帰ったら他人のふりされそう、死にたい。
つーかクラスの連中も見に来るって言ってた気がする。いや、普段会話なんてあまりしないし俺とは気付かないだろうが。
あ、やっぱり駄目だ、現実を受け止められる自信が無いな、やっぱり目をそらそう。
「良い歌じゃないか、私がひくから、もう一度歌ってみないかい?」
「嫌ですよ…」
「ペコ、録音の準備はできているかしら?」
「はい、ダージリン様、こちらにGI6から頂いたICレコーダーがあります」
「よろしくてよ」
何が!?全然よろしくないんですけど…、そもそもGI6って何!?
今もまだ垂れ流されるあんこう音頭、そしてそれに合わせて踊る大洗の戦車道チーム。もう完全に羞恥プレイなんですけど…。
特にあの西住流のお三方には耳を塞いで貰いたい…。
ーーー
ーー
ー
「…この声は」
「………」
もちろん、このお三方にも聞こえている、まほとしほの二人は無表情のままその様子を眺めていたが。
「すいませんお母様、少し用事を思い出しました」
「…そう」
西住まほはそう言ってしほに頭を下げるとすたすたと歩く。
近くにちょうど良さそうな木を見つけると彼女はそれに手をついてふるふると身体をふるわせた。
それはたぶん、寒さに耐えているのではなく、もっと別の何かに耐える為に。
ーーー
ーー
ー
「あ、あの!!」
しばらくその光景を呆然と眺めていたプラウダ高校の生徒だが、ハッと意識を取り戻すと声をかける。
「プラウダ校の…」
踊りに集中していた大洗学園のメンバー達も声をかけられて気付き、少し気まずそうにした。
「もうすぐタイムリミットです、降伏は?」
「しません、最後まで戦います」
プラウダ校の生徒の問いに西住みほは迷う事なく返事を返した。
「それと…カチューシャさんに伝えて下さい」
「なんでしょう」
「…八幡君は渡しません」